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(前回のあらすじ)

 蜜樹の前に突如現れた元の自分=如月光雄。クラス担任に復帰した彼によって、蜜樹はクラスメイトはおろか南高校の教師からも信用を失い、停学になってしまう。
 そんな蜜樹を励ますクラス委員長の謙二。だが、彼の家には妹の未久に成りすまして蜜樹への復讐の機会をうかがう『ネオ虎の爪』の首領・恭四郎がいる。未久の正体に気づいた蜜樹は謙二の家を訪れ、偽の未久と対決しようとするが、結局その企みを暴くことはできなかった。
 そして謙二の家からの帰路、親友の桜塚マリアと再会した蜜樹をホワイトガールが襲撃する。だがマリアと共にそれを撃退した蜜樹は、ホワイトガールを元の未久の姿に戻すことに成功する。
 蜜樹とマリアは未久に寄り添いながら、生田生体研究所に帰り着いた。

 ……ところで、マリアが扱う不思議な巨大ハリセン。あれはいったい何なのだろうか?





戦え! スウィートハニィU

第6話「マリアの秘密」

作:toshi9





 RRRRRRRR……

「もしもし、委員長?」
「え? その声はハニィか? どうしたんだ?」
「ねえ委員長、未久ちゃん今どうしてる?」
「自分の部屋にいると思うけど」
「本当に部屋にいるのか確かめてくれない?」
「ちょっと待ってくれ……あれ? いない。あいつどこに行ったんだ」
「そう、未久ちゃんはいないのね。委員長、未久ちゃんは今ここにいるの。本物の未久ちゃんよ。で、お願いなんだけど、未久ちゃんの服を持って迎えに来てくれない?」
「本物の未久? 服を持って? どういうことだ? 言ってる意味がわからないんだけど……迎えに来いって、ハニィのうちにか?」
「うん、来たら詳しく説明するから。あ、下着も忘れないでね。じゃあね」

 プツッ――

「ハニィの奴どうしたんだ? それに、何で未久がハニィと一緒にいるんだ??」

 出ていったばかりの蜜樹からかかってきた電話。しかも、部屋にいる筈の未久も一緒だと言う。事情が飲み込めない謙二の頭の上には、たくさんのクエスチョンマークが浮かんでいた。



 一方、生田生体研究所に帰り着いた蜜樹とマリアは、怪訝な表情で出迎えた幸枝に事情を説明した。

「……という訳なの」
「まあ、それじゃこの間ここに遊びに来た未久ちゃんは偽者――それも恭四郎が成りすましていたっていうの!? ……あいつ、この子にそんなひどい仕打ちを」
「とにかくもう少ししたら、委員長が未久ちゃんを迎えに来るから」
「そう、わかったわ。それじゃあ、それまであたしがこの子の面倒をみておきましょう。二人は父さんたちがミーティングルームでお待ちかねだから、早く行きなさい」
「そうだったです。あたしとハニィが戻ったら、皆で打ち合わせしようって親父が言ってたんだです」

 相槌を打つマリア。蜜樹は未久に向き直り、優しく声をかけた。

「未久ちゃん、委員長……いえ、謙二君が迎えに来てくれるから、ここで待っているのよ」
「う、うん」

 蜜樹の顔を見上げて、こくりと頷く未久。
 蒼ざめていた表情も、やや赤みを取り戻しかけていた。変身が解けた直後よりも、落ち着いてきたようだ。

「それにしても、ほんとにひどいことを。……あいつ、許せないっ」

 両手の拳を握って憤る蜜樹。彼女の横から、幸枝が未久に声をかけた。

「未久ちゃん、そんな格好で寒かったでしょ。お風呂が沸いているから、早くあったまりなさい」
「ありがとう、おばちゃん……」

 娘を持つ母親らしい、暖かい声。
 こくっと頷く未久の肩を両手でぽんぽんと叩くと、幸枝は彼女を優しくお風呂場へと連れていった。
 一方、蜜樹とマリアはミーティングルームに向かった。扉を開けると、テーブルには研究所の副所長で蜜樹の父親の賢造、姉の奈津樹、賢造の助手の宝田輝一、そしてマリアの父親――桜塚教授が座っていた。

「遅かったな……」

 難しい表情をしていた賢造が、入ってきた蜜樹の姿を見て、少しほっとした表情を浮かべて口を開いた。

「うん、いろいろあって」
「停学のことは校長先生から電話があって聞いている。とにかく二人とも座りなさい」
「はい」

 賢造に促されて、蜜樹は賢造の横に、マリアは桜塚教授の隣に座った。

「揃ったようだな。幸枝には私から後で話をするとしよう。……では、今日までの情報を整理してみようじゃないか」

 全員が頷く。

「まず私から話そう。今日宝田君と一緒に警察病院に行って、精神病棟の恭四郎と面会してきた」
「で、本物だったの?」
「いや、やはり中身は恭四郎ではなかったよ」
「やっぱりすり替わっていたんだ……」

 奈津樹がため息混じりの声を漏らした。

「それだけじゃない。面会している最中に、突然その姿が変わってしまったのだ」
「変わってしまっただと?」

 桜塚教授が問い返す。

「恐らく何らかの力で強制的に姿を変えられていたんだろうが、その効果が切れたのかもしれん。いきなり私の目の前で元の姿に戻ったのだ。彼は行方不明になっていた澤田医師だったよ」
「いきなり元に戻った……それって、未久ちゃんと同じじゃないか」
(そうですね。恭四郎の奴、何かの装置か薬を使って、澤田医師を自分の身代わりに仕立てたんですね。そしてその後、同じ方法で今度は未久ちゃんに成りすました)
「うん、きっとそうだ」

 ぶつぶつ言いながら、蜜樹がこくりと頷く。

「どうしたの? 蜜樹」

 奈津樹が蜜樹の顔を見つめ、尋ねてきた。

「さっき連れてきた未久ちゃんも、その澤田医師と同じように姫高祭で拉致された後、子犬に変身させられていたみたいなの」
「え? でも、未久ちゃんなら、この間ここに遊びに来たでしょ?」
「委員長と一緒に遊びに来た未久ちゃんは偽者で、あの時連れていた子犬が実は本物の未久ちゃんだったみたい。しかもさっき怪人に変身してあたしたちに襲い掛かってきたんだ。全て恭四郎の企みだったの」
「ひどい! それじゃ未久ちゃんはあたしと同じ目に!?」

 蜜樹の話を聞いた奈津樹が、悲しげな表情で口を抑える。

「うん。でも戦っている最中、マリアちゃんのハリセンを受けた途端に姿が元に戻って――」
「なるほど……」

 賢造が腕を組んだ。

「どうやら恭四郎は、まだ自分の企図を進める手段を多く持ってないようだな……そして手駒も揃っていない」
「どういうことですか?」
「奴は『虎の爪』が崩壊した後、『ネオ虎の爪』なる組織を再編成しているようだが、まだ手足となる怪人の数が限られているのだろう。真っ先にお前に復讐しようと目論んでいるのかもしれんが、戦術のオプションは限定されているということだ。
……まあ、その話は後にすることにして、先に指輪修復の見通しについて聞きたい。どうなんだ? 桜塚」

 賢造は桜塚教授に話を振った。

「幸枝さんが揃えてくれた資料で、指輪の構造はおおよそわかった。修復は可能だ」
「ほんとか!?」

 あっさりと断言する桜塚教授に、賢造が思わず問い返す。

「ああ、新たに作ることはできんが、割れたオリジナルの修復はできる。しかも見させてもらった資料から、面白いことがわかったよ」
「面白いこと? 何だそれは?」

 思わせぶりに言葉を止めて顔を見つめてくる桜塚教授に、賢造は身を乗り出した。

「うむ……あの指輪は、私の知っているモノと良く似ているのだ」
「お前が知ってるモノ?」
「そうだ。マリアに装着させているものだ」
「ほえ?」
「マリアちゃんに装着させてるもの?」

 全員の視線がマリアに集中する。マリアはきょとんとした表情で彼等を見回した。

「あ、あの……」
「蜜樹ちゃん、マリアのハリセンのことを、君はどう感じていたかな?」

 桜塚教授が蜜樹に話を振る。

「え!?」
「マリアが時おり使う、巨大ハリセンのことだ」
「マリアちゃんのハリセン? そう言えば、いつも気がついたら使ってるけど……」
(そうですね、マリアちゃんって昔からあのハリセンを使ってたんで、ちっとも疑問に思わなかったんですけど――)
「……ハニィ、普通おかしいと思うだろう?」
(あら、先生こそ、何で今まで変だと思わなかったんですか?)
「……うぐっ」

 珍しく口論になる蜜樹とハニィ。もっとも、他人には彼女が独り言を言っているようにしか聞こえないのだが。

「蜜樹ちゃん、何をぶつぶつ言ってるんだ?」
「あ、いえ」
「つまりマリアの髪飾り、あれも『空中元素固定化理論』で作られたものだということだ」
「「ええっ!?」」

 一同が驚いて桜塚教授を見詰める。賢造も初めて聞くのだろう。顔色が変わっていた。

「マリアちゃんの髪飾りが? 桜塚、どういうことだ?」
「うむ、話せば長いことながら……」
「手みぢかに話せ」
「ははは……わかったわかった。私が卒業した後も大学に残って、考古学の権威だった幸枝さんのお父上、生田教授の元で助手をしていたことは知っているな?」
「当然だ。貴様と私は幸枝を争った仲だからな。結局幸枝は私を選んでくれたが、その代わり婿養子として生田家に入ることになった訳だ」
「うむ……って、そんなことはどうでもいい。この果報者め」
「で、それがどうした。話を先に続けろ」
「こほん。今から10年前の春、生田教授が団長となった最後の古代バビロン遺跡の発掘調査団に同行した時のことだ。マリアが小学校に入学する直前だったが、あの頃のマリアは実に可愛いかった。この私にパパ、パパって抱きついてきて、お風呂も一緒に――」

 すぱかーんっ――!!「……うぐぐっ」

 顔を赤くしたマリアのハリセンが、桜塚教授の頭にヒットしていた。

「このバカ親父、いきなり何を話し始めるんだですっ!」
「……今は何かと言うとすぐこれだ。父は悲しいぞ」
「おやじいぃ〜っ!!」

 マリアは眉をつり上げ、ハリセンを大上段に振り上げた。

「わかったわかった、話を先に進めよう。で、その遺跡発掘の時に私が現地で掘り出したのが、マリアが今つけている髪飾りだ。可愛いマリアにぴったりだと思ったんで、土産代わりにプレゼントしたんだが――」
「それじゃ親父、この髪飾りって、発掘品をネコババ……」

 呆れたマリアが思わず髪飾りに左手をやり、桜塚教授を睨む。右手の巨大ハリセンはわなわなと震えていた。

「ネコババなどと人聞きの悪いことを言うんじゃない。それは調査団参加の報酬として、生田教授から頂いたんだ」
「報酬?」
「そうだ。正当に教授から譲られたものだ。そして小さかったマリアは喜んで髪飾りをつけてくれた。それ以来、その髪飾りはマリアのトレードマークになった。……そうだな、マリア」
「え? ま、まあ――」
「ところがだ。髪飾りを付けてからというもの、マリアは巨大なハリセンを振り回すようになったのだ。何も持っていなくても、興奮するといつの間にか握り締めている。そしておかしなことに、周囲はそれに違和感を感じない。私もそうだった。……しかも、そればかりではない」
「と言うと?」
「ハリセンを使うようになって、マリアはどんどんガサツに――」

 すばこーんっ!!

 再び桜塚教授の頭にハリセンがヒットした。 

「ガサツとは何だですっ! このバカ親父っ!!」
「うぐぐ……見ろ、すぐこれだ。多分マリア本人も、自分がどんなに凄いことをしているのか自覚しとらんだろう。しかもだ」
「まだあるのか」
「うむ、ここからが本題だ。マリアのハリセンの効果は、単に打撃力だけではなさそうなのだ」
「……と言うと?」
「打撃力、即ち物理的効果以上に超次元的力が作用するようだ。マリアの意思次第で致命的打撃力をもたらすこともあれば、普通のハリセンとさほど変わらない場合もある。時には精神に大きなダメージをもたらす場合もあるようだな」
「このハリセンにそんな力が!?」

 桜塚教授の話に、マリアは思わず右手に持ったハリセンをしげしげと見詰めた。

「マリアちゃん、知ってたの?」
「え? ううん、初めて聞いた話だです。髪飾りはちっちゃい時に親父からもらって、すごく気に入ってそれからずっとつけてたんだけど……このハリセン、いつから使ってたんだっけ?」
「言われてみると、『ネオ虎の爪』の怪人に対するマリアちゃんのハリセン攻撃って、凄く効果があったみたいね」
(あたしもそう思います)

 マリアのハリセン攻撃を思い出す蜜樹に、頭の中でハニィが相槌を打つ。

「マリアの意思の力なのかもしれんが、そのハリセンは不自然に生み出された彼らに対して、相当の威力があるのかもしれんな」
「自在に操れるハリセン……あ、そうか!」
(どうしたんですか? 先生)
「何も持ってないマリアちゃんの右手に、自在にハリセンを作り出す髪飾り……この力って、指輪の力に似てるんだ」
「そう、その通りだ蜜樹ちゃん。皆も、もう理解できるだろう。蜜樹ちゃんの指輪とマリアの髪飾りは、効果の違いはあっても、同じ『空中元素固定化理論』によって作られたものだということが」
「…………」
「私も幸枝さんから見せてもらった生田教授の資料を読んで驚いたよ。そして腑に落ちたのだ。……ところで賢造、お前は『空中元素固定化理論』をどこまで解析しているんだ?」

 桜塚教授の話を腕組みして聞いていた賢造が、口を開いた。

「私には解析不可能だった。勿論、義父からは何も聞かされていない。解析ができていれば新たな指輪を作っていたさ。だができなかった……複製さえできなかったよ。だから無から有を生み出すあの指輪は1個限りのものだと思っていた。まさかマリアちゃんの髪飾りもそうだったとはな」
「恭四郎が幸枝さんの体を奪って研究所を制圧したのは、指輪を奪取する為だったと言ってたな」
「そうだ。恭四郎がいつあの指輪の存在を知ったのかわからんが、奴は指輪を自分のものにしようとしていた……世界を支配する為にだ。だがそれは叶わなかったという訳だ。『虎の爪』のシスターとして研究所を支配している間に義父の資料を見ている筈だが、結局奴にも複製できなかったのだろう。だから指輪を管理していた私に協力を求めて監禁したという訳だ」
「なるほど」
「それにしても桜塚、指輪と髪飾りにどんな接点があると言うんだ? 元々指輪は義父の遺品なのだ。私は『虎の爪』に研究所が制圧される寸前に指輪を蜜樹に託したが、それは、『私が死んだ後、必ず妙な連中がこの指輪を狙ってくるだろう。その時は蜜樹に指輪を託せ』という義父の遺言に従ったまでのことだ。……だが、その為に蜜樹は――」
(そう、指輪の力でスウィートハニィに変身したあたしは奴らと戦った……命燃え尽きるまで。でもお父さん、あたしはそれを後悔してなんかいないよ。そして今、あたしは先生と一緒に戦っている)
「ハニィ……」
「ん、どうした? 蜜樹」

 目を伏せ小さく声を漏らす蜜樹に、賢造が問い返す。

「あたしの中のハニィ……蜜樹さんが、こうなったことを自分は後悔していないって」
「そうか」

 ふっと微笑む賢造。

「とにかく、指輪と髪飾りとの接点については何の手がかりも無いが……あっ!」
「どうしたの? お父さん」

 一瞬考え込んだ後、突然叫び声を上げた賢造に、奈津樹が問いかける。

「まさか、お義父さんは発掘調査から帰国した時に、既に『虎の爪』の出現を見越していたというのか? それで蜜樹とマリアちゃんにそれぞれを託したと……!?」
「ふむ、なるほど、そうかもしれんな。だがこの指輪、どうやって作られたのだ? それとも髪飾りと同じ発掘品なのか? どうなんだ?」
「それはわたしにもわからん」
「ふ〜む」

 ますます増える謎に、一瞬、沈黙が部屋中を支配する……が、桜塚教授が再び口を開いた。

「ところでもう一つ気になることがある。お前に写真を見せてもらった井荻恭四郎という男だが……こいつ、10年前の発掘調査団の中にいたぞ」
「何だと!?」
「もっとも名前も年齢も違う。だが、確かに調査団のメンバーにそっくりな奴がいたんだ」
「そうだったのか……恭四郎が『虎の爪』を組織したこと、そして指輪を狙ったことと関係ありそうだな」
「うむ、そういうことだ。とりあえず私の知っていることはそんなところだ。……ではそろそろ帰らせてもらおう。すぐにでも指輪の修復にとりかかるとするよ」
「ありがとうございます」

 立ち上がった桜塚教授に、蜜樹も立ち上がってぺこりとお辞儀する。

「何の。その代わりにといっては何だが、蜜樹ちゃんに一つ頼みがあるんだが……」
「あたしにできることなら、何でも」
「うむ、スウィートハニィのバトルスーツとやらを是非マリアにも着せて――」

 ずばごおお〜んっ――!!「……ぐあああああっ!!」

 言い終える前に、再びマリアのハリセンが桜塚教授の頭にヒットしていた。

「こっ、こっ、このバカおやじがああ〜っ!!」
「落ち着きなさいマリアちゃん。……桜塚、とにかく指輪の修復をよろしく頼むぞ」
「いっつつ……わかっとる。必要な材料は揃っとるから、家に戻って早速取り掛かれば、明日中には作業を完了できる筈だ。そうしたらすぐに届けるとしよう。蜜樹ちゃん、一日だけ待っていなさい」

 そう言って蜜樹に向かって男臭い笑い顔を浮かべる、桜塚教授。……だが、その頭にはぷくっとたんこぶが膨らんでいた。
 それを隠すように手に持ったテンガロンハットを被った桜塚教授は、マリアを伴って部屋を出る。

「頼むぞ、桜塚」
「待ってます、おじさん」

 桜塚龍一郎……頼りになるのかよくわからないキャラクターではあるものの、修復を断言するその言葉が蜜樹には妙に頼もしく聞こえる。

「ハニィ、修復した指輪はあたしがもってくるです」
「うん、お願いね」

 玄関で両手を握り合って別れる蜜樹とマリア。

「それでは頼むぞ」
「うむ、任せろ、うぐぐ」

 こちらもがっちりと握手する賢造と桜塚教授。その顔がみるみる真っ赤になる。

「あなた、こんな時までやめてください。龍一郎さんも」

 奥から出てきた幸枝が、力一杯握手し合う二人を呆れ顔で諭した。

「お、おう……では失礼する」
「ハニィ、また明日」
「マリアちゃん、今日はありがとう」
「うん、未久ちゃんが助かってほんとに良かったねです」

 別れを告げた桜塚父娘は、連れ立って研究所を後にした。

「お母さん、未久ちゃんは?」
「蜜樹のベッドに寝かせたわ。なかなかお風呂から出てこないんで、覗いてみたら湯船の中で眠ってしまってたの。……かわいそうに、余程疲れていたのね」

 幸枝のその言葉に、蜜樹は安堵のため息を漏らした。

「そうなんだ……助けられて本当によかった」
(そうですね、先生)
「さてと、もう少し話の続きをするか」

 桜塚親子が角を曲がるのを見届けると、一同は賢造に促されて研究所内に戻った。

「蜜樹、後はお前のことだ。停学の件については、明日私が学校に行って校長先生に説明しよう。事情をよく話せば、誤解だということがわかる筈だ」
「お願いします」
「何の、可愛い娘のためだ」
「あ、ありがとう……ございます」

 さらっと「可愛い娘」と言う賢造に、思わず照れる蜜樹。

「……だが、私にはどうも納得できんのだ。電話をしていても、何か話が噛みあわなくてな」
「そのことなんですけど、実は今日学校でとんでもないことが起こって」
「どういうことだ」
「それが……」

 蜜樹は学校での出来事を話した。かつての自分、如月光雄が南高校に突如現れ、クラスの担任として復帰したこと、そしてあろうことか生田生体研究所に監禁されていたと彼女を糾弾し、そのため校内で孤立してしまったこと。

「……ふむ、昔の自分が目の前に現れたというのか。しかもこの研究所の地下室で監禁されていたと放言していると」
「学校に現れたもう一人の俺……あいつは、もしかして割れた指輪の影響で現れた俺の分身じゃないかと思うんですけど、もう頭が混乱して――」

 じっと目を瞑って腕組みしながら蜜樹の話を聞いていた賢造だが、目を開くとおもむろに口を開いた。

「……謀略だな」
「謀略?」
「冷静に考えてみるといい……それはお前を陥れるための謀略だろう。信頼のある教師の言うことならば、たいていの学校関係者はその言葉を信じるだろう。しかも元のクラス担任の言う事となれば、クラス内での影響力は絶大だ。恭四郎の考えそうな奸計だな」
「謀略……か」
「今までのお前なら、すぐに見破れたはずだ。自分の偽者が現れて余程動揺してたのだな。しっかりするんだ、蜜樹」

 賢造が厳しく、しかし優しい目で蜜樹を見る。

「それじゃ、あれは俺の偽者だと!?」
「……蜜樹」
「え?」
「さっきから俺、俺って、そんな言葉遣いしちゃ駄目よ。……忘れないで蜜樹、あなたは女の子――あたしたちの娘でしょう?」
「え……う、うん――」

 男言葉に戻ってしまったことを、幸枝にたしなめられた蜜樹。だが、真剣に自分のことを見詰める幸枝の目を見て、何だかくすぐったい気分になった。

「お母さんの言うとおりよ、蜜樹」

 奈津樹も幸枝に続く。

「え? あ、ごめん、奈津樹……姉さん」
「まあいい。この間もお前に話しただろう。警察の監視の目を逃れた恭四郎は、お前に復讐を仕掛けてくるかもしれんと……それが恭四郎本人であろうと、奴の手先であろうとな」
「あれは偽者。元のあたしの分身じゃなくって、『ネオ虎の爪』の一味なのね、お父さん」
「そういうことだ」
「でも、随分手の込んだことを……」
「この間お前とシャドウガールが倒した怪人――ブルーイソギンチャクと言ったかな――は、生徒会長さんを狙っていたと言うじゃないか。そして今日は、お前が怪人に襲われた」
「怪人の正体は、未久ちゃんだったけれど」
「お前を陥れる謀略だけでなく、恭四郎は何か事を起こそうとしているのかもしれんぞ」
「何か、事を――って?」
「それは私にもわからんがな」
「…………」

 沈黙する一同。

 ピンポーン♪

 その時、ドアホーンが来客を告げた。

「あら、お客さんみたい」

 奈津樹が玄関に向かいドアを開けると、ドアの前にマリアと謙二が立っていた。

「え? マリアちゃんと謙二君、あなたたち、どうして一緒に?」
「未久がお世話になっているそうで」

 ぺこりとお辞儀する謙二。

「そこで研究所に向かう謙二君とばったり出くわしたんで、親父と別れて謙二君についてきたんだです」
「とにかく中に入って。今、蜜樹を呼んでくるから」
「はい。で、未久は?」
「ああ、未久ちゃんは今――」

 ピンポーン♪

 迎え入れた謙二に奈津樹が答えようとしたその時、再びドアホーンが鳴った。

「あら、またお客さん?」

 奈津樹がもう一度ドアを開けると、そこには目つきの悪い、トレンチコートを着た男が立っていた。

「すみません、こちらに相沢未久という女の子がいると聞いたのですが」
「え? 未久ちゃん? はい、確かにうちにいますけど」

 男の問いに素直に答える奈津樹。

「そうか、それは良かった。ではこの研究所の関係者全員を営利誘拐の容疑で逮捕する」

 ガチャリ――

 奈津樹の細い手首を掴んで手錠をかける男。唖然とする奈津樹。

「え? え? ちょっと待って」

 だが男は胸のポケットから警察手帳を出すと、奈津樹を押しのけて中に入ってくる。

「南署の者だ。貴様たちも、この研究所の関係者か?」

 目の前のマリアと謙二を見て、凄む刑事。

「関係者とは違うけれど……」
「では大人しくしておいてもらおう。さもなくば一緒に逮捕するぞ」
「そ、そんな横暴なんだです!」
「どうしたの? あれ? マリアちゃん、それに謙二君来たのね。あと、その方は……」

 騒ぎを聞きつけて、蜜樹も玄関に出てくる。

「ハニィ、お姉さんが!!」
「え? 手錠? 何で?」
「お前は研究所の関係者だな」
「そ、そうですけど」

 蜜樹の手を掴んで手錠をかけようとする刑事。だが蜜樹はその手をぱしっと振り払う。

「いきなり何するんですかっ?」
「警察だ。この研究所の関係者は全員営利誘拐の容疑で逮捕する」
「営利誘拐? ちょ、ちょっと何を言ってるんですか。そんな馬鹿な!」
「馬鹿なだと? 証拠は挙がっているんだ。さあ、大人しく相沢未久を引き渡せ」
「ちょっと待ってください。未久ちゃんならあたしのベッドで眠ってますから」
「嘘をつくんじゃない。さきほど相沢未久本人から警察に救助を求める電話があったんだ。『生田生体研究所に連れ込まれて変なことをされようとしている。助けてください』とな」
「ま、待ってください。それって何かの間違い……」
(……やられた)
「え?」
(恭四郎の罠です。未久ちゃんは救出できたけれど、今度はそれを逆手に取られたようですね。警察に電話したのは、多分姿を消した偽の未久ちゃん、つまり恭四郎でしょう。二段構えの作戦だったんですよ、先生)
「くっ! じゃあどうすれば」
(……ここで警察相手に下手に抵抗したら、先生を監禁していたという噂と一緒になって、ますます研究所の評判が悪くなりますね)
「恭四郎のやつ、何て汚いことをっ」

 憤る蜜樹。そして蜜樹の後ろから賢造、幸恵、宝田も玄関に出てくる。

「何の騒ぎだ」 
「ふむ、これで全員か? よし、全員逮捕だ。おい、やれ!」

 刑事の後ろから、どどっと3人の警官が入ってくると、全員を拘束しようとする。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 バシッ!!

 羽交い絞めにしようとする警官の腕を取り、一本背負いに投げ飛ばす蜜樹。
 それを見た刑事が、蜜樹に向かって凄む。

「娘、抵抗すると罪が重くなるぞ……首謀者は誰だ。貴様か?」

 賢造を睨みつける刑事。

「首謀者? 何のことだ?」

 賢造は胸ぐらを掴もうとする刑事の腕を逆手にとって締め上げる。

「いててて、貴様ぁ、抵抗するか!」
「い、いや、そんなつもりは無いが……刑事さん、話を聞いてください」
「これ以上抵抗すると容赦せんぞ!」

「……ちょっと待ってください。あなた、本当に警察官ですか?」

 賢造の腕を振りほどいて声を荒げる刑事に、後ろから宝田が落ち着いた声で話かけた。

「いかにも。南署の金本だ」
「南署の金本刑事? ……はて、見かけない顔ですね」
「誰だ、貴様は?」
「宝田輝一と申します。南署の人間で私のことを知らないのは、よほどの新人か、さもなくばもぐりですね……つまりあなたは偽警察官」

 そう言って、宝田がにやりと笑う。
 宝田輝一。今は賢造の助手として働いているが、かつては警視庁キャリアであり、南署にも派遣されていた経歴を持つ。そのため彼は、警察人脈に顔がきくのだ。
 改めて付け加えるなら、かつて研究所が『虎の爪』に乗っ取られている間、古道具店「天宝堂」の店主に身をやつして情報を集めつつ、蜜樹を影から助けていたのも彼だ。

「馬鹿なっ! 貴様ら、何をたわ言を――」
「はは〜ん、さてはあなたも『ネオ虎の爪』の怪人ね」

 動揺を見せる金本刑事に、奈津樹が突っ込みを入れる。

「な、なに? 怪人だと? 私は知らんぞ」
「何言ってるのよ。その影でバレバレよ」

 奈津樹の指差した壁に、灯かりに照らされた刑事の影が異様なシルエットを浮かび上がらせていた。

「「……!!」」
「くっ……ばれては仕方がないっ!」

 言うなり、着ていたトレンチコートの裾をバサっと広げる刑事。
 その瞬間、着ていたシャツもズボンも消え失せてしまう。広げたコートの下に何も着ていないその姿は、変質者そのものだ。

「きゃっ!」

 小さく叫んで、マリアが両手で顔を覆う。
 だがその指の間はすきまだらけだった。好奇心旺盛な彼女の視線は、すっぽんぽん刑事の股間に注がれてランランと輝き――

「えーい、変な実況すんじゃないですっこのへっぽこナレーター!! 読者が誤解するんだですぅっ!!」
 
 す、すみません。

「それにそもそも、ぶら下がってるものなんかどこにも…………え? なっ、ないですぅっ!?!?」

 マリアの言う通り、コートを広げた男の体は腰がくびれ、胸に二つの膨らみが生じ、女性の姿へと変じていく。
 さらに体中がみるみる金色の毛で覆われていく。両手で広げたトレンチコートは腕と一体になり、蝙蝠の羽のようになった。
 そう、刑事は翼手を広げた、蝙蝠そっくりの姿に変化したのだ。

「あなた、何者っ!?」
「ふふふ、改めて自己紹介しよう。私は『ネオ虎の爪』四天王の一人、ゴールデンバットだ」
「ゴールデンバットですって? 何だかイヤらしい名前ね」

 奈津樹がさらに突っ込みを入れる。
 ちなみに、かつて奈津樹が仕立てられていたパンツァーレディも『虎の爪』四天王の一人だが、派遣先の違っていた二人に面識は無い。

「何を言うかっ! 由緒正しきわが蝙蝠怪人一族のコードネームをっ」
「わかった、タバコの名前でしょう」
「ちが〜うっ!!」

 今度は蜜樹が突っ込みを入れる。

(先生、そうなんですか?)
「確か、そんな名前のタバコがあったような……」

 一方、賢造は少年時代に見ていたアニメ――いや、「テレビまんが」を思い出していた。

(確か、コウモリさんコウモリさんって少女が祈ると出てきた正義の味方の名前……とても正義の味方には見えん姿だったが、夢中になって見ていたなぁ。まあ、こいつはドクロの顔じゃないし、シルバーバトンも持っていないが――)

 蜜樹たちはゴールデンバットをにやにやと、或いは遠くを見るような目で見ている。そこに畏怖の色は無い。
 海外に派遣されていた『虎の爪』の大幹部、即ち四天王の一人として恐れられていたゴールデンバットだが、空気がおかしいことに気付き、苛立ってきた。
 蜜樹たちが警察に逮捕されるように仕向ける策を恭四郎から与えられていたのだが、どうも勝手が違う。

(……こいつら、私をからかっているのか?)

 誇り高いゴールデンバットの胸に、ふつふつと怒りがこみ上げてくる。

「……貴様らっ、全員殺すっ!」
「あ、金色が赤くなったです」

 マリアが声を上げた。そう、ゴールデンバットは遂に顔を真っ赤にして怒り出した。そしていきなり口をパカッと開けると、音にならない鳴き声を蜜樹に向ける。

 シェ――――ンッ!!

「危ないハニィ! 逃げるんだニャ!」

 突然の危険を知らせる声に、咄嗟に横っ飛びする蜜樹。
 耳に聞こえない鳴き声が蜜樹の横をすり抜けていき、その先にある花瓶が粉々に崩れさった。

「ちょ、超音波ビーム!?」
「あんなのくらったら、ひとたまりもない!」
「見かけによらず恐ろしい奴だです!!」

 砂のようになってしまった花瓶を見て、絶句する一同。

「見かけによらずは余計だっ。貴様らもう許さんぞっ」

 ゴールデンバットが再び口を開く。

「危ないニャ!」

 謙二が突然、ゴールデンバットに体ごとぶつかった。もんどりを打って、二人はもつれるようにドアの外に転がり出る。

「い、委員長っ!!」

 後を追って、蜜樹とマリアは外に飛び出した。

「……ふぅ、こいつに超音波ビームを使わせちゃいけないんだニャ」
 
 そう言いながら、服のほこりを払って立ち上がる謙二。だがねその姿はさっきまでとは少し……いや、かなり違っていた。
 頭からはネコ耳がニョキッと生え、ズボンを破って尻尾が飛び出している。胸が膨らみ、腰がきゅっとくびれた体つきも、そしてその顔立ちも、女の子のように変化していた。
 蜜樹たちを見て、ニコッと笑うその顔は――

「ハニィ、ただいまなんだニャ」
「シャドウガール、あなただったのね」
「ニャアっ」
「でもいつの間に?」
「帰ってきたら、研究所の中にゴールデンバットがいるんでびっくりしたんだニャア。ハニィを助けようと思って、慌ててこいつの体に飛び込んだニャ。……ハニィ、助太刀するニャ」
「ハニィ、あたしもやるです!」

 そう言ってハリセンを構えるマリア。

「二人とも待って、こいつは危険な相手でしょう。あたしだけでやるから」
「ハニィ、何言っているんだニャ」
「そうよ、あたしたちは親友なんだです!」

 真剣に蜜樹を見詰める二人。

(先生!)
「うん」

 こくりと頷く蜜樹

「よし、二人とも頼むわよ!」
「ガッテンだニャ」
「任せるです!」

 研究所前で、ゴールデンバットを前後から挟むように取り囲む蜜樹とマリア、そしてシャドウガール。

「くっ……貴様ら、この私を誰だと思っているんだ。全員まとめて砂にしてやる」

 三たび口を開くゴールデンバット。

 シェ――――ンッ!!

「駄目、マリアちゃん逃げて!」
「はいです」

 くるっと体を回転させ、超音波ビームを避けるマリア。その背後にあった植木が瞬時に砂と化す。

「くそう、あの超音波ビームを何とかしないと近寄れない……どうすればいいんだ」

 ゴールデンバットを取り囲んだものの、蜜樹たちはうかつに近づけない。

「ふははは、さっきの威勢はどうした? 私は下っ端怪人とは訳が違うぞ。……さあお前達、今のうちにこいつらを逮捕しろ」
「え?」

 にやっと笑うゴールデンバットの犬歯がどんどん伸び、長い牙になる。

「私に血を吸われた人間は、私の言うがままの操り人形になるのだよ。この警官達は私の忠実なしもべだ。さあお前達、こいつらを全員ひっとらえるのだ。そして刑務所にぶち込んでやれ」

 玄関からゆるりと出てきた3人の警官が、虚ろな目つきのまま蜜樹たちへと迫ってくる。

「こいつらは本物の警官だ。手向かえばそれこそ公務執行妨害で逮捕だ。ふははは、さあ大人しく逮捕されるがいい」
「みんな奴に操られているのか……どうすればいい?」

 焦る蜜樹たちに、じりじりと詰め寄る警官たち。
 その時、賢造がマリアに向かって叫んだ。 

「マリアちゃん、ハリセンを使うんだ!」
「ハリセンを?」
「警官たちを正気に戻すのが先だ。正気に戻れって念じながらハリセンを使えっ。蜜樹たちはマリアちゃんをフォローしろっ」
「わかったわ。マリアちゃんお願い!」
「よし、やってみるんだですっ」

 ハリセンを振り上げて、マリアは警官たちの間を一気に駆け抜けた。

「正気に戻れですううううっ!!」

 マリアが横を抜ける度に、動きの鈍い警官に一つ、また一つハリセンがヒットする。

 ボカッ! バシッ! ドカッ!
 
「あれ? 俺はどうしてここに?」
「確か変な金色の蝙蝠に襲われて、それから――」
「うううっ、何も思い出せない……」

 警官たちは正気に戻って、キョロキョロと辺りを見回す。

「やった、三人ともどうやら正気に戻ったみたいね」
「さあ、後はお前だですっ!!」
「……くっ」
「やああああああっ!!」

 マリアはハリセンを振りかぶり、ゴールデンバットに向かって突っ込んだ。

「馬鹿めっ」

 ばさっ!!

 ゴールデンバットは翼手を羽ばたかせた。突風が巻き起こり、マリアは吹き飛ばされてしまう。

「きゃあっ!!」
「マリアちゃん、大丈夫!?」
「だ、大丈夫です……こいつ、見かけによらず手強いですっ」
「だから見かけによらずは余計だと言っとろーがっ!!」

 口を開け、超音波ビームの発射態勢をとるゴールデンバット。
 その時、玄関の向こうから戦いを見ていた賢造が再び叫んだ。

「マリアちゃん、そのハリセンをバリアにするんだ!!」
「バリア? あ、そうか!」

 立ち上がったマリアが、ゴールデンバットの正面に立った。

「さあ、あたしを倒せるものなら倒してみろですっ!!」

 ハリセンを両手で構え、仁王立ちで見栄を切るマリア。

「マリアちゃん危ない!」
「大丈夫だです。ハニィ」

 パカッと開いたゴールデンバットの口から、超音波ビームが発射される。

 シェ――――ンッ!!

「なんの、です!」

 マリアは体を隠すように、体の前にハリセンを広げた。

 ン――――シェッ!!

 ハリセンを直撃する超音波ビーム。だが、ぶつかったビームはそのまま四方に反射してしまう。

「ふはははは…………うがあああぁっ!!」

 勝ち誇っていたゴールデンバットは次の瞬間、はね返ってきた自分の超音波ビームを正面からまともに受け、吹き飛ばされてしまう。
 分散して威力が半減していたのか、その体がボロボロに崩れることはなかった。
 だが、今がチャンスだ。

「蜜樹、これを!」

 奈津樹が蜜樹に向かって、キラリと光る棒のようなものを放り投げた。
 真っすぐに飛んでくるそれを、蜜樹は空中で受け止める。

「こ……これは、プラチナフルーレ!?」
「お母さんが出してくれたの。戦うのよ! 蜜樹っ」
「うんっ!」

 蜜樹は大きくうなずくと、剣を一閃した。

「ゴールデンバット! 刑事に化けてみんなを逮捕しようだなんて……世間が許してもこのあたしが許さないっ!」
「な、何をっ! こしゃくなっ!!」

 両手で握った細身のサーベル・プラチナフルーレの剣先を下げ、ゴールデンバットに向かって一直線に駆け出す蜜樹。
 ふらふらになりながらも、牙をむき出しにして、向かってくる蜜樹の首筋を狙うゴールデンバット。

「ハニィ!!」
「死ねぇえええっ!!」
「いっけえぇぇぇぇ、奥義、桜・華・天・翔っ!!」

 一瞬、交差する蜜樹とゴールデンバット。
 蜜樹の首筋にゴールデンバットの牙先が達する寸前、プラチナフルーレの剣先が太刀風を巻き起こし、ゴールデンバットの身体を切り裂いた。
 剣を振るったままの姿勢で、目を閉じてたたずむ蜜樹。
 その背後で、ゴールデンバットがくるりと振り向いた。

「ふはは、何だその剣は? 効かんな、効か、き…………ぐっ、ぐはああぁっ!!」

 次の瞬間、ゴールデンバットはその場にばたりと倒れ伏し、チリのように粉々になって、やがて風に吹かれて消えてしまった。

「や……やったです、ハニィ」
「うん。でも奴に勝てたのはマリアちゃんのおかげよ」
「ハニィ、あたしもがんばったんだニャ」
「そうだね。シャドウガール、あなたがあのビームのことを教えてくれなければ、みんなやられていたかも。ありがとう」

 蜜樹、マリア、シャドウガールの3人は、手を取り合って勝利を喜び合った。



「ゴールデンバット様がやられるとは……恐るべし、スウィートハニィ……」 

 ……そんな彼女たちの姿を、空から一羽の烏がじっと見つめていた。


(続く)

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