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極秘!!帝国陸軍電波兵器乙女1号 前編

山口多聞





 ―――1945年 8月6日 午前8時 広島

 ここは、市内にある軍施設の研究室。部屋は窓を締め切っているせいか暗い。部屋の中にある明かりはたったひとつの裸電球だけである。その光の下に、白衣をまとった男が二人いた。一人は20前後、もう一人はめがねをかけた50代半ばに見える。
「中佐、遂に完成ですね。これを前線に投入すれば戦局を挽回できます。沖縄やサイパン、各地の空襲の仇討ちが出来ます」
 若い方の男が嬉しそうに、中佐と呼んだ男に話しかけた。
 そう言われ、中佐がうなずく。
「いや、近藤君、それだけではない。こいつがあれば、やつらに一泡吹かせるばかりか、奴らの民族そのものを、滅ぼせるかもしれん」
 そう言う彼の視線の先には、機関銃にパラボラアンテナを付けたような物が置かれていた。
「とにかく、こいつの完成報告を軍司令部に報告しなきゃな。ついでに飯を食いに行くか。おい、君も行くかね」
 そう行って中佐は部屋の入り口に近づく。
「は、ご一緒します。それに、早くこいつの完成を、あの二人にも教えたいですし」
 そう言って、彼が入り口にむかった直後。
 ドゴ―ン!!
 大音響とともに地面が揺れ、その直後、天井が彼らを襲った。
「ウワ―!!」
 あっというまに二人は生き埋めになった。
「畜生、こんな所で、せめて、あいつの活躍する所をこの目で・・」
 それが、白石技術中佐の最後の言葉だった。
 時に、8時6分、人類史上初の核は、彼らの命と、謎の新兵器をこの世から奪い去っていった。





  ―――現代 新潟県のとある山道

 暗い夜道を、一人の男子高校生が歩いていた。大きなスポーツバッグを抱えている所を見ると、どうやら部活帰りの様だ。既に、時計の針は9時を指そうとしていた。
「いけねえ、もうこんな時間か。早く帰らなくちゃ」
 街灯のない道は暗く不気味で、時間が遅いのも手伝って自然と足取りも速くなる。
 しばらく歩いて、彼は立ち止まった。
「うん?」
 彼はその時、超音波のようなキーンとした音が聞こえたような気がして周りを見まわした。しかし、周りには不審な物は見当たらない。
「気のせいかな?」
 再び彼は歩き出そうとした。しかし、
「う!」
 彼は自分の体の異変に気づいた。胸と頭のあたりが痒い、それに体がどんどん熱くなっている。
「な、なんだ」
 彼は自分の手を胸に当ててみた。その途端、あるはずのない感覚が彼の手に伝わった。
「胸!!」
 さらに彼は、頭に手をやった。すると、やたら長い髪の毛がそこにあった。
「まさか、俺が女に。い、いやだ!!」
 彼は叫んだ。しかし、彼の体の女性化は止まらない。胸とおしりが大きくなり、髪の毛はさらに長くなり、腕が細く、白くなっていく。そして、身長も低くなっていった。
「ああ……」
 そう言って、彼は気絶してしまった。
 しかし、その後も、彼の体の女性化は止まらず、そして最後には、脳も細胞も女性の物に書き換えられてしまった。
 そのすぐ側の草むらには、その光景を満足そうに見守る二人の人間の姿があった。
 翌朝、その場所で、男子高校生の制服を着た若い女性が、気絶している姿が発見された。





 ―――翌日 新潟のとある警察署

「畜生、また被害者が出た。これで7件目だ」
 男性急性転換事件捜査本部と入り口に紙が張り出された部屋の中で、この署の刑事課課長東雲一哉警部が、悔しさに満ちた声で叫んだ。
「またですか?」
 そう言うのは、彼の部下の結城大吾巡査長だ。
「ああ、被害者は今までと同じく若い男だ。そして、やはり今までの現場と同じく人気のない山道だ」
 東雲警部が、受け取った情報を結城巡査長に話す。
 彼が担当するこの事件は、約3週間前、普段あまり人気のない道で、男物の服を着た若い女性が発見された時から始まる。
 その女性は直ちに病院へ運ばれたが、そこで彼女は、自分は男であり、夜歩いていて突然体が女性化したと話した。
 当初病院側は、この言葉を信じなかったが、彼女の持物が全て男の物だったことと、あまりにも話している事がくわしかったため、警察に連絡したのだ。しかし、当初警察も、余りに常軌を逸脱しているとして本格的な調査をしなかった。だが、第二、第三と事件が立て続けに起きたため、さすがに捜査を開始した。しかし、警察の捜査をあざ笑うかのごとく、第四、第五の事件が発生。そして、その事件後、マスコミを通し、県民に警告を出したにもかかわらず、第六、そして今回の事件がおきてしまった。
「まったく、いったいどうなっているんだ、この事件。女性化の謎はつかめんし、それに、被害者の年齢と、県内で起きた以外に共通点が全くない」
 すでに捜査開始から18日。東雲警部も焦り、いらだっていた。
 そこへ、一人の警官が入ってきた。
「東雲警部」
 突然部屋に入ってきた警官に声をかけられたので、彼は少しいらついて答えた。
 (ちなみに彼は普通、こんな事じゃいらつかない)
「なんだ!」
「うわ、何も怒らなくても」
 警官がうろたえながら言った。
「怒りたくもなるわ、これ以上俺を怒らせたくなかったら、早く用件を言え!」
「は、はい。内閣危機管理室の方がお会いしたいそうです」
 東雲警部の顔が疑問顔になる。
「なんでそんな人がおれに?」
「さあ、直接聞いて下さい。応接室に待たせているので。では、失礼します」
 そういって彼はでてってしまった。
「なんでしょうか?」
 そう言うのは結城巡査長だ。
「まあいい、とにかく会ってくる」
 そう言い、彼は応接室に向かった。


 応接室で彼を待っていたのは30代半ばぐらいの眼鏡を掛けた男と,どう見ても80代はいってそうな老人であった。
「お待たせしました。刑事課課長の東雲です」
「内閣危機管理室の笹木淳三です。こちらは」
 そう言い終わらないうちに老人が答えた。
「旧帝国陸軍技術少尉だった、坂上一郎です」
 そう言って,彼は敬礼した。それは、完全な旧軍式のものだった。
「はあ、で、その内閣危機管理室と、旧軍の技術将校の方が私に何の用ですか?」
 その疑問にまず答えたのは笹木の方だった。
「実は昨日、こちらの坂上さんが、今回の事件に関しての情報を警察にまず入れられたんですが、その情報が、国家レベルの問題だったため、我々が急遽動きました」
 東雲警部は驚くしかなかった。自分の担当の事件が国家レベルの問題を抱えているなんて、前代未聞だったからだ。
「どういうことですか?」
 その質問に今度は坂上が答えた。
「それについては私が説明します。しかし、その前に2,3質問してよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「今回、性転換した方は、以前の記憶こそ有るものの、仕草、言葉遣いが、女性の物になっていませんでしたか?」
 この質問にも東雲警部は驚くしかなかった。
「な、なぜそれを!?」
 坂上の質問の答えは正解だった。しかし、この事を知っているのは捜査本部の数名と、医療関係者だけのはず。しかも、絶対他言無用のはずだったからだ。
「どうやら正解のようですな、坂上さん」
 笹木が眼鏡を拭きながら言った。
「ええ」
 坂上もうなずく。
「いったいどういうことですか?」
 東雲警部はもう何が何だか判らなかった。
 彼の混乱模様を見つつ、坂上が話し始めた。
「実は、私は太平洋戦争中、ある電磁波兵器の研究開発にたずさわっていました」
「電磁波兵器?」
「はい、当時のスタッフは私を含め4名で、私の大学時代の先輩、白石技術中佐がリーダーでした」
 坂上は全てを懐かしみながら話す。ここで、東雲警部が質問した。
「その兵器は一体どういうものなのですか?」
「私達は五式特殊電磁波兵器、乙女一号と呼んでいました。その開発目的は・・敵兵士を女性化し、戦闘不能にし、敵の戦意低下」
 この言葉で、東雲警部は飛びあがらんばかりに驚いた。
「な、敵兵士の女性化!?」
「はい、」
「そんな事が60年前に可能だったのですか?」
 東雲警部が驚くのもしかたがない、なにせ現代の科学でも出来るとは思えないからだ。
「ええ、私は詳しい事は知りませんが、白石中佐が極秘に発見した理論を使えば簡単な事だったのです」
「しかし、そんな兵器が実在したなんて」
 その言葉に、坂上の顔が少し寂しい感じになる。
「ええ、なにせ超極秘の研究でしたし、それに…」
 坂上の言葉が詰まる。
「それに?」
「それに、一度も実戦にでぬまま、破壊されてしまったからです。8月6日の原爆で、白石中佐と共に」
 坂上が一番話したくなかった事を話す。
「では、広島で?」
「ええ、彼は無念だったでしょう。中佐は家族を空襲で焼かれ、乙女一号でそれの仇討ちをすると言っていましたから」
「ちょっと待ってください!」
 東雲警部が疑問顔で叫んだ。
「あなたの話では、その兵器は結局実戦に出なかったんですよね?ならなぜあなたはその効果を知っているんです?」
「それについては言いたくありませんが、この際言いましょう。実は、乙女一号は、製作中に誤作動をしたのです。その時、開発の雑用をやらされていた少年兵が一人、電磁波を浴びてしまったのです」
 坂上が申し訳なさそうな顔になり、うなだれた。
「そして、さっき言ったような効果が現れたんです」
「その方はどうなったんですか?」
「その後、機密漏洩を恐れた軍によって軟禁され、そのまま原爆でなくなったそうです」
 一層彼の顔がうなだれる。
「それで、原爆後、研究はどうなったのです?」
「それは、ご存知のとうりすぐ終戦で、それに、4人中2人のスタッフが死んではどうにもなりません」
 その言葉を聞き、東雲警部の顔がハットなった。
「ちょっと待ってください!あなた以外にも生存者がいたんですか?」
 その言葉に、坂上の顔が一層真剣になった。
「はい、実はそれがこの話しの本題なんです」
「と言うと」
 東雲が体を乗り出し聞いた。
「もう一人の生存者は金田と言うんですが、彼は日本に来ていたk国人だったんです」
 k国と聞き、東雲は驚きを隠せない顔になった。
「な、なんですと、あのアメリカが悪の枢軸と呼んだk国ですか?」
 その言葉にうなずいたのは、黙っていた笹木だった。
「そのとうりなんです、だから我々が動いたんです」
 さらに、笹木が続ける。
「坂上さんの通報で、我々は急いで金田研究員のその後を調べました。結果、彼はつい最近まで日本にいましたが、突然帰国したんです」
 その言葉に東雲警部は犯人を確定した。


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