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青空の魔法 4

作:きりか進ノ介


久しぶりに、太陽が顔を出した。
青い空が白い雲を浮かべて、まぶしく輝く。


大村湾、という名の湾が長崎県にある。
琵琶湖には及ばないが、霞ヶ浦に匹敵するほどの大きな『湾』だ。
その湾が外海につながるのが、幅わずか200mほどの針尾瀬戸。
早岐瀬戸というのも横にあるが、あまりに細長く、つながっているとは言いにくい。

潮の干満に伴って、針尾瀬戸を大量の海水が出入りする。
この時、瀬戸の水は川のように流れ、条件によりダイナミックな渦潮も生まれる。
静と動の同居する雄大な風景は、美空の大のお気に入りだ。

1955年にこの針尾瀬戸に架けられた、赤いアーチの美しい『西海橋』の上。

「完成の翌年にラドンに破壊されて、国費を投じて再建され現在に至る、だよね。」
「だから、映画と現実をごっちゃにしないの!」
歩いているのはもちろん、美空と美月である。


美空は、ジーンズに青と白のボーダーシャツ、白のパーカーと、スニーカー。
晴れた空に輝く金髪と、青い瞳もアクセントになり、けっこう決まっている。
美月はチョコレート色のスラックスに、薄い黄色のブラウス、明るい茶色のジャケット。
ブラウスの上に蝶むすびの形で揺れる、細いチョコレート色のリボンがおしゃれだ。

「だいたい、買い物に行くんじゃなかったの。」
足もとの水たまりを気にしながら、美月が文句を言う。

「ん。 あんまりいい天気だったから、つい、ね。」
「そういうことは家を出る前に連絡してよね。 服装とか、用意があるんだから。」
美空の女の子修行も、まだまだである。


二人は、西海橋公園に入った。
瀬戸の両岸に沿って広がる、緑豊かな公園だ。
見所の多いのは、第2西海橋や三本アンテナの望める佐世保湾側である。
だが美空は、大村湾側に美月を誘った。

「うん、この辺でいいかな。」
二人は、ならんで腰を下ろした。
手持ちのバッグから、途中で買ってきたタコスと飲み物を取り出す。

瀬戸の向こう側に、あざやかなオレンジ色のリゾートホテルが建っている。
青空をバックにそびえる威容は、日本のものとは思えない。
右手に見えるのは、大村湾だ。
眼下の瀬戸の川のような流れと対照的に、さざなみを浮かべた水面が広がる。
外海から完全に隔離された湾は、いつも、微笑むように静かな顔をしているのだ。

「大村湾は『湾』なのに、サロマ湖は『湖』なのよね。 どうしてなんだろうね。」
「知らないわよ、そんなこと。」
美月はにべもなく言って、タコスを口に運んだ。

「おいしい!」 
ひとくち食べて、美月は明るい声をあげた。
芳醇なトマトソースの香りと甘み、チリの辛さ、さっぱりしたレタス。
それにひき肉とチーズの旨みが、絶妙のハーモニーを奏でる。

「食べたことなかったの?」
「記憶にないわ。 初めてかもしれない。」
佐世保といえばハンバーガーが有名だが、ここはアメリカの食べ物はなんでもレベルが高い。

美空も、慣れた手つきでタコスを口に運んで、こちらは「あれっ?」という顔をした。
仔細に、手に持ったタコスを観察する。

「どうしたの? 何か、おかしかった?」
「ううん。 おいしいんだけど、味、変わったかな?」
「そうなんだ?」
「見た感じ、変わんないんだけどね。」

すこし考えて、美空は、あ、そうか、と言った。
「たぶん、あたしの味覚が変わったんだ。」

美空に変わってから、ときどきある感覚だ。
これってこんな匂いだったかな、とか、この曲にこんな音が入ってたかな、とか。
肌ざわり、なんて気にしたことなかったのに、今は柔らかくないと着る気にならない。

男と女の見ている世界って、微妙に違うんだ。
女の子として食べるタコスの味は、新鮮で、繊細に感じられた。


船が、瀬戸に入ってきた。
狭い瀬戸には不釣合いな、貨物船だ。
流れを利用するように、外海に向かって巧みに舵をとる。
すこし遅れて、曳き波が海岸の岩を洗い、ざわめきを立てる。

美空と美月は、食べ終わったあとも、しばらく景色に見入っていた。




「美月。 あたしって、なんだろうね。」
美空がつぶやいた。


「いきなり、なによ。」
美月は、すこし考えてから言った。

「とっても非常識な魔法を使いこなす、魔法使い、かな。」

それだけ? と問いかけるような美空の視線に促されて、付け足した。
「それから、わたしの大切な友達。」

「うーん。 ありがとうの気持ちを込めても、60点かな。」
「なによお。 じゃあ、答えはなんなのよ。」


「その前に。 あたしの人格って、そらと同じなのかな。 違うのかな。」
「そんなこと、わたしには分からないわよ。」
「美月には、どう見えるのかを聞きたいのよ。」

美月は、慎重に言葉を選びながら言った。

「本当のことは分からないけれど。 同じ人間だとは、わたしには思えないわ。」

美月の知っている『そら』(男だった時の『美空』)は、物静かな少年だった。
静かに笑って座って、考えていることの半分ほどしか表に出さないような。
よく言えば神秘的、悪く言えばあまり愛想のない少年だったのだ。


「でしょうね。 あたしの答えも同じ。 そらと美空は、別の人格。」
「やっぱり、昨日の朝礼のときに、そこまで考えてたんじゃない。」

「でも。 あんまり、認めたくないんだ。」
「どうしてよ。」
美月の問いに、美空は答えず、唐突に言った。


「ねえ、美月。 あたしのために、もう一回だけ、男になってくれない?」

とんびが、瀬戸を渡ってきた。
よろろろろ、と、澄んだ高い声が聞こえる。

「さっき、バスの中でもことわったでしょ。 だいたいわたしを男にして、なにをする気よ。」
「別に。 ここで並んですわって、静かに話をしたいだけ。」
「つつしんで、お断りいたします。 着替えるのだって大変だよ、そんなの。」
「そっか。 そうだよね。」

美空は、傍らの石を拾って、瀬戸に向けて放った。
石は放物線を描いて、しかし水面までは届かず、黒い岩に当たって、跳ねた。

「どうして、別の人格だって認めたくないのよ。
そら君はそら君、美空は美空。 それでもいいじゃない。」
美月が、かさねて聞く。

「だってね。 別の人格だって、認めちゃうとね。」
美空は、まるで涙をこらえるように、空を見上げた。


「あたしが、白川 そらに、戻ったら。 
あたしの、つまり、美空の人格は、いったい、どうなっちゃうんだろう、って。」


美月は、答えられなかった。





流れの速い瀬戸に、小船がしぶきを上げた。
潮の匂いと青葉のさわやかな香りがまじりあって、風に乗って駆け抜けていく。



始めの美空の問い。
「あたしって、なんだろうね。」 に対する、美空なりの答えは。

体が女になった事を認識したとき、そらは、本能的に考えた。
ちがう。 こんな姿は、自分じゃない。
女になんかなりたくない。
どうすれば、自分を、男としての意識を、守ることが出来るか。

とっさに、そらは意識の奥底に壁を作り、自分の意識を閉じ込めた。
代わりに、体のコントロールを、彼がゲームで使っていたキャラクターに託したのだ。
少女としての性格付けを施され、少女の自覚を持つ、美しい姿の分身に。

なにも難しいことはなかった。
モンスターと戦ったり、アイテムを買ったり、他のプレーヤーと話をしたり。
これまでだって、彼女は立派に彼の代わりをつとめて来たのだから。

そのフィールドが仮想世界から現実に置き換わった。 ただ、それだけのこと。

そう。
もともと美空は、そらがゲームのキャラクターに投影した、架空の存在だ。
それが今、そらの代わりに表層に出てきて、こうして考え、話し、泣いている。
太陽の光も、潮の香りも、風の涼しさも、感じていられる。

でも。
それは、すべて、まぼろし。 夢。

そして、夢は、覚めるときが来る。


美空の推測が正しいならば、男に戻ったとき、そらの人格は回復し、主導権を握るだろう。
そのとき、美空の人格、美空の意識は。


…… おそらく闇に沈み、再び表に出られることは、ない。


美空は、白い封筒を取り出して、美月に渡した。 封は切ってある。

「これって、昨日の。」
美空の靴箱に入っていた封筒だ。

「読んで。」
美月は、うながされて手紙を取り出した。



― 男に戻りたければ、明日14時、人のいない場所で待て ―



  「だからね、美月。 お別れ、なの。」



一瞬、麻痺したように固まっていた美月は、美空の言葉で我に返った。
あわてて携帯電話で時間を確認する。


「って、美空、もうとっくに1時を過ぎてるじゃないの!」
こくり、と、うなずく美空。
「あなたは、どうしてこんな大事なことを、今まで!」

「お母さんには、ちゃんと言ってきたんだよ。」
美空はそれだけ言って、直接には答えなかったが、美月は、すぐに理解した。


最後まで、美月と、楽しく話していたかった。
太陽の光を浴びて、潮の香りをかいで、鳥の声に耳を傾けて。
きれいな景色を見て、おいしいものを食べて、笑っていたかったんだ。

そして、あたしを男にしたがったのは。
最後に、女の子として、デートを、してみたかった?


美月は、勢いよく立ち上がった。


「美空。 そらの服を、貸して。 持って来てるんでしょう。」

すこしうるんだ青い瞳を、美空が上げた。
「いいよ。 もう。 こうして美月といられただけで、満足よ。」
「わたしが良くない! その辺で着替えて来るから、貸して!」

美月は、美空の手から服をひったくると、駆け出しながら、言った。
「2分で戻るからね! 絶対に、待ってなさいよ!」



美月がだぶだぶの男物のシャツを着て戻ってきたとき、美空は、まだそこにいた。
いとおしそうに、風景を見ている。
緑の山、青い瀬戸、透きとおる空。

「お待たせ、美空。」
美月は、美空に並んで腰をおろして、言った。


「いいよ。 魔法を、かけて。」


「本当に、いいの? 無理しないでいいんだよ。」
「いいの。 わたしが望んでかかるの。 さあ、やって。」

美空は、美月にもたれかかった。
美月は、美空の腰に手を回した。

「ありがとう。 美月。 大好きだよ。」



「Wake Up。」
ペンダントに、青の光があつまる。


「げっと、れでぃ。 あんど、ふぁいや。」

美空のやさしいつぶやきを合図に、やわらかい光が放たれた。
二人の想像が、美月の体を変えてゆく。
たくましい、男の体に。

光が収まったとき、二人は、互いに異性の香りを感じ、胸の高鳴りを覚えた。



「美空。 そら君に戻ってから、自分の魔法で美空になることは、できないのかな。」
ならんで海を見ながら、男の声で、美月が聞く。

「どうでしょうね。
お母さんは、女のための魔法、って言ってたから、難しいかもしれないわね。」

「美空、しゃべり方がいつもより女っぽい。」
「美月も、ちょっと違ってるわよ。」
肩を寄せ合ったまま、顔を見合わせて笑う。

「それよりも、美月、RPGをやってくれないかしら?」
「ゲームを?」

「うん。 ほら、あたしはもともと、そらがゲームするときのキャラだからさ。
そらの使うキャラクターとしてなら、これからもいられると思うの。
そらに頼んで、とっても強い魔法使いにしてもらうから。
ふたりで、冒険しようよ。
美月と一緒なら、アデンでもイヴァリースでも、きっと楽しいと思うわ。」

「どこって?」
「そういう名前の世界があるの。 でも。」
美空は、泣きだしそうな声で、言った。


「どの世界も、この世界にはかなわないんだけどね。」


「美月。 おねがい。
肩を抱いて。 ぎゅーっと、強く抱いて。 あたしが、消えてしまわないように!」


美空の震える細い肩を、美月は、おもいきり抱きしめた。
美空は抱かれながら顔をあげて、美月と目を合わせた。
それから。 そっと、目を閉じた。
美月が美空の頭をやさしく抱き寄せ、そして、ふたりの唇が・・・。


残されたわずかな時間。
ふたりは、そのまま動かなかった。



ピッピッピッ。
男物の腕時計のアラームが鳴って、美空は、ゆっくりと美月から離れた。

「ありがとう。 美月。」
「美空……。」

「夢の時間はおしまい。 本当に楽しかったわ。 もとに、戻すね。」
美空は、美月の胸に手を当てた。

「Release。」
光が通り抜け、美月はもとの通りのかわいい女の子に、あっというまに姿を変える。



美空は、立ち上がった。



「さようなら、美月。」
すっと向こうを向いて、何事もなかったかのように歩き出した。

「美空、わたしも。」
「だめだよ。 そらが来るまで、その辺で待ってて。」

美空は10mほど行って、立ち止まった。
むこうを向いたまま、顔を袖でぬぐった。
そして、美月を振り返り、青空をバックに、とびきりの笑顔で手を振った。


「ほんとうに、ありがとう! 美月、また会おうね! 約束だよ!」


泣き出した美月に背を向けて、美空は走り出し、2度と、振り返らなかった。









<その後。 そして、いざない。>

「白川さん。」
人の気配の途切れた林の中で、立ち止まった美空に、男の声が掛かった。

「手紙のとおりにしたわよ。 さんざん人の気持ちをもてあそんで、楽しかった?」

美空は、相手をにらみつけた。 男だ。 30歳前後だろうか。
「かんにんな。 悪かったわ。 こんなに、こんがらがるとは思えへんかった。」
男は、ひょこっと頭を下げた。
「悪いついでに、もう一つ、お願いが有るねんけど。」

「ずうずうしいわね。 でも、ま、いいわよ。 協力するわ。」
「………まだ、用件も言うてへんで?」

「こっちに選択権なんて無いんでしょ。 さっさと済まして、美月にそらを返してやって。」

「まあ、その通りやねんけどな。」
男は、頭をかきながら言った。


「もとに戻る前に、僕の世界を救う魔法使いの役を、やって欲しいんや。」
「………またわけのわからないことを言い出したわね。」


こうして、美空は別の世界で冒険をして、みごと男に戻る珠を持って帰るのだが。
そのお話は、またそのうちに、もし機会があれば。









<エピローグ>

どれくらい、経っただろう。
美月は、男の服を着たまま、ぼんやりと、海を見ていた。


これで、良かったんだろうか。
美空がここで生きていく方法は、なかったのかな。

美空のバカ。
全部、ひとりで背負い込んじゃって。
そら君が帰ってきたって、これじゃ、あんまり嬉しくないじゃない。

ゲームの世界でもなんでも行ってやるわ。
こんど会ったら、山ほど文句を言ってやるんだから。
ひっぱたいてやってもいい。

覚悟しときなさいよ。
はたいてはたいて、はたきまくってやるんだからね!


「美空のバカ!」
大きな声で、美月は、海に向かって言った。

「………バカで、悪かったわね。 他にしょうがなかったのよ。」
美空の声が、風に乗って聞こえたような気がした。


「いつまでその服を着てるの。 もう一回、男にしたげよっか?」


え? そらみみじゃ、ない?


美月は、振り向いた。


金色の長い髪と、青い瞳、白い肌。
抜群のスタイルの、ジーンズの女の子。
美空が、そこに立っていた。


「あはは。 また会えたね。」
照れくさそうに笑う。

「美空!」
美月は、美空に駆け寄って、両手をとった。

「美空、美空、美空! 良かった。 美空!」
ひっぱたくことなどすっかり忘れて、美空の手を握ったまま、周りをぐるぐる回る。

「美空! おかえり。 良かった。 でも、どうして?」

「そらに戻る道具は、手に入れて来たんだけどね。」
美空は、珠を出して見せた。
「あ。 ほんとだ。」


「そらに戻るのは、いつでもいいんだって。
あたしも、まだこの世界に未練があったから、このまま帰ってきちゃった。」

バツの悪そうな顔をした美空に、美月は言った。

「これからどうするかは、納得いくまで考えようよ。 ちゃんと、二人でね。」

「よかった。 美月に怒られるんじゃないかと思って、どきどきしてたんだ。」
「怒ろうと思ってたんだけど。 でも、もうどうでもいいわ。 今は、一緒にいて。」
怒る理由が微妙にずれているのだが、二人とも気にしていない。


「じゃ、今からどうしようか。」
美空は美月の手をとったまま、真顔で言った。

「あそこのホテルで、さっきの続きはどう? あたしはいつでもOKよ。」

さらり、と、とんでもないことを言いだす。

「い、いつでもって、なにがよ。 はしたない。 あたしは、絶対にいやだからね!」
「む。 美月ったら、さっきは、あんなに激しかったのに。」
「なんにも激しくしてない!」
美月は真っ赤になっている。

「わたしのファーストキスだったのに。
自分が男で、相手が女だなんて、想像もしてなかったわ。」

「でも。 嬉しかったよ。」 と、美空。
ますます赤くなって、美月の額からは湯気が噴き出しそうだ。

「ま、冗談はさておき。」
「じょ、冗談なの?」
「本気で、する?」

ぶんぶんぶん。 必死で首を横に振る美月は、とってもかわいい。
美空は、くすっと笑って、言った。

「あたし、温泉に入りたいな。
そこのホテル、日帰り入浴やってたよね。 美月も着替えられるし、寄っていかない?」

美月は、まだ男物の服を着たままだ。
さっきは逆上して 「その辺で」 着替えた美月だが、正気に返ってみれば、それはできない。

「いいけど、あそこ、ちょっと高かったんじゃない?」
「気にしないで。 おごるわ。」
「………ずいぶん気前がいいわね。」
「どうせ、そらの小遣いだもの。 あいつがゲームをひとつ我慢すれば、お釣りがくるわよ。」


「じゃ、行こう。」

季節は春から夏へ、まぶしい風につつまれて。
二人は国道へ向かう登り坂を、手をつないで、ならんで歩き始めた。

果てしない青空が、二人を見守るように輝いていた。



あとがき

 ○月○日   天気:黄砂

 十数年ぶりに、西海橋を訪れた。

 昨年、落書きのように書いた、小説のようなもの。
 その舞台として、かすかな記憶、地形図、潮汐表、Webページなどを頼りに
 情景を描き出そうと模索するうちに、現実の景色を確かめたくなったのだ。

 クライマックスの舞台として設定したポイントには、今回、生まれて初めて立った。

 水際で、父親と母親が少女を遊ばせている。
 子供好きの私の同行者は早速そちらに駆けて行き、私は一人で風景を見ていた。

 川のように流れる瀬戸、澄んだ水、波の音、とんびの声。
 完全に描写どおりではなかったが、その景色は、私には十分満足のいくものだった。
 自分で書いた話なのに、美空と美月を思い起こして、いつか泣きそうになっていた。
 まったく、おかしな奴だと思う。

 「かわいい子だね。」
 傍らに戻ってきた同行者に、心を悟られないように、自分から声をかけた。


 「かわいいよね。 美空ちゃん、っていうんだって。」


 心底、おどろいて顔を上げた私に、『美空ちゃん』は、恥ずかしそうに、笑った。

 もちろん偶然に決まっている。
 世の中に美空なんて名前の子は、たくさんいるだろう。
 たまたまその日にそこにいて、たまたま名を告げて、たまたま目があって笑った。
 それだけの、ことだ。
 自分の書いた雑文と、なんの関係もあろうはずはない。

 ――― 私はその日、この話を投稿することを決心した。


ここまで、脚色はしてますが実話だったりします。
お読みいただきましてありがとうございました。 きりか進ノ介です。

『虹色のトレイル』 の中でも、特に思い入れの深い作品です。
あとがきを書き始めると本文くらい書くことがあるのですが、すこしだけ。


美空とは、いったい何だったのか。

作中で美空の出した答えは、「あたしはそらの身代わり人形。」
だから、「そらが目覚めれば、あたしは、消える。」

………筆者に言わせれば、「うーん、60点かな。」と。(笑)


美空の答えは間違ってはいませんが、完全ではありません。
美空はそれと同時に、そらの『夢』であり、そらの『欲望』の象徴なのです。

ですからシモネタを平気で口にするし。
そらをいじめた黒沢に襲い掛かるし。
美月をベッドに引きずり込もうとする、のでしょう。

そして、ラストで男に戻ってみせなかったのは、そらが心の底で望んだから、なのかも。

そらの、と書きましたが、きりか進ノ介の、と言い換えても、あまり違いはありません。
ですから美空の話は、書いていて楽しかったです。


姿かたちや名前は違えど、おそらく誰の心にも、美空はきっといるのでしょう。
きっと時が来れば、彼女はあなたの心の扉をたたきに来ます。

「あたしを、出して。」 と。
私のところに、現実の少女の姿を借りてまで来たように。

そして、かなえたいことに向けて、歩き出す。
青い空を、見上げて。

そのときに、この話を、美空と美月の笑顔を思い出して頂けたなら。
私はこの上なくうれしく思います。


では、また次の話でお会いしましょう。
読んでいただきました皆様、本当にありがとうございました!


あ、そうそう。
この話の続きを、私は、書きたいと思っています。
『虹色のトレイル』と姉妹になる、別のシリーズになりますが、気長にお待ちくださいませ。



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