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奮欲同発
作:干支



行きの通勤電車。今日私は運良く座席に座る事が出来た。後の駅から乗ってくる沢山の乗客がすし詰めになる中、私は少しばかりの優越感を覚えていた。電車が止まり再び乗客が乗ってくる。いつもなら気にも留めないがのだが、今日に限ってふと目をあげた。するとそこに制服姿の女子高生が立っていた。髪の毛を不健康に茶色く染め、けばけばしいメイクを施しとてもではないが美しいとはいえない。そして、まるで『みんな見て』とでも言わんばかりにシャツの胸元を開けている。そんな姿を見ると、ふと私の頭の中にありきたりなことが浮かんだ。『まったく今時の女子は・・・・・・昔は、日本の女性はおしとやかだ品が良い、などと海外からは言われていたのだが今の女子にはそんな事を気にする様子が全く無い・・・・・』そこまで思いかけて私は、頭を少し振った。全くつまらぬ俗な考えだ。まあ確かに今目の前にいる様な女子も少しはいるかもしれないが、皆が皆そうではない筈だ。むしろ(よくは解らないが)そうでない女子の方が多いのかもしれない。『それに・・・・・・』再び私は女子を見上げた。先ほどのような感情は湧きあがッては来なかった。『人には個人の自由や事情などもあるのだから、私が一方的に考えるのも・・・・・・・・・』だが、視線を彼女の下半身の方へ移しているうちに再び私に初めの感情がよみがえって来た。『全く、何だこのスカートの短さは。まるで自分の太ももを見せびらかしたがっているようではないか。そのくせ見られるのを嫌がりおって。』考え終えると私はゴクンと唾を飲み込んだ。不覚にもその足に欲情してしまったのだ。必死でその感情を振り払おうと心を落ち着けた。落ち着くと再び考え直した。『いやいや。物事には流行りや風潮と言うものもある。私の経験から言っても周りの子と違う格好と言うのは辛いものだ。自分だけが違うと言う理由で爪弾きにされたくなかったのだろう。』そう結論付けて目を上げると、目の前の少女が、
「何じろじろ見てんだよ。オッサン。キモいんだよ。」
「な・・・・・!」
 私は怒りをその言葉に覚えた。『なんだと!?貴様がそんな格好をしていなければ見られることも無かったのだぞ!』そういおうと私は口を開いた。だが私が言葉を返そうとするかしないかの内に彼女は電車を下り始めていた。どうやら私は電車が止まり人々が下りていった事に気付いていなかったようだ。だが彼女の後姿に再び私は欲情してしまい、怒りと欲の入り混じった複雑な気分で電車を下りた。


 帰宅途中の駅のホーム。今日一日の仕事を追え、私は電車を待っていた。すると、耳に何やら喧しい話し声が聞こえてきた。みると、なんと数人の女子高生が売店の前に陣取って我が物顔でくっちゃべっているではないか。しかもその足はあぐらをかき、恥も外聞も彼女等には皆無に等しいように思えた。私は朝のことを思い出して再び腹を立てた。『売店の前で雑談だと!?なんだあれは!!!許せん!朝のやつはまだ良かった。だがこれは格好がどうのこうのと言った問題じゃないぞ!他人の迷惑を考えられんのか!!奴等は!!!!』考えているうちに私の怒りのボルテージは急上昇していった。一瞬これが自己中心的な、独りよがりの考えにも思えたが、他人の迷惑と言う大義名分がそれを押さえつけ、私を行動に駆り立てた。
「君達!少しは周りの迷惑を考えたらどうかね!!??これじゃあ他の人も五月蝿いだろうしこの売店で物も変えないじゃないか!!」
 ホームにいる他の第三者たちが私たちのほうを見つめた。それほど私の声はおおきかったのだ。
 それを受けて女子高生たちの会話が止み、私を見上げる。その顔の殆どが今朝の女子高生のようにメイクをしていた。少しばかりはましな顔の者もいたが、彼女等も胸元を大きく広げ、見えるか見えないかと言ったほどの短いスカートを履いている。
「は?何?このオヤジ?」
「うぜーなあ。そんなのあたしたちの勝手だろ!」
「あはっはははは。きもいー。きもいー。」
 口々に言う彼女等の口調はとても粗暴であり、私には信じられないものであった。更に彼女等は何かを言い放っていたが、私の耳は怒りで何も聞こえなくなっていた。
「きっさまらー・・・・・・・!!!!!!」
 怒髪天をつくと言った所か、私は声を荒げて怒鳴ろうとした。だが、そうはいかなかった。
『三番線から電車が発車します。危ないですから・・・・・』
 私は怒りのあまり何もかもが解らなくなっていたらしい。ふと気が付くと彼女等は既に電車に乗り込んでいて、その向こうから哀れみにも見た侮蔑の表情を私に向けていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 怒りの捌け口を失った私はどうしようもなくなって、ただただ去り行く電車を眺めていた。


 その夜私は、布団の中で眠れずに悶々と過ごしていた。
 彼女たちの素行を何度も反芻し、繰り返し繰り返し、それらを悪く罵り怒りの捌け口としていた。それほど私の怒りは大きかったのだ。そして、今日の朝、少しでも欲情したことを異様なほどに恥じた。だがそんな中私の頭に別の思いが到来した。
「もし私が彼女等だったら・・・・・・」
 そう呟いた。勿論初めのうちは、私ならば絶対にあんな事はしないと考えた。だが、深く考えれば考える程、そうでない事に気付いていったのだ。そう。彼女等はただ単に時代の風潮に流されているだけだ。と。そしてそれらを正すにはもっと根本的なところから変えなければいけないことにも。そこまで考えると、私は深くため息をついた。
「だめだ。私には出来ない・・・・・・・」
 そう私にはもうそんな力はありはしなかった。せいぜい今日のように注意するのが関の山なのだ。『生まれた時代が悪い。今は女性の時代。私には無理だ・・・・・』私は思考を停止させた。こう考えて。『私が彼女たちなら・・・・』

 行きの通勤電車。この日は座る事が出来なかった。昨日の事が原因だったのだろう。私は少し寝坊した。
 すし詰めになりながら揺られていると、突然隣から声が上がった。
「きゃあ!!チカン!!」
 一瞬車内に衝撃が走った。暫くの沈黙の後、向こう側から声が上がる。
「誰がやったのかね・・・・?」
「こ・・・この人です・・・・・」
 声の主は女子高生であった。そしてその指は紛れも無く私を指差していた。

「だから!やってません!!大体証拠があるんですか?」
 あの後私は駅員室に少女とともに連れて行かれた。少女の言い分は紛れも無く犯人は私であったという。私は若干の怒りと恐怖を覚えた。何時であったか、テレビの痴漢冤罪のドキュメントを見たときに、罪を着せられた男は会社も首になり家族も無くしたそうであった。そうならないためにも、私は必死で訴え続けたのだが・・・・・
「証拠は彼女等だ。おい。入ってきて良いぞ。」
 閉められたドアに向かって呼びかけた駅員の声は驚くほど冷たかった。完全に私を犯人扱いしている。だが、次の瞬間そんな事はどうでも良くなった。
「はい。アタシ達。見ました。こいつが理佳の尻触ってるの。」
 ドアから入ってきたものの顔に私は見覚えがあった。昨日の女子高生達である。そう私は嵌められたのだ。
「お・・・お前たち!!」
 私は声を失った。次の瞬間私は絶望的とも言える言葉を聞かされた。
「お前がこれ以上騒ぎ立てて罪を大きくしないためにも言っておくが、目撃者は彼女たちだけだからな。」
 『違う・・・・こいつ等は昨日の復讐のために・・・・・そうだ。それしか考えられない。いや・・・・・・そうでなくとも私はやっていないのだ・・・・・』そう思いながら私は彼女たちを見た。彼女たちの顔は勝ち誇っていた。間違いない。確信犯だ。こんなことがあっていいのだろうか?私の心は混乱と驚愕でどうしようもなくなった。『これほどとは・・・・・今の少女は此処までやるのか?いや・・・・それよりも私のみの潔白だ。』
「調べられる事なら調べてくれ!!!私はやって
「大丈夫理佳?」
 無実を訴えようとする私の声に被せるようにして彼女たちは仲間を心配する声を出した。その声は昨日の私に対するそれとは天と地ほどの違いがあった。ここまでやるのだろうか。
「聞いてくれ・・・・!お願いだ!!!」
「ああ・・・・解った。解った。そういう事は警察でいえ。」
 もう私の言葉などは何の意味もなさなくなっていた。だがこんな状態の中で何故だか私の頭は施行を開始していた。
 『もしもここで、いや。あの場で私も一緒に叫んでいたら罪を免れる事は出来たのだろうか?いや無理だ。それ以前も私のような『男』が痴女だと叫んでも認めてもらえなかったのではないだろうか・・・・・?そうだ今は女の時代。ここで私がなにをしても無実は証明されないのだろうな。』
 やや混乱した頭で考える思考はやがて私を諦めの道へといざなった。もう駄目だ。奴等は被害者。私は加害者。美しい美男子ならば少しは希望もあるかも知れないが私にはそんなモノは無いのだろうな。
「ふふふ・・・・・・」
 私は笑みを溢した。ここまで来ると帰って気持ちが良い。そうだ。私と彼女等にはこれほどの違いがあるのだ。しかもこれは私の力のみではどうしようも無い社会の風潮・・・・いや・・・生命に元から存在するものなのだろうな。少なくともわたしが彼女達ならば希望も・・・・・
 ここまで考えて私は彼女等を見た。顔こそケバケバしいメイクで覆われているものの、スカートから伸びる足はむっちりとしていてそれでいてすらりと長く、体もなかなかのプロポーションだ。さらに私を痴漢だと車内で指差した少女に目を移した。彼女は他の者とは違い、メイクもさほどきつくは無い。はっきり言って美人だ。なるならば彼女だろう。
 此処に来て私は何故彼女等があんな姿をするのか理解したような気がした。『見られる快感』 そう。さぞかし気持ちがいいのだろう。あの美しい
 
 足を

 髪を

 胸を

 肌を

 そしてそのプロポーションを見せ付けるのは
 もし私が彼女ならば、絶対にこんな所でじっとはしていないだろう。己の体を思う存分もてあそぶだろう。その体で男を誘惑するだろう。その体をこいつ等のようにその『弱い』という社会の常識を利用して思う存分やりたい放題

 私が彼女ならば

 私が彼女ならば

 私が彼女なら
 私が彼女な

 私が彼女

 私彼女

 私私私私私私私私彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女彼女!!!!
 
 気が付くと私は目の前にいた理佳と呼ばれていた少女を抱きしめて奇声を上げながらホームに飛び込んでいた。
 
 そこで記憶が途切れた。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・か・・・・・・・てよ・・・・ねえ・・・・」
「ち・・・の・・・・・・わた・・・・・は・・・・がう・・・・・・・」
 近くと遠くで何か声が聞こえる。近くの声は何か私に呼びかけているようであった。
「ねえ!!理佳!!」
 そこで私は覚醒した。ガバリと身を起こすと、そこには私を見る先ほどの女子高生たちの顔が並んでいた。周りを見回してみる。どうやら私は駅員室に運び込まれ、寝かされたらしい。だが何かがおかしい。そう彼女等は何故か私に先ほどとは全く違う視線を注いでいた。そうまるで心配しているような。そこで私は『理佳』がその中にいないのに気が付きいぶかしんだ。『何故?すぐ近くで『理佳』に呼びかける声がしたような気がしたのだが?それに彼女たちの視線・・・・・一体・・・・』
「君達・・・・・・」
 何が起こっているのかを把握するため、彼女等に呼びかけて私ははっとした。この声。なんだこの声は!明らかにいつもの自分の声よりも高い音だ。いったい・・・・・
 そんな私の耳に遠くから野太い叫び声が届いた。
「いや!!!ねえ!!!助けてマリ!!お願い!!違うの!!!!私は理佳なの!!!」
 まるでべそをかいている様なその叫びは徐々にこちらに近づいてくる。そして・・・・・
「ねえ!!!!マリ!!!!」
 駅員室に現れたその姿に私は絶句した。それは紛れも無く私自身の姿だったのだ。自分が出す声と相手が聞く自分の声は微妙に違うので今までは解らなかったのだが、まちがいない。あれは私の体だ。
「私の体返してよ!!!」
 私の姿をしたそいつが叫んだが直に駅員につかまれて引き離されていった。その際「私は理佳なの!!!」という声が聞こえたが誰にも相手にされなかったようだ。それっきり声は聞こえなくなった。
 だがそれ以前に私の目玉は飛び出さんばかりで、心臓は今までにないほど高鳴っていた。
 『私の体返して』と言われた直後に自分の体の確認を開始し、今それを終えた私ははっきりと確信した。
 
 私は理佳と入れ替わった。

 そう認識した瞬間。私はエクスタシーを迎えた。絶大な快感が体と心に押し寄せ、それを止める事が出来なくなった。周りの者たちが「大変だったね。理佳。」「あんなオヤジ直にしけだよ。」「キモイーキモイー」等と言っていたが、そんな言葉はどうでも良かった。ただ理佳と言う言葉にのみ体を震わせ、歓喜に打ち震えた。そして・・・・・・
「じゃあ。あたし等先に行ってるから。センコーにはあたし達から言っとくから。」
 そう言うと目の前の女子高生たちは尚も心配そうな顔を私に向け部屋から去っていった。
 私は駅員室に一人になった。そこにある鏡の前に立つと、そこには先ほどの何倍も美しく見える理佳が・・・・いや私が立っていた。
 美しい足。美しい髪。美しい胸。美しいプロポーション。そして幼さを残すとはいえ世界三大美女に勝るとも劣らないであろう、美しい顔。
 私はそれを弄ぼうと手を伸ばす。今の私の心は言葉であらわすことは不可能。ただただ漠然とした幸福感があることだけは確かだったが。
 その後ひとしきり彼女を征服すると私は呟いた。

「さて。これからどうしてやろうか。」






<後書き>
まあ。今回はあまり書くことはありません。前回の作品を考えると、ノリで書いた作品ってのはあんまり良くないってわかってたのですが、書いてしまいました。というか書かずにいられませんでした。いつもは、なにかしらの伝えたい事を中心に(ほら〜TSは例外かな)書いていたんですが、そういう風にするとなにかがんじがらめに縛られるような感じで必ずしも自由な小説ではなくなっちゃうんですね。まあ『それはいかんな』ってなノリで今回のを書きました。まあつまり萌え主体な訳ですが、何をもって萌えとするかって言うと書いてる最中が一番萌えました。自己中心的ですいませんが、つまりそういう事です。前作より遥かに『ファンが減る作品』になったような気もしますが、とりあえずこの干支の次回作に期待してくださいませ。とりあえず今日はこれで。
最後に最後までこの作品を呼んでくださった方々へ。
まあ。これが私の初ダークな訳ですが、ともすると嫌悪感だけを感じられた方もいるかも知れませんが、今作を最後まで読んでくださって本当にありがとうございました。

午前3時数分前、暗闇の中より。by干支




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