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ホーリーメイデンズ
第参夜「怪しい転校生」

作:流離太



夜の通学路。
星空の光と、電灯の明かりだけが頼りな暗闇。
その道を少し早足気味に歩く部活帰りの女子中学生。
最近この辺りも物騒で、痴漢が出るという。
そのようなものと鉢合わせたらと想像すると、自然に冷や汗が噴き出してくる。
それら様々な思いを巡らせていると、曲がり角に差し掛かった。
瞬間、目の前からなにかが飛び出し、思わず身を震わせる少女。
うっすらと目を開けていくと、その正体がわかった。
それは、一匹の黒猫だった。
一声啼くと、少女の足元を素早く走り去って行く黒猫。
少女はホッとし、前を向いた。
何度も点滅する電灯の前には、ひとつの影が立っていた。
紅いコートを着た、長身の女だ。
その口は、大きなマスクで覆われていた。
彼女の本能のようなものが警鐘を告げ、少女は思わず後ろにのけぞる。
「ねえ…。」
マスクに手をかける大女。
「私って、きれいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」
そこには、血の色で染められたかのような耳まで裂けた口が。
カッと開かれた口には、鮫のような歯が連なっている。
数秒後、一人の少女の悲鳴が夜の街に響き渡った。


同時刻、公園。
そこには、遊具がいくつも連なっていた。
「えいっ!! やあっ!!」
その中心で白いシダのついた棒のようなものを振り回す一人の少女。
背中まで髪のある少女は、浅葱の着物に蒼いミニスカート状の袴をはいていた。
彼女の名前は冬雪。
こう見えても、健全な中学生男子だ。
だが、噂から生じた「アヤカシ」と戦う、ホーリーメイデンズの一員「ホーリーアクア」でもある。
ホーリーメイデンズは、四神をその身に降ろす巫女であり、女にしかできない仕事だ。
したがって変身した時、冬雪の体は女性化する。
今、彼女は力を使うための練習をしているのだ。
冬雪は長い間そうしていたらしく、表情には疲れの色が見えていた。
「はぁはぁ…、全然駄目だよ…玄武。」
両手を膝につけ、肩で息をする。
滴る汗が、キラキラと反射し、少女をまた魅力的にする。
このような修行をするのももう三日になるが、全く力の感覚というものが掴めない。
おまけに、こんなところを誰かに見られたらと思うと気が気でない。
そのため、冬雪は心労に押し潰されそうだった。
「う〜ん、やっぱり君が女の子初心者だからだろうね。
普通の女の子なら、もっと早くにペースを掴めるのにね。
どうだい、もう一回女の子になってみる?」
「絶対嫌!!」
合体している玄武に対し、きっぱりとした口調で言い放つ冬雪。
「女の子らしい仕草は身についているんだけどね。アクアに変身した時、内股だし」
「な!?」
冬雪は顔を桃色に染め、慌てて脚を開く。
それから、恨めしそうな目をする。
「あのさあ、なんで僕なんか選んだの? 最初から女の子を選べばよかったじゃん」
正直、冬雪にとってそこが一番疑問だった。
なんのために、わざわざ自分を女の子に変えたのか。
それなら最初から女の子を選べばよかったのに。
それに対してやれやれといった口調で答える玄武。
「あのねえ、ボクがなんの基準もなしに選んでいると思う?
人間の人体には、五行属性というものがあるけど、君は特に水の気が強いんだ」
「僕なんかがぁ?」
冬雪は疑わしげな目をした。
平凡以下のような自分がそんな立派なものだとは思えない。
「あまり自分を卑下するなよ。
ほれ、ぼやいてる暇があるなら練習練習。
このままじゃあ、攻撃はおろか、隙だらけだしね。」
「はぁい……」
玄武にせかされ、再び練習をしようとしたその時、一つの光が冬雪に近づいてきた。
それは、駐在の持つ懐中電灯だった。
「コラァ! 女の子がこんな時間に何してるんだ!!」
そう言って近づいた駐在は、冬雪の姿を見て、怪訝な表情をした。
「と、とにかく、早く家に帰りなよ……」
「は、はい……。」
注意を終え、自転車に飛び乗ると、素早く去って行った。
駐在が立ち去ると同時に、目に涙を浮かべる冬雪。
「うっ、うっ、絶対変な女って思われたよ……。だから嫌だったんだよぉ……。」
どこからか、犬の遠吠えが聞こえてきた。

次の朝、冬雪が教室に入ると、眼鏡の少年が唾を飛ばしながら大声を張り上げていた。
同級生の三四郎だ。
「みなさん! 僕の情報網によれば、昨日口裂け女が出たそうです!」
三四郎のやる気とは対照的に、「またいつもの話が始まった」と冷たい視線を送る同級生。
冬雪はなんの悩みもなさそうな三四郎を見て、少し恨めしく感じた。
三四郎は、構わず話し続けた。
「口裂け女は白い大きなマスクをして『私きれい?』と聞いてくるそうです。
それで、どう答えても、耳まで裂けた口を見せて襲ってくるそうです。
さらに聞いた話では、口裂け女は性転換手術に失敗して死んだ男の霊だそうで。
それで、普通の女の子を恨んで、襲ってくるらしいです!」
「なんで性転換手術で口が裂けるのよ。それを言うなら整形手術でしょ?」
ポニーテールの少女が冷たく言い放った。
冬雪の幼馴染の夏月だ。
彼女は、朱雀を宿す炎使い「ホーリーフレア」でもある。
「まったく。心霊研究家が聞いてあきれるわね!」
「なんてこと言うんです!! 僕の情報網を馬鹿にすると、許しませんよ!!」
お互いに罵り合う二人を、冬雪は苦笑しながら見ていた。
その時、教室の戸が開いた。
それと同時に、ひげ面の担任教師が顔を出した。
冬雪を含めた生徒達が慌てて席に着くと、教師は説教を始めた。
「全く、先生が来る前に座ってろよ。
これじゃあ、転校生に示しがつかないだろ。」
その途端、教室は一気に沸きあがった。
「え!? マジで!?」
「男の子? 女の子?」
「馬鹿だなあ。転校生といったら、可愛い女の子に決まってるだろ!」
そんな中、冬雪は周りの雰囲気に乗れなかった。
転校生が来ようと来まいと、彼にとっては関係ない。
今はどうすれば夏月の役に立てるかの方が大事だ。 担任教師は、戸に向かって手招きした。
戸を静かに開け、転校生が入ってきた。
それは、セーラー服に身を包んだ少女だった。
髪型はショートカットで、バランスの取れた体つき。
背はスラリと高く、顔や手、スカートから伸びた細長い脚は陶磁器のように白い。
そして顔には…大きなマスクがかけられていた。
静寂に包まれた教室には、白墨の音だけが響いていた。
「彼女の名前は『卜部秋綺(うらべあき)』。
内地の方の中学校から引っ越してきた。
みんな、仲良くしてやってくれ。」
教師は生徒達の態度に、全く気づいていない。
この時ばかりは、冬雪も周りの人間に同調した。

「ねえ、あれってやっぱり……」
「いや、あれはただの噂でしょ」
「……でも」
絶えず秋綺に注がれる教室の視線。
マスクのため表情はわからないが、秋綺はなにも感じていない様子だった。
だが、冬雪はそのように考えなかった。
つい数週間前、自分が女になった時にも同じ視線が浴びせられた。
多分秋綺も、多かれ少なかれ嫌だと感じているはずだ。
そう思ってはいたが、中々話しかけることができなかった。

放課後。
秋綺は荷物をまとめていた。
今日話しかけるなら、これが最後の機会だ。
拳を握り締め、秋綺に近寄って行く冬雪。
「あ、あのさあ……」
冬雪は、うつむき加減で話しかける。
顔を上げ、冬雪に目を向ける秋綺。
吊目気味ではあるが、まつげの長いきれいな目だった。
「よかったら……今日、一緒に帰らない?」
一瞬の沈黙の後、口を開く秋綺。
「いいけど。どうせそのつもりだったし」
秋綺がそう言った時、後ろから夏月が顔を出した。
「あ、冬雪! 今日、卜部さんも一緒に帰るけど、いいでしょ?」
そうだ。
おせっかい焼きの夏月が、これを放っておくはずがない。
冬雪は、自分の奮い起こした無駄な勇気を、苦笑によって打ち消そうとした。

「へぇ、花粉症だったんですか。」
通学路。 秋綺のマスクの理由を知り、穏やかに微笑む三つ網の少女。
夏月の親友である春花だ。
彼女はまた、風使いにして青龍の巫女「ホーリーブロウ」でもある。
「そう。今の季節、珍しくもないでしょ?」
やはり、秋綺は全く気にしていないようだった。
その横で、暗い表情でうなだれる三四郎。
「……すいません、僕のせいです。僕が、あんな噂流さなければ……」
そう言う三四郎の肩を、笑いながら叩く夏月。
「なに言ってんの! いつも自信満々のあんたらしくないわよ!
それに、この町で起きたことなら、あんたが話さなくたって広まってたって!」
いつも喧嘩ばかりしている夏月が、三四郎を慰めている光景を意外そうに冬雪は見た。
「まあ、困ったことがあったらあたしに言ってよ!
そこの冬雪を、いじめっ子から守り通してきたんだから!」
引き合いに出され、居づらそうに苦笑する冬雪。
「遠慮しとく」
秋綺は、間髪いれずに言い放つ。
一瞬、嫌な空気が流れた。
それに見かねて、口を挟む春花と三四郎。
「あ、秋綺さん、断るにしても、もう少し言い方があるんじゃないですか?
夏月さんは好意で言ってるんですよ」
「そうですよ。それに、まだわからないことがあるんだし、夏月ちゃんに甘えてもいいと思いますよ」
秋綺は、二人の言葉には答えずに、ジッと冬雪を凝視する。
射るような視線に、一瞬たじろぐ冬雪。
秋綺は無表情のまま、言葉を発する。
「女に守られてるなんて……情けないやつ」
それだけ言うと、スカートを翻して去っていく秋綺。
あとには、呆気にとられた四人が残されているだけだった。

冬雪は、その夜、なかなか眠れなかった。
「女に守られてるなんて……情けないやつ。」
布団に包まり、目を閉じると、夕方のやり取りが繰り返し映し出される。
時計の針を刻む音が、耳元ではっきり聞こえる。
カーテンの隙間からは、わずかに月の光が入り込んでいた。
冬雪は机の上に置いてある眼鏡をかけ、そっと外に出た。

夜の空には、銀色の星々が硝子を散りばめたように瞬いていた。
月や星の光に包まれながら、ゆっくりと夜道を歩くパジャマ姿の冬雪。
久しぶりに味わった、とても晴れやかな気分だった。
その時、辻から急に現れる人影。
昼間の口裂け女の話を思い出し、思わず身を縮ませる。
目を凝らしてよく見ると、それは秋綺だった。
白いパジャマ姿で、口は相変わらず大きなマスクで覆われている。
今の冬雪が、一番合いたくなかった人物だ。
「なにしてるの?」
抑揚のない声で、冬雪に話しかける秋綺。
逃げようか?
いや、そんなことしたら明日から顔を合わせづらい。
とりあえず適当にあしらうことにし、しどろもどろしながら答える冬雪。
「え、えっとねえ、星を見ていたんだ……」
「星?」
「そう。僕ね、昔からなにか悩みがあった時、外に出て星の光を浴びることにしてるんだ。
そうするとね、なんか体が洗い流されるような気がするんだよ……。」
「ふ〜ん……男の癖にえらく浪漫チストだな」
また馬鹿にされる。
冬雪はそう思った。
「でも、俺も星は好きかな。碓氷みたいにってわけではないけど、なんとなく」
そう言った秋綺の目は、星空と同様に輝いていた。
その肌は月の光を受け、光り輝いているように見える。
なんだ、いい娘じゃないか。
話してみると、以外と普通の女の子かも。
ホッとし、笑顔を秋綺に向ける冬雪。
「よかったぁ、卜部さんも星好きで。
でも、卜部さん、自分のこと俺なんて呼ぶんだね。」
その時、冬雪はある異変に気づいた。
きれいな目?
なぜ花粉症の人間が、きれいな目をしているんだ?
突如眼前によみがえる昼間の噂話。
花粉症じゃないとすれば、マスクをしている理由は……クチサケオンナダカラ?
秋綺から一歩一歩後ずさりする冬雪。
逃げなきゃ。
力が使えないのに、勝てるはずはない。
その時、背中になにかがぶつかった。
それは、なにか柔らかいものだった。
冬雪が振り返ると、そこには中学生くらいの少女が居た。
髪型はロングヘアーで、セーラー服の上に紅いコートを羽織っていた。
その口には、秋綺と同じ大きなマスクがかけられていた。
「こんなところで、子どもが夜のデートかい? 可愛いこった」
目を細め、くつくつと笑う少女。
少女のものとは思えないほどの不気味な表情。
その手には、いつの間にか鉈が握られていた。
「可愛いだろ、この体? 昨日襲った女の子の体だよ」
その場でクルリと一回転する少女。
スカートがふわりと上がり、思わず目をそらそうとする冬雪。
「俺ってさ、性転換手術に失敗した男の霊っていう設定の噂なんだよね。
だからこうやって、女の子の肉体を借りて乗り移ってるんだ。
昨日までは、確かOLだったな……」
なおも笑う少女から一歩一歩離れる。
額からは熱くもないのに一筋の汗が滴り、頭の芯が痺れてくる。
だんだんと恐怖に支配されていく。
もしかしなくてもわかる。
少女の正体は……。
話しながら少女の左手は、顔に伸びていく。
「でもなあ、ひとつ困ったことがあるんだよ。
俺が取り憑いた女はみんな…口が裂けてるんだよおおおおおおお!!!」
一気にマスクを剥ぎ取る少女。
少女の口は、噂通り耳まで裂けていた。
その鮫のような歯の間からは、銀色の筋が幾重にも流れている。
「こ、今度はお前の体をもらうぞ…。」
そう言って、秋綺に近づこうとする口裂け女の前に、冬雪は思わず立ちふさがった。
自分でも、なぜそのようなことができたかはわからない。
もしかしたら、秋綺に弱い男として見られるのが悔しかったからかもしれない。
「じゃ、邪魔をするなあ!!」
叫ぶや否や、鉈を思い切り振り下ろす口裂け女。
思わず目を瞑る冬雪。
駄目だ、完全にやられた。
だが、冬雪の意に反し、頭上で金属がぶつかる音が聞こえた。
「へぇ、かっこいいじゃん。冬雪!」
うっすらと目を開けると、そこには桃色の着物に朱のミニスカート状の袴を履いたポニーテールの少女が居た。
夏月だ。
夏月は、そのまま紅の「オーヌサステッキ」を振り回す。
口裂け女は避けると同時に、空中で一回転し、そのまま地面に着地した。
冬雪は呆気に取られた。 「ど、どうしてここに……?」
「朱雀が教えてくれたのよ! 口裂け女がこっちにきてるってさ。
青龍はねぼすけだから、春花はすやすや寝てると思うよ。
それより、早く逃げなよ。あんた、力使えないんだし。ここはあたしがやってあげるからさ」
そう言って小さくウィンクする夏月。
冬雪は無言でうなずき、秋綺の手を引いて、夜道を走った。

「ごめん、ここで待っててよ。」
だいぶ離れたところで、冬雪は秋綺に言った。
「行ってどうするの? なんにもならないと思うよ。」
確かにそうだ。
冬雪はまだ術が使えなかった。
それでも、今の冬雪にはそれしか選択がない。
口裂け女は怖かったが、夏月を失うのはもっと怖い。
「待っててね! すぐ戻るから!」

碧いオーヌサステッキを握り締めながら、走り続ける冬雪。
「古(いにしえ)は天地未だ剖れず、陰陽(めを)分れざりし時、
渾沌(まろが)れたること鶏子(とりのこ)の如くして、ほのかにして牙(きざし)を含めり。
……時に、天地の中に一物生(ひとつのものな)れり。
伏葦牙(かたちあしかひ)の如し。すなわち神となる。国常立尊と号(もう)す」
言霊を唱え、意識を集中させる。
途端に、冬雪の周囲は海のように蒼い光で満たされる。
髪が腰まで伸びていき、頭には大きく蒼いリボンが現れる。
元々白く少女のような顔には耳までを覆うゴーグル。
手足がどんどんと華奢になり、その小枝のような小さな手には白い手袋がはめられる。
学ランは浅葱色の着物に変化していき、小さいながらも胸にふくらみが出てくる。
ズボンの裾は一体化していき、蒼いミニスカート上の袴となる。
露出された無駄な肉付きのない脚を、柔らかな白いストッキングが覆っていく。
最後に蒼いブーツが足に現れ、変身は完了した。
「夏月!」
冬雪は叫ぶと同時に、口裂け女にステッキを当てようとした。
それを難なくかわす口裂け女。
「冬雪! なんで来たの!? あんた、術まだ使えないでしょ!!」
「でも、でも、夏月を放って置けなくて……」
うつむく冬雪に対し、高笑いする口裂け女。
「ゲハハハハハハハ!! お前、さっきの小僧か?
面白い、俺と同じってわけかよ!!」
口裂け女は醜悪な笑みを浮かべ、自分の胸に手を当てる。
「い、いいよな女の体は。
噂である俺にとって、こいつはたった一つにして最大の楽しみだ。
へへ、俺と同類のお前もそれを楽しめるんだぜ?」
同じ……。
言われてみればそうだ、花子さんといい口裂け女といい、自分に近しい存在だ。
じゃあ、自分は何なんだ?
「冬雪!!」
夏月の叫びで我に戻ったとき、目の前で夏月の体が舞った。
一瞬、なにが起きたかわからない冬雪の上に圧し掛かる口裂け女。
口裂け女はそのまま片手で、ぐいぐいと首を絞めていく。
「く……うぅ……」
「ゲハハハハハハハ!! ちょ、ちょっと揺さぶりゃこれかよ!!
やっぱりお前、素人だな!!
お前さえ出てこなけりゃ、こ、こいつも俺に勝ってたかもな!!」
口裂け女の体重以上に重く圧し掛かる言葉。
夏月を助けるどころか、逆に邪魔をしてしまった。
「に、にしてもお前、結構可愛いな。元男のくせによ……」
そう言って、冬雪の体をもう片方の手に這わせる口裂け女。
顔から胸、ふとももにその感触が伝わる。
「や……やめて……」
あまりの気持ち悪さのため、次第に涙で歪む視界。
夏月も起きる気配がない。
「へ、へへ、お前の中の四聖獣を追い出して、今度はてめぇの体をいただくぜ。
元男の女に入る……か、考えるだけでぞくぞくするな
だ、だけどよお、お前らが悪いんだぜ?
たった一つしかない、お、俺の楽しみを奪おうとするから。
だから、か、神に代わっておしおきしてあげるんだよぉ」
「そりゃあお前のエゴだろ?」
突然の少女の声に、二人の視線が釘付けになった。
そこには、マスクをはずした秋綺が立っていた。
月明かりに照らされた中性的な顔には、笑みが浮かんでいる。
「う、卜部さん!? 逃げたんじゃあ……」
呆けている冬雪の上で、口裂け女は目を見開く。
「なあ!? まさかお前は…。」
冬雪の上から素早く飛びのく口裂け女。
その顔は、先程とは違って焦りの色が見えている。
その隙に、慌てて夏月に駆け寄る冬雪。
「夏月、夏月!! 大丈夫!?」
頭を抑えながら、夏月は目を覚ます。
「ふ、冬雪!? なにもされなかった?」
無言でうなずく冬雪。
その体を、夏月は力いっぱい抱きしめた。
真っ赤になる冬雪。
それに構わず、夏月は涙を流して何度も呟いた。
「よかったぁ……冬雪が無事で……。あたし、冬雪がいなくなったら……」
「夏月……」
つられて涙ぐんだところで、事態を思い出す冬雪。
「そうだ!! 夏月、卜部さんが!!」
秋綺の方を向いた時、丁度その目が合った。
静かに言い放つ秋綺。
「力を持たないやつは人を守れない。よく見ておけ、俺の戦い方をな。」
そう言った秋綺の手には、いつの間にか白銀のオーヌサステッキが握られていた。
それと同時に、秋綺の体を白銀の光が包み込んだ。
次の瞬間、ブロック塀に激突する口裂け女。
鈍い音と共に、コンクリートの壁にひびが入る。
「お前にばれないため、顔を隠してたが、どうやら正解だったな。
これで、お前との追いかけっこも終わりだ。」
そう言った秋綺は、檸檬色の着物に、山吹色の袴といった出で立ちだった。
冬雪は口を開け放ち、呆けている。
「卜部さんが……4人目の仲間……?」
「ちょっと! そいつは人間に乗り移ってるのよ!! 手加減しなさい!!」
夏月の怒声に、肩をすくめる秋綺。
「大丈夫だよ。倒したら、取り憑かれた娘も元通りだ。」
そう言うと秋綺は、オーヌサステッキを掲げる。
次の瞬間、電気を帯びた槍に変化するステッキ。
「雷槍!」
辺りに満ち溢れる閃光。
気づくと口裂け女はどこにもおらず、壁には一人の少女が寄りかかっているのみだった。
「やったあ! すごいね秋綺って!」
歓声を上げ、秋綺に抱きつく夏月。
秋綺は顔を赤らめ、それを嫌そうに引き剥がす。
「お前、結構調子いいやつだな……。ていうか、べたべたするんじゃねえよ」
「え〜、いいじゃん女の子同士だし!」
なおも抱きつこうとする夏月。
「俺は男だ! 今はこんなだけど……」
「え!? ということは、冬雪と一緒!?」
そのようなやり取りを尻目に、冬雪は別なことを考えていた。
「また……守れなかった……」
二人のやり取りが、雑音のように耳に覆いかぶさってきた……。



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