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森の中にある小さな館。
ここに彼女は長く暮らしている。
町の教会の鐘はどれだけ季節が変わっても変わることはなく、美しく、華麗に響いてくる。
いったいどれだけの時間をここで過ごしてきたのだろう。
春が過ぎて夏が来て、秋と冬を越したらまた芽生えの季節。
今日も訪ねる者さえ滅多にないこの館で、彼女はひたすらに何かを待ち続けている。

「お館様」
彼女がここに来る前からこの館で働く召使の女が呼び止める。
「雨が降ってまいりました」
「あら、本当だわ」
「今日は、どなたか参られそうでございますね」
「そうね……シチューなぞ用意していただけます? そして、例のものを」
「かしこまりました」

彼女は予感がしていた。今日こそ、どなたかがこの館の扉を叩く。
そのとき、彼女は己のするべきことをするのみ。
あたかもそれがすべてであるように……。



雨に降られて

作:Y_kahn


森の中の道はいくつかに分かれ、時折間違うものもいるという。
一人の旅人が、雨の中でそのようにして迷っていた。

「参ったな……急に降りだした。道には迷うわ雨には降られるわ。まったく、今日の俺はどうも運が悪い」
と、彼は館を見つけた。

「へぇ。こんなところに人が住んでるのか。意外と俺、まだ運が向いてるかも」
彼は迷わずそこで雨宿りをさせてもらうことにした。

門をくぐり、重厚なつくりの玄関の戸を叩く。
すると、あの召使の女が彼を出迎えた。
「あの、すみません。旅のものなのですが、急に雨に降られてしまって。しばし雨宿りをさせてもらってもかまいませんか?」

すると女は、厳粛な顔を若干緩めた。
「まあそれは大変災難でございましたね。どうぞお入りくださいな」
旅人はほっと一安心といった風情で館の中へと通された。

旅人が通されたのは食堂だった。
「私めはお館様に許可を取ってまいります。しばしくつろいでくださいまし」
「はぁ」
旅人は一人食堂に残された。
召使を雇っているだけあって、部屋の内装も目を見張るものがあった。
シャンデリアも立派であったし、暖炉もテーブルも、まさにすばらしいつくりである。
なにより掃除が行き届いていてクモの巣ひとつない。
このような場所は滅多にお目にかかれるものではない、と旅人はただただ感動していた。


「お待たせいたしました。お館様がぜひお会いしたいと申しておりますゆえ、おいでいただきました」
召使の女の後ろにいたのは、まだ年若い美しい女である。
亜麻色の髪に青い瞳。それに旅人は魅せられてしまった。

「話は伺いました」
その声に旅人は恐縮とともに、何かときめきを感じた。
「この雨はおそらく今日明日で止むでしょう。お急ぎでなければそれまでお体を休められてはどうでございましょう」
旅人は迷わずうなづいた。

「お名前を伺ってませんでしたね。私はテーア。こちらは長年この家で働いているエーフィ」
「……俺はウルリヒといいます」
それを聞きテーアは微笑んで言った。
「ウルリヒ様に合いそうなお召し物をもっていらして。それから体を温めるためにシチューを」
「かしこまりました」
「何かございましたら何なりとエーフィに申し付けてくださいね。それでは」
そういってテーアが去っていくさまを、ウルリヒは頬を赤らめながら見ていた。


しばらくして食堂に着替えが届けられた。
それを見てふと、ウルリヒはエーフィに聞いてみた。
「あの、このお屋敷には男の方はいらっしゃるんですか?」
「いえ、近頃は私めとお館様の二人だけでございますよ」
「いつも男物の服は用意してらっしゃるんですね」
「ウルリヒ様のように迷ってここにおいでになる方がおられるのでね、それで常に支度だけはしておくのですよ」
それを聞き、へぇ、という表情でウルリヒは用意された服に着替える。
「お召しになっていたものは、ずいぶん穴など開いているようでございましたので後ほど繕っておきますね。それでは、私はシチューの用意を」
そういってエーフィが去っていったあとには、もはやウルリヒに疑問など残っていなかった。

運ばれたシチューをたいらげたあと、ウルリヒは寝室に通された。
「ここがウルリヒ様に泊まっていただく部屋でございます」
この部屋も食堂と同じく、塵ひとつなくきっちりと整えられていた。
しかしながら、どこか寂しさを感じさせる美しさをこの部屋の調度品は持っていた。
「ここも、もしものときのために?」
「それもございますが、どの部屋もいつでも使えるようにしておくのは当然と心得ております」
「なるほど」


ひとつの疑問に納得したウルリヒは、さらに続けた。
「前のこの館のご主人は亡くなられたのですか?」
「ええ。ずいぶん前に。前に仕えていた者も皆世を去って、今はお館様と二人きり」
「寂しいんじゃないですか?」
「私めはただ使命を果たすだけでございます」
「そうですか。これは失礼をいたしました――ところで、前の主人というのはどんな方だったんですか?」
「とにかく変わり者でございまして、森の中に屋敷を構えて、奥方様と親方様と三人で引きこもられて。
そして奥方様もあのお方もすでに亡く。
それでもお館様の叔父君が援助してくださっているので私どもは何とかやっております」
なるほど、調度品には審美眼が見られるものの、どこか寂しげに映ったのはそのせいか、とウルリヒは妙に納得していた。

エーフィが去ったあとで、ウルリヒは寝台に寝転びながら、テーアのことを考えていた。
(あんな美しい子がこんな広い館で召使と一人きり。なんともかわいそうだ)
そして、その顔を思い出して彼の心臓が激しく動く。
(多少便の悪いところだが、ここで暮らすのも悪くはない)


森に夜が来た。
蝋燭の灯りが屋敷の部屋にともされる。

三人が夕餉を終えた少し後、テーアが自室で繕い物をしていたエーフィに話しかける。

「お疲れ様」
その顔は何か決心のようなものを秘めていた。
「お決めになったんですね」
テーアが何をしようとしているのか、すでにエーフィは悟っていた。
そしてわずかに感慨深げな表情を浮かべた。
「小瓶はどこ?」
「地下の『ワイン蔵』の入り口の戸棚にございます」
「わかった。ありがとう」
わずかにテーアが微笑んで、きびすを返す。 そこにエーフィは声をかける。
「くれぐれも、お気をつけてくださいませ」
テーアが振り返ってうなづいた。
そして扉に手をかけて、部屋から出て行った。
エーフィは寂しげにため息をつき、つぶやく。
「さて、私めも支度をしなくてはね。あれはどこにしまいましたっけ」

そのころウルリヒは、灯りでぼんやりと明るい寝室で雨音を聞きながら寝転んでいた。
(雨が止んだらどこへ行こう。俺にはもともと行くところはない)

ウルリヒは己が住んだ故郷を災害で失って一人生き延び、日銭を稼ぎながら流離っていた。
そんな生活が5年ばかり続いたろうか。
森の向こうの国でなにやら仕事があるらしいと聞いて、急ぎ向かう途中でのこの雨だった。
森を回れば10日はかかる道のり。近道すれば2日で行ける。
野宿覚悟でいた分だけ、ちょうどよい宿であった。
だが、テーアを見て彼は心変わりした。
ここでともに暮らそう。ここを安住の地にしたい。
ウルリヒはそう思っていた。

ふと、戸を叩く音に気が付いた。
ウルリヒは何事かと思い戸を開ける。
そこにいたのはテーアであった。

「あの、ウルリヒ様」
「何でしょうか、テーア殿」
「少し、あなたのことが知りたくて。故郷がどちらかもまだお聞きしてませんで、いろいろとお話をお聞きしたいの」
「あ、あぁ。どうぞ、入って」

思わぬ訪問にわずかにどぎまぎしつつ、部屋の小さなテーブルに並べられた椅子に腰掛ける。
テーアも応じて座り、微笑を浮かべる。
緊張の面持ちのウルリヒは、まったくもって純情な青年である。

「黒い髪に茶色の目でらっしゃるから……南のほう?」
「そうです、南方の。アラトロってご存知ですか? 」
「ああ、山火事で滅んだというあの町」
「ええ、そこの生き残りでして。それ以来俺は国中を歩き回って――」

身の上話から始まり、彼は経験したことを話していった。
テーアの目が輝くのを見、話はだんだんと盛り上がっていった。
あらかた話し終わると、彼女がふと切り出した。

「ねえ、しばらくこの屋敷にいてくださらない? 私、貴方みたいな人に逢いたかったのかもしれない」

「えっ……」
思わぬ事態に困惑しながらも、ウルリヒはうなづいた。
「でしたら、誓いの口付けを」

と、テーアは手にしていた小瓶の中身を口に含み、目をつぶった。
ウルリヒは一瞬それを疑問に思い躊躇したものの、えい、と覚悟を決めてテーアに口付けた。

と、彼女がその含んだ小瓶の中身をウルリヒに口移しで流し込んだ。
彼は何がおきたかわからずに、思わずそれを飲み込んでしまった。
「……っ、これは?」
テーアはそれには答えず、微笑む。
「これで貴方はこの館にいていただくことになりましたわ」
ウルリヒは彼女の顔が一瞬残酷さを帯びたのを見逃さなかった。
「私の――」


ウルリヒが聞き取れたのはそこまでだった。
その場に昏倒してしまったからだ。

遠ざかる意識の中で彼は町でおぼろげに聞いた噂話を思い出した。
「森の魔女」である。
森の中に館を構える魔女がおり、彼女の館に踏み込んだ旅人が何年も戻らなかったという。
得体の知れない魔女。それが彼女だったのだろうか?

ウルリヒは、いっそう薄れていく意識の中で必死にもがいた。
(畜生、まだ死にたくない……)
それとは裏腹に、体中が軋むように痛み、頭もだんだんとぼうっとしていく。
(俺は……こんなところで死ぬのかよ……)
だが、もはや限界だった。
ついにウルリヒは力尽き、気を失った。


目を覚ましたときには朝になっていた。
雨はすっかり上がって、雲間から日差しも除いている。
いつの間にかベッドに寝かされていたらしい。
体に違和感はあるものの、思ったよりも悪くない目覚めである。

ふと、部屋に置かれていた姿見が目に留まる。
何気なく己の姿を映し見て、ウルリヒは驚愕した。
そこに映っていたのは自分ではなかったのだ。
腰まで届こうかという亜麻色の髪で、青い瞳の――
小さな乳房に華奢な体、そして触れてみてもそこにない男の証。
まさしくその姿はテーアのそれに他ならなかった。

ふと、隣の部屋の戸が開く音がした。
矢も盾もたまらず廊下に出て、覗き見ることにした。


そこにはテーアがいた。
エーフィがなにやら小瓶を持ってきたようだった。

「ユリアン殿、でしたね。お役目ご苦労様でございました」
「ああ。今まで、ありがとうな」

(ユリアン? 役目? いったいどういうことだ?)
目の前で繰り広げられる光景に目を疑う。

と、ユリアンと呼ばれたテーアはエーフィが持ってきた小瓶を手に取り、その中身を一気に飲み干した。

「うっ――」
そう小さく喘いでもだえ始める。
すると、見る見るテーアの体が変わりだした。
亜麻色の長い髪が抜けて、黒味がかった色の短い髪が生える。
そしてそれに合わせて、華奢であった体つきが隆々とたくましさを備えだす。
ほんのわずかも経たないうちに、さっきまでテーアであった者が見目麗しい美丈夫に変わり果てた。

「さあ、貴方がいらしたときのお召し物でございます」
「――今まで、世話になったな。言葉の癖が抜ければいいが」


これらの光景で、ウルリヒはこの屋敷の秘密を理解した。
迷い込んだ若い男を捕まえて、そいつが先客と入れ替わりにテーアとしてこの館の主人となるのだ。
あまりの衝撃に、思わず自室に駆け込んでしまった。

ウルリヒはしばらくベッドの上で放心していた。
何も考えたくない。
それが正直な心境だった。

いつの間にかだいぶ太陽も高く上っていた。
ふと、扉を叩く音がする。

「ウルリヒ様、入りますよ」

エーフィの声である。
「どうぞ」
ようやく、言葉が出るようになって来た。
手に着替えをもって、やれやれという表情をしてエーフィが入ってきた。

「足音がしたのでわかりましたよ。あの様子をご覧になってしまったのですね」
ウルリヒは、やはり知られていたかと衝撃を受けた。
そして目を伏せる。
エーフィのしわの多い頬が緩む。
「私めこそが、噂された魔女だったんですよ」

「どうして、こんな真似を」
「よろしゅうございます。貴方様に、すべてお話しすることにいたしますわ。この館の秘密のすべてを」


「あれは何年前のことだったのでしょうかねぇ。
先のお館様でらっしゃるヨハン様は、まだ20そこそこだった私めを含めて5人ほどの召使と奥方様とともにこの館に入られました。
何年かあとのこと、お二人はようやくお子に恵まれました。男の子でらっしゃいました。
ところが、その日たまたま屋敷にいらした占い師が、
『そのお子が男の子ならば災いをもたらす。女の子であれば永遠の幸福有らん』
などと言い放ちました。
はじめは誰も気にも留めなかったのですが、まもなく奥方様が産褥で亡くなってしまったのです。
テーオと名づけられたその子を、愛しながらも恐れていらっしゃいました。
そして、魔術の研究に走られたのです。
男を女に作り変える薬を作られて、すぐさまテーオ様に飲ませました。
見事に薬は効きまして、すっかりテーオ様は女の子になられました。
当のテーオ様はそれを知らず、名も改めてテーアと呼ばれ、いっそうの愛を受けながら育っていったのです。

これですべてはうまくいく。館のものは誰もがそう思っておりました。
ところが、テーア様が17になった年、悲劇が起こりました。
はやり病でテーア様が亡くなられたのです。
テーア様を溺愛なさったヨハン様は、また薬を作られました。
飲んだものをテーア様とそっくり同じ姿形にしてしまう薬でございます。
その薬を召使の一人に飲ませ、薬自体は無事に成功いたしました。
ですが、テーア様が帰ってくるはずもありません。
ヨハン様は絶望のあまり病に倒れ、まもなく亡くなってしまいました。
そればかりか、テーア様に変身なさった召使も程なくして亡くなって。
一人、また一人と変身しては亡くなられ、とうとう私ともう一人だけになってしまいました。
そして最後の一人も病に倒れたとき、私も薬を試してみましたが、まったく効きません。
男にしか効き目がないみたいで。
そのとき、ちょうどウルリヒ様や先ほどのユリアン様のように雨に降られた旅人が。
私にある考えが浮かびました。
あの人を変わりに仕立て上げてしまおう、と。
幸い、元に戻す薬はたまたまその調合法を見つけておりまして、元に戻すことはできる。
こうして、旅人の方に交代でテーオ様になっていただくことにしたのです」

「それはわかりました。ですが、なぜテーアが生きてなきゃならないんですか?
死にましたとその叔父上という方に報告すれば済む話じゃないんですか?」
そうウルリヒが聞き返すと、エーフィは顔を青くして答えた。

「それがわかったら、あの方はかんしゃくが激しい方なので私めなどあっさり殺されてしまうでしょうね。
それに、叔父君もテーア様を溺愛してらっしゃって。
どうかお願いいたします。私めを助けると思って、次の方が来るまでこの狂気に付き合ってくださいませ」

ここまで懇願されて、ウルリヒは困惑した。だが、すっきりとした顔で答える。
「わかりました。どの道身寄りのない俺ですから、たまにはこういうのも悪くない」


こうして、ウルリヒのテーアとしての暮らしが始まった。
月に一度テーアの叔父君が訪問する以外は滅多に来客もないこの屋敷。
だが、ウルリヒは次第に慣れていった。
半年もするころには礼儀作法も女の言葉遣いも立ち振る舞いもすっかり使いこなしていた。
これはひとえに、エーフィの教育の賜物だった。


こうして、2年が過ぎた。

その日、空は曇ってどんよりとしていた。
「お館様」
庭に出ていたウルリヒがエーフィに呼び止められる。
「雨が降ってきましたね」
「あら」
「もう自然にその言葉遣いが出るとは、相当馴染んでおられますね」
「そう――」
感慨深いものをウルリヒは感じていた。
あれは、自分がここに来た日と同じ空――
「今日はどなたかいらっしゃりそうでございますね」
「そうね……シチューなぞ用意していただけます? そして、例のものを」
「かしこまりました」

これで、この生活もとうとう終わる……
そう考えると、なんともいえない気持ちがした。


しばらくして、若い黒髪の美丈夫が雨に降られて入ってきた。
まさに、自分のときと同じように――。
まるで思い出すかのように同じように彼に接する。
彼の名前はユリウスというらしい。

そして夕餉の後、まさに己がされたときと同じように、エーフィの部屋に向かう。

あの日と同じように彼女は、部屋で繕い物をしていた。
「例の小瓶は?」
「ワイン蔵にございます」

ウルリヒはワイン蔵から小瓶を取って、己の時と同じようにユリウスのいる部屋へ――

だが、ウルリヒの心は揺らいでいた。
(これでいいのかな、本当に――)

男に戻ったからといって、何かが変わるだろうか。
そう思うと、その扉を叩くのを一瞬でもためらわざるを得なかった。
ままよ。と、気を奮い立たせ扉を叩く。


開いたドアの向こうには、あの日の自分と同じようにユリウスがいた。
「あの、ユリウス様」
「何でしょうか、テーア殿」
「少し、あなたのことが知りたくて。故郷がどちらかもまだお聞きしてませんし、いろいろとお話をお聞きしたいの」
「あ、あぁ。どうぞ、入って」

初めは、彼を己の交代要員と割り切ろうとしていた。
だが、話を聞くうちにウルリヒの心になにかが芽生えてきたようであった。
ユリウスもまた、身寄りもなく彷徨っていた。
そして、目は爛々と希望に満ちた光をたたえていた。
それにウルリヒはときめきめいたものを感じていたのだ。


しばらく後、ウルリヒはエーフィの部屋の前に立っていた。
顔は晴れ晴れとして、決意に満ちている。
部屋に入ると、なにやら男物の着替え一式をしたくしている真っ最中であった。

「ねえ、エーフィさん」
「もう元に戻られるんですか? 夜が明けるのを待たれてもよろしいのに」
「違うの。あの……」
一瞬でエーフィはウルリヒが何を言いたかったのかをわかったようだ。

「そうですか。承知いたしました。ユリウス様を好きになってしまわれたんですね」

その目は、まさしく大人になった娘を見るような、優しい眼差しだった。
「その小瓶もいらしたときのお召し物も、おそらく用済みですわね」
暖かく、二人は微笑んだ。


(これで、よかったんだね。これで……)
満足げに、彼女は天井を見上げた。


翌日も、雨は止まなかった。
早朝、テーアの叔父君の家から手紙が来た。
彼が一昨日に亡くなられたとの知らせだった。

屋敷は何かあっけない開放感のようなものに満たされていた。
そして、二人はすべてが終わったような面持ちで顔を見合う。
「これで貴方も籠の鳥でなくなられたわけですが、どうなさいます?」
エーフィからの問いに、迷わずウルリヒはこう答えた。
「私は、テーアとしてユリウス様と結ばれたい」
エーフィはかすかに微笑んだ。
「ねぇエーフィさん。もし私がここを去るって言ったら貴女はどうする?」
「呼んでくださるのでしたらいつでもどこでも飛んでまいりますよ。貴女は私めが手塩にかけて育てたレディーですもの」
雨はいつしか、わずかに弱まってきたようだった。

「ユリウス様を起こしてまいりますね」
エーフィの言葉に、テーアはうなづいた。
その顔は、曇りなく晴れやかであった。




あとがき

こちらでは始めてお目にかかります。Y_kahnです。
いかがだったでしょうか?

とにかく妖しい雰囲気の作品を目指して書いてみましたが、意外と難しく思われました。
未熟な点も多くあるかと思いますが、よろしくお願いいたします。

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