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めいぷる!─ザ・インセクト─

第四章・ストライカーズ

作:K.伊藤




  ───第一幕───

夢を見ていた。
葵と初めて出会ったときの夢。
あれは確か、そう……俺が7つか8つ位のガキの頃だ。
その時の葵は、無表情で、無口で、やたら存在が希薄で、それなのに何かに怯えているようで。
着ている服はボロボロ、髪はぼさぼさ、泥だらけの汚らしい格好で、風呂に入るまで女の子だとはわからないような、そんな状態で……しかも、その服というのが元は紅いと思われる和服だったもんだから、かなりビビっていた記憶がある。

「楓、少し早いが誕生日プレゼントだよ、弟か妹が欲しいと言っていただろう?」

俺の親は頭のネジが何本か吹き飛んでいる、本気でそう思った。

「どうしたんだよアレは! ひとさらいか!! 俺の親はひとさらいなのか!!」

──とにかく食事を与え風呂に入れてやり、布団に寝かせて落ち着いた所でオフクロに詰め寄ったのだが。

「いや、今日は山にな、昆虫採集に行ったんだよ、そこでハンミョウに出会ってな、知っているかい? ハンミョウ、別名ミチオシエ。人が近寄ると前に飛んで数メートル先に降りる、という動作を繰り返す事からついた別名なんだがね、コイツがまた綺麗な個体でな、しかも本来居るはずが無いような森の中で出会ったもので気になってね。」
「それで、ついて行ったと?」
「うん、まぁ、目当ての虫がいたわけでも無し、ついて行って何もなければ、コレを取って帰ろう、くらいの気持ちでね。そうやってどんどん森の中に進んでいく内に、その子は洞窟の中に入って行ってねぇ。」
「──まさかその洞窟の中に。」
「あぁ、あの子が落ちてた、だから拾って帰ってきたんだ。いやいや、まさしく拾い物だね、民間伝承も馬鹿には出来ないな。というわけで、家で飼おうと思うのだがどうだ?」
「いや飼うってなぁ!? あの子はイヌか!? ネコか!? ちゃんと警察に……?」

気が付けばリビングのドアを開けて、あの子が見ていた。大声出して起こしちゃったかな、と思ったがどうにも様子が違う。
大きすぎてぶかぶかの俺のパジャマ、タオルケットを胸に抱え、さっきまでの無表情とはうって変わって。

「ぐす……こ、こわいゆめ……みたの……。」

泣いていた。
その泣き顔を見た瞬間に、なんかもう色々と覚悟してしまった。結局の所、当時の俺はガキだったわけだ。

「あ──そ、そっか、よし、もう大丈夫だぞ、お兄ちゃんが一緒に寝てやるからな。」
「おにいちゃん……?」
「そうだ、お前のお兄ちゃんだぞ、怖い夢なんてな、お兄ちゃんが吹き飛ばしてやる。」
「おにいちゃん……。」
「そうだよ、それで、私が君のお母さんだ、ママでも良いぞ。そうだ、今日は親子三人で寝るか、我が息子と娘よ。」
「おにいちゃんと、おかあさんと、いっしょ……?」
「「そうとも。」」

そうして、俺達は親子三人で寝ることにした、その子をオフクロと俺の間にを挟む形で。

「そうだ、そういや、お前の名前は?」
「──あおい。」
「あおい、か……じゃ、おやすみだ、あおい。」
「うん……おやすみなさい、おにいちゃん……。」

はにかんだ顔が、とても可愛いかった、守ってやらないと、そう思った。

その後、一応は警察等に連絡をしたらしい、俺はよく知らない、あまり気にした事がない。
葵は俺の妹で俺達は家族、大事なのはそこだろうから。

兄だろうが、姉だろうが、俺の大事な妹である事にはなんの変化も無い。




  ───幕間・???───

志藤葵は、公園のベンチに腰掛けて泣いていた。

なんであんな事、どうしてあんな事、嫌いって言っちゃった、ホントは大好きなのに、二人とも大好きなのに、私、私、私。
ずっとずっと一緒だと思っていた、この先、たとえお互いが結婚しても、兄妹だとか親友だって絆は決して無くならない、そう思っていた。
あるいは、お兄ちゃんとかなみちゃんが恋人になるなら、それはそれでお似合いの二人だと思うし、祝福できると思っていた。
けど、かなみちゃんが、「お姉ちゃん。」と言った瞬間に、何かが切れた。
かなみちゃんは可愛い、もの凄く可愛い、女の私から見ても可愛い顔をしていると思う。それに私みたいなチビじゃないし、線が細い割におっぱいもお尻もちゃんと大きい。しかも健康になってからどんどん魅力的になっている。加えてあの性格、優しくて控えめでお淑やかで、本当に、私なんか何をとっても敵わないと思う。
だから、お兄ちゃんの恋人になるのなら、きっと祝福も出来た。
それなのに、妹。なんで、よりにもよって、私の大切な居場所に。
勝てない、かなみちゃんには、絶対に勝てない、本当に血が繋がった兄妹ならともかく、私とお兄ちゃんにはそれすら無い。
もし、もし私とかなみちゃんを比べられたら、そう思うともの凄く怖い。我が儘で嫉妬深くて甘えん坊で子供っぽい私、かなみちゃんに勝てる要素なんて一つもない。
いやまさか、比べるだなんて、そんな事をするはずがない、お姉ちゃんはそんな事はしない。でも、でも、もし、もしも比べられたら、比べられて、もし、嫌われでもしたら。

葵はそうやって、堂々巡りの思考に捕らわれて、心の闇の中に沈んでいく。

「ぐす……おねえちゃん……。」

堪えきれず呟いた呼称、苦しくて悲しくて切なくて、そんな時に一番頼りになる人、頼ってきた人。
謝らなきゃ、早く帰って謝らなきゃ、呆れられちゃう前に、あの二人に愛想を尽かされる前に──頭では解っていても、なかなか立ち上がる事は出来ず。

「お嬢ちゃん、どうしたの、こんな所で。」

呼びかけられて葵は顔を上げた、声の主は若い男、その後ろにも男が二人。
後ろの二人が小声で何か囁きあっている 葵は身を固くした。夜の公園、男三人と少女が一人、しかも、わざわざ此方に聞こえないような小声で話し合っているのだ。年端の行かない少女なら、恐ろしくて当然だろう。

「あ、あの、大丈夫です、大丈夫ですから。」

涙を拭いベンチを立つ、公園の出口に向かおうとして、前を塞がれた。

「女の子一人じゃ危ないよ、送っていってあげるからさぁ。」

怖い、男は笑っているが、とてもでは無いが優しげな笑顔に見えない、他の二人は理解できない言葉を交わし合って笑っている、何を相談してるんだろう、怖い、嫌だ、葵は彼らの脇を抜けようとして。

「きゃっ!?」

腕を捕まれた、「危ないよ、ほら、俺達みたいなのも、居るんだしさ?」なんだ、本当にそれが目的だったのか。理解できない言葉、下卑た笑い声、捕まれた腕が痛い、葵の恐怖は最高潮に達し。

「いやぁ! や、やめ! うぐっ! んー! んー!!」

叫び声を上げようとして、口を塞がれた。暗がりに連れ込まれる、男三人相手に華奢な少女一人ではどうにもならない、犯される!? 嫌だ! 嫌だ!! 嫌だぁ!!! 助けて、助けてお兄ちゃん!! 葵の瞳からは涙がぼろぼろと流れ落ちる、必死に手足をばたつかせ呻き声を上げるが、男達はそれに対してかえって興奮するだけだった。

「んぐっ!! んー! んぅー!! んぇぇ!! んぁーっ!!」

両手を左右から捕まれて男の一人がのし掛かってくる、理解できない言葉、煙草臭い息、頬をべろりと舐められた、気持ち悪い。
嫌だ! 嫌だ! いやいやいやいやいやいやいやいやいや!! 助けて!! 助けて!! お兄ちゃん!! お兄ちゃんお兄ちゃん!! お母さん!! 大吾さん!! 誰か、誰でも良いから、誰か、助けて!!!

 ──ふむ、誰でも良いのか……承知した。

ぼきん、ぼきぼきぼきぼき、ぼきん。
湿った枝を折るような音。頬にかかる生暖かい液体、血の臭い。

「──……あ?」

間の抜けた男達の声、彼らが呆然と見た己の腕は、都合6本等しく公平に平等に、二の腕の真ん中あたりでへし折られていた。

「──不味い。」

口に入った血を吐き出す、煙草だの薬だので汚染された血液、これならそこらの野良猫の方が美味いのではないだろうか。全く、屑共が。それにしても「ぎゃぁ」だの「わぁ」だの五月蠅い。喚き立てる言葉はよく聞き取れないが、どうせ「俺の腕が」とかそんな所だろう。

  ──え? なに……なんで? わ、私、どうして?

我の中で葵が戸惑っている。なに、心配ない、この程度の連中、我が如何様にも料理してくれる。──どう料理しても不味そうだが、な。
男の一人に近寄って、腕を振り上げた。涙やら鼻水やらでどろどろに汚れた顔、全く見苦しい。安心しろ、今その痛みを止めてやるぞ。

  ──!? だめ!! だめだめだめ!! だめぇッ!!!

振り下ろそうとした腕が停まる、何故邪魔をする、この者達は、お主を犯そうとしたのだぞ、己の欲求の為だけにだ、おそらく過去にも同じようなことをしてきたのだぞ、生かしておけば、また同じようなことをするのだぞ。

  ──だめ!! それでも、それでも、殺しちゃだめぇっ!!

「何をしているっ!!」

そこで公園の入り口から声。この気配は……まずいな、まだ本調子では無い、鬼の血を持つ者と争えば無事では済むまい。
踵を返して逃げ出す、大地を蹴り、木の枝を蹴って森の奥へ山の方へ。

「やだ、やだよぅ……助けて、お姉ちゃん……助けて……。」

我の支配が緩んだのか声が漏れた、そこまで信頼して居るとは、健気なものだ。




  ───第二幕───

「葵ッ!! ──っあ……!!」

飛び起きた瞬間に、こめかみの辺りに痛みが走った。

「か、楓さん! 大丈夫ですか!?」

声をかけられてそちらを向くと、かなみちゃんが布団の脇に座っていた。心配そうな表情で俺を見ている。
かなみちゃんの背景は……純日本風な作りの部屋、おそらく東雲の客間かなんかだろう。

「だ、大丈夫、少し痛むだけ……。」

頭に手をやると包帯が巻かれていた、そういえば身体も浴衣のような物を着せられている。

「……これ、かなみちゃんが?」
「あ、いえ、幸恵さんが。」
「幸恵さんか……。」

幸恵(ゆきえ)さん、大吾のオフクロ、いかにもな和服美人で普段は温厚で優しげなのだが、「あの人は鬼より恐ろしい。」とは大吾の談だ。確かに怒ると怖そうだが、幸いなことに俺はまだ体感したことは無い。

「……葵は?」

聞きたいことは色々あるが、まずはそれが一番重要だ。

「大吾さんが探してくれてます、俺に任せろ、と言っていました。」
「そうか、大吾が……。」

安心して良いはずだ、大吾なら、人一人を捜し出すなんて簡単だろう、葵が見せたあの変な力も、大吾ならどうにか出来るとも思う。
──けど、駄目だ、やはり駄目だ、葵が助けを呼んでいる気がする、俺を待っている気がする。

「──俺も探しに行く。」
「だっ! 駄目ですよ楓さん!! 安静にしてないと!! 頭打ったんですよ!!」

包帯を外す、傷口に触ってみる、少し痛むがこの程度なら問題ないと思う、この身体のポテンシャルに賭けてみよう。

「大丈夫だよ、もう傷口は塞がっているみたいだし。」
「ど、どうしても、行くんですか?」
「うん、葵が呼んでる、きっと泣いてる、行かないと。」

立ち上がる、と、ふらついた。かなみちゃんが慌てて支えてくれる。

「ほら! やっぱり無理です!! ちゃんとお医者さんに!!」
「いや、俺の身体、普通じゃないから医者は……。」
「そうみたいですね、話は大吾から聞きましたよ、楓さん。」

と、客間の襖を開けて、妙齢の和服美人が入ってきた。

「おばさん……。」
「あらあら、おばさんじゃないでしょ、嫌だわ楓さんったら──殺しますよ?」
「すいません幸恵さん。」

冗談だとは思うが非常に恐ろしい、死にたくはないので即座に謝り訂正した。

「茜さんにも連絡はしました、色々と大変だったみたいですね、楓さん。」
「すいません、色々とご迷惑を、ありがとうございました。」
「いえいえ、良いのですよ。それにしても驚きました、大吾が部屋に年頃の女の子を二人も連れ込んで、しかも一人は全裸で死んでますし。いえ生きていたんですけどね、とにかく、危うく大吾を殺しかけましたよ。」
「幸恵さん、それより、俺、行かないと……すいません、服、貸して貰えませんか?」

何が起こってるか解らないが、何か良くないことが起きている、俺の中の何かが警鐘を鳴らし続けてる。
とはいえ、流石に浴衣で出て行くという訳にもいかない。

「急いては事をし損じますよ、腹が減っては戦は出来ぬとも言います、まずは、お食べなさい……お腹、空いているのでしょう?」

目の前にお盆が置かれる、馬鹿でかいおむすびが二個、沢庵、味噌汁。お腹がぐぅ、と鳴いた。

「あ、あの──い、いただきます。」

実のところ、さっきふらついたのも空腹のせいだったんだ、ありがたく頂くことにする。

「かなみさん。」
「は、はい。」

俺がおむすびを食べてる間に、幸恵さんがかなみちゃんに話しかける。

「行くのでしょう?」
「……はい。」
「ひょ、ひょっと待って、かなみひゃんは」
「お黙りなさい楓さん、口に物を入れながら喋るもんじゃありませんよ、全くもう──殺しますよ?」

黙らされた。

「楓さん、私も行きます、もう嫌です、大切な人が傷ついてるのに、私だけ見ているなんて、もう嫌です。葵ちゃんは私の大切なお友達です、誰がなんと言おうと、私も探しに行きます。それに、葵ちゃんが泣いてるの、私にも責任があります、あ、大丈夫ですよ、もう抱え込んだりしません、ちゃんと葵ちゃんに会って、ちゃんと誤解を解きます。」
「んぐ……いや、でも、時間も遅いひ、危ないよ、かなみひゃんは残って」
「もう、嫌やわ楓はんったら、行儀が悪い言うてるじゃ無いおすか、ほんまに──殺しますえ?」

本能が危機を感じた。

「かなみさん、持って行きなさい、葵さんもお腹空かせてるでしょうから。」

幸恵さんが小さなナップザックをかなみちゃんに渡した、多分おむすびか何かが入っているのだろう。

「ごちそうさまでした、美味しかった。」

おむすびを食べ終え、ちゃんと飲み込んでから幸恵さんにお礼を言う。食事を取っただけで身体の調子がかなり良くなった、現金なものだと我ながら思う。

「はい、お粗末様でした。服はこれを着て行きなさい、私のお古ですけど、サイズは合うと思います。」
「──これ、巫女服……ですか?」
「巫女装束、と言いなさい楓さん。殺しますよ?」
「はい、すいません。──巫女装束ですか?」
「えぇ、そうですよ。私、鬼の嫁になる前は、神に仕えていた事もあったのです。」
「あの、他の服は……。」
「無くはないですけど……この服が一番加護があるんですよ、私の愛も籠もってます、加護愛ですね。ほらほら、浴衣を脱いで下さい、着せてあげますから。」
「いや加護愛てソレは。わ、わっ、幸恵さんっ、ちょ、やめ、やめっ。」

浴衣なので簡単にひん剥かれてしまう、というか、浴衣の下は全裸なわけで。

「か、楓さんっ!! わ、わ、きゃ、きゃっ!!」
「か、かなみちゃんっ、み、見ないでっ、というか、幸恵さん、やめ、やめてっ!!」
「恥ずかしがることは無いですよ、楓さん、女同士じゃないですか。それにほら、浴衣を着せるときにたっぷり視姦しましたし。さあさ、お着替えしましょうねー? うふふ、やっぱり良いわね、女の子って……もう一人くらい作っておけば良かったわ。」
「俺は男ですッ!! 視姦って何ッ!? というか、やめ、胸、揉まないでぇっ!!」
「あわわわわわわわわ、か、楓さん、うわ、うわわ。」
「だからかなみちゃん! 指の隙間からこっち見ないでぇっ!!」
「良いわねぇ、若いって、この肌のツヤ、ハリ、羨ましいわ……。」
「や、やめ、やめて、やめてっ、そ、そこだめっ、脇腹弱いのっ!! ひ、ひーっ!!」
「ほらほら、大人しく着させなさい、もう楓さんったら──死んじゃうと言わせますよ?」




腰巻き、裾除けの上に襦袢をつける。
──観念して大人しく着付けられる事にした、抵抗しても苦しみが長引くだけだし。

「楓さん、葵さんの事ですが。」
「はい。」

白衣という白い単衣に袖を通し、腰紐を巻く。
ちなみに、かなみちゃんは「外で待ってますっ!!」と、顔を真っ赤にして、前屈みになりながら出て行ってしまった。

「私には詳しい状況はわかりません、けれど、あの子……人間以外のモノが憑いてますね、直接診た訳じゃないですが、先程は人間以外の力が暴れたのを感じました。」
「──あぁ、やっぱり。」

緋色の行灯袴を穿く。
気を失う直前に葵が見せたあの奇妙な力、不可視の触手が暴れ狂い、ごっそり生気を抜かれた様な感覚。確かにあの力はヒトの物じゃない、何というか……古くて自然に近い物を感じた。

「とにかく見つけて連れてきなさい、退魔──あるいは除霊か浄霊が必要かもしれませんから。」
「はい、その時はお願いします。」

最後に千早を纏って着付け終わり。
目を閉じて深呼吸一つ、頭は冷静に、心は穏やかに、魂は熱く、手足は平静で……よし、いける。
なるほど、確かにこの装束には何かの意志の様な物が宿っている、気がする。

「あら可愛い、よく似合うわよ、楓さん、うふふ♪」
「そうっスか……。」

幸恵さんはご満悦、俺はというと、微妙な気分。
この部屋に姿見は無いが、おそらく『The 巫女!』という感じになってるのだろう。男として何か大切な物を無くした気がする。

「あらあら、駄目よ、女の子がそんな口の利き方──あら、ちょっと御免なさいね。」

幸恵さんが胸元から携帯電話を取り出した。液晶画面を見て「大吾だわ。」と呟き耳に当てる。

「大吾、今何処に──……え、まさか。」

幸恵さんの表情が深刻なものに変わった、どうしたのだろう、気になる、盗み聞きなんていけない事だが、やはり状況が気になってしまう。耳を澄ます、大吾の声が聞こえる、意識を集中すれば電話の会話くらい聞き取るのは容易い。

「……に出くわした、滅して助け出したが、怪我をしている、出来れば迎えに来て欲しい。」
「怪我!? 葵がか!?」

思わず叫んでしまった。

「楓か!? すぐ来てくれ、茜さんが(あやかし)に襲われた!! 助け出したが怪我が酷く動かせない!!」
「オフクロが!? わかった、すぐ行く!! 場所は!?」
「鳴童山の登山口、お前がエルグランドを潰した場所の、そのまま先だ!!」
「わかった、今行く、待っていてくれ……大吾、恩に着る。」
「それは全て終わってからだ、楓、待ってるぞ!!」

通話が切れる、くそ、何がどうなっている、状況を理解する暇がない。

「幸恵さん!! すいませんが、車を、出し、て……。」
「楓はん、盗み聞きとはいけへん子どすねぇ。ほんまに、いけへん子──……うふふ。」

あ、やばい、京言葉になってる。というか、なんか黒いオーラ? を感じる。
この人東雲に嫁いで来てるんだよな? この人には鬼の血流れて無い筈だよな?

「ゆ、幸恵さん、そ、そんな事より、オフクロが!!」
「あ、そうでしたね、車を出します、急ぎましょう。」

慌てて幸恵さんと二人玄関に行くと、上がりかまちにかなみちゃんが腰掛けて所在無さげにしていた。

「あ、楓さ」
「かなみちゃん、山に行く、急いで!! 事情は車の中で!!」

ガレージに行き大吾の親父さんの車に乗り込んだ、幸恵さんの愛車は多人数や怪我人の運搬には向かない。かなみちゃんを後部座席に押し込んで、俺が助手席に座る。
いや、FD3S──マツダRX-7に比べればマシとはいえ、日産R34スカイラインGTR/M-SPECも怪我人の運搬には向かないが……ガレージの脇にはスズキの隼が置いてあるし、この家の人間にはスピード狂しか居ないのだろうか。
ヘッドランプが夜の闇を裂く、GTRの咆吼が山に木霊する。現場に向かう道すがら、かなみちゃんに事情を話した。

「……え、ええと、アヤカシって。」
「アヤカシはアヤカシですよ。妖、妖怪、物の怪、化け物、怪物、モンスター、悪魔、怪異──呼び方は色々ですけどね。かなみさん、彼らの存在は決してお伽噺では無いのです。普通なら出会う事も無く、出会っても気が付かずに終わるのですけどね……彼らは人とは相容れぬ存在ですから。」

幸恵さんが語る人とは相容れぬ存在、妖。相容れぬ故に彼らとの接触は常に危険を伴う、そう大吾は言っていたっけ。

「……な、何が、どうなっているんでしょう。」

それは俺も聞きたい。
解るのは、俺達はどうも良くないことに巻き込まれていて、その中心に葵が居るという事くらい。

「わかりません、ただ、事態は思ったより深刻かも……かなみさん、着いたら茜さんを連れて私と一緒に」
「嫌です!! 私も葵ちゃんを助けに行くんです!!」
「──わかりました。」

車が走る、オフクロ、無事でいてくれ……。皆静かだ、沈黙が車の中を支配する。

「楓さん、かなみさん。」と、幸恵さんが話しかけてきた。
「はい。」「なんでしょう?」
「──飛ばしますえ?」

言うなり後ろから蹴飛ばされようにGTRが加速する、あぁ、やっぱりか、やっぱり東雲の人間はスピード狂しか居ないのか。凶暴な加速G、凶悪な減速G、容赦ない横G、身体が振り回される、いや、俺は良い、冷静に考えることが出来る余裕もある。だが、しかし……。

「うわ、うきゃ、ひゃぁぁぁっ!! や、やめ、ひ、あぅぅぅぅ!! た、助けてっ!! へるぷみー!!」

到着するまで、後部座席のかなみちゃんは叫びっぱなしだった。




  ───幕間・志藤茜───

「いや、参ったね、実に参ったよ、こんな事なら、少しは運動くらいしておくべきだったかな?」
「あまり喋らない方が良いです、肋骨が何本かイッてる。」

大吾君が私の胸に札を乗せ何事か呟く、痛みは退いていくが、患部が熱い。

「冷静だね君は、人妻の胸を見ているというのに、自信を無くすなぁ。いや、確かに小さいが、形にはちょっと自信があったのだよ? 乳首だって綺麗な色のままだろう?」
「へ、変なこと言わないで下さい。治療術は得意じゃないですが──これで少しは動けると思います、オフクロが来たらすぐに山を下りて下さい。」
「それは聞けないな、聞けないね、聞けないよ。なぜなら葵は私の娘……く、けふっ!!」

立ち上がろうとして咳き込む、口元を抑えた手のひらに血がついた。
参ったね、参ったよ、思ったより重傷なのかな、いやいや参った参った、葵が待っているというのに。
白衣の内ポケットから、浸透圧注射器を取り出して鎮痛剤のシリンダーをセットする。
──感覚や反射速度が鈍るから、あまり使いたくは無いが仕方ない……先端を首筋に当てて引き金を引く。

幸恵君の連絡を受け、押っ取り刀で現場に到着したのが22時過ぎ。大吾君に連絡を取り、山に向かったのが2230くらい、そこで懐かしい顔に出会った、いやいや顔というのは正確な表現ではなかったか。
出会ったのはハンミョウ、別名ミチオシエ。月明かりの中、緑色に輝く甲虫は嫌でも目立った。
彼──彼女かもしれないが、ハンミョウを追って山を登った、もう一度葵の所に連れて行ってくれ、そう願って追った。あの時の個体と同じハンミョウな訳はないのにね、全く私らしくもないな。

あの時──葵に出会ったあの時の事を、嫌でも思い出す。もう10年以上前になるのか。
楓の「弟か妹が欲しい」というのは、私にとって重い言葉だった。
私の子宮は、その時にはもう駄目になっていたから。
生まれるはずだった楓の妹、緊急手術、流産──楓が覚えている訳がない、あの子が3歳の頃だ。
体外受精、代理母、子宮が駄目でも子供を作る方法はそりゃ、あるだろう。でも、自分のお腹に子を宿せないのは、やはり女としてはショックで、昔は誰にも見られない所で泣いたりもしたな。
楓の弟か妹、そりゃ、私だって欲しい。(あかつき)さん──私の旦那ともよく相談したものだ。

そんな時、幾つもの偶然が重なって、葵に出会った。

岩肌に潜り込んだハンミョウを追って、偶然持っていたダイナマイトまで使って洞窟を進んだ先に、あの子、葵が居た。
彼女の傍でもう逃げずに佇むハンミョウが、「この子をお願いします。」と言ってるように思えた。
抱き上げた重さ、抱きついてくる小さな腕、お母さん、と呼ぶ声。駄目だった、もう駄目だった、私の子、私の娘、そう思えてしょうがなかった、運命というものを感じてしまった。自分にこんな母性本能があったなんて、と当時は驚愕したものだ。

あれから、10年以上の歳月が流れたが、想いは少しも衰えず、寧ろ強くなっている。
葵が泣いているんだ、待っているんだ、助けを求めているんだ、母親が行ってやらないで、誰が行ってやるというんだ。
化け物蜘蛛や化け物百足に襲われたくらいなんだというのだ、母の愛を舐めるな。

「よし、薬も効いてきた──さて、行こうか大吾君、君には迷惑をかけるが──……ぐうっ!!」

胸の下あたりを軽く叩かれる、途端に駆け上がってくる激痛、膝が崩れる。

「無理です、山を下りて下さい、はっきり言います、足手纏いです。」
「……人妻の胸を堂々と触るとは、君、真面目そうに見えて、ごふ……。」
「葵は任せて下さい、俺と──アイツに。」

そう言われて大吾君の視線を追うと、山道を上がってくる灯りが見えた。──あぁ、やっとか、やっと来たか、私の最高傑作。

いやいや、私と暁さんの最高傑作、だね。




  ───第三幕───

「オフクロッ!!」
「志藤博士!!」
「ようやく来たか、遅いぞ楓──なんだ、その格好は、巫女か、巫女なのか、萌え狙いにしてはあざとすぎないかそれは。──おや? これはこれは、かなみ君じゃないか、そうか、君も来てくれたのか、こりゃ心強いね。では、悪いが後は頼むよ、どうやら私はリタイアみたいだからね。」

大吾の姿を見つけて車を停めると、すぐ傍でオフクロが蹲っていた。上半身に貼られた札、口元の血、慌てて駆け寄るといつものように飄々と軽口を叩くが、いかにも空元気で。

「オフクロっ!! 大丈夫か!! 何があった!! しっかりしろ!!」
「大丈夫──では無いな、肋骨がやられたからね。馬鹿でかい蜘蛛と百足にちょっとな、向こうは撫でたくらいのつもりだろうが、いやはや。うん、しっかりはしてるよ、しっかりしてるとも、なに、命に関わるほどの怪我じゃぁない。それより急げ、葵が待ってる筈だ。」

車から飛び降り駆け寄って抱き起こそうとすると、その腕をやんわりと除けて、オフクロが立ち上がる。

「わかった、葵を連れてすぐ戻る、帰って待ってろ。」
「そうするよ、この怪我じゃ足手纏いみたいだからな、若い連中に任せて休ませて貰うとしよう。……幸恵君、すまないね、迷惑をかける。」
「良いのですよ、茜さん、困ったときはお互い様です。それに、この街の怪異は東雲の管轄、この件の始末は東雲の役目です。任せましたよ大吾、きっちりと始末してきなさい、出来ますね? 無理とは言わせません。」

幸恵さんが車の助手席にオフクロを乗せる。取り敢えずは一安心か。

「あぁ、大丈夫、楓も居るしな、任せてくれ。……宮ノ森、お前も一緒に戻」
「嫌です、葵ちゃんは私の親友です、絶対に行きます、東雲先輩は楓さんのピンチに黙ってられますか?」

大吾の指示を遮ってかなみちゃんが堂々と言い放つ。──強くなったな、この子。

「──死ぬかもしれないぞ。」「死ぬより怖いことがありますから。」

大吾の脅しにも一歩も退かない、瞳に強い意志が宿ってるのが解る、葵、良い友達を持ったな。

「──俺の事は大吾と呼べ、かなみ、そう呼ばせてもらう。」
「は、はい?」
「かなみちゃん、大吾が名前で呼び合う関係ってのは、相当な信頼得たって事だよ。」
「あ、そ、そうなんですか──はい、わかりました大吾さん。」
「黙れ楓、行くぞ、時間が惜しいんだろう。」

いつも以上にぶっきらぼうな大吾の態度。
──こいつ、照れてるな? なんというか、可愛い奴だと思ってしまった。

「では任せたよ、すまないね、楓、大吾君、かなみ君。」

助手席に座ったオフクロが言う。

「妹を助けるのは兄として当然だろ。」
「親友の妹なら、俺の妹も同然ですから。」
「大切な物を守れないで後悔するのは、もうたくさんです。」

3人、思い思いの返答を返す、何だか胸が熱くなる、本当、良い友達を持ったな、俺も葵も。

「って事だ、宗谷にでも乗ったつもりで待ってろ、オフクロ。」
「第二次世界大戦を生き抜き初代南極観測船に就役、その後通常任務を経て、退役してなお今だお台場に浮かぶ通算1000人以上の命を救った御年70歳近い船、か。……そりゃ、大船だね。」

──……凄ぇな宗谷、そこまでの船だったとは知らなかった。

「私は先に戻って退魔の用意をして待っています、皆、くれぐれも気を付けて。」

運転席に座った幸恵さんが、窓を開けて言う。

「幸恵さん、オフクロをお願いします──あの、くれぐれも飛ばさないように。」
「わかってますよ、楓さん、ゆっくり戻ります。」

幸恵さんがそう言い残して車を発進させた。オフクロ達が山道を下りていく、遠ざかるのエンジン音。月明かりの下、山道を登りながら三人で手早く情報を交換し合う。

「山の中は化け物だらけだ、大蜘蛛だの大百足だのが蠢いている。」
「大吾、何がどうなってるんだ? 葵はどうしたんだ?」
「──祟り、おそらく、この山の祟り神、それに憑かれている。」
「祟り神?」
「それって……あれですか、この山の怪談、人喰い蜘蛛と泣き童。」
「よく知ってるな、かなみ。郷土史でも読んだか? ……かいつまんで説明するぞ。」
「頼む。」

さっきから視線を感じる、襲いかかってこないのは、おそらく大吾のおかげ。本能的に強者がわかるのだろうが、いつ数に任せて襲ってくるかわかったもんじゃない。

「なんでも、500年程前の出来事らしい──。」


  ───幕間・???───

昔々ある所に小さな神社があり、其処に女の子とそのお母さんが住んでいました。
神社のあったのは小さく、貧しい村でしたが、人々は支え合って生きてきました。
若い男が戦に取られ、僅かな自然の恵みも奪われ、それでもみんな頑張って生きてきました。
小さな子供達も、腰の曲がったお爺さんお婆さんも、一生懸命働いて働いて……。
それなのに、その年の雨は冷たく長く、このままでは僅かな恵みすら収穫できそうにありません。
人々は相談します、そして、村の長が恐ろしい決断をしてしまいます。

「長雨は山の神様が怒っているからだ、若い娘を生け贄にして怒りを鎮めてもらおう。」
「そうだ、そうだ、そうしようそうしよう。」

山にはとてもとても大きい蜘蛛が住んでいて、時々暴れて人を困らせると言われてました。

「生け贄の娘は誰にする、あの子だあの子だ、神社の娘、あの子が良い。」
「そうだそうだ、この凶作の責任を取らせろ、あの娘を生け贄に神様に捧げるんだ。」

大蜘蛛様の怒りを鎮めるには、柔らかくて美味しそうな子供を生け贄にすると良いそうです。
可哀相に女の子は、お母さんと無理矢理引き離されて、山奥の洞窟に閉じ込められてしました。

「こわいよ、こわいよ、だしてよだしてよ、おかあさーん。」

女の子がいくら泣いても叩いても、洞窟の入り口を塞いだ石はびくともしません。
まわりでは虫が蠢いています、洞窟の奥ではごうごうと音が鳴っています。

「えーん、えーん、こわいよう、こわいよう。」

泣いても泣いても泣いても、誰も助けてくれる人は居ませんでした。
だって、その頃村は、山崩れですっかり埋もれてしまってましたから。

僅かに生き残った人々は、大蜘蛛の祟りだ娘の祟りだと、村を捨て方々に散っていきました。

今でもその山では、女の子の泣き声が聞こえることがあるそうです。




  ───幕間・志藤葵???───

  ──そっか、私、その女の子なんだ、なんで生きてたんだろう。

我が憑いたからだ、そしてその後、あの奇天烈なお母さんに見つけられるまで寝かせておいた。動けなかったからな、何しろ、あの時に我は身体を失った。

  ──? 死んじゃったの?

そうだ、長雨のせいでろくに獲物も捕れずに弱っていた所に、山崩れではな。
死にかけてお主を喰らう力も残って無かった、仕方なしに、お主に無理矢理我を喰わせて魂を長らえさせたのだが。

  ──わ、私の方が、貴方を食べたの!?

あぁ、寝ているお主の口に、小蜘蛛にまで魂を落とした我が入り込んだ。

  ──う、うぇ……やだ、気持ち悪い……人喰い蜘蛛を、私が……。

ふん、そのおかげで生き延びられたのだろうが、だいたい、我は人を襲ってなぞおらぬ。
姥捨て間引きを我のせいにした人間の、勝手な作り話だ──まぁ死肉を喰ろうた事くらいはあるが。

  ──そ、そうなんだ……けど、駄目だよ、人を食べた事には変わりないじゃない。

勝手なことを、我は人ではない、お主達の価値観を我に押しつけるな。
そうだ、お姉ちゃんとかなみちゃんは美味そうだな、まずはアレを喰ろうか?

  ──だっ、駄目!! お願い!! やめて!! 私の身体でそんな事しないで、お願い!!

何故だ? お主は裏切られたのだろう、あの二人に。今頃はお主なぞ忘れて姉妹仲良く風呂にでも浸かってる事だろうよ。

  ──そんな事、無い、お姉ちゃんは、絶対に私を

裏切られたのだよ、お主は。あの娘、かなみ、お姉ちゃんはあれをを妹に選んだのだ。お主はな、捨てられたのだよ、可哀相にな。

  ──違う、違う、違う。

先程の男達に襲われた時も来てくれなかっただろう、嫌われたのだよお主は。当然だな、あんな怪我までさせて、薄気味悪い、あんな妹いらない、かなみが居るから葵なんていらない、そう思われてるのだろうよ。

  ──違う、違う、お姉ちゃんはそんな人じゃない、やめて、やめて、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、お姉ちゃん、助けて、謝るから、謝るから、助けてお姉ちゃん、何回謝ったら許してくれるの? 百回? 千回? ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい──。

志藤葵の精神はかなり疲弊している、もう少しでこの身体も乗っ取れるだろう。
待っていろお姉ちゃん、もうすぐだ、もうすぐだぞ。我は山に散った眷属に、命令を送った。




  ───第四幕───


「おそらく、その時に化け蜘蛛は生け贄の少女に憑いたのだろう。」
「──あの、それって、ひょっとして、葵ちゃんって。」
「生け贄の少女だろうな、どおりで発育が悪いわけさ、500年前と今じゃ、平均身長なぞまるで違う。」
「あ、葵ちゃん、そんな事が……かわいそう……えぐ。」
「楓、さっきから黙っているが、どうした?」
「……大吾、かなみちゃん、来るぞ……どうする?」

今さっき、奇妙な思念を感じた。たぶん、攻撃命令だと思う。

「持久戦は不利だろうな、やるなら一点突破で最短距離だが──葵の位置が掴めない。」
「……いや、道を教えてくれる奴が居るみたいだぜ?」

月明かりの下、美しい光沢を見せる一匹の小さな甲虫が居た、ハンミョウだ。

「ミチオシエか、楓、あれはただの民間伝承で」
「俺のオフクロは、あれに付いていって葵を見つけた。」
「行きましょう、大吾さん、なんとなくですけど、あの虫、暖かいです。」
「──解った、行こう。かなみ、足は速いほうか?」
「致命的に鈍くさい。」

大吾の質問に俺が答えた。

「ひどっ! そ、そりゃ、鈍くさいですけどっ!!」
「わかった、楓、かなみを背負え、俺が道を作る、かなみは結界で俺達を守れ、楓の力は温存しておく、多分、お前が最強だ。」
「解った、かなみちゃん、乗って……大吾の方が強いんじゃないのか?」
しゃがんでかなみちゃんを背中に乗せる、人一人くらい今の俺なら容易く背負える。
しかし、戦い慣れてる大吾の言葉ではあるが、俺が最強というのは信じがたい。
「攻撃力だけならな、きっと俺が上だ、防御力ならかなみの方が上だろう。だがな、葵が関わっている以上お前が最強だよ、楓。さて──行くぞ!!」

森の中に飛び込んだ瞬間、奴らの敵意が殺気となって俺達に押し寄せた。

「構わずに走って!! 全部防ぎます!!」
俺の背中でかなみちゃんが叫んだ、襲い来る敵、飛んでくる毒液や糸、その全てが、かなみちゃんの結界に触れるやいなや弾き飛ばされる。かなみちゃんを中心に半径3メートルほどの円、それが結界の有効範囲のようだ。
「かなみちゃん!!」と、走りながら背中のかなみに語りかける。
「はい!?」
「ごめん、謝っておく!! 俺、君のこと侮っていた!! 頼りになるぞ──かなみ!!」
「──はい!! 私だって、やる時はやっちゃいますっからっ!!」

ハンミョウを追って森の中をひた走る、暗さも足場の悪さも苦にはならない。五感の全てが強化されてるだけじゃない、六感まで含めた全ての感覚が、一つのイメージに収束された情報として認識できて──……いや、この感覚は人間じゃ理解できないだろうな、とにかく、あらゆる認識能力が半端じゃないって事だ。
四肢に力がみなぎる、背負ったかなみが軽く感じる、あぁ、そうか、変身しかかってるんだ、私。気を付けなくちゃ、今変身しちゃったら、帰りは全裸だもんね。

「なるほど、普通のミチオシエじゃないな、連続であんなに速く飛ぶとは。」

私の前を走る大吾が呟いた、よく見ると大吾の両手が淡く光っている、あれが大吾の言う『鬼の力』だろうか。大吾も既に臨戦態勢って事か。


待ってて葵、もうすぐだ、もうすぐだよ。今お姉ちゃんが助けに行くからね──。



──次章に続く──


おはこんばんちは、K.伊藤です。
事件が事件を呼ぶ、起承転結なら今だ転の部分。
次回で取り敢えず第一話の結び……の予定。

コメディ要素がどんどん薄くなってます、けど、下手にギャグを混ぜると白けそうで怖い。
最初からアクションコメディ名乗っておくべきでしたね……いやはや、なんとも。

此処が面白い、此処が駄目、気が付いた点があれば、指摘して下されば幸いです。

さてさて、補足説明の名を借りた雑話。

「京言葉」
関東在住で方言は詳しくありません、京言葉変換機をお借りしました。
間違っていたら御免なさい。

「マツダRX-7(FD3S)・日産R34スカイラインGTR」
技術大国日本が誇る名機達、その内の2台です。
走る、曲がる、停まる、その全てが最高の水準。とにかく性能が半端じゃない。
そりゃもう、日本の道路事情を考えたら明らかにオーバースペックな程に(笑

「葵の中の人」
蜘蛛ですね。
第一話の敵は、蜘蛛なんです。基本です(笑

ではでは、宜しければ次章「ずっと、いっしょ。」もお付き合い下さい。


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