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Angel

驟雨

番外編(エピローグ)第1話 『After That』




「あのさぁ、健一?いつになったら準備できるの?普通こういうものは女の子のほうが準備がかかる筈なのにさっ」
「ちょっと待てよ。まだ朝の6時だってのに早すぎるんだよ。お前は年寄りか」
「ふーん、そういう言い方するんだ」
「ああっ、ごめん。悪かったよ。すぐ行く!」
 健一の声が家の2階から響いてきた。
 玄関で待っていると健一のお母さんが通った。
 朝早いのにちっとも眠そうじゃない元私のお母さん。
 前はこんなんじゃ無かったような……そうだったような。
 だんだん元の記憶が揺らいでいくのが分かる。
「あらあら愛美ちゃん、かわいらしい格好。家の健一にも彼女ができたんだねぇ。こんなんだけどよろしく頼むよ」
「いえっ、そんな……」
 顔が赤くなるのを感じた。
 ちょっと俯いたとき、階段を下りる音が聞こえた。
「ごめんごめん……」
 健一は私を見て止まってしまった。
 階段を下りる足は片足宙で浮いている。
「……どうしたの?」
「いっ、いや、とてもきれいだよ」
「ありがと」
 まだ薄暗い中健一の家に来ていたのはワケがあった。
 今日の日付は1月1日。
 というわけで初詣でのために町の外れの神社へ行くところなのだ。
 で、私はと言うと赤い着物を着て花柄の草履まで履いている。
「まさかそんな格好までできるなんて……」
「以外だった?」
「まあな。待たせて悪かった。行こう」
「うん」
 健一は私の手を取る。 
 もちろん嫌と思う訳も無くその手をぎゅっと握った。
 
「ハァ、ハァ……。ほらやっぱり誰もいない。これも……以外?」
「いや……予想通りとでも言うのかな。お前のことだし、ただ普通に神社へ向かうんじゃあないとは思ってたけどまさかこことはな。ふう……疲れた。隣町まで走ってくるのは応えるな」
「そうだね。でも、ここの風景、健一にはゆっくり見て欲しいから」
 隣町の小高い丘。
 柵によりかかる健一と側のベンチに座る私。まだ薄暗かったけど健一の顔はよく見えた。私は立ち上がって健一に寄り添った。
「もうすぐ……ほら」
 私は「向こう」を指さす。
 そびえ立つ建物をだんだん明るくし、
 紅い光は町を照らし出す。
 地平線から初日の出が顔を出した。
 健一が鼻で笑うのが見えた。
 手を額に当てて朝日を眺める。
「ホントにきれいだな。今のお前と同じくらい……」
「変な心遣い。元女の子の発言とは思えないよね」
「そういうお前こそ。元男の子、だろ?その格好、その言い回し……ん……」
 短いくちづけだった。
 私はそっと健一の唇に指をあてた。
「もう……それ以上言わない」
「…………愛美」
 また朝日を見る。
 紅い陽は町とこの丘と2人を照らす。

 
「初詣でなのになんでお祭りなんだろ」
「それがこの町の変な風物詩だよな。普通じゃない。今見てる光景も」
 2人は神社のお決まりである長い階段を上りきり、神社の全景を見ていた。
 そして目の前にいる2人組はいつも一緒についてきていた筈の妹、優と――
「ゲッ、健一と愛美か。まずいとこ見られたな」
「こらっ、呼び捨てにしない!!」
 優はそのぶっきらぼうな言葉遣いの少年をこづく。
 身長はほぼ同じなので頭まで手がしっかり届く。
「いたっ。ごっごめん、優」
「2人とも仲がいいのね」
「まったく、優もコイツのどこがいいんだ?」
「それは言わない約束でしょ、お兄ちゃん」
「そうだな。……まあ実の兄ではない……こともないかな」
 優と一緒にいるのはガイア。
 手までつないでいる。
 周りから見れば2人の小学生が仲良く手をつないでいるだけ……。
 だが、優とガイアの意識はその線を越えていた。
「じゃあお姉ちゃん、お兄ちゃん。私たちはお参りしてくるから。ガイア、行こ!」
 優はこちらに向かって手を振るとガイアの手を引いていく。
「それでは健一お兄サマ、愛美お姉サマ、優は任せておけよ」
「言葉遣いが変だよ」
「はは、ガイアにはこれくらいが似合ってるよ」
 優とガイアはいつもは見ないような笑顔で人込みへ消えていった。
 私たちも足を進めた。

 長い神社の境内を進む。
 人はたくさんいてしかもお祭りときたら周りはうるさくはしゃいでいる。
 そんな中、聞き覚えのある声の会話を耳にした。
「久しぶりに日本に帰ってきたのに、もう行くのですか」
「ああ。エクス様も大変だし、それを守るのが仕事だからな」
「仕事じゃなくて使命ですよ。私たち、召喚獣の……あっ、帰るのは少々待っていただいてよろしいですか、ジェイド」
「やっほ〜咲香。それにジェイド。先に行くっ言った理由はこれなの?」
 私は咲香の両首についている首飾りに触れた。
 異質の素材でできているきれいな結晶体がついたネックレスだった。
 そして同じ物がジェイドの首にもぶら下がっていたのだ。
「ええ、まあ……」
「健一。お前らはどうなんだよ。うまくいってるのか?」
「人間の姿してるんで誰だか分かんなかったよ。ジェイド。元気そうだな」
「まあな。でも質問には答えろよ」
「うまくいってないと言えばどうなると思って……」
 健一は私を見た。
 私はその目をずっと見つめた。
 すぐに目をそらす健一。
「こんな具合だ」
「よくわかんないな。でも健一も愛美も元気で何よりだ」
「久しぶりに会ったんだもんね。だから咲香は今日一番に家を飛び出したんだから」
「お姉さん、それを言っては……」
「ほう、咲香。そんなに会いたかったのか?」
「………」
 咲香はなんとも言えない眼差しでジェイドを見た。
「悪かった。でも仮にそう思ってたら俺はうれしいけどな」
「………」
 今度の咲香の目は優しかった。
 そして笑みを浮かべた。
「エクス様はいろいろ大変だから。次に会えるのはいつになるか分かんないけどいつでもこのネックレスはしてるからな」
「はい。私も外しません。ジェイド。また会いましょう」
 そう言うとジェイドは一瞬で消えた。
 人に見られる心配をしたが、ジェイドがそんなヘマはしないことも知っていた。
「咲香はこれからどうするの?」
「もちろん己の使命を全うします」
「ありがとう咲香」
 
「やっとたどり着いた……」
「なんて人の数だよ」 
 神社の建物自体が見えるまでこんなにかかるとは思っていなかった。
 朝なのにすごい人だ。
「じゃあお祈りしようか。今年1年の……」
「ん。愛美はなんてお願いするんだ?」
「そ〜れは秘密だよ」
「……なんで?」
「いいから。行こうよ」
「では私は離れた場所にいるので。お二方は楽しんできてください」
「あっ……」
 咲香は私たちの側から離れていった。
 本当は恥ずかしいのでそばにいて欲しかったのだが……
「愛美」
「う、うん」
 列に並ぶ2人はどこから見ても恋人同士。
 実際はそうなのだが、人に見られるのはどうも恥ずかしいのだった。
「健一……あの人たち、私たちのほう見てるよ……」
「ああ。そんなにめずらしいか?」
「え?よくあるの?」
「俺たちが2人で歩いてるのを見てるのなんてそこら中にいるよ。町中だって歩いたけどみんな見てたしな」
「……やっぱりこの髪かなぁ」
 私は後ろに流れる自分の髪に触れた。
 サラサラと背中に流れる、日本人とは思えない深紅の髪。
 風でフワッと靡く長い髪。
 私は自分の髪を気に入っていたが、こういう人の眼差しは嫌いだった。
「そんなことないさ。お前がきれいだから見蕩れてるんだよ」
「……そうなのかな。でも健一がそう言ってくれるだけで私はうれしいよ」
 私がそういうと健一は顔を紅くして私を見た。
「そうか。あっ、次だな」
 前の2人組がお祈りを終え、列から出ていった。
 どこかで見たことのある顔だった。
「……あれ……」
「明と幸二だな。向こうも気づいてたしな」
「幸二は何事も無くやってみるみたいだね」
「ホント、あの時は苦労したよな」
「うん。じゃあおさい銭入れよっか」
 私はずっと握っていた10円玉をさい銭箱に投げ込む。
 健一もお金を投げ込んだ。
 鐘を鳴らし手を2回軽くたたく。
 そして目を閉じて合掌した。

「健一は何をお願いしたの?」
 私は神社の長い階段を下りながら聞いた。
「ん?ああ」
 と言ったきり健一は黙ってしまった。
 私はちょっと顔を膨らませてさらに聞いた。
「もうっ。健一は何をお願いしたの!?」
「んん〜、まあ隠したって無駄だからな。愛美とずっと一緒に……なんて柄にもないことをお祈りしておいたよ」
「健一……実は私も同じだったりするかも。あとはまたあんな戦いはしたくないって……お祈りしたよ」
「そうだな。あんなのはもうゴメンだよな。……結局ゼロはどうなったかわからないし」
「うん。人が自分の魔法で傷つくなんて考えたくない」
「愛美……」
「もうっ、ひどいですよ。私にも一言声を掛けてくださいね」
「ゴメン!ごめん咲香!すっかり忘れてた」
「俺からも一応……謝っとくな」
 帰ろうとしていた2人に咲香が走って追いついてきた。
 すっかり自分たちの世界に入り込んでいたのだ。
「まあ、2人は切っても切れない縁があるのですし、これからもよろしくお願いします」
「うん。それはそうと、咲香もなんかお祈りした?」
「はい」
「なにをお祈りしたんだ?」
 私と健一は交互に質問した。
「それは……言えません!」
 咲香は急に走り出した。
「ねえ咲香!どこ行くの!?」
 走って行った咲香はこうつぶやいたんじゃないかと私は勝手に推測した。
 とは言うものの、読心術を使ったのが咲香にばれなければいいとも思ったのだ。
「私がジェイドと結婚できますようになんてお願いしたなんて言えないですよ……」





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