戻る ・ シリーズタイトルへ


Angel

驟雨

番外編最終話『Summer Time』




「夏も終わりだね、健一」
「ああ……。なんかあっという間だよな」
 入れ替わってからすでに1年半。
 すっかり女の子、男の子として、石垣愛美、七瀬健一として2人は過ごしていた。
「魔法も封印したし、戦うことも、人を傷つけることもないんだよね」
 私と健一は魔法を魔法大聖堂長に頼んで自分の中に封印したのだ。
 もうイメージをすることも魔装を使うこともできない。
 でもそれで良かったと思ってる。
 あんな戦いはもうゴメンだったし、平和が訪れたのだからもう必要なかった。
「そうだな。なんかいつも一緒にあった羽もなくなったから変な気分だけど」
「健一はもともと羽があったんだよね」
「なんで羽があったのかは言ってなかったな。生まれつき天使だったみたいで、じいちゃんいるじゃん?に言われてやったら出たんだよ。羽が」
「じゃあ私とは違うんだ」
「そんなことないって。"アルティメットレボリューション"を使われて天使化するやつなんてそうはいないから、愛美にも天使の素質というか、あったんだよ。きっと」
「うん………」
 今まで静かだったのに急に蝉の歌声が響いてきた。
 2人の会話を蝉も聞いていたかのように。
 夏の最後の歌声を聞きながら新緑の木のトンネルをくぐる。
 しばらくの沈黙の後私は話を切り出した。
「今日夏祭りだね」
「そうだっけ?」
「そうだよ。花火もやるって言ってた」
「そうかぁ。見に行くんだろ?」
「わかってるって。今日の7時にいつもの場所に、ね」
「今日は遅れないから心配するな」
「男の子になってから遅刻が多くなったよね。健一。私は逆に少なくなったかな」
「それを言うな」
 健一は恥ずかしそうに頬をぽりぽりと掻いた。
「ごめんごめん!じゃあ、待ってるから……」


 今日は浴衣を着なかった。
 着ようとしたら優にことごとく邪魔された。
「お姉ちゃんばっかり浴衣着てずるい!」
「だって、優は優のがあるでしょ?」
「お姉ちゃんのほうがかわいいじゃん!」
「咲香……」
「お姉さん、優さんの気持ちもどうか御察しください」
「2人してお姉さんをいじめて!もういいよ。私はいつもの服で行くから」
「ごめんお姉ちゃん!そんなつもりじゃ……」
「そんなつもりでなければどんなつもりよ!?」

「はぁ……しょうも無いことで怒っちゃったなぁ。優、ごめんね」
 待ち合わせ場所に時間より10分早く着いた。
 携帯の時計を見ながら言った。
 いつもの服と言ってもとても気に入っていた。
 白いワンピースに白いリボンで髪を結ったシンプルな服装。
 赤い髪が白いリボンによってさらに赤みが増したように見える。
 まだ沈まぬ夕日にワンピースが映える。
「まだこんなに明るいんだ」
 後ろから声がした。
 振り向くと黒のTシャツにジーンズを穿いた健一が立っていた。
「へぇ〜、早いじゃん」
「まあ……ちょっとくらい進歩しなきゃ。それより今日は浴衣じゃないんだな」
「期待してた?それともこの服装じゃ……だめ?」
「い〜やそんなことないさ。とってもかわいい……きれいだよ」
「ありがと。浴衣は優にとられちゃって」
「咲香は何も言わなかったのか?」
「今日は優の味方なんだって。ガイアが来れないから。あとジェイドもね」
「そうか。あいつはまだイギリスか」
 優の彼氏(一応)のガイアは日本に越してきたが、
 イギリスに留学とかなんとか行って優の側から離れていた。
 優は「それはガイアの選んだ道だから……と大人なセリフをかましていたが……」
「ジェイドもエクス様に仕えっぱなしだから優と咲香は一緒に来るでしょ」
「愛美は俺と一緒でいいのか?」
「え?それはどういう意味……?」
「いや、何でもない」
「…………?」
 私は首をかしげて健一を見た。
 健一は遠くを見つめてそれ以上何も言わなかった。

「初詣で以来かな?こんな風に人込みを歩くのは」
「そう?いつも私を連れ回して駅前とか歩いてるじゃん」
 左右にいろいろな屋台が並び、人々は笑い声をあげ楽しそうにはしゃいでいる。
 すでに何人かの男集団に囲まれたりしたが、健一はそれを追い払った。
「それは無し。駅前はこんなに人いないだろ?」
「ふーん?」
 私は後ろに手を回して健一を見上げた。
 そのとき髪を結っていたリボンがほどけて道に落ちてしまった。
「あっ……」
 髪を押さえながら拾おうと近づく。
 すると……
「今日も七瀬とラブラブデートか?愛美」
 聞き覚えとは言いたくない声が聞こえた。
 見るとそこには貴樹とその一味が立っていた。
 貴樹は白いリボンを拾い上げながら言った。
「かわいいなりしてお前はもう七瀬のいいなりになるような奴なのか」
「ちょっと、返してよ!それに言ってることがよく分かんないけどあなたとはもう関係がないはずでしょ!?」
「フン、七瀬が運良く死んだかと思ったら奇跡的に助かるし、秋山も瀬戸も邪魔だからなぁ」
「それ以上言うとお前の口が二度と利けないようにするぞ?」
 膨れっ面で貴樹を睨む私の隣に健一が歩み寄って貴樹に向かって言った。
「待って、健一。暴力はダメだよ、ゼッタイ」
「分かってる。貴樹。もう二度と目の前に現れるな」
 健一は私の手を引いて貴樹に背を向けた。
 その直後だった。
「ぐっ!!」
 健一は突然苦痛の声を上げてその場にしゃがみ込んでしまった。
 道行く人はこの光景をまじまじと見ていた。
「なっ、なにを!?」
 私は健一の具合を見た。
 健一は背中を押さえて目を閉じている。
 顔からは苦痛の色がはっきりと見えた。 
「甘いな。俺は七瀬の言うことなんか聞く必要なんてないからな。愛美。お前には俺と一緒に来てもらう」
 貴樹は私の手を掴んで健一から放そうとした。
「いやっ、やめて!!」
 振りほどこうと抵抗した。
 その時………
「さて、貴樹さん。それくらいでやめてもらいますか」
「お兄ちゃんなら大丈夫だよ。お姉ちゃん!」
「ゆ、優。それに咲香」
「いいタイミングでしたね。さて、貴樹さん。その手を放してもらえますか」
 咲香は貴樹を冷酷な表情で睨んだ。
 貴樹は一瞬ひるんだが言い返した。
「石垣咲香、か。姉を守るために偶然現れてヒーロー、いやヒロイン気取りか。お前も愛美に瓜二つでかわいいからなぁ。ついでにお前も俺の彼女にしてやるか?」
 その言葉に疾風のごとく反応し、咲香は貴樹の目の前に手のひらをかざした。
 それにはさすがの貴樹も驚いた。
「うっ……」
「二度と現れないでください。これ以上言わせる気ですか?」
「チッ、なんのつもりだ? ……今日は分が悪い。行くぞ」
 あごで促し、手下(?)を率いて人込みへ消えていった。
「咲香、優。ありがとう」
「くっ、俺はいつもピンチだな。やられっぱなしで……。これほど恥ずかしいことは無いな」
「そんなことないよ。健一は私を守ろうとして必死だったんだから」
「お兄ちゃんは精いっぱいだったんだし、それに魔法封じたんだからしょうがないかな」
「はい、お姉さん。リボンです」
 咲香がリボンを差し出す。
 それを受け取って髪を結った。
「ありがとう咲香。ホント助かったよ。健一も対したことなくて良かった」
「情けない……。ごめん愛美」
「いいから!もう気にしない!」
「それではお姉さん、優さんと屋台を見て回る約束ですので、これで」
「うん、じゃあね!」
「また会うかな〜?じゃあお姉ちゃん、花火会場で会えたら会おうね!」
「バイバ〜イ♪」
 私は軽く手を振った。
 健一も立ち上がって手を振っていた。

「愛美、なさけないよな。俺」
「そんなに自分を責めないでよ。不意打ちだったんだし」
「……ありがとな愛美」
「ううん、私からお礼をいいたいの。ありがとう」
 歩きながら健一の目を見つめた。
 さっきとは違う優しい瞳。
 私は健一の手を握った。
 
 その時だ。
 
「え?雨」
「お」
 私は手のひらを上に向けて言った。
 健一もそれに反応して空を見上げた。
 夕方はきれいな赤色をした空だったが、
 夜に近づくにつれて暗くなって空は黒くなっていた。
 黒と闇が2人を包む。
 そしてその雨は次第に強まった。
「うひゃあ!降ってきたね!」
「これはまずいな。服が濡れちまう」
「あっ、あそこで雨宿りしよっか」
 私はちょうどよさそうな木を見つけて言った。
 その木の根元には運良く誰もいなかった。
「そうだな」
 急いで木の方へ走っていった。
 雨で濡れた地面に私の足がとられた。
「わっ!」
「っと!」
 健一は素早く反応して私の身体を受け止めた。
「あっ、ありがとう」
「まったく、気をつけろよ」
「うん、ごめんね……」

「今日は花火、中止かなぁ」
 私は濡れた身体を拭きながら言った。
 健一は私を見つめながら言った。
「残念か?」
「当たり前じゃん。だって去年は2人とも部活で忙しかったでしょ?今年は引退した後だったからゆっくり見られるって思ってたのにな」
 強気に応える私。 
 その態度はどう考えても不自然だった。
 中止と決まった訳でもなかったし、なにより後ろに組んだ手の中が微かに光っていたからだ。
「……愛美」
「……フフッ、健一もしかして気づいてる?」
「お前の考えそうなことは分かるよ」
「魔法界大聖堂長……ううん、ゼラ様に魔力を封じてもらったとき1つだけ封印をやめてもらった魔法があるんだ」
「実は……俺も1つだけ。今が使う時になるかな」
「私も」
 私は光を込めた左手を前に差し出し、強く念じた。
「まずは俺から。"ディスレイド"」
 健一も右手を高く掲げてスペルした。
 雲のすき間から光が降り注ぎ、この地一体を明るく照らす。
 雨が次第に止んでいった。
「私だね。……天の使者よ……この輝く空に七色の花を……"レインボーフレア"!」
 左手の光は七色の輝きを発し、
 空へと上がっていく。
 そして……。
「ドーン!」
 私が言うと同時に星々がきらめく空に色とりどりの花が散った。
 その音に反応して帰路の道を止める祭りに来た人々。
 歓声を上げ、中止と思われた花火大会の開催に胸を躍らせていた。
 たった2人の魔法使いの力とは気づくはずも無く七色に輝く花火を見つめている。

 光に照らされて健一の顔が光った。
 私の白いワンピースも七色のワンピースに見えた。
「これが、私たちの最後の力……」
「やっぱり魔法ってのはこういうものだよな」 
 そう言ったっきり2人も自分たちの花火を見つめた。
 私は健一の手を再び握り締め、一度見つめ合ってからまた花火を見る。
 今の気持ちは言葉では表しきれない。
 でもこの気持ちがずっと続けばいい。そう思っていた。
 このままずっと……ずっと……。


   〜Fin〜 Thank you for reading ! !



戻る ・ シリーズタイトルへ

□ 感想はこちらに □