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Angel・Hyper

驟雨

4th Story 〜 猫?剣士?ネコ剣士!  〜







 一応言っておくけど、今日は前話から2日後くらいの夕暮れ。
 私の部活が休みで(理由は監督の体調不良。まだ良くならないみたい。監督がいないのに勝手にやるな、危ないだろとか言いだして……。フェミニストなのかな、あの監督)めぐ姉も咲姉も家にいた。
 家にいてくれてホント良かったよ……だってこんなことが起こったんだもん。

 私のところにこのマジックメール(魔法使いの手紙、その送り主の姿と言葉を伝える優れモノ不思議な色の封筒に入れられた折り畳み式の厚紙(紙?)が中に入っている。)が来たのはちょうど30分前。
 魔法界の郵便局の管理員から直々に届けられた。(普段は魔法でホイッと来るもんなんだけど。)
 私たち3人のいた階段の踊り場に突如現れて『重要書類A郡です。注意してお開けください』って言って消えちゃったんだけど。

 直々となるとその内容は内密またはかなり重要ということになることは、
 その後の咲姉の解説で知ったんだけどね。
 もうビックリしたも何も送り主の名はゼロ・ジョーカーなのだ。
「ゼロからマジックメールが来るなんて……優、開けるときは気をつけてね」
「え?なんでお姉ちゃん」
「お姉さんの言う通りです優さん。管理員から直接わたされたマジックメールです。内容を見るときは慎重に……」
 2人の姉の助言を受け、とりあえず今はまだ開けないことにした。
 中を調べると言い、咲姉が魔法をかけているのだ。
 そんなこんなで今もうすでに30分経ったというワケなのね。


「咲香お姉ちゃん……まだかなぁ?」
「優、慌てない慌てない。い〜い? 直接来たマジックメールほど危険な物は無いの。その差出人が誰であろうと。以前魔法界でこんなことがあった。直接来たマジックメールを不用意に開けたらそのメールに"スパム"(即死魔法)が添え付けされてて、開けた人は……死んじゃったの」
 めぐ姉はためらいながら話してくれた。私は肩からちょっと力が抜けた気がした。
「……そ、そんなぁ……」
「もともと重要書類を送ったりする直便を逆に利用したってワケ。直便じゃ無い書類は一度検査を通るから。その対策もそろそろとられる頃だけどね。その事件もつい最近の話。だから管理員も注意してくださいって言ってたでしょ?」
「うん、なんのことだかよく分からなかったけど」
「はぁ……。まあいいか開けなかったことだし。そろそろ咲香ちゃんも出てくるでしょ」
「うん」
 私とめぐ姉が見つめる1つの扉。
 奥には咲姉がいる。
 
 
「さて、あとはスパムを調べるだけです」
 咲香は軽く封筒に手を添える。
「"マジックオブステンケル""オブテックス"」
 咲香は2種類の魔法をかけた。
 1つは魔法を妨害する魔術。
 もう1つは魔法の発動を防ぐ術。
 仮に一方の魔術にワクチンマジック(耐性に関する魔法)がかけられていても
 防ぐことができる。
「どうやらワクチンマジックもスパムもかけられていないようですね。無駄な心配でしたか」
 事態は解決、咲香はやっと安心したようだ。
「あ、出てきた」
「やっと終わったのね……」
 私とめぐ姉は扉が開く音に反応した。
 中から笑顔の咲姉が出てきた。
「一応これは悪質なメールでは内容です。調べた結果はこちらに」
 と咲姉が差し出したメモ。
 それには……
 
   盗聴→無し
   不動→無し
   即死→無し
   束縛→無し
   耐性→無し
   その他下級魔術すべて異常なし
 
 と書かれていた。
「あ、こんなに……ありがとう」
「いえ、これは作者が魔法伝書を埋めたいがためにいろいろやらせるものですから」
「……でもいいの。ありがとう」
「いえいえ、当然の事です」
「さあさあ優!早く開けてよ〜」
 めぐ姉はかなりうずうずしている。
 中身が見たくて見たくてたまらないらしい。
「わかったよぉ〜ちょっと待って……」
 私は封を切る。
 中から折り畳まれた厚いメールを取りだした。
 それを開くと映像としてゼロの姿が映し出された。
 映し出されたゼロはいきなりこんなことを言いだすから困る。
「よお優。どうせこのメールを速攻で開けちまったんだろ?もしこれがエビルメール(悪意を目的としたいわゆるウイルス)だったらどうする気だったんだ?」
「べ〜だ。しっかり用心して開けましたよぉ〜だ」
 私は映像のゼロに向かって舌を出した。
「あははっ!ゼロったらちゃんと心得てるのね!」
「もう、お姉ちゃん笑わないでよ!」
 私はちょっと顔を赤らめながら、笑うめぐ姉に言った。
 続きをしゃべりだすゼロの声に耳を傾けた。
「まあいいや。とりあえずこれはエビルメールじゃないからな。え〜と用件だが、お前には魔法界防衛省の臨時任務を担ってもらう。内容はこっちに来てから話す。とりあえずこのメールが来たら速やかにフランスの魔法界大聖堂まで来い。お前を選んでやったのはオレだぜ?感謝しな。それじゃ」
 無愛想な言葉を「綴る」このゼロ。このガキ。
 ませてやがる。
「すごいじゃん優!魔法界防衛省の任務だなんて!」
「優さん、これは名誉なことです。魔法界の専門機関の一員として働けるのですから」
「え、そうなの?」
「ゼロは防衛省長官補佐です。そのくらいの権限はあるでしょう。臨時任務ですしね」
「な、なんかすごいことに……」
 あっけにとられる私。
 任務だなんて……魔法が使えるってだけでなんの取り柄も無い……あ、訂正。
 元気だけが取り柄の私に任務なんて勤まるのかなぁ……?
「じゃあ優さん、わたしが送って差し上げます」
「咲香お姉ちゃん」
「行っておいで優。もしピンチになったら手くらい貸してあげるから。そのときは健一も連れてくよ」
「うん、ありがとうお姉ちゃん」
 2人の姉にここまで言われたからここで引き下がるわけにはいかない。
 意を決してフランスへ向かうことにした。


「優さん、これだけで準備はいいですか?」
「別に持ってく物なんて無いし、服装はまあ聖服と制服さえあればいいっしょ」
 夕暮れの外に出て、赤く染まる太陽の下、3人の少女が立っている。
(美を入れたほうがいいかな?それに少女じゃないかな……ってそんなこと言ったらお姉ちゃんに殺される)
 ――なんてことを考えながら……。
 
 夕焼けに映える2人の姉の顔。
 めぐ姉も咲姉もロングヘアーだから風ですぐかるく翻る。
 私はと言うと、長い髪をポニーテールに結ってあるからそんなに靡いたりはしない。
 生暖かい風が吹く中、別れの時を迎えようとしている。
 背負った小さなナップサックにはきれいに畳んだ聖服を入れ、あとは海外でも使える携帯電話(俗にケータイ。)と向こうでは使えるはずも無い日本円が入った財布。
「まあゼロに何か持ってこいとも言われてないしいいか。咲香ちゃん、優をよろしくね」
「任せてください!」
 咲香が気合いを入れて答えた。
 私にとって頼もしい姉2人。
「"アルバステッド"」
 いつものように移動に必要な魔方陣を発動させる。
 赤い輝く魔方陣。
 もちろんこれは魔力を安定させるために発動するのだ。
 ただこの魔法をスペルするに伴い、強い風が吹く。
 その風は制服を着ている私にとって敵だった。
 スカートが捲れ、パンティが丸見えになってしまった。
「キャッ!もう、エッチな風!」
「優……周りに男は誰もいないんだからそんなに恥ずかしがらなくても。っていうか中に何か見せパン履きなよ」
「だって暑いじゃん」
「でも恥ずかしいよ?よく男子がちらちら見てくるから……だから私だってスパッツ履いてたじゃん」
「でも私はお姉ちゃんみたくオッパイ大きくないしそんなにかわいくないし……」
「ちょっ、な、なに言ってるの!?」
 私の言葉に顔を真っ赤にして応えるめぐ姉。
 2人ともあれから心だけでなく外見も成長した(……はず)。
 中学の時は小さかった私の胸も今は成人に近い形、大きさまで成長し、制服の上からでもその膨らみがわかるくらいだ。(わかるよね?)
 かわいいかかわいくないかは私が判断出来る訳ないけど、夏休み前に男子3人に告白された。
 まあ全部断ったけど(だってガイアがいるし……)それって証拠になるかなぁ?
 ちなみにお姉ちゃんの成長具合は言えないよ! すごすぎて少年少女文庫に投稿できなくなるからね♪


「……2人ともいいですか?」
 咲姉があきれ顔でこちらを見ている。
「あ、ごめん咲香お姉ちゃん」
「ごめん咲香ちゃん」
「では……"コンダクション"」
 私の前からめぐ姉の姿が揺らいでいく。
 その光景を見たのはほんの一瞬。
 次に目に入ったのは以前勝手にフランスへ来たときの光景。(前作第7話参照)
「行っちゃった。さて、健一と援軍の準備でもしよっと♪」
 私の知らないところでめぐ姉はノリノリだったのだ。


「優さん、久しぶりでしょう、ここへ来るのは……」
「うん、なんか懐かしい感じ」
 白い大理石で作られた広く、高い天井が目立つ大広間。
 今回は魔法で制服から聖服へお着替え完了♪の私です!
 帽子はかぶってないけど。
「あいかわらず人気が感じられませんね……ここは」
「でも誰かいるんでしょ?」
「その通りです。ほら、あれが証拠です」
 そう言われて私が見た方角。
 歩いてくるのは2人の男の子。
 1人は白いタキシード。大聖堂の聖服(男用)だ。ちょっと大きめなタキシードを着ているのはゼロだ。
 もう1人は防衛省長官の宮島・コルス・ナオキだろう。
 きちんとした身のこなしだ。
「よお優。早かったんだな。ってなんで咲香までいるんだ?」
「だって、咲香お姉ちゃんに連れてきてもらったんだもん」
「ご心配なく、あなたに預けたら私は帰ります」
 そう言う咲姉に反応する宮島。
「あなたがフェンリルの咲香(しょうこう)ですか。なぜ人間の格好を?それにその呼び名は?」
「よくわかりましたね宮島長官。私は確かにフェンリルの咲香です。ですが今はある方に仕える身から解放された一魔法使いです。今はそのある方の姉妹として生活しています」
「それはそれは、思い切ったご決断ですね。あなたにとっては苦痛でしたでしょうに」
 私はこの宮島ナントカっていう長官は好きになれなかった。
 1年上というあまり私と年齢に差が無い筈なのに冷血で落ち着き払ったこの態度。
 なにか不信感を抱かせる人物だった。
「あら、そんなことはありません。今の生活に満足しています」
「そうですか」
「さて、雑談はそれまでだ。任務について説明する」
 ゼロがしびれを切らして言った。
 が……
「おいおいゼロ。キミはボクの部下だろ?偉そうな態度はとらないでくれたまえ」
「くっ……」
 ゼロは口を閉じた。
 やっぱりこいつは嫌な奴。
「さて、任務についてだが石垣優。キミにはゼロと共にパリ市内のホテルへ潜入してもらう」
「ふーんそれで?」
「キミキミ、ボクに対しての言葉遣いには気をつけるんだな。さて、用件だが、ある人物の尾行そしてその人物の目的を妨害することだ」
 尾行か……。
 よく探偵物の小説とかであるあれ。
 ばれないようにするのにやっぱこの服装じゃまずいかな。
 だって真っ白な聖服に紺のスカーフだし。
 っていうかスカーフと言うよりリボン……。
 魔法をスペルして着替えたら襟に通るはずのスカーフは、私の髪をポニーテールに保つリボンとなっていた。
 ま、いいけどね。
 そんなこと考えていたらゼロがまた思い掛けないことを……
「あ、それとオレの他にもう1人ガイアがくっついてくるから」
「え!?ガイアまで来るの?」
「なんだ、うれしくないのか? てっきり喜ぶと思ってたが」
 そんな唐突にガイアに会えるなんて……
 照れちゃうな♪
 
「もちろんうれしいよ。それってゼロの手回し?」
「まあな。優にはぴったりだろ? 他に頼れる奴は『コブ付き』だからな。なあ咲香?」
「それを言わないでください」
 咲姉がうつむいてしまった。
 コブというのは咲姉のジェイドさんのことだろうな。
 あの耳にまた触りたいな……


「ゼロ、石垣優。2人には早速そのホテルへ向かってもらう。服装は……まあそれでいいか。それとこれを持っていけ」
 そう言って宮島が差し出したのは不思議なデザインが入った掌に収まる3種類のカード。
 魔法使いの目で見ればカードからは魔力のオーラが出ているのが分かる。
「これは?」
「これはいわゆる通信手段。一枚ずつ持つんだ。カードに心術を送り込むことにより、これと同じ物を持つ者と会話ができる。持つ者にはその会話も聞こえる。使い方はそんな程度だ」
 宮島が説明を終え、私とゼロにカードを差し出した。
 それを受け取るとゼロが私を見て言った。
「まあ短い間だがよろしくな。おっと、真打ちの登場だ」
「ガイア!」
 2人が見た人物。
 サラサラの金髪に青い瞳。
 そしてゼロと同じ白のタキシードを着ている少年。
「ゼロがあやしげに任務に誘うと思ったら優がいたからか」
「ガイア……久しぶりだね」
「ああ。優に会うのは……何ヶ月ぶりかな?ごめんな。こっちから会いに行けなくて」
「ううん、いいの。だって仕事でしょ?」
「それは言いワケにしたくないんだ」
 ガイアはずいぶんまるくなった。
 はじめ出会ったときは見ていただけなのに攻撃をしてきたラフな性格の少年だったのに。
 私の影響もあるかもしれないけど。
「さて、人員もそろったことだ。ゼロ、2人を導け」
「御意」
 ゼロは魔方陣をスペル無しで出現させると一瞬で私たちを移動させた。
 さすがは魔法界の神と呼ばれる人物である。
「せいぜい頑張ることだ」
 宮島がさっきまで3人がいた場所の床を見つめながら言い放った。
 私に聞こえていたらさらに宮島が嫌いになったに違いない。
 
 ヴン!!
 
 3人の周りの風が吹きやむと、
 靡いていた聖服は落ち着いた。
「ここが最大のシティホテルだ」
 目の前にある大きな建物。見上げてもてっぺんが見えない。人通りが多いこの大通りに真っ白い聖服を着た3人は、傍目から見れば相当不自然だった。すでに何人もの人に変な目で見られていた。
「こんなところに入るのか?」
 ガイアがゼロに問う。
 これは余談だけど今並んでる順番は左から私、ゼロ、ガイア。
 ゼロは相変わらず一番背が小さい。
 でももうすぐ私を抜きそう。ちょっと悔しいな。
 ガイアはと言うと、身長をかなり伸ばし、健一さんに追いつく勢い。
 う〜ん、かっこいい……って何思ってんだろ!?
「わぁ〜こんなに大っきいホテル、一度泊まってみたいなぁ!ねえガイア!?」
「えっ?あ、ああ」
 ガイアはちょっと違う方向へ思考回路が突っ走っていった。
 内容はご想像通りですが……。
「おいおい、ラブラブになるのもその辺にしとけ」
「そっ、そんなことないよ!」
「ラブラブだなんてそんな……」
 私は抵抗するが、それは偽り。
 しかもガイアは照れている。
「もうガイアったら……」
「さて、2人とも。カードは持ったか?」
「ああ」
「うん、持ってるよ」
 私とガイアは胸ポケットからそれぞれ青と紫のカードを取りだした。
 そしてゼロは漆黒のカードを取りだす。
「これからは単独行動になる。オレ達はホテル内で行われるパーティーに潜入し、目的の人物の監視・尾行にあたってもらうからな。標的はパーティー会場にいる魔法使いの物資を強奪することが目的だ。その目的も阻止する。というよりその物資は元は魔法界の重要書類、盗品だ。それも回収しなければならない」
「あのさぁ? その人物って一体何者なの?」
「オレも気になってたんだ。そのことも言わずに呼び出されたからな」
 私とガイアは揃って聞いた。
 ガイアの聞き方はホントに大人になっていた。
 昔と違っている。
 そのことにちょっと驚いたんだ。
 ゼロは一瞬ためらって口を開いた。
「オレたち防衛省が何年も追い続けている魔法犯罪者……名はシャーベット。キル・シャーベットという人物だ」
「うわぁ、おいしそう」
「優……そういう問題じゃないだろ?」
 ガイアがあきれてものを言う。
 私は舌を出して言った。
「ごめんごめん♪で、ゼロ。一体何をした人なの?」
「お前らが姉貴2人とあと……おまけどもと一緒にオレを倒して、その数ヶ月後だ。魔力で人を操ることができる魔法を開発した人物だ。無論、元々そのような種の魔術はあった」
「"マネージマインド"、洗脳術のことだな」
 ガイアが解説した。
 この魔術はゼロがかつて使用した魔術。
 大臣と聖堂長を洗脳したものだった。
 そのときはどうにかなったけど……。
「その通りだ。その術は相手を洗脳するのに魔力を媒体とするから対抗魔術も回復も効く。だが、キルの開発した魔術は対抗魔術が効かず、回復が難しい。その証拠が今優が考えているあのバスケ部の監督というわけだ」
「あっ……また心を読んだ。でもあってるでしょ?」
 私が考えていた。
 この間見たあの監督。
 どう考えても洗脳されていたのなら私にだって処理はできた。
 でもできなかったんだから……
「優、お前の考えているほど甘くは無い。媒体に厄介な魔法生物を使用する。それが寄生虫と呼ばれる媒体。監督には寄生虫が憑依していた。だから優の魔力に屈せず、攻め続けたんだ」
 ゼロはまた私の心を読んだ。
 もっと簡単に考えていたのも事実だけどね。
「寄生虫といえば宮島も言ってたね」
「ゼロ、寄生虫とは一体なんなんだ?」
 ゼロはまた一瞬ためらった。
「……今は聞かないほうがいい。それより早く中へ入るぞ」
「「??」」
 私とガイアは顔を見合わせた。
 ゼロがこんなに青ざめた顔をするのは初めてのことだった。
 
 
「こちら優。聞こえる? 2人とも」
「ああ、ばっちりだ優」
「おいおい、あまりカードで遊ぶなよ?ケータイと違って電波で探知されないから一般の機器には引っ掛からないのが利点だからな……」
 否定したいのか、説明したいのかよく分からないゼロ。
 う〜ん、変わった。
 今ホテル3階の大広間のパーティ会場に3人は散々に張り込んでいる。
 ゼロは今私が見てる部屋の入り口にいる大きな女の人の後ろの影。
 私は大広間の奥の隅。ガイアは大広間中央に変装して張り込んでいる。
 張り込みって緊張するんだなぁ……。
 頬を汗がつたってくすぐったい。
 中に着ているキャミソールが肌にくっつく。
 会場は冷房が効いて夏なのに涼しいという理想の環境なのに、汗は止まらない。
 
 えっ、ガイアがどんな格好かって?
 これこそ聞かない方がいいのかも。
 言ったら笑っちゃう……。
 
「あ〜ら? かわいい坊やねぇ?」
「ちょっ、なにするんです?」
 ガイアは照れながら執拗に話しかけてくるおばさん軍団に抵抗している。
「そんなに照れなくたっていいのよ!かわいい蝶ネクタイじゃないの!」
「くっ……ゼロめ……」
 そんなやり取りを見て思わず吹き出しそうになるのをこらえる私。
 さっきまで着ていた聖服とは打って変わり、
 青いスーツ、派手な蝶ネクタイ。
 さらには身長に合わない短パン。
 はっきり言って変と言うかダサい。
「だって、これの方がパーティの中央にいるにはもっていこいだろ?」
 ってゼロに同意を求められた。
 どう言えばいいか迷った末、引き笑いでごまかした。
 大きなシャンデリアの光が私たちを包む。優雅な音楽が流れ、人々が団欒や食事を楽しんでいる。
 この会場にいるのは若い大人ばかりではない。キチンとした服装の子供、格好のいい老人。
「2人ともいいか? あのステージの側にいる桃色のローブを着た悪女がいるだろ?その隣の太り過ぎの中年がターゲットだ。しっかり見張れ」
 とゼロが言ったように悪女……みたいな恐そうな女の人に、ターゲットのようなおデブちゃん。中年オヤジに『ちゃん』は変かなぁ……。
「了解。ってガイア。ターゲット、そっちに行ったよ」
「何!?……あ、おばさん。ボクはこの辺で……」
「待ちなさいよ!」
 カードを通してガイアの苦労が伝わってくる。
 つけ回すおばさん軍団をやっと撒いたガイア。
 ターゲットのオヤジから10メートルくらい離れた位置に身構えた。
「よし、捕捉した。移動するときはオレにまかせとけ」
「2人とも、そろそろパーティの『本番』が始まる。心しろ」
「えっ?」
 私が応えて間も無く部屋の明かりが落ちた。
 あまりに早い展開でまわりの状況が把握出来ていないのにこの様。
 当たりは薄暗くなり、見えるのは自分の指くらい。ほんの少しの電灯が天井で光を放っている。
「おいゼロ。どういうことだ? 暗くなるなんて聞いてないぞ」
 ガイアがゼロに問う。
 もちろんこれもカードでの会話。
 
 会話を聞きたかったが、私はそれどころじゃなかった。
「ごめんなさい!ごめんなさい!!」
 暗闇の中、誰かの足を踏んでしまい、
 謝りまくっていた。
 なにか恐そうな声で私に小声で話しかけてくる男の人。
 翻訳術を使っているのでしゃべっている言葉は理解できる。
 その人は微妙に声を発する私の持つカードを捉えた。
「そのカードは靴の洗浄料と足の治療費としてもらっていく」
 なんてバカなことをさっきより大きな声で言いだした。
 まあ確かに私が悪いんだけど……
 そんなこんなでカードを奪われ、その場から立ち去ろうとする。
「ちょっ、待ってください!」
 その男の人を追いかけようとしたときだ。
「Ladies' and Gentlemen!」
 パッとスポットライトで照らし出されるステージ上の黒いスーツの男性。
 スポットライトから漏れる光で私が追いかけようとしている男の人も分かった。
 背が高い短い金髪のちょっと恐い印象を持つ人。
「それは大事なものなんです!」
「だったら私の大事な足もなんとかしてくれるのかい? それにこの靴も。キミが!? ……フフ、この会話ができるカードは代物だな。やはりもらっていくぞ」
 男の人は振り向いて顔を強ばらせて言う。
 その声に一瞬怯んだときだった。
 ボウン!!
 大広間に爆音と煙が巻き起こった。
 それとともに悲鳴と奇声が重なって聞こえる。
 火薬のような火のような匂いもする。
 爆発が起こったのはターゲットのすぐ側。
「だれかそいつを止めてくれ!!私の大事な書類が……」
 誰かの声がする。
 妙にこの声だけがはっきり聞こえた。
 おそらくターゲットが発した声。
 そして私が追う男の人の持つカードからも声がした。
 こっちはガイアの声。
「優、あいつだ!煙の中!!」
 私が男の人から救いを求める声のした方向へ矛先を変えた。
 煙の中を飛ぶように動く影。
 スポットライトに映えるその姿は人では無いようにも見えた。
「みなさん落ち着いてください!!」
 司会進行役かと思われる、スポットライトの光を受ける人物がマイクを通し、会場の人々を落ち着けようと試みるが、いったん混乱に陥ったこの人数をおりまとめることなどできるはずなかった。
「おい! どこへ行くんだ!」
 私は影の方向へ走り出そうとしたときだ。
 男の人は私の腕をつかみ、それを拒んだ。
「は、放してください!」
 額を汗が埋め尽くす感触。
 心の中を焦りと緊張が埋め尽くしていく。
 早く行かないと任務が……
 ふとガイアが視界にはいる。ガイアも今は動ける状態ではなかった。複数の人々に行く手を遮られ、追いかけることなどできなかった。
 どうしよう……
 こっちはこっちで大変。
 ガイアも動けない。
 これじゃ逃げられちゃうよ!!
 
「やっと……見つけた!この書類……私の物だ!!」
「か、返してください……」
 大広間外の廊下。
 ここに2人の人物がいた。
「フン、笑わせるな豚め!その巨体で私を追うことなど不可能、だ!」
「あぁ……」
 男は情けない声を発する。
 書類を奪った人物は黒いマントを翻し、その場から立ち去ろうとした。
 が……
「待て」
 黒いマントの人物はバタン!という音と共に後ろから呼び止められた。
 振り向くとそこには身長がかなり低い人(?)が立っていた。その人(?)の後ろの両開きドアが揺れている。
 真っ白のシルクハットをかぶり、
 緑のボレロを着込み、白いマントを肩から流す。
 マントは、床をこするほど長い。
 その子供のような声と姿に黒いマントの人物は驚愕の色を隠せない。
「………?」
「その書類を……渡せ」
「バカ言うな。これは私の物だ。第一、その身体で何を……うっ!」
 マントの人物は突如現れた身長約50センチくらいの人(?)にフルーレを突きつけられていた。
 シーンとしている大広間外の廊下。
 広間の中はまだパニック状態らしく、
 人々の声が漏れる。
「首を刈られたいのか?」
「ぐっ……キサマ……何者だ?」
「答える義理は無い。さあ、渡せ」
 小さい人(?)はフルーレをさらに突き出す。
 黒いマントの人物は敢え無く書類を差し出した。
「さあ、渡したんだ。その剣を下ろしてもらおうか」
「我に命を下す者などいない。我のすることは我が決める……」
 小さい人(?)は書類をすばやく懐にしまい込むと、黒いマントの人物に背を向け、走り去った。
「そう易々と逃がす私ではない……"ブラッディウィップ"!」
 赤い鞭状の触手が伸び、小さい人(?)に向かっていく!
 だが、すばやい反応でその触手をフルーレではじき飛ばす!
 その反動でかぶっていた白いシルクハットが飛び、マントが翻り、あるものが見えた。
「ぐっ!まさか……キサマは!!?」
「この"月閃華戟"(げっせんかげき)に立ち向かえる物などない」
「フルーレに見せかけた魔装……その剣は様々な形に姿を変え、どんな攻撃にも対応出来る……そしてその耳と尾がキサマである証明!キサマは月風晃(げつふうこう)だな!?」
 シルクハットが飛んだおかげで見えたのは白い猫の耳。
 マントが翻り見えたのは白い長めのしっぽ。
 瞳は緑色をし、光を放っている。
「いかにも……我が名は迅雷(じんらい)の月風晃だ。キル。そなたにこの書類が渡るのだけは避けたい。それが我の目的……」
「やはり私だと言うことも気づいていたか。流石……とだけ言っておく。だが、勝利者は私だ!」
 『キル』は再び魔法をスペルした。
 赤い触手が月風晃向け伸びていく。
 しかし月風晃はいとも簡単にそれを受け止めた。
 ガキン!!
「何度試みても無駄だ……」
「待て!!」
 ゼロがその場に飛び込んだ。
「あの爆発はフェイク……お前らが首謀か!」
「邪魔が入った……我は失礼する!」
 月風晃は白い煙を発生させるとその場から消え去った。
「ゼロ……お前も堕ちたな……神の名が聞いてあきれる」
 キルも魔法でその場から消えた。
(……月風晃……なめた真似を……)

「……一体なにをたくらんでいる。キル!」
 誰もいない廊下でゼロは大広間の騒音が掻き消えるくらい、
 大きなじだんだを踏んだ。
 その衝撃は床を走り、私のところまで届いた。
 私とガイアは遅れてその廊下へたどり着いた。
 魔力の糸を辿って。
 また、魔法発動の気配をさぐって。
「ガイア……どうする?」
「さぁな。だが、これはどデカい事件の予感がするな。また戦争にならなきゃいいが」
「うん……」
 私は深く考え込んでしまった。
 
 ゼロがあそこまで悔しがる姿を見るのも、
 あれだけ惨めになっているところを臨むのも初めてだった。
 
 心底めった打ちのゼロ。
 ゼロにかけてあげる言葉が見つからないまま、時間だけが過ぎていった。
   


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