戻る


午後の授業は、はっきり言ってけだるい。
特に古文漢文ともなるとおお、もう……って感じで、教科書とノートをヨダレでふやけさせる時間と化してしまう。
今日も今日とて、夢の中へと案内されてしまっていた。

「和希(かずき)くん、和希くん――」
「ん……んあ?」

なにやら後ろの方からゆすられて目が覚める。
前を見ると、古文の先生がため息つきながらこっちを見てる。
やっべ。またやっちまった。

「和希くん、だめじゃない。何度私が起こしてると思ってるの?」
「おう……いつもありがと」


起こしてくれたのは川口紗耶(かわぐち・さや)だった。
そもそも俺、山崎和希(やまさき・かずき)と紗耶は幼馴染で、気がつけばいつも一緒だった。
別に男勝りだったわけじゃないが、最近やけに女の子っぽくなってきたな、という気がする。

黒板のほうに戻ってさっきまでのように授業を続ける先生を尻目に、俺と紗耶は小声で話す。

「起こすこっちの身にもなってよね」
「わかってるよ」

しょっちゅう俺が居眠りしては、先生から頼まれた紗耶に起こされる。
なんというか、このクラスの日常の恒例行事みたいなものと化していた。

まあともかく、そんな俺の日常って言うのは、波乱万丈こそあれ高校3年間は変わるはずのないものだ。


いや、正確には「はず」だった。
今日、この日までは――




和希はなぜだか受難する
〜押しかけエイリアン〜

作:Y_kahn



その次の時間は化学だった。
とりあえず先生がベンゼン環の説明をしているのを尻目に、なんとなく俺は外を眺めていた。

(あ、何か飛んでるな。鳥かな)

黒い影。だがそれは次第に近づいてきた。
数秒もしてわかった。あれは鳥じゃない! 何だ!?
なんかこっちに迫ってくる。

「な、なんか来るっ!」

俺の叫びでみんな「それ」を認識したらしい。
あわててみんな教室の端のほうやら廊下やらに避難する。
それでもなおこっちにかまわず、それは突っ込んでくる。
そしてガラス窓を――




ガシャァァァンッ!



――突き破った。
俺が恐る恐るその現場のほうを見ると、なにやら人1人が乗れそうな宇宙船らしきものがガラス窓に突き刺さっていた。

何がおきたのかわからず混乱するクラスメート。
と、その船から何か降りてきた。
それの見た目がまったくもって日本人って言うか、黄色人種の男なのは間違いなかった。
だが、銀色のアルミ箔というか、宇宙服のような衣服が異彩を放っている。

やつは教室を見回して、意外すぎるほど流暢にこう言った。

「山崎和希というのは、いないカ?」

え? なぜ俺なんだ? っていうかなぜ知ってるんだ俺の名前を!
そう思いつつも、恐る恐る名乗り出た。

「あの……俺ですけど」
野次馬まで混じりだした廊下から俺がようやく顔を出す。 そして、その次のやつのセリフに俺は、いや、その場にいた一同が、陳腐な言い方だが頭を殴られたような衝撃を覚えた。

「結婚してくださイ!」

「はぁ?」

ここまで心の底から何を言い出すんだコイツと思わせたのは、やつが初めてだった。

「申し遅れましタ! 私ビリアント星から来ましたタリアンといいまス。貴女こそわが伴侶となるべき人でス!」
「まあ待て、冷静に考えよう。俺は、お、と、こ。お前も多分お、と、こ。生物学的におかしいんじゃないんですか?」
「おかしいですネ。このスコープで地球を眺めてたらあなたにキュンときたっていうのニ」

なにやらわけわからない機械まで持ち出して説明をしだす。
ホント何なんだこいつは。
第一こいつが本当にそのビリアント星人なのかってのも疑わしいじゃないか。

と、思ってるうちに説明をやめてこっちにツカツカとやってくる。

「大丈夫でス。地球人類と私たち、ほとんど同ジ。そして私の目が確かなラ――」


ムギュッ

「ぐえぇっ、何すんだ!」

何を思ったか俺の股間をわしづかみにしやがった。

「大丈夫ですね。問題ありませン」
「大ありだろうが、このホモ!」
「いえ、ですから、地球の男にはたまにあなたみたいなタイプがいて、その手のハ――」

となにやら懐からスタンガンに吸盤をくっつけたような機械を取り出した。
「これで何とかなりまス」

と、その機械を俺の股間に押し付けた。
「スイッチ、オん!」

ブルルルルルルルという機械音とともに、なにやら吸い込まれるような感覚が走る。
そのパワーのせいか、たまらず制服のズボンのチャックがおろされてしまう。
パワーがいっそう直に伝わってくる。
もう、だめだ。千切れる!



ポンッ


え?
もしかして、取れちゃった?

「これでOKです。われわれの調査で、わたしたちや地球人類の男にはいくつかタイプがあって、おおよそ10%くらいはこの機械を使えば、アソコが取れて、女になりまス」
「ちょ、おま――アゥッ」
そういうか言わないかのうちに変化は始まった。

ムクムクっと胸が膨らんだかと思うと、まるで綱で絞るかのような感覚がわき腹に来る。
それに股間から何かが押し込まれ切れ込むような感覚。
「な、なにしやがったんだ――って声が!」
声まで変わってる。ということは、どうやら俺は完全に女になってしまったらしい。

「やっぱり私の目に狂いありませんでしタ! 貴女こそ私の相手にふさわしい人でス!」
「ふざけんな」
「どうして? そんなに私が嫌イ?」
「だから、そういう問題じゃないだろうが」
「どうしてモ?」
「元に戻せ!」
「私、貴女をこんなに好きなのニ?」

話がまったくかみあわねぇ。
5分ほど押し問答が続いただろうか。

「どうしても、だメ?」
「当たり前だッ!」
「じゃ、こうしましょウ」

と、やつはなにやら取り引きを持ちかけてきた。
「私の星に伝わるプロポーズ法ありまス。それでもし貴女勝ったら男に戻しまス。ですが私勝ったら貴女を貰い受けまス」
「いいだろう。で、何をするんだ?」

と、やつが船から二本のサーベルのようなものを持ってきた。
「これで互いに戦うでス。あたっても死にはしませン。電気ショックでしばらく動けなくなるだケ。先に当てたほうが勝ちでス」

ほう、と思った。意外とスタンダードじゃないか。
俺も反射神経には一応自信がある。
せっかくの取引だ。迷う必要はない。

「OK、受けてたつぜ」


「それならばわかりましタ。フィールドはこの教室デ。証人が必要なのですがこんなにたくさんいるので大丈夫でしょウ。じゃ、準備できたら言ってくださイ」

そう言ってやつがサーベルを一本手渡す。
これに俺の人生がかかってるんだと思うと手に汗がわいてきた。

と、後ろから声が聞こえてきた。

「絶対勝ちなさいよ!」

紗耶だった。

「あんたが負けて、なんかよくわかんない星に連れてかれたなんてなったら、あんたの家の人に何て言い訳したらいいのよ!」

はいはい、と思いながらも返事をする。
「お前に言われんでも、絶対勝ってみせるぜ!」
そう言って振り返ってみた紗耶の顔は、とても心配しているようだった。
本気で、俺のこと思ってるのかもしれない。
そう思うと一気に気合が入ってきた。
そして、俺はやつのほうへ向き直る。

「もういいぞ」
「OK。じゃ、いきますヨ!」

そう言うと、やつはいきなり速攻を仕掛けてきた。
疾風のような空気の刃が教室を走る。
かろうじて避けはしたものの、危ないところだった。
今度はこっちから攻めてやる。

「えいっ!」
だが、やつもなかなか素早い。
いとも簡単に受け流した。

それにしても、こいつはなんて素早いんだ。ただもんじゃねぇ。
だが、あのくらいなら何とか喰らいつける――
いや待てよ、もしかしたら俺のほうは女になったせいで瞬発力が落ちてないか?
だとすると、冷静に考えてこっちが不利だ。

やつがもう一回振りかかる。

ガシッ

今度は何とかサーベルで食い止めた。

「なかなか、やりますネ」
「それはこっちのセリフだ」

向こうの涼しい顔にひきかえ、こっちはずっと冷や汗ものだ。
バッと距離をとり、もう一度互いの出方を伺う。
突っ込もうにも、切り込んでいく隙がない。
切り込んできたところを一か八かいくしかないのか?

と、やつが仕掛けてきた。
もぐりこめるか?

ガッ

だめだ。受け止めるので精一杯だ。
こいつ、優男風の見た目に似合わず異様にタフなんでやがる。
これは正攻法で押し切るのは無理かもわからない。
それでも勝機は必ずあるはず……!
そう思いつつ俺は、畳み掛けるようなやつの攻撃を防いでいた。






何度も切り結びながら、5分くらいがたったろうか。
向こうは相変わらず涼しい顔をしてるのに、こっちは汗だくで疲れが出てきだした。
その上いっこうに間合いも掴めない。
くそ、このままじゃどうにもならない。

と、俺の頭にひとつのアイディアが浮かんだ。
一か八かだ、賭けてみる価値はある。



「あんたさぁ、案外男らしいじゃん」
「な、何言ってんの和希!」
そう言う紗耶を俺は手で制止する。
「一緒に、いってもいいぜ」

やつはその言葉を聞いて、嬉々としてこっちに近寄ってくる。
「あなたがそう言うのを待ってましタ! さあ、一緒に船へト――」



バシッ


「隙あり」

電撃ショックを受けてやつが倒れこむ。
どうやら、俺が勝ったようだ。

「ヒ、卑怯でスー」
「『兵は詭道(きどう)なり』、だ。マンガで知った知識だが、だましも戦術ってね。まさかこう簡単に引っかかるとは思わなかったけどな」

どうやらやつは極端な単純バカだったようだ。
俺としては動揺させるために言ってみただけだったのだが……
こういうのって、お約束って言うのか?

「や、やったね和希!」
「さあ、何はともあれ俺が勝ったんだから、約束は守ってもらうぞ」
「わ、わかりましタ……しばらく待ってくださイ……」
タリアンはしびれる体でようやく立ち上がり、さっきの機械を取り出した。

「ねえ、どうしても、男に戻るノ?」
「いいから早くやれ!」

どうやらやつはまだ諦めきれなかったらしいが、しぶしぶながらも機械の準備を終えたようだ。
「今度は股に直にくっつけないと大変なことになりますからネ、文句言わないでくださいヨ」
そう言って、ズボンのチャックから機械を入れて、下着の間から直に股間に吸盤を当てる。

タリアンがスイッチを入れると、さっきの機械音とともに何かがぴたっとくっついた感じがして、一気に体が元に戻っていく。
胸もしぼんで、絞られたわき腹も緩んだように元に戻る。
「あー、あー、うん。声も正常。完璧に元に戻ったみたいだな」

と、すっかりしびれも取れたタリアンが立ち上がり、船に向かう。


そして、俺に向き直りこう宣言しやがった。
「こうなったラ、貴女に似合う男になるまでシュギョーしてきまス! 待っていてくださイ、マイスイートハート!」
と、船に乗り込み、そのまま行ってしまった。
誰も待ってないっつーの。

「よかったね、和希!」
「おう。だけど――」

俺たちは、船の衝突と戦闘によってむちゃくちゃになった教室を見て、つぶやいた。

「どうすんの、これ……」



一ヵ月後。


俺と紗耶は二人で学校から帰っていた。
「まあ、あれは事故だったってことで片付いたし、あれからやつもやってこないし、めでたしめでたしってとこかな」
「ホントだね。でもさ、和希」
「ん?」
「あの……」

何か言いたげに紗耶はしていた。
が、それを飲むようにしてこう言う。

「もしさ、女のままだったらどうする気だったの、なーんて」
「そんなの、そのときになってみなきゃわかんねーよ。何でそんなこと今聞くんだ?」
「――なんでもない!」

変な紗耶。
そういえば、なんだかあれから俺に対する態度が微妙に変わった気がする。
気のせいかな……?

ともかく、紗耶と別れて家にたどり着き玄関を開ける。
そして、母さんがいつもいるダイニングのドアを開けた。

「ただい――ま!?」




「おじゃましてまース」
「あ、お友達が来たみたいだったからさきに入って待ってもらってたのよ」







「冗談じゃねぇー!!!」


俺はありえない事態に、思わず叫んでしまった。
勘弁してくれよ、まったく!

というわけで、俺の苦難はまだまだ続きそうなのであった。




あとがき

まいどどうも、Y_kahnです。
今回はいかがだったでしょうか?

和希もいきなりこんな変なのに押しかけられたら困惑しないわけがないでしょうね(笑)。

前の作品とまったく違った、テンションの高い一人称を目指してみました。
三人称と一人称って言うのは、ものすごく勝手が違うわけで。
とにかく、こういうのも楽しかったです、ハイ。
それではまた、次の機会に。



戻る

□ 感想はこちらに □