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 また怒ってる。
 あの監督すぐに怒るんだから。
 ハゲ頭。(聞かれたら怒られるけど。)
 
「おらぁ!そこだよそこ!っっっうあぁ!!なんでやらないんだよ!!?」
 でも最近までは穏やかな性格だったはずの荻野監督なのに……。






Angel・Hyper

驟雨

2nd Story 新たな創まり(はじまり)」







 選手の汗がしみ込む体育館。
 バッシュがキュッキュッっとこすれる音が響き、かわいらしい女の子の声が館内にこだまする。
 そして大きめの黒いラインの入ったオレンジ色のゴムボールの弾む音。
 それを突く女の子達。
 みんな息を切らせ、髪を揺らし、走り回っている。
 
 ここは朝布学園高等部の体育館内。
 夏休みも中盤。
 蝉の声が響き、暑い太陽がサンサンと輝いていても、雷鳴が轟き、豪雨が降り注いでいようとも、女子バスケット部は休まず活動している。
 幸い今日はその中間。
 太陽も照りつけず、かといって雨も降らず、陽を覆うは雲。
 曇り空のおかげで気温もいくらか低め。過ごしやすい環境だった。
 
 体育館と言えば、2階はブラスバンド部の練習場になっている視聴覚室がある。
 お姉ちゃんがいなくなったからって廃部になるわけが無い人気部活の1つ。
 人気があるのは入部する人が多いのもあるんだけど、なにより女子の割合が多くてさらにどの娘も容姿端麗な娘ばかりときたら、注目するのは男子生徒。
 ブラスバンド部の女子を彼女として付き合っている男子も少なくない。
 お姉ちゃんも健一お兄ちゃんもそのひと組なんだけどね。

 3階の講堂にも、1階のここにも、練習をするときのあの音色は伝わってくる。 普通の人が聞けばただの雑音にしかならないブラスバンド部の音。
 前にお姉ちゃんがこんなこと言ってたっけ。
 『優、吹奏楽っていうのは、練習の時は嫌われて、舞台上では喝采を浴びる部活。もちろん、舞台上に上がる機会の方が少なく、練習の日々が多く続けば、嫌われるのは当たり前。でもね、ブラスバンド部が迷惑をかけるのなら他の部活はどうかって聞かれたら迷惑をかけてない部活なんて無い筈だよ。だからブラスバンド部っていつも学校中の掃除をしてるじゃない。1日の内の数十分しかやらない清掃なんだから自然と汚くなってくる。それを掃除する意味はあるんじゃないのかな?』
 中学生だった私にこの話の内容が理解出来るはずなかった。
 表に出さない内に秘められたお姉ちゃんの痛みって言うのかな?
 でも今の私ならそれがわかる気がする。
 言いたい事は簡単に言えば『帳消し』とか『相殺』とかだと思う。
 ブラスバンド部の苦しみがわかりそう。
 
 今も耳に響くあの音色。
 この音が1つになったとき、輝くあの舞台が広がると考えると、私にはこの音を雑音とは思えなかった。
 
 
 ってなこと考えてたら怒られちゃった。
 なんかボケーっとしてるとかなんたらかんたら。
「石垣!またボケーっとしてるな!?」
「す、すみません監督……」
「ったく、人一倍努力するお前がどうしてそうなんだ!?」
「………」
 今人一倍努力すると言われた。
 確かにバスケットの練習は休まず来てるし、たまに自主トレとかしたりはするけど、そこまで努力した覚えはないなぁ……。
 でも監督が私を怒るときはそんなに厳しくないし、1年生の私を20人くらいはいる部員の中から先輩を捨ててまでレギュラーにしてくれるし、なんでかな?
「さあ、石垣はメニューに入れ。他のレギュラー組もだ。」
「「「はい!!」」」
 疲れていてもこの監督の前ではそれを見せる事はできない。レギュラー組のメンバー、控えも含めて8人。
 汗を拭いながら練習メニューに入った。






「今日ハードだったね……」
 昼間覆っていた雲はさらに厚みを増し、今にも雨が降りそうというくらいに成長していた。
 私は空を見上げ、夏にしては暗い6時の空を眺めていた。
「優……ちゃん?」
「えっ?あ、ごめん亜美ちゃん。」
「なにか考え事?」
 いつものように校門をくぐり、
 澤野亜美ちゃんと並んで歩いていた。
「ごめん。なんでも無いから。」
「?」
 亜美ちゃんが首をかしげる。
 私はそのままそそくさと足を速めた。
 
 
 また次の日の練習日。
 
 レギュラー組が練習メニューに入ってしばらくしたときだ。
 私は監督に呼び出された。
 体育館の隅の個室。
 換気扇がからからと回り、電気をつけないと昼間も暗い汚い部屋。
 ここには初めて入る。
 一目見た感じ、気味が悪いと感じた。
 キョロキョロしていると監督が話を切り出した。
「石垣、お前はどういうつもりでこの部活に入ったんだ?」
 急な質問に戸惑ったが、思いつくままに答えた。
「私が中学時代からやってたバスケを続けたいのと、実力を磨いて将来は正式なバスケット選手として活躍するためです。」
「……本当にそうなのか?」
「えっ?」
 一瞬私は怯んだ。
 荻野監督の表情が急に強ばって私を睨んだからだ。
「中学からバスケットをやってたからって3年生の先輩を押しのけ自分がレギュラーになったことに不信感を持たなかったのか?」
「!?」
「お前の内に秘められる力というものは先生はとっくに見抜いていた。」
 荻野監督がそう言い放った瞬間、
 背中から変な2本の紐状の物が伸び、私を掴んだ。
 得体のしれない物に私は焦った。
「きゃっ!こ、これは!?」
 ものすごくべたべたしたし、
 変なにおいもした。
「ククク……石垣、お前が魔法使いで、天使であると言うことは既に知っている。その魔力を吸い取らせてもらう!」
「くっ!!」
 私は振りほどこうと いたが、
「触手」は私の身体をきつく締め上げ、抜け出すことは不可能だった。
 
「無駄だ。……この機会を待っていた。一部員のお前をどう1人にするか迷ったが、レギュラーにすれば監督からの話があると他の部員にも錯覚できるしな。」
「あなたは……一体何者なのよ!?」
 締めつけられ、息も詰まってきた。
 その詰まった微かな息で声を発した。
 おかげで声は小さかったが。
「それを今お前に語る必要はない。なぜならお前はここで死ぬのだからな!」
「そんなのゴメンよ!!」
 最後の力を振り絞った。
 何とか右手だけは絡む触手から抜け出すことができた。
 その右手を荻野監督に向ける。
「"アスリープ"」
 軽い電撃の網が荻野監督を包む。
 そのショックで監督の動きは束縛された。
「なっ……」
「かるい電術ですから。」
 スルッと力が入らなくなった触手から抜け出すと、
 その場から逃げだした。
 
 バタン!
 ドアを勢いよく閉める音が体育館に響く。
 どうやら今は休憩中らしく、誰もいない。
 休憩中は、外の水道の側あたりにいつもは屯(たむろ)している。
 と思ったら、1人、フリースローをしている少年がいた。
 
「………」
 
 少年?なんで。
 この学校に男子バスケット部は無いし、
 今日は体育館(ここ)は女バスが全面使用する予定だから他の生徒は入れない筈だった。
 
 ダン!ダンダン………
 
 少年がシュートを決め、引力に引かれ落ちたボールが音を立てた。
 はねる強さはだんだん弱まり、最後はフロアを転がった。
 音がしなくなったとき、私の気配に気づいたのか、
 少年はこちらを振り向いた。
 私と同じ、赤毛の少年は、
 朝布学園高等部の夏の制服を着ている。
「石垣優、だな?」
「え?あ、はい。」
「そこをどけ。」
 少年が手を動かし、セリフと同等の仕草を見せた。
 私がその手の動きと同じ方向に足を進める。
 すると、
「"ハックシェクト"」
 少年は魔法をスペルした。
 伸ばした指先から槍が飛び出した。
 それは私の脇を通り、後ろにいた監督に突き刺さった。
「ぐあ……なんで……こんなガキどもに……」
 いつのまにか、電術から逃れ、小部屋から出てきていた監督の姿があった。
 槍は監督を貫き、体育館の壁に突き立てられていた。
 真紅の血が体育館を染める。
「こ、殺した?」
「そいつの中の『寄生虫』を、な。」
「寄生虫?」
 少年はそう言う私を無視し、腕時計を眺めていった。
「そろそろ時間か。」
「え?」
 え?と言うことが多くなってきた。
 それもそのはず。
 目の前では思いも寄らぬことばかりが起こっている。
 少年の脇で光が収縮し始めた。
 だんだんと強くなり、光の中に人影が見えた。
「よお、久しぶりだな。」
 その人物は今までいた少年よりもさらに小さい少年。
 年齢も3歳かそこら下のガキ。
 見覚えのある全身黒ずくめで黒髪に漆黒の瞳。
「今ガキって思ったな?まあ確かにガキだがよ、これは仮の姿であって……」
「ゼロ、仕事だ。」
「お、忘れてた。ったく、厄介な物を送り込んできやがったな。」
 大きいほうの少年が小さいほうの少年にに促した。
 しかも、「ゼロ」と言った。
 咲香お姉ちゃんが言ってたっけ。かつて戦ったゼロ・ジョーカーが改心して、魔法界に協力するようになったって。
 ここにいるこのガキはゼロ。
「なんであんたがここにいるの?」
 強気で質問をした。
 それがゼロの気にさわったのか、ゼロが変なことを言い放った。
「なんだ、優。無愛想な奴になっちまったな。前会ったときはまだかわいかったのにな。」
 その言葉に私は顔を赤らめて反論した。
「なっ、なにを言いだすと思ったらそんなこと……」
「ゼロ、石垣優に構うのはそれくらいにして今日はこいつを回収して引き上げるぞ。」
「ああ、わかったよ。それじゃあな。姉貴2人によろしくな。」
 2人は荻野監督を連れて消えた。
 何がなんだか分からず、その場に立ち尽くしてしまった。
 その後頭に浮かんだ考えは……。
「お姉ちゃんに聞こう。」

 真相は次回に続く……。
 
 


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