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 ランプリーレディに続いて、レディ・アイまでもがスウィートハニィの前に敗れ去り――
 シャドウレディは、「シスター」の前で失敗の責任を追求されていた。

「指輪の奪取に2度ならず3度も失敗しおって。……シャドウレディ、この失態どう責任をとるつもりだ?」
「申し訳ありません。レディ・アイの作戦は完璧なはずでしたが……」
「ふんっ、もはやお前の言うことは信用できぬ。……当分の間、謹慎しておれ」
「シ、シスター! どうか、今一度チャンスを――」
「ならぬ! 下がれ!」

 シスターはその美しい顔を怒りに歪ませた。
 だがその時、一人の小柄な怪人がシスターの前に進み出た。

「シスター、お待ちください」

 その怪人はシャドウレディに良く似た雌猫タイプだったが、背が低く、体毛の色もシャドウレディの黒とは違い、茶色であった。

「シスター、どうぞこのあたしをお遣わしくださいニャ」
「ほう……お前は?」
「シャドウガール――シャドウレディの妹ですニャ」
「妹のお前が姉の失態を償おうというのか?」
「駄目よシャドウガール! あなた、まだ実戦経験無いでしょ!? スウィートハニィは手強い相手なのよ」
「大丈夫だニャ姉さん。初陣だけれど、必ず手柄を……指輪を奪取してみせるんだニャ」
「ふむ……ならばシャドウレディ、妹に免じて今回は許そうぞ。……シャドウガール、見事指輪を奪取してみせぃ」
「ははっ! ですニャ」
「…………」




戦え!スウィートハニィ

第4話「シャドウガールの誤算」

作:toshi9





 さて、前回レディ・アイを見事に打ち破った光雄であったが……今はそれ以上に手強い相手に悪戦苦闘していた。

「せんせ〜いっ、こっちこっち!」
「おいおい、そんなに急ぐなよ……」
「だってうれしいんだもん。デートデート、えへへ」
「お前なぁ、これはデートじゃないぞ」
「デートだもん。一緒にプールに行って、それからお茶して、買い物して……」
「はぁ〜〜〜」

 光雄の傍らで指折り今日のスケジュールを確認する幸。
 そして、そんなうれしそうな幸が微笑ましくも、自分がその対象であることに対して、相変わらず教師としてこれで良いのかと悩む光雄だった。

(まったく困ったもんだ。だが、いつまた『虎の爪』の怪人が現れるかもしれないし、なるべく桜井の側に居てやらなければ……)

 プールに一緒に行くことに安易にOKしてしまったことを、ちょっぴり後悔している光雄。
 だが、桜井幸の姿からスウィートハニィに変身する様子を『虎の爪』の怪人たちの前に晒したことで、連中が幸のことをスウィートハニィだと思い込んでいることに、責任を感じていた。
 元をただせば自分のせいとはいえ、幸に対してその攻撃の矛先を向けている『虎の爪』から彼女を守るために、ますます幸と緊密さを増してしまう光雄であった。

 だが二人は、後ろから1匹の子猫がつかず離れずついて来ていることに、全く気づいていなかった……

「あれがスウィートハニィだニャ。隙を見て合体してやるんだニャ……」

 子猫=シャドウガールは、光雄と幸の後姿を見ながら目を細めて笑った。





 幸が用意したのは都心の遊園地の中にあるプールのチケットで、遊園地の入場券付きのもの。
 光雄とプールで泳いだ後、遊園地で遊ぼうというわけだ。
 遊園地に入場すると、二人は案内マップを見てプールに向かう。
 子猫はその後をついていく。
 プールの入場口に着いた光雄たちは、受付嬢にチケットを渡して施設の中に入った。

「じゃあ先生、着替えが終わったらここで待ち合わせましょう」
「ああ、じゃあ後でな」

 その頃――

「しっ、しっ!」

 子猫の姿のシャドウガールは、受付嬢に遮られてプールの中に入ることができないでいた。
 遊園地の入口は上手くすり抜けたものの、プールの受付嬢はなかなか手強かった。

「困ったニャァ……」

 子猫の姿でしばらくうろうろしていたが、どうしてもこのままでは中に入れそうもないことを悟り、一度その場を後にする。

「こうなったら、誰か適当な人間と合体して中に入るニャ」

 シャドウガールが辺りを伺うと、丁度一人の女子高生がこちらに歩いてきた。
 白いブラウスの裾をミニのプリーツスカートから出した制服姿は、ちょっとだらしなく見えるものの、それがかえって良く似合うかわいい娘だ。
 手にはチケットを持っていて、どうやらこれからプールの中に入るようだ。
 辺りに人がいないことを見計らって、シャドウガールは女子高生の前におずおずと進み出た。

「ミャー、ミャー」
「あら、子猫ちゃんどうしたの?」

 女子高生の前に座り込んだ子猫は、彼女を見上げて鳴き声を上げた。

「どうしたんだろ? 具合でも悪いのかなぁ……」
「ミャー」

 次の瞬間、子猫は突然彼女に飛びかかった。

「きゃっ!!」

 受け止めようとしたが間に合わず、子猫が胸元に飛びついてくる……いや、そのまま彼女の胸の中にずぶずぶと吸い込まれるように入っていく――

「え? 何? 何なの? ……く、くはっ!?」

 突然苦しそうにしゃがみ込み、女子高生は胸を押さえてぶるぶる震えだした。
 やがて、震えている彼女の髪の中からぴょこんと猫の耳が飛び出し、ミニスカートの内側からは猫の尻尾がにょきっと生えた。

「あ、あ……ああ」

 まるで猫娘のような格好に変身してしまった女子高生は、座り込んだまま不安気な表情で目をパチパチさせていたが、突然その口をにやりと歪ませた。

「よし、成功だニャ。この姿ならきっと中に入れるニャ。中に入ったらスウィートハニィと再合体するんだニャ」

 シャドウガールの作戦とは、得意の合体技でスウィートハニィ(と思い込んでいる)即ち桜井幸と強引に合体し、その体と意志を支配することで指輪を手に入れようというものだった。

「シャドウガール、くれぐれも無理はするなよ」

 建物の影の中から、様子を見に来たシャドウレディが心配そうに囁く。

「大丈夫、あたしにど〜んと任せるんだニャ。姉さんの汚名は必ずあたしが晴らしてみせるんだニャ」

 女子高生に合体したシャドウガールは、幸に合体して指輪をシスターに献上している自分の姿を想像し、ひとしきりにやけていた。

『でかしたぞシャドウガール。褒美に膝の上に乗せて首筋を撫で撫でしてやろう』
『ああ……シスターしゃまぁ……』

「ちょ、ちょっとどうしたのシャドウガール?」
「え? あ、ああっと……さあて、じゃあ始めるんだニャ」

 シャドウガールはよいしょっと立ち上がってパンツの埃を払うと、プールの入口に向かって意気揚々と歩き出した。

「あの子、本当に大丈夫かしら……?」

 その後姿を見送りながら、妹の楽天的な返事にますます不安に駆られるシャドウレディ。
 そんな姉を尻目に、女子高生に合体したシャドウガールは、入場口で受付嬢にさりげなくチケットを渡した。
 受付嬢は耳と尻尾を生やした彼女の姿に怪訝な表情を見せたものの、そこは遊園地の中ということもあり、コスプレかなんかだろうとそれ以上詮索しようともせず、彼女を通すのだった。





 その頃、光雄と幸は各々水着に着替えるため、男女の更衣室に分かれて入っていた。

(先生、『虎の爪』の怪人の気配がする!)
「なんだって!?」

 ポロシャツを脱いで上半身裸になっていた光雄は思わず叫んだ。
 その声に、思わず周囲の注目を集めてしまう。

「あ、いや……」
(あまりキョロキョロしないで。ますます変に思われますよ)
「あ……ああ。で、どうする?」
(この気……あまり強力じゃない。……おそらく女子更衣室の方です)
「そうか。しかし、そうなると幸が危ないっ」

 光雄は慌てて服を着ると、男子更衣室を飛び出した。
 そして物陰に隠れると、指に嵌めている指輪を胸に当てて叫んだ。

『みつお・フラァッッシュ!』

 光の中から現れたのは半袖のセーラー服姿の栗田宏美だった。勿論光雄の変身した姿だ。
 手に持っていた水泳パンツとバスタオルの入ったバッグも、女性用のシースルーバッグに変わっている。その中に入っているのは、幸に無理やり買わされたあの真っ赤なビキニだ。

「よし、この姿なら中に入れるだろう」
(あの……先生、……この格好で……まさか!?)
「おいおい、これは覗きじゃないぞ。俺は教師だ」
(……そ、そうですね、ごめんなさい。さあ早く行きましょう)
「おう」

 栗田宏美の姿になった光雄は、威勢良く女子更衣室の扉を開けて中に入ったが……そのとたん、中に充満しているむっとむせ返るような女臭さに思わずくらくらとしてしまっていた。
 おまけに目の前で繰り広げられているのは、右を向いても左を向いても女の子たちの着替え、着替え……どっちを向いても水着に足をくぐらせている女の子や、下着を手に持つ女の子、バスタオルを体に巻いている女の子がわいわいがやがやと着替えている。
 光雄は「俺は教師だ、教師なんだ」と心の中で必死に呟きながらその中に分け入り……ようやく幸の姿を見つけて声をかけた。

「み、みゆき〜」
「あら宏美、あんたも来てたの?」
「うん。さ……幸は誰と来たの?」
「あたし? えへへ、先生とだよ」
「へぇ、じ、じゃあこの間の予定通りか。ねぇ幸、いいかげん先生は諦めなよ」
「え、そんなの駄目だよ! あたし絶対に先生と一緒になるって決めているんだから」
「あんたねぇ……ほんとしょうがないなぁ」
「宏美ったらそんなこと言わないで応援してよ。それよっか早く着替えよう」
「え? あ……そうか」
「なにそんなにうろたえているのよ。ほら、ぐずぐずしていると先生を待たせちゃうから、早く着替えちゃおう」
「え、えーと」

 幸は尚も躊躇している光雄……もとい宏美の着ているセーラー服を無理やり引っぺがし始めた。

「ちょ、ちょっと、や……やめてよ。じ、自分で着替えるから――」
「ちゃんとアレ持ってきたんでしょう。あたしが選んだやつ。……おっ、あるある。ほら宏美、早く着ちゃいなよ」
「そ、そうね。はぁ〜」
「何ため息なんかついているのよ」
「え? な、何でもないよ……ほら幸も着替えたら?」
「あ、そうだね」
(ううう、本当にこれを着ることになろうとは……)
(先生が女の子の姿でここに入るって決めたんでしょう? 当然こうなるに決まっているじゃないですか。覚悟決めて早く着替えましょうよ)
「ハニィまでそんなっ!?」
「え? 誰?」
「え、ううん、独り言よ。おほほほ」
「変な宏美」

 光雄は仕方なくスカートの中のショーツを下ろすと、バッグから取り出したビキニ用のアンダーショーツを、続いて真っ赤なビキニのパンツを穿いた。
 上着を脱いで体にバスタオルを巻きつけると、スカートを下ろし、バスタオルの中のブラジャーを外し、代わりに水着のブラジャーを胸に着けた。パチッと背中のホックを留めてバスタオルを外す。そして首の後ろで肩紐を結わえると出来上がりだ。
 光雄の目の前の鏡には、そのスリムな体を真っ赤なビキニで包んだ栗田宏美が映っていた。鏡の中の彼女は恥ずかしそうに頬を赤くしている。

(これが俺なのか……それにしても何でこんなにスムーズに着替えられるんだ……あっ、これももしかして?)
(ええ、私が自然にできるようにしているの)

 女の子になり切って、こんな水着に着替えている俺って……
 今更ながら女の子している自分の行為を恥ずかしいと思う光雄だった。

(先生、本当は恥ずかしがり屋なんですね)
「馬鹿! 教師がこんなこと――」
「え? 教師がどうしたって?」
「え? えっと……如月先生がこんなところ見たらどう思うのかなって、へへっ」
「先生が覗きなんかするわけないじゃない。でもあたしのこの胸は先生に見てもらいたいな。ほらっ!」
「うわあああっ! ちちちちょ……ちょっと、そ、そんなもの出さない……でよ」
「いいじゃない女同士だもん。それに『そんなもの』って何よ宏美っ」
「あ、いや、その――」

 Dカップはあろうかという自分の立派な胸を宏美に見せ付ける幸。見せ付けているのが宏美ではなく、本当に光雄だとも知らずに……

 もし桜井にばれたら……あとが怖いな……

 顕わになった幸の胸をじっと見詰めながら、何となく地雷を踏んでしまったような気分の光雄だった。





「ハニィ、怪人がどこにいるのかわかるか?」
(うん、この中にいるのは確かみたい。でもこれだけ人が多いと誰が怪人なのか、よくわからないわ……)
「そうか。とにかくなるべく幸の側を離れないことだな」

 レモンイエローのビキニを着た幸と、真っ赤なビキニ姿の宏美(実は光雄なのだが)は着替えが終わると、一緒に女子更衣室を出て光雄が男子更衣室から出てくるのを待った。
 しかし、いつまで待っても光雄は出てこない……当たり前だ。

「先生遅いなぁ。どうしたんだろう」
「あ――あたし、ちょっとプールの方を見てくる……わ」
「わかった、もし先生が出て来たら追いかけるから」

 プールのほうに探しに行く振りをして物陰に隠れると、光雄は小さく叫んだ。

『みつお・フラァッッシュ!』

 光の中から現れたのは、海水パンツ姿の光雄だった。

「お〜い桜井、こっちだぞ」
「あれ? 先生もう更衣室を出ていたの?」
「ああ。ちょっとプールのほうを見てきたんだ。ごめんごめん」
「ねえ、宏美……うちのクラスの栗田宏美、見ませんでした」
「栗田? い……いや、見てないぞ」
「そっかぁ、先生を探すってプールのほうに行ったんですけれど」
「彼女もここに来ているのか?」
「うん、更衣室の前で偶然会って。でも帰ってこないなぁ」
「まあ泳いでいれば会えるさ。さあ桜井、泳ぐぞ」
「うん」

 ビキニ姿の幸はにっこり笑うと、光雄の腕を掴んでプールに駆け出した。すらりと長い手足が眩しい。

「おいおい、そんなに走るなよ」
「あはっ、はやくぅ〜せんせい!」

 幸はきゃっきゃっとプールの中に入ると、光雄の腕を掴んでぎゅっと胸を押し付けるように抱きついてくる。

「おいおい、そんなに抱きつくな」
「だってあたしあんまり泳げないんだもん」
「それでよくプールに行こうなんて」
「えへっ。……ねえ先生、泳ぎ教えて」
「しょうがないなぁ、じゃあ俺の両手を掴んで、背筋を伸ばして」
「はーい、きゃあ、沈んじゃうよぉ」
「ほら、しっかりばた足しなきゃ駄目だぞ」

 光雄の手を掴んで、幸は懸命に足をばたつかせる。
 プールから上がって休憩する時のその顔は、とっても幸せそうだった。

「それにしても宏美、どこに行ったんだろう?」
「ちょっとその辺を見てこようか」
「んーと、あたしが探して来るから、先生はここにいて」
「そうか」

 宏美を捜してプールサイドを歩きまわる幸。
 そんな彼女の背後に、猫耳のついた帽子と猫の尻尾のついたスカート付き水着を穿いた、おかしな格好の女の子が近づいてきた。

(先生! あの子ですよ。怪人が取り付いています)
「ははぁ、あんな格好でプールサイドをうろうろするなんて変だと思ったら、やっぱりそうか」

 光雄は再び物陰に隠れると、指に嵌めている指輪を胸に当てて叫んだ。

『みつお・フラァッッシュ!』

 光雄の水泳パンツ一枚の体が光に包まれる。
 水泳パンツが粉々に飛び散り、一瞬何も身につけない裸の状態になってしまう。そして空気が再び光雄の周りにまとわり付き始め、別の姿に変化し始めた。
 身長が少し低くなると同時に、体のラインが優しくなっていく。肩のラインがどんどん滑らかになり、腰がぐぐぐっと絞れていく。
 胸とお尻が大きく張り出すとともに股間の一物は消え失せ、そこは縦のすじが入っただけの何も無いのっぺりしたものになった。
 そしてその豊満になった胸と下半身を、赤い滑らかな生地が包み込んでいった。
 きりっとした男らしい彼の顔はかわいくも凛々しい女性の顔へと変貌していく。同時に髪も長く伸びると共に赤く染まり、毛先が跳ね上がっていった。
はいそこ〜っ、コスプレしたままプールに入らな〜いっ。
(illust by MONDO) そう、光の中から現れたのは、真っ赤なビキニの上に監視員用のパーカーを羽織ったライフセイバーハニィだった。

「待ちなさい!」

 幸の後ろから忍び寄るシャドウガールを、ライフセイバーハニィは呼び止めた。

「何だニャ」
「ここはプールよ。コスプレする場所じゃないわ! さっさとその猫耳と尻尾を取りなさい!」
「ぎくっ! ……う、うるさいっ! 人の勝手なんだニャ!」
「え? どうしたの?」

 幸が背後の騒ぎに振り向いた。

「ちっ! 邪魔が入ったニャ、こうなったら……」

 幸に飛び掛ろうとするシャドウガール。だが、ハニィはその間にすばやく割って入った。

「コスプレ女子高生の振りをしているあなた、『虎の爪』の怪人ね! 世間の目は誤魔化せても、このあたしの目は誤魔化せないわよ」
「なんでばれたんだニャ」
「こんなプールの中でそんな格好してたら、目立つでしょうに」
「え? ……う〜ん、結構かわいいと思ったんだがニャァ」
「かわいけりゃ良いってもんじゃないでしょう! あなた何者?」
「あたしは『虎の爪』のシャドウガール。あたしの正体を知るお前は何者だニャ」

 パーカーをぱっと脱ぎ捨てるハニィ。その右手には細身のサーベルが握られている。

「ある時は高校教師、ある時は女子高生、またある時はプールの監視員、しかしてその実体は、愛と正義の戦士、スウィートハニィ!!(うーん、すらすらこの口上を言える俺って……)」

 自分で口上を述べながらちょっぴり落ち込む光雄であったが、すぐに気を取り直す。

「お前がハニィ? ハニィはあの桜井幸じゃなかったのかだニャ?」
「そうよ。あなたたちの組織の情報力も大したことないわね。そんなことであたしからこの指輪を奪おうっていうの? そんなの百年、いえ千年早いわよ! 取れるもんなら取って御覧なさい!」
「何を! あたしと合体したらそんなことも言ってられニャイぞ!」
「合体!? ……そういうことか」

 以前に倒した怪人たちの能力を思い出し、飛び掛かってくるシャドウガールをひらりと避けるハニィ。

「おっとっと、避けちゃ駄目だニャ」
「避けないでどうするのよっ」
「今度こそだニャ!」
「おっとぉ」

 プールサイドで戦うビキニ姿のハニィとスカート付き水着姿のシャドウガール。
 それはほとんど女子高生同士の鬼ごっこ状態であった。

「お! 何かのアトラクションか?」

 たちまち野次馬が集まってくる。
 特撮ショーか何かと勘違いしているらしい。

「ビキニの姉ちゃん〜がんばれ〜っ!」
「名前教えて〜っ!」
「猫娘かわいいぞ〜っ!」

 あちこちから声援が飛んでくる。

「ううっ、もうっ、やりにくいなぁ……」

 右手に握ったサーベルを構え直すハニィ。
 だが、その一瞬の隙をついてシャドウガールが飛び掛ってきた。
 それを避けようとしたハニィだったが……その時爪を立てたシャドウガールの左手が一閃した。

「おお! いいぞ〜猫怪人!」

 男性の観衆から声援が上がる。

「……え?」

 周りを囲む男性の視線が、自分の胸に集中している。
 ハニィがその視線の方向を見下ろすと、自分の大きな胸を包み込んでいたビキニが無くなっていた――

「き……きゃああっ!!」

 シャドウガールの爪に、赤いビキニが引っかかっている。
 顕わになっている自分の胸を左手で抑え、涙目になって思わずしゃがみこむハニィ。そのあられもない姿を、ハート型の目で注視する男達の目、目。

「よ……よくもやったわねぇっ!!」
「わ、わざとじゃないんだニャァ! 事故だニャァ!」

 うろたえながら思わず謝ってしまうシャドウガール……憎めない奴である。
 左手で胸を抑えながら右手でサーベルを構えて立ち上がるハニィ。そこにもう一度シャドウガールが飛び掛ってきた。

「今度こそ大人しく合体されるんだニャァ!」
「しつこいわねぇ……っ!」

 ハニィはシャドウガールの突進を紙一重でかわす。

「うニャッ! おーっとっと――」

 危うくプールに落ちそうになるところで、シャドウガールは強引に踏みとどまる。それに気づいたハニィは、すかさず彼女のお尻を左足で蹴飛ばした。

 どっぼーんっ!!

「うニャ〜ッ! あたしは泳げないんだニャ〜ッ! た……助けてニャ〜ッ!!」

 堪えきれずにプールに落ちたシャドウガールは、手足をばたばたさせて浮き沈みする。
 あっぷあっぷしながら助けを求めるシャドウレディに半ば呆れながらも、ハニィは躊躇うことなくプールに飛び込んだ。
 じたばたたしているシャドウガールを抱えて、プールの縁まで泳ぎつく。数人の男性が駆け寄って、ぐったりした彼女を引き上げた。

「な、何故助けたんだニャ……」
「何言ってるのっ、あなたが助けてくれって言ったからじゃない」

 プールサイドにがくっと膝をついてうな垂れるシャドウガールに、ハニィは微笑んでそう答えた。

「そ、そうだったニャ。あたしの負けだニャ……さあ、ひと思いにやるんだニャ」
「確かにあなたの負け。……そうね、もしかしたらあなたの中の悪い怪人はそこで死んじゃったのかもしれない。……駄目よ、もうこんなことしちゃ」

 ハニィはシャドウガールの額につんと人差し指を当てて、ニコッと笑いかけた。

「ハニィ……負けたニャ……この次は必ず――」

 シャドウガールは合体していた女子高生から抜け出すと、子猫の姿に戻って走り去っていった。
 しかしその胸中には、言葉とは裏腹にハニィに対する今までとは別な感情が芽生えていた。

 ハニィ……





(先生、今回は彼女を倒さなかったんですね)
「あの子はそんなに悪い怪人じゃないような気がしたんでね。怪人だったら全て倒せば良いってもんじゃないと思うんだ」
(先生は優しいんですね……その優しさが、もしかしたら『虎の爪』を壊滅させる鍵になるのかもしれませんね。あの時のあたしにも、もう少しその優しさがあれば……)
「え? 何か言ったかい?」
(いいえ。それより先生)
「なんだい」
(殿方の皆さんが見てますよ)
「え? あ……きゃあああっ!!」

 そう、ハニィは未だにビキニをつけ直していなかった。
 シャドウガールが合体していた女子高生が未だぼーっと座り込んでいる。その傍らに落ちている赤いビキニを引っ掴むと、ハニィは顔を真っ赤にして、慌てて更衣室に駆けていった。

 その日プールサイドにいた男たちは、皆ゆるゆるな表情でプールを後にしたという。





 その頃、幸は未だに光雄を探し続けていた。

「もう……先生ったら何処に行っちゃったのよ? プールのアトラクション見損なったじゃない〜」

 幸はプールを取り囲む人だかりの向こうで何が起こっていたのか、よくわかっていなかった。
 そんな彼女がようやく光雄を見つけ出したのは、それからしばらく後の事だった。





 そしてプールでの出来事をいつものように上空から見詰める目があった。

「ぎぎっ、シャドウガール……無様な」

 闘いの一部始終を見ていたカラスがばさっばさっと飛んでいく。勿論今日もそれを怪しいと思う者はいなかった。


(続く)






シャドウガール
 シャドウレディの妹。姉が影の中に入ってその本体を支配するのに対し、直接合体してその体と意識を支配できる。ある意味姉より強力な能力の持ち主。水が弱点(泳げない!)。
 ハニィに敗れるが、どこか憎めないその性格のため、逆に助けられる。



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