戻る


スーパー風呂敷〜眼鏡君の逆襲〜
(第一章)

作:ゴマぎら


I

朝午前8時

その時刻は過半数の学生が学校に登校する時間帯である

伏芦(ふくろ)高校にも大勢の学生が集いだしていたのだ

授業が始まるまでの約30分間、各教室では多くの学生が友達とおしゃべりをしたり

真面目な人間は自習勉をしたりするものだ

大抵の人はグループごとにまとまっているのだが、一人だけの人だっている

窓際の席の一番奥で小説を読んでいる眼鏡を掛けた少年も後者に含まれる

彼の名は些鴎真璃(さおう しんり)、年齢18

どこにでもいる一般的な男子学生で眼鏡以外のチャームポイントは特になし

身長は高くは無いが低くも無い、普通と言えば普通である

ただ顔が女顔っていうべきか幼いと言うべきか

子どもの頃に女の子と間違われる事がしばしばあり、今でも眼鏡を外すと美少年っぽく

更に女装すると女の子に見られてしまうだろう

それは本人はわかりきった事、今更どうこうしようとは思っていないようだ

キーンコーンカーンコーン

気がつくと時計の針が8時25分を指していた

もうすぐ朝のホームルームが始まる頃だ

真璃は呼んでいた小説にしおりを挟んでから閉じ、鞄の中へしまった

それと同時に教室の扉が開いた

担当の杉山先生が眠そうな顔して開いた扉から教室へと入っていく

杉山先生は真璃のクラスの担任の先生である

体型は痩せ型で髭がチリチリとある

頭はボサボサで着ている服もなんだか汚れているようにも見える

パッと見れば不潔なおっさんと言えよう

「それじゃあ朝のホームルームを始めるぞ」

杉山先生はそう言ってクラスの出席や連絡事項を適当に言ってから教室を出た

一時間目は確か体育なハズ

体育は素早く体操服に着替えてグラウンドに集まらないと遅刻扱いにされるので厄介だ

だけど杉山先生が早く朝のホームルームを終わらせたので時間が少し余っている

そこで真璃は鞄から先ほど呼んでいた小説を取り出し、続きを読み出した

しばらく読んでいるとクラスメイトの皆は更衣室へと行ってしまい

教室には誰もいなくなった

「おい些鴎!」

突然真璃は誰かに声を掛けられた

まだ小説を読み出したばかりなので少しムッとはきたが一応読むのを中断し顔を上げた

「君は……隣のクラスの山埜君じゃないか?」

真璃に声を掛けたのは山埜夾輔(やまの きょうすけ)

褐色の髪をした不良みたいないな男

制服である学ランのボタンはひとつもとまってない

身長170センチで体型普通ってところ

真璃は一組で山埜は二組の生徒である

体育の授業以外ではあまり会わないのでほとんど顔を合わせる事はないのだが

山埜はわざわざ一組の教室まで入ってきたのだ

「僕に何かようかい?」

「お前、最近態度でかくねーかぁ?」

「僕がかい?」

真璃は学校ではあまりでしゃばらず、静かにしているので

そういう事が思い浮かばなかった

「いや、僕は君が気に触るような態度をとった覚えはないけど?」

「しらばっくれるな!可愛い顔して優等生ぶりやがってよ!」

「だからなんだい?」

真璃の態度が気に入らないのか、山埜の機嫌がどんどん悪くなっていった

「知ってるんだぜ、お前が影で俺の事をバカにしてる事がよ。少し頭がいいからって調子に乗ってんじゃねーぞコラァ!」

山埜は突然真璃の胸ぐらを掴み上げた

「な、なにをする!僕は君の悪口なんか言った事は無いぞ!」

真璃は本当の事を言っていたのだが、山埜には伝わるはずが無かった

「ウソつくんじゃねー!」

ガン!

真璃は投げ飛ばされ後ろの掃除箱の扉に背中を打ちつけてしまった

「つぅ……。」

真璃は唇を噛んでしまい口の中が血の味がした

更に追撃しようと真璃に歩み寄る山埜

「ん、なんだこれ?」

山埜はふと真璃の机の上にある小説が目に入った

「面白そうだな、どれどれ……なんじゃこれ?字ばっかしか書いてねーじゃねーかよ!」

「そりゃ小説だからね……。」

山埜は表紙の絵を見てマンガと勘違いしたようだ

「くっだらね〜、こんなもんはこうしてやる!」

ビリビリビリ

「ああぁぁ……?!」

山埜は真璃の小説を破り、紙くずと化した小説を真璃に投げ捨てた

「今日はこのくらいで勘弁してやるよ」

そう言って山埜は教室を出て行った

「そんな……まだ途中だったのに!話が気になるのに!」

バラバラになった小説を見て目から涙が溢れてくる

それと同時に山埜に対する憎しみが湧いてきた

「山埜の野郎……絶対に許さん!」



II

一時間目の体育

真璃は少し遅れてしまい出席が遅刻になってしまった

本来なら出席の事を気にする真璃だが、今回はそんな事はどうでもよかった

山埜を倒す!

真璃の心の中はそれでいっぱいであった

真璃は体育以外の科目では山埜に勝っている

数学、歴史、英語、生物etc.……

ただし体育はどうでもよかったので勝敗は気にしてなかった

しかし今回は話が別である、体育で山埜に勝ち見下してやると真璃は思っていた

山埜を倒す……つまりそれは全科目で山埜を制す事にある!

復讐は普通の人間ならバイオレンス的な手段をとるのだが

真璃は普通ではない変わった思考の持ち主なので、そうした方法で復讐を企てたのだ

それはそれとして、体育の授業はハードルであった

準備体操が終わるとハードルを並ばせ、全ての準備が整った

前にハードルの授業があったので体育の先生の説明無しで授業を進めた

体育の先生が笛を鳴らすと生徒は二名ずつ次々とハードルを飛び越えタイムを計る

復讐を完璧なものにするため真璃は山埜と同じ順番でスタートしなくてはならなかった

飛ぶ順序は適当だったのでタイミングを計って

山埜と走るように調整するのは容易な事であった

笛の音と共に段々前に並んでいる生徒が減って来て真璃が走る番がやってきた

チラっと横を見ると山埜が他の人と喋っているのが見えた

真璃は山埜の顔を見ると小説を破り捨てられた場面を思い出し

腸が煮えくり返りそうになった

だが借りはここでキッチリ返すと心に決め自分を落ち着かせ走る体勢をとった

ピィ!

体育の先生の笛の音を鳴らし真璃と山埜は同時にスタートした

真璃は地面を思いっきり蹴り最初から全力で走った

あんな奴に僕が負けるハズが無い!

真璃は余裕を見せるつもりで山埜の様子を見ようとした

その瞬間、真璃は一気に山埜に追い抜かれてしまった

しまった!

そう思った時にはもう遅く、かなり差を開かれてしまった

必死に追いかけようとするが、更に差が開く一方であった

ガコン!

「うわっ?!」

山埜の背中を見続けていたせいで目の前のハードルを飛ぶことを忘れ

足をハードルに引っ掛けてしまった

真璃は体全体のバランスが崩れてしまい拍手を送りたい程すごいズッコケ方をした

「つぅ……」

体を起こし落ちた眼鏡を掛け直す真璃

ゴールの方を見ると山埜がそこにいた

そして自分をあざ笑っているように見えた

いや……笑っている、腹を抱えて僕を

僕は……負けたのか



III

「……。」

放課後、本日の授業が終わり真璃はトボトボとした足取りで帰宅していた

クラブ活動をしていないのでいつも三時頃には大抵帰れる

今日の足取りはいつもより重かった

山埜に大事な小説を破られ、心に決めたやり返しは惨敗し、逆に笑いものにされた事

生まれてこの方こんな屈辱があってなるものか……。

頭の中でどうしようもない事をグチグチ考えていると

真璃は大きな門を開けて中に入っていき、広い庭を歩き大きな屋敷の入り口に立っていた

「あっいけない、僕としたことがボーっとしてた……」

慌てて引き返そうと来た道を戻る真璃

そこでメイド服を着た女性とバッタリ会ってしまった

おそらくここの屋敷で働いている人だろう

「あの……どうかなさいました?」

メイド服の女性が真璃に尋ねてきた

「ああ、学校の帰る途中で本屋によろうとしてたのだが忘れてしまってね。今から行ってくるよ」

真璃は当たり前のような口調でメイド服の女性に言った

「でしたら私が真璃様のご購入したい本を買いに出かけましょうか?」

様……。真璃はここでは何故か様付けされていた。何故でしょうね?

「いや……プライベートな事だし、買うんじゃなくて見るだけだから」

「でしたらお車をお出しします」

「本当にいいんだ……気持ちだけ貰うよ」

「……!!真璃様からそのようなお言葉を頂けるなんて!……ああ、幸せ」

メイド服の女性はその場でパタンと倒れてしまった

「……本屋どころじゃなくなったしまったか」

真璃は手を二回叩いた

するとどこからとも無く他のメイド服の女性が現れた

「すまないが彼女を介抱してくれないか?」

「かしこまりました」

倒れたメイドさんを他のメイドさんに頼み、真璃は屋敷に入っていった

「ただいま……。」

「おかえりなさいませ!」×3

玄関にはすでに三名のメイドさんが待機していた

彼女らは年齢も背も同じぐらいで、年に関しては真璃とそうかわらなかった

靴を脱ぎ屋敷に上がると真璃は自分が持っていた荷物をメイドの三人に持ってもらった

「あいつはどうした?」

「チビ君ですか?」

青髪のメイドの少女が言った

「彼なら真璃様の自室の掃除をしてましたよ」

赤髪のメイドの少女が言った

「まだ掃除してるのかアイツ……。」

真璃は呆れてこめかみを片手の指で突っついた

「今日は気分が優れない、すぐ自室に戻って休憩する」

「ですがチビ君がまだ掃除してますが……」

「そんなこと知ったことか!」

ドスドスと足音を鳴らし真璃は二階の自室へと向かった

幾つも部屋があり、東側にある部屋の一番奥が真璃の部屋となっていた

ガチャン

「すいません、まだ掃除していま……し、真璃さまぁ!?」

栗色の髪で上は白いTシャツ、下に黒いジャージを着た身長140cmほどの少年で

真璃が部屋に入ってくるまで雑巾で床を磨いていた

突然の真璃の帰りに心臓が飛び出るぐらい驚いている

「お、おかえりなさいませませ〜真璃さま!!」

「葵……いいかげん慣れたらどうだ?」

氷野葵(ひの まもる)

真璃の二つ下の後輩

葵は中学を卒業した後、高校受験に失敗しプータローになってしまった

親が早い時期に亡くなったので従兄弟のおじさんおばさんのところで暮らしていたが

生活が苦しく、お金が無い。そんな時にプータローはまずい

そう思い働く事を決めた葵だが、中卒では働き口が無いと言ってもいい

困っている所を真璃は召使として働かないかと誘ってきたのだ

葵はそれを何も考えず話に乗り、凄まじい日常を送っているのだ

「掃除はもういい、紅茶を持ってきてくれ」

「は、はいぃ……うわぁあ!!」

慌てて走る葵だが、足元に置いてあるバケツにつまづき転倒してしまった

バシャー

水の入ったバケツが盛大に水をぶちまけ

真璃の自室の床は水でビショビショになってしまった

「はぁ……お前達、後を頼む」

「かしこまりました」×3

三人のメイドはテキパキと動き床を掃除していく

「ふぅ……お前を見ると疲れが3割増しするよ」

「ごめんなさい……。」

葵はふかぶかと真璃に頭を下げた

「まぁいい、今日は嫌なことがあってな……、そうだ!葵」

「ひぃ?!先輩クビだけはカンベンしてぇ!!」

泣きながら懇願する葵

「先輩と言うな、お前は僕の専属の召使だろうが」

「はいその通りです……まさか解雇?」

「なに勘違いしてるんだ、あそこへ行くぞ」

「え、あそこってどこですか?!」

わけもわからず葵は真璃の後ろに付いて行った

真璃は地下まで降りて厳重に鍵がかかっている部屋の前に着いた

「真璃様〜、ここって……どこ?」

「葵は来るのが初めてか、この部屋は大掛かりなシミュレーションルームになっている」

扉のパスワードを入力し頑丈な扉が開く

部屋の中は真っ暗で目の前が見えない

葵は怖くなり真璃の背中にくっついていた

「真璃さまぁ〜怖いよぉ〜!」

「やかましい……お前はあっちに行ってろ」

真璃の指差した方に青白く光るパネルがあった

「あれってなんです?」

「システムを立ち上げるコンソールだ。お前が操作しろ」

「で、でも僕機械とかそういうの苦手なんだよぉ!!」

ブルンブルンと葵は顔を横に振る

「大丈夫だ、操作マニュアルの言う通りにすればサルでもできる」

「サ、サルでもですか……わかりました。やってみます!」

葵は恐る恐るパネルに近寄りそれに触れた

すると部屋全体が明るくなった

「やりました先輩!」

「いつまでも先輩っていうな。とりあえず思考解読装置を発動してくれ」

「はい!」

変に自信が付き操作マニュアルを見ながら思考解読装置を発動した

ガガガガガ

装置が発動した途端、部屋全体がぐらつき部屋の様子が変わった

「ここってまさか?」

「そう、僕の通っている学校のグラウンドさ」

「ってことはこれは真璃様の思った通りの世界を作り出すスンバラスィマスゥィーンなんですね」

「カタカナでかつ変な発音で言うな。このシミュレーションルームでは仮想世界を作り出し、その中で様々な事象を体験することが出来る。
まぁ使用者の記憶している事だけの範囲でだがな」

「わぁ〜すごいや!……って真璃さま、一体これで何をしたいんですか?」

「決まっている、奴を倒すんだ!」

ザッ

真璃の後ろには山埜がいた……が、何故か3Dポリンゴンの様な姿をしている

かなりあやふやな感じである

「あれってゲームでよく出てくるゴーレムですか?!」

「一応人間のつもりだが……
僕は人物の顔を曖昧にしか覚えてないからあんな姿になるんだ」

「へぇ〜先輩って人の顔を覚えるの苦手なんですね」

「いつまでも先輩っていうな!」

グラウンドからハードルが出現し今朝の体育の授業と同じ情景になっていった

「す、すごいです先輩!なんだか面白いです!」

「言ったろ、ここでは何だってできると」

「はい、聞きました!」

葵は両腕をブンブン振り回し興奮していた

「この男に勝つためなら僕はなんだってやるさ、姿はハチャメチャだが能力はそのまんま。果たして僕はこいつに勝てるのか……。」

「先輩なら大丈夫ですよ!」

「葵、次から先輩と言う度に減給な」

「ええええぇええ?!」

真璃は深呼吸しポリゴン山埜を睨んだ

適当な姿の山埜も首だけ動かし真璃を睨む

はたから見れば笑ってしまいそうな光景である

「小説破った恨み、ここで果たす!」

「小説?」

葵は小首を傾げたが、真璃は葵の事を気にもしなかった

『Are you ready?』

『3』

『2』

『1』

『GO!』

真璃は今朝同様地面を蹴り最初から全力で走った

「いけー、先ぱ……真璃さま!」

真璃はしばらくハードルを飛び越えて行くと、すぐにポリゴン山埜が迫ってきた

「させるか!」

真璃が手を上に上げると光の粒子が集まり大きな鋼鉄のハンマーが現れた

「チェストー!」

ヅガァァン!!

真璃はハンマーを思い切りポリゴン山埜に振り下ろした

だがポリゴン山埜はそれを巧みにかわしゴールへと突き進んだ

「くそぅ!雑魚キャラを召還するんだ!」

「了解しました真璃さま!」

葵はパネルを操作し、ポリゴン山埜の周りに

よく特撮ヒーロー物で出てくる雑魚キャラの集団を召還した

雑魚キャラは数の利を生かし、集団攻撃をした

ポリゴン山埜は襲い来る雑魚キャラを一人一人倒していく

背後をついて攻撃する敵を後ろ蹴りで倒し

挟み撃ちする敵をかわすべく高く飛び、目標がなくなった敵二体は

互いにぶつかり合い消滅する

ちぎっては投げちぎっては投げで雑魚キャラは全滅してしまった

「あわわ……雑魚キャラさんが全滅しました!」

「案ずるな!別に雑魚キャラに期待していない!足止めさえできたらそれでいい!」

ポリゴン山埜が完全に油断していた

その隙に真璃はどこからか出現した剣を取り出し不意打ちをかけた

「秘儀!王我降支配斬!」

ズワァァァァァン、ザシュ!!

「決まった!やりましたね真璃様!」

真璃の必殺技(?)が決まり勝利したと思い葵は喜び声上げた

「そんな……ばかな」

真璃は突然倒れてしまった

ポリゴン山埜は何事も無かったかのようにゴールへ向かって走って行った

見ると真璃の剣は折れてしまっていた

そして逆に真璃が刃のようなもので斬り付けられていた

「せ……先輩!!」

葵は急いで真璃の元にかけより抱きかかえた

「大丈夫ですか先輩!」

「げほ、げほ……葵、シミュレーションの結果は?」

ブゥーン

再び部屋が暗くなり緑の画面が二人の前に現れた

『真璃様がキャラクター山埜と対戦した場合の勝率は……-70%の確率で勝利できます』

「ま、マイナスだと、そんなバカな?!」

だが画面には大きく-70%と書いてあった

「はははは……僕は何も才能が無いからいっつも努力してきた。勉強もスポーツもゲームも。だけどなんだよこの結果?
マイナスだと?100%勝てないって事かよ!!」

真璃は顔に手を当て面食らっていた

結果には肉体的能力の差による敗因が高いと表示してあった

つまり才能というものであった

「それより先輩、傷のほうは大丈夫なんですか?!」

「傷?……葵、これはシミュレーションだぞ。傷を負うはずないだろ?」

よく見ると真璃は怪我を1つもしてなかった

「え、でもさっき……アレ?」

「多少はリアルなシミュレーションが出来るんだよ。それより葵」

「は、はい!」

「3回先輩って言ったから給料3割引な」

「なぁああああああああ!!」



IV

ここまで来たら説明はいらないと思うが一応

些鴎真璃は学校では一般的な学生ではあるが……。

実はその正体、些鴎財閥というお金持ちのお坊ちゃんでお金に関しては何不自由ないのである

因みにこの事は他のクラスの皆には内緒にしてあるため今の所誰も真璃が金持ちとは思ってないのだ

真璃の親は海外にいるため彼は一人で大きな屋敷にすんでいる

一人と言っても大勢のメイド(メイドばかりなのは父親の意図らしい……)達と

専属の召使である氷野葵(真璃のおもちゃ?)がいるため特に寂しいわけではない

話を元に戻すと

真璃と葵がシミュレーションルームから出ると、ちょうど夕食の時間帯であった

食事の準備はすでに整っており真璃が席に座りしだい食べられる状態であった

真璃は席に着き、テーブルの上に並ぶ食事を見た。

目の前にズラッとご馳走が並んでいる

少しは口に入れるものの真璃は食事があまり喉に通らず、食事が進まなかった

「ごちそうさま……。」

「どうなさいました、真璃様?」

側にいた青髪のメイドの少女が心配そうに声をかけた

「少し気分が悪いだけだ……悪い後は頼む」

「かしこまりました」

ろくろく食事をしないで真璃は自室へと戻った

「勝率ゼロか……結果を見ると才能の問題かよ。才能か……。」

真璃は才能のある人間が羨ましかった

昔から自分もそんな人間になりたかったと懇願したが無理なものは無理

無いものは無いのだ

いくら金があっても才能はお金じゃ購入できない

だから今まで努力で補ってきたが、才能を持つ人間には勝てないのだ

自室についてあるシャワー室にて体を洗い、さっぱりしてから寝室へ入った

真璃はすぐにベットへ寝転び軽く目を瞑った

たぶんこのままだとすぐに寝てしまうだろうと思ったが、それでいいやと考えた

タッタッタッタッバン!

突如、寝室の扉がもの凄い勢いで開いた

そのせいで真璃の眠気が一発で吹っ飛んだ

「おい誰だ!僕の部屋に入る時はノックをしろと言ってるだろう!」

「す、すみません先ぱ……真璃様!」

ノックせずに入ってきたのは葵だった

「なんだ葵、僕は疲れてるんだ。用があるなら明日にしろ」

「僕わかりましたよ!真璃様が元気ない理由が」

「はっ?」

自信満々に葵は言うので真璃は何を言うのか少し興味を持った

「それじゃあ言ってみろ、僕が元気ない理由を」

「ふふふ〜、今日学校から帰ってきた真璃様の様子が変だなーっと思って色々皆で調べたんですが、
今朝にとある事件があったことを突き止めたんです!」

よく調べられたな……ここの屋敷にいる者は僕の学校へは干渉できないよう
父さんが仕向けているハズなのに

「そしてこれが真璃様を元気付けるアイテムです!じゃじゃーん!」

葵が真璃の前に出したもの、それは今朝山埜によって紙くずと化した小説と同じ様な物であった

「いやぁ〜真璃様って結構古い物をお読みになりますから入手するのに苦労しました〜」

微妙なタイミングで破れた小説のかわりを持ってきても困るものだ

もう小説なんてどうでもいい、今は才能の事で頭いっぱいだ……。

一番参ったのが、葵が持ってきた小説は破られた僕の小説と似てはいるが違う物だという点だ

しかも前に読んだ事があるものである

「……まぁ気持ちだけ受け取る」

「え?違うんですか?!」

「そうだな……おしいな、色んな意味で。」

「そんな〜、せっかく皆で考えたのに……。」

葵はがっくりして背中を向けうな垂れていた

ふと、真璃は葵のズボンの後ろポケットから布のようなものがあるのに気が付いた

「葵、そのポケットからはみ出している物はなんだ?」

「え、なんの事です?」

「いいからちょっとバックしろ」

「はい……。」

言われたとおり葵は後ろを向いたまま真璃に近寄った

真璃は葵が十分近寄って来た時に彼の後ろポケットから布を取り出した

スルスルスル

「なんだこれ?」

その布は一辺70センチもある大きな布で色が両面ピンクであり

×印の様な模様がいたるところにあった。その模様は意外と芸術的である

「さぁ……風呂敷でしょうか?」

「風呂敷……か?」

「……うん、風呂敷かと」

「……まぁいい、風呂敷にしておこう」

改めて風呂敷を見てみるが、特に変わった点はなかった

「葵、これはなんなんだ?」

「風呂敷です」

「ちがう、なんでお前が持っているかだ」

「僕も知りません、気が付いたらポケットに入っていたし……」

「もういい、だがただの風呂敷には見えないな……父さんのコレクションの1つかも」

「あ、でしたら僕が保管庫まで持って行きますよ」

「お前にまかしたらコレクションが三つほど破壊されてしまう恐れがある」

「あ、それってヒドイ言い方ですよ先ぱ……真璃様」

「事実だ、まぁいい。明日にでもメイドの誰かに頼むか」

真璃はピンクの風呂敷をベットの近くにある棚へ置くために丸めてから放り投げた

かなりぞんざいな扱いである

しかし質量の無い風呂敷はあまり遠くへ飛ばない上、真璃はやけに上に飛ばしすぎていた

きっと棚まで飛ばないだろうと葵は思い上空でヒラヒラしている風呂敷を掴もうとしたが

葵は誤って頭からすっぽり風呂敷に覆われてしまった

「わぁああああ!」

「ったく何遊んでるんだ?風呂敷は床にでも置いててもいいんだぞ」

これ以上葵に付き合うのもしんどいので真璃は反対側を向いて横になり目を瞑った

「す、すいません……あ、あれ?」

ようやく被さってた風呂敷を払いのけ声をだした葵だが、何かが変な事に気が付いた

やけに自分の声が高いのだ

気が付くと髪の毛が伸びている

胸を触ると僅かだか胸が膨らんでいる

「あれ?あれ?あれれ?おかしいな〜?」

「何裏声出してるんだよ……」

「せ、先輩ぃ!」

「給料4割引」

「あああぁ!!ってちょっと僕を見てください!」

「面倒だから嫌だ」

「おねがいします!先ぱ……真璃様!」

あんまりしつこいので真璃は起き上がって葵の方を向いた

「しつこいな……ん?」

真璃は葵を見て初めて気が付いた

なんか変だ

まるで間違い探しをしているようであった

そして真璃は手を叩き、不自然な点に気が付いた

「お前……髪伸びたな」

「いえ……髪だけじゃないんです。む、む、む、胸も……。」

葵は自分の胸を指でさすが、服の上からでは全然わからない。胸が小さかったからだ

「いやわからないし」

「この調子だとあそこも……。」

「まぁ好きにしろ」

真璃は自分の大事なところを確認しようとする葵を止めず、その様子を見ていた

葵は恐る恐る自分の大事なところを確認した

そして……。

「なあああああああああああああああああああああああああああああああい!!」

葵は顔が真っ青になり、そのまま倒れて失神してしまった。



V

真璃は葵の使っている部屋の前で待機していた

すると部屋から赤髪のメイドさんが出てきた

「葵の状態は?」

「はい今は落ち着いてますが、だいぶショックを受けているそうです」

「そうか……、毒を飲んでも死なないあいつも潮時か……。」

すっごく気になる事を言ったが、今はそんな事どうでもよかった

「あの……真璃様、少しよろしいですか?」

「どうした?」

この事態になんだと言いたげな真璃に恐る恐る赤髪のメイドさんは言った

「チビ君の介抱の際、真璃様の寝室に落ちてあった大きな布が不気味に光ってましたけど何か心当たりありますか?」

「大きな布?……まさかあの風呂敷のせいなのか?」

真璃は赤髪のメイドさんに頼み風呂敷を持ってきてもらった

確かに風呂敷は小さなY印の様な模様が1つだけ不気味に光っていた

「なんなんだこれ?」

「わかり兼ねますが、何か不思議な力を感じます」

赤髪のメイドさんがそう言った

「うーん、今葵は話せるか?」

「少々ここで待ってください」

「わかった」

赤髪のメイドさんはもう一度葵の部屋に入り様子を見てからすぐに真璃の元へ戻ってきた

「はい、話せるぐらいまでは回復したそうです。ですが無理させないでくださいね」

「よし、わかった」

真璃は葵のいる部屋に移動した

扉を開け葵用の部屋に入ると青髪と金髪のメイドが葵の側についていた

だいぶ落ち着いたとはいえ、まだ今の状況を受け入れられないようだ

「葵……。」

「真璃様……僕、どうなるの?!」

葵は半分泣きそうな声で真璃にうったえた

その声は少女そのものである

「そうだな……このまま元に戻れない場合はメイドとして生きることになるな」

「そんな?!急にそう言われても僕……。」

空気がズンと重くなった

僕のせいだよね?真璃はメイド三人に睨まれた気がした

「真璃様、いくらなんでもそれは酷過ぎます」

青髪のメイドが言った

「それは戻れなかった時の話しだ」

「じゃあ僕戻れるの!」

「いや知らん」

またズンと空気が重くなった

もちろんメイド三人の視線が痛かった

「真璃様、ウソでもYESと言ってあげてください」

「悪い、こういうの苦手なんだよ」

「真璃さまぁ〜僕、もう男じゃなくてオカマなんですね……。」

もうドンドン気落ちする葵はそのまま地球の裏側までいっちゃいそうだ

「大丈夫よチビ君!真璃様ならすぐに元に戻る方法を見つけてくださるわよ!」

青髪のメイドが葵を励ます

「ザッツライトですわ!真璃様はパーフェクトなんですもの」

金髪のメイドがそういう

「二人とも、真璃様ばかり頼らないで私達もチビ君が元に戻るよう方法を考えるのよ」

赤髪のメイドは二人のメイドに言う

「わかってます」

「アイムアンダースタンドです!」

青髪と金髪のメイドは返事した

「ところで葵、その体になったのはこの風呂敷を被ってからか?」

真璃は葵に風呂敷を見せた

「うん、なんだかね、風呂敷でバサァって覆われたらさ、いくらもがいても払えなくて体が変な感じになるんだ。
やっと払えたと思ったら声がおかしくなっちゃって、色々体を調べたら……変な体になってた」

「そうか……やっぱりこの風呂敷のせいか……。ん、まてよ……。」

一瞬、真璃はすごいことが頭によぎった

この風呂敷……相手を性転換できるのか

これを使えば山埜に勝てるんじゃないのか?

しかしどうやってこれを奴に被せる……。

そうだ、葵を使おう!

「葵」

「な、なんでしょうか真璃様!」

「明日はその姿で僕に付き合え」

「えぇ?!なんでですか!」

葵は当然ながら嫌がっている

ならばと真璃は駆け引きを考え付いた

「もし承諾したら減給をチャラにしてやってもいいぞ」

「う……。」

葵は迷った

よーく考えよ〜、お金は大事だよ〜、うーう、うーう

「どうするんだ?やるか、やめるんか?」

なんだが真璃が悪役になっている気もするが気にしないでおこう

「真璃様、チビ君の気持ちを考えてあげてください!」

「YESです!リトルボーイ君はいまマインドがアンバランスなんですよ」

青髪と金髪のメイドさんが葵の為に反発した

「二人とも、これは真璃様とチビ君の交渉よ。私達が口出しするものじゃないわ」

赤髪のメイドさんは二人を止めた

不満な表情をするが二人は押し黙った

「決めました……真理様。」

「おう、どうするんだ?」

「僕は、真璃様に付き添います」

「いいのチビ君?」

「リトルなアントにも拒否する権利があります!」

青髪と金髪のメイドさんは本当に葵のことが心配であった

少女になった葵は笑顔で二人に微笑みかけた

「ありがとう、でも自分で決めたんです。お金のこともあるけど、真璃様の為なら僕、女装だろうとなんだろうとしてみせます!」

葵は吹っ切れて立ち直った

「だ、そうですよ。チビ君の給料アップした方がいいのでは?」

「ああ、作戦が成功したら考えておく。……ん?」

気が付くと風呂敷の光っていたYが消えていた

いつの間に……、なんだったんだ今のは?まぁ考えてもしょうがないか

「よし、明日に備えて葵、よく寝ておくんだ。それから三人は明日葵の外出用の服を用意してくれ。
できれば朝の余った時間に葵に女に関する知識を学ばせておいてくれ」

「かしこまりました」×3

三人のメイドは声をハモらしてすぐに準備にとりかかった

「ふ、明日が楽しみだな山埜!」

真璃は風呂敷をギュッと握り締め自室に戻り明日まで眠りについた


続く……かも


戻る

□ 感想はこちらに □