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捕虜

作:山口多聞



「皇妃様万歳!」

「美しき我等が白バラに万歳!」

 バルコニーから見える集まった市民たちが、手を振る私に歓声を上げている。少しでもそれに答えようと、私は出来る限り上等な笑みを浮かべ、優雅に手を振る。

「はあ〜疲れた」

 私は未だに慣れない皇妃としての仕事の疲れから、自室に戻るとすぐにベッドに座り込んでしまった。

「皇妃って意外と疲れるものね〜」

「それはそれは。お疲れ様、アリシア」

「陛下!?」

 何時の間に部屋に入ってきたのか、皇帝陛下がいた。私はさっと立ち上がって礼を取ろうとしたが。

「いいよいいよ。今は口うるさい執事や侍従たちもいないから」

 若い男、私皇妃アリシアの夫であるケント皇帝は手で制した。

「けど」

「君は僕の妻なんだから、せめてプライベートな時くらい、気軽に接してくれ」

 彼女の横に腰掛けながら、労わりの言葉を掛けてくれる。本当にこの人は優しい人だ。

「は、はい」

 思わず頬が熱くなる。ほんの数年前だったら考えられないことだった。私が、あの頃は僕か、が男性にときめくなんて。いや、そもそも王家の一員になること自体、想像すら出来なかった。

 今この瞬間が、夢じゃないかと疑ったことは一度や二度じゃない。

「またその顔か?」

「え!?もしかして、顔に出てた?」

「うん。はっきりとね」

「ごめんなさい」

「今は別に構わない。ここにいるのは、私と君の二人だけだ。ただ、侍従や重臣の前でだけはするなよ。余計なことの種になるといけないからね」

「気をつけます」

 陛下が私の隣に座り、腕を回してきた。

「けど本当に信じられないね、君が昔は男だったなんて」

 その言葉に、私はクスッと笑ってしまった。もう何度言われたかわからないセリフだからだ。

「そのセリフ、もう聞き飽きました」

「そうは言うけどね。やっぱり未だに信じられないよ。特に、夜君を抱いて、その美しい裸体を見た時なんかはね」

 途端に、恥ずかしさが込み上げ、頬が熱くなるのが自分でもわかります。

「恥ずかしいセリフ禁止です!もう」

 と我が旦那様に言いつつも、益々恥ずかしくなりました。

 本当に、どうしてこんなことになったのやら。私は自分の人生を静かに振り返ってみます。





  私、いえ。あの頃は僕でしたね。僕が生まれたのは、今は無き公国内の辺鄙な農村でした。貧乏農家の四人兄弟の末っ子で、名前はアレクサンドルと、とりあえず勇ましい名前をつけてもらいました。

 ただし、その名前とは裏腹に、僕はその扱いにずっと不満を持っていました。何故なら末っ子であり、兄たちとも歳の差があるため、いつも子ども扱い。おまけに、母親譲りの女顔のおかげで、女の子に間違われることも度々ありました。ついでに、男ばかりだったので、母親は僕を時々女の子に見立ててスカートを着せたりしてました。

 そんなことへの反発から、僕は男らしく振舞おうとしました。しかし、そんな僕の想いとは裏腹に、思春期になっても細い体に、高い声。オマケに女性的な顔立ちと来ていますから、男らしくなれるはずもありませんでした。

 それでも、なんとか男らしくなろうと、15歳の時に軍隊の門を叩いたんです。そして、めでたく入隊できたのですが……

「そんな体で歩兵や砲兵が務まるか。お前は雑用だ」

 と言われて、炊事兵にされてしまいました。トホホホ。

 しかも、子供の頃から散々母親から家事をやらされていた(これも僕の不満の種でしたが)ので、自分で言うのも難ですが、男としては料理の腕は良かったんですね。だから、僕の出す料理が兵隊の皆さんに褒められて、何度転属を願い出てもそのまま炊事兵勤めになってしまいました。

 それどころか、料理の腕が認められて、部隊の士官たちの専属料理人にされてしまいました。まあ、食材だけには事欠かず、上等な賄い飯を作れたのだけは役得でしたが。

 ですが、入隊から3年ほどして僕の国(公国)はお隣の帝国と戦争になりました。なんでもうちの国の王様が戦争を仕掛けたらしいです。何考えているんだか。

 で、僕のいた部隊も出征し、最前線に投入されました。そして……完膚なきまでにやられちゃいました。いやだって、帝国の方が装備もいいし、兵力も多いんだもん。で、お仕えしていた士官さんも最後の突撃で戦死し、僕たち後方要員も歩兵として狩りだされました。

 しかし、元々満足に訓練など受けていなかったので、敵を倒すことも逃げることも出来なくて、呆気なく捕まってしまいました。

 敵に捕まると言うことは、つまり捕虜になることですが、そうなると鉱山などでの重労働、或いは奴隷にされてどこかの荘園に送られるのはまだ良い方。最悪の場合、その場で嬲り殺されたり、魔法の実験台にされるなんてこともありえました。

 しかも悪いことに、今回の戦争で僕たちの国は帝国に併合されたから、つまり敗戦国の人間です。

 本当に恨むよ、王様。

 そして、案の定僕は捕まると、下品な笑みを浮かべる兵士達の手によって、敵の従軍魔道師の前に引き出されてしまいました。

 もうその時は生きた心地が本当にしませんでした。一体どんな魔法を掛けられるのか、気が気ではありませんでした。しかし、抵抗することも出来ないまま、僕は魔方陣の真ん中に座らされました。そして。

「うわああああ!!!」

 容赦なく魔法を掛けられました。その瞬間走った感触に僕は悲鳴を上げていました。体がまるで自分でなくなるような、不思議な感覚。

 それが収まると、体全体にある違和感。殺されはしなかったようですが、もしかしたら動物に変えられてしまったのではと一瞬思いました。

 しかし、目の前に手をやると、今までに比べて多少細くなりましたが手があったので、少なくとも動物にはされなかったようです。

 ですが、体全体から感じる違和感は確かにありました。そして、僕を見ている兵士達の目の色が、明らかに変わっているのもわかりました。

「おお!元の素材が良かったとは言え、こいつは上玉だ」

「やべえ。すぐにでもしたいぜ!!」

 その目は明らかに獲物に襲い掛かる獣の目。先ほどとは違う恐怖が僕の背筋を駆け抜けました。

 その時、まだ僕は自分の体に起きている事態をしっかりと認識していませんでしたから、その後自分がどうされるかは具体的に思い浮かびませんでしたが、直感的に死ぬよりも屈辱的な何かをされるのだけはわかりました。

「まあまて。おいしくいただくにはそれなりに準備ってもんが必要だ」

 一人の兵士の言葉によって、その場で輪姦される危機は回避できました。その代わり、僕は兵士達につかまれ、別の場所へと連れ出されました。

 どこへ連れてかれるのかと思ったら、集結地から少し離れた女郎宿でした。彼らが僕を慰み物にすること確定。

「おいエリカ。こいつをちょっと綺麗にしてやってくれ」

「なんだいこの娘。男物の服着てるけど、もしかして近くの村から掻っ攫ってきたとかじゃないだろうね?」

 出てきたのは、僕のお母さんと同じ位の女の人。どうやら女朗宿の主人かなにかみたいです。

「違うよ。捕虜だよ。捕虜の兵隊に魔法を掛けてこうしたんだ」

「へえ。よほど素材が良かったのかね。別嬪じゃないか」

「そうなんだよ。で、これからお楽しみに使うつもりなんだが、このままじゃ興ざめだから、綺麗にしてやってくれよ」

「あいよ。じゃあ、ちょっと待ってな」

 と言うや否や、女の人は僕の手を掴んで中へと連れ込んだ。一体どこへ連れて行かれるのかと思えば、意外なことにお風呂場だった。

「そんな汚くてみすぼらしい格好じゃ困るからね」

 確かに、連続の戦闘でここ数日お風呂には入れなかったし、服も汚れていた。僕は着ていた服を全て脱がされてしまった。

 しかも、女の人も裸になって一緒に浴室に入ってきた。僕は思わず、手で顔を覆った。

「何恥ずかしがってるのさ。今のあんたは女じゃないか。ほら、鏡を見てごらん」

 恐る恐る、浴室にある鏡で自分の姿を見る。すると、そこには僕に似た顔をした美女が、不安げな顔でこちらを見ていた。

 いや、もう驚きと恥ずかしさが半分ずつ見たいな。で、女の人に手伝って貰いながら体を清めて、さらに服も着替えさせられました。初めて着る女物の服。多分その時冷静だったら火がでるほど恥ずかしかったんだろうけど、生憎とその時の僕は、これで本当に慰み者にされると言う恐怖で、そんなこと気にしていられなくなっていた。

「ふふふ。怖いのか?体が震えてるよ」

「うう……」

「まあ、慰み者になれるってわかってりゃね。しかも、男だったあんたにとっちゃ余計に怖いだろうね……にしても良い女になったもんだ。とても男だったとは思えないね。こんな上玉をあんな兵隊の相手にするなんて勿体無いね」

 女の人は、改めて僕のことを値踏みしているようでした。

「よし決めた。あんたにはもっといい稼ぎの金づるになってもらうよ」

「ええと、それはどう言う意味で?」

「つまり、もっと金の取れる相手をしてもらうってことだ」

「それって、やっぱり……」

「まあ、男の相手をしてもらうのには変わりないね」

 僕の貞操の危機、全然去ってないよ!どうしよう!女の子にされちゃったのはまだいいけど、男の慰み者にされるなんて、やっぱりいやだ〜!!

 どうせ一度は戦死を覚悟した身だ。失敗して殺されてもいい。なんとか逃げないと。

 と言うわけで、僕の大脱出作戦が始まりました。しかも、失敗すればどの道最悪の結果しか待ってませんから、自暴自棄になった僕は大胆な計画を練りました。

 それは、客としてやってきた帝国の幹部軍人(高級士官)を人質にして、脱出しようと言うもの。

 冷静に考えれば、軍人としてのまともn訓練も受けてなくて、しかも女性になってしまった僕に、プロの軍人さんを人質に出来るはずなんてなかったんですけどね〜。いやあ、後先考えないって本当に怖いですね。

 で、やってきた士官に刃物を突きつけようとしたら、逆に取られて咽元に突きつけられました。

 いやもう、今度こそ僕死ぬんだ〜なんて思いましたよ。実際に、その時は「殺すなら殺せ!」なんて言っちゃいましたし。本当、良く殺されなかったと思います。

 ところが、相手がそれなりの地位にあるものだから、スパイと疑われて目隠しに猿轡かまされて、基地に連行されちゃいました。女郎宿は脱出出来ましたけど、今度は豚箱と尋問室行きですよ。

 ただ、最初はスパイかと疑われたんですけど、僕が素直に動機や自分の身元を話したもんですから、尋問した兵士や魔道師も拍子抜けしてましたね。クソマズイ自白剤飲まされても同じ結果だったから、最後は呆れられちゃいましたよ。

 終いには。

「お前バカだな」

 と人質にしようとした士官からも言われる始末。どうせバカですよ。

 で、結局スパイでも何でもないと言うことで、女郎宿に戻される……筈だったのですが。

「俺を人質にしようとしたんだ。それにせっかくのお楽しみもオジャンにされたから、その責任を取ってもらわないとな」

 士官の方がそんなこと言い始めました。ああ、やっぱり僕の純潔は奪われちゃうんだ……

「安心しろ。お前が元男なら、男に抱かれる気持ち悪さくらいわかる。だから今は抱きはしない。その代わり、俺の屋敷で働いてもらおうか?」

 え?どう言うこと?

 で、よくよく話を聞くと、この士官さん。ベネディクト子爵と言う何と貴族様!ええ!?外見は女好きなせいぜい商人くらいの身分にしか見えないのに!

「悪かったな。商人にしか見えなくて」

 うわああ。いきなり心証を最悪にしてしまいましたよ。まあ、仕方が無いですけど。

 で、僕はベネディクト子爵と一緒に、一度帝都まで行き、そこで除隊の手続きを終えた子爵と一緒にその所領まで移動しました。で、彼の屋敷で今度はメイドとして働くことになりました。

 と言っても、子爵はそこまで裕福ではないようで、メイドは僕ともう一人もうお婆さんと言ってもいいローザさんがいるだけでした。

 しかも子爵は軍の勤務があるから、屋敷にいるのは3日に1日位。なるほど、これならメイドさんも一人で良いわけですね。

 それでもって、ローザさんはなんでも若い頃に一人娘を流行り病で失ったとかで、見てくれだけは少女の僕を痛く可愛がってくれました。僕も悪い気がしなくて段々と自分が女の子であることに違和感をいただかなくなりました。

 子爵も僕に手こそ出しませんでしたが、普通に女として接するものですから、こうなるともう慣れですね。

 最初はぎこちなかった周囲の人との関係も、半年もすれば良好になり、1年も経つ頃にはもうツー・カーの中ですよ。

 それに自惚れじゃないですけど、女になった僕って良い線行ってたんですよ。街で男性に声を掛けられたことだって一度や二度じゃないですよ。最初は気持ち悪いという感情が先に来ましたけど、段々とそれも薄れて、逆に優越感さえ覚えるようになりました。

 そしてメイドとして働くこと1年ほど。すっかり女としての所作や、貴族の屋敷で働く上で必要な知識も身につけた頃のことです。

 その日私……あ、この頃には自然に私と言う様になっていました。で、私は城下町にある市場に、夕食の材料を買いに出かけました。何時も通りの時刻に、何時も通りの市場への道……だったのですが、この日だけは。

「え!?売り切れ?」

「悪いねアリシアちゃん。別の店を当たってくれないかな」

 行きつけの店で、切らした調味料を買おうとしたら、なんと売り切れ。

 仕方が無く、私は別の店へ回ることにしました。そして、よせばいいのに、近道となる裏通りに入っていました。帝都は治安はいいので、こうした裏通りに入っても危険は少なかったのですが……

 反対から兵士が歩いてきました。私は会釈だけして通過しようとしたのですが。

「ちょっと待ちな」

 突然腕を掴まれました。

「な、何するんですか!?」

「俺の顔を忘れたか?」

「え?」

 私がマジマジと見つめると。

「ああ!?あの時の!」

 その兵士は、なんと私を女にした時にいた兵士の一人でした。

「やっと思い出したか。へへへ、こんな所で会えるとはな」

 直感的に逃げようとしましたが。

「そうは問屋が卸さないぜ」

 口をふさがれ、そのまま地面に押し倒されてしまいました。

「せっかくおめえで楽しもうとしたのに、女郎宿のババア、さらには子爵様にとられてこっちはお預け喰らっちまったんだぞ。そんなお前とまさかこんな所で対面できるとはな……ここは人通りも少ないし、ちょうどいい。あの時の分ここでやらせてもらうぜ」

「ううう!?」

 うわあ!?まさかこんな所で!や、やめろ!私に何かすれば子爵様が黙っていないぞ!

 と叫びましたが、口を塞がれているため無駄骨でした。兵士はあっと言う間にズボンを脱いでいました。私の心の中に恥ずかしさと恐ろしさが湧き上がります。

 しかし、逃げようにも完全に押し倒され、しかも体力では適いませんから、逃げようがありません。

 そうこうしている間に、兵士の手が私のメイド服に掛かります。

 ああ、今度こそ私の純潔は奪われてしまうのか……

 と、諦めかけたその時。

「グワ!?」

 突然私に覆いかぶさっていた兵士の体が吹き飛びました。

「え!?」

 見ると、サーベルを手にした若い男の人(しかもイケメン!)が立っていました。

「帝国軍の将兵たるものが、市井で女性を襲うとは。許し難いな」

「クソ!このガキ!」

 と体勢を立て直した兵士が、腰に指していたナイフで襲い掛かりますが。

「ふん!」

「ガ!?」

 サーベルでナイフを弾き飛ばし、そのまま蹴りを兵士に入れる男性。いやあ、惚れ惚れする位に鮮やかでした。この一撃で兵士はのびてしまいました。

「さ、あとは巡回している衛士にでも任せて、こんな所から早く逃げましょう」

「は、はい」

 男の人に手を引かれて、私は表通りへ戻ることが出来ました。もちろん、安全な所に出たら、その男性に頭を下げっ放しです。

「本当にありがとうございました!」

「いやいや。お嬢さんこそ、大丈夫でしたか?」

「は、はい。なんとか」

「だったらよかった」

「あの、貴族の方でしょうか?」

「まあ、そんな所です」

 男性は簡素な格好をしていましたが、立ち振る舞いなどからして貴族のようでした。ただ、どうも歯切れの悪い答えです。まあ、その辺は深く突っ込まないのがいいのでしょう。

「何もお礼できなくて申し訳ありません」

「……失礼ですが、あなたは貴族に仕えてらっしゃいますか?」

「はい。ベネディクト子爵のお屋敷に」

「ふむ……そうですか。では、気をつけて帰るんですよ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 と、男性は颯爽と去っていきました。メチャクチャ格好良かったです。と言うか、何故か別れた後、彼のことを思い出すと胸がドキドキします。何故でしょうね?

 そして事件が起きたのは一週間後。

「アリシア!!!」

「あれ子爵様。今日は帰る予定なかったはずじゃ?」

 家を空けることの多い子爵が、突然戻ってきました。しかも、血相を変えて。

「そんなことどうでもいい!さっき軍の兵舎で宮殿からの使者が来てな。お前を連れて宮殿に来いと!」

「え!?宮殿!どうして?」

「わからない。取り潰されるようなヘマをやらかした覚えはないし。そもそもお前を連れて来いと言うのが腑に落ちない」

「そう言えば、何で私も?」

「さあ?……とにかく、すぐに余所行きの服に着替えて来い!」

「でも私、服なんて殆ど持って無くて」

「なんでもいいから、とにかく着替えて来い!」

 普段メイド服ばかり着ているから、外へ出る服なんて一着しかなくて、それもブラウスにロングスカートと言う、普通過ぎる格好。

 とにかく、急いで着替えて、簡単に化粧して子爵様と一緒に宮殿へ向かいました。

 いやあ、さすが天下の帝国の宮殿だけあって、広くて壮大でしたね……その時はまさかここに住むなんて夢にも思いませんでしたけど。

 しかも、入るなり「あなたはこちらに来なさい」と言われて、子爵とは別室に連れていかれたので、何をされるのか戦々恐々でした。

 で……

「こっちのドレスが似合いそうね」

「いいえ、お母様。こっちの色の方が映えますよ」

「香水は鈴蘭のがいいですよ」

「きゃあ!この娘スタイル良すぎ!羨ましいわ」

 なんか身包み剥がされて、数人のドレスを来た女性(後に皇太后様や、お姫様と判明)とメイドさんによって、着せ替え人形よろしく下着からドレスまで着せられ、お化粧までされてしまいました。

 いやもう、本当に何がなんだかわかりません。

「あの、これどう言うことですか?」

「ふふふ。すぐにわかるわ。さあ、皇帝陛下がお待ちですよ」

 と訳がわからないまま、私は玉座の間に通されました。

「おう、またキレイになったな、アリシア」

 中では、ベネディクトさんと男性が一人何事か話していました。

「待ちかねていたぞ、アリシア殿」

「あ!あなたは!?」

 いやもうビックリですよ。そこにいたのは、服装こそ違いますが、先日街で助けてくれた男性でした。

「改めて自己紹介しよう。皇帝のケントだ」

 マジで皇帝だった!

「あ、アリシアです。皇帝陛下。あの時はありがとうございました」

「ほう、お前を助けたのケントだったんだ」

「子爵様、皇帝陛下に失礼ですよ!!」

「いいよ、アリシア殿。こいつとは軍の士官学校以来、俺お前の中だから」

 ええ!?そうだったの!

「しかし、ケント。お前も物好きだな。前にも話したけど、こいつ1年前まで男だったんだぞ」

「なあに。皇室には過去に亜人や奴隷を妃に迎えた者もいる。彼女がウンと言えば問題ない」

 なんか私の意思に関係なく、話がドンドン進んでいるようで。

「で、アリシア殿」

「は、はい?」

「あなたをここに呼んだのは他でもない。あなたを一目見て惚れた。あなたがよければ、私の妻、妃となってもらえないだろうか?」

 普通なら、ここで「自分のような身分の低い者は」とか「自分は敵国の生まれ」とか、「結婚はお付き合いを重ねてから」とか、とにかく何かしら言い訳を並び立てて拒否するものです。

 なのに、その時の私の頭は真っ白だったのか。

「皇帝陛下の想いのままに」

 とだけ返事してしまいました。





 ここまでに至る経緯を回想し終えて、私は夫であるケント皇帝陛下を見ます。結婚して1年になりますが、夫婦仲は良好です。私は夫を愛してますし、夫も私のことを愛してくれています。

 そして、私はこの現状に、幸福感と満足感を覚えています。子供の頃は男らしくありたいと思っていたのに、それを思うとあまりにも面白おかしく、皮肉なことです。

 けどまあ、それはそれで良いのかもしれませんね。

 強いて言うならば、そろそろ子供が欲しいな〜なんて思ったりしていますが、それも近い将来現実のものとなるでしょう。

 今私は、幸せです。


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