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「死ぬ前にもう一度……。」

第五話 〜ラスト〜

作:セル


「ふう、やっと着いた……」
 帰りには行きのようなハプニングは無かったものの、
 元の体の時よりも疲れやすいためゆっくり来たのだが、それでも疲れてしまう。
 俺は早速、家の中に入ろうと、玄関に向かう。
 すると、親父が家の前に立っていた。
「えっと、どちら様でしょう?」
 親父が話しかけてきた。雰囲気がいつもと違う。落ち込んでいるのだろうか。
「え? あ、山中君の友達です」
 何とか嘘をつけた。そういえば、今の俺との関係について何も考えてなかったな。危なかった……。
「はい、じゃあどうぞ。家の和室でお待ちください」
 親父に案内された通り、家の和室に行った。
 古びた畳が敷き詰められた部屋の正面にたくさんの花が飾られ、その中央に俺の写真が大きく飾られている。
 そして畳には座布団が均等に並べられ重々しい雰囲気がする。
 昨日も見た部屋のはずなのに違和感を感じてしまう……。
 中には母さんやおじさんたちが部屋の隅で何かを話している。
 また部屋の一角には小夜と駿太がいた。
 この二人も親父同様、落ち込んでいるように見えた。
 俺は思い切ってこの二人に話しかけてみた。
 もちろん近くに家族とかがいるから事実は話さない。
「……こんにちわ〜」
「こ、こんにちわ」
 駿太が挨拶を返してくれた。少し緊張しているようだった。
 突然話しかけられた所為か、この体がありえないくらいの美人だからかは分からない。
「こんにちわ……」
 小夜も返してくれたが、かなり落ち込んでいた。たぶん、俺の所為だろう……。
「えっと、駿太君と小夜ちゃんだよね?」
 気付かれないように一生懸命演技をする。
「はい、そうですけど……。何で名前を?」
 駿太が聞き返す。
「えっと、山中君から聞いてるのよ。私と山中君が知り合ったのは、山中君が家出したときなの」
 あれほど噛みまくってた「私」がすんなり言えた。やっぱ神様ってすごい。
 それに事実も交えて説明すれば真実味が増すだろう。細かいことを聞かれるとボロが出そうなのでそのまま話を続ける。
「山中君が家出してきたときにね、たまたま公園で会ったのよ。そのとき、山中君がとっても大きな荷物を持ってたから
不思議に思って話しかけたら家出してきたって言われて、それで家でしばらく休ませてあげたの。
そのときから妙に親しくなっちゃったんだけど、家が遠くて、私も仕事してて会えないから、メールでやり取りしてたの」
「へぇ〜、そうだったんですか。で、えっと……」
「あ、私の名前は相川 翼っていうの」
「え? 同じ名前なんですか?」
「うん、そうなの。同じ名前の所為もあって親近感わいちゃって。それに私が翼君って呼ばないのは同じ名前だからなんだ」
 まあ、自分の名前を君付けするよりは苗字の方が楽なだけなんだが……。
「あ、そうだったんですか」
 と、駿太をやり取りをしているが小夜の顔は晴れない。

「――で学校が疲れちゃって……」
「へぇ〜、駿太君たちも大変なんだね〜」
 駿太はどんどん俺に話しかけてくれた。
 小夜はあまり話してこないが、顔は段々晴れてきた。良かった……。
「あ、そうそう。駿太君たちって今日学校はどうしたの?」
 ちょっと疑問に思ってたことを言ってみる。
「俺たち、学校を休んだんです。だって、親友の葬式には出たいじゃないですか」
「それもそうね。ま、私も仕事を休んでまで来たんだけどね」
 こいつらってこんなに友達思いだったんだと少し感動した。
 ここまで色々話したが、さっき決めた設定があまり役に立っていない……。
「あ、そろそろ時間ですね」
「そうだね。じゃあまたあとでね」

 式は着々と進み、無事終了した。
 小夜と駿太は泣きじゃくっていた。
 俺も皆のメッセージを聞いてるうちに、みんながこんなに思ってくれたんだと感動して泣いてしまった。
 俺は元の体のときは全然泣かなかったがこの体に変わって涙腺が緩んだろう。
 たぶん人生で一番泣いていたと思う。
 この後、親戚や小夜たちが集まって思い出話に花を咲かせた。
 俺には従兄弟がいないのでずっと小夜たちと一緒に居た。
 どんどん時間が過ぎていく。もう午後の五時を回ろうとしていた。
 あ、時間まであと残り少ないじゃんと、思い出して立ち上がった。
 すると、小夜も立ち上がった。
「翼さん、ちょっといいですか?」
 何の用事だろう? でも、俺もちょうどそれを言おうとしていたところだから即承諾した。

 小夜は近所の土手まで俺を連れてきた。
 夕日が眩しい。土手に生えているススキが風にあおられ、ドラマの告白シーンによくありそうな情景だ。
 てか、小夜になんて話せばいいんだ? こんな体じゃあ「実は山中 翼です」って言っても悪い冗談にしか聞こえないだろう。
 しかも、葬式で俺の死体見てたし……。
 俺が悩んでいると、小夜が話しかけてきた。
「えっと…………話って言うのは……」
 小夜は言葉を詰まらせいている。一体なんだろうか?
「じゃあ、思い切って言っちゃいますね。あなた、翼でしょ?」
「どういう意味? 私は翼だけど……」
 よく分からなかったので聞き返してみる。どういう意味だろう?
「えっと、そうじゃなくて……あなた、山中 翼でしょ?」
 小夜が不安そうに聞いてくる。
「え? な、何で?」
「性別も、顔も、胸も、脚も、髪も外見全部、それと、声も、言葉遣いも、雰囲気も、何もかも違うけど……。
もしかしたら、山中 翼じゃないかなって……。あ、ごめんなさい! 変なこと言っちゃって、そんなことあるわけ無いですよね……」
 小夜は俺を真っ直ぐ見てくる。その真っ直ぐな視線に俺は目を合わせられなかった。
「ごめんなさい、こんなことで呼び出したりなんかしちゃって……」
 言葉が出なかった。
 ここでうなずくだけでいいのに、うなずいちゃいけない気がした。
 直接口で言わなきゃいけない。そんな気がした。
「じゃあ、戻りましょうか……」
 と、言って小夜はゆっくりと歩き始めた。
「さ、小夜!!!」
 何も考えず、必死で小夜を呼び止めた。
「そう……俺……翼なんだ……。俺は山中 翼なんだ!!!」
 小夜が振り返る。さっきより顔が明るく見えた。
「そっか」
「でも、どうして俺だって……」
「君は君だよ……」
「え?」
「どんなに変わっても、君……翼は翼だよ!」
 小夜はゆっくり……一言一言をゆっくり話していた。
「小夜……」
「何かね……翼が死んだ後でも、また翼に会えるんじゃないかって思ってたの。でね、さっき翼と話してるとき、山中 翼を見つけちゃったんだ。
それでね……今はなんだかこれがホントのお別れじゃないかって思うんだ……。だから……伝えたいことがあるの……」
「…………」
 小夜は手でお守りで強く握り締めていた。
「あたし……小林 小夜は……山中 翼さんが好きです!」
「小夜……?」
 いつもの小夜とは思えなかった……。なんだろう……小夜には思えなかった……。
「あたし、他の男の人たちと付き合ってたでしょ? それはね……その人たちに嫌われるためなの。付き合って、悪女の振りすればいいかなって……。
あたしは翼が好きだったから……。でも、結局、その人たちとも仲が良いままなんだけどね……。
あたしが翼が好きだって気持ちは叶いそうにないのは分かってるよ……。でも、これがあたしの……ホントの気持ちだから!
勝手かも知れないけどさ、翼もあたしを勝手に助けちゃったじゃん……だから、お互い様ってことで……ね?」
 小夜が今にも消えそうな声で必死に喋ってた。
 何かがこみあげてきた。
 さっきの涙じゃない。もっと……もっと熱いものが……。
「小夜!!」
 小夜に抱きついた。
 何で抱きついたかは分からない。
 でも、これがホントの気持ちだから。
「翼……」
 もう自分の体のことなんて気にならなかった。小夜が俺を分かってくれた、それだけでもう良かった。
 ただ、小夜の体を感じた。
 柔らかくって、あったかい……。
 小夜の心臓の音を聞き取れた。
 その時、悪寒が背中を走った。
「……翼!!」
 体が段々透けてくる。こんな別れ方なんてありかよ……。神様……。
「ごめんな……小夜……。お前の言った通り……叶わないんだ…………」
 小夜が俺の手から離れる。そして、小夜は顔を真っ直ぐ前を見て、ニッコリしながらこう言った。
「そっか……。そうだよね! 人生そんなに楽にはいかないもんね!」
「小夜……ごめんな……」
 小夜……ホントごめんな……。お前の気持ち、俺と同じだけど……今さら俺が伝えても、もうどうにもならないもんな……。
「翼……」
「……何だ?」
「最後にさ〜、翼の気持ち聞かせてよ! ホントに最後だからさ、あたしの気持ちだけ伝えるのって不公平じゃん? だから、翼の気持ちも伝えていいよ。お互い様じゃん」
「いい……のか……?」
「早くしなよ、ほら、消えちゃうよ」
「……俺は、小夜が好きです。……そして、ごめんな。小夜……」
 ……ホントありがとな。小夜。
「いいよ、別に……。大丈夫! すぐ翼のことなんか忘れて、いい男見つけるから!」
 小夜の頬から一筋の涙が流れた。夕日できらきら輝いている。
「そうだな……頑張れよ」
「うん……じゃあね」
「ああ……じゃあな」
 俺は、大きく、大きく手を振った。
 目から頬に一粒の雨が流れた。
 それは、冷たくて……苦しいのに、
 どこかあったかい……。
 そんな雨が頬を流れ、消えていった……。







END


あとがき

 ハイ、最終話デス。いかがでしたでしょうか。
 最後まで読んでくださった皆様、真にありがとうございます。
 ホントにありがとうございます。そして、色々とすいませんでした……。
 ってことで(?)次回作に期待してくれたら非常にうれしいデス。

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