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ご・お・る・ど!

作:yuk






さあ、おはなしをはじめよう。

うれしいうれしいおはなしさ。

いやいや、むかつくおはなしさ。

かなしいかなしいおはなしさ。

いやいや、たのしいおはなしさ。

遠い昔のおはなしさ。

いやいや、昨日のおはなしさ。

遠い未来のおはなしさ。

いやいや、明日のおはなしさ。

君も知ってるおはなしさ。

いやいや、知らないおはなしさ。

遠い国でのおはなしさ。

いやいや近所のおはなしさ。

袖振り合うも多生の縁(えん)。

遠き縁(えにし)に思いを寄せて。






 俺は今、特進課題組の「定期連絡会」に出ている。

「現在までにテログループ10団体を殲滅。目標まではあと40です」
「とりあえずビル建設の場所を確保しました。今週から建設予定です」
「CO2削減の約束を、合衆国および連合王国に取り付けました!」

 みんなそれぞれ、こつこつと課題を進めているようだ。
「現在ノーベル賞が4つ、候補に挙がっているものが3つです」
 さすが蔵人。期間がまだ半分以上あるのに、ほとんど終わってる。
「学校経営は順調。ゴールドの秘匿も万事良好です」
 朱美の奴は、さらっとそんなことを言いやがる。自分からばらそうとしたくせに……
 そして、次は俺の番。
「友達もでき、クラスにもうまく溶け込めました。不測の事態もありましたが、とりあえず順調です」
 不測の事態=ピチピチ女装幽霊だ。……っていうか、これでは「いじめにあっていた生徒の経過報告」のようだ。
「以上で定期連絡会を終わります」
 教頭がそう締めくくって、連絡会はお開きになった。


 俺の名前は須藤美樹。ミキじゃない、美樹(よしき)だっ! ……あ〜、これもう口癖になってるっ。
 話を戻そう。俺は今、金成学園特進科三年に所属している。
 特進科というのは、ゴールドたちを集めたクラス。「ゴールド」とは、普通の人間には不可能ことができるようになった特殊な人間のことだ。そして俺たち三年生の一部は、この一年間でそれぞれに言い渡された「課題」を遂行している。
 俺の課題は「一年間、普通科一年女子として学園に通う」こと。
 ……だから今の俺は、一年生の女子生徒「佐藤ミキ」としても、この学園に通っているのだ。


 休み時間、「ミキ」として仲良くなった友達の和音と話をしていると、呼び出しがあった。

『一年六組の佐藤ミキさん、至急生徒会室まで来てください――』

「わあ〜、生徒会に呼び出しって……何かやったの? ミキ」
「和音ぇ……何で呼び出されたからって、いきなりそこに結びつくの?」
「あははは、冗談だって」
 和音の目が笑ってないように見えるのは、俺の気のせいであってほしい。
「ミキ〜、和音〜、何の話かな〜?」
「ミキ! 朱美先輩に呼び出されるなんて、何やったの?」
「ミキがそんな子だとは思わなかったわっ」
 今のセリフは、上から葵、桃、緑。和音と同じく、ミキとして仲良くなった友達だ。……っていうか、
「そんな子って何!? いつの間にか、私が何かやった的な流れになってるしぃ!」
「そうよね。ミキに何か大それたことできるような度胸ないもんね。……ついでに胸も」
 何? その信頼のされ方? あと「胸がない」のは、わざとそうしてるからだっつうの。
「ってことはもしかして……」
「キャ〜! ミキずる〜い!」
「ほんとにね。東大入るより難しいんだよ!」
 なんだ? 何の話だ?
「あ! そうかなるほど、それはすごいわ」
「ねぇ和音、何のこと?」
 何のことかわからないので、とりあえず和音に聞いてみる。
「つまり、ミキが生徒会にスカウトされるかもしれないってこと」
 ああ、なるほど。そういうことか――
 この学校の生徒会は何故かかなり人気があり、役員に選出される競争率がべらぼうに高い。
 さっき緑が言ってたように、「東大に入るほうがまだやさしい」とさえ囁かれている。初等部からあるこの学園の、生徒のほとんどが生徒会執行部に入ることを目標にしているためだ。
 まったく……どこの極上な生徒会なんだよ。
「ってことで、早く行かないと駄目じゃん。……ほらっ、行ってきなよ」
「え、あ……うん」
 和音に背中を押されて教室から押し出された俺は、仕方なく生徒会室に向かった。


「おい朱美、何の用だ?」
 生徒会室に入ると、いつものように朱美と蔵人が居た。

「ああっ! 何でそんな格好でここに来るのよっ!?」

 俺の顔を見るなり朱美が叫ぶ。そんな格好って……俺はただ変身を解いただけだぞ?
「美樹、朱美は多分、何で『ミキ』の格好じゃないのかを聞いてるんだと思うよ」
 蔵人が説明をしている横で、朱美がうんうんと首を縦に振っている。
「まったく……何のためにあたしが『佐藤ミキ』で呼び出したと思ってるの?」
 確かに呼び出されたのは、「須藤美樹」ではなく「佐藤ミキ」だったが……こいつの前で「ミキ」の姿だと、身の危険を感じるんだ。
「ったく……さっさと変身しなさい。用があるのは『佐藤ミキ』よ」
「ちょうどいいや。変身対応スーツの調子を確かめたいから、やってみて」
「わかった、蔵人がそういうなら」
 そうなのだ。ついに前々から頼んでいた、変身対応スーツが出来上がったんだ。
 実は今朝から使っている。……ただ、一つ聞いておきたいのは、どうして最初の形がスクール水着かってところだな。
「好きでしょ? そういうの」
 いや、きらいじゃないが自分で着るのは嫌だ。
「……それは冗談として、十分な質量をとるにはその形が一番無駄がなかったんだよ」
 なるほど、「変身」能力とはいえ質量保存の法則は無視できない。重量のあるものに変化させるには、それなりに重さが必要だ。
「んじゃ、始めるぞ」
 そう言うと、俺は「ミキ」の姿を強くイメージする。身長が縮み、手足が短く、細く、小さくなる。
 後ろ髪を伸ばし、少し色を変える。目を大きく、しかし顔全体とほかのパーツは小さめにする。
 つぎに体形を整える。意識的に体の凹凸を強調する……だけど、胸は大きくしすぎないように気をつける。
 男から見た良いサイズより、少し小さ目を基準とする。一度大きくしすぎてバランスが取れなくなったためだ。
 改めて考えると、かなり恥ずかしい失敗だな……
 これで俺の体は、すべて「ミキ」になった。
 次に服を男子用から女子用に変える。
 ズボンの生地が、膝の辺りで上下に分かれる。膝から下は長い靴下に、上は両足の部分がくっついて短いスカートになる。
 ネクタイがリボンに変わる。最後にベルトにしていた蔵人特製俺専用武器を、リボン状にして頭につける。


美樹から「ミキ」へ変身っ。(illust by MONDO)



「これで、いい……かな?」
 すこし役に入って、小首を傾げて二人に尋ねてみる。

「・・・か・・・か・・・か・・・・・・かわいい〜っ!!」

 あ……やばっ、朱美の趣味をど真ん中で打ち抜いてしまったらしい。

「み〜き〜ちゃああああああ〜んっ!!」


 がばっ――!!「うわ! おい! 朱美! やめろ! 俺は男だ! っていうかヨシキだああっ!」

 俺の声が届いてないのか、抱きついてきた朱美の手が俺の胸に伸びる。
「ん〜ブラジャー着けてないのね。……あんまり柔らかくないし。偽乳揉んでるみたい」
「当たり前だ。女物の下着なんか着けられるかって。それに本物の胸なんか知らんから適当なんだ」
「あら? じゃあお姉さんが、みっちり三時間コースで女の子のこと教えてあ・げ・る♪」

 おかあさん、純潔が奪われそうです……

「朱美、いつものことだけど美樹の意識が変なところに飛んでってるよ」
「ったく、だらしない。ま、冗談はこれくらいにして……入ってきてくれる?」
 今の目は絶対本気だった……蔵人が止めなければ、絶対はぢめてをうばわれてた。
 と、それはおいといて、朱美が声をかけると生徒会室に一人の女子が入ってきた。制服とリボンの色が俺(ミキ)のと違うということは、中等部――しかも特進か。
 女子のリボンの色や男子のネクタイの色は、特進と普通科では違うのだ。
「はじめまして。うt……わたくし、詩杏・ローズ・レッドフィールドと申します」
 挨拶をしてきたのは、金髪青眼の美少女。でも、一度言葉に詰まったのはなんでだろう?
 それにしても見事なキンパツだな……
「父がドイツ人なんです。どうぞローズとお呼びください」
「ローズちゃんは中等部特進科三年生なのよ」
 朱美が軽く紹介を添えた。
「え、と、佐藤ミキです。よろしくお願いします。」
 こっちも自己紹介する。朱美が俺を変身させたということは、この姿でしろってことだろう。
「失礼ですがあなた、本物の女性ではありませんね?」
 何!? いきなり見破られた。この娘、高等部の特進科よりもできる!?
「やっぱりさすがね、ローズちゃん」
 俺が驚いていると、朱美がさらっとつぶやいた。
「おい! 朱美どういうことだ?」
「それはわたくしから説明いたしますわ」
 口を開いたのは、ローズの方だった。「……わたくしの父は医者で、人体のことは幼いころから教えられていました」
 なるほど、それでか。
「ついでに言いますと、わたくしの能力は『水分制御』なのです。あなたの体内の水分は、一般的な女性と比べてかなりの差異が生じています」
 う〜ん駄目だ。水分のことなんてわからん。……おい! 誰だ? 今馬鹿にしたやつ!?
「あはははは、みっきちゃんあったま悪ゥゥ!」
 ……朱美、お前か!!
「これではあのナンパヤr……お兄様はだませませんわ」
「お兄様? だます?」
 っていうか今、何言い直したんだ?
「ああ、ローズちゃんのお兄さんが、あんたのクラスに転入することになんのよ。」
「お兄様はお父様と一緒にドイツで暮らしていたのですが、このたび帰国してこの学園に通うことになったのです。お兄様はわたくしより人体に詳しいのです。特に女性の体は……あのナンパヤローが……」
「…………」
 声は小さかったが、今絶対「ナンパヤロー」とか言ってた。お嬢様っぽいこの言葉遣い、もしかしなくても無理やり作ってるのか?
「ですから、あなたのことも女性ではないと気付かれてしまいます」
 ほう、それは結構ピンチ気味だな。でもそれって……
「ばれても朱美の『情報操作』で何とかなるんじゃないのか?」
「何? あたしが頼りなの? 身も心も捧げてくれるっていうなら考えなくもないけど」
 やばい、純潔の危機再び!?
「ま、同じ冗談はこのぐらいにして……」
 嘘だ! 今もさっきも絶対本気だったぞっ!!
「ヴィル君……あ、この娘のお兄ちゃんね。彼は『干渉不可』のゴールド能力持ってんのよ」
「『干渉不可』だって!?」
 その名の通り、他のゴールド能力の干渉を無効化する能力だ。俺の『全身変化』や朱美の『情報操作』とかよりも希少なゴールド能力だったりする。
 蔵人の『発明』が、かろうじて同じぐらいの希少さなのだが……どっちにしてもすごい能力だ。
「……というか、なんでゴールドが普通科に入ってくるんだ?」
 この質問には蔵人が答えてくれた。
「あまりに特殊すぎるからって学校側の対応だよ。それとね……」
「本人もゴールドのことを知らないのですわ」
 蔵人の説明に続いて、ローズが付け加えた。「能力も相手から干渉されない限りは発動もいたしませんし、何よりお兄様にとってゴールドは存在しないものなのです」
 なるほど、「自分に対するゴールド能力を消す」ということは、ゴールドが存在しないと同じということか。
「だからヴィル君は普通科に転入ってわけ。で、ミキちゃんの正体がばれちゃうとまずいでしょ?」
 ……確かにそうだ。正体を見破られる上に、記憶を消せないとなれば、もう手の打ちようがないな。
 俺の能力は対象が相手ではなく自分だから、能力そのものを消されることはないだろうが、油断はできない……
 などと考えていると、
「だから……あんたに女の子のすべてを教えてあ・げ・る♪」
 朱美が手を「わきわき」としか擬音がつかないような動かし方をしながら俺に迫ってきた。
「な、ちょ、おまっ……助け――」
 あわてて二人に助けを求めるが、蔵人はすでにあきらめてるし、ローズにいたっては朱美と同じ動きをしている。
「さ〜ミキちゃんっ、女の子になるための授業、三時間コースいくわよ〜っ!」

「俺は逝きたくねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



 そのあと、俺はずっと朱美の前で正座をさせ続けられ、『情報操作』の能力を受け続けた。
 女の子の情報を直接頭に叩き込み、変身を完璧にしようという作戦らしい。相性とかの関係で、俺には朱美の能力は効きにくいらしく、それだけの時間が必要なのだそうだ。
 なのにそこまでやっても効果があるかどうかは、まったくわからないという。うううっ、俺の貴重な三時間を返せ……


 で、次の日。
「おっはよっ!」
 教室に入ると和音が声をかけてきた。
「うん、おはよ」
「……あれ? ミキ、なんかいつもより可愛くない? っていうか、女っぽい?」
「…………」
 いきなりですか? あなた何者ですか? ……っていうか、本当にあれ、効果あったんだ。
「え? え〜っと、なんのこと?」
 いきなりの指摘に冷や汗が出る俺。
「もしかして……彼氏でもできた?」
 まあ、流石にその程度のことでゴールドのことはわからないか。……でも、よりによって「彼氏」だと?
「あ〜!? 図星って顔してるっ! ねえねえ誰なの? 何組?」
「違うよっ、彼氏なんてできてないよっ!!」
 人を勝手に「彼氏持ち」にするな。「彼女」もしばらくいないっていうのに。
「もうっ、いいもんね……独自のルートでいろいろ調べちゃうから」
 な、ちょ、独自のルートって……微妙に恐ろしいんですけど。朱美みたいなこと言うなよ……
「お、おはよ、ミキ、和音」
「二人で何のお話してるのかな?」
「面白そうな話なら、あたしたちも混ぜてもらわないと」
 話に混ざってきたのは、いつもの葵、桃、緑の三人組。
「あのね、ミキに彼氏ができたみたいなのよ」
「だから違うって言ってるでしょっ!」
「わお! 可愛い顔してやるねぇ、ミキ」
「可愛いから彼氏できるんじゃないの?」
「あたしも蔵人先輩とお付き合いしたいな〜」
 俺の叫びもむなしく、三人組はものすご〜く勝手に盛り上がっている。
「ほらほらミキ、さっさと白状しなさい。相手はどんな男子なの? かっこいいの?」
 和音……お前はどうしても俺を「彼氏持ち」にしたいのか?
「かっこいい男といえば、今日転校してくる男子ってかなりイケてるらしいよ」
「あ、その話聞いた。中等部の金髪の女の子のお兄さんでしょ?」
「ああ、あの金髪青眼の可愛い子ね。それは楽しみ」
 俺が和音に追い詰められている横で、葵たちがそんな話を始めた。……ほっ、どうやら別の話題に移行したようだ。
「ま、彼氏持ちには関係ない話かもしれないけどね」
「ミキちゃんの彼氏と比べてどうか、あとで教えてね」
「彼氏よりかっこいいからって乗り換えちゃだめよ?」
 話を戻すな! 俺に彼氏なんかいないって!
「あはははははは……」
 もう笑うしかない。
 そのとき教室の扉が開いて、先生が入ってきた。
「はいは〜い、HR始めますよ」
 一年六組の担任、茶山恵子。本人曰く、今日も「元気に年齢不詳で生きてます」らしい。
「きょうはこのクラスに入る新しいお友達を紹介しま〜す」
 小学生相手にしてるのかあんたは……と、その時クラス全員の気持ちがひとつになっただろう。
「え〜と、うぃ……ヴィル、ヘルム……ブラッ、ド、レッド……フィールド? 君です」
 恐らく名前が書かれているのであろうメモを見ながら、そう紹介をする。
 どうにか読めたようだが最後にハテナがついてる。この人は本当に高校教師なのだろうか?
「じゃ、入ってきて」
 茶山教諭の合図で再び教室のドアが開き、金髪青眼容姿端麗な男が中に入ってきた。
 その瞬間、まわりの女子はキャーキャーと騒ぎ出し、男子は「ちっ」とか「くそっ」とかつぶやく。
「ミキ! なにあの人!? すごいキレーなんだけど?」
 和音も例にもれず、キャーキャー騒ぐ方らしい。
「う、うん、そうだね、あの青い目とかすごいきれいだよね。おーべーかってやつだよねっ」
 俺はどっちかというと「ちっ」とかつぶやく方の人間なんだが、ここは和音に合わせる。……合わせてるよね?
「はいは〜い! みんな静かにしましょうね〜」
 騒いでいるみんなを落ち着かせるように、茶山教諭が手を叩きながら声をかける。だからあなたは高校教諭ではなく以下略――
 まぁ、なにはともあれ、いったん静かになったところで転校生の自己紹介が始まった。
「こんちわ。ワイの名前はヴィルヘルム・ブラッド・レッドフィールドいいます。よろしゅうな」
「「…………」」
 関西弁かよ! 見た目に合わなさすぎだっ!!
「ああ! そうそう、ワイのことは気軽にヴィルとでも呼んでくれな。そのままじゃ長ごうてしゃーないやろ」
「じゃあ自己紹介も終わったところで、席は……あぁ、佐藤さんの後が空いてるわね」
 何? すぐ近くだと? ……うわ、なんかクラス中の視線が俺に集まってくるんだけど。
「佐藤さんはヴィル君の妹さんとも知り合いだったわね。ヴィル君にいろいろと教えてあげてね」
 なぜ先生がそれを知っている!? ……決まってる、朱美のやつだ。
「それじゃ、髪が金色だからってヴィル君をいじめちゃだめよ?」
 だからあなたは以下略――


 んでもって放課後。学級委員である和音が、ヴィルに学校を案内するからついてきてと俺に頼んできた。
 さっさと逃げようと荷物をまとめてたのに……まぁ、しかたない。
「まずはどこ行く?」
「う〜んそやなぁ……なんかおすすめとかある?」
 二人とものりのりだ。
「うん、あるある! ミキ、言ってやんなさい!」
「え? 私?」
 いきなり俺に振るな。「……ええと、食堂とか?」
 かなり適当な答えだ。
「やだぁ、ミキの食いしん坊」「佐藤ちゃん、太るで?」
 お前らが言わせたんだろうがっ!!
「まぁいいや、じゃぁ行こっか」「せやな」
 怒りに震えている俺を見ないように、二人は食堂棟へ向かった。
「ミキ! 早くしないと置いてくよ!」
 離れた所から和音が呼んでいる。仕方ないから黙ってあとについていく事にした。


「ほお、ここが食堂棟か。ずいぶんでかいとこやな」
「この学園の小中高大すべての学生が使うところだからね。それなりにおっきいのよ」
 和音がヴィルに説明をしている間、何となくまわりを見渡していると……
「どうよ……こんなもんで」「おぉすげぇ、ドンブリが浮いた! 俺はリンゴがやっとなのに」
 などと話しながら、ゴールド能力を使って食器を持ち上げてる奴らがいた。……やばい、ヴィルに見られたら、なぜか俺が朱美にひどい目にあわされる。そうに決まってる。
 俺はこそっと近づいて、そいつらに注意することにした。
「おい、公共の場でのゴールド使用は校則違反だぞっ」
「あ? なんだお前? お嬢ちゃんは下がってなっ」「先生とか先輩に見られなきゃいいんだよ」
 あ、こいつら開き直りやがった。……ここは少しお灸をしなきゃならないな。
「えと、あなたたち何年生ですか?」
「これを見ればわかるだろ。お前は何様だ?」
 そいつが見せたのは学年章。たしか二年のものだ。
「私のはこれです」
 俺が見せたのは一年の学年章。
「後輩じゃねぇか……よし、先輩命令だ。おれたちのことはほっとけ」
 お、思った通りの反応。さて、とどめだ。
「いやいや、これをよく見て」
「だからそれがどうしたって言うんだよっ」
 イライラしてきたらしいそいつの目の前で、学年章を一年のものから三年のものに変化させる。
「え? な? これって……」
「ああ、まだ名前言ってなかったな。三年一組の須藤だ」
「す、須藤先輩!? あの全身変化の!?」
 やっぱり驚いてる。お灸大成功かな?「……さて、もう一度言おうか。公共の場でゴールド能力の使用は厳禁だ。先輩か先生に見つかった以上は、な。」
 極上の笑顔で笑いかける。お、二人とも震え上がってる。面白れぇっ。

「「ご、ご・・・ごめんなさいっ!」」

「ああ、あとおれのこの格好のことは黙っとけよ。先輩命令だ。」
 ふっ、決まった……和音とヴィルのとこに戻ろう。
 後ろの方で「あれ趣味か?」とか「尊敬してたのに……」とかいう声が聞こえるのは気にしないことにする。
「ミキ、何やってたの?」
 二人のところに戻ると、和音が聞いてきた。
「え? えと、何かおごってあげようかって言われたから断ってただけ……」
 うわ、なんだこの言い訳……絶対信じてもらえない。
「ああ、わかるわ」
 ……おわかりになられますか。
「せやな。なんか佐藤ちゃん見てると飴ちゃんとかやりとうなるし」
 ヴィル君、あなたもですか……
「だからって、知らない人に飴あげるって言われても、ついて行っちゃだめよ」
「あ……あはは……」
 「ミキ」の俺って、そんなイメージなのだろうか?
 その後も行くとこ行くとこで、ゴールド能力を使う馬鹿どもがうじゃうじゃとわいて出た。……まったく少しは俺の身も考えてくれ。
 ヴィルに見られそうになるたび体張って止めると、そのたびに和音とヴィルに笑われて、変な方向に納得されて……で、変なキャラクターが定着しちゃうし。
 ……うううっ、どうにかしてくれ。


「で、ここがみんな大好き女子更衣室になりま〜す」
「おぉ! マジで案内してくれるなんて紫村ちゃんはいいやっちゃな」
 二人が異様に盛りあがっている。俺は一人で疲れきっているけど。……っていうかヴィル、どこの案内注文してんだよ&和音、どこ案内してんだよっ!?
 しかも中を見せるか? 部活しているやつらの荷物が散乱してるんですけど?
 俺だって、今年になるまで入ったことなかったんだぞ?
 ……話がそれた。
「なにミキ? 不服そうな顔して」
「いや、別に……」
「なんや佐藤ちゃん。ワイの顔になんかついとるか?」
「そういうわけでもないけど……」
「ほんなら次行こか」
 ……お前が仕切るのかよ。 「あ、ごめん、あたしちょっと……ミキ、あと任せていい?」
 和音がそう言い残し、どこかへ行ってしまった。……トイレかな?
「なぁなぁ」
「え? なに? ヴィル君」
 二人きりになると、ヴィルが俺に話しかけてきた。
「佐藤ちゃんは詩杏のことしっとるんやろ?」
「あ、うん、かわいい妹さんだよね。ふわふわでお嬢様っぽくて」
 なんか本性隠してるっぽかったけどな。
「えぇ!? あいつがお嬢様?」
 ほら、やっぱり驚いてるし。
「あいつはそんな可愛いもんやないで?」
「え? そうなの?」
「この前送ってきたメールに書いてあったんやけどな、『自分の本性知らん男に告白されてうざかったから、急所蹴り上げて逃げてきた』とか。他にも……」
 それはそれは……蹴られた奴は災難だな。
「ワイのこのしゃべり方も、詩杏のがうつったやつやし」
 ほう……ってことはローズは素では関西弁ってことか。
 その時、校内の呼び出しがかかった。

『一年六組ヴィルヘルム君、佐藤ミキさん。至急、生徒会室まで来てください』

 朱美か。
「なぁなぁ、生徒会室ってどこや?」
 ああ、そうか、まだ生徒会室は案内してなかったっけ。
「う〜ん……和音も帰ってこないし、いっしょに行こうか?」
 ってことで、俺が仕方なくヴィルを生徒会室へと案内する。
「おお! よろしゅうたのむわ」
「ここがクラブ棟だから、生徒会室に行くには外通ったほうが近いかな?」
 生徒会室は、各委員会本部や職員室が集まった中央管理棟にある。その名の通り、初頭部から高等部までのすべてを管理するものが集まっている。
「じゃ、行こうか」


「しっかしこの学校って、ほんまでっかいもんやなぁ」
 クラブ棟を出たところで、ヴィルが俺に話しかけてきた。
「そうだね。生徒会があるのは高等部までだけど、大学とか研究室とかもあるからね」
「へ〜っ、研究室ってどんな研究しとるん?」
 主にゴールドの研究をしてるんだが、適当にごまかしておこう。
「さぁ? 解剖とかかな?」
 ……かなり頭の悪い答えになってしまった。……あ、ヴィルが吹き出すのを懸命にこらえてやがる。
「……ぷっ、あはははは。自分、可愛いな」
「あ〜! 笑った!」
 くっ……屈辱。
 ん? あれ? なんかいまの、どこぞのカップルの会話っぽかった?
 もしかして、朱美の女の子のための三時間がこんなところにまで影響を及ぼしてる?
 やばいやばい。引っ張られちゃだめだ……自分を強く持たなければっ。
 俺がそんな自己嫌悪に陥っていると、ヴィルが話しかけてきた。「もしかしたら、黒服の兄ちゃん達がミキをさらいに来るかもな」
 あ、その話まだ続いてたんだ。
「え? こわ〜い」
 笑いながら怖がっておく。さすがにそんなことしてるやつはいないだろう。
「ねぇねぇ、君たち高等部の特進でしょ? ちょっとバイトしない?」
 俺たちがそんな頭の悪い会話をしていると、横から痩せた男が声をかけてきた。
「なんやあんた?」
「僕? 僕は大学の研究者だよ。ゴールドのことを研究してるんだ」
 あ。
「は? ゴールド? 金がどないしたん?」
「あれ? 君たちゴールドじゃないの? おかしいな?」
 やば、ヴィルにゴールドのことを教えちゃいけない! 「……わ、私たちは普通科です!」
 あわてて間違いを訂正する。
「おかしいな、確かに二人ともゴールドだって判定器に出たんだけど……機械は故障してないし――」
 研究者の男は何か考え込んでいる。
「わ、私たちはもう行きます! 行こう! ヴィル君!」
「あ、ああ」
 これ以上ここにいたら面倒なことになる。そう思い、ヴィルを連れてその場を離れようとする。が、
「いやいや、やっぱり機械の故障じゃないってことは、未覚醒のゴールドかな? 取り合えず捕獲しておこう」
「ヴィル君はや……」
 瞬間、研究者の男と目があった。……何!? 声が出ない? 体も動かない!?
「なんや? どないしたんや?」
 手を引っ張っていた俺が急にとまったことを不思議に思ったのか、ヴィルが声をかけてくる。
「そっちの女の子には、僕のゴールド能力『麻痺』で少し固まってもらったよ。おい、こっちを連れて行け」
 研究者の男の合図で、どこかから現れた無口で屈強を絵にかいたような男が俺をかつぎだした。
 おい! ちょっ、やめ! ……てめっ、どこ触ってやがる!?
 しかし、『麻痺』の効果を受けているため、声が出せないし、体も動かないから反抗もできない。
 くそ! どうすればいいんだ?


 そのまま無言男に運ばれて中央管理棟を抜け、大学構内に入るその直前、
「あら? 須藤様……ではなく佐藤様でしたね。探しておりましたのに……どうかなさったのですか?」
 という声が聞こえた。ローズだ。……っていうか、どうかなさったも何も、どう見ても拉致されているだろが。
 しかし助けを求めようにも声が出ない。必死で目で訴えてみる。
「え? 新しい遊びですの?」
 ……伝わってない。さらに訴える。
「そうですか。確かに景色は良さそうですわね」
 まだ伝わらない。だ〜〜っ!
「へ〜! ニートというのは35歳未満なのですか」
 何の話をしている!?
 ちなみにこの間、俺をかついでいる男、無言。
「……と、ふざけるのはこのくらいにして、あんたら……少しやり過ぎたみたいやな」
 ふざけてたのかよ! っていうかローズの気配が変わった?
「うちの堪忍袋にも、限界っていうもんはあるねんで」
 バリバリ関西弁だ。これが地ってやつか?
「なぁ、知っとるか? 人間ってやつは洗面器一杯の水で溺れることができるんやで」
 俺をかついでる男、無言。
「でもな、うちはコップ一杯分の水で人を溺れれさすことができるねん」
 男、無言。
「気道を水で軽く塞いでやったらな……」
 男、無言……のまま、その場にぶっ倒れた。
「ま、ご覧の通りですわ。大丈夫ですか?」
 ローズの口調が元に戻った。……っていうか、こわ! この女こわ!!
「ああ、まだ動けないでいらしたのですね。まぁ、この程度の『麻痺』なら……」

 ザバッ!

「うわぁぁぁぁ! いきなり何をって、え?」
「この程度の『麻痺』ならゴールドの能力をぶつけてやれば、結構あっさり解けますのよ」
 そうだったの? うわ……年下に教えられると、かなり恥ずかしい。
「……ゴホン。ところでローズは何でここにきたんだ?」
「それは……」
「待ってるのにあんたが来なかったから、あたしの情報網で調べたのよ」
 現れたのは、やっぱり朱美。「まったく。なにしてるのかと思えばこんなとこで道草食って……」
「俺のせいじゃねぇよ! っていうか何の用だ?」
「学校からの通達でね、いっそのことヴィル君にゴールドのこと話しちゃおうって」
 ほう、それはそれは……ただひとつ言わせていただきたい。

「おれのあの涙ぐましい努力はなんだったんだ!?」

「ああ、無・駄ってやつね。全部見てたけど、ほんと可愛かったわよ。」
 貴様、どこから……
「まぁ、独自のルートでね。それよりヴィル君のほう助けに行ってやんなさいよ。いま蔵人が一人で頑張ってるの」
「なに! それを早く言え! ……朱美、後任せた」
「落ち着きなさい。もっと動きやすい恰好にしたほうがいいんじゃない? 服変えれるんでしょ? ついでにこれあげる」
「これって……」
「生徒会の会員証。これ持ってるだけでいろんな優遇つくから」
「本当か!? 助かる」
「まぁ、そのかわり生徒会に入ったことになるから」
「……それが狙いか。まぁいい。ありがとな」
「美樹とミキ二人分だから気をつけて使ってね」
「よし! じゃ、行ってくる!」
 制服のままでは動きづらい。動きやすい恰好をイメージして服を変化させると、俺は走り出した。
「い、いって……らっしゃい……」
 ん? 朱美の様子がおかしい。
「わ……わたくしも行きますわ」
 ローズも? ……ま、いっか。「なら急ぐぞ!」
「わかりましたわ」
「あたしはここ片付けてから行くわ」
 俺とローズはヴィルの元へと向かった。
 後ろの方で朱美が、「まったく、美樹といるとホント飽きないわね」とかつぶやいていたような気がしたが……


「ヴィル! 大丈夫か!?」
 全力で走ってヴィルのもとに着いたが……
「おお、佐藤ちゃん無事やったか……って、なんでそんなけったいな恰好しとるん?」
 けったい? ってなんだ? 尋ねようと口を開いたとき、ローズが追いついてきた。
「あれ? 詩杏も? 何でここにいるん?」
「何もかんもないわ。兄貴がピンチいうから来たっちゅうのになにしてんねん?」
 あ、ローズが素に戻っている。よほど心配だったのだろう。
「ああ、それはな。ちょっとあれ見てみ」
 ヴィルが指をさした方向には頭を抱え込んでいる研究者の男とそれを見下ろしている蔵人の姿があった。
「佐藤ちゃんがさらわれてすぐ、あの立ってるほうの兄ちゃんが来たんや」
 ほう、蔵人も仕事が早い。
「はじめはなんかの言い合いしてたんやけどな、あの兄ちゃんがなんか機械みたいなのを取り出したんや」
 蔵人の発明かな?
「そしたら、あの学者のおっちゃんのほうがひれ伏して……」
 蔵人の発明がよほど強烈だったのかな?
「あ、美樹、来てたんだ」
 蔵人がこっちに気がついたらしい。
「蔵人、大丈夫だったか?」
「うん。僕の作ったゴールド発見器見せたら落ち込んじゃったから」
「お前の発明は相変わらずすごいな……」
 大学の研究者以上のものをあっさり作るあたりとか。
「どうも、ところでなんでそんな恰好してるの?」
「え? 動きやすい恰好ってイメージで作ってみたんだけど……」
 そう言いながら自分の恰好を見ると……

「なんじゃこりゃ〜〜〜〜!!」

 今まで急いでたり呆れたりしていて、今の自分の恰好をちゃんと見ていなかった。そういえば朱美もローズもヴィルも様子がおかしかった。その原因が、まさかこんなことだったなんて……
「……それ、なんて名前の美少女戦士?」

  グサっ!

 蔵人が気づかせてくれた。今のおれはまるで変身ヒロインのような格好をしていたのだ。
「……っていうかその恰好でここまで来たの? 中央管理棟から?」

 グサグサっ!!

 蔵人の言葉が胸に突き刺さる。それはもう心地よいほどに。
「女子制服男の噂も落ち着いてきたし。新しい話題に食いつく人たちがきっといっぱいだよ」

 グサグサグサっ!!

 華麗にとどめを刺されて、俺はなんかもう死にたくなった。
「やっほ、お疲れ〜」
「あ、朱美。そっちもね」
 そこに後片付けを終わらせた朱美がやってきた。
「朱美てめぇ! 何でこのこと黙ってやがった!」
「このことって?……まさか今まで気づいてなかったの? その恰好。ぷっ、くくく……あははははははは!!!」
 こいつ、笑いやがった。しかも盛大に。
「ひ〜ひ〜……げほげほ……」
「せき込むまで笑うな!!」
「はぁ、はぁ……きっと昨日の女の子のための三時間の影響だわ。ほんとミキは見てて飽きないわね」
「じゃあ、さっさとその部分を除去しろ!」
「はいはい、あとでね。それよりヴィル君が置いてきぼりくらってポカンとしてるよ」
 あ、いつもの会話になっていてうっかり忘れてた。
「なぁ、どういうことなん? その人らは佐藤ちゃんの知り合いか? それにそっちの兄ちゃんがヨシキって……」
「あ、えと、これはね……」
「さっきから随分とキャラが違ごうてたし。それにその恰好……」
 ……ほかの事はともかく、格好のことには突っ込まないでほしい。
 俺が困っていると、朱美がヴィルに話しかけた。
「あ、あたしがこの学園生徒会の会長の、千鳥朱美です。さっき呼び出しかけたのもあたし」
「あ、これはどうも……あんさんも詩杏やミキの知り合いなんか?」
「う〜ん……この話はここじゃなんだから生徒会室でね。と、その前に……」
 そう言うと、朱美はいまだに頭を抱えたままうずくまっている男に耳打ちした。すると……

「す、すみませんでしたっすみませんでしたっ! だから・・・だからそれだけはやめてぇぇぇ!!」

 研究者の男は盛大な叫び声を上げて逃げていった。耳元で何言ったんだ?
「え? ああ、マカ姉に言いつけてやるって言ってみただけ」
「ああ、真紅さん。学園最強最凶最狂の座は伊達じゃないな」
「まぁ、伝説のほとんどはシン兄のほうなんだけどね。とりあえず生徒会室行くわよ」


「……それってマジ話なんか?」
「ええ。この学園と生徒会が保証するわ」
 生徒会室で俺たちはヴィルにゴールドのことを説明していた。
「でも佐藤ちゃん……あ、いや須藤先輩が男とか言われても……ワイは男か女とか見分けるのは得意やし……」
「須藤様の『変身』の能力は、文字通り体を作りかえるものなのです。ミキ様は普段の須藤様とは全く別人ですわ」
 朱美とローズの協力も、多分にあるんだがな。
「あと、この格好のときはミキでいいよ。……っていうより、『先輩』とか呼ばれると困る。話し方も普通でいい」
「そうだね、僕からも頼むよ。事情を知っている人が近くにいると、美樹も結構やりやすそうだしね」
 確かに蔵人の言う通り、少しでもフォローをしてくれる人がいれば格段にやりやすいはずだ。
「ゴールドのことは普通の人には秘密なのよ。あなたも協力してくれるわよね?」
 うわ〜、お願いっぽいけどものすごい脅しだ。
「なぁ、それってワイにもなんかそのゴールド能力っちゅうもんがあるってことなん?」
「お兄様は『干渉不可』の能力ですわ。たとえば……」
 そう言うと、ローズはいきなりヴィルに能力で水をかけた。
「んなっ!? なにすんねん詩杏……あれ? 濡れとらん?」
「こんな風に、被害がありそうな能力を無効化する。それがお兄様の能力ですわ」
「そうなんか……よし、決めた。協力したろうやないか」
「本当か! ありがとう!」
 ふう。これでとりあえず一段落だ。
「なぁ、その代わりと言っちゃなんやけど、ちょっと頼み事きいてもろうてええか?」
「ああ! 俺にできることなら何でも言ってくれ」
「紫村との仲を取り持っとくれんか?」
 ほう……なるほど、ヴィルは和音が好きなのか。和音の方も感触は悪くないんじゃないのか?
「よっしゃ、まかしとけ」
「おお! 恩にきるわ」


 で、後日。俺は和音にヴィルについて聞いてみることにした。
「え? ヴィル君をどう思うって? 初めて見た時はかっこいいとか思ったけど……」
「けど?」
「ぶっちゃけアホキャラじゃない?」
 ヴィル……すまん。かなり前途多難っぽい。
「そんなことより、大学部の構内にスーパーヒロインが現れたっていう噂が――」
「…………」謎のスーパーヒロイン(笑)(illust by MONDO)
 だからなんであなたはそういうことに対して耳が早いのかと……
 そしてこのパターンは――
「二人してなぁ〜んのお話かなぁ?」
「面白そうなお話しているよねぇ?」
「これはあたしたちも混ぜてもらわないとねぇ」
 やっぱり来た……葵、桃、緑の三人組。
 だから何であんたらは、そういう話に限って食い付きがいいんだ!?
「ああ! そのスーパーヒロインなら生で見たで?」
 そこにヴィルまで混ざってきた。っていうか何ばらしてんだよっ!?
「え? ほんと?」
「ねえねえヴィル君、どんなだった?」
「気になる気になる! 教えて!」
 ……食いつくやつらが大量にいるんだからやめてほしい。
「そやな……なかなか可愛かったで。なぁ、ミキもみたやろ?」
「え、あぁ、うん。でも顔は見えなかったし……」
 本人だから。
「やっぱりミキってなんかわからないけど、よく面白いことに巻き込まれるね」
「え? うん、まぁ」
 和音の言う通りだよ。とっても不本意ですけど。
「それにしてもミキとヴィル君、一日でずいぶん仲良くなったわね」
「あれ? もしかして付き合っちゃってる?」
「ってことは浮気?」
 ……なんでそっちの方向に行くんだ? というより……
「何で浮気なの!? もともと彼氏とかいないし!」
「じゃぁ、ヴィル君が唯一の彼氏?」
「違うよ! だいたいヴィル君が好きなのはかずn……」
 いきなりヴィルに口を塞がれた。「ちょ〜っと向こう行こうか、ミキ」
「む〜! む〜!」
 口を塞がれたまま、ヴィルに廊下へと連行される。そして俺たちが教室から出ていく間に、
「ヴィル君が好きな人だって……」
「誰だろうね?」
「う〜ん、気になる!」
 と三人組が勝手に盛り上がり、和音が何やらつぶやいていたような気がしたが……

「やっぱり仲いいんじゃない……名前で呼び合ってたし。まったく……道化師たちは今宵も踊る、か」


 ここは虹色寮。
 今日は新しい住人が増えるということで、みんな集合という連絡があったのだが……
「こんちわ。今日からここに住むことになったヴィルヘルム・ブラッド・レッドフィールド言います」
「妹の詩杏・ローズ・レッドフィールドです。さすがに住むとこでまでキャラ作る気ないんで、よろしゅう頼みます」
 俺と蔵人、唖然。朱美一人が腹を抱えて笑っている。
「朱美さん、蔵人さん、よろしゅう頼みます。それと……」
「あ! 兄貴は初めてやったな。須藤先輩の素顔やで!」
「え? ミキ!? うわ〜マジで普通の男やん。しかもずいぶん冴えない……」
 冴えないって……一応俺も先輩なんだが。
「あ! そやったそやった。朱美さんと蔵人さんと同学年やったんやな。すんません」
「まぁ、普段かしこまられても困るから気にしないでいいんだが、この格好しているときは『ミキ』って呼ばないでほしい」
 これはかなり切実だ。
「え〜! いいじゃん。普段使ってるの出ちゃったら困るじゃん。『ミキ』って呼んどこうよ」
 朱美のやつ……お前が呼ぶのは百歩譲ってよしとしたくはないがすることにするとしても、他人にまでそれを薦めるなっ!
「それもそうやな」
 ヴィルも納得すんなっ!
「よろしゅう頼むな、ミキ」
「よろしゅうお願いします。ミキ先輩」
 ローズ、お前もか……
「ということで、みんな『ミキ』って呼んでるんだから蔵人も……」


「俺はヨシキだ〜〜〜〜っ!!!!」




今まで一体何回の、

初めましてをしたのかな?、

今まで一体何回の、

さようならをしたのかな?

きっと二つは同じ数。

きっと最後は同じ数。

今日のおはなし、ここでフィナーレ。

ここから先はまた今度。

果たして次はどんなお話?

喜怒哀楽に過去未来。

遠く近くにいつもある。

そんなおはなし用意して

またの来場、お待ちします。






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