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Angel・Hyper

驟雨

6th Story 〜 Puppet maionette 操り人形 〜







    「今日はどこへ行くの?」
「ん……、愛美はどこがいい?」
 優達が大変なめにあってるころ、この2人はそっちのけでラブラブだった。
 健一はと言えば、白のタンクトップに長めの黒いズボン。
 私も水色の薄地のワンピースに麦わら帽子。珍しく髪は結っていない。
 今いる場所も『いつもの』公園。
 蝉の大合唱と子供たちのはしゃぐ声の中に2人はいる。夏の暑さと同じくらいアツアツな2人である。
 私は木陰のベンチに腰掛け、健一はその前に立つ。まあいつものシチュエーション。
「うーんそうだな……お腹は減ってない。そんなに遠くまで行きたい気分でもない……じゃフランス行こっか?」
「……言うと思った。優ちゃんが心配なんだろ?」
「だって、だって!危険な任務かもしれないじゃん。」
 私は少し目をうるませながら言った。
 それを見て健一は肩をおろした。
「まったく、その言い方……。元オレとは考えられないな。すっかり入れ替わり完了ってか。」
「え?あ、うん……そうだね。私も……健一も。」
 ふとそう言ったとき、蝉の鳴き声が少し薄くなり、生暖かい風が吹く。木がザワザワと揺れる。それに伴い、私のワンピースも、帽子も。
 健一のちょっと長めの髪も一緒に揺れている。
「でも愛美。オレたちは魔法は使えないし、天使でもない。行ったら行ったで足手まといになるだけじゃないか?」
 その質問に自信があるのかないのか分からなかったけど、私ははっきり答えた。
「私たちが封印したのは羽と魔力。でも心術と魔装は使える筈じゃない。」
「……ホントか?」
「うーん、あくまでたぶん。でも魔装と心術ならできると思う。やってみるよ。」
 私はベンチから立ち上がった。
 そして神経を集中させる。
 目の前に空き缶が落ちていたのでそれをターゲットにした。
「……………」
 私は右手を前へ翳した。
 そしてスッと上へ上げる。
 すると空き缶も上へ浮き上がり、そのまま静止した。
「確かに……いいぞ。ん〜完璧だ。」
 私は眼を開いた。
 目の前で動かない空き缶が見える。
 それを操り、トイレの脇のゴミ箱に放り込んだ。
「じゃオレも……」
 健一も右手を前へと差し出す。
 そして掌を空へ向けた。
 手に光の筋が走り、
 だんだんと光が収縮してくる。
 その形は長細くなり、やがて剱の形へと変化した。
「魔装もOKみたいね。」
「これならある意味有利かもな。心術は魔力と違って魔力の気を残さないから相手に知られる心配も少ないし、武器もあるからな。」
 健一は剱を一振りし、そのまま消し去った。
「うん。じゃ……一緒に来てくれる?」
「ああ、行くよ。愛美と優ちゃんの為ならな。」
「あ〜、かっこつけてる。」
「う、うるさいなぁ。」
 ……夏より暑い2人。
 納得出来たでしょうか?
 
 健一はちょっとだけ顔を赤くした。
 そんな健一を見て私はうれしくなった。
 
 
 
 
 1歩1歩足を進める。
 突き出た石の槍は一本ではなかった。
 建物のガラスを何本も貫き、
 通りの中央まで散乱していた。
「犠牲者の魂よ……安らかに昇天せよ……」
 リオが手を合わせて祈っている。手と言うよりネコの足にあたるんだろうけど。
「見て!この人、まだ生きてるよ!」
 私は建物の入り口と見られる扉の前で止まった。
 足下に倒れる1人の男性を発見した。腹部がまだ動いている。どうやら呼吸はまだしているらしい。
 だが、出血の量がすごい。
「優、我は治癒魔術は得意ではない。なんとかなるか?」
「うん、まかせて!だいぶひどいから……"スラブリカバー"」
 私の身体がフッと光ると、光は男性の身体を包み、すぐに消えた。
「はぁっ……はぁ、はぁ……。」
 やっと男性は大きく息をすることが出来たようだ。
「大丈夫ですか?何があったんです!?」
 私が問いかけると男性は急に表情を変え、苦しそうな表情から冷血な殺意に満ちた顔に変化した。
「くっ……クククク。キサマは石垣優だな?」
「えっ、どうして私の名前を……」
「クヘヘヘ……。ゼロを助けに来たつもりだろうが――奴はもう終わりだ。」
 そこへリオも寄ってきた。
「どういうことだ?」
「キサマは……? リストに無い……」
「名乗る必要はなさそうだ。優、目を塞げ。」
「えっ……」
 そういうとリオは魔法をスペルした。
「"ソードレイン"」
 ドスドスドス!!
 なにかが刺さる音が無数に聞こえた。
 目をそっと開けてみると、
 回復したばかりの目の前の男性は即死状態になっていた。
 何本もの剣が男性に突き刺さっている。
「リオ!」
「優……こいつらは敵だ。わかる。」
「………」
「すまない。だが、ゼロのためだ。やつが危ない。」
「敵……なんだ。うん、私も決めたもんね。ゼロのためにここまで来たんだから。」
 私は心を持ち直し、
 敵地へ赴くという意識を持った。


 扉を開くと中もすさまじい状態だった。ガラスやらコンクリート片やらが散乱し、床には大きな亀裂。
 歩くのだけでも危険な状態だった。
「誰も……いないね。」
「見ろ、優。奥に扉がある。」
「ホントだ。行ってみよっか。」
「上策だ。」
 奥の扉のノブに手をかける。
 私はゆっくりノブを回し、扉を押した。



 音もなく扉は開く。
 私は押したとき力を入れたけど、
 最後まで入れてない。
 そう、扉は勝手に開いた。
「ようこそ。我が家(しろ)へ。」
 私はよろけながらも、そのしゃべり手を捉えた。
「あ、あなたは……?」
 私とリオが入った部屋。
 さっきいた部屋より狭く、小汚い部屋だった。
 部屋の中には目の前の椅子にどっしり座る人物ともう2人、その椅子の左右に立っている。電灯の光も白く濁っている。
「優。こいつがトランプゾーンの首領、『ジョーカー』だ。」
「ジョーカー!?」
「ほう……さすがに私の名はご存知か"迅雷の月風晃"よ。」
 そう言われてリオは髭をピクッとさせ、にらみつけながら言った。
「フッ、そっちこそ我の名を知っているし、優のこともつけ狙っている。何もかもお見通しなのではないか?さて、ここにゼロが来ている筈だ。出してもらう。」
「おお。ゼロを連れて帰りに来たのか。まことに残念だが、ゼロを渡すわけにはいかないな。」
「なんで!あなたたちとゼロは関係ないじゃない!!」
 私は大きな声で反論したが、
 ジョーカーと名乗る人物は落ち着いて答えた。
「関係ない……? さて、それはどうかな?」
「「??」」
 
「ゼロの本名は知っているな?ゼロ・ジョーカー。そして私の名は……デルタ・ジョーカー。」
 
「………」
 
「なんだと!それじゃ……キサマはゼロの……身内の者か!?」
 
「なんだ……気づいてなかったのか? 迅雷の月風晃よ。それはキサマの汚点だな。石垣優は気づいていたみたいだが―――」
「そ、そうなのか優!?」
「だ、だって私たちは1度戦ったときゼロが名乗ったのを聞いたから……もしかしたらって……」
 私が言い返したが、デルタが口を挟む。
「まあそんなことはどうでもいい。」
 そう言うとデルタは指をパチンと鳴らした。
 するとさらに部屋の奥から人影が見えてきた。
 小さい、子供のようだ。私より背が低そうだ。
「だ、誰なの!?」
「ジョーカー、なんのつもりだ?この少女は一体……」
 2人がしどろもどろしていると、デルタは高笑いしながら答えた。
「ハハハハハ!!何をとぼけたことを言っている?こいつがお探しのゼロだ。」
「「なっ!!?」」
 出てきた少女は私より背が低く、幼い顔つき。
 黒い髪は肩より少し長く、まっすぐ背中に流れる。少し短い水色のスカートに、黄色いブラウスを着て白いショールが肩にかかっている。
「私たちの探すゼロは男だよ!!」
「訳が分からぬ……」
 困惑する2人にデルタが答える。
「信じない、か。無理もないがな。ならば証明してくれよう。……キルよ!あとはまかせたぞ。」
 ジョーカーはそう言うとその場から一瞬で消え去った。椅子の横に立っていた2人も同時に消えた。
「お任せを、ジョーカー様。さて、ゼロ。お前の出番だ。」
「くそっ!や、やめろ……」
 そういうゼロは言葉とは裏腹にこちらにむかって手を伸ばしている。
「優、月風晃!に、逃げろ!にげ……るんだ……」
 そう言ったゼロの掌から炎が吹き出てきた。
「わっ!」
「くっ……」
 私もリオも辛うじてよけることが出来た。
「ど、どうなってるの!ゼロ、どうしちゃったの!?」
「優。こいつが本当にキルならおそらく……寄生虫に操られている。」
「そんな!」
 横目で会話していた2人にそれぞれ攻撃魔法が襲いかかる!
「"レデュース"!」
 私は魔力軽減の魔法を使った。
 スペルした瞬間、リオがその場にいないことに気づいた。
「リオ……?」
 その時だ。
 一瞬の隙を付かれ、私は激しく殴られる感覚に襲われた。
 ガシャーンと部屋の端にあった机をはじき飛ばしながら私は倒れた。
「うっ!……くぅ〜……」
「すまない優……キルに……憑かれた。身体が言うことを聞かない……」
 ゼロはその白く細い腕で私を突き上げた。口際を切り、顎を何かが蔦っていった。
「ゼ……ゼロ……」
 私はかすれる声を出した。
「すまない!」
 掴んだ腕は私をさらに投げ飛ばした。
 しかも魔力で強化されたその勢いで私は反対側の壁にたたきつけられた。
「優!」
 いつのまにか現れていたリオ。
 月閃華戟の形を輪の形にし、ゼロの動きを止めていた。
 ゼロは身動きが取れず、もがいている。
「大丈夫か!?」
 私はリオのその声を聞いてよろよろになりながら立ち上がった。
「大丈夫よ!ちょっと……痛かったけど。」
 私は口にほんのちょっとついた血を拭った。
 そしてちょっと笑って見せた。
「そうか……さて、どうしたものだ?キルよ。」
「フフ……我が洗脳の力を甘く見るな!!」
 キルがゼロに向かって手を向ける。
 すると……
「ぐっ!ぐあああああ!!!」
 ゼロが急に苦しみだした。
 リオの束縛を破り、再びこちらに矛先を向ける。
「くっ……なんて力だ!」
 リオはゼロの勢いにはじき飛ばされた。
 そのリオをものすごい勢いでつかみかかるゼロ。
 首元をつかみ、ぎゅっと締め上げる。
「うっ……」
「ゼロ!やめて!!」
「………」
 ゼロは全く反応しなくなった。
 さらにリオの首を絞める。
 リオは抵抗するが、ゼロの力に敵わない。

「殺すのだゼロ!!」

「キル!」

 私は手に弓を握る。
 魔法で出現させた魔装。
 白い不思議な木で作られた美しい弓。
 白銀の矢を引き絞り、キルのこめかみに突きつけた。
「ゼロを解放して!……早く!!」
「私を撃つのですか……私を殺せばゼロは二度と元には戻らない。」
「殺さないよ。この矢はあなたを殺さないし、傷もつけない。ただ冷たく、固まるだけ。」
 
 そう、これは氷の矢。
 触れれば一瞬で氷の中である。
 
「魔法効果の矢……それは困りますね。」
「さあ、早く!」
「いいですよ、撃ちなさい。別に死なないのなら撃たれても構いませんからね……フフフ。」
「あら、言っとくけどこの氷。ただ自然に溶けると思ったら間違いだからね。私にしか操れないんだから。」
「問題ありません。ゼロ。続けるのです。」
 キルが言うとゼロはリオの首をさらに締める。
 そろそろリオも限界だった。
「や、やめて!!」
 
 
 ドン!!
 
 急になにか強く低い衝撃が部屋に伝わる。
 その部屋は一瞬で暗闇と化し、部屋にいた3人の姿は私の目から消え去った。
 窓もない部屋はまったくの闇だ。何も見えない。
 私はその場から動けなかったが、キルが私の構える矢の先から動く気配がした。
「こ、これは……!?」
 闇の中に会話が飛び交う。
 その言葉を私は聞いていた。
「誰だ!明かりを灯せ!!」
 キルの慌てる声が聞こえる。私はここでちょっと変に思った。
 リオも事に乗じ、私の側まで這ってきた。
 小声で語りかけてくる。
「なんとか逃れることだできた。優、我は闇でも目は利く。今魔法で明かりは灯さないほうがいい。それより、優がやったのか?」
「ううん。それより大丈夫?」
「心配はいらない。」
 小声の会話が続いていたが、そこで途切れることになった。
「う……なんだ!?」
「どういうことです!?」
 ゼロとキルの声がした。
 そして―――
「きゃっ!」
「む……」
 私の身体が急に浮き上がる。
 なんの抵抗も無く、宙にとどまっている。
 身体の自由は効かない。
「優、なぜ浮いているのだ?」
「え?リオは浮いてないの?」
「いや、浮いている。これは……なんの力だ?」
 フワフワと空気と同化したみたいな感覚。
 天使の羽で浮き上がるのとちょっと違う。
(こんなときにお姉ちゃんたちがいればなぁ……)
 そう思ったときだ。
 ハッと部屋が明るくなる。
 部屋にいた人物は私を含めて4人だった筈だ。
 でも今は6人……この部屋にいる。
「お姉ちゃん!」
 私は宙に浮いた状態で言った。
「優、平気?」
「それに健一お兄ちゃんも!」
「よ!まあこいつらは任せとけ。」
 そこにいたのは一番頼りになる2人だった。
 めぐ姉と健一さんがここにいた。
 ただ、2人は宙に浮いていない。
 この原因は2人がやったことみたい。
「ほう……誰かと思いましたがかの有名な天使が2人……。」
 キルはさっきの慌てようとは打って変わり、落ち着いて言う。
 キルももちろん宙に浮いているのだが……

「キル。3人を渡してもらおう。」



「優……あの2人は信用できるんだろうか。」
「リオちゃん、魔法界で2人ほど強い魔法使いはいないって言われてるんだから。今は魔法使いじゃないけどね。」
「なっ、それじゃまずいんじゃないのか?」
「心配ないって。」
 コソコソと話す私たちにキルも気づいていたが、気にするどころじゃない。
「3人を渡せと言うのですか。助けるのが2年半前あなた方の倒した魔法界の神とは……皮肉ですね。」
「いいからゼロを解放しなさいよ!」
 めぐ姉も言う。
 それでも落ち着き払っているキル。
 そして彼は信じられないことを口にする。
「そうはいきません。役者がそろいました。みなさんには堪え難い苦痛を味わってもらいましょう。」
 宙に浮いた状態のキルの言葉にしては説得力がある。
 それが皆に恐怖心を植え付けた。

「魔法が使えない世界を……味わったことがありますか?……・"オルギガンゾット"」

 急に部屋の中に光があふれ出す。
 そして5人はその光に包まれていった。
「キル!何をするつもりだ!?」
 
「冥土の見上げです。私の作り出した世界をお見せしましょう。そうですね……ゼロは元に戻しておいてあげますよ。」
 
 遠くに聞こえるキルの声。
 5人は散り散りになり、そのまま意識が無くなった。



 鳥の歌声が聞こえる。
 この肌触り……芝生のような柔らかい感触。
 花のいい香りがする。
「こ……ここは?」
 まぶたを開ける。
 ピンク色の空にオレンジ色の太陽が見える。
 蝶が目の前をひらひらと飛んでいく。
「え?え?ここはどこなの!?」
「気づいたか優。」
 声のする方向をみるとゼロが石の上に腰掛けていた。
 もちろん女の子の姿で、なのだが。
「ゼロ……?元に戻ったの?」
「ああ、そうらしい。大丈夫か?」
「うん。怪我は無いみたいだけどなんか頭がクラクラするの。」
「オレもだ。どうやらキルに精神をいじられたらしい。異世界に飛ばされた。」
「あっ、みんなは!?」
 私はゼロに聞いたつもりだった。
 しかし答えは別の方向から届いた。
 背後から……振り向くとそこにキルがいた。
「どうです?すばらしいでしょう、私の作り出した理想世界は。争いも何も無い世界……いえ、争いはあるのかもしれないですが……。永遠に続く世界で彷徨い屍をさらすのです。」
「キル!"プロプション"!」
 私は水属性魔法をスペルしたつもりだった。
 しかし何も起こらなかったのだ。
「えっ……魔法が使えない……?」
「言ったでしょう?魔法が使えない世界を味わったことがありますか、と。」
「何!?それじゃあ本当にここから脱出はできないのか!?」
「まあできなくは無いですが……無理でしょう。彼らを倒すことなど……。では、私の理想郷をお楽しみください……。」
 そう言うとキルは消え去った。
「……みんなとははぐれちゃったし、魔法は使えない。使えるのは……」
 私は手を差し出すとフッと弓を出した。
「この弓だけかぁ。そういえばゼロって魔装を使うの?」
「オレだって一応魔法使いで天使だ。使う。ただあの戦いでは使わなかっただけだ。」
 ゼロは身体の横に手を翳すと光が発せられる。
 その光が収縮すると長細く鋭い形になった。
 
「長刀……?」
「わ、悪いか?」
「いや、意外だったから……」
「そうか?さて、みんなを探してキルの言ってたここから出る方法を見つけるとするか。」
「そだね。」
 私は何気なくゼロの手を握った。
 そうすると……
「なっ、何すんだよ!」
 ゼロが手をバッと放した。
「ん?ゼロ、まさか照れてんの?」
「ななな!だ、だってオマエは女の子だろ!?」
「ゼロだって女の子じゃん。」
「こ、これには深いワケが……」
「まあいいからいいから!なんか私にも妹ができたみたい♪」
「や〜め〜ろ〜!!」  


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