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俺は、西原 裕二(にしはら なおき)。
名前からして分かるように、俺は男だ。 いや・・・・男だった。

父親が勤務する大手金属会社の下請けである、機械加工工場で働いていたが、
4年目に感電事故を起してしまい、俺は入院した。
だが、俺が入院している間に、俺は解雇されてしまった事を母親から告げられた。
その後、母親の紹介で知人が運営しているという、訪問介護ステーションで、
障害児を受け入れ、世話や介護をするデイサービス部のヘルパーとして働く事になった。

そんなある日、デイサービスのホームへと続く道で、変な店を見つけた俺は、
なんとなく興味が湧いたので、その店に入ったのだが、コレまた変な薬を買ってしまったのだ。
本当なら、「除草剤」が欲しかったのに、その店で買った薬は、「除草剤」ではなく、「女装剤」であり、
男を女に変身させるという不思議な薬だったってわけだ。
その店のおばあさんから聞いた話では、「効き目が現れたら、使う必要はない」と言う。

と、言う事は・・・・

俺はもう二度と、男には戻れないって事なのだろうか?




女装剤2
「性の封印と覚醒」
作:逆流人(ぎゃくると)



バサッ!

裕二:
「冗談じゃないっ!」



俺は、今もしぶとく生えている草を蹴り散らした。



裕二:
「こんな草なんかのために、変な物を買う羽目になり俺は・・・・
21年間、男として生きてきたのに、いきなり女にされてしまって、
これからどうやって生きて行けばいいんだ?」



俺は、除草剤で枯らすはずだった草を恨めしい目で睨みながら、昨日の自分を恨んだ。
もし、あの時あの薬を飲まなければ、俺は今頃気持ちよく家に帰っていたはずなのに・・・・
いやでも、今更どうにもならない事。 それは分かってる。
もし、飲んだ女装剤の効き目を無くそうというのなら、
あの店に、もう一度行って、「女装剤の効き目を無くす薬?」なる物を手に入れるしかない。
でも、あの店のおばあさんが言っていた事。

「次に店を開くのは12年後だね・・・・」

その言葉を思い出した裕二は、ガックリと凹んだ。
男に戻るために今思いつく方法と言えば、もう一度あの店「魔導具店」に行くしかなかったからだ。
と言う事は、12年後の同じ日でなければ、「魔導具店」は現れないわけだから、
その日を忘れずに、12年間も待ち続けなければならないのか?

裕二はますます、自ら崖に身を投じる思いにまで凹みまくった。。。。

しかし、12年に一度しか開かない店って・・・・
あの店のおばあさんって、いったい何者なんだ?

それよりも、あのおばあさんの容姿・・・・
腰はグンと曲がっていて顔はシワクチャだし、俺の祖母なんかよりも年老いて見えるし、
俺の勝手な偏見からだが、90歳くらい?に思った。
次に店を開くという12年後も、はたして元気で居るのだろうか?

でもなぜか不思議なのだが、あのおばあさんは、この先100年後だって、
何も変わらずに平気で生きていそうな、怪しげな雰囲気を醸し出していた。
俺なんかよりも、ずっと身体は小さくひ弱で、チョット押しただけで倒れて足でも骨折してしまうのでは?
と思うほど頼りなく見えるのに、下手に触ろうものなら、とんでもないしっぺ返しが来るような威厳さを感じていた。

俺の身体を男から女に変えてしまう薬を売っているのだし、
店とともに、音も振動も無く消えてしまうような人なのだから、
普通の人間だなんて思えない。

・・・・だからと言って、そんな事が今の世に起こるなんて信じられない。
でも俺の身体が女になってしまったのは、夢などではなく現実である。
あの店があの場所に存在したのも、あのおばあさんと話した事も、
自分が確かに体験した事だと実感として残っている。
そして何より、俺が持っている「JOSO-ZAI」と書かれた小瓶が今もこの手にある事が、
自分に起きた事柄の、何よりもの証拠として残っている。



バンッ!

裕二:
「くそっ! こんな変な薬のせいで・・・・」



俺は、自分に起きた訳の分からない事柄にムシャクシャしていた。
自分の自転車を思い切り蹴飛ばし、手に持つ小瓶を投げ捨てようとした。



裕二:
「だぁあぁあぁ===! いったい何なんだコレわぁ!? 頼むから夢なら早く覚めてくれぇ!!
あぁ〜〜〜もぉ〜〜〜何が何だかサッパリだし、これ以上何も考えられない!! ちっきしょぉ====!
・・・・・・・・はぁ。 何をやってんだ俺? こんな事をしたって何も変わらないのに。」



俺は、自転車も小瓶も何もかも投げ捨てて、目に入るものを全て壊してやりたい気分だったが、
そんな事をしたって無駄だと自分に言い聞かせて、
俺は大きなため息をつき、小瓶をポケットの中へ仕舞い、家に向かって自転車をこぐ。

そして家に着き、俺は近所の人が居ないか確認してから、自転車を家の玄関の横へ停めた。
キッチンの窓が少し開いていて、母親が包丁でまな板を叩く音が聞こえてくる。
風呂場がある方からは、ジャバァ〜っと水の音が聞こえる。 親父がもう仕事を終えて帰り、風呂に入ってるようだ。
姉貴の車が無いところを見ると、姉貴はまだ仕事から帰って来ていないようだ。

親父は、名前は”西原 一美(にしはら かずみ)”という。
今年45歳になるサラリーマンで、俺が以前働いていた機械加工工場を下請けにもつ大手金属会社に勤めている。
いつも3交代制で、朝7時から出掛け、夕方5時前には家に帰って来るので、一番先に風呂に入っている。
身長は、日本人男性の平均よりも低く、165cm程度。
もし親父が長身だったら、俺ももう少しは背が伸びたかも知れない。

姉は、俺よりも2つ上で、名前は”西原 夏海(にしはら なつみ)”という。
俺なんかよりもヤンチャな奴だった姉は、OLなどの女性らしい職場には就かず、
今じゃ女性だけの配管工として働いている。
この方が稼ぎも良いし、今じゃ女性の配管工や建築機械のオペレーターも珍しくないと言う。
女性のダンプや運送トラックのウンちゃん(運転手)って、今じゃ当たり前だしカッコいいと思う。

だが、ウチの姉貴は違う。 そんな良いもんじゃない! とにかくヤンチャ娘なのだ。
中学へ上がりたての頃、俺が友達と体育の時間に体育館へ向かったとき、
姉が授業をサボって、体育館の裏でタバコを吸っているところを見つけたときは、恥ずかしい思いをしたものだ。
なにしろ男子からも恐れられるほどヤンチャな姉だった。



裕二:
《母さんは、今キッチンに居る!》
《父親も帰ってるみたいだ。 今は風呂場か・・・・》
《姉のバカもまだ帰っていないようだし、家に入るなら今しかないな・・・・》
《よしっ! このまま自分の部屋に行けば、この姿を見られないで済む。》



俺は、あたりをキョロキョロと見渡し、
ササッと家の中に入って、玄関の戸を閉めた。
いつもなら玄関を開けたら、
「ただいまー!」
と声をかけるのだが・・・・



カチャ・・・・バタン!
ガサゴソ・・・・タンタンタンタン・・・・



俺は、玄関の扉を閉めると同時に靴を脱ぎ捨て、そのまま急いで二階への階段を駆け上った。
そして、自分の部屋のドアを開けたとき、一階から母親(伸江)の声がしたので、俺は思わず立ち止まった。



伸江:
「あれ? 帰ったのかしら? 裕二ー! 帰ったのぉ?」

裕二:
「!・・・・」

伸江:
「もうすぐご飯だからねー!」

裕二:
「・・・・」

バタン!

伸江:
「うん?・・・・どうしたのかしら?」



俺は、母親の呼びかけには答えず、家族の誰とも顔を会わせずに自室へこもった。
そして、ベッドの布団の中に潜り込んで、これからどうしたものかと考えていた。
もしこんな姿を、家族に見られたりでもしたら、みんなどう思うだろう?・・・・

「変な薬を飲んでしまって、女になってしまった〜」

・・・・なんて説明しても、絶対に誰にも信じてもらえない!
でも職場の人達に「俺は、西原 裕二だ!」と名乗ってしまっているから、家族の者にバレるのも時間の問題かも。
・・・・って言っても、俺が西原 裕二 本人だと、本当に信じてくれているのかは分からないけど。
それより、今のこんな身体で、今の職場で居られるのだろうか?
たったの2週間で今の職場を辞めなきゃいけなくなるかも。

そんな事より、家族にバレる前に何とかしたい。
もしバレたら?・・・・俺が裕二だと信じてくれるだろうか?
そればかりか、家から追い出されるかも知れない。
「早く、自分のお家へ帰りなさぁ〜い!」
なんて言われても、他に行く場所も無いし・・・・
ぁあぁあぁ〜〜〜!! どうしよぉ〜〜!!!

裕二は、ベッドの布団に潜り込んだまま、デキの悪い頭をフル回転させていた。
でも、有効な解決法なんて思いつかなかった。
すると、裕二の母親が、裕二の部屋の前までやってきた。
ご飯が出来たからと、俺を呼びに来たんだろう。
あぅ〜〜! マズイ! ココは何としても突破しなければ!・・・・



コンコン!

裕二:
「はっ!・・・・な、なに?」

伸江:
「もう、ご飯の用意ができたわよ!」

裕二:
「あ、あぁ〜うん、今日はもういい。 このまま寝る!」

伸江:
「食べないの? せっかく作ったのにぃ〜! どこか身体の調子でも悪いの?」

裕二:
「別に何でもないよっ!」

伸江:
「ふぅん・・・・そぉ? じゃぁ、先にお風呂に入っちゃいなさい! もう、お父さんもお風呂から出たからぁ〜
夏海が帰って来る前に入らないと、またナンダカンダと文句を言われるわよ!」

裕二:
「・・・・



まずい! 恐怖の姉の存在を忘れていた!
母親が言う姉の夏海は、女になってしまった俺に良く似ていると思う。
身長は、女になった今の俺より少し高いくらいで162cm。
俺から見ても姉は、スタイルは申し分なしで、まぁ、美人な方だとはと思う・・・・
だが、この家族の中で俺が一番恐れている人物でもある。

小学校の頃なんか、チビでよくイジメられていた俺を助けてくれたっけ。
あの頃の姉は、俺にとってとても頼りになる「姉ちゃん」だったが、
今はと言えば、「とっとと嫁に行って、この家から出て行け!」
と言いたいくらい、ハッキリ言って邪魔な存在である。
しかし、あんな跳ねっ返りの性格で、嫁の貰い手があるのだろうか?・・・・という疑問もあるが。

とにかくガサツで、チョットの事でもすぐに怒るし、昔はよく泣かされたもんだ。・・・・今もそうだけど。
特に俺に対してよく突っかかってくるし、貸した金は返さないし、
今、姉が乗っている車の頭金だって、俺に無理やり出させたんだ。 中古車だったけど・・・・

「アンタが免許をとったとき、どうせこの車を乗ることになるんだから、お金を返せなんて言わないでよね!」

だってさ・・・・

俺が免許を取得した暁には、自分が今乗っている車、「ニッ○ンのマ○チ」を、俺に買わせるつもりらしい。
そして自分は、俺に売った車の金を頭金にし、今乗りたいと言っている、
「フォルクス○ーゲンのポ○」にでも乗り換える気なんだろう。
一見、国産車と外車という違いだけで、それほど車の形そのものは変わらないように思うが・・・・
まぁ、あまり車に興味が無い俺にとって、車の車種なんてどうでもいいことだけど、
やっぱり自分が乗る車くらいは、自分で決めたかった。

「初心者は、最初からいい車なんて乗らない方がいいのよ! 安く車が手に入るのだから感謝しなさい!」

なんて事もほざきやがった。
だが今じゃ、姉が乗るその車も哀れな姿だ。

前後のバンパーやフェンダーは傷だらけ。
豪快に凹んでいない事だけは幸いである。
ナンバー灯は切れていて点かない。

修理した方が、いいんじゃないのか?

シートはタバコの火を落として穴があいていて、缶コーヒーをこぼした跡で汚い。
後ろのハッチを開けると、UFOキャッチャーで取ったらしい色褪せた縫いぐるみ達が散乱してる。
後部座席には、いったい何処から持ち込んだのか、『!』マークの”その他の危険標識”が積みっぱなし。

なんだこりゃ? 掃除しろよ!

カーステレオは、夜の運転中に灰皿と間違えて、火のついたタバコをねじ込んでしまったとかで壊れている。
ルームミラーは、俺が同乗したとき姉と喧嘩して、姉が自分で叩き落としてしまって無くなってる。
エアコンなんて、クーラーガスが抜け切っていて、音だけが煩いだけで全く効かない。
ファンベルトは磨り減っていて、ヒュンヒュン鳴いている。
エンジンオイルなんて、いつ入れ替えたか分かったもんじゃない。

おぉ・・・・なんと哀れな。
姉貴よ、アンタいつか事故るぞ・・・・

姉自身がたまに面倒を見る事と言えば、ウオッシャータンクに水を補充するくらいだ。
しかし、こんなポンコツを実の弟に売りつけようなんて、なんて奴だ!?
時々俺が同乗すると、3回に1回はガソリン代をせびるからイヤだ!
・・・・とまぁ、こんな姉である。

姉は、いつも俺のする事なす事を勝手に決めるんだ。
それを嫌がり反抗するようになった俺が、自分の思い通りにならないもんだから、
今は特に煩い! あぁ〜もぉ〜煩い!! とにかく煩い!!!
言うことをきかなかったら、拳骨で頭を殴られるから困ったもんだ。
俺も、いつまでも黙って殴られているわけではない。
男だったときは、俺の方が背が高かったから、拳骨を交わすなんて容易い事だったが、
今は俺よりも姉の方が背が高いから、上から振り下ろされる拳骨を交わせないかも?

そうだった・・・・
姉が帰って来て、俺がまだ風呂に入っていない事を知ったら、何て言うだろう?

「いつも最後に入る私が、お風呂を洗うって決まってるんだから、さっさと入っちゃってよね!」

・・・・ってまた怒るんだろうな。
先ず最初に、親父が一番風呂に入る。 そして次に俺が入り、その次が姉というわけだ。
母親は、いつも夜中にシャワーだけで済ませている。 なぜか水のシャワーである。
なぜ母親は、温かい風呂には入らず、水のシャワーだけなのだろうか? しかも夜中である。
俺が物心ついた頃からも、ずっと繰り返してきていた事なのに、俺は未だにその訳を知らない。
しかしそんな事をして、よく風邪をひかないものだ・・・・
でも、今はそんな心配なんてどうでもいい。



裕二:
「ぇえっ!?・・・・ふっ、風呂ぉ!? そそっ・・・・そんなの入れるわけないだろぉ!!」

伸江:
「はぁ?・・・・何言ってるの?」

裕二:
「あっ!・・・・いや・・・・その・・・・何でもないよっ!」

伸江:
「ふぅ〜ん?」



俺は、もっと自分にとって通過する事の困難な事柄にブチ当たってしまった。

風呂・・・・だと? 風呂に入るには、当然裸にならなければならない。
そうなれば、嫌でも自分の裸を見ることになる。 女になった自分の裸を・・・・
正直なところチョット興味もあったが、この年まで女性と付き合った事も無いのに、
Hな雑誌などでしか女の裸なんて見た事のない俺にとって、たとえ自分の身体とはいえ、
女の裸を生で見てしまおうなら、ザ★必殺昇天鼻血ブーってもんだ。(?)
小さい頃、姉と一緒に風呂に入ってた事は別として・・・・
そんな事を考えながら、自分の裸を想像してドキドキしてしまった。
何考えてんだ俺・・・・

すると、裕二の様子がいつもと違う事に気付いた母親は・・・・



伸江:
「・・・・アンタ、何か隠してんでしょう? まさか、やましい事でも?」

裕二:
「そん・・・・そんなんじゃないよっ!」

伸江:
「あっそぉ? じゃぁ、入るわね。」

裕二:
「ぇえっ!! ダメだっ! 入ってくるなっ! もう、寝るんだから!!」

ガチャ!・・・・



母親は、そう言う裕二を無視して、部屋に入ってきた。
掛け布団に身を包ませて、部屋から出ようとしない裕二を見て、
絶対何かを隠しているな・・・・と確信する。



裕二:
「・・・・

伸江:
「・・・・」



布団の隙間から外を覗くと、母親は腰に手をあて俺を睨む。
そして近づき、影になって母親の姿が見えなくなったそのとき!



ガバッ!

裕二:
「わっ!・・・・な・・・・なん・・・・

伸江:
「!?・・・・」



母親は、俺が被っていた掛け布団を勢いよく引き剥がした。
あぁ・・・・とうとう母親にまで見られてしまった。
俺は、何をどう言って良いのか分からず、猫のように丸くなって、ただ母親の顔を見上げるだけだった。
母親は、掛け布団を片手で掴みながら、俺の顔から身体全体を調べるようにジィ〜っと見ている。
そしてしばしの間、互いに何も言わずに睨み合っていたが・・・・



伸江:
「・・・・何したの? その格好・・・・」

裕二:
「何したって・・・・俺・・・・」

伸江:
「・・・・なるほど。 そう言う事なのね。」

裕二:
「はぁ?」



母親は、俺の身に起きた事を理解したかの様に呟いた。
そして、俺を指差しこう言った。



伸江:
「魔導具のような物は、何も身に着けていないところを見ると・・・・ふんっ! 裕二、アンタ何か変な薬を飲んだでしょう?」

裕二:
「ぇえっ!? なっ・・・・なん・・・・なん・・・・なんで分かるんだ?」

伸江:
「分かるのよ! アンタが飲んだのは、魔女が作った薬よ!」

裕二:
「んまっ・・・・魔女!?」



んななななななにぃ〜〜〜〜!! 魔女が作った薬だってぇ!?
それに、まだ何も言ってないのに何で分かるんだ?
じゃぁ、あの店のおばあさんって、魔法使い?
母親は、更に続けて話す。



伸江:
「アンタのその額、魔法の薬を飲んだって証拠よ!」

裕二:
「ひたいって?・・・・」



母親は、掴んでいた掛け布団を俺の足元に投げ、俺の額を指差してそう言った。
俺の額に何があるんだ?
そんなの気付かなかったけど・・・・



伸江:
「自分で鏡を見てみなさい!」

裕二:
「・・・・」



裕二は、のそのそとベッドから降り、机に置いてある置き鏡を手に持ち覗き込んだ。
母親は、腰に手を当てながら、裕二を呆れた表情で目で追う。



裕二:
「!?・・・・なんだコレ?」

伸江:
「ソレ、魔女達が使う魔法記号の、魔女の印であるペンタクルを意味するものよ。 アンタが魔女の薬を飲んだって証拠っ!」

裕二:
「なんだってぇ!?」



俺の額に浮き出ている記号は、丸い円の中に五茫星”☆”が描かれたものだった。
いつの間にこんなものが・・・・?
職場の洗面台の鏡で見たときは、まだこんなもの出ていなかったのに・・・・



裕二:
「なんだコリャ!? 魔法記号とか、ペン何とかって、ソレって何?」

伸江:
「魔女のなかにはね、儀式的な方法で魔法をかける者も居るんだけど、
そんな魔女達が魔法をかけるときに使う、魔導具の一つなのよ。
例えば、魔法の杖”ワンド”なんかも魔導具の一種ってわけね。」

裕二:
「あん・・・・? 魔法だとか儀式だとか訳が分からないけど・・・・
それより、なんで母さんがそんな事知ってるんだよ?」

伸江:
「ふふふ♪ そうね! アンタが魔法に関わってしまったのだから、そろそろ話しておいても良さそうね。」

裕二:
「・・・・なんの事だ?」

伸江:
「だって、お母さんは魔女だもん♪」

裕二:
「はぁあぁあぁ〜〜〜〜!?」



母親が、いきなり変な事を言うものだから、思わず俺はぶっ飛んだ。
今の俺ってば、思い切りマヌケな顔をしていたと思う。
でも母親は、そんな事になど構う事なく・・・・



伸江:
「じゃぁ、見ていなさい。」

裕二:
「へっ?・・・・」






母親は、目を瞑って力むような仕草をする。
すると、母親の額に赤い五芒星の記号が浮き出てきた。

なんじゃそりゃぁ〜〜〜!!??
母さんが魔女!?
いきなり何を言い出すんだこの人は?
そんな話し、今の今まで聞いたことも無かったし、
唐突に魔女だと言われても、「はいそうですか」ってなるはずもない。

でも、思い当たる事はある!

昔まだ俺が小学2年の頃、家の近くの国道で車に跳ねられそうになった俺と姉を抱えて、
一瞬景色がブアッと流れたかと思ったら、20m以上離れた畑の中に、
俺達3人が瞬間的に移動していた事もあったっけ。
当時は周囲の人達に、”火事場のバカちから”だと片付けられてしまったけど・・・・
あれは、母さんが魔法を使ったのかも知れない!

もっと最近では、親父が出張で北海道へ行ったとき、大事な書類を忘れたと親父から電話があり、
その時母さんが、ほんの数分姿を消した事があった。
そして母さんを家のリビングで見つけたとき、なんだか妙にグッタリしていたっけなぁ。
そのすぐ後に親父からの電話があって、電話に出た俺に、
「母さんに、書類ありがとう、助かったよと伝えてくれ!」
なんて言ってたけど、その時俺には何の事だか理解できなかった。
でも、今思えば、母さんが魔法で北海道まで瞬間移動して、親父に書類を届けていたのかも?
だとすれば、母さんは本物の魔女なのか!?

俺は、腕を胸の下で組みながら、得意気に俺を見下ろす母親を見てそう思った。
・・・・はっ! そうだ!!
じゃぁ、母さんが魔女と言うのならば、女になった俺を元に戻せるかも知れない!
そう思った俺は、母親に聞いてみた。



裕二:
「ま、魔女って・・・・じゃ、じゃぁ母さんなら、俺を元に戻せるのか?」

伸江:
「・・・・それは無理よ。」

裕二:
「えっ!?・・・・なんで? だって、母さんは魔女なんだろう? って、俄かには信じられないけど。」

伸江:
「魔女って言っても、世界中に沢山居るのよ。
それに、魔女達みんなが同じ魔導具、同じ呪文を使って魔法を発動させるってものじゃないし、
占いなどしかできない魔女も居れば、なかには呪文や魔導具なんて使わなくても、
頭の中でイメージしただけで魔法を発動させられるような凄い魔女も居るのよ。
だいいち、アンタが飲んだ薬を作った魔女が誰なのか、何からどうやって作った薬なのか分からないいじょう、
お母さんには、手の施しようがないわ。」

裕二:
「そんな・・・・」



一瞬、見えかけた希望の明かりが、かき消された気分だった。
あ、いやでも待てよ!?
俺が薬を買った店の話しをすれば、何か分かるかも?
今も持っている、薬の瓶を見せれば何か手掛かりがつかめるかも知れない。
そう思った俺は、俺が飲んだであろう薬の空き瓶を、母親に見せた。



裕二:
「あっ! そうだ、コレを見てくれよ。」

伸江:
「なぁに、ソレ?」

裕二:
「コレ昨日の朝、仕事に行く途中で見つけた店で買ったんだ。
「除草剤」をくれって言ったら、店のおばあさんがコレを出してきたんだよ。
でもその後で、店もおばあさんも消えちゃったけど・・・・その後、誤って飲んでしまって・・・・
・・・・・いや、正確には”飲まされてしまった・・・”って言うべきかな?」

伸江:
「じょそうざい!? アンタそれ毒よ! 女性に対して敵対する男を戒めるための薬なのよ!
なんでそんな物を飲んだりしたの!!」



毒だってぇ!?
でも、あの時おばあさんは、そんな風な事は言わなかったけど・・・・



裕二:
「毒ぅ!? で、でも・・・・俺は毒って分かってて、自分から飲んだわけじゃないんだぁ!
って言うか、飲まなきゃいけない状況へ追い込まれてしまったって言うか・・・・

伸江:
「・・・・はぁ?」

裕二:
「まぁ、聞いてくれよ。 昨日、デイサービスのホームの周りの草刈をしたんだけど・・・・」



裕二は、昨日あった出来事を母親に話した。
すると母親は・・・・



伸江:
「なるほど・・・・そういう事だったの。
でも、正直言いにくいけど、アンタはもう二度と男には戻れないわよ!(キッパリ)」

裕二:
「がぁ〜〜ん!!・・・・ 母さんなら、なんとかできると思ったのに・・・・



また崖っぷちから突き落とされてしまった・・・・
俺の手から、置き鏡が机の上にカチャンと音を立てて滑り落ちる。
そして椅子に腰掛け、机に顔を伏せた。
すると母親は、何かを思い出したかのように胸の前で両手をパン!と合わせ、こんな事を言ってきた。



伸江:
「あっ、そうだっ! 一つだけ方法があるわ!」

裕二:
「ぉおっ!!」



裕二は目を輝かせて、ガバッと立ち上がって振り返る。



伸江:
「裕二! アンタ去年の夏に、機械加工工場の慰安旅行の旅先で買ってきたって言う、
”数珠”があったでしょう? ソレを出しなさい。」

裕二:
「んぁ? そんな物何に使うんだよぉ? そんな事より・・・・」

伸江:
「いいから、早く出しなさい!」

裕二:
「!・・・・はぁ〜何だってんだよぉ〜?」



裕二は、母親に言われるまま、機械加工工場の慰安旅行で買ってきた数珠を、机の引き出しから取り出し、
そして母親に手渡した。
いったい、そんな物を何に使うんだ?



伸江:
「コレがそうなのね? うん! シッカリした作りね。 これなら封印魔法の魔力に耐えられるかも?」

裕二:
「はぁ?・・・・封印魔法? 魔力ぅ?」

伸江:
「いい? 見てなさい。」
ブツブツブツ・・・・

裕二:
「・・・・?」



母親は、裕二から受け取った数珠を左手に持って、右手の人差し指で宙にクルクルと何かを描きながら、
何か呪文のような言葉をブツブツと唱えはじめた。
すると、母親の右手の人差し指が青白く光り、宙に描いた何かは五茫星だと分かった。
宙に青白く光り輝く五茫星は、母親が呪文を唱え続けると同時に、一層明るく輝きだす。



裕二:
「すっ・・・・すげぇ!」

伸江:
「静かに! 気が散るでしょ!!」

裕二:
「!!・・・・」



裕二は、手を口に当てて母親のする事を見詰めていた。
そして・・・・



伸江:
エコ・エコ・アザラク、エコ・エコ・ザメラク、エコ・エコ・ケルヌンノス、エコ・エコ・アラディア・・・・
我今、地・水・火・風の四大元素の精と、昼と夜の精に願い賜る!
汝の力を、我が今行うこの術に貸し、この数珠に、
性を封印し男に変身する力を与えたまえ!


裕二:
「!?・・・・」

伸江:
さぁ、魔法はかけられたり!
大地と海との全ての力と、月と太陽の全ての威力で、
我のこの願い、今ここで速やかに現実に叶えたまえ!
呪文を唱えよう、効き目は絶大!・・・・
エコ・エコ・アザラク、エコ・エコ・ザメラク、エコ・エコ・ケルヌンノス、エコ・エコ・アラディア・・・・


裕二:
「ゴクッ・・・・」



裕二は唾を飲み、ただ母親が行う魔法?に見入っていた。
それからいよいよというとき、母親は最後の呪文を唱えた!
そして・・・・



伸江:
あぁ〜ぶくたったぁ〜煮えたったぁ〜!! 煮えたかどぉ〜だか、食べてみよぉ〜!!

裕二:
ガクッ!・・・・



俺は、母親が最後に唱えた呪文を聞いて、思わずズッコケた。
だって、わらべ歌か何かで聞いたような言葉だったから・・・・ってそのまんまか?

だが、その呪文を唱え終えたと同時に、母親の周りに一瞬強い風が吹き荒れた。
母親の右手の人差し指が眩しいほどに光り輝き、宙に描かれた青白く光り輝く五茫星が数珠の中に溶け込む。
数珠はパンパンと花火のような火花を散らしていて、俺は思わず目を両手で伏せた。
そしてゆっくりと目を開けると、ニッコリと笑い数珠を差し出す母親が目に入った。



伸江:
「はい! コレを着けてなさい。」

裕二:
「!?・・・・コレは?」

伸江:
「性を封印し、男に変身する魔導具よ!」

裕二:
「マジっ!? じゃ、じゃぁ俺は男に戻れるのか!?」

伸江:
「そうよ! どぉ? お母さんって凄いでしょう〜♪」

裕二:
「はは・・・・そう・・・・だね



満面の笑顔で俺に数珠を差し出す母親は、思い切り得意気で、
「私には出来ない事など無いのよ!」と、言いたげな様子。
実の母親が魔女だろうが何だろうが、そんな事など今はどうでもいい!
この数珠さえ使えば、俺は男に戻れるんだ!

俺は母親の手から奪うように数珠を掴み取った。
そして・・・・



伸江:
「でも、注意してね! 今のアンタは、魔法の薬の力で男と女の両方の性質を持っているの。
だから、生まれた時から女だった者には、効果が無い代物ってわけね。
その数珠には、性を封印する魔法をかけてあるから、
アンタがその数珠を着ける事により、アンタの男か女のどちらかの性を封印してしまうって事なのよ。」

裕二:
「へぇ〜イマイチ良く分かんないけど・・・・」

伸江:
「でも本来数珠というものは、男なら左腕に、女は右腕に着けるものなんだけど、
今回の場合は、その逆に着けなければ・・・・ あっ! チョット待ちなさいっ!!」

裕二:
「えっ? なに?」

シパァ〜〜〜!

裕二:
「わっ!?・・・・」

伸江:
「ぁあ〜〜!!」



俺は、男に戻れる事が嬉しくて、母親の説明を最後まで聞かずに、左腕に数珠を着けてしまった。
その瞬間、俺の身体は眩しく光り輝き、部屋中が明るくなった。
でもその光はすぐに消え、元の静かな部屋へと戻った。
そして、俺の身体も以前の様に、男の姿に戻っていた。
魔法だからなのか良く出来ているもので、着ている服のサイズも今の俺の体のサイズになっている。



裕二:
「おっ!?・・・・ぉお〜〜〜っ!! 戻ってる!! 俺の身体が男に戻ってるぞっ!
・・・・アレも付いてる!! やったぁ〜〜!!!
母さん、ありがとう! ホント母さんってスゲェーよぉ!! ひゃっほぉ〜〜〜!!」

伸江:
「・・・・



俺は、飛び上がらんばかりの勢いで喜びの悲鳴を上げた。
でも母親の表情は青ざめていた。
両腕を下にダラ〜ンと下げ、膝を少し曲げて中腰になり、みっともないほど大きく口を開き、
目を点にして、ただ一点を見詰めて何も言えないでいる。



裕二:
「よっしゃぁ〜〜!やっと 俺は、男に戻ったんだぁ〜!! いえぇ―――――い!!」

伸江:
「あの・・・・裕二?」

裕二:
「うん? なに、母さん?」

伸江:
「さっき私が言った事を覚えてる?」

裕二:
「えっ? 男は左腕に数珠を着けるんだろ?」

伸江:
「はぁぁ・・・・・・んもぉ―――――ばかぁ===!!」

裕二:
「わっ!?・・・・な、なに?」



母親は、両方のこめかみに指を当て、苦難の表情を浮かべていた。
そして、裕二の左腕に着けた数珠を指差し、こう言った。



伸江:
「アンタが数珠を着けた腕よっ!!」

裕二:
「あん? この数珠がなに? チャンと男に戻ったじゃないか! 何か問題でもあるのか?」

伸江:
「大有りよぉ!!」

裕二:
「なにぃ!? なんだってんだよぉ?」

伸江:
「本来、数珠っていうものはねぇ、男は左腕に、女は右腕に着けるものなんだけど、
最後まで説明を聞きもしないで、アンタってばもぉ〜〜〜」

裕二:
「なんだよぉ? それなら合ってるじゃないか! 男なら左腕に着けるって言うんだろう?
俺は左腕に数珠を着けてるぞ! それにチャンと男に戻れたんだから、コレで正解なんだろぉ?」

伸江:
「大間違いよぉ!!」

裕二:
「はぁ〜? なんでぇ!?」

伸江:
「じゃぁ、その数珠を外してみなさい。」

裕二:
「えっ? でも、女を封印したんだから、男のまんまじゃ・・・・?」

伸江:
「いいからっ!」

裕二:
「!・・・・」



俺は、母親に言われるまま、左腕から数珠を外した。
それと同時に、また俺の身体は光り輝き、光が消えると俺の身体は男から女へと変わっていた。
なんで? 女を封印したはずなのに・・・・



裕二:
「ぇえっ? なんで? なんで女に成ってるんだぁ!?」

伸江:
「だから言ったのに・・・・バカね

裕二:
「ちょ、チョット母さん! コレはいったいどう言う事だよぉ!?」

伸江:
「そりゃ確かに、その数珠には”男に変身する魔法”もかけてあるから外見は男にはなれるけど、
根本的には、性を封印する魔法をかけてあるから、男である左腕にその数珠を着けたアンタは、
男そのものを封印してしまったってわけなのっ!」

裕二:
「なっ・・・・うっ・・・・あん?」



裕二は、母親が言った事が理解できず、目をパチクリとさせていた。
すると母親は、そんな裕二を歯痒く思い、眉間にシワを寄せて怒鳴る。



伸江:
「まだ分からないのっ!? 外見が女の子になっていたアンタの女を封印するって事は、
数珠は女である右腕に着けなくちゃ意味が無いってことっ! 言っている意味わかるぅっ!?」

裕二:
「えっ!?・・・・と、言うと?」

伸江:
「んもぉ〜〜!! アンタは、完全に男を封印してしまったのぉ!
もう完璧な女に成ってしまったって、完全に男に戻れないって事ぉ!! わかったぁ!?」

裕二:
「んなっ!?・・・・」

なにぃ〜〜〜〜!!!!

うそだぁ〜〜!

うそだぁ〜〜!

うそだぁ〜〜!

うそだぁ〜〜!

うそだぁ〜〜!





頭の中が真っ白になり、崖っぷちから突き落とされた気分の俺は、
ムンクの叫びの顔をしてパニックに陥る。
俺の悲鳴が頭の中で、何度もこだまの様に響き渡る。
俺はそのとき、ガラスの床がガシャァ〜ンと割れて、まっ逆さまに奈落の底へ落ちる思いだった。
それと同時に側にあった置き鏡が、パキィ〜ン!と割れた。
でも今の俺には、そんな事など気にしている余裕などない。

俺は折角、母親の魔法で男に戻れた・・・・はずだった。 いや、そう思ってた。
数珠というものは、男は左腕、女は右腕に着けると決まっているそうだ。
性を封印するのなら、封印したい性の手に数珠を着けなければならないのだ。
つまり、女を封印して完全な男になるのならば、性を封印する数珠は女の右腕に着けなければならないと言う。
チャンと右腕に着けていたなら、完璧に女を封印できたはず。
男は左腕と母親が言うもんだから、はやく男に戻りたかった俺は、チャンと説明を最後まで聞かずに、
男である左腕に数珠を着け、つまり男を完全に封印してしまい、
今後二度と男には戻れないって事になってしまったのだった。



裕二:
「がぁ〜〜〜〜〜ん!! コレで男に戻れると思ったのに・・・・俺のバカバカバカバカバカぁ〜〜!!!」



俺は、自分で自分の頭をポカポカ殴って自分を責めていた。
その場に兎すわりで座り込んで・・・・ すると母親は・・・・



伸江:
「まぁまぁ、落ち着いて裕二!」

裕二:
「ふぇ?・・・・グスン!」

伸江:
《うっ!・・・・可愛い♪》

裕二:
「・・・・?」



母親は、兎座りでヘタリ込んだ裕二の肩に手を置き、裕二の表情やその仕草を見て黙り込む。
そんな裕二を見た母親は、女の子として、あまりに可愛らしい仕草の裕二にドキッとする。

なんで母親が黙っているのか理解できず、顔を真っ赤に染め半ベソかいて、
涙で潤んだ瞳で母親を見上げて、キョトンとした表情で首をかしげる裕二。
思わずギュゥ〜!と抱き締めてしまいたくなるような気持ちを抑えて、母親は続けて話し始める。



伸江:
「まぁ、とにかく・・・・ アンタは、その性を封印する数珠によって、完璧に男を封印してしまったけど、
その数珠には、男の姿に変身する魔法も同時にかけてあるのだから、
その数珠さえ着けていれば、アンタは男で居られるのよ。」

裕二:
「・・・・そ、そうだよな。」

伸江:
「外見だけはね。」

裕二:
「あうぅ・・・・



外見だけが男ってなんだよぉ〜!? じゃぁ、中身は女のまんまってことかぁ?
姿だけが男なんて意味ないじゃんかよぉ!! 俺は完璧な男に戻りたいんだぁ==!!

そんな裕二の気持ちを知ってか知らずか、
母親は更に、裕二を崖っぷちに追い詰めるような事を言う。



伸江:
「でも・・・・」

裕二:
「・・・・え? まだ何かあるのかよ?」

伸江:
「その数珠、水に濡らしたり汚したりしたら、魔力が弱まるから気をつけてね?」

裕二:
「何だって!?」

伸江:
「それに、もし壊してしまったりでもしたら、もう二度と男には変身できないから、そのつもりでね。」

裕二:
「・・・・っておいっ! それじゃぁ、男で居られるのって、ほんのチョットの時間しかないじゃないのよぉ!?」



なんじゃそりゃぁ!? それじゃぁ、男の姿になれる条件って、メチャクチャ少ないんじゃないのか?
水に濡らしてもダメ! 汚してもダメ! 壊してしまったらもう終わり!?

・・・・って、そんな事より、なんだ今のわっ!?
俺今、女の子の喋り方をしなかったか?
まさか、性の封印の魔力のせいで、男の感情まで封印してしまったんじゃ・・・・

裕二は、「俺は男だ! 男なんだ!」 と、心の中で自分に言い聞かせて男としての感情を維持しようと踏ん張った。
なんとか涙を堪えるが、頬をプク〜と膨らませて母親を睨む裕二は女の子そのもの。
母親から見た裕二は、泣きながらイジケる可愛い女の子にしか映らなかった。
母親は、裕二を抱き締め、頭を優しく撫でている。
裕二も心地よく感じて、母親の腰に腕を回して、顔を母親の胸に埋めていた。
でも裕二は、ハッと我に返り、母親の腕から抜け出す。
母親は、酷く残念そうな顔をしていたが、気を取り直して話し始める。



伸江:
「だ・・・・だって、仕方ないじゃない!
アンタが、お母さんの説明をチャンと聞かないから、こう言う事になっちゃったのよ!」

裕二:
「そんな・・・・ じゃぁ、お風呂に入るときは、この数珠は外さなきゃいけないってことなの?」

伸江:
「そうよ!」

裕二:
「手を洗うときも?」

伸江:
「そういう事になるわね。 濡らさないように工夫するとか・・・・」

裕二:
「じゃ、じゃぁもし、ぬ・・・・濡らしれしまっららぁ?」



裕二は精一杯に気丈に振舞っているつもりだが、なぜか声が震える。
徐々に引き付けをおこし呂律が回らなくなり、言葉なんてまともに話せなくなってくる。
これじゃまるで母親に叱られて泣いている、お子ちゃまじゃねぇか!!
もっと気持ちをシッカリ持たねばっ!



裕二:
「えうぅ・・・・グズン!」

伸江:
《あぁ〜んダメ! 可愛すぎる》

裕二:
「・・・・ねぇ?」

伸江:
「そ・・・・そうね。 そういう時は、よく汚れや水分を拭きとって完全に乾かしてから使いなさい。
お母さんの魔力じゃ、今のその魔導具を作るのが精一杯なのよ。」

裕二:
「そんな・・・・ じゃぁ、もう一度魔法をかけてよ! 女を封印するっていう魔法を!」

伸江:
「無駄よっ! 一つの個体に一度魔法をかけてしまうと、二度と同じ魔法はその個体に効果は現れないのっ!
それは、生きとし生きるもの全て、人体にしても同じ事なのよ!」

裕二:
「そんっ・・・・そんなぁ!?・・・・そんなの、そんなのって・・・・
やだぁ〜〜〜!!! ひぃぅうぇえぇえぇ〜〜〜ん!!」



俺はもう、今の感情を抑えきれなくなり、とうとう泣き出してしまった。
結局俺は、完全に男に戻れる術を失ってしまったようだ。
いや、12年後にあの店へもう一度行けば?・・・・
って、12年もこの女の身体で待てって言うのか?
12年も待つよりも、母親に俺を男に戻す魔法を開発してもらうのはどうだ?
そう考えた俺は、気持ちを落ち着かせてから母親に聞いてみた。



裕二:
「なぁ、母さん! 俺を、男に戻す魔法か薬か何かを開発するってのは出来ないのか?」

伸江:
「無理よ。」

裕二:
「なんでだよ!! 何もしないで、無理って決め付けるなんて・・・・」

伸江:
「だって、私はまだ若い魔女だし、まだまだ修行中の身・・・・だったんだもの。」

裕二:
「はぁ? 修行中の身だった?・・・・って、なんだよそれ???
まだ若いって言うけど、母さんって今幾つなの?」

伸江:
「うっ!・・・・」



そう言えば、俺ってこの年まで母さんの正確な年を知らなかった。
って言うか、親父と一緒で四十チョイくらいかなぁ〜?って思ってたけど、
一見すると、とても四十過ぎには見えず、24〜5くらい?
俺が小さい頃から、ぜんぜん変わってないような・・・・? もっと早く気付けよ・・・・
だから、知らない人が母さんと姉貴が一緒に居るところを見ると、姉妹と言われる事も多いが・・・・



裕二:
「まさか、本当は・・・・」

伸江:
「・・・・230歳。」

裕二:
「んみゃぁ?! にひゃくさんじゅっさぃ〜〜〜!?」

伸江:
「なによぉ〜!?」

裕二:
「まさか・・・・まさか自分の母親が魔女で、しかも230歳のお婆ちゃんだなんて・・・・

伸江:
「んなっ!?・・・・ チョット失礼ね!! 言っとくけど、魔女の平均寿命は、
800〜1000年なんだからね! まだまだピチピチなのよアタシわっ!!
二十歳そこそこのガキに言われたくないわねぇ!! 二度とそんな口が利けないように、
魔法でネコミミ娘にでも変えてあげましょうか!?」

裕二:
「ひっ!!・・・・」



母親は、人差し指に魔力を込め、俺に向かって詰め寄ってきた。
俺は両手の手の平を前に出して振り、後退る・・・・
本気で魔法をかけられると思ったから、思い切りビビってしまった。



伸江:
「冗談よ。 だって私は、呪文を唱えて直接魔法を発動させるよりも、
魔導具から魔力を通して魔法を発動させる事を得意とするタイプの魔女だもの。
直接魔法をかける事も勿論できるけど、でも雑念や負の念が入って失敗したら嫌じゃない?
でも、魔導具としてなら失敗しても土に返せば済むし、その魔導具が壊れないかぎり、魔法は解けることがないからね。」

裕二:
「ふぅ〜! 焦ったぁ〜 それより、親父は知ってるのか? 何もかも?」

伸江:
「勿論よ! 『魔女だって人間だって関係ない。俺は一人の女としてお前を好きになったんだ』って言ってくれたわ。」

裕二:
「はひぃいぃ〜〜!?」



その後で、母親から魔女についての話を聞いた。

俺が今働いている職場へ続く道に、人の近寄らない森があるのだが、
そこは昔から、”魔の住む森”だの、”自殺者の多い首吊り山”などと言われていて、
けっして人の近寄れない原生林になっていた。
実はそこが魔女達の住む森の一つであって、人は魔法の結界の力により森の中へは入れず、
たとえ結界の隙間から迷い込んだとしても、魔女の森まで辿り着く事なく、必ず森の外へ出てしまうと言う。

母親は今から25年前、魔女の森を抜け出し魔女としての修行を積むために、
人間の住む外界へと出てきたらしいが、たまたま魔法を使ったところを、
運悪く?今の親父に見られてしまい、秘密を守るという条件で付き合い始めたと言う。
でも、親父の優しさに魅かれ、自分を魔女だと知っていても愛してくれる親父を本気で好きになった母親は、
恋に落ち、そして結婚・・・・となったと言う。

そして更に、魔女は人間と契りを交わすと、今以上に魔力が強くなる事はなくなるらしい。
つまり、人間と交えた魔女は、その後どんなに修行を積もうとも、今より強い魔法は使えなくなるんだそうだ。
しかも、魔法は使わなければ魔力が徐々に弱くなそうで、
だからと言って、外界での私生活の中で普段から魔法を頻繁に使うと、他の人間に見付かってしまう恐れがある。
そこで考えた母親は、水のシャワーで身体を冷やしながら、同時に身体を芯から暖める魔法をかけて、
今の魔力を維持していたと言う。

そして、魔女が一番力を発揮できる時は、満月の夜だそうだ。
満月の夜に、浴槽の水の中にクリスタルとムーンストーンとを入れ、その中に浸かると本来持つ魔力を上回るほどの
力を発揮できるのだそうだ。 なんとなく、なるほどね・・・・って思ったけど。

その反対に、新月の夜には、魔女は風呂に入ってはいけないと言う。
力を必要とする水が、魔力を吸い取るからだとか?



裕二:
「そう言えば、母さん言ってたよな? 『今日は満月ね!』と言って何だか嬉しそうだったり、
『今日は新月か・・・・』なんて呟き、その日はボォ〜としながら大きな水晶玉を抱えていたっけ。
そうか、あれはそういう事だったのか。」

伸江:
「そういう事よ。 新月だと何処からも力を得ることが出来ないからね。
月の光の力をいっぱい浴びさせていた水晶玉から、力を補充していたってわけなの。」

裕二:
「ふぅ〜ん・・・・」



更に、新月の夜の”草木も眠る丑三つ時”は、特に魔女にとって一番危ない時なんだそうだ。
魔力というものは、昼間は太陽、夜は月から力を得、
その他では四大元素(地・水・火・風)から力を得るのだと言うが、
新月の日の丑三つ時になると、月からは勿論、眠りに入った草や木からも、
そして月の光を浴びない風や水からも力を得る事ができないので、
どんな些細な魔法だろうが最大限の魔力を込めたとしても、効果はまったく無に近いと言う。

もし、こんな時に寝込みを襲われでもしたら・・・・
そう思うと、ゾッとした。

そして、もっと驚愕したのが、アレの二日目・・・・だと言う。
一番アレが多く、精神的にも不安定だから、失敗したりすると魔力が逆流するかも知れないから危険なんだと・・・・
その日は魔法を極力使わない方が良いと言う。



裕二:
「アレ・・・・って?」

伸江:
「生理よ。」

裕二:
「んあっ!?・・・・せっ・・・・せせ・・・・」

伸江:
「いい? チャンと聞いてなさい!
アンタも今は女の子なんだし、いずれ経験する事になるのだから覚えておかないとね!
それにアレの日は、その性を封印する数珠も効き目が無いからそのつもりでね!」

裕二:
「んっ・・・・あ・・・・

伸江:
「女性には・・・・」



あぁ〜〜〜! この先は完全に頭が熱暴走でフリーズしてしまって、母親の説明なんて右から左だった。

そして今回、俺が女装剤を買った魔導具店が現れたのは、魔女の女神アラディアの母親でもある、
月の女神ディアナの力が最大限に発揮する満月に当たる日だったってわけだ。
そして、あの店があったあの場所こそが、魔女の森の入り口だと聞かされた。
そうか・・・・あの森が魔女の森だったのか。
どうりで、人間の俺には見付けられなかったってわけか。



伸江:
「・・・・と、言う事なのよ。」

裕二:
「そうだったのか・・・・」

伸江:
「でも、アンタも魔女である私の子。 魔法の薬を使った反動で、魔女としての魔力を覚醒させてしまったの。
その証拠に、アンタの額の記号を囲む円が消え、魔女の印のペンタクル(五茫星)に変わっているもの。
裕二、アンタも今は魔女って事なのよ!」

裕二:
「ぅあっ!? お、俺・・・・俺が魔女!?」

伸江:
「さっきほら、アンタが大声で叫んだとき、鏡が割れたでしょ?
アンタの負の感情が一気に膨れ上がったために、負の魔力が暴走しちゃって、
たまたま側にあった鏡を、負の魔力が対象にしたんだと思う。
だから、鏡がその力によって割れたのよ。」

裕二:
「んなっ!?・・・・じゃぁ、さっきのは、俺が起した魔法なのか?」

伸江:
「そっ! これで分かったでしょ? 自分も魔女だって。」

裕二:
「・・・・。」



さっき鏡が割れたのは、俺の魔法?
俺は呪文や魔導具なんて使ってもいないのに、魔法を発動させてしまったと言うのか?
もし、俺が取り乱し自分の感情を抑えきれなかったら、もっと大変な事になっていたかも知れない。
それを思うと、自分自身が怖くなった。



伸江:
「もしかしたら、裕二は私なんかよりも、魔女としての素質があるかもね?」

裕二:
「俺が?・・・・まさか。」

伸江:
「本当よ! でも、こんなに可愛くなったのに、男に戻っちゃうなんて勿体無いわねぇ。」

裕二:
「冗談じゃないよっ! でも俺なんかが、母さんよりも凄い魔女になるなんて無理だよ・・・・

伸江:
「うぅん。 そんな事はないわ。 頑張ればきっと私以上の魔女になれるはず!
だから、本当に男に戻りたいのなら、アンタ自身で男に戻れる魔法を開発しなさい。
でも、性を異性に変える魔法っていうのは、物凄く高度な魔法なのよ。
並大抵の努力じゃ身につかないわね。」

裕二:
「えっ? じゃぁ、俺にもその気になれば、男に戻れる薬か魔導具を作れるって事か?!」

伸江:
「まぁね。 でも、1年や2年では無理でしょうけど・・・・。 30〜50年は修行しないと無理かしら?」

裕二:
「なっ!?・・・・」

伸江:
「今のアンタ程度の魔力じゃ、鍵を開けたりとか、小さな物を浮遊させる魔法が精一杯かしらね。まぁ、がんばんなさい!」

裕二:
「・・・・



なんだよそれ・・・・
ほとんどって言うか、もう完璧に無理って言われてるのも同然じゃないか!
でも、今の俺には母親が魔法で開発した、性を封印する魔導具がある。
コレさえ上手に使えば、俺も男で居られるってわけで・・・・

そこで、ふと思った事があった。
もし、姉貴が魔導具や魔法に干渉する事になれば、姉貴も魔女に成ってしまうのだろうか?



裕二:
「なぁ、母さん。 もし、姉貴も俺のように何等かの形で魔力に触れる事になったら、
姉貴もやっぱり、魔女に成ってしまうのか?」

伸江:
「それは勿論、あの娘も魔女である私の子なんだから。」

裕二:
「そうか・・・・だろうな



やっぱりな・・・・でも、もし姉も魔女になる事になれば、きっと俺にとって最強最悪のライバルになる!?
それを想像すると、背筋がぞぞぞぉ〜とした。

―――――と、そんな話を母親としていると、姉の夏海が帰ってきた。



ガチャ!・・・・

夏海:
「ただいまぁ〜!」

母親と裕二:
「!!・・・・」


しまったぁ! やっべぇ〜! 姉よりも先に風呂に入らないと!
この家では、姉が一番帰るのが遅く、その結果一番最後に風呂に入るわけで、
風呂から出たら、風呂のお湯を抜いて浴槽を洗うって役割が決まっているのだ。
姉は待つことを嫌う性格で、俺がまだ風呂に入ってないことを知ると、
絶対に怒って俺を殴るんだ。



母親:
「ほらっ! 夏海に怒られる前に、さっさとお風呂に入っちゃいなさい!」

裕二:
「あ、う・・・・うん!」

ダダダダダダダダッ!!
サササッ・・・・パタパタ・・・・カチャ、キィ〜パタン!



俺は慌ててクローゼットから着替えを取り出し、風呂場へと走った。
俺は、着ている服を脱ぎ、洗濯物を入れる籠へ投げ入れ、
そのまま風呂場へと入る。
すると、風呂場の前の脱衣場まで姉がやってきて・・・・



夏海:
「うん?・・・・裕二、まだお風呂に入ってんの?」

裕二:
「え?・・・・あぁ、うん。 今、入ったとこ。」

夏海:
「んもぉ〜何してたのよぉ! 私が帰って来るまでに済ませておいてって、いつも言ってるでしょ!!」

裕二:
「仕方ないじゃないかぁ〜 たまには遅くなる事だってあるよ!」

夏海:
「今日は見たい番組があったのに・・・・ブツブツブツ

裕二:
「・・・・



ほっ・・・・♪
どうやら今回は殴られずに済みそうだ。
此間なんか、まだ俺は風呂場に居るっていうのに中にまで入ってきて、
頭を殴られ、尻を思い切り引っ叩かれたっけ。
いくら姉弟だと言っても、二十歳を過ぎた男が裸で居る中へ、
堂々と入ってくる姉の気性には困ったもんだ。

それより、俺の今のこの身体・・・・
上から自分の身体を見下ろすと、胸には女性の物である二つの膨らみが見える。
そしてその膨らみの上に、もう一つ小さな膨らみ・・・・
浴室の壁に貼り付けてある鏡を横目で見ると、ツンと上を向いている形の良い乳房が映った。

俺は、頭をブンブン振って、なんとか平常心を維持しようとしていた。

とりあえず自分の身体を意識しないようにシャワーを浴びる。
先に髪を洗ってから、身体を洗い始めたのだが、なんだかいつもとは感覚が違うように感じる。
いつも使っている自分のスポンジタオルのはずなのに、なんだか硬く感じる。
特に背中をスポンジタオルで左右に擦り洗ったときなんかは、痛くてヒリヒリした。

そのとき、なんとなく姉のスポンジタオルを使ってみた。
俺のスポンジタオルとは違って、かなり柔らかな素材でできているみたい。

どうやら、男だった頃とは違い、肌が柔らかく敏感になっているようだ。

そして、腰掛に腰を下ろして、ふぅ〜とため息をついたとき、ふと鏡を覗き込んだ。
そこには、顔を赤く染めて寝起きの様に目をトロ〜ンとした可愛らしい女の子が映っていた。
その鏡に映った女の子を見た俺は、思わず鏡の中の女の子を抱きしめたい気持ちに駆られた。
俺は一気に興奮していまい、思わず鏡に張り付いていた。

そして、ふと足元を見たとき、タイルに赤い斑点がポトリポトリ・・・・と浮き出る。
俺は、自分自身に興奮してしまい、鼻血を出していた・・・・



裕二:
「何を考えてんだ俺?・・・・いかんいかん! 今の鏡の中のアイツは、俺自身なのに・・・・
自分自身に興奮するなんて、バカだなぁ〜俺。」



俺は洗面器いっぱいの水を頭からかぶり、自分自身を戒めた。
頭の芯が、キィ〜ンと痛くなる・・・・



裕二:
「うひぃ〜! 冷てぇ!! 変な事考えてないで、早く風呂に浸かってとっとと出てしまおっ!」



裕二は、「遠心分離型脱水機ぃ〜!」なんて叫びながら頭をブンブン振り回し、
濡れた髪の水分をあらかた取ってから、湯船に浸かった。
何をやってんだか・・・・

そのとき、母親は俺に起きた事柄について、親父と話し合っていた。
親父は、自分の女房が魔女である事を認めているせいか、
俺が女に、魔女に成ってしまった事さえも、あっさりと受け入れてしまったようだ。
その旨を伝えに、母親が風呂場まで来て話してくれた。



パンパン!

伸江:
「裕二ー!」

裕二:
「なに?」

伸江:
「お父さんにも、アンタの事を話しておいたからね。 だから、何も心配しないでいいから。」

裕二:
「えっ?・・・・そうなの?・・・・で親父、何て言ってた?」

伸江:
「そうか・・・・って。 いつかそうなる事が起こり得るって事は覚悟していたってぇ〜」

裕二:
「はぁ? それだけ?」

伸江:
「うん。 それだけよ。」

裕二:
「そうか・・・・



母親も母親だが、親父もまた何でも受け入れていまうんだな。
まぁ、魔女を嫁に貰ったのだから、それくらいの事が起きたとしても不思議は無いと理解したって事か。
って言うか、無理やり納得したんじゃないのか?と思うのだが・・・・
姉はテレビに夢中になっていたので、何も知らない。 それは俺にとっては救いである。

そして俺は、風呂から出るとバスタオルで身体の水分を拭きながら、下着を掴もうとしたのだが・・・・



裕二:
「ん?・・・・なんだコレ? うん?・・・・うぅ〜ん???・・・・はっ!
コレは、女物の下着じゃないか!!」



そう・・・・
俺が用意したはずの物とは、明らかに違っていた。
手にした小さな白い布切れは、横に引っ張るとビヨォ〜ンと伸びた。
俺が用意したトランクスが無くなり、女物の下着であるショーツがそこにあったのだ。
その横には、二つのカップの繋がった紐のついた物体が!
そして、ピンクに赤と白の水玉模様の、いかにも女の子の服だよぉ〜みたいなパジャマ?も一緒に・・・・

んがぁあぁあぁあ====ん!!!!
他に何も無いところを見ると、まさか俺にコレを着ろと言うのか?
そんなマジかよぉ〜〜〜
俺は、頭を抱えて心の中で絶叫した。

俺は慌ててバスタオルを投げ捨て、女物の下着を持ってリビングへ駆け込んだ。



裕二:
「チョット母さん!! なんだよコレはぁ〜? 俺の出したパンツわっ!?」

伸江と一美:
「!!・・・・」



母親と親父は、驚いた表情で俺を見ていた。
母親は、親父に差し出したビールを手に持ち、俺を点な目で見詰めたままフリーズしていた。
親父は、すぐにそっぽを向いて顔を赤くして咳払いをする。
俺は男なんだから、女物の下着なんて着れない!
そんな事ばかりを考えていたから、今自分が素っ裸だなんて頭になかった。



裕二:
「おいっ! 聞いてるのかよ母さん!!」

一美:
「うっ・・・・ゴホンっ」

伸江:
「はっ!?・・・・ こ、こらっ! 女の子が裸でウロウロするもんじゃありませんっ!!」

裕二:
「おんな・・・・? んみゃぁ?! うわわっ! わぁあぁあぁ〜〜〜!!」

ダダダダダダダダッ!



俺は、女物の下着で前を隠しながら、風呂場へと駆け戻った。
そして、リビングへ向かって大声で叫んだ。



裕二:
「母さん! 俺の下着わっ!?」

伸江:
「んもぉ〜アンタが今持ってるでしょう?」

裕二:
「今持ってるって・・・・コレ、女物の下着じゃないかぁ!! 俺が出しておいたトランクスわぁ!?」

伸江:
「何言ってるの!! アンタはもう、女の子なのよっ!! 女の子がトランクスなんて穿きません!
お母さんが出してあげた、そのショーツを穿きなさい! わかったぁ!?」

裕二:
「なぁ〜にぃ〜〜〜!? マジかよぉ!! これから男になるのに、こんな物穿けるかよぉ!!」

伸江:
「んもぉ〜いい加減に諦めて、少しは女の子だと自覚しなさいっ!!」

裕二:
「あぁ〜〜〜んもぉ〜〜〜〜やぁ〜だぁ〜〜!!・・・・ってあれ?」



俺は興奮すると、女言葉が出てしまうようだ。 やっぱりコレも男を封印してしまったからなのだろうか?



伸江:
「はぁ・・・・あの娘には、最初から何もかも躾けなければならないようね。 女の子として・・・・」

一美:
「そ・・・・そうだな



なんて事だ・・・・
なんで俺が女物の下着なんて着なくちゃいけないんだ?
って、今の俺は女だけど・・・・
数珠さえ着ければ男になれるのに、もし男の姿で女物の下着なんか穿いているところを
人に見られたりでもしたら、どうするんだよ・・・・



裕二:
「っくぅ〜〜!! こうなったら、はやく立派な魔女になって魔法を開発して、
立派な人間の魔女の男になってやるんだからぁっ!!・・・・へっくしゅん!」



裕二は、素っ裸のまんまショーツを手に握り締めながら、天井を見上げて支離滅裂な事を叫んだ。
その裕二の叫びを聞いた母親は、首を横に何度も振りながら深いため息をついていた。
こうして裕二の、男から女へ女から男へと変身し、苦悩する毎日が始まる・・・・。
(女装剤2 第二話 性の封印と覚醒 つづく)

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