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イインジャー      By  Blue - μ
  第1回
 
「こんどは、大丈夫だろうなー…。」
天地菊太郎(あまち きくたろう)は、どことなく怪しそうな、
大河原(おおがわら)医院の前で立ちすくんでいた。

菊太郎はこの春、ついに、20歳になった。
高校を出て1人暮らしをはじめ、
2年間、専門学校に通い卒業したばかりである。
がしかし、5月になっても仕事は見つからず。
仕方なく、バイトで食いつないでいる状態である。
求人のあった、仕事の面接に行ったところ、
健康診断書が必要だということで、
先日、別の医院で診断を受けたのだが、
日ごろの不摂生がたたり、
γ-GTPの値がよくなかったのだった。
「専門学校時代から、先輩にお酒、
しこたま飲まされたからなー」
ちなみに、
γ-GTPは肝臓に病気があると異常値を示し、
アルコール性肝障害の指標として、
有効なデーターである。

再検査することになって、
この大河原医院が、肝臓のことに詳しいということで、
紹介されて、医院の前にやってきたのだが…、
なーーんか、いやな予感がするのである。

(俺、もしかしたら、とんでもないめに、
あわされるのかも…な…。)
とはいえ、それはただのカンである。
いろいろと考えていても、
仕方がないことなので、意を決っして、医院に入った。
が、当初の予感に反し、
そんなにも大きくないが、患者さんも多い、
いたって、普通の医院のようであった。
(はははは、思い過ごし…思い過ごし。)
が…あとで、それは大きな間違いだと、
いうことに気がつくことになる。

しばらくして、大河原院長がやってきた。
年齢は60前ぐらいだろうか。
体格はそんなに大きくないし、
頭は、すっかり禿げ上がっていたのだが
なにか、「カリスマ」があるような、
威厳みたいなものをもっていた。

院長は、菊太郎を一目見るなり、
「おおっ」と、叫んでしまった。
なにか、「これだっ」というものに、
めぐり合えたような、そういう顔であった。

「君は、γ-GTPの値がよくなかったのじゃったな…。
いかんぞう、いかんぞう。
今日は徹底的に調べてやるからな。」
そういうと、
菊太郎の体をペタペタと触りまくるのである。

そして、書類にいろんなことを記入している、
大河原院長は、
さらにいろんなことを聞いてきた。
「君は、一人暮らしかな?」
「はいそうですけど。」
「家にしょっちゅう遊びに来る友達とかは??」
「いや…特に、いまは誰とも会っていないですね。」
大河原院長は、
診療と関係なさそうなことをいろいろ聞いてきた。
そして、ふむふむとうなずきながら、
書類に三重丸を書いたのであった。

(…なんかおかしいぞ…この大河原院長…)
そうも、思ったのだが、なんせ「病院」である。
相手を信用して、ただ黙っているだけの、
菊太郎であった。

「さあ、そのベッドで横になってくれんかの。
もっと詳しく調べんといかんな…」
菊太郎は言われるがまま、ベッドに横たわった。
「ちょっと注射を打つからな。ちくっとするぞ…」

(ああ、採血するんだろな…)そう思って、
菊太郎は素直に左腕をさしだした。
チクっとした。
「うんうん。この子はかわいらしいが、
ヒーローの顔つきをしとるのぅ。
すりすりしたくなるわい。
きっと若いお母さん連中がほれ込むような、
美形キャラのヒーローになることじゃろて…。
ほっほっほっ。」
大河原院長は、ぎゅっと菊太郎の手をにぎりしめた。
(なっ何やってんだ…この院長…)
そう、思ったのだが…そこで記憶はとぎれてしまった。

注射は、採血のためではなかった。
菊太郎を、深い眠りに沈めるための注射だったのだ。

ほどなくして、診察室の薬品棚が動き出した。
なんと、動いた薬品棚の向こうは、
通路になっているではないか。
そしてそこから、軍隊みたいな格好した、
あやしい男たちが現れ、大河原院長に敬礼をした。

「おおっご苦労。ご苦労。親衛隊の諸君。
この男の子を、奥の特別手術室へ、
連れて行ってくれたまえ。」
「はっ総統閣下!」
感情のない、統制された声が響いた。
親衛隊と呼ばれた面々は、サングラスをしていて、
とても怪しいのだが、菊太郎が気づくはずもなかった。
男たちは、秘密の通路を通って、
奥の部屋、特別手術室へ、
菊太郎を運んでいったのだった。
後には、薬品棚が元の位置に戻っていた。

菊太郎はいったいどうなるのだろうか!!!!


あれからどれくらい時間がたったことだろう。
空調の機械がウンウンうなっている。
冷房が心地よい季節のようである。
大河原院長は、
菊太郎の体をじっくりと調べ上げているところであった。
どうやら、手術は終わったようだが、
体には、まだ、いろんな測定装置が取り付けられている。
菊太郎は到底、目が覚めない感じであった。

大河原院長は、ひとり言をぶつぶつとつぶやきながら、
作業していた。
「かわいい顔のヒーローじゃろうが、
たくましい顔のヒーローじゃろうが、
そういう者たちと、
顔がそっくりというのは、人相学からして、
カリスマというか、人をひきつける素質があるものと、
思っているんじゃ。
いや、そういったヒーローと同じように、
きっとものすごい力を発揮してくれる違いないわい。

この子の顔を見たときに、ピンときたんじゃな。
以前テレビで見た、なにかの番組の主人公そっくりとな。
この子は絶対に受ける、愛されるヒーローになる!
そう、わしは確信したんじゃ。

しかし、のう…ただの肉体改造だけでなくて、
さらにこんなよけいな手術まで、しなくちゃならないと、
考えてもみなかったが…。
ものすごーく、苦労をしてしもた。
いやーーーー、それにしても、
出来上がってみたら、とってもかわいいのぅ。」
その横には、親衛隊の面々が、
何も言わず、微塵も動かないで、
まっすぐ立っていた。

「改造はどうやらうまくいったようじゃ。
この子が、活躍してくれることが、わしの金儲けに…、
いやいや、そんなこと言っちゃいかんなー。
ほっほっほ。
しかるべき後には、
あの強敵と戦わなくてはならんのじゃ…。
平和のためには、犠牲はつきものなんじゃ!!」
大河原院長は、ひとりぶつぶつ言っていた。

「しかし、勝手に改造手術したこと…、怒るだろうな。
まっ、あの装置で、洗脳させてしまえば、
この親衛隊のように、
おとなしくなるじゃろうが…。
まだまだ時間がかかるかのー。
当分はリモコンが必要じゃ…。」
ニコニコ…いや、ニヤニヤしながら、
院長は作業をしていった。

どうやら、作業が終わったようである。
すべての機械を、
菊太郎からはずしながら、院長はさらにつぶやいた。
「さて、ここまできたら、
あと数日で目が覚めることじゃろて。
また、そのときが楽しみじゃ。ほっほっほ」
そして、機械をはずし終わると、
意味深な言葉をはき、大河原院長は去っていった。
親衛隊の男たちは、一言もしゃべらず、
院長の後ろをつけていった。
本当に不気味である。

さらに時間がたった。
「うっうーーーん…。」菊太郎の意識が、
ぼんやりとよみがえってきた。
セミの鳴き声が、どこからかとなく、聞こえているようだ。

(う、う〜ん・・・ここはどこなんだ。
たしか、検査で来て、採血されて??あれ??)
意識もまだ、混沌としていたし、
思うように、体が動かせない。
なんか体が麻痺しているのである。

(長いこと寝ていたような気がするなー。
そんなことないのかなー。
検査の結果、何か悪かったとか??
だから手術されて、体が麻痺している??
いやいや、これとてまだ、夢なんじゃ…。)
ただいえること。それは、何か悪いことがおこった。
感覚のない体が、そのことを確信させていた。

さらにしばらくして、痺れが少し取れてきた。
やっと、視線を体の下のほうに落とすことができた…。

ん??
なっなんだ…????

なんなんだ????????

視界に見えるのは…二つこんもりともりあがった、
立派な「バスト」である。
それが、自分の体の方から、
まっすぐ上に突きあげているのである。

(まっまさか…。)
ものすごーく…不安が…、襲ってきた。

叫びたい。
そして、逃げたしたい。
しかし…痺れていてかなわない体…。

そんなとき、大河原院長がやってきた。

「おおっ、目がさめたんだね。キーちゃん。」
開口一番、大河原院長がそう言い放った。
何言ってんだ?????

「キーじゃないです。菊太郎です…。ぼくは。」
え???????
声が出た。しかし、その声は自分の声じゃなかった。
かわいらしい、甲高い、声であった。

「おーーーーっ。かわいらしい声だのぅ。
キーちゃん。君は改造されて、
かわいい、かわいい女の子に、
生まれ変わったんじゃよ…」

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

現実を直視したくなかった。
あまりのショックに、
菊太郎は再び気を失ってしまった。

(夢だ。これは夢なんだーーーー)

しかし、夢ではない、現実にこれから嫌というほど、
さらされることになるのである。

…つづく…

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