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霸 〜haou〜 王

作者:驟雨



 前編



大通りはいつものように闇に包まれ、
道脇の明るい電灯は闇を追い払う。
どの建物も静けさを保ち、
空から黙って静観する三日月と星々。

霧のようなものがが立ちこめる通り。
おそらく季節は気温が低めの冬か初春。
雨が上がったばかり、
路面が凍結するほど寒い夜だ。

真夜中であるこの時間、
人っ子1人通らない大通りに照らされている明かりはほぼ無意味。
この明かりはそう思う住民の気持ちを裏切り、
闇を照らし続けている。

が、そのおかげで助かっている人物が1人だけいる。
どうもこの『少年』はかなり疲れ切っている。
足をふらつかせ、
ジャケットが肩からずり落ち、
地面を擦っている。

見た目は17歳くらい。
黒のズボンはどこかの高校の制服らしく、
ジャケットに見えたのは学ランのようだ。

寒さに震え、息を白々と吐き、
『赤い水』で濡れた身体を両手でぎゅっと掴んでいる。

「・・だ・・れか・・」

少年がかすれる声を出す。
誰の耳にも届かない。

少年は考える。
なぜここにいる?
どうしてこんな目にあわなければならない?

オレが何をしたっていうんだ。
オレが・・

思考回路が働かない。
思い出せない。
脳みそが凍りつきそうだ。
息を吸えば吸うほど身体が冷たくなり、
心が絶望感に支配されていく。

死と言う絶望感に、だ。









「どうした、もう立てないのか?」

男は倒れ込むオレを足げにする。

「ぐふっ・・がはぁっ!」

口から血を流す、というより吐き出す。
頭が割れそうだ。
蹴られ殴られ身体のどこも痛みを感じている。

「お前からケンカをふっかけてきておいてこの様か。フン、口先だけの”霸王”か。」

男がさらに罵る。
言葉が重くのし掛かる。

「殺すのにはまだ惜しい。裏の帝王、楢崎を殺せ。できなきゃ今度こそお前が死ぬ。」

男はそれだけ言うとその場から立ち去った。
冷たいコンクリートに寝そべるオレに、
さらに冷たい水滴がぽつりぽつりと落ち始め、
雨となり、オレの赤を洗い流す。









”霸王”それがオレの異名だ。
別に特別なことはしてない。
ただ生きるために・・・人を脅し、物を盗み、
世の中の裏で生活してきた。
霸王は裏で呼ばれる名だ。

この名を口にすれば、
大抵の奴は怯んだり脅えたりする。

もちろん年を言えばまだ未成年の子供。
学校へ行っていなければ町を出歩いていて怪しまれることは必至。
裏の金で学校へ通い、
裏の顔で生活している。

高校へ通えと言ったのはさっきオレを蹴った男。
なぜなのかその理由は教えてくれないが・・
その学校へ着いた途端、
学校側はオレを丁重に扱ってくれた。

なぜその男にケンカをふっかけたのか。
ケンカはふっかけてない。
ただむかついたから殴りかかっただけだ。
殺せ・・だと?
オレは人殺しはしない。
以前にもそう言った筈だ。

なのに・・なのにこいつは!こいつは!!









「どうなされた・・お若いの? ・・む、おぬし、”霸王”だな?」

「・・・」

誰だ・・こいつは・・


バシャ!

オレはその場にうつぶせに倒れ込んだ。
倒れ込んだときの感覚はない。
そのまま、意識を失った。









身体に熱がこもっている。
暑い・・・
さっきまで寒かったのになんで暑い?

いや、これは違う。
暑いんではなく、暖かい・・。
なにか、胸の中からせり上がってくるようだ。

オレは目を覚ました。
赤く光る木でできた天井が見える。
赤く光っているのは側で火が燃えているからだ。

これは暖炉なのか?
時折、パチパチと火花を散らす音がする。

オレは身体を起こした。
胸に薄い毛布がかかっていた。
起きた途端、オレはその毛布をぎゅっと握り締め、
身体に巻き付けた。

どうやら・・裸になっているようだ。
側にオレの学ランとズボンがハンガーにかかっている。
下着はきたままだったからそこまで恥ずかしいと言うわけではないが──

横になっていたのも薄い布の上。
しかも黒ずんでいて、きれいで清潔とは言えない。

「・・・ここは・・・?」

「気がついた、か。”霸王”よ。」

声のしたほうに振り向いた。
そこにはロッキングチェアーに腰掛けた老人がいた。
パイプを吸いながらゆっくりゆらゆらと揺れている。
パイプから煙がホウット上がった。

「なぜ・・オレの異名を知っている? それは暗黒街でしか知れていない筈だ。」

老人は答えなかった。
その顔には笑みも無く、
逆に怒りや怖れも無い。

だが、その態度にオレはカッとなった。
勢いよく立ち上がり、ずんずんと老人のほうに歩み寄る。
そして胸ぐらを掴もうと手を伸ばしたときだ。

バシッ!

老人はすばやくオレの手を振り払い、
オレの身体をひねって逆にオレの首が締め上げられた。
しかも座ったまま、だ。

「ぐっ・・」

「まったく!助けてやった恩人にむかって何をするかと思いきや・・。」

「恩人だと!? キサマに助けを求めた覚えは無い!」

オレは首を絞められた状態で粋がったが、
あの場所であのままだったら一体どうなっていただろう・・
警察行きか、暗黒街の連中に殺されていたか・・。
想像もつかない。

「そう言うならば仕方がない。出ていけ。」

老人はそう言い放ち、首を掴んだまま立ち上がった。
なんとオレの身体が浮かび上がってしまうくらい老人は背が高く、
引きずられ、戸口の外へ放り出された。

「ぐっ!」

「暗黒街の”霸王”もここまで、か・・。残念だ。」

バタン!
老人は扉を閉め、オレには何も聞こえなくなった。









「”霸王”・・か。大きく育ったものよ・・。わしがまだ青二才の頃から見てきたが・・。そろそろその窓から入ってくるじゃろ。」

老人の思惑通りだった。
オレは玄関の横にあった開いている窓から侵入しようとしていた。
その老人の独り言がすべて筒抜けになっていたのだ。
部屋に入ったときの老人の笑顔がそれを物語っていた。









再びさっきと同じ状況になった。
オレはじいさんのロッキングチェアーの側の椅子に腰掛けている。
じいさんは今まで通り、ゆっくりと身体を揺らしている。

「じいさんはなぜオレを助けた?」

オレが問う。
今度は老人は答えた。
ゆっくりと話しだした。

「”闇の帝王暗殺”の噂はわしの耳にも入っておる。その命に背いたせいでおぬしがこのような目にあったのも、だ。助けた理由は述べる必要はなかろう? 弱き者を助けるのが普通のことである。」

老人の言葉はなんとも言えないものがあった。
胸に何かがしみ込んだ気がした。
オレは続けて質問した。

「あんたは何者なんだ? なぜ暗黒街や裏の世界のことをそこまで熟知している?」

今度は老人は1度ためらってから語りだした。

「わしも昔はそなたと同じ、悪ガキだった。そなたはよく『2代目』とか『跡継ぎ』とか言われないかの? そのワケを知りたいか?」

「・・・ああ。」

オレはコクンと頷いた。
老人の目がさっきより大きく見開いたような気がした。

「わしが初代”霸王”と呼ばれていた者じゃ。昔は無茶もしておった。ただ、人は殺さない。盗みをしたり、悪事を働いても殺しだけはしなかった。それだけなのじゃが、そのころからわしは”霸王”と呼ばれるようになった。疾風の盗みの腕、逃げ足の早さもかわれておった。もちろん盗みやらは犯罪。何度も捕まったり、警察に追い回されたことはあったがの!」

初代霸王は微笑みながら昔話に没頭していた。
まるで若い頃の自分に出会ったかのように。
今までこういう話し相手がいなかったのかもしれない。
実際、このオレがそうだからだ。

「暗黒街の生活は耐え難いものもある。厳しい掟もある。じゃがその生活がわしにはあっていたようじゃな。そなたはどうじゃな? 2代目”霸王”、よ。」

「・・・確かに厳しいが、生きるためだ。悪くはない。普通の生活に戻りたいとも思わない。ただ・・」

「ただ・・なんじゃ?」

オレは一言二言言葉に迷い、
やっとの思いで口から出した。

「一緒に語り合える・・友達が欲しい。今オレとじいさんが話しているようにだ。いつもは仕事の話や、ヤクの話。それに女の話ばかりだ。こうして落ち着いた空間と言うものに・・居座ってみたい。」

「ほう・・? やはりおぬしはわしと似ておるな。わしもそういった葛藤に襲われたことが何度もあった。自分の境遇からは逃れられない。ならば逃げるのではなく、立ち向かうことじゃ。さすればその願いも自然と叶うものじゃ・・」

「立ち向かう・・・どうやって? どうすれば友達ができる?」

オレは夢中になって老人に質問していた。
なんで自分がこんなふうに話しているのか、
それもいつもなら不思議に思っている筈だ。
だが、今日はそんな思いもなかった。

「それは自分で見つけ出すことじゃ。なにより大事なこと・・それは自分自身との戦いじゃ。」

「自分自身との・・戦い・・か。」









翌朝は太陽がカッと差し込む快晴だった。
窓からの光がちょうどオレの顔に当たっていて、
寒い時期なのに暑く感じた。

「うっ・・まぶしいな。」

その光で目を覚ましたオレは周りを見回した。
暖炉の赤い火は消えかかり、
燃える音ももう聞こえない。
ログハウスの壁は夜は見えなかったからか、
すごく自然的な感じがした。
無論、これは造語であるが・・。

老人は昨日と同じ姿勢で眠っていた。
オレは老人を起こさないように干してあった学ランに袖を通し、
ズボンを穿いた。

そしてシューズを履き、そっと扉を開ける。
朝日が入ってくる時間よりまだ少し早い。
一瞬老人が寝返りをうち「んん?」なんていう声がしてビビってしまった。

「霸王がこの程度なんかでビビるなんてな・・」

ちょっと自分が恥ずかしくなった。
そのまま身を外に出し、
扉をゆっくりしめた。
そして朝露が電線からぽたぽた落ちる中、
オレは駆け出した。

どこへって?
どこでもいいさ。
だってオレは暗黒街の”霸王”だから。
いや・・『2代目”霸王”』だ。




そのころ、老人はしまりかける扉を見つめ、
走り去る青年の足音を聞いていた。

「やはり行くのか。今度はどこへ行く”霸王”よ。今日は平日・・学校へでも行くのかの。」

老人はこれは寝言だと言わんばかりに、
もう一度寝返りをうち、
目を閉じた。









「今日は学校がある日、だな。いつもサボってばかりだが・・じいさんの言ったことを実行してみるか?
どうするか・・。」

まだ薄暗い路上を息を切らせ1人歩きながら考え込んでいた。
ポケットに手を突っ込み、
朝の寒さにちょっとだけ震えていた。
走ったせいで身体が少し温まっていたにもかかわらず、だ。
吐く息は一層白く見えた。

鞄をどこへ置いたっけな・・
2丁目のゴミ箱か?
いや、あそこは違うな。
置いたのは先週だ。

なんでこんな風に置くかと言えば、
家に置いておくと盗まれるからだ。物騒な世の中だまったく。

「ん・・?」

オレの行く手から小さい人影がこちらに向かってくる。
同じく息を切らせ、白い息が眼で確認出来る。

「よう、こんな時間にどうした。」

オレは声をかけた。
小さい人影というのはなにも遠くにいたからと言う意味ではない。
本当に『小さい』のだ。

「兄貴、今日は泊まりなのか?」

「ああ、ちょっとしくじってな。」

そう、こいつはオレの2年下の弟。
オレは高校2年であり、こいつは中学3年だ。
中学3年の癖に身長は159センチと小柄で、
髪はオレが茶髪に染めているのに対して、
弟はまだサラサラの黒髪のままである。
背中に大きな鞄を背負っている。

もちろん兄貴のオレがこうなんだから
弟だって暗黒街の人間である。

そうなってくると親はどうしたという観点になるが、
親は暗黒街のどこかにいると言うこと以外、
情報がまったくない。
昔からそうだった。

子供(ガキ)のころから食事はインスタントかコンビニの弁当。
弟と2人っきりの生活だった。
親は時々帰ってきていたみたいだが、
顔ももう覚えていない。
思い出そうとしてもそれを拒む自分がいる。

つらい過去でもあるのだろうか?
それすら分からないのだ。

「しくじったって? その血の後からして・・ケンカだろ? あの方にまた殴られたな。」

「・・そうだ。相変わらず勘が鋭いな。」

オレは少しむっとした。
ケンカなんてするもんじゃないことくらい知っているが。
血の後を拭きながら言った。

「へへっ!」

逆に弟は得意げな表情を浮かべていた。
ちょっと顔を赤らめている点、そこは照れの感情もあるのだろう。

「ところで真二、今日はお前も学校だろ? 行くのか?」

「オレは今日仕事があるから行かない。兄貴は?」

「今日オレは行こうと思ってる。」

「へぇ〜! ”霸王”の兄貴が学校へ行くだって! 珍しい・・。」

一応弟の名前は真二である。
あ、自分の名前を言いわすれてた。
・・まあ霸王と呼んでくれてけっこうだが、
本名は大島一秀。
だから弟は大島真二。

「珍しいって言うな。とにかく今日は行こうと思ってるんだが・・」

「ん? なんか問題でもあるのか。やつらにつけ狙われてるとか。」

「いや、鞄をどこに置いたか忘れちまって。」

「はぁ? そんなことか。ちゃんと自分の鞄くらい持ってろよな。」

そろそろこの弟の口調にイライラしてきた。
なんで年下なのにこんなに偉そうなんだ・・。
まあオレよりまじめだけどな。

そのイライラは次の瞬間吹っ飛んだ。
なんと真二が背負っていた鞄がオレの物だったからだ。
真二はそれを背中から下ろすとオレに差し出した。
弟の細い片腕じゃ支えきれないらしく、
両手でしっかり持ち上げている。

「お、お前が持ってたのか。」

「商店街の3つ目の路地に置いてあったから拾っといたんだ。」

「あ〜あそこか。すまない、ありがとう。」

「じゃ金くれ。」

とまあこれが裏の常識。
何かしてやったら金で解決。
もちろん兄弟の間でもそれは通っている。

「ほらよ。」

オレはポケットから直に、
水分を含みぐちゃぐちゃになった1000円札を取りだし、
真二の手に押し込んだ。

「なんだこれ? 汚ったねえな。」

「文句言うなら返せ。それでも金は金だ。」

「わかったよ。それじゃオレは仕事があるから。」

そう言うと真二はオレに背を向け走っていった。
もともとこの鞄を渡すのが目的だったらしい。
弟にここまで言われて普段なら黙ってないが、
今日のオレはどこかが違った。
頭の中も、胸の内も。
あの老人に出会ってから自分の何かが変わった気がしていたのだ。

「さて、もうこんな時間か。」

今朝の時間は早いと思っていたが、
金が入っていた方とは逆のポケットから取りだしたケータイには午前8時と記されていた。

そろそろ通りに人影が見え始める。
車の通る量も多くなってきた。
人影の中には学生らしき服装をした人々が多くいた。

「今日はあの中に混ざるわけだ・・。」

オレは鞄を背負い直し、
通りを行く人並みに混ざっていった。









やっと正門が見えてきた。
ここへ来るのは何日ぶりだろう?
一週間は来てなかったのか。

正門から望む校庭の風景はどこか懐かしかった。
もちろん一週間前に訪れたのだから、
そんな感情が生まれるのはおかしいはずだが・・。

朝からグランドを走り回る陸上部やサッカー部の生徒たち。
男子も女子も一緒になっている。
こんな中で生活するのにはうんざりだった。

きゃーきゃーわめき、
ガタガタ教室で騒ぐ。

もっとスリルが溢れてて、
心底から楽しめる暗黒街の方が最高の気分になれた。
ここなんかよりずっとだ。
あのじいさんは一体どういうつもりだろう?

「・・・行くか。仕方ないか・・・」

イヤイヤながらもゆっくり足を進める。
オレが一歩踏み出すごとに、
グランドからの視線を感じた。

それとともにヒソヒソ話も聞こえる。
オレがそんなに珍しいか?

「一秀く〜ん!」

「!!?」

もうこんな声がするからオレは嫌になる。
学校へ来るたびこうだ。
確か・・同じクラスの・・霧崎・・誠。

「もう、一秀君は来たと思ったらすぐに来なくなっちゃうし。教室から見えたからすっ飛んできちゃったよ。」

確かにこの寒いのに息を切らせて額には汗。
肩を上下させて透き通った漆黒の瞳でオレを見つめている。
なんで男のこいつがこんなにオレにつきまとうんだ?
先週もその前も・・

なぜかこいつは服装がきっちりしている。というよりしすぎ。
普通高校生ならちょっとくらい乱れてるほうがいいとか思わないのか?
それともオレがだらしなさ過ぎか・・?

「ああ、悪かった・・・」

なんでオレが謝ってるんだろ。

「それより一秀君。休み過ぎで単位とれそうもないんでしょ? 浪人になっちゃうよ。」

「そんときは学校をやめるさ。それより教室へ行こう。ここは寒いしなんか・・嫌な視線を感じる。」

オレがそう言うと霧崎はキョロキョロしてから言った。

「あっ、ご、ごめん。」

「いいんだ。気にしてない。」

2人は並んで昇降口へ入っていった。
その姿背後からを不思議そうに見る他の生徒がたくさんいたのはまぎれもない。









教室についてもそれは変わらなかった。
朝練の無い連中や文化部の女子やらがオレをやたらと見てきた。
中には普通に挨拶を交わしてくる奴もいるが──
大抵はちょっと退きながらヒソヒソ話だ。

オレの格好は茶髪にYシャツを中から出した
いわゆるだらしがない服装。
香水もつけてるし、軽い化粧もしてたりする。
不良まるだしだ。

そしてそんなオレに学校へ来るたびくっついてくる霧崎。
そんな2人組が気味悪がられてもおかしくなかったのだ。

「お前、いつもこんな風に見られてるのか?」

「う、うん。」

「つらく・・・無いのか? だってこれはオレのせいでもあるんだから。」

「つらいときもあるよ。でも・・・一秀君が一緒なら大丈夫。」

前言に学校へ来るたびこうだ。
そんなふうに思ってしまった自分が恥ずかしかった。
今まで気づかなかった。
こいつ・・なんて、なんていい奴なんだろ・・。

やがてチャイムが鳴る頃には朝練の連中も教室に入ってきた。
そして先生がやってくると教室は静寂につつまれるのだ。
やっとオレは一息をつけた。
が、先生がオレを見つけるなり、SHR(ショートホームルーム)のあと呼び出された。

「大島・・お前は学校へ来るのか来ないのかはっきりしろ。そんな格好してたら他の生徒がいやがるし、来るのならせめて服装をしっかりして化粧をしないで来い。」

「・・・。」

「聞いてるのか大島!?」

「押野先生、あまり一秀君を責めないでください・・。」

いつの間にいたんだこいつ?
霧崎が呼び出されたオレと先生との会話に勝手に入り込んでいた。
呼び出された場所もクラスの隣の使ってない教室だから入り込むのは容易だが・・・

ちなみにこの押野先生、
クラスの担任で教科は体育。
まだ20代の若い先生でまだ教師歴も短いが、
時に優しく、時に厳しいいわゆる熱血教師?
ちょっとハンサム。

「霧崎もなんで大島といつも一緒なんだ? たまに来る大島といつも一緒じゃないか。それじゃ自分のためにならないぞ。」

「先生、どうでもいいが怒るならオレだけにしろ。霧崎には関係ない話だ。」

「・・・大島が友をかばう・・・か? 先生とある者、そんな生徒に不快感を抱くのは筋じゃない、か。まあ大島が普通に生徒として生活してくれればいい話しだ。とりあえず、Yシャツをしまえ。」









「一秀君があんなこと言うの・・初めてだよね。」

「いいさ。オレもちょっとは丸くなったかな。」

先生がやっと解放してくれた。
教室を出ながらYシャツをズボンに突っ込んだ。
『ながら』作業がやたらと多かった。

廊下に出ると、移動教室で忙しそうに動き回る生徒でいっぱいだった。
誰もがオレを見て驚いたり、
恐々した態度をとるわけじゃない。
クラスの活発な男子、大抵は運動部のやつらだが、
オレに話しかける態度も普通だ。

「よう大島。今日は来たのか。」

今話しかけてきたのは野球部のやつ・・だと思う。
坊主頭だし、いっしょに歩いている奴も坊主頭。

「ああ、流石に一週間はまずいだろうからな。」

ちなみに文化部でオレに話しかけているのはこの霧崎だけだ。




「霧崎・・さっきはありがとな。」

「えっ。あ、一秀君に霧崎なんて呼ばれると恥ずかしいな。誠って呼んでよ。」

「ま、まことぉ〜!?」

急に大声を出したオレに注目が集まったのは無理もない。
廊下が一瞬シーンとなり、またうるさくなった。

「ご、ごめん。嫌だった・・?」

「いやぁ、別に・・。すまない、大声を出して。」

「じゃあ・・」

「分かったよ。ま、誠。」

オレがそう呼ぶと『誠』はパアッと目を光らせ、
顔にさらに明るさが灯った。
にこっと笑う誠を見るとなぜかオレの心がすこし軽くなった気がした。

そのときだ。
あの老人の言った言葉が脳裏に蘇る。
 ならば逃げるのではなく、立ち向かうことじゃ。さすればその願いも自然と叶うものじゃ・・ 
 なにより大事なこと・・それは自分自身との戦いじゃ。 

これはこのことだったのか?
この程度の小さいことでも、
オレにとっては戦いだ。

バカにされてもいい。
オレには誠が必要だ。
コケにされても、いくら悪口や陰口をたたかれようと、
オレは戦う必要がある。

だが、まだ答えが出せない。
光が見えない。
まだ心の闇が消え去らないのだ。

この闇をはらってくれるのは・・・彼なのかもしれない。


中編に続く・・

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