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 夏の学校の屋上は夜でも生ぬるい。

 風もふいてはいるがこれもどこか暖かく、涼しくならない。
 鞄の中にはおじいさんからもらった魔法の本『コンタクト』も入っていたし、左手には魔法のリングをはめている。
「咲香、遅いね」
「うん……」
 健一は今日買った本を読みふけっている。
 ただの文庫本だがシリーズ物らしく、これが続編だと言うこともあって健一は楽しみにしていたようだっだ。
 本を読むために採光術を使って明るくしている。
「健一聞いてる?……咲香来るのかなぁ?」
「来るさ。あいつはお前にディペントになってもらいたいんだから」
「そうかな。……あっ、来たよ」
 私は指さす方向は空だ。
 夜空の空をきって咲香は狼の姿で舞い降りてきた。
 屋上に足を着けると同時に身体が光り出して人間の「咲香」の姿になった。
「すみません、えーと遅刻でしたか?」
「いや、時間通りだ」
 健一は携帯を取り出し、サブディスプレイの時計を見ていった。
「そうですか。よかった……では、準備はいいですか?」
「うん。いいよ!健一もほら、本をしまって!」
「ああっ、うん。……くそいいとこだったのに」
「いきますよぉ〜!"アルバステッド"!」
 ヴン!と言う音とともに青色の魔方陣が私たちの足下に出現した。
 強烈な光を発し、風も吹き荒れた。
 なぜか用意した朝布学園の制服を着ていたのでスカートがフワッと浮き上がった。
「わっ、すごい光!」
「ホントだ……くっ、目を開けてられないな……。それにしても1度で上級魔法をスペルするなんて咲香はすごい力を持ってるんだな。今だってディペントがいないから力は発揮出来ないはずなのに」
「では次……"コンダクション"!」
 一瞬で私たちの身体は消えた。
 そして気づくとそこはどこかの町の路地だった。



Angel

驟雨

第7話 『最初で最後(The Magic Battle)』






「……ここは?」
「はあ……なんか外人がたくさんいるな。そりゃそうか」
「それよりしゃべってるの英語じゃないよね。いつも英語の授業で聞く発音じゃないよ」
「ああ。そうらしいな。さて、大聖堂の場所は俺も知らなかったんだし、咲香説明してくれ……ってい ないし」「え!?本当だ。どこに行ったんだろ」
「〜〜〜〜〜?」
「「?????」」
 いきなり聞いたことの無い言葉で話しかけられて2人で止まってしまった。
 気づけば2人の前に白人の男性が立っていた。
「え、なんて言ってるの?」
「しかたない。一か八か、ここをフランスとしてフランス語用に翻訳術を使うか」
「ってことはここがフランスだと想定してるの?」
「そうだよ。……"レンド"!」
 何もこれと言った変化は目では見えない。
 しかし聞こえてくるものが大きく変化した。
 みんな日本語をしゃべっている。
 でも実際はフランス語を話しているのだ。
 私たちがフランス語を理解出来るようになったのだ。
「わかる……。あの人が何を言ってるのか」
「そうか、ここはフランスだったのか。場所も分かって良かった。まあ当たったのは偶然だけど」
「あんた達ここでなにしてるんだ?」 「さっきの白人男性はこう言っていたらしい」
「えっ、……えーとすみません、ここフランスのどこですか?」
「観光客か。それならこれを見ればどこか分かるよ」
 白人の男性に案内され、狭い路地を出た。
 人並みが広い道を覆い隠すほど人が多い。
 そして見たことのある大きい門が見えた。
「凱旋門! ここはパリだ!」
 健一は言った。
 人々は大きな声を出した健一に目を向けたが急ぎ足でその場を去っていった。
「じゃあ、ようこそパリへ!!フランスを楽しんでいってくれたまえ」
 白人男性は行ってしまった。
 私は軽くお辞儀をし、健一は手を振った。
 お辞儀は日本でしか通用しないはずなのにあの男性は気づいてお辞儀を返してくれた。

「日本の作法を知ってるのかな?」
「さあ?」
 2人は人並みに流されて凱旋門を通り抜け、
 遠くにあるエッフェル塔を眺めながらシャンゼリゼ通りを歩き続け、
 パリの住宅街へと出た。
「どうしよう。とりあえず咲香を探さないと……」
「そうだな……っているし」
「え?」
 振り向くと咲香は何も無かったように立っていた。
 さっきまで着ていた朝布学園の制服ではなく、普段着だ。
 白のブラウス。下は青のスカートだ。
「2人ともすみません。実は魔法大聖堂の聖服をお渡しするのを忘れてまして、取りに行ってたんです。これに着替えてください。着替えるのは大聖堂に着いたらでいいですから。朝布学園の制服と勘違いしてました。制服って言うもんですから……だから一応安全そうな場所に2人を連れておいたのです」
「おいおい、そりゃないぞ」
「まあ健一、落ち着いてよ。日本の同音異義語には間違える人が日本人でもいるんだから」
「そうだけどさ」
「では、魔法大聖堂までもう一移動しますよ。とりあえずそこの路地へ。人目に付きますから」
 3人は薄暗い路地へ入って行き、人が誰もいないのを確認すると咲香が言った。
「いきます、"アルバステッド"!」
 今度は赤い色の魔方陣が出現した。
 さっきと同じように強い光と風が吹き荒れた。
 またスカートが靡き、中にはいていた黒のスパッツがあらわになってしまった。
 スパッツごしにしか見えないが、太ももがスラッとしていてきれいなラインをしている。
「この風、何とかならないかなぁ……」
「愛美、スカートを押さえててくれ。こっちも恥ずかしい」
 見ると健一もちょっと顔を赤くしていた。
 健一の恥ずかしそうな顔に笑顔を振り、スカートを押さえた。
「"コンダクション"!」
 再び一瞬で場所が移された。

 今度は真新しい白い大理石が目の前に広がっていた。
 天井は高く、ステンドグラス張りになっていた。
 どこからかパイプオルガンの音色が聞こえてきそうな雰囲気だ。
「ここが、魔法大聖堂」
「すごいな。俺も天使化してからいろいろ魔法に関係ある文書を読んでこの聖堂のことも知ってたがこ こまで広々としていて神聖な感じがするなんて。それにここには常に魔法障壁が展開されていて外部か らは決して見えないようになってるんだな」
「さすが健一さん、来ただけでそこまで読み取ってしまうなんて。もともとカトリック派の人々が作っ た聖堂ですから、このような建物なのです」
 丁寧に咲香が説明を終えた直後、
 広いこの空間の向こう側から聞き覚えのある高い声が聞こえた。
「お姉ちゃん!待ったんだから!!」
「げっ、優!?どうしてここに?秘密にしておいたのに」
「約束守らないなんてひどいお姉ちゃん。さっき咲香お姉ちゃんに頼んで連れてきてもらったんだよ。お兄ちゃんと一緒に来るなら少しは言ってくれたって良かったじゃん」
「……ここまでくるとすごい執念だな」
「ホント」
 2人はそろってふうっ、とため息をついた。
 広い聖堂内にそのときいっしょに発した声も響き渡った。
 「仕方ないな、約束してたんだから。さて、さっさと聖兵のところへ行こうか」
「その前に皆さんにはこの服に着替えてもらいます。さっき言った聖服です」
 咲香は両手にぱっと白い服を出現させた。 私はそれを手に取って広げた。
「ああ!これよくゲームとかで女の子のセイントやプリーストが着てる服だ!神官服だっけ?」
 家でよくゲームをやっている優はスラスラと答えた。
 同時にパサっと落ちたのは紺色のスカーフ。
「これを着るの?」
 私は落としたスカーフを拾いながら言った。
「この聖堂内ではこの服装でないと駄目です」
「咲香はいいの?」
 咲香はそう言われると指をパチンと鳴らした。
 一瞬で咲香の服装が今私が持っている服装に変わった。
「はい、この通りです」
「俺もそれを着るのか?……まさかな」
「いえ、健一さんはこちらです」
 健一は咲香に連れられて私の左側にあった階段を上っていった。
「私たちはどうするか」
「ここで着替えちゃえば?誰もいないし」
「……恥ずかしくないの?」
「そんなに気にすることないと思うけど」
「いいから、私たちもあの階段を上ってみよう」
「……わかったよ」
 私と優はさっき咲香と健一が上がっていった階段を上った。
 上がると長い廊下が続いていて横には扉がたくさんあった。
 奥のほうに人影が見えた。
「咲香?それにしては大きいね」
「お姉ちゃん、あれは咲香お姉ちゃんじゃないよ」
 近寄っていくに従って人でないことがわかった。
 しっぽがあったし、耳も頭の上に合って全身は赤と黒の毛で覆われていた。
「ネコ?」
 ボソッと言った疑問文が聞こえたようだ。
「ネコとは失礼な言い方だな。俺は人狼族の中でも上の階級の召喚獣だぜ?」
「しゃ、しゃべった!?」
「あのなぁ。俺みたいのがここにいる理由なんていらないだろ?お前らだって見る限りただの人間だけ どここにいるなら魔法使いなんだろ?俺みたいな奴がいたって普通驚かないだろ」
「そうだけど、魔法生物を見るのはあなたが2人目で……」
「かっこいい〜!あのお兄ちゃん。私魔法使いで良かった!」
 優はマニアの心を揺さぶる人狼族の格好の彼をみて
 興奮しきっていた。
「君はいつ魔法使いに覚醒したんだ?」
 優に人狼が話しかける。

「私は君じゃなくて優!こっちがお姉ちゃんの愛美!」
「そうか、悪かったな優。俺はジェイド・ハイドレッド」
「よろしく!私たちは4ヶ月くらい前に覚醒してこんな姿」
「こんな姿って別に普通の魔法使いじゃん」
「えーと、私たちは天使だから」
「天使!?マジかよ、初めて見るけど以外と普通なんだな。でもホントなのか?」
 「ホントだよ。これをみれば信じるでしょ」
 優が自信たっぷりに言った直後、
 優のまわりに光の粒子が発散され始めた。
 そして、あたりをまばゆい光を包む。
 光がおさまると、優は青色をした羽を背中に纏い、
 地面から少し離れたところでフワフワと浮遊した。
 羽をパタパタさせて優はニッと笑った。
「確かにこれを見せられちゃあ信じない訳にはいかないな」
「じゃあジェイド、私たちは行くから」
「ああ。天使は何かと大変だろうけど頑張れよ」
「じゃあね〜!狼のお兄ちゃん!」
 優は最後まで手を振っていた。
 さらに長い廊下を行くと向こうから健一と咲香が歩いてきた。
 健一は白いタキシードを着ていた。
 軽くうつむいて顔は紅潮していた。
「健一!それが聖服なの?」
「ええ?あ、うん。ちょっと恥ずかしいよなこんな格好」
 健一の凛々しい姿に少し見入っていた。
 元の姿ならこんなに似合う格好になれたのか……。
 自分でない自分にちょっといい気分になった。
「いいよ。とても似合ってる」
「あ、ありがとう。ところでなんで優は羽出してんだ?」
 優は羽を出して歩いていたのではなく、
 飛んでいたのだ。
「あ、ちょっとワケありで」
「ごめんなさいお兄ちゃん」
 優は羽をしまった。
「ではお姉さん、優さん、先程渡しました聖服に着替えてください。奥に更衣室があります」
「うん、わかった」 2人はまだ続く廊下を進み、更衣室と書かれた部屋を見つけた。
 ドアを開けるとどこにでもある普通の更衣室だった。
「早く着替えちゃおう」
「うん」
 いつものことだったが、着替えはまだ恥ずかしい。
 それに今ここには優もいる。 私が制服を脱ぐのを躊躇していると優がせかした
 「お姉ちゃんまだ着替えが恥ずかしいの?」
「っ……それはそうだよ」
「いつも学校で着替えるときどうしてるの?」
 一番聞かれたくない質問だった。
 顔を真っ赤にして焦った。
「そ、そ、それは言えないよ」
「ふふ、お姉ちゃんまだ怪しいことしてるんだ」
「そんなわけないでしょ!」
「ふ〜ん?」
 優はニヤニヤしている。
「いいから優はあっち向いてて!」
「はいはい。まだ男の子の心が残ってちゃ女の子と一緒に着替えるのも苦労するよね〜♪」
「うっ」
 本当のことを言われてそれ以上何も言えなかった。
 制服を脱ぐときもなるべく自分の身体を見ないようにして脱いで、
 下着姿になっても目をつぶっていた。
 やっとのことで白の神官服に着替えて、前のボタンを締める。
 帽子もあるらしく、異質の素材を感じさせる帽子をかぶった。
 襟の裏にスカーフを通し、前に流した。
「ふう、やっと終わった」
「お姉ちゃん!これがちょっとはまんないよっ」
 優は首元のボタンがはまらないらしく苦戦していた。

「えっ、もう仕方ないなぁ」
 優の側に近寄り、首元に手をやる。
「きつい?」
 「ううん、大丈夫。ありがとうお姉ちゃん。ボタンには慣れてるんだね」
「まあいつもYシャツの第1ボタンまで締めてなかったのに女の子になって急に締めることになったか ら練習したしね」
 ちょっと自慢気に言った。
 「じゃ、行こっか」
 更衣室を出て、また長い廊下を行き、
 さっきの広い部屋に戻った。
 健一と咲香はジェイドと話していた。
 咲香と知り合いなのか、一緒に笑っている。
「終わったよ」
「愛美。それもかなり似合ってるぞ」
「ありがとう」
「咲香お姉ちゃんはジェイドさんとお友達なの?」
「あら、もうジェイドと知り合いなのですか」
「ああ、さっきそこの廊下で会ったからな」
「それで優は羽を出してたのか。大方ジェイドに「天使なのか?」って聞かれてそれを証明したってと ころだろう」 健一は鋭く言った。
 今の発言からして読心術は使っていないみたいだ。
「お友達です。同じ種族のようなものですし。私は純粋な狼ですけどね」
「咲香(しょうこう)、今は咲香(さきか)って呼ばれてるのか」
「はい。人間世界で暮らすには名前の変更も必要なので」
「相変わらずかたっ苦しいしゃべり方だな」
 「はい。やめて欲しいのならやめますけど」
「いや、いいよ」
 ジェイドはあっさり断った。
 なにか理由でもあるのか……
「ところで咲香、聖兵と戦うにはどこへ行けばいいの?」
「この大聖堂内にある礼拝堂に神筆が保管されています。その神筆を護るのが聖兵の役目ですからそこ にいるハズですよ」
 咲香はそう言うと私から見て右側にある大きな黄色い扉を指さした。
 その扉は妙な雰囲気を漂わせていた。
「あの扉の奥……」
「優はどうする。まさか一緒に戦わせる訳じゃないよな」
「それはそうだよ。でもこの聖堂内でおとなしく待ってられる人間とも思えないけど」
 2人は振り向いて後ろで咲香にちょっかいを出している優を見た。
 その姿はただの無邪気な中学生なのだが、2人の、今は3人の『姉』には苦労する妹だ。

「そうだよな。優にそれだけの忍耐力は無いな」
「一緒に戦う人数って決まってるの?咲香」
「あっ、いいえ別に規定は無いです。ただ心してかからないと痛い目にあいますが……」
「簡単に言うなぁ。でも一筋縄じゃ行かないってことか」
「人数は多い方が有利だ。それに優は……」
「健一?どうしたの」
「い、いやなんでもない。……・いま黙ったところで意味のないことだが」
「……?」
「咲香、お前ら神筆を取りに行くのか」
「はい。私を愛美さんのバティクスにしてもらうのです。言い方を変えると愛美さんに私のディペント になってもらうのです」
「そうか、なら俺には関係ない話しだな。俺にはもうディペントはいるし、俺はその方のバティクス だ」
「エクス・マオ様ですよね?知ってますよ」
「ああ、その通りだよ。じゃあ、俺はエクス様の所に戻るからな」
「じゃあジェイド、またどこかで会いましょう」
「じゃあな!」
 黒い閃光を散らし、ジェイドはその場から消えた。
 「行っちゃった。あのお兄ちゃんはもうバティクスなんだ……」
 優は少し寂しげな声を出した。
 こんなときに読心術を使えばいいと理解していたが、今は使うべきではないことも理解した。
 4人は扉に近づいた。
 咲香も戦うことは許されている。
 ただまだ愛美のバティクスになっていないので力が発揮出来ないので
 この戦闘からは外れることにした。
 4人は扉の前で止まった。
「この先が礼拝堂です。皆さん、準備はいいですか?」
「私は、ばっちりだよぉ〜!!」
 優が元気よく返事をしたとき
 健一は私に話しかけていた。「あ、愛美。その本の使い方を教えておくよ」
 私の手に握られていた魔法の本『コンタクト』を指さして健一は言った。
 この本を使うとしか言われていなかったからちょうどよかった。
 「うん。どうやるの?」
「その本に書かれているものは魔法ではない。その持ち主の特性が書かれている。愛美がそれを手にし た瞬間その本は変化し、愛美だけの本になっているはずだ。特性とは天使の属性とは違ってその魔法使 いの人間性、感性、精神力の総称とでも言っておくか。それは心術に大きくかかわってる」
「心術か。聖兵もそれを使うって聞いたけど何なの?」
「心術とは心の力、人を思う心、自分を信じる心。心の力が強ければそれだけ魔法使いが強くなれ る」
「心の力……」
「その本に書かれている特性に一番近い心が愛美だ。心が強ければ愛美自身が強くなれる。技術面でも 精神面でもな。心術を使うといっても無意識のうちに心が強弱の波に煽られる。そのときの状況による な。あくまで使うんじゃなくて、その場の自然な気持ちだな」
 難しい説明だった。
 私の頭で理解しきれるだろうか。
「ありがとう健一。なんとなくわかったよ、心術のことが」
 「初めから簡単に言えば良かったな。ごめん」
「いいよ。心術で私も健一も強くなれるって分かったから」
「え?なんで俺まで……」
 この問いには笑顔で答えた。
 不思議とうれしい気持ちになった。
「健一さん、お姉さん、いいですか?開けますよ……」
「ああ。いいよ」
「うん。大丈夫」
 重い音がして黄色い大きな扉が開いた。
 奥は薄暗く、ある部分だけに一筋の光が差し込んでいるだけだった。
「この部屋が大聖堂の礼拝堂です。ここに神筆が保管されています」
「あれか!」
 一際目立つ所に置かれている羽ペン。
 その部分だけに光が当てられている。
「ふーん、いかにも大切なものって感じだね。ゲームみたい」
 優がまたマニアックな発言をした。
 この程度でマニアックと言っても言い過ぎかもしれないけど。
「あれが神筆ってことはもうすでに近くに聖兵がいるってことか」
「そうだね」
「通常礼拝堂を使用する時以外は聖兵は必ずこの場所にいるはずです」
「それは本当のようだな。愛美っ、後ろだ!」
「え……!?」
 私の後ろに聖兵は潜んでいた。
 見た目は確かにただの白の甲冑の騎士だ。私の家にもあったような気がする。
 しかし中身が無い。誰も入っていないと言った方がいいのか、空っぽだ。
 でも動いている。そして私に向かって剣を振り上げた。
 ガチン!
 剣が床に当たった。
 大理石の床が削れるどころか、割れた。
 私が間一髪で回避したのだが、聖兵はなおも襲いかかってくる!
「愛美!横によけろ!」
 健一は左手に浮遊していた指輪を剣に変えて
 聖兵の剣を受け止めた。
 青く輝く剣だった。
「危なかったよ。健一……」
 そのとき私の腕輪が赤く強い光と熱を放った。
「うっ!な、なにこの光は!それにこれ……熱い!」
「お姉ちゃんどうしたの、大丈夫!?」
 優が心配して私に声をかけたが私の耳には入ってこなかった。
 私の腕に展開したリングは腕輪の形になっているはずだった。
 熱がだんだん引いてきて腕をみると腕輪の姿はなく、
 両手にはナイフが握られていた。
 そのまま私は倒れてしまった。
「愛美!?どうかしたのか!」
「健一さん。お姉さんのことはいいですから聖兵をなんとか食い止めていてください!」
「わ、わかった」
 健一は聖兵を1人で対峙した。
 横に優が並ぶ。
「優」
「お兄ちゃんばかりにいい格好はさせられないからね」
「……ふっ。よし、じゃあ愛美が回復するまで奴を止めるぞ!」
「お姉さん!大丈夫ですか?」
 倒れ込んだ私の側に咲香が寄ってくれた。
「手に火傷……」
「え、何ともないですよ?」
「そんな……すごく熱かったのに」
 見ると左手にはさっき見た柄の赤いナイフが握られているだけで
 火傷の後など無かった。
 ナイフからは赤い光を発されている。

「このナイフですね。……っ!」
 咲香は私のナイフに触れたが、
 直ぐに手を引っ込めた。手に軽い火傷の跡がある。
「咲香、大丈夫?」
「それよりこのナイフとても熱いですよ!?お姉さんは触ってて大丈夫なのですか?」
「別に何ともないけど……」
 手に握られているナイフから発せられる光には熱もあるようで、
 ナイフがとても熱くなっているらしいのだが
 私には熱いと感じることはなく、ただ少し暖かい気がするだけだった。
「わかりました。きっとそれは愛美さんの『魔装』なのですね」
「『魔装』?」
「魔装は天使がその経験上手に入れるその天使自身の物理的な武器のことです」
「なんかややこしいけどこれは私の武器なんだ」
「そうですね。私も天使のことは詳しく知りませんが魔装を持つ天使はそう多くは無いと聞きます。健 一さんも優さんもすでに修得済みですけど……」
「優まで?健一のはあの剣だと思ってたけど……優は?」
「弓です」
 長い会話をしていたようだ。
 そのとき健一が私の目の前に飛んできた。
 健一は激しく壁にたたきつけられた。
「ぐっ!!」
「健一!大丈夫?」
「あ……くっ」
 どう見ても大丈夫ではない。
 優が目の前で弓を構える。
「お兄ちゃん怪我してる。さっき私がドジを踏んだから……」
 しかし健一はなおも立ち上がろうとしている。
「無理しないで!今度は私が戦うから!」
「め……愛美……」
 健一はその場にくずれ、
 剣を手から離してしまった。
「お姉さん。健一さんの回復はまかせてください。その間に聖兵を……」
「わかった!」
「優、その弓が優の『魔装』なんだよね?」
「そうだよ」
「なら大丈夫だね。優、私たちなら聖兵を倒せるよ、絶対!」

「え?……うん、そうだよね」
 私は気を強めた。
 胸が熱くなりナイフから発せられる赤い光が強まった。
 聖兵が重い足取りで近づいてくる。
 1歩ごとに弱い地響きが起こる。
「どのくらいダメージを与えたの?」
「わからない。私は物理攻撃はあまり得意じゃないから。お兄ちゃんはかなり剣で切込んでたけど」
「弓じゃあしょうがないかな。じゃあ後ろから援護して。私が聖兵の懐に切込むから」
「お姉ちゃんに魔法が当たっちゃうかもしれないよ?それでも行くの?」
「心配ないって。優ならできるでしょ?」
「……わかったよお姉ちゃん。心が大事だからね!」
「よし、じゃあ行くよっ!」
「うん!」
 私は聖兵へ向かっていった。
 神官服はスカートが短く、スパッツのようなものをはく仕組みになっていたから
 走りにくいと言うことはなかった。
「はっ!!」
 両手のナイフで歩いてくる聖兵へ切りつけた。
 なんの抵抗も無く切込むことが出来たが、聖兵には何もダメージが無いようだった。
「青き氷よ……その冷気を満たせ、我の力となれ!"アイシクルエミット"!!」
 後ろから青い光を放つ矢が飛んできた。
 聖兵の兜に直撃し、その部分が凍りついた。
「優!」
 私は振り向いた。
 優が二ッと微笑んだ。
 「よーし、私だって!」
 私は魔法をスペルした。
「紅蓮の炎よ……熱気を纏い、我が力となれ!"ワースクリムゾン"!!」
  ナイフの赤い光がさらに強まり、刀身は炎に満たされ、燃えるナイフとなった。
「これで聖兵に攻撃を仕掛ける!!」
 聖兵は凍りつきながらも剣を振り上げた。
 剣を素早くかわし、胸元へ炎のナイフを切りつけた。
「"フレイムセイバー"!!」
 切りつけると同時にその部分に炎が吹き上がる!
 聖兵の鎧を燃やすほどの勢いの炎は全身に燃え広がり、
 聖兵を包み込んだ。
「お姉ちゃんすご〜い!!」
 燃え上がって崩れ去る聖兵を見てふうっ、とため息をついた。
 しかし聖兵は炎の中すぐに立ち上がり、
 魔法をスペルした!
「"プロプション"!!」
 太い重い声が私の頭の中に響く。
 実際に声を発している訳ではないようだった。
  竜巻状の水が私に向かって突進してきた。
「危ない!!」
「ま、魔法!?」
 水の渦は私に直撃だった。
 水そのものに攻撃力は感じられないが、
 水圧に押されて私の背中は大理石の白い壁にたたきつけられた。
「ああっ!!」
 身体に激しい衝撃が走った。
 背中がすごく痛い。
「お姉ちゃん!しっかりして!!」
「くっ……」
 痛みがひどかった。
 さっきの攻撃で魔力を消費していたから治癒術を使うために必要な魔力が足りない。
「だ、だめ……」
 聖兵は倒れた私へ足を進める。
「このぉ!!お姉ちゃんに手を出すな!"チリス"!!」
 優は氷の魔法をスペルした。
 冷気が辺りを包み、聖兵を氷で覆うことに成功した。
 動きが止まり、私はその隙に力を振り絞り這って逃げた。
「大丈夫!?」
「背中をやられた。あの聖兵、心術でまったくダメージが無いみたい……」
「心術かぁ。私は治癒術を使えないし、咲香お姉ちゃんはお兄ちゃんの治療で精いっぱい、か」
「私ならまだ大丈夫だよ。それより早く聖兵を倒さないと。時間が経てば体力を消耗する私たちのほう が不利に……なる」
 無理して苦笑いを優に見せたが 優は首を振った。
「無理しないで!ホントに……」
 優は目に涙まで浮かべている。
 そこまで心配してくれていると思うと心が痛んだ。
「……」
 そのとき聖兵は氷を破り、
 再び動き出した。
「こうなったら天使化するしかないよ」
「1人で大丈夫?」
 優は涙を拭いて言った。
 「私はもう中学2年生だよ?1人で何でも出来る年に成長したんだから!」
「……そうだよね。優なら」
 優は右手を広げて言った。
 「お姉ちゃんには手を出させない!!」
 背中に羽を出現させた。
 青い羽がはばたき優を宙に浮かせる。
「天使術のマナの消費は激しいけど……これしかない!"ジャジメントロード"!!」
 優は天使術をスペルする。
 手を振り上げ広げた。
 天井は白い大理石だったはずが、空が見える。
 振り上げた手を勢いよく振り下ろす。
 天空より白い剣が無数に降り注ぐ!
 激しい轟音とともに聖兵はその場に倒れていた。
 たくさんの白い剣が突き刺さっている。
「優!」
 優もその場に座り込んでしまった。
 羽が薄く消えかかっている。
「くっ……」
 私は背中の激痛に耐えながらも
 優のもとへ這っていく。
「優、優!!」
「お姉ちゃん……聖兵は?」
「大丈夫、優のおかげで倒せたよ。だから心配いらないよ!」
「そう……よかっ……た」
 優はそのまま目を閉じた。
「優……」
「優はマナの枯渇で眠っているだけだ。今に体温が上昇して風邪と同じような症状が現れるだろう」
 後ろに健一が立っていた。
 一緒に咲香もいた。
 振り向くときに目に入った倒れている聖兵に刺さっているはずの剣が無くなっているのに気づいた。
「健一。傷は大丈夫なの?」
「それはこっちのセリフだ。ちょっと待ってろ」
  健一は剣先を下向きにして構え片手を私の背中にかざした。
「ひどい怪我だがこれで治るはずだ。"スラブリカバー"」
 私の背中が光ったように見えた。
 次の瞬間には痛みはすっかり引いて
 怪我があったのかどうかもわからなくなってきた。
「治った……。ありがとう健一!」
「いやいや。俺だってこの魔法はさっきまで使えなかったんだけど咲香が使ったのを見て覚えたん だ」

「私では詠唱に時間がかかりすぎました。魔方陣は簡単に発動できるのですが……」
「しょうがないだろ。咲香はまだディペントがいないんだから。上級魔術である魔方陣が簡単にスペル できるのはよく分からないけどな」
「じゃあ私が天使化して優にケアルガをスペルするよ」
「ああ、その方がいいみたいだな。俺はまだ体力があまっててまだ戦えるからな」
「え?それって……」
 健一の矛先には立ち上がって黒く変色した聖兵があった。
 さっき見た鮮やかな白い甲冑の騎士ではなく、
 なにか邪悪なものを感じる黒い甲冑へと変化していた。
「こいつは倒れたんじゃないのか!?ジャジメントロードをまともに受けておきながら立ち上がるなん て……」
「まだ立つの!?」
 私は両手のナイフを握りしめた。
「いいから愛美は優を治療してやってくれ。聖兵は俺にまかせろ!」
「私も補助程度なら戦えます!」
「2人とも……じゃあ私は優を治療するからその間聖兵を止められる?」
「止めるなんて言わず倒してやるよ!!来いっ!」
 健一は剣を振りかざし魔法をスペルした。

「光り輝く紫電の雷よ……集い来たりて我が力となれ!"ライヴァーン"!!」

 振りかざした剣に落雷が発生して剣は雷を纏う剣に変化した。
「必殺剣"ギガブレード"!!」
 切りつけた剣筋を聖兵はさっきとは打って変わった動きでかわした。
 が、雷の剣は黒い聖兵へ触れなくてもダメージを与えた。
 「触れなくても剣先から落雷のダメージを受ける必殺剣だ!今度こそ!!」
 健一はなおも攻め続ける。
 私は両手を広げて祈った。
 背中にピンク色の羽を出現させた。
 「優、今助ける!"ケアルガ"!!」
 羽からこぼれ落ちる光が集まり、優を包み込む。
「……う、ううん?」
「優!気がついた!?」
「お姉ちゃん」
 優はフフッと笑顔を見せた。
 どうにかマナも回復し、元気を取り戻したようだ。
 ガキン!!
 後方で剣と剣が打ち合う音が聞こえた。
 見ると健一の剣と聖兵の剣が打ち合っている。
 しかし健一は落ち着いて言った。
「この剣に触れれば雷のダメージを受けるって言っただろ!!」
 剣から剣を伝わって聖兵に電流が流れ込む。
 しかし聖兵はさっきのようにのけ反らなかった。
「"デスクラスト"!!」
聖兵は健一の剣を受けながら魔法をスペルした。

「ぐっ、地属性中級魔術……よけられない!!」
「"レデュース"!!」
 咲香が魔術軽減の魔法をスペルする。
  健一へ床からあふれ出た溶岩が襲いかかったが、
 咲香の魔法のおかげで傷は浅くて済んだようだ。
「咲香。……助かったよ、ありがとう」
「健一さん!また来ます!もうギガブレードは通用しないようです。なにか別の手を!」
 そのころ私は優のマナを回復させて戦いの様子を見ていたが、
 やはりいてもたっていられなくなった。
「優、私、やっぱり行かないと!」
「じゃあ私も……」
「優は待ってて。マナは回復したけどあんまり無理されても困るし、私の立場もあるしね」
「お姉ちゃん。……うん、わかった。私は安静にしてる。でも、お姉ちゃんも無理は絶対駄目だ
 よ?」
「わかってるって!」
 わたしは羽を広げて健一の元へ飛んでいった。
「健一、なんで聖兵があんなに黒いの?」
「愛美。優は大丈夫だったのか」
「うん。心配いらないよ」
「聖兵が黒いのはきっと天使術のせいだろう。もともと使っちゃいけないんだから。"ジャジメントロ ード"は」
「使用が認められてなかったんだ。ってそれじゃあ優は……」
「その点は心配いらないよ。それより今はあれを何とかしなくちゃな」
 健一の見る先にはさっきとは全く違う聖兵がいた。
 もはや聖兵とは呼べないであろう。
「属性付加攻撃は通用しない。徹底的に魔法で攻めるぞ」
「わかった!」
「轟く雷鳴よ……その力で相手を貫け!"ストラックフィールド"!!」
「火の精霊よ……集い来たりて飛翔せよ!"ファイアーバード"!!」
 雷の矢と炎の鳥が聖兵へ向かっていく!
 雷が聖兵を貫き、火の鳥が聖兵を燃え上がらせる。
「愛美!続けて攻撃するぞ!まだ聖兵は倒れないだろう」
「これでも!?わかった、今度は私から行くよぉ!」
 私は聖兵と同じ魔法をスペルした。
「地に潜む溶岩よ……熱気とともに相手を粉砕せよ!"デスクラスト"!!」
「空を舞う風よ……刃となりて相手を切り裂け!"グラインドミスト"!!」
 地の底から溶岩があふれ出し、燃えている聖兵を包み込む。
 そして螺旋の風が甲冑を切り裂く!!
 聖兵は音もなく崩れ去り、消えた。
 残るものは何も無く、礼拝堂はもとの静けさを取り戻した。
「今度こそ倒した……?」
「そうみたいですね。健一さん、お姉さん、優さん。今度こそ倒しました」
 後ろから近寄ってきた咲香が落ち着いて言った。
「やっと倒したんだね!」
 優も続く。
 私は羽をしまい、魔装となっていた赤いナイフをもとの指輪に戻した。
 ナイフの刃は霧のように消え去り残った2つの柄が1つになり銀色の指輪の形になった。
 健一は剣を、優も弓を指輪に戻し、左手の薬指にはめていた。
「愛美。教台にある神筆を取るんだ」
「うん」 教台に足を進める。
 大理石の床はさっきの戦闘を感じさせないきれいな白色をしていた。
 まるで何も無かったように礼拝堂内はシーンとしている。
 私は礼拝堂の教台に収められていた神筆を手に取った。
 暖かい風が辺りを包み、やがておさまった。
「では神筆を持って大聖堂長の所に行きましょう」
「うん!」
 咲香に3人はについて行った。
 さっきの広い部屋に戻り、逆側にあった赤い扉に向かって進む。
 ドアは近づくと勝手に開いた。
 別に自動ドアというワケではない。
「わ、勝手に開いたよ?」
「大聖堂長が開けたのです」
「ここにいるのか」
「再び会いまみえることになるとはな咲香よ。また新たなディペントを見つけたか……」
「大聖堂長。私はこの方にディペントの依頼をし、承諾していただきました。この通り、聖兵を打ち破 り、神筆もこの手に収めております」
 言いながら咲香は人間の「咲香」から狼の「咲香」に変わった。
 神筆を握った手を開き見せた「この手」も狼の前足になっていた。
 「ふむ、先程の戦いの様子はここから見させてもらったよ。聖兵の心術をいとも簡単に破るとは、そな たたちの能力は目を疑うほどだな。途中で使用禁止の天使術をスペルしたようだがなぜ使用禁止なのか わかるかな?"ジャジメントロード"をスペルした優よ」
「え?い、いえ」
 優は首を横に振った。
 顔がちょっと青ざめていた。
 「そのように心配なさらなくてもよいのだよ、優よ。もともと使用禁止の理由は天使術を制御できず、 自滅あるいは他の者をきずつける恐れがあるからなのだ。さらには人を復活させる"リゼレク"や"デス プロテクト"の用に人を即死に追いやる危険な天使術もある。それらは魔方陣や魔装で制御しなけれ ば、無関係の人や自分を傷きずける。だからなのだ。しかし優はそれなしで"ジャジメントロード"を制 御し、聖兵だけを確実に狙うことが出来た。それほどの魔力があるのならもはや君たちに天使術を禁止 する理由がない。咲香、その点はそなたも見抜いていたのであろう?」
「はい。フェンリルである私をバティクスとして操るには強大な魔力が必要だと思います。お姉さ ん……ここにいる石垣愛美さんは大聖堂長のご察しの通り魔力は想像以上に強大です。それならば私を バティクスとして契約しても支障は全く無いと推測されます」
 「そのようだな。では愛美よ。そなたは咲香をバティクスとして迎え入れる自信の程はあるのか?」
「私は自分からディペントとしての道を選びました。もう決心はついています」
「それだけ聞けばもう何も言うまい。それではこの契約書に手にした神筆でサインされよ。石垣愛美 よ……」
「はい」
 大聖堂長の手から放たれた契約書は私の直ぐ目の前で静止した。
 私は咲香から神筆を受け取り、契約書を手に取ろうとしたが、動かない。
「お姉さん、神筆で空に自分の名前を書けばいいのです」
 咲香が後ろ……下から小声で教えてくれた。
 私は羽ペンを空で構え、何も無いその場所に自分の名前を漢字で書いた。
 が、それはなぜか自分でも読むことのできない不思議な文字に変わった。
「さ、咲香。これは一体……」
「それはスペクト文字。魔法界で古くから使われている魔法文字だ。神筆で書いた文字は全てその文字 に変化する」
 大聖堂長は小声で咲香に聞いた言葉を聞き取ったようで、スラスラと答えた。
 浮いているスペクト文字で書かれた私の名前は契約書にくっつき、
 契約書は大聖堂長の元へ飛んでいった。
「この瞬間フェンリル・咲香(しょうこう)は石垣愛美のバティクスとする。愛美は咲香のディペント としてその役目をしっかり果たされよ」
 2人(?)は同時に礼をした。
 大聖堂長は帽子をかぶった見た目はただのおじさんだ。
 しかしそれは見せかけであると咲香が言っていた。
 その日のうちにフランスを出て日本に帰ってきたのは覚えている。
 そのおかげで忘却術を使う必要がなかった。
 健一は読みたい本が読めなくてちょっと残念そうだった。
 魔法の使用でそれなりのマナの枯渇があったはずだけどまったく感じられない。
 あの神官服の影響なのか、 それとも大聖堂の力なのかそれも定かではない。
 咲香は今私が寝ている部屋の隣の部屋で眠っている。
 もちろん人間の姿で、だけど。
 お父さんの記憶の方も軽く魔法で変えておいた。
 記憶操作は大聖堂長が行ったらしい。
 これで自然と生き別れた双子の妹として咲香はこの家で、この町で生活できる。
 派手な理由かもしれないが、それ以外に道はないだろう。
 今日はいろいろ大変だったけど夏休みはまだ始まったばかりだ。
 宿題もあるし、部活もある。今日はサボっちゃったけど。
 コンクール前だしこんなんじゃいけないからこれから頑張らなきゃ!

 愛美たちの夏休みはまだ始まったばかりである。

    第8話に続く……


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