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ご・お・る・ど!

作:yuk






さあ、おはなしをはじめよう。

うれしいうれしいおはなしさ。

いやいや、むかつくおはなしさ。

かなしいかなしいおはなしさ。

いやいや、たのしいおはなしさ。

遠い昔のおはなしさ。

いやいや、昨日のおはなしさ。

遠い未来のおはなしさ。

いやいや、明日のおはなしさ。

君も知ってるおはなしさ。

いやいや、知らないおはなしさ。

遠い国でのおはなしさ。

いやいや近所のおはなしさ。

僕が信じた本当も、

君が願えば嘘になる。






 目が覚めた。……今何時だ? ……八時十五分?
 ……え、と……今日は水曜日……………………

「ち、遅刻だあああああっ!!」

 俺の名前は須藤美樹。何度も言うがミキじゃない、ヨシキだっ。
 通っているのは金成学園、その特殊科の三年生。
 しかし俺は今、普通科一年の女子生徒、佐藤ミキとして学園に通っている。俺には『全身変化』という特殊能力があり、その能力にあった課題としてなのだが……詳しくは第一話を見てくれ。
 住んでいる場所は、金成学園の学生寮である虹色寮。
 学園は全寮制だが生徒数が多いため、街のあちこちに学生寮がたくさんある。女子寮三つ、男子寮三つ、そしてこの虹色寮だ。
 他の寮とは違い、虹色寮には男女両方が暮らしている。
 実はこの寮で暮らす生徒は、変人ばかり……まぁ、そうでなければこんな酔狂な寮になぞ居られないのだが、俺は違うぞ!
 感覚が鋭い(そういう能力もあるんだ)友達の説明によると、ここは「特異点」とかいう場所らしい。
「あら? 美樹君どうしたの? こんな時間にそんな格好で」
 で、今声をかけてきたのが、ここの管理人の海松(みる)さん。俺たち「ゴールド」のことはちゃんと知っているらしい。
 こんな寮を預かっているだけあって、おそらくすごい人なんだろうけど……そんな気配を微塵も感じさせない人物だ。
「お〜い、美樹君?」
「はい?」
「蔵人くんも朱美ちゃんも、もう学校行っちゃったわよ」
「あ……ヤバっ! 行ってきます!」
「あらあら。でもね美樹君……もう行っちゃったか。……さて、道化師は今日はどんな踊りを見せてくれるのかな?」


「はあ、はあ、はあ……」
 どうにかこうにか学校に着いた。しかし、無常にも目の前で門が閉まる。
 誰にも見られずに「ミキ」に変身できる場所を探すのに時間がかかってしまったからだ。
「にひひひっ! ミキちゃん遅刻!」
「ドンマイ、美樹」
「朱美……蔵人も……」
「いや〜惜しかったね。あと少しだったのに」
「お前らここで何してる?」
「なにって……学生が学校にいちゃおかしい?」
「いや、そうじゃなくて……」
「遅刻取り締まり強化週間で、生徒会は朝早いのよ」
「なんだよそれ……」
「試験前って遅刻者が多いのよね。だから対策強化週間」
「僕もそれ。何気に生徒会に入れられてたんだよ」
「友達なんだから当たり前じゃない」
 試験か。俺もそのために、昨日夜遅くまで勉強をしていたのだ。
 授業は普段一年生のものしか受けることができないため、三年生の試験内容はすべて自習なのである。
 でも…… 「じゃあ何で起こしてくれなかったんだよ!?」
「気持ちよさそうに寝てたから、つい……」
 蔵人が申し訳なさそうに弁解する。
「何であたしがわざわざむさい男の部屋まで行って、あんたを起こしてやんなきゃなんないのよ」
 と、朱美。
「毎朝部屋に鍵かかってんのに侵入してくるやつが何を言うか」
「あら? 何のことかしら? ま、かわいい女の子の『ミキちゃん』なら考えないでもなかったけどね」
 ああ、そうですか、そうなんですか……別にいいですよ。
「じゃ、俺は行くぞ。走ればまだSHRに間に合う」
「ちっちっち。そうはいかないんだな〜」
「まだなんか用か?」
 教室に向かおうとしたところを、また朱美に呼び止められた。
「遅刻の罰を忘れてるわよ」
「え? 何かやらされるの?」
 そんな、遅刻ぐらいで……
「う〜ん……じゃあミキちゃんには、『ごめんね、朱美お姉ちゃん』って可愛く言ってもらおうかな?」
「な!? ふざけんなっ、何で俺がそんなこと」
「あ、そう……じゃあ、あんたの事全校生徒にばらしてやる」
「おいおい、俺のことをばらせばお前だって……」
「あら、あたしの『情報操作』を甘く見ないことね」
 くっ……確かにこいつの能力は自分で言うだけの事はある。確かに「ゴールド」のことを隠したまま、俺のことだけをばらすこともできるはずだ。
「さあミキちゃん、前かがみで『ごめんなさい、朱美お姉さま』って言ってごらんなさい」
「さっきより注文が増えてるぞ……」
「当たり前じゃない。利子よ、利子」
 悪徳高利貸しかよ……アイスは好きじゃない。氷菓子…………寒っ。
「ねえねえ朱美。そろそろ美樹で遊ぶのやめたら? わざわざ遅刻までさせたんだから」
「まったく美樹ったら、この程度でどこか遠くにとんでっちゃうなんて……」
 あ、あまりのことに意識がぶっ飛んでた、って…… 「おいっ、わざわざ遅刻させたってどういうことだ!?」
「いや、ちょっとね、朝のうちに忍び込んで目覚まし時計止めたり……」
 やっぱり忍び込んでたんじゃないか!
「いやはははははは、悪いね〜」
 ぜんぜん悪いと思ってないな……
「ったく。人が一生懸命テスト勉強してるのに……」
「美樹、僕ら課題を受けた組は定期テスト免除だよ」
 な? 聞いてないぞ。
「言ってないもん。当たり前じゃん」
 やっぱり悪びれもせずそんなことを言い出しやがった、朱美のやつ。
「お前らな……」
「ところが! ここにミキの期末テスト免除許可書があります!」
 そういって手にした紙をひらひらさせる朱美。その紙には学園長印が押されていた。
「そしてそしてっ、ここを見なさい!」
 朱美が指をさした場所には何も押されていない。
「ここには生徒側が受け取ったという証明である、生徒会長印が押されることになってま〜す」
 ほう、生徒側を尊重するしっかりした学校だな……ん? 生徒会長印? ……って、
「は〜い。そのと・お・り。ここには生徒会長であるあたしのハンコが必要なわけ」
「ならさっさとそれを押して渡せ!」
「ノンノン、渡してほしければ前かがみ&上目遣いでさっきのの台詞言いながら、あたしににじり寄ってきなさいっ!」
 また増えてる!?
「そんなに、俺にそういうことをやらせたいのか!?」
「そんなにやりたくない?」
「当たり前だろう!」
「じゃ、あたしの言うこと聞いてくれる?」
「聞くからそれは……はっ!」
「ふふふ、言ったね?」
 なにぃ!? 罠だと? ……おい待てっ! ちょっ……蔵人もなんか生暖かい目でこっちを見てるし。
 何だ!? 俺は何をやらされるんだ!?
「じゃ、放課後、楽しみに待ってなさい。あとこれプレゼント」
 そう言うと、朱美はさっさと校舎に入っていった。
「ドンマイ。骨は拾ってあげるから」
 蔵人もそんな一言を残して去っていった。ブルートゥス。お前もか。
 俺は英語で七月の語源になった男の気持ちを知った。
 ちなみに朱美のプレゼントは、遅刻者用の入出許可書だった。
 時計を見ると、もう一時間目が始まっていた。


 なんだかんだあって休み時間。「ミキ」として一番仲の良い友達、和音が俺に話しかけてきた。
「ねえミキ、さっき何やってたの?」
「さっきって?」
 聞くまでもないな……さて、なんてごまかそうか。
「決まってるじゃない。朝、千鳥先輩と氷川先輩と何か話してたでしょ?」
「え? あれ? あの……遅刻したの怒られちゃって……」
「そうなんだ。で、ミキちゃんはな〜んで遅刻したのかな?」
「て……テスト勉強して夜更かししてたら、寝坊しちゃったの」
 嘘じゃない。ただ、勉強の「内容」のことは黙っておく。
「ルームメイトの人、起こしてくれなかったの?」
「そうなんだって! なんか安らかに寝てるのを邪魔したくなかったとか言って……」
「あ〜、解るわ」
 解るんですか!?
「だってミキって、ものすごいいい寝顔してるのよ? 先生も授業を静かにしましょうって……」
 だからか。どうりで授業中よくねむれるな〜と思ってたんだ。
 でも可愛いって言うのは得だな。昔なんか寝てたら頭ぶったたかれて起こされてたし。
「ミキってば頭いいのに、まだ勉強するの? ……っていうか、授業きちんと受けようよ」
 諭された。年下の女の子に。
 まあ、今の俺はその女の子より幼い顔をしてるのだが……
「そういえばミキのルームメイトって見たことないな〜。何組?」
 あ、えっと……
 俺のルームメイトと言えば、氷川蔵人その人なのだが、さすがにそれを言うわけにはいけない。
 どうにか笑顔でごまかそうとしていると、他の友達が集まってきた。葵、桃、緑の三人だ。
「ねえねえミキ、朝、千鳥先輩と何はなしてたの?」
「いいな〜、私も千鳥先輩とお話したいっ」
「氷川先輩も一緒にいたし、あ〜もうミキがうらやましいっ!」
 女が三人で「姦しい」とは、よく言ったものだ。いつもながらすごい勢いにたじたじなってしまう。
 でも今はその勢いに感謝だ。三人のおかげで和音の質問に答えなくてすみそうだ。
「そういえば『ぴちぴち女子制服男』の話きいた?」
「あ、私も聞いた。……何なんだろうね、その変態」
「まったくなに考えてんだろうね。きっと頭がイカれてるのよ」
 ……前言撤回。その話題はやめてくれっ、不本意だ! わざとじゃない!
「ホント……あたしなんか目の前で見ちゃったのよっ」
 和音もその話に乗らないでっ! 頼むから〜っ!
「え……えっと、そ、その話はその辺にして……そろそろ期末テストだよね」
 早く話をそらさなければ! そう思い、俺は彼女たちの話題を強引に変えた。
「テストといえば……この学校のうわさ知ってる?」
「あ! 知ってる! 知ってる! テスト期間中限定で出る幽霊のことでしょ!」
「ああ、夜遅くまで居残って勉強してると出るっていう……」
 そのうわさ、もう広がっているのか。まったく朱美の情報操作能力はすごい。
 あ、そうそう、説明しよう。実はその「テスト期間の幽霊」というのは、普通科の生徒を学校に残さないための仕組みだったりするのだ。
 特進科のテストは独特で、ものすごく難しい問題が出る代わりに、何をしてもいいことになっている。まともに勉強しようが、夜の学校に侵入して解答を盗もうが、カンニングをしようがすべて許される。……ただし、不正行為は先生に見つかった時点で大量減点の対象になり、さらに特殊能力の教科は無条件で赤点にされるんだけどね。
 で、その夜に忍び込んで解答を奪取しようとする連中の所業を、普通科の生徒たちに見られないようにするため、うわさが流されるのだ。
 俺? もちろん自力で頑張ってるよ。蔵人に教えてもらいながら。そして自分で自己採点。
 もちろん無駄なことはせず、使う問題はテスト問題そのもの……つまり俺もテスト問題奪取組なわけ。
 もちろん、ばれたことは一回もないんだがな。成績優秀だし。
 話がそれた。
 ……とまあ、これがうわさの実体なのだが、ここは和音たちに話を合わせておいたほうがいいかな?
「そうそう、その話有名だよね。寮の先輩が言ってたよ。特にテスト前日に出るんだって」
「寮の先輩って、千鳥先輩とか氷川先輩とか?」
 和音がそんなことを言い出した。
「あ、ちょっと! それ一応秘密!」
「え〜〜〜っ!! ミキって千鳥先輩や氷川先輩と同じ寮なの!?」
「ってことはあの虹色寮!? う〜、私にはさすがに無理っ」
「究極の選択だもんね。虹色に耐えるか氷川先輩と千鳥先輩をあきらめるかって……」
 話に食いつく葵たち三人組。……これがいやだったんだよ。
 千鳥朱美と氷川蔵人は、全校生徒に絶大な人気を誇っているからな。
 っていうかひどい言われようだな虹色寮。普通に暮らしてる俺は一体何なんだ?
 というよりそんなところを管理している海松さんのすごさが一層よくわかる。
「ほらほら! 先生来たよ」
 救世主、灰原正一国語科教諭45歳独身のおかげで、どうにか危ない話題から逃げることができた。
 そのとき俺は、和音が「テスト前日か……」とつぶやいていたことに気がつかなかった。


『特進科三年須藤美樹さん。生徒会室まで来てください』
 放課後、そんな放送がかかった。本名での呼び出しなんて久々だ。
 しかも生徒会室かよ。あの声は朱美だな。……誰が行くか。
『誰が行くか、とか考えてるならやめたほうがいいわよ』
 うっ、見破られてる。
『来てくれないと、あたしお口が軽くなっちゃって最近のうわさについてあることないことしゃべっちゃうかも』
 脅迫!? くっ、卑怯な!
「どうしたのミキ? 顔色悪くない? 帰ろうか?」
「かかかかか和音、ちちちょっと用事ができたからささささきに帰ってっ」
 うっ、いきなり話しかけられて動揺してしまった。
「どうかしたの? 本当に様子がおかしいよ?」
「い、いや、だいじょぶよ? それじゃね!」
 俺は適当にごまかして、その場を走って逃げた。


「おい、何の用だ?」
 変身をといた俺は、蔵人と朱美がいる生徒会室のドアを開けた。
 もちろんきちんと男子用の制服を着ている。なぜかって? 当たり前だろう! 俺は男だ!!
 男子の制服を着ていて何の疑問がある!?
 あ、違う? そっちじゃない? すまんすまん。ミキの姿だと、朱美に襲い掛かられそうだからだ。
 朱美はものすごく残念そうにしているけど、知ったこっちゃない。
「はぁ……まったく解ってないわね」
 それが解ったとき、人としてのレベルは確実に下がるんだろうな。……実はすでに解っているかもしれないということはオフレコで頼みます。いや、マジで。
「用がないなら帰るぞ?」
「ああ、ごめんごめん。で、話っていうのはね……」
 朱美の話によると、「今年のテスト解答争奪戦は、生徒会の方で解答奪取組の生徒を捕獲してほしい」と先生たちから依頼があったのだそうだ。
 つまり、毎年先生がやってることを、今年は生徒会でやれってことだ。
「と、言うわけよ。手伝え!」
「手伝えって……報酬は?」
「な〜に言ってるのよ。蔵人は快く受けてくれたのよ」
「ごめん。無理やりに……」
「蔵人……お疲れ」
「……どうも」
「でも、俺は……」
「ぴちぴち女子制服男のうわさ、消してあげる」
「よし承った」
 是も非もない。そのうわさが今の悩みの種だ。
 朱美は満足そうに首を縦に振っている。蔵人はなんか冷たい目で俺を見ているけど。
「じゃあ、期間は今日からテスト一日目まで。特にテスト前日は徹夜になるから体力つけといてね」
「ああ」
「メンバーはあんたとあたしと蔵人。生徒会からも何人か。紙にまとめてあとで渡すわ」
「方法は?」
「生徒会は生徒会でやるから、あんたは一人別行動。方法は任せる。集合かけたときだけ来てくれればいいから」
 というわけで、テスト前日の徹夜が決まった。


 それからテスト前日までの間、俺はわざわざ捕まりに来る解答奪取組のアホどもを捕まえて過ごした。
 うわさのように幽霊のふりをして追い込んだり、そのメンバーに入り込み誘導して捕まえたり……と、まあ捕まる捕まる。まったく最近の若いのはなってない。俺なんか毎回成功していたぞ。
 そして最終日、今日は徹夜で見張りだ。さて、どんな作戦で行こうか……
「よう、お疲れ」
「お疲れ様、美樹」
「朱美か……それと蔵人」
「何よその朱美かって」
「僕はおまけ?」
「いや、蔵人はいいんだが、朱美が出てくる時は厄介なことが多いから……」
「ひっどーい! けど解ってんじゃん」
 やっぱりかっ。
「ちょっとね、あたしの情報網に引っかかったんだけどね。あんたのクラスの女の子たちが今日肝試しやるんだって」
「肝試し? 何でこんなときに……」
「誰かさんが幽霊のうわさを強調したかららしいわよ?」
 まったく、こんなときに肝試しするとか言うアホってだれだ?
 そのとき、俺のポケットに入っていた「ミキ専用」携帯電話の呼び出し音が鳴った。……和音からだ。
 あわてて声帯を変化させ、ミキの声を作って電話に出る。「もしもし、和音? どうしたの? こんな時間に?」
『あ、ミキ〜! あのさ、今から肝試しやんない!?』
 お前かっ! ……っていうか、うわさ強調したのって俺? 俺のせい!?
『葵と桃と緑も居るよ。学校前集合で!』
「そっ、そんなことより、テスト勉強しなくていいの!?」
『入学したてで最初のテストなんて、たかが知れてるって』
 俺に「授業きちっと受けよう」とか言ってた人はどなたですか?
『それに気分転換も必要だって! あ、先生の許可もらってるよ』
 どうやって!? そもそもテスト前に何で肝試しに許可がっ!? しかも特進の解答争奪戦中にっ。
『はじめは先生も駄目って言ってたけど、なんか仮面をかぶった変な人が、いいよって……』
 学園長!? なに考えてるあの仮面!?
『……で、ミキはどうする?』
「い……いや、遠慮しとく」
『むー』
「今度埋め合わせするから! ごめん!」
 そう言って、俺は電話を切った。
「ねっ」
「いや、『ね』とかいわれても」
 しかもものすごい笑顔で。
「あんたの友達なんだから、あんたが面倒見なさいよ」
 うっ。押し付けて逃げようと思ったのに、朱美のほうが早かった。
「蔵人貸してあげるから」
 蔵人、もの扱い? いや、心強いけど。
「それじゃ、今日のビックリドッキリメカを……」
 蔵人……それ古い……
「べつにいいじゃん。はいこれ、大事に使ってね」
 蔵人が取り出したのは、可愛い感じの手鏡。
「……何だこれ?」
「これはね、見たいと思ったものが何でも映る科学技術の詰まった鏡だよ」
 魔法の鏡とかじゃないところが蔵人だ。
「犯罪じゃないのか?」
「そうとも言う」
 言うのか……この鏡やべぇ……
「名付けて『野獣の鏡』っ!!」
 使う人間は確かに「野獣」ともいえなくはないな。これを使えば……
「あ、今絶対えっちなこと考えたでしょ?」
「え!? い、いや……別に」
 くそっ、蔵人に見破られるとは。
「この鏡の名前の由来は、あのディ○ニーの『美女と野獣』で、野獣が持っていた鏡からだよ」
 どっちにしても使えば野獣だよ。こんなもの……
「いらない?」
「いや、ありがたくいただいておく」
 こんなにいいもの利用しない手はない……そういう意味でなくっ! だから冷たい目で見るのはやめてくれ!!
「まあいいや。で、使い方は……」
 蔵人から使い方を聞いて、早速和音たちの様子を見てみる。
『ん〜、やっぱ夜の学校って雰囲気あるよね』
 鏡に映った和音がそう言うと、横にいた葵、桃、緑が順番に、
『ホントだね。ホントになんか出るかも』
 と煽り……
『いや〜。そんなこと言わないで〜!』
 と怖がり……
『あははは。大丈夫だって』
 ……と、慰めていた。
 しかしそれだけ騒いでりゃ、お化けも逃げるって……
『ミキも来ればよかったのにね』
 和音がそうつぶやいた。和音……そんなに俺のことを……
『ほんとそうだよね。ミキなら桃と比べものにならないほど怖がってくれそうだし』
『ミキちゃんなら千鳥先輩を連れてきてくれると思ったのに』
『氷川先輩とかも連れてきてくれたら、万々歳だったんだけどな』
 三人組がそう続いた。貴様ら……それが狙いか……
『あ〜そうそう、あたしもそれ思った』
 和音、そこに同意なの?
 そんな俺の突っ込みが聞こえるはずもなく、四人組は校舎の前に到着した。
「あーあ、入ってきちゃったね」
 蔵人がのんきにそんな感想を漏らす。「それにしても僕って、下級生にもててたんだね」
 うるせー。どうせ俺は嫌われ者だよ。
「で、どうする? 美樹」
「…………」
 こめかみをぴくぴくさせつつ作戦を考える。「……あいつらは肝試しに来てるんだ。だったらお化けのふりをして追い返そう」


 Round 1−

「ん〜なんか見られてる感じがする」
 葵がぽつりとそうつぶやいた。
 台詞の括弧を見て解るように、俺は今、彼女たちの近くに居る。ただし、『変化』の応用で体の色を消している。つまりは透明人間状態だ。『変化』の中でも一番高度な『全身変化』ができる俺にとっては、これくらい軽いもんだ。
 これで誰も居ないところから聞こえる声とか、誰も居ないのに触られたとかで驚かせて……誰だ!? 今、「覗きの次は痴漢か?」とか言ったやつは!?
 仕方がないんだよ。これも作戦だ。
 俺が今やってる、もっときわどい犯罪行為には気がつかないふりをしてください。……気がつかないなら、そのままのあなたで居て。
「え!? いや!? こわ〜い!!」
「葵、桃をおどかすのはやめなって」
 ……ばれたかと思った……桃をからかっただけか。
 じゃあ早速……
『美樹!』
「うわぁ!!」
 急に聞こえた声に、俺は思わず叫び声を上げてしまった。
「え? なに? 今の声!?」
 目を輝かせる葵。
「きゃああああ!! 出た! でたぁぁぁ!!」
 恐怖に叫ぶ桃。
「なにこれ? ドッキリ?」
 冷静に勤めようとする緑。
 三者三様のリアクション。おっ、図らずとも作戦成功か?
「三人とも落ち着いて。あれよ、きっと」
 和音が指差した方向には……朱美にやられたのか、泣きながら帰っていく解答奪取組の生徒たち。……南無。
「な〜んだ」
「お化けじゃないの?」
「だから言ったでしょ、大丈夫だって」
 三人は落ち着きを取り戻したようだ。特進科の連中が泣いているところに突っ込んであげてほしい。
「まったく、こんな時間にこんなところでなにやってんのかしらね」
 和音がそうしめくくった。……それはもっともだが、今のお前には言われたくないと思うぞ。
「じゃ、いこう。まずはお決まりのトイレからってことで」
 和音と葵、桃、緑は学校の奥へと進んでいった。ちくしょ〜。もうちょっとで追い返せたのに……
 ところでさっき俺の名前を呼んだのは誰だったんだ?
『美樹! 聞こえる?』
「蔵人か?」
『うん、今週の秘密道具。どこでもいつでも誰とでも強制的にお話ができる……』
 突っ込みどころは多すぎだが、とりあえず「強制的」ってところが迷惑過ぎだっつうの。
『名付けて界〇神電話!!』
「一応聞いておく……その名前はどこから?」
『ゴルフの第一打をどれだけ飛ばせるかを競い合うホールのような……』
 ドラコンホール……どれだけ回りくどいんだよ。「……つまりドラ○ンボ○ルって言いたいんだよな」
『そうそれ』
「で、お前はそれを使って俺に何のようだ?」
『さっき朱美が「馬鹿ガキが玄関に向かった」って言ってたってことを……』
「遅い!!」
『あらら。ま、次は頑張ってね』
 あっさり流しやがった。「……ったく。次いくぞ」


 Round 2−

 俺は和音たちが来る前に、女子トイレに駆け込んだ……だから仕方なくなんだってばっ! 犯罪者とか言うなって!
 ここでの作戦は、「すすり泣く声が聞こえるトイレ」ってやつだ。なかなかいい感じに心霊現象だと思う。
「う〜ん、やっぱ暗くてもトイレはトイレね」
 どうやら和音たちが来たようだ。和音が当たり前といえば当たり前な感想を述べた。
「花子さん推定38歳とか出ないかな?」
「いや〜〜〜!! 38歳とかいや〜〜〜!!」
「桃、そこ怖がるところと違う」
 葵、桃、緑がコントを始めた。お前ら本当は怖がってないだろう。
 とりあえず、俺は啜り泣きっぽい声をはじめる。
 怖さに追い討ちをかけるため、今はホラーな顔に変化している。その他は基本的に「ミキ」の姿。服もミキ用の私服。
「……っく……ひっ……ひっく……」
 う〜ん、われながらいい雰囲気だと思う。
「あれ? なにか聞こえない?」
「いや〜!! 38歳いや〜〜〜!!」
「だから桃、そこじゃないって」
 葵が気がついたようだが、華麗に無視をする桃と緑。
「……気のせいか」
 待て、葵。気のせいじゃない。お前の耳は正しい!!
「違うよ葵。あたしにも聞こえたよ」
 おお! さすが和音。
「今のは間違いない。ミキの泣き声よ!」
 ……サスガカズネサン。できればそこまでは気がつかないでほしかった。って言うか、ミキの声とは微妙に変えてあるはずなんだけど……
「そして……そこね!!」
 さらに俺が隠れている個室をまでも発見した。……何? エスパー? 特進科行ったほうがいいんじゃない?
「ミキ! そこに居るんでしょ! 出てきなよ!」
 そういって無理やり個室を開こうとする。
 まだだ! 今俺の顔は口が裂け、目が腐れ落ちてる……そんな感じだ。
 これを見ればさすがに怖がって逃げ帰るだろう。俺は個室を飛び出した。
「ばぁ……あ?」
 勢い込んで出たはいいが、和音と葵はなんか生暖かい目でこっちを見ている。
 桃と緑も、なぜかかわいそうな小動物を見るような目で俺を見ている。
「そうね……解るわ。一度は断っちゃったけど、やっぱり肝試しに参加したかったのね」
 葵が勝手に変な設定を作り始めた。
「それでも参加したかったから、そんなイタい格好で私たちを驚かそうとしたのね」
 桃が何気にひどいことを言い出した。
「それで来たはいいけど、一人ぼっちでさびしくなって泣いてたのね……かわいい」
 緑がそんなことを、小さい子供を相手にするような調子で言いやがった。
「そんなことしなくても、可愛くお願いしてくれればよかったのに……」
 和音がどっかの生徒会長みたいな事を言って締めくくった。「……ほら、ミキ、その変なメイク落として一緒に行こうよ」
 俺の渾身の変身を、変なメイク呼ばわり……ひどいよ和音。もう泣きそうだよ。
「んじゃ、トイレの前で待ってるから早くおいでよ」
 そんな言葉を残して、四人はトイレを出て行った。……俺の今日の戦績……第二ラウンドTKO……泣きそうだ。
『ドンマイ。明日があるさ』
 蔵人が優しい言葉をかけてくれる。さらに泣きそうだ。
 仕方ない、俺は顔を「ミキ」に戻して、トイレを出ようとした。
 そのとき……

「きゃあああああっ!」

 い、今の声は!?
「和音!!」
 あわててトイレから飛び出すと、そこには倒れている三人組と、その他三人の女子生徒……たぶん特進の連中だろう。
 そして、その生徒達に捕まってぐったりしている和音。
「あ、まだ居た」
「ごめんねぇ。私たちどうしてもやらなきゃならないことがあるの。だから寝てて」
 くっ。何でこんな時に……ほかの奴等が近づいてきたら蔵人が教えてくれるはずなのに……
『あ、美樹、特進の生徒がそっちに……』
「遅い!!」
 今頃報告って……
「ほらほら何してるの?」
「いいこだからおとなしくおねんねしなさい」
「私に任せてくれれば、明日の朝までぐっすりよ」
 「催眠」か。この前のやつ(第一話参照)よりはだいぶ強力そうだが……
 朱美のやつ……きちんと特進の連中抑えとけよ……
「あ〜、なんだ、一つ言っておく」
 俺の口調に何か違和感を感じたらしく、女の子達は目を見開く。
「何この子? なにか違う……この子……男!?」
 どうやら「透視」の能力者も居るらしい。わざわざ解答盗みに来なくてもよかったんじゃないのか?
 それにしても……
「へぇ〜、俺の正体見破ったか。」
 そういって俺はかっこよく変身を解くが……

 ピキッ!

 ……今の音って……

「「「き、き・・・きゃあああああああああっ!!」」」

 忘れてた!! 今俺の服はミキのサイズ。この前も同じことやったばかりだというのに……
 朱美に見られたら、絶対爆笑される。この服高かったのに……
 そんなことを頭の中でぐるぐる考えていたら、俺を指差して女の子達が叫んだ。
「あ、あなたが今話題のぴちぴち女子制服男!? 制服じゃないけど」
「っていうか須藤先輩!?」
「嘘!? あこがれてたのに!!」
 ……神様。俺が一体何をしたというのですか。
「俺は今日は生徒会の助っ人で仕方なく……仕方なくこんなことをしているんだっ!!」
 「仕方なく」を強調して弁解するが、特進の女子生徒達は話を聞かず、和音を連れて逃げようとした。
「わ! ちょ! 話を……じゃなくて待て! 俺はお前らを捕まえなきゃ……」
 あわてて一人の肩をつかむ。
「きゃ〜!!」
 そのこは悲鳴を上げてぱたりと倒れてしまった。
 触っただけで気絶するとか……ひどくない?
 そしてその子が「催眠」の能力者だったのか、倒れていた葵たちがいきなり目を覚ました。
「うう? 一体何が……え? きゃ〜! 変態!!」
「……何で? 何でいきなりスカートへそだしの男の人がいるの?」
「もしかして……今話題のピチピチ女子制服男!!」
 いつも通り、葵、桃、緑の順番でまくし立てる。これ以上状況を悪くするのはやめてくれ!!
 そう叫ぶ寸前、今起きた三人はまた気を失った。
「あはははははははは!! 何!? ミキまたそんな格好してるの? 案外ホントに趣味?」
「……朱美か」
「にひひ。正解」
「僕も居るよ」
 現れたのは朱美と蔵人。
「どうでもいいが朱美。お前はどこぞの連続殺人犯か?」
 行くところ行くところ人が倒れる。
「ふふふふ。二代目13の人の座は頂いた!!」
 こいつ……反省してない。
「それより和音ちゃんがさらわれちゃってるよ」
 蔵人が話を本題に乗せる。
「あ゛」
「こっちの三人組はあたしらが後始末してあげるから、むこうの方捕まえにいってきなさい」
「美樹、がんばって」
「おう、解った」
 俺は逃げた残り二人を追って、走り出した。
「ねぇ、美樹にあの二人の能力教えなくてよかったの?」
「『透視』のほうは障害になるわけないし。あと一人は……まぁ美樹なら大丈夫だとは思うけど……」
「まったく。心配なのは解るけど、生徒会の総司令が現場に来てどうするの?」
「まぁ、仕方なく、よ」


 階段の踊り場でなにやら騒がしい声が聞こえる。
 とりあえず俺は蔵人からもらった「野獣の鏡ディズ○ー仕様」で覗いてみることにする。
 すると和音が二人と、さっきの女の子のひとりが話していた。
 ……ん? 和音が二人?
『何? 何なんですか?』
 和音その1がうろたえる。
『あら? あなたもしかして普通科だった? ヤバ……』
 和音その2がそんなことをのたまいやがりました。はい。その2偽者決定。
 そいつは得意げに「ゴールド」の説明を始めた。……何でこう特進科の連中は説明が好きなのかね?
 まさか離れたところから見てるとは思わないらしい。堂々としている偽者。……しかし「全身変化」ができるのは、この学校で俺だけだと思ったんだが……
「……で、私の能力っていうのは相手と同じ姿になれる『複写』ってやつなの」
 ご丁寧に説明までしてくれた。……なるほど、「複写」程度なら結構居たはずだ。
 「複写」というのは見た映像を体に貼り付ける、つまり体を変えるのではなく、あくまでも映像なのだ。
「あなたが普通科ならちょうどいいわ。答案はもらえなかったけど、このまま逃げてやる」
 逃げられてはまずい。俺は颯爽と飛び出した。そんな俺を見て、二人の和音が声を上げた。
「きゃ〜! たすけて〜!! この人たちが!!」
「きゃ〜! たすけて〜!! 変態が居る〜!!」

 ……あ、そういえば俺って今やばい格好だった。
 仕方がないから恥ずかしさをこらえて、偽者を捕まえることにする。
「あー俺が言うのもなんだが、そっちの方……」
 俺は、俺に「助けて」といったほうの和音に向かって話しかけた。「……こんな格好をした男に助けを求めるのはどうかと思うぞ?」
「あ」
「成績はよくなさそうだな。まぁそうじゃなきゃこんなところに居ないか」
「いや、こないで! 変態!! あぁ……」
 ひとしきり叫んで気絶する和音(偽者)。俺に助けを求めるふりをしたのはどこのどなたですか?
 見ると和音(本物)ともう一人の女の子の方も気絶してる。……新手のいじめ? 俺って見るだけで気絶するほど気持ち悪いの?
「おつかれさん。あっちの三人は大丈夫だよ」
 そこに現れたのは、やっぱり朱美。
「やっぱりお前か!!」
「いやいや。あたしはまだ何もやってないわよ」
「嘘付け!! って言うか俺がここに居る意味まったくないぞ?」
「いやいや、これでピチピチ女子制服男=試験前の幽霊っていううわさが校内に……」
「ふざけんな!!」
「ああ、ちなみにそこの和音ちゃんから、ゴールドのことは消しておいてあげるから安心してね」
「俺のことを消せ! ピチピチ女装男の記憶を消せっ!!」
「駄目よ、大事な証人なんだから。ほら、この子達はあたしに任せて、ほかの相手をしてきて」
 ……こいつには何を言っても無駄だ。
「約束通り、ピチピチ女子制服男のうわさは消えて、ピチピチ女装幽霊のうわさが……」

「そんなん詐欺だっ!!」



 結局その日は徹夜で解答を守った。
 ……で、次の日は期末テスト。
 前の日の夜は徹夜だったため、何度も眠りそうになりながらも、どうにかテストを終わらせた。
「あ〜、やっと終わった」
 和音が話しかけてきた。「まったく……一日で全教科って、この学校何考えてんの!?」
「そう思うんなら、前日に肝試しとかやっちゃ駄目だよ」
「うっ」
 言葉に詰まる和音。
「なになに?」
「何の話?」
「面白い話?」
 二人で話をしていると、いつもの三人組も集まってきた。
「昨日の肝試しの話だよ」
「「「え?」」」
 声を合わせて絶句する(?)三人組。
「あれ? 何かあったの?」
 朱美の能力で、俺が居た記憶は消されている。ピチピチ女装幽霊の他は……あ、いまトラウマに触れた……
「まさかホントになんか出たの?」
 涙をこらえて、しれっとそんなことを言ってみる。
「それがね、出たのよ、幽霊」
「しかもピチピチの女の子の服を着た男の幽霊」
「変態よ! 変態!!」
 三人とも熱心に語ってくれる。あははははは……解ってたことだけど、もう笑うしかない……
 そう、これで「ピチピチ女装幽霊」は、この先ずっと学校の伝統として語り継がれるだろう。
 なんて思っていたら、和音が、
「……私なんか二回目よ。アレに会うの」

 一回目覚えてるじゃねぇか!! きちんと仕事しろよ生徒会長!!

「あれは忘れもしない、夜の帰り道……」

 その話はやめてぇぇぇぇぇっ!!

 ちなみに特進のテストは免除されたが、眠気まなこで受けた普通科の試験は、見事赤点追試。
 あああっ、ミキのイメージがっ……せっかく頭だけは良いっていうイメージを作ってきたのに、全部水の泡。
 タダでさえドンくさいとか思われてるのに、「馬鹿」までつくのはいやだ!
 和音に生暖かい目で見つめられながら、頭をなでなでされた。……なぜか無性に悲しくなった。
 とにかく今は、追試の解答を手にいれる方法を考えなければ……




事実イコール真実じゃない。

昔誰かが言ってたけれど、

ウソとホントのそのあいだ、

真と偽りそのあいだ、

一体どこにあるのかな?

今日のおはなし、ここでフィナーレ。

ここから先はまた今度。

果たして次はどんなお話?

喜怒哀楽に過去未来。

遠く近くにいつもある。

そんなおはなし用意して

またの来場、お待ちします。






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