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Angel・Hyper

驟雨

3rd Story 〜 Memory 〜







 汗のヒゲがついてる。
 額からも汗が流れる。
 
 今私は走ってる。
 そんなに速くないけど、走ってる。風を切りながら走る。
 町の風景がいつもより早く進み、頭のてっぺんで結った髪も揺れるくらいだ。
 監督は今日は夏風邪で家で休養していたって言うし、他のバスケット部員は今日の練習で監督を見てないって言うし、絶対に何かある!
 それに朝布学園に現れたゼロと謎の少年。
 魔法界にまた事件が……?
 
 家の前につくといつも通り門は自動で開いた。
 玄関の大きな扉を開き、靴を脱ぎ捨てた。
「お姉ちゃ〜ん! いる〜!?」
 大きな声で呼んだ。
 まあ返事がこないことくらい予想していたけどホントに何も返事がない。 
 広い家だから。
 
 お姉ちゃんは2階のロビーにいた。
 咲香お姉ちゃんもいる。
「優……どうしたの? そんなに慌てて」
「さあ、これで汗を拭いてください」
 お姉ちゃんは白のワンピース一枚でいた。
 この暑いのに咲香お姉ちゃんはまた黒いローブを着て、帽子をかぶって、箒を片手に立っていた。
 私は差し出されたタオルを受け取ると、顔にバット当てた。
 朝布学園の制服をパタパタさせた。やっと身体の中に風が入った感じ。
 が、ロビーにはエアコン完備ではない。
 まだ暑いことに変わりはなかった。
「ふう……って落ち着いてる場合じゃないよ!今日学校にゼロが来て……」
「ああ、きっとあの件ですね。今そのことについて話していたところです」
「咲香ちゃんの話だと、フランスに行ったとき妙な噂を聞いたって。なんでも、またゼロみたいな考えをもつ輩が現れて勢力を拡大している見たいなの」
「とは言いますが、ゼロさんよりタチは悪いですよ。なんていいますか、魔法だけの攻撃ではなく、今回は一般の、つまり魔法使いや天使ではない者までに危害を加えてきます」
「そうそう!今日はハゲ……私のバスケ部の荻野監督が豹変……って言うのかな、おかしくなって、私を天使だって見抜いたし。それでピンチになったかなと思ったら全然知らない男の子とゼロが現れて、回収だとか仕事だとか言うし。あと、その男の子は朝布学園の制服着てた。魔法も使ったし……一体何者なのか知ってる?」
 一応考えついた結論を実行した。
 『お姉ちゃんに聞く』である。
 2人いるから今はちょうどよかったかも。
「ゼロは市場で働くという反面、魔法界の防衛補佐官です。まあ魔法界の警察みたいなものですよ」
 そういえばゼロって魔法界の絶対なる神……だったよね。
 市場で働くってあいつはいいのかなぁ?それで。
 まあ平和ならいいんだけどね。味方になってくれたみたいだし。
「でも優が言うその制服着た少年は知らないなぁ」
「お姉さん、今はその少年のことは気になさらないで大丈夫です。その2人は皆に偽りの記憶を植え付けました。寄生された荻野監督は魔法で治療を受け、その日は休養をとったという記憶を、他のバスケット部員には監督を見なかったことに、と言う記憶を植え付けたのです」
「なんでもできるんだなぁ」
 ちょっと感心しながら言った。
 やっと頭の中が整理されてきた。とりあえず皆には影響無いことが分かったからそれはよかった。    
 
 お姉ちゃんが咲香お姉ちゃんに……はぁ、いちいち面倒くさいから略していいかな?
 めぐ姉(ねえ)が咲姉(しょうねえ)に聞きたそうにしていたことをやっと聞いた。
 
「咲香ちゃん、なんでその少年は気にしなくて大丈夫なの?」
「彼は魔法界防衛省長官という位に値する人物です。名は宮島・コルス・ナオキ。同級生で宮島・コルス・アキナさんっていましたよね?彼女の弟です」
「ああ、あの魔力の全然弱い」
「一体なんの話?」
 わけがわからず口を挟んだが、
「ってなんで魔力の弱い宮島さんの弟が長官……?」
 ……無視された。
「血筋とかじゃないでしょうか?そこまでは私にも。気にしなくて言い理由は知り合いの弟だと言うこ
 とと、一緒にゼロが着いているからです。彼は信用出来ますから」
 咲姉は自信満々に言い放った。
 ゼロが信用出来る、か。
 なんでそんなに言いきれるのかな……
 
「じゃなくて、宮島〜なんとかって誰!?」
 
 
 
 
 私は以前めぐ姉が朝布学園に潜入したときの話から聞かされた。
 今となっては懐かしい高校時代の思い出。
 笑いながら話す2人の姉の前で私も笑っていた。
 ずっと立っていたのに疲れすら忘れていた。
 高校時代の香りを感じさせながら語るめぐ姉と咲姉。
 私も高校で最高の思い出を作りたいと思ったのはこの頃から、かな?
「確かに変。姉は弱くて弟は強いなんて」
「それもそうだけどまあ仕方ないかな」  
「そうですね……っと、もうこんな時間ですか。お姉さん、優さん、そろそろ魔法学校へ向かいます」
「うん。じゃ咲香ちゃん、また明日の朝」
 気づくと時計の針は夕方7時を指していた。
 ロビーの窓から見える外はまだ『色』を残しているが、時間は正直だ。
「バイバ〜イ!」
 めぐ姉が軽く手を振る。私も大きく、手を振った。咲姉も手を振り返しながら消えていった。
「さて、私は健一の家に行くとしますか!」
「あ〜またラブラブデート!?」
「まあね♪って、何言わせるの!」
 ノリノリで答えるお姉ちゃんだった。
 
 
 
 
 
 
 
「なんだかんだ言って、帰ってきてから健一に会うのはこれが初めて、か」
 私は健一の家の前まで来て足を止めた。
 思い返せばあの日から会うことができなかったなぁ。
 私が留学するって決めて出発した日。
 
 
 
 
「ホントに行っちまうのか?」
「またすぐに会えるから……」
「オレは止めないぞ」
「わかってる。健一の言いたいことも、思ってることも」
「読心術……は使えないか。愛美の思ってることはきっと真実だろうな」
「うん……だといい」
「頑張ってこいよ。オレはずっと待ってるからな」
「……うん」
 
 ドキドキが強くなる。
 胸が張り裂けそうだった。
 胸に手を当てなくてもその感覚は伝わってくる。
 あたりも暗くなり始めた。
 
 いくら健一とは言え、これだけの期間会ってなかったから、
 私の脳裏に不安が無いと言えばそれは偽りとなってしまう。
 
 指が震える。
 チャイムを押そうとしているだけなのに。
  
「あ……」
 
 勝手に指が動いてチャイムを押してしまった。
 
 〜〜〜〜♪
 
 優しいメロディが健一の家の中に響く。
 ダンダンと床を踏む音が微かに聞こえ、ドアが開いた。
「はい?」
「健一……」
「め、愛美か?」
「あ、あの〜」
 私がしどろもどろしていたときだ。
 
 健一は私に抱きついてきた。
「わっ……」
 またたくましくなったのかな?
 健一がとても大きく見える。
 耳元で健一が息を吹きかけながら私に言った。
「おかえり、愛美」
「た……ただいま健一」
 
 
 あの日私が流した涙は無駄になっていなかった。
 健一はちゃんと待っててくれたんだ……。
       
 胸はまだドキドキしていた。
 でも感動で溢れる……そんなドキドキだ。
 
 私たちが抱き合っていた時間はどのくらいだったのかな……
 わからない。
 私には……。
  


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