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 これからどうしよう?
 今まで男の子だったのに急に女の子になっちゃって
 しかも魔法が使えて、天使の羽があるなんて
 前までは信じられないことだった。
 今となっては信じずにはいられないが。



Angel

驟雨

第3話『初めてじゃないのに初めての学校』




 昨日は悲惨だった。
 妹の活発さにはついていけないと言っていた愛美の気持ちをしみじみと感じた。
 とりあえず今日は日曜日で学校も休みだから
 魔法のことをちゃんと覚えておかなければと言うことで
 愛美の家にあった魔法に関する本をいくつか読むことにした。
 愛美は本を手に取って、ぱらぱら捲るとあるページを開いて、俺に見せながら言った。
「魔法の種類には攻撃、防御、治療とまあいろいろあって昨日私が使った"タイムデント"は滅びの魔法と言われてる。滅びの魔法はかつてこの世に存在した魔法使いが自分の命と引き換えに作り出した普通の魔法使いには制御出来ない魔法のことでこの世で制御出来るのは天使だけなの」
「自分の命と引き換え?」
「大昔の話だから。この魔法が伝えられている石版がこの町の博物館に収められていて、私が以前その博物館で滅びの石版に触れたときから滅びの魔法が使えるようになったわ。でも滅びの魔法や通常攻撃魔法など、人を傷つけたり殺してしまうことのできる魔法は魔法界で禁じられている」
「そうだよな。時間を止めたりすれば人を殺すことなんて容易いからな……って愛美!昨日それ 使ったじゃん!」
「それのことについてはおじいちゃんに聞いたんだけど、滅びの魔法の中のいくつかは使用が認められているらしいのよ。"タイムデント"も使用許可が出てる魔法だから心配しないで」
「そ、そうか。なんだ使ってもいい魔法があるのか」
「でも健一は使っちゃだめだよ?」
「え、なんで?」
「私だってもう使いたくないわよ。滅びの魔法なんて……。なんで滅びの魔法で使用が認められている魔法があるのか私にはまだわからないから。簡単に人を殺せてしまうこんな魔法なんて使えないほうがいいのに……」
 そうだ。魔法だってなんでもやっていいってワケじゃないんだから、俺は魔法について深く考えなければならないと思った。
 そういえば愛美のじいちゃんは愛美の師匠だったんだっけ。
 師匠ってことはやっぱ魔法も使えるのかな?「……健一?」
「ああっごめん。わかったよ。えーと滅びの魔法は使わないよ。絶対」
「うん。約束だよ?」
「ああ!」
 俺たちは指切りまでした。
 はじめて女の子と約束を交わした。
 しかし内容が魔法だなんて。
「えーとじゃあその他の魔法のことだけど……優も呼んでこようかな?」
「じゃあ俺が呼んでくるよ」
「でも健一、どこにいるかわかる?」
「あ……ごめん。わかんないや」
「フフ、でもこの家でこれから生活することになるんだし、一緒に来て!」
 愛美は軽く笑いながら言った。
 バカにされてるのか……。
 でもとてもうれしい気持ちもあった。
「わかった」
 二人は部屋を出た。
 まったく、何でこんなに広いんだろ?
 部屋部屋部屋だよまったく。
 長い廊下。
 疲れないのかな?こんな家に住んでて……
「あ、お姉ちゃん達、おはよう〜」
 優ちゃんはまだ眠そうだ。
「優、これから魔法のことについて軽く説明するから私の部屋に来て」
 う〜んちょっときつい言い方だな。
 でもこういうのがおねえさんっていうのかな。
「わかったよお姉ちゃん。ちょっと着替えさせてよ」
「うん。急いでよ」
 ……それにしても俺の声でしゃべってるのに
 なんでこんなに違和感が無いんだろ?
 数分後、部屋に戻って愛美と話してたら
 優ちゃんが来た。
「魔法か……いままでお姉ちゃん、何で黙ってたの?私にくらいは教えて欲しかったな」
「だって私が魔法を使えるって知ったらいつもついてきそうだもん」
「そんなぁいくら私がSFマニアだからって……」
 優はちょっと悲しそうな声で言った。
「優ちゃん、自分からマニアだって言うなんて」
 しょうもない会話の後、愛美は魔法のことを優ちゃんに事細かく教えた。
 口調はあいかわらず女言葉+おねえちゃん(?)だったけど
 しゃべってる愛美を横から見ていてちょっとドキドキした。
「よし。魔法についてはこんなもんでいいかな?」
「ありがとうお姉ちゃん。あ、でも今はお兄ちゃんかな?」
「えっ?……そっか今私、男なんだっけ。なんか複雑」
「ってことは俺がお姉ちゃんか。まあ慣れないけど仕方ないな」
「うん。努力するよ」
「じゃ私は部屋に戻るね」
「わかった。優、わざわざごめんね」
「いいよ〜」
 パタン。部屋の戸が閉まって優ちゃんの足音はだんだん小さくなっていった。
「それじゃ次はこの部屋についてだけどまずは……」
 なんかいろいろ説明された。
 特に勉強机については理解ができなかった。
 ゴチャゴチャしてる俺の机とはワケが違った。
 机の上には何も無いし、
 本棚はしっかり整頓されていて見ただけでなにがどこにあるかわかる。
 俺もきちんとした生活送ろうかな。
「あ、もうお昼かぁ」
「うん、そうみたいだな」
「今日はどっか食べに行こっか?」
「いいね」
 俺たちは家を出た。
 あとあと気づいたが男の子と女の子が並んで歩いて、
 ファーストフードに入ってご飯を食べる。
 これってまるっきりデートじゃないか。
 ファーストフードってのはちょっと……。
 もちろん、愛美はそんなこと気にしてないと思うけどね。
 俺は意識しちゃうな。
 帰り道、俺たちは逆の立場になって初めて逆の言葉で会話した。
 俺は女言葉、愛美は男言葉で。
 さすがに今まで通りで会話しちゃ不自然すぎる。
 とりあえず、二人っきりや優ちゃんだけがいるとき以外は
 このように会話することにした。まあそれしか方法はないけど。
「ねえ健一?」
 問い掛ける俺。
「なに愛美?」
 答える愛美。
「……ぷっ。やっぱ違和感あるよ〜」
「わ、笑うなよ。俺だって必死なんだから」
「わかったよ。じゃ俺は家に帰るな」「うん。じゃね愛美」
「ばいばい。健一」
 俺たちは夕方、日がまだ沈んでない
 ちょっと暑い時間帯だった。別れて、それぞれ新しい自分の家に向かった。

 今日はついに学校へ行く日。
 昨日練習した女言葉や女の子らしい態度がとれるだろうか?
 愛美は学生服を着てすでに俺の家に来ていた。
 クローゼットから制服を出しながら言った。
「じゃ、ここにだしとくから。これがワイシャツ。こっちがブレザーとリボンとスカート。それで……
 あのタンスの1段目に私の……下着と肌着が入ってる」
「あ……ああ。ありがとう……」
「私の方は昨日家に帰っていろいろ把握しといたから。制服はベッドの上。机の隅に教科書」
あっ!と思ったが遅かった。俺の自分の部屋には愛美の写真が貼ってあったのだ。
 気づかれちゃったかな?
 気づくか。どうしよ。
「じゃ私はいったん家に戻るね。あとでまた寄るから」
「あ、ああ」
パタン。部屋のドアが閉まった。
 しばらくたって窓から外を見ると通りを俺の家に向かって歩いていく愛美が見えた。
 教えてないのに何でわかるのかな……これも魔法の力なのかな?
 考えていてもしょうがないのでとりあえず制服に着替えた。
 そして朝食を食べるために下へ降りてった。
 ……そういえばまだこの家、慣れてないからどこで朝ごはん食べるんだかわからない……。
 とりあえず、そばにいたメイドに恥ずかしながら食堂の場所を聞いた。
 メイドは不思議そうな顔をしたが、その場所を教えてくれた。
 俺はそこへ向かった。
「おお、愛美。朝っぱらから男を連れ込んでなにしてたんだ?」
「べ、別になんだっていいじゃない」
 父さんが声をかけた。今はお父さんと呼んだほうがいいかな。
 その理由を知ってる優ちゃんはお父さんの隣でうつむいていた。笑ってるのか、
 それとも何か考えてるのかな?
「そうかそうか。ハッハッハッハ。おまえもそんな年頃か!」
「そ、そんなんじゃないってば!」
「あんまりお姉ちゃんをからかわないでよお父さんっ!」
 優ちゃん!ナイスフォロー!
「お姉ちゃんだってやっと恋をしたんだから!」
 ……前言撤回。
「そうだな。ほら、二人とも早く食べろ。遅刻するぞ」
「はーーい」
 優ちゃんは元気よく返事したが俺はとてもそんな気じゃなかった。
 さっさと朝食を済ませ、自分の部屋に戻った。
 机の上の教科書を鞄に入れ、愛美が書いてくれた魔法についてのメモをポケットに入れた。
 とくにたいしたことは書いてなかったが、簡単な治癒魔法だけ書かれていた。
 そして玄関で靴を履いていると後ろから肩をたたかれた。
 「お姉ちゃん!……今は二人だから健一さんと呼んだほうがいいかな……途中まで一緒に行かな い?」
 今はホントに姉妹なんだな。
 いろいろはじめて実感することが多くて
 俺は戸惑ってしまったが断っても悪いのでOKした。
「ああ、いいよ」
 靴を履き、玄関から二人はいっしょに外へ出た。
 外に出ると玄関先に学らんを着た愛美がいた。
「よう!愛美!」
「愛美……」
「お姉ちゃんったらすっかり健一さんになりきってる」
「とりあえず一緒に行こうよ」
「俺の気も知らないで」
 腕を愛美につかまれた。男の力って以外と強いと言うことが初めてわかった。
 ぐっと腕を引っ張られた。かなりの痛みを覚えた。
「愛美!痛いって!!」
「あっ、ごめん健一。男の子って以外と力が強いんだね」
「…………」
「じゃ今から私は健一。健一は愛美ね」
「ああ」
 そろそろ学校も近づいてきて、朝布学園の生徒がちらほら見え始めたので
 愛美は小声で話しかけてきた。
「じゃお姉ちゃん、私はこっちだから。私もバレないように注意するね」
「ホント、気をつけてね」
「じゃあな優ちゃん」
「ばいば〜い」
 優はかわいらしく手を振って走っていった。
「はぁ〜いつもならあの中に走っていけるのになぁ」
 俺は目の前にいる明ともう一人、秋山幸二の二人を見て言った。
「今日からは私があの二人の友達ってことになるのかぁ……」
 愛美も少し嫌そうな言い方をした。
「そう言うなよ。俺だって愛美の友達と付き合うことになるわけだし」
「それはそうだけど」
 なんでそんなに気づかうのか俺にはわからなかった。
 この調子で話し続けるとまた先週みたいなことになるので
 愛美は明達の方へ走っていった。
 俺は一人で朝布学園の門をくぐり、昇降口へ入っていった。
 教室に来て自分の席に座っていると話しかけてきたのは瀬戸君だった。
「なあ健一、おまえ先週の金曜、なんか変だったぞ?」
「え?なにが?」
「だって、急に石垣さんが気になるとか言い出すし、あれだけの人数に囲まれてた石垣さんはいなく なってるし……一体どういうことなんだ?」
 そうか!健一、あのとき私の側にいたんだ。そのとき瀬戸君もいたの〜?はぁ、どうしよう……。
「え、……えーと別に、ただめぐ……石垣が心配でさ……ほら、こないだあいつらに絡まれてた から……。だから……それにわたし……石垣はスキを見て逃げたっていってたよ」
「ふーん?」
 なんか疑り深い目だ。そういえばあのときなんであの神社に健一がいたのか聞いてなかったっけ。
 これでごまかせればいいけど……。
「……やっぱお前今日もおかしくないか?なんか雰囲気違うし」
「きっと、気のせいだよ!!」
 どうしよ〜これじゃバレるのも時間の問題かも……あ〜男の子ってわからないよぉ〜〜〜!!
愛美が明との会話に苦戦していた頃、健一も同じく苦戦していた。
 いきなり少女漫画の話をされてはまったくついていけない。
 もっとも、この話がホントに少女漫画の話なのかもよくわからないが……。
「愛美?聞いてる?」
「……え?あ、うん」
「もうっしっかりしてよ。もしかしてまだ貴樹のこと引きずってるの?」
「!……まさか、そんなことないよ……」
 今どきの女の子の趣味なんて俺にわかるはずなかったが。 ちなみにいつも愛美と話してたこのコは長井雪菜。俺としては結構かわいいと思うけどな。
 でも一体何考えてるのかわかんないや。
「あ、ほら先生が来たよ」
「あ……うん」
 長井さんは自分の席に戻っていった。
 女の子って難しいな……
「健一……瀬戸君ってどんな人なの?」
 昼休み、教室でぐったりしてた俺に愛美が話しかけてきた。
「そうだな、まあ疑り深いヤツではあるけどいいヤツだよ」
「疑り深い?それはわかる」
 ……もうあいつ疑ってるのか。こりゃあまりのんきにしてられないな。「じゃ、秋山君は?」
「別に変ったとこはないけど。俺よりちょっと頭が良くてゲームが好きってとこ」
「ゲ、ゲーム?私、ゲームなんてやったことないよ……」
「でもおれん家にあるゲームはほとんど幸二と明と一緒に買ってるからそれをやればわかるよ」
「あんなにたくさんあるのに覚えるの?勉強はどうすればいいのよ」
「勉強……あ!愛美って1学期のはじめのテストの順位何番?」
「え?……えーとクラスで5番……だったかな……」
「…………こりゃまずい。俺……30番なのに……」
「ええ〜!!?それじゃ私の成績下がっちゃうじゃない!」
「そんなぁ〜俺も毎日勉強勉強かよ!!」
「でも私だってそんな毎日勉強してないよ」
「え?でもなんでそんなに頭いいのさ?」
「そ、それはいつもの授業の復習や宿題くらいきちんとやってればいいかなぁ?って思ってやってただ けで……」
 なにぃ〜〜!?俺はいつもテスト前にやればいいと思ってテスト前日は一生懸命やるけど……
 そんなことでいいのかよ!!でも毎日か……俺に続けられるのか……?
「と、とにかくそのくらいやっとけばきっと大丈夫だよ!」
 そういえば俺は今天使で、魔法が使えるんだ。
 とりあえず聞いてみることにした。
「魔法使っちゃだめ?」
「だめ」
 すごい即答。まあ予想はしてたけど。
「はぁ。まあ仕方ないか。えーとじゃ俺からも聞いていい?」
「いいけど?」
「長井さんって……」
 と言いかけた俺に愛美は口を挟んだ。
「あ、言っとくけど長井さんって雪菜ちゃんのことよね?雪菜ちゃんっていつも呼んでたからそう呼ん でよ。まちがっても長井さんって呼ばないでね。あと、クラスの女子はたいてい名前で呼び合うから。
 ……委員長以外は」「委員長以外?……それはわかる気がする」
 委員長は男子が前田翔。女子が八木美沙というのだが、この八木さんがけっこう女子から一目置かれて る存在らしく、敬語を使う女子がいるくらいだ。
「そんなに委員長って怖いのか?」
「怖いって言うか、なんか近づきがたいのよ。あの態度もちょっと好きじゃないし」
「ふーん。いろいろあんだな。わかった。委員長には敬語使っとけばいいんだな?」
「うん。そんなカンジ」
 「あら、二人とも珍しいのね?いつも会話なんてめったにしないのに」
「えっ?」
 二人は声をそろえて聞き返してしまった。
 後ろを向くとなんと委員長が立っていた。
「ゲッいいんちょ……モガ……」
「健一!」
 俺は愛美に口を塞がれた。
 愛美は小声で俺に注意した。
「まあ、仲がよろしいこと」
 なんでこいつは今どきこんなしゃべり方するんだ?
 おばさんみたいなヤツだな。
「あまり学校内でいちゃつかれても目障りなので言っときますね」
「は?俺たちはいちゃついてなんか……ウグ……」
 また俺は口を塞がれてしまった。
 ついうっかりいつもの口調で言ってしまった。
「あ、えーとわかったよ委員長。やめるから」
 愛美は何とか弁解した。
 八木委員長は不思議そうな顔を一瞬だけ見せたが、
 すぐにいつものポーカーフェイスに戻し、
 そのまま行ってしまった。
「もうっ健一!なんて言い方してんのよ!」
 やっと愛美は俺の口から手を放してくれた。
「プハァ!ああ、ごめん。ついいつもの癖で……」
「その油断が命取りなの!気をつけてよ」
「ああ。でも委員長にそんな目で見られちゃうなんて困ったな」「……フフッホントよね。私たち、別に付き合ってなんか無いのに、ただ話してただけでそんな風に 言われるなんて。これが貴樹の耳に入ったら大変よね。何とかしなきゃね……」
 その場凌ぎじゃいつかはばれてしまう。
 俺たちは入れ替わったことを受け止め、今までの癖とかを直すべきだった。
 今すぐは無理かもしれないが。
「じゃ、これからはもっと気をつけるよ」
「私も」
 昼休みが終わりに近づき、次の授業が始まるので愛美は行ってしまった。
 ちょっと寂しい気もするが。
 「……あ、長井さんのこと聞くの忘れた」
 今日はそれ以外に特に問題はなく、
 帰宅部だった俺はさっさと家に帰ろうと思ったその時、
 後ろから愛美が声をかけてきた。
 今までは無かったことに俺の心境は複雑だった。
「健一!ちょっと待ってよ」
「愛美、どうしたんだよ?」
「健一は帰宅部だけど私はブラスバンド部なんだけど?」
「……!!あ」
「だから帰るのは私で、部活に行くのは今日から健一だよ?」
「そうか!……で、ブラスバンド部ってどこでやってるの?」
「体育館2階の視聴覚室。ちなみに私はクラリネットだから」
「クラリネット?なにそれ?」
「ああもうっ!一緒に行くわ。ついて来て」
 こうして俺が連れていかれたのは
 ブラスバンド部が活動している広い部屋、視聴覚室だ。
 体育館2階の視聴覚室はもう一般生徒は使ってなく、
 ここはブラスバンド部の部室になっている。
「こんにちは!!」
 となりで急に大きい声を出した愛美に俺はかなりびっくりしていた。
 が、声をかけられたと思われる人もそれ以上に驚いていた。
「……あなただれですか?めぐめぐの友達?」
「あっ、つい癖で……今は健一が挨拶しなきゃいけないのに」
「そ、そうか。すみません。えーと……」
 この人誰だ?俺さっぱりわかんないよ〜
「由美奈さん。我が部の部長だよ、健一」
愛美は小声でアドバイスしてくれた。
 部長ってことはこの人は3年生か。
 先輩に声をかけるのは初めてだった。
 それに先輩にはめぐめぐって呼ばれてるのか。
 そう呼ばれて俺は反応できるかな?
「すみません由美奈さん、えーと彼は七瀬健一です。特に関係ないですが……」
「ふーん。まあいいわ。とにかく早く準備して、音出しから始めてください」
「お言葉ですがえーと、部長さん、今日石垣は体調が優れないので欠席を言いに来たのですが」
 愛美は突然言い出した。
「そうなのめぐめぐ?」
「えーと……」
 戸惑ってると横から愛美が肘打ちしてきた。
「ほら、合わせなさいよ」
「あ、はいそうなんです」「そう、じゃ先生には言っておくから。早く治してくださいね」
 由美奈さんは愛美に言って部室に入っていった。
「ほら、行くよ健一」
「あ……待ってよ」
 階段を下りながら俺は愛美に言った。
「どうして仮病なんて使ったんだよ?やばいんじゃないのか?」
「だってあのまま健一を部活にいかせても何もできないでしょ?今日私の家……いや、健一の家に行って、クラリネットを吹いてもらうわ。それに音楽的知識も覚えてもらわないと」「え、マジ?と言うか、そもそもクラリネットってなんだよ?」
「えーと黒くて、リコーダーみたいな縦笛……そうちょうどあんな感じだよ!」
 愛美が指さす方向に2人で歩くブラスバンド部のコがいた。
 なんでわかったのかと言うと今言った黒いリコーダーみたいな縦笛を持っていたからだ。
「めぐめぐ! 今日は部活行かないの?」
 一人が話しかけてきた。
 以前ブラスバンド部はかわいい子がたくさんいるって噂を明から聞いていたが
 どうやら本当らしい。
 さっきの部長さんもかわいかったし、この二人もとてもかわいい。
 今はこう考えることができるが、いずれこのような感情も湧かなくなってくるのか……
「今日石垣は体調が悪いんだとさ」
 !そういえば俺が愛美じゃん。
 いい加減慣れないと。
 それにしても愛美は適応能力が備わってるなぁ。
「そうなの。ちょっと風邪気味で……」
 俺は愛美に合わせた。
 横目で愛美を見上げると
「それでいいの」って言うような目をしていた。
「大丈夫?めぐめぐ」
「かるい夏バテみたいなものだから」
「夏バテってまだ5月の終わりだよ?まあ今日は暑いけど」
「でも、めぐめぐ昔からちょっと体弱いじゃん」
「そういえば中学の時もよく休んでたっけ、この時期」
 そうだったのか……
 とりあえず二人にこれ以上心配かけても俺の気分もよくないし。
「心配かけてごめんね。たぶん直ぐ良くなるから」
「うん。お大事に〜じゃあねぇ」
「ばいばい!」
 俺は軽く手を振った。
 ところで俺はどこも悪くないんだけどいいのかな?「健一、さっきのしゃべり方、すごくよかったじゃん」
「変なことで褒められるのも複雑だな」
「まあまあいいから♪じゃ帰ろっか!」
「ああ」
 二人は一緒に家路についた。
 家の前につくと門が勝手に開いた。
 どこも自動かこの家は。
 家に入って靴を脱ぐと
 メイドに見つからないように部屋に行った。
 部屋に入って愛美は机の上にあった謎のケースを持ってきた。
 あのケースには俺も気づいたが、
 やたら触るとなにか言われそうなので、
 愛美の部屋の物はあんまり触れないようにしている。
「はいこれ」
「なんだこれ?」
「ニブいなぁもう。これにクラリネットが入ってるの」
「え、あんな長細いものがこんなに小さいケースに入ってるのか?」
「アハハハ!あのまま入ってるわけないじゃない!分解してあるの!」
「あ、そっか。そうだよね」
「じゃ組み立て方を説明するから……」
 いろいろ部品をだして(部品と言ってもそんなに小さいわけじゃないが)
 組み立てていった。
 その順序を覚えろってことなのか……?
「えーと組み立てたあとはこんなふうになるよ。覚えた?」
「うん」
「じゃはい」
 突然俺はクラリネットを手渡された。
「え、何?」
「分解してよ」
「あ、ああ」
 俺は今までの順序の逆にしたがって分解した。
 そしてケースに戻そうとしたとき、
「待って。いつも私がただ組み立てると思う?」
「……どういうことだ?」
「こういうこと」
 愛美は分解されたクラリネットの上に手をかざした。
 すると愛美の体が淡い光を発した。
 そのあと見えたのは透き通った薄い緑色の天使の羽を背中にまとった愛美だった。
 ……というか俺。
 手から光がクラリネットに降り注ぐ。
 俺がクラリネットに目をやったときはすでにクラリネットは
 組み立てられた状態にあった。
「魔法か。でもいつもこんな風に組み立ててるのか?」
「違うわよ。いつもは友達だって見てるし普通に組立ててるけど家で練習するときは魔法を使うわ。今日は天使の羽をわざわざ出したけど普段は出さないよ。強力な魔法……そう例えば滅びの魔法のよう な。そういった魔法を使うときは天使の羽を出さないと使えないけど、初級魔法ならとくに出す必要は ないよ。ただ今はちょっと試しただけ」
「そっか。たしかにこれ組立てるのも分解するのも面倒だしな」
「好きで私はクラリネットを選んだのだけどね」 「ってことは部活の時は普通に組立てるのか」
「そう。……面倒くさいけど」
「そうか。でもこれで魔法のかけ方がわかったわけじゃないんだけど」
「あ、えーと手をかざしてまず自分で魔法を使うって心に刻む。そのあと魔法でやりたいことを頭で想像して……あとは勝手に魔法が発動して効力を発するわ。でもこれは初級魔法の一部の詠唱の仕方で他にもあるけど健一にはこれだけあれば十分ね」
「ふーん。でさ、初級魔法ってどんな種類があるんだ?」
「代表的なのは手から光を発して物体を見る……要するに懐中電灯の役割。他には鍵を開けたり火を灯したり。今使った物体変化術、あとは読心術くらいかな?あんまり使いすぎると体内のマナ……。あ、自分の潜在能力である魔力の中枢って言えばわかる?それが枯渇するから気をつけてね。滅びの魔法を使ったときの私みたいになっちゃうから」
 長い説明だったが不思議とすべて理解出来た。
 読心術と言えば今まで気づかず使ってたような気がする。
 あいつの気持ちが知りたいとか思うと読めちゃうのか……。
「わかった。マナの枯渇は俺もごめんだな。愛美みたいになりたくないし」
「あっ、それってどういう意味?ん〜まあいいっか。話しが反れたわ。じゃ今組立てたクラリネット、一度吹いてみて」
 そう言われて置いてあるクラリネットを手に取り、
 くわえて吹いてみた。
 ポ〜〜〜
 音が出た。
 下唇が振動してくすぐったい。
「すご〜い健一!一発で音が出たよ!」
「そ、それってすごいのか!?」
「普通初心者には音がでるのかわからないほど難しいはずなのに」
「へぇ〜俺ってすごいのか」
 そのあと何度も吹いてみた。
 音の操作も教わった。
 1時間後にはドレミファソラシドすべて出るようになった。
「うん。この調子なら明日は部活に出れるかも」
 部活と言われて急に不安になった。
 ブラスバンドといえばたくさんの人と合奏するのだから
 一人が遅れれば全体に迷惑がかかる。
「俺、大丈夫かな?」
「大丈夫だよ!健一ならできるって!」
 こんなに愛美に励まされることがあるなんて……
 数日前までは夢だったのに。
 まだ付き合ってはいないけど。
「近いうちに文化祭があってそこで演奏することになると思うけどきっとできるよ!」
「ぶ、文化祭〜!?」
「え、知らなかったの?最終日にブラスバンド部の演奏会があるよ。3曲だけだけど。ホントなら私が出るはずだったのにね。……健一、絶対頑張ってよっ!」
 愛美はじっと俺の目を見つめながら言った。
 愛美の部活に打ち込む意気込みが伝わってくるようだった。
 愛美は文化祭に出られなくて残念そうだった。
 きっとその分も俺が頑張らなきゃならないと思った。
「わかった。俺絶対成功させて見せる」
「うん!」
 今までで一番俺の意志が固まった瞬間だった。
 絶対できる、そう自信が込み上げてきた。 
    第4話に続く……


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