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戦え! スウィートハニィ

第2話「ランプリーレディの陰謀」

作:toshi9



 スウートハニィと『虎の爪』の女怪人達との激闘があった翌日のこと――
 とある場所にて、こんな会話がなされていた。

「シャドウレディ、指輪の奪取、何故失敗した?」
「申し訳ありません。思わぬ邪魔が入りましたもので」
「言い訳は良い、奪取する方法を考えよ。どうするつもりだ?」
「まずあやつの正体を暴き、しかる後に奪取しようと考えます」
「ふーむ、その者はスウィートハニィと名乗ったのか」
「はい」
「しかしきゃつは……そんな筈はない」
「シスター?」
「……なんでもない。で、そのスウィートハニィの正体、あの教師ではないのか?」
「女子高生、女子大生、教師、どれが本物でどれが仮の姿なのか把握できておりません」
「ばかもの!」
「わ、われらの姿、街中では目立ちますので、日中は充分に活動できません。それで今回は、こやつにやらせてみようかと」
『ランプリーレディです。シスター、お目にかかれて光栄です』
「よかろう、見事指輪を奪取して見せよ」
「ははっ!」





 人知れずそんな会話がなされた、その数時間後……
 女子高生・小山田真樹は友達と休日のショッピングを楽しもうと、ケータイをかけながら歩いていた。しかし件の公園の近くに差し掛かると、彼女の足は意思に反して、そこで突然動かなくなってしまった。

「え? え?」
「どうしたの? 真樹」
「体が動か……」

 そのままケータイを切る真樹。そしてにやりと笑うと、ぽかんとする友人を置いて公園の中に入っていった。

(どうしたの? あたしの体が勝手に……)

 公園内の林の中で真樹が立ち止まると、彼女の影の中から猫のような格好をした、怪しげな女性が出てきた。

「連れてきたぞ、ランプリーレディ」

 すると彼女の呼びかけに応じるように、藪の中から黒く細長いぬるぬるした物体がにょろにょろと出てきた。

(ひ! 何よこれ? 巨大うなぎ? 気持ち悪い……)

 真樹は逃げ出したくても依然として体を動かすことができない。蠢く黒くて長いものは彼女の目の前まで寄ってくると、ゆらりと立ち上がった。そして段々と人の形をとっていく。全身がてかてかした黒いタイツを纏ったような、男とも女ともつかない、奇妙ないでたちだ。
 そして黒い怪人は真樹に向かってその両腕を差し伸ばす。両手の手の平にはぱっくりと丸い穴が開いていた。しかも穴の周りにはぎざぎざの歯のようなものが生えている。

(やだー、気持ち悪いよ、やめて、やめてよ……)

 怪人は伸ばした両手を彼女の手の平とぴったりと合わせる。手の平の歯のようなものががっちりと真樹の手の平に食いついた。
 右手に食いついた口は、そこからチューチューっと彼女の血を吸い始める。そして代わりに左手に食いついた口は、彼女の中に自分の血を吐き出していく。

(いや……なに? 何かが入ってくる? やだ、や……)

 真樹は、自分がどんどん自分の体から吸い出されていくような喪失感と、何かがどんどん自分の体の中に入ってくる違和感を同時に感じていた。
 二人の血はどんどん入れ替わっていく。それに従って、真樹の目は段々焦点が合わなくなっていく。
 やがてすっかり目を閉じてしまう……次の瞬間、二人の手の平が離れた。
 同時に黒い怪人は、再び黒く細長いぬるぬるした物体に戻っていく。
 そして突然、真樹は目をぱちっと開いた。

「よし、うまくいったようだな」

 自分の白い手を見てにやりと笑う真樹。

「シャドウレディ様、あたしが側を離れますとあたしの本体はコントロールできませんので、逃げ出さないようにしっかり監視してください。中身はこの女子高生なんですから」

 真樹はそう言いながら自分自身を指差すと、今度はふふっとさも可笑しそうに笑った。

「勿論だ。では頼むぞ」
「ははっ」
(あたしがいる、あたしが……じゃああたしは誰なの? 声が出ない、目がかすむ、体が動かないよ〜)

 元の自分の体を見上げた真樹は、ランプリーレディに体を入れ替えられて地面に横たわっていた。
 そう、まるで『やつめうなぎ』のような体に。





 そんな事件の起こった、その1時間後――
 委員長・相沢謙二が街を歩いていると、後から彼を呼び止める声がした。

「すみません、南高校の方ですか?」
「え? はい、そうですけど」

 振り向くと、そこには他校のセーラー服を着た、美少女が立っていた。

(見かけない制服だけど……はて、誰だろう?)

 訝しそうに少女を見つめる謙二。

「南高校に行きたいんですけど、道を教えて頂けませんか? 場所を教わりながら来たんですが、わからなくなっちゃって」
「そうなんですか、学校に用事か何か?」
「あ、あの、もしお忙しくなければ案内をお願いできないでしょうか」
「え? あ、まあ、いいですよ(こんなきれいな子と……今日はついてるな)」

 謙二と少女は、二駅離れている南高校に行くために、一緒に電車に乗った。

「ほら、あそこ空いてますよ。」
「ええ? そんな、いいですよ」
「まあいいからいいから」

 謙二は電車に乗ると、空いていた隅の座席に彼女を座らせてその前に立った。

「ありがとうございます」

 お辞儀をして美少女は座席に座った。夏の白いセーラー服がとっても似合っている。
 謙二がじっと見つめると、少女は顎に手をやりながら少し恥ずかしそうに微笑んだ。内心、その仕草がまたたまらなく良いなと思う謙二だった。

「あの、お名前は?」
「小山田真樹です。あなたは?」
「相沢です。相沢謙二」
「相沢さん、突然こんなことお願いしちゃって、その……どうもありがとうございます」
「いいえそんな、こんなの大した事じゃないですから」

 ちょっと照れながら答える謙二であった。

「あの、すみません、あなたの両手の手の平、ちょっと見せていただけませんか?」
「は? いいですよ」

 唐突に手の平を見せて欲しいという真樹の言葉に、彼女が何をするのか見当もつかないまま、手の平を上に向けて両手を座っている彼女に差し出す相沢。
 その手の平に、真樹は自分の手の平を合わせるように添えた。

「え? な、何を……」
「ふふっ、ちょっとしたおまじない」
「何かひんやりして……気持ち……い……」

 そのうちに謙二の目は段々とろんとして、やがてがっくりとうな垂れてしまった。
 真樹のほうも静かに目をつぶっている。やがて真樹もがっくりとうなだれたかと思うと、今度は謙二がぱっちりと目を開いた。そしてそっと手の平を離すと、にやりと笑いながら真樹を覗き込む。

「ふふふ、この体もらうわよ。あなたはその体でごゆっくり。……じゃあね相沢謙二くん、いいえ、小山田真樹ちゃん」

 両手を膝の上に置いたまま、うな垂れて眠り続けている「真樹」を置いて電車を降りる相沢謙二。
 そう、小山田真樹になったランプリーレディは、今度は今の自分、つまり真樹の体と相沢謙二の体を入れ替えたのだった。





「情報ではスィートハニィと一番親しいのは、この相沢謙二だということだからな。こいつに成りすましてスウィートハニィに近づく。そうして、隙を見てこの体とスウィートハニィの体を入れ替える。そうすれば指輪は私のものだ。自ずと組織の手に入るというものさ」
「成る程、うまい作戦だ」

 駅のホームを歩く謙二の影の中に潜むシャドウレディが答える。

「ところで、あたしの本体は?」
「クロウレディに任せている」
「ふーん……彼女、ドジが多いけど大丈夫かね?」
「まあ要らぬ心配をしないで、作戦に集中することだ」
「そうだね。ふーん、こいつの記憶では、スウィートハニィの正体は桜井幸ということだな」
「指輪をしているのが本物だろう」
「そうだね。よし……確かめるとするか」
「ところでランプリーレディ」
「何でしょうか? シャドウレディ様」
「桜井幸の家とはこの駅で良いのか?」
「……………………」

 慌てて再び電車に飛び乗る謙二であった。クロウレディのことを言えたものではない。





「……ん、え? あれ? いつの間に眠っちゃったんだ? えーと、真樹ちゃんは? ……え!?」

 目を覚ました謙二は、何時の間にか椅子に座っている自分の手を見て違和感を覚えた。
 いやにちんまりと小さくて、肌の色が白いのだ。

「何だこの手? 腕もこんなに細いなんて……それに何だこのリボン? これってセーラー服か? 何で俺がこんなもの着ているんだ? 脚も何か涼しいような……あれ?」

 謙二が自分の体を見下ろすと、着ていたのは半袖の白いセーラー服――良く見ると、さっき真樹が着ていたセーラー服だった。
 おまけに自分の両胸が盛り上がっている。さらにその下に視線を移すと、ミニのプリーツスカートを穿いている。座ったスカートの裾からは白い太股がむき出しになっていた。

 これって俺の脚?

 慌てて丁度ドアの開いた電車を降りて、駅のホームの鏡に自分の姿を映してみると、そこに映っていたのは真樹――さっきまで向かい合って話していた小山田真樹だった。
 謙二が頬をつまむと、鏡の真樹も頬をつまんだ。胸に手を当てると鏡の真樹も手を当てる。胸を軽く揉んでみると……

「い、痛っ、本物のおっぱいだぁ……ええ!? 何でぇ、何で俺が、え、え? あ、あ……声がっ!?」

 そう、声も優しい女の子の声、真樹の声になっていた。

「どういうことだ? まさか真樹ちゃんと入れ替わった? でもこんなこと普通起きるわけないよ……ということは、これってあの『虎の爪』ってやつらの仕業じゃないのか? ……いけない! 桜井が危ないっ!」

 駅を出て桜井幸の家に向かって駆け出す、真樹の姿の相沢謙二。
 相変わらず思い込みの激しい性格であった。まあ半分は当たっているが……





 スカートを翻して桜井幸の家にたどり着くと、謙二はもどかしげにインターホンを押し鳴らした。

「桜井、桜井っ」
「はい、どなた?」
「あ、幸さんいますか?」
「私だけど、あなた誰?」
「相沢だよ、クラスの相沢謙二」
「委員長? だって声、おかしいよ」
「いいからちょっと出てきてくれないか」
「んー、わかったわかった。ちょっと待ってて」

 程なくして幸は玄関に出てきたものの、謙二の姿を見るなり唖然とした表情で立ち止まってしまった。

「あ、あなた誰よ?」
「だから相沢だって」
「何言ってるのよ。どこの子か知らないけど、あたしをからかってるの?」
「違うんだ。気がついたらこんな格好になってしまったんだ。俺はほんとに相沢謙二なんだよ」
「そんなぁ〜」
「きっと『虎の爪』の仕業だ。お前が危ないと思って急いでここに来たんだ」
「あなた何わけわかんないこと言ってるの?」
「二人っきりなんだから、今は隠さなくてもいいじゃないか」
「やっぱりあなたあたしのことをからかってるのね。帰って頂戴!」
「信じてくれ、きっと『虎の爪』の刺客がここにくるっ」

 謙二は幸に必死に説明するものの、初対面の美少女のおかしな言動に、幸は取り合おうとはしなかった。
 その時、不意に謙二の後ろから幸に声をかける者がいた。

「おい、桜井」
「あら委員長じゃない……ってことは、あなたやっぱりあたしをからかってたのね。ほら本人が来たわよ」
「お、俺だ! お、お前誰だ」
「俺か、俺は相沢謙二」
「違う、相沢謙二は俺だ」
「この子さっきから変なことばっかり言ってきかないのよ」
「おかしな子だなぁ。こんなにかわいいのにね。さあ、俺は桜井と話があるんだ。君は帰ってくれないか」
「そんな、桜井……」
「ほら、帰ってよ」

 もう一人の自分が現れ、しかも今の自分は幸に本物の相沢謙二であることを証明する術がない。
 謙二はいったん引き下がることにした。

「くやしいなぁ、桜井に信じてもらえないなんて。それにしても俺の偽者の正体って……まさか『虎の爪』の刺客……どうする? ……待てよ、如月先生は桜井の秘密を知っているんだよなぁ。よし、先生に相談してみるか」

 再び短いスカートを翻して駆け出していく相沢であった。





「変な子ね。何だったのかしら?」
「お前、今日は指輪してないのか」
「指輪? 私そんなのしないよ」
「この間指に嵌めてたじゃないか」
「えぇ? でも指輪なんて、私普段は嵌めないもん」
「……そうか」
「変な委員長」
「ふーん、どうやら本当に指輪のことは知らないようだな。ということは、やはりあの教師のほうか」





 謙二ははぁはぁと息を切らしながら光雄のアパートにたどり着くと、部屋のドアを叩いた。

「先生! 先生!」
「誰だ君は? うちの制服じゃないな、一体何の用だい?」
「俺、相沢謙二なんです」
「は? 俺をからかっているのか」
「いえ、実は……」

 謙二は今までの出来事を、必死で光雄に説明した。

「ふむ、そんなことがあったのか」
「信じていただけるんですか」
「君の目は真剣だ。それに……」
「え?」
「いや、何でもない。それより、もう一人のお前が桜井幸のところに現れたんだって?」
「はい。早く何とかしなければ、幸が危ないんです」
「まあ待て、本当に『虎の爪』の仕業なのかどうかわからないだろう」
「でもこんなことが起こるなんて、それ以外に考えられません!」

 自分のスカートを捲り上げて、その中身を見せ付ける謙二に、光雄は思わずたじろいでしまった。

「おいおい、わかったわかった。女の子がそんなことするもんじゃない」
「俺は男です!」
「まあ落ち着け。俺に考えがある。この先の公園で、ちょっと待っていてくれないか」
「どうするんですか?」
「俺が桜井を説得して連れてくるよ」
「それなら俺も――」
「お前は行かないほうがいい。また話がこじれるからな」
「そうですか……じゃあ先生、桜井をお願いします」
「ああ(相沢、結局巻き込んじゃったみたいだなぁ……すまん)」





 相沢を部屋から出すと、光雄は指輪を胸に当てて叫んだ。

『みつお・フラァッッシュ!』

 光雄の体が光に包まれる。そしてその中からセーラー服姿の桜井幸が現れた。

「相沢の話だと、この間の連中が何か企んでいるってことだよな。本物の幸に何か起きないうちに、何とかしなきゃな」

 その時、ドアの向こうから光雄を呼ぶ男の声がした。

「先生、いませんか。相沢です」

 幸の姿の光雄はドアを開けた。

「あれ? 桜井、さっきまで家にいたんじゃ……」
「ん……先生に急に会いたくなっちゃって。それよか相沢くんこそ、どうしたの?」
「先生にちょっと尋ねたいことがあってね」
「そうなんだ。でも先生いないみたいだよ」
「なんで君が中にいるんだ」
「先生にアパートの鍵をもらってるの(ニセモノじゃなかったらこんなこと話せんな……)」

 その時ニセ相沢は、光雄の指にあの指輪が嵌められているのを見逃さなかった。

(今度は指輪をしているようだな。何でさっきはしらばっくれてたんだ。よし、とにかくこのまま体を入れ替えてやる……)

 前回シャドウレディは光雄の体を操ったが、それは単に操るだけの能力でしかなかった。
 しかし、このランプリーレディの能力は違う。彼女は手の平を通してお互いの血液を交換することで、相手と自分の体を入れ替えることができるのだ。
 ランプリーレディは指輪の持ち主、すなわち目の前の幸と体を入れ替え、幸本人になることで、指輪の主になることを目論んだのだ。

「桜井、実は……」
「あ、あたしこれから公園に行くんだけれど」
「じゃあ、一緒に付き合うよ」

 幸の姿の光雄と、謙二の姿のランプリーレディは連れ立って、件の公園に行くことになった。
 公園のベンチに二人で腰を降ろすと、ニセ相沢のほうから声をかけてきた。

「桜井、君の両手の手の平を見せてくれないか」
「え? どうして?」
「ちょっと面白いおまじないを教わったんだ」
「へぇ、そうなんだ」

 ニセの相沢とわかっていながらも、様子を伺おうと自分の両手を差し出す光雄。
 にやりと笑いながら自分の両手をそこに添えようとするニセ相沢。
 その時――

(駄目! そのまま手の平を合わせたら!)

 光雄の頭の中に、突然誰かの声が響いた。

 誰だ、この声……どこかで聞いたような。

 手の平を合わせると、光雄は手の平にチクっと痛みを感じた。それと共に段々頭がぼーっとしてくる。

(いけない、このままじゃ……変身して!)

 誰かの呼び掛ける声に、ぼーっとしていた光雄の頭の中は、ぱっと霧が晴れたように突然すっきりした。
 光雄は両手の手の平を強引に引き離すと、指輪を胸に当てて叫んだ。

『みつお・フラァッッシュ!』

 光雄の体が光に包まれる。
 セーラー服が粉々に飛び散り、一瞬何も身につけない裸の状態になってしまう。
 そして空気が再び光雄の周りにまとわり付き始め、幸の姿から別の姿に変化し始める。
 上半身は胸の大きく開いた滑らかで真っ赤なノンスリーブシャツ、下半身は黒のタイツに包み込まれ、それは腰のところでジャンプスーツのように一つにくっついていった。踵がくっと持ち上がり、両足は白いブーツに包まれる。同時に髪が短くなりながら赤く染まり、跳ね上がっていった。胸とお尻は一段と大きく張り出し、細い腰はさらに絞れていく。
 薄い生地のジャンプスーツは今の光雄の日本人離れした見事なボディラインをくっきりと描き出していた。
 そしてブーツと同じ白い色の手袋に包まれた右手には細身のサーベルが握られていた。

「あなた、相沢くんじゃないわね。一体何処の何者? 世間の目は誤魔化せても、このあたしの目は誤魔化せないわよ」
「ふん、ばれては仕方が無い。それでは私と一緒に来てもらおう」
「もしかしてあなた、何時ぞやの変態の仲間?」
「変態ではなーい! 『虎の爪』のランプリーレディだ」
「またあたしからこの指輪を奪おうって言うの? そんなの百年、いや千年早いわよ。取れるもんなら取って御覧なさい」
「一応聞こう。お前、何者だ」

「ある時は高校教師、またある時は女子高生、しかしてその実体は、愛と正義の戦士、スウィートハニィ!!(……うわぁ、また言っちゃったよ)」

「ちょこざいな! 力ずくでも連れて行くよ。それにこの体は相沢謙二の体だ。倒せるものなら倒してみな」
「あ! そうか」

 胸を張って挑発するランプリーレディに、思わず頭を抱えるハニィであった。

「あ、桜井、来てくれたのか。え! 俺?」

 そこへセーラー服の美少女・小山田真樹の姿をした相沢が飛び込んできた。

「ふふん、大人しく寝ていれば良いものを」
「そんな……お前本当に誰だよ?」
「来たれ我が本体!!」

「シュル……シュル…………」

「な、何あれ?」
 突然藪の中から、にゅるにゅると何かが出てきた。

「シュル……シュル…………」
「それっ、やっておしまい!」
「俺が女言葉を喋っている……何かいやだな」
「それどころじゃないでしょう!」

 相沢の体を乗っ取っているランプリーレディと、てかてかした全身真っ黒な人型に変体したその本体。
 ハニィはどちらを攻撃したら良いのかわからず、サーベルをだらりと下げると、しばし考え込んでしまった。

(相沢くんの姿をした方を刺すのよ)
「相沢を? でもそんあことをしたら、あいつ元に戻れないんじゃないのか?」
(大丈夫、ランプリーレディの血が相沢くんの体から抜ければ、みんな元に戻る)
「俺に話しかけるお前は何者なんだ?」
(話はまた後でゆっくりと。今はあいつを倒すことだけを考えて)
「よし、その言葉、信じるぞ!」

 光雄はひゅっとサーベルを振ると、ニセ相沢の方に向かっていった。

「くっ! いいのか。あたしを倒すと本物の相沢謙二はずっと小山田真樹のまま、小山田真樹は私の醜い姿のまま一生を送ることになるんだぞ。それでもいいのか!」

 光雄はそんなランプリーレディの脅かしに耳を貸さず、ニセ相沢に向かって右手に持ったサーベルを振り下ろした。

「ぎゃー!!」

 相沢の服がさっと切り裂かれ、ぱっと血飛沫が上がる。

「うわっ、いいのか!?」
(心配しないで。ほら、御覧なさい)

 そう、相沢の体から霧のように抜けていく血飛沫はランプリーレディの本体に向かって飛んでいった。そしてその中に吸い込まれていくと、今度は本体から再び血飛沫が舞い上がる。それは小山田真樹の体に向かって飛んでいくと中に吸い込まれていった。そして再び小山田真樹の体から上がった血飛沫は相沢の体の中に飛び込んでいった。

「お! 俺だあ」
「あ! あたし!」
「よかった、本当に元に戻ったのね」
「くそっ、こうなったら!」

 無事とは言えないもののようやく元に戻った相沢と真樹、そして不本意ながら本体に戻ってしまったランプリーレディ。
 しかし、ランプリーレディはスウィートハニィに立ち向かって来るのかと思いきや、うなぎのような形態に戻り、のそのそとその場から逃げようとしていた。

「許さない! 許さないんだからぁ! ……いっけぇっ!!」

 ハニィはのたのたしているランプリーレディの体に向かって、サーベルを突き刺した。

「ぎゃー!! 申し訳ありません。シスター……」

 サーベルで刺し抜かれたランプリーレディはその場でじっと動かなくなり、やがて塵となってしまった。そして吹いてきた風に舞って消滅してしまった。





「ランプリーレディ、全くエグいことをする奴だったなぁ」
「あの、あたし」
「小山田真樹さん、あなたは夢を見ていたの。悪い夢をね。もう忘れることよ」
「ええ、何だかまだ頭がぼーっとして。よくわからないけど、ありがとうございました」

 まだ状況を理解できないまま二人に礼を言って去っていく真樹であった。

「桜井、ありがとう。俺一生女の子のままかと思ったよ」
「相沢くん、傷は大丈夫?」
「ああ、かすり傷だ。あんなに血飛沫が上がったのに傷は浅いよ。痛みもない。桜井ってすごい腕だなぁ」
「相沢くん、この間の借りは返したわよ。それからこの格好の時はスウィートハニィって呼んで」
「そうか、桜井じゃ何か変だもんな、よし、スィートハニィ、これからもよろしくな」
「うん(相沢、元に戻れてよかったな)」





「ぎぎっ、ランプリーレディ……失敗したか、仕方ないが報告せねば」

 木の上から闘いの一部始終を見ていたカラスがばさっばさっと飛んでいく。勿論それを怪しいと思う者は誰もいなかった。

(続く)






【補足】 ランプリー=lamprey …… 「やつめうなぎ」のことです。

ランプリーレディ
 本体は大型のやつめうなぎのような形態。短時間だけ全身黒タイツを着た人間のような姿になることができる。手の平の口を通して自分の血と相手の血を入れ替えることで、体を入れ替える能力がある。また、入れ替わった相手の記憶を利用できる。ただし力はほとんどないので、肉弾戦には弱い。
 スウィートハニィと体を入れ替えることで指輪を自分のものにしようとしたが、謎の声によって能力の限界を喝破され、スウートハニィに敗れる。

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