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Angel

驟雨
続・番外編 『潜入! 朝布学園』





 夏の風の熱さが身を焦がす。
 強い陽射しが二人を照らす。
 蝉の声が大きく響き、緑の葉が揺れる。
 小さな子どもたちの集団や親子連れが、木の下で虫取りやらおしゃべりやらに興じている。
 のどかな風景。夏休みがもうすぐ始まる七月の終わり。
 おなじみ、いつもの公園でベンチに座っているのが、私――石垣愛美。
 そして私の脇に立って、制服のポケットに手を突っ込んでるのが、七瀬健一。

 健一は半そでのワイシャツに、制服の黒いズボン。
 髪の毛がツンツンに突っ立っている。さっき頭を水で濡らしていたからだろう。
 「暑い暑い」って言いながら、公園の噴水の中に頭を突っ込んでいたから、ワイシャツもびしょびしょで中に着ているTシャツが透けて見えた。

 私はというと、白いワンピースに麦わら帽子。
 暑さをしのぐには一番の帽子である。
 赤い髪が風に煽られて、木の葉と同じようにゆっくり揺れる。

 今座っているベンチはちょうど木の影になっていて、ちょっと涼しい。

「いいなぁ……男の子はそんなラフな格好でも恥ずかしくないもんね。」

 私は帽子を脱いで、ベンチに置きながらつぶやいた。

「何言ってんだ。ワンピース一枚の女の子だって、充分ラフな格好だよ。」
「でも健一みたいに水浴びはできないじゃん。あ〜あ、私もプール行きたかったなぁ……」

 妹の優と咲香は、その他多数を連れてプールへ行ってしまった。
 本当なら私もついていきたかったのだが、こっちはこっちで用事があった。
 そんなわけで今、健一とここに二人でいるのだが。

「……で、今日はどんな用事なんだ?」
「うん、実はさ、この夏休みに模擬テストがあるんだけど、それを受けるために必要な受験票をもらうの忘れちゃって。」
「はぁ〜!? お前もう進学考えてるのか? ……はっやいなぁ。入れ替わると気持ちも変わっちゃうんだな。」
「まあね。元のままだったら今ごろ遊びほうけてるしね。」
「……で、忘れたから、何?」
「あ……え〜と、締め切りが明日の月曜日で、今日は学校内には入れないじゃん。だからどうにもならないかな……って思ったんだけど、アレを使えばどうにかなるかなって――」
「アレって、まさか?」
「学校の職員室にはセンサーが張り巡らされてて、それに触れると大体10分かそこらで警備会社の人たちが来るんだよ。それで、“トランスパレント”を使えばそれに触れることなく潜入出来るかな……って考えたんだけど。」
「やっぱりそれか……」

 “トランスパレント”は魔法伝書第18項の透明化術。それなりに高度な魔法である。

「けど……私にはできないんだよ、透明化。」
「そりゃそうだ。あれは特殊だからな……限られた者しか使えない。天使でも使える者は限られてくる。」
「だ・か・ら! 健一に頼んでるんでしょ?」
「俺だって無理だ。」
「えっ?」
「根拠は無い。でも俺にだって使えない魔法があるなんて思わなかったよ。」
「そんなぁ。」
「でも、前にじいさんから、召喚獣なら使えるって聞いたぞ。」
「本当!? それならそうと早く言ってよ!」
 召喚獣。それなら妹の咲香がいる。
 もちろん、本当の「妹」ではない。私のバティクス(魔法界用語で召喚獣の意)として、今は我が家に居候中(?)。
 人間界では人間の姿になって生活している。その姿が私と瓜二つなのは……まあ、その辺は本編を見てねっ。





「はい、私なら使えますよ、“トランスパレント”。」

 丁寧な口調でそう話す咲香。
 その日の夜遅く。私と健一と咲香の三人は、手ぶらで夜の街灯が照らす学校の正門前に来ていた。
 潜入するなら夜と決まっているから。(決まっているのです!)

 懐中電灯とかはどうしたかって?
 もちろんいりません!
 なぜなら私たち三人は、ご存知魔法使いだからです。

 そのままの服装では目立つので、私はちょっとデザインの入った黒いTシャツに紺色のハーフパンツ。
 健一は相変わらず制服のまま。
 咲香も制服。ただ、ブレザーを脱いで、白いブラウスとリボンという夏服の格好である。

 朝布学園の全景は6階建ての一校舎。大きな体育館に武道場。技術科の教室棟に野球場とサッカー場を兼ねそろえたグラウンド。菜園なんかもある。
 要するに、かなりでっかい高校なのである。





「さて、どこから入るか……」
「そうだな……職員玄関のとなりにある勝手口なんてどうかな?」
「そうですね。ではそこに向かいましょう。」

 私たちは足並みをそろえて、勝手口の小さな扉へと向かった。
 校舎の一階、西側の小さな扉。
 ここは事務員さんたちが入る勝手口である。





 ガチャリ…

 健一が扉に手を掛けて、ノブを回す。もちろん、“アンディド(解錠術)”を使ったのだ。
 扉を開ける音が誰もいない校舎内に響く。
 そのまま続く廊下は真っ暗で、何も見えない。

「うわ〜不気味だな。」
「ホントだね。いつもいる学校とは思えないね。」
「では、採光術を使いますよ……“ルスター”。」

 咲香の手のひらに、ホウッと白い光の珠が浮かぶ。
 暗い廊下が白く照らし出された。

「明るくなってバレないかな?」

 健一が心配そうに言う。
 私もちょっと不安になった。

「大丈夫ですよ。この光は外には漏れません。ようするに私たちが見たいものだけに光が当たって、それが目に入ってくるのです。廊下が照らされていますが、外からは何にも見えないはずです。」

 咲香は私とおんなじ声でしゃべる。
 もう慣れてしまったが、最初の頃は私が私を呼んでいるようで、すごく変な感じがしたのを覚えている。

「抜かりがないね。」

 それに続いて健一が、

「まったく、愛美も見習えよ。」

 ……と言ったのには、ちょっとむっとした。
 だが、それもその通りだ。私のドジがなければ今ここにいる必要もなかったのだから。





 こつこつと足音が響く。
 私たちは、2階へと階段を上っていた。
 この学校の階段には踊り場がない……ということを今初めて知った。
 そもそもこの学校は私立。私たちは普段エレベーターしか使わない。
 もちろん今夜はエレベーターは使えない。動いていないから。
 なぜか自然に階段の段数を数えてしまう。
 階段を上り終えて、私は二人に尋ねてみた。

「ねえ、ここの階段って何段だか知ってる?」
「いや? ……っていうか、数えたことなんかないよ。」
「私もです。」

 それはそのはず……だけど、どうしても腑に落ちない。 
 ……というか、この違和感を二人は感じないんだろうか?

「今数えたら50段もあったんだけど。」
「はぁ? んなバカな――」

 健一は後ろを振り返る。
 それにつられて私と咲香も振り返った。

「こっ、こんな筈は……!?」
「どういうことなのでしょう?」
「ほら! やっぱりすごく上った感じがしたんだ。」

 私たちが見たもの。
 それは遥か下に見える、1階の階段の上り口。

「そんな!? 上るときは普通だったぞ?」
「うーん、なんでかな?」
「これは……」

 咲香が床に手を置いてなにやら考えている。

「どうしたの?」
「わずかですが魔法の力を感じます。誰かいます、この校舎内に――」





「……」





「魔力を持った奴がこの学校に何の用だってんだ? 第一、階段の数を変える必要がどこにあるんだ?」
「誰だか分かりませんが、おそらく幽霊のせいにでもして、私たちを追い返そうとしてるんでしょう。私と健一さんが違和感を感じなかったのも、魔法の力なのでしょう。お姉さんだけは気づいていたみたいですが……」
「まったく!」

 健一がそう言いながら、廊下にどっかり座り込んだ。
 私もその場にぺたんと座り込んでしまった。

「でも、幽霊じゃなくて良かった! 魔法ならなんとかなるもんね!」
「お姉さんのその考えは、いいのやら悪いのやら……」
「もうっ、咲香までそんなこと言うの?」
「ハハハッ!」
「健一も笑わない!」

 なんとも緊張感の無い三人。
 だが、私たちはその時、まだ重要なことに気づいていなかった。





「さ〜て、やっと3階だ! 4階までもうちょっとだ。行くぞ! 二人とも……ってもうバテバテかよ。」

 3階のフロアに出た私たち三人。
 元気なのは健一だけ。ずっと50段の階段を上り続けたから、私と咲香の息はすっかり上がっていた。
 女の子の身体になると体力はもちろん、精神力も落ちるのだろうか?

「ハァハァ……だって……もう150段だよ……」
「いえ、だんだん段数も増えてきています。おそらく200段以上は上ったでしょう。」
「これじゃぁ……次は上の階に行くどころか、階段だけをずっと上がり続けることになっちゃうよ〜。」
「うーん、それは結構当たってるかもな。次は300段とか上ることになったりして。」
「そんな〜」
「それは……少々こたえますね。」
「女の子にはきつい……か。それじゃ、先に原因を突き止めるとするか。受験票はその後だ。」

 私たちの長い夜は、まだまだ続きそうである。





「はぁ……さすがにきついな。」
「「……」」

 もはやしゃべることが出来るのは健一だけ。
 召喚獣である咲香も、人間の姿ならただの女の子。私は……とくに取り柄もない。

「二人とも大丈夫か? やっと4階に上がったってのに。」
「「……なんとか。」」

 私と咲香の声が重なった。同じような声だけに、二人でしゃべったとは思えないハモり方だ。

「だいたいしつこいんだよな。この事件の犯人も。」
「……そうだね。」  

 もう限界だ。

「“プラグス”。」

 咲香が回復術をかけてくれた。とりあえず体力だけは回復した……が、気が乗らない。
 もう面倒くさくなっていた。

「階段ってこんなにきついんだね……」
「そうですね。」
「さ、元気も戻ったことだし、今度はこっちが仕掛けてやろう。」
「「え?」」
「……二人で同じ顔で同じ声で疑問詞を投げ掛けるなよ……まあいいや。で、相手が逃げ回ってるんなら逃げられなくしてやればいい。捕縛結界で動きを止める。それでもってちょっと罠を仕掛けてやろう。」
「罠?」「……ですか?」
「ふふーん。いい考えがあるんだ♪」

 健一は思ったより楽しそうである。
 こういうのが好きだったんだ……覚えておこう。





「……ねえ健一。いくらなんでもこれは引っ掛からないよ。」
「だから、捕縛結界も使うって。」

 そんなに手の込んだこともせず、4階の理科室の扉にちょっとした細工をする健一。

「私もそう思いますが。」
「だ〜いじょうぶだって。ここをこうしてだな――」





「……よし! あとは俺たちがここにいるってことをやつに知らせるだけだ。」
「ホントに大丈夫かなぁ?」
「もう、信用無いなぁ。……いいか? ここにやつをおびき寄せる。それはこうしてやればいい。」

 健一の手のひらに紫色の珠を浮かべた。
 それは時々、パシッと強い光を放つ。

「“紫閠”ですね。」
「咲香、“紫閠”って何?」
「魔法生物に対して使われるおびき寄せの魔法です。相手はかなり単純な手口しか見せません。魅了魔法とまではいきませんが、魔法使いの気を引くには持って来いです。ちなみに雷属性なので、触るとしびれます。」
「ふーん。」
「……というわけで、だ。これをこのビーカーの中に入れて、理科室の外からも見えるように窓際に置いておけば、ここにいるってことを知らせることが出来る。もちろん、俺たちはその間隣の準備室にでも隠れてればいい。犯人の顔を拝んだら、一気に捕まえてやろう。」
「わかった。」
「では、待ちましょうか。」





 待つこと5分。理科室に誰かが入ってくる気配がした。
 扉は開けっぱなしにしてあったので、音はしなかった。
 ヒタヒタと足音をしのばせているが、こっちからは丸見えである。

「さ〜て、真打ちの登場だな。」

 “紫閠”の光で、犯人の顔が明らかになる。
 薄暗い中、影の部分が消えていった。

「なっ!」
「そんな!」
「あれは……貴樹さんじゃないですか?」

 理科室に入ってきた人物、それは私が……と言うより、クラス中のみんなが「敵」と見なしている超問題児、太田貴樹だった。
 元々私――入れ替わる前の「石垣愛美」がつき合っていた相手だが、いろいろあって別れたあと、貴樹は逆恨み……というか、私とよりを戻そうとしつこく言い寄ってくる。
 その辺のことも、本編を参照してね。


 で、問題は、貴樹に「魔法を見られた」と言うことである。

「まずいな……」

 横を見ると、健一は歯を食いしばり、いかにもやばいという顔をしていた。
 咲香は……寝てる。あれま。

「でも、貴樹は魔法使いじゃないし、ただの明かりなんだから見られても大丈夫なんじゃない?」
「いや、俺のつくった仕掛けは、あのビーカーを持ち上げると……」

 バタン!!

 大きな音がして理科室の扉が閉まる。
 その音に私の心臓はびくっとし、同時に咲香が目を覚ました。

「現れましたか……ふわぁ〜……」
「「……」」(←健一&私)

 大あくびをする咲香を尻目に、健一は準備室の扉のすき間から入ってきた貴樹に注視する。
 音は理科室に響き渡り、やがておさまった。
 そして貴樹の足下に、緑色の捕縛結界が現れた。

「くっ、このままじゃ貴樹に魔法使いの存在がバレちまう……。ってあれは!」
「ん? よく見えないよ……って、誰よあれ!?」

 捕縛結界に動きを奪われた貴樹。
 ……のはずが、貴樹はそこにはいなかった。そこにいたのは捕縛結界から逃れようとする一人の少女。
 髪は長いブロンド。この学校の制服を着て、スカートをひらひらさせながら(?)もがいている。

「なによっ、この結界は!」

 その光景を私たちはまじまじと見つめていた。

「宮島……」
「ああ、うちのクラスの。」
「意外ですね……」

 宮島さんは先月転校してきた女子生徒。
 本名は宮島・コルス・アキナという名前なのだが、本人は「ハーフじゃない」と主張している。

「どう見てもどう聞いても、あの容姿と名前はハーフに間違いないよな。」

 廊下ですれ違う宮島さんを見て、いつも健一はそう言う。
 私もそう思うんだけど……
 足が長くて、髪はサラサラで、男子にモテモテ。 
 絶世の美女、もとい絶世の「美少女」である。まあ私には負けるけどね……って何言ってるんだろ。

「……って、そんなにおちついて解説してる場合か!?」
「あ、ごめん。」
「この学校に俺たち以外の魔法使いがいるなんて。」
「しかし、なんの目的でこの時間に学校内にいるのでしょう。」

 三人とも首をかしげるばかりである。
 そんな間も、宮島さんは捕縛結界からまだ抜け出せない。

「あの捕縛結界、かなり弱い魔力で仕掛けたのに、まだ抜け出せないなんて魔力が相当低いな。」
「ちょっと待ってください……え〜っと彼女の魔力、マナは通常魔法使いの半分以下ですね。」

 咲香がスラスラと答える。

「はぁ〜? それじゃあ初級魔術もできるかできないかぐらいじゃん。」
「はい。」

 こんな会話をしている中に飛び込んでくる、素っ頓狂な宮島さんのセリフ。

「もうっ! こんなに強力な魔法があるなんて……っ!!」
「「「……」」」





「ねえ、宮島さん、まだ抜け出せないみたいだし、助けてあげようよ。」
「まあ、あのまま捕まえておく理由はないし、こっちも話を聞かなきゃならないしな。」 
「では、行きますか。」

 健一は準備室の扉を開ける。
 宮島さんは私たちの姿に、驚いた表情を浮かべた。

「あ……あなたたち!?」
「よう〜! お嬢様。」
「七瀬君に石垣さんと……石垣さん?」
「や、やっほぅ〜」
「こんばんは。」

 私はおどけた感じで、咲香はいたって冷静に、そして健一は多少からかい気味に声を掛けた。

「あなたたちが……これを!?」
「あ、ああ、まあな。ごめん、今解くから……」

 健一が軽く手を伸ばす。
 捕縛結界は音もなく消え、宮島さんはやっと自由が利くようになった。

「はぁ、はぁ……こんなに強い魔法があるなんて知りませんでした。」
「あ、あのさぁ? 宮島さんは魔法使いなの?」

 私は抑えきれなくなって質問した。
 どう考えても魔力をもつ人間の言うセリフではない。
 健一の捕縛結界は普通の人間なら抜け出すことは出来ないにしても、魔法使いなら抜け出すのはいとも容易い筈だ。
 もっとも、今日の結界はものすごく微少の魔力ではられていたのだが。

「もちろん! 私は今までずっと外国で修業を積んできて、先日ここ日本へやって参りました。……え〜実は魔法界で有名な天使の二人組が日本にいると聞いたので、一度お手合わせ願えないかと思いまして。」

 その言葉を聞いて、私と健一は顔を見合わせた。
 咲香が私の肩をつつく。
 その理由も分かっていた。

「それ俺たちのことじゃないか?」
「うん。たぶんそうだね。日本に天使は過去にはいたけど、今は私たち以外にいない筈だから。」
「え!? 本当ですか!?」
「まあ、これを見れば信じる気にもなるさ。」

 私と健一の身体が白い光を佩び始める。
 そして健一の背には緑色の、私の背には桃色の羽を纏い、その場に浮き上がった状態で光はおさまった。

 二人の羽からは光の粒子がこぼれ、淡い光を放つ。

「!!」

 私たちの姿を見て、宮島さんは大口を空けて固まってしまった。
 驚きを隠せない表情でこちらを見ている。

「信じる気になった? 宮島さん。」
「天使って本当にいたんだ……!」
「そりゃ、いるわな。だって噂だって聞いてたんだろ?」
「はい、向こうでは日本の二人の天使といえば、かなりの著名度の高さでしたよ!」
「ホント!? なんか照れちゃうなぁ。」
「そんなに大したことしてないのにな。」
「あの〜、肝心の用の方を済ませなくていいのですか?」

 咲香がやっと話を元に戻した。

「あっ! そうだった。宮島はなんで今日この学校に忍び込んでたんだ?」

 ちょっと間をおいて、彼女は切りだした。

「言いにくいんですけど……実は、夏休みに受ける模試の受験票をもらうの忘れてて、明日締め切りだから今夜中に魔法の力で職員室に忍び込めるかなと思って。」
「なんだ、私とおんなじだ!」
「え? 石垣さんもですか?」
「うん。でも職員室に行こうとしたら階段が妙に長くて苦労して――」
「あ、すみません。私のせいです。私だけだと思ったら誰かいるし、幽霊騒ぎにでもなって忘れてくれれば……と思って階段の段数を増やしたのですけど。」
「理由はいいけど度が過ぎてるよ。」
「魔法のことをもっと勉強したほうがいいですよ。」
「はい。今回のことで自分の実力がわかりました。天使のあなたたちと戦うには、あまりにも早すぎたと実感しました。」


「「「わかってくれたんだ……よかった。」」」


 わざと聞こえないように、三人そろって言う。
 宮島さんはいろいろ扱いが大変そうな女の子であることもわかった。

 ファンファン……

「何? この音。」
「パトカーのサイレンじゃないか? なんか事件でもあったのかな……?」
「お姉さん、健一さん、冷静に考えてみてください。宮島さんの魔力はとりあえず低くて、お姉さんと同じ目的で今夜ここにいて、聞こえてくるのはパトカーのサイレンです。」

 その咲香の言葉を聞いて私も健一もハッと気づいた。
 まったく気づかないのは宮島さんただ一人。

「?」
「おい宮島、おまえもう職員室に忍び込んだのか!?」
「え? あ、はい。とりあえず解錠術で職員室のドアを開けて……入りました。」
「それじゃあそのまま入ってそのまま出てきたの!?」
「はい。」
「「「!!」」」
「やばいぞ! 逃げるんだ!」
「うん!」
「急ぎましょう。」
「あの! 一体なんのことです!?」
「職員室にそのまま入ったから警備会社が来たんだよ! 宮島も逃げるぞ!」
「!! は、はい〜っ。」

 咲香と宮島さんは元に戻った階段をハイスピードで駆け降り、私と健一は1階まで浮遊しながら降りた。
 そのまま急いで勝手口から校舎を出て、正門までダッシュ。
 警備会社の車は職員用駐車場に止めてあった。
 幸いなことに、誰にも見つからずに外に出ることが出来た。
 外はまだ真っ暗やみだ。
 携帯(ケータイ)を見ると夜中の12時を回っていた。そろそろ私たちの親も、心配して警察に通報してるかもしれない。
 私と健一は羽をしまい、荒れた息を整えながら正門からちょっとはなれた街灯の下で休んでいた。

「ふぅ〜! 危なかったな。」
「うん。」
「ですが、受験票を手に入れることが出来ませんでしたね。」
「まあ、しょうがないよな愛美。」
「まあね。でも模試が受けられないのは痛いなぁ。ねえ宮島さん……ってあれ?」
「そういえば宮島は?」
「さあ……」
「もう帰ったんじゃない? まあひと言くらい言って欲しかったけど。」
「変な奴だな。宮島って。……俺たちもそろそろ帰ろうか。」
「そうだね。」
「では健一さん。また明日学校で。」
「バイバイ!」
「おう、じゃあな!」

 私と咲香は健一に手を振った。





「石垣さんと七瀬君が天使だったなんて……私ってばすごくラッキーじゃない!? こんなに近くに天使が二人もいるんだから、いつか二人を抜くときまで修業を重ねなきゃ!」

 遠くに見える3人を見つめながら、彼女はそう意気込んだ。
 ……まあ、この少女が健一と愛美を抜くのはまだまだ先のことになりそうだ。





 次の日――

「ええ〜っ!? 今日でも間に合うんですか!?」
「もちろんだ。だって試験は夏休みだぞ? そりゃ締め切りは今日だが、今日書いて今日出せばいいじゃないか。」
「そんなぁ。ゆうべの苦労はなんだったのぉ〜!?」
「ん? ゆうべの苦労って何だ?」
「あ、何でもないです。……はぁ。」

 週末明けの月曜日。
 今日も暑い日だが、私の胸の内はブルーだった。
 おまけに宮島さんは受験票をちゃっかり手に入れていたのだ。あいつめ〜!!
 小林先生は何ともなかったように受験票を渡してくれた。
 まあ、これはこれでよかったのだが……





 休み時間になって私は健一のところへ行った。

「健一〜!」
「まったく、今日は寝不足なんだから、ちょっと寝かせてくれよ……」
「聞いてよ! 宮島さんは昨日受験票をもう手に入れててさぁ! 私はゆうべ何しに行ったのよ〜!?」
「まあ落ち着け。今日は……眠い……」
「私だって眠いよ! でも――」
「気にするな。済んだことは仕方がない。それに愛美はもう受験票もらったんだろ?」
「それはそうだけど……」
「よし、じゃあ今日は部活も無いし、俺とどっか行って嫌なこと忘れちまおっか!?」
「……ありがとう、健一。」

 今日も二人の背を押す、たくさんの人々――
 それは全てではないが、必ず愛美と健一を明日へと導いてくれる礎となるに違いない。





 夏の暑さよりもアツアツな愛美と健一。二人は今後、どうなるのでしょう……?
 ちなみにこれは、「番外編」です。

愛美:「番外編ってどういうことよ!?」
健一:「これで終わりか!?」
驟雨:「あ、えーと、またのお楽しみと言うことで……」
愛美・健一:「はあ!?」
驟雨:「今後の結末は、『番外編最終』が最後ということで」
愛美:「まあハッピーエンドだけどさぁ。」
健一:「まだ続けるのか? 『Angel』。」
驟雨:「……どうしよう。続くならそのうちひょっこり出てくるかも。」
健一:「というわけで、作者もこう言ってることだし――」   
愛美:「続きをお楽しみにっ♪」
驟雨:「……え?」


 −あとがき−

 久しぶりに帰ってきました『Angel』です。
 設定を忘れてたり書き方が違ってきてしまっていたりとてんてこ舞い。
 頭が爆発パンクしそうです。
 最後にコントみたいのも入っちゃってますし……
 続くかどうかはまだわかりませんが、気が向いたらその後まで書いちゃうかもしれません。
 本業も大変になってくるこの時期なのでちょっときついですが……
 これからも頑張ります。(グッ)
 では、読んでくださった皆さま、ありがとうございます。 
 驟雨でした。

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