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居候はレヴァの王子様

第一話 おやすみなさいは幸せの予感



 ぼくはそんなに運が悪いはずじゃないと思うんだけれど、その日は極めて運が悪かったというしかなかった。
 中学校帰宅部二年目五月の大型連休開け、下校途中のぼくの目の前十メートルに横たわっているのは、ぴったりとしたバイクスーツみたいな服を着込んだ人だった。服の先から生えている頭。頭から生えているセミロングの金髪。
 一瞬この近くを走り回っている暴走族かと思ったけれど、こんな早い時間から出てくるなんていう話を聞いたことがないから、たぶん行き倒れだと思う。
 人命の救助は何事にも優先すると保健体育の先生が言っていたので、近寄って様子を見ようと判断する。
 というか急がなくちゃ。
 手提げ鞄を放り投げてささっと駆け寄る。近くで見ると思ったより身体が小さかった。そっと身体を仰向けにする。急に体位を変えると良くないという話がちらりと頭をかすめたけれど、それは後の祭りだった。
 ふさあっと手に金髪が触る。
 真っ白い顔の真ん中にある閉じられた二つの瞼。ふんわりとふくらんだ頬。
「女の子だ」
 とりあえず、手のひらをその子の口に近づけて呼気の確認をする。
「な、ない? って、ことは、じ、人工呼吸、しなくちゃ」
 同じ年代の少女と口づけで人工呼吸をすると想像するだけで心臓がどきどきするのだけれど、これも人命のためだと自分に言い聞かせて実行に移す。右手でその子の鼻をつまみ左手で気道を確保しつつ口でその子の口を覆おうとする。
 その子の目がぱちりと開いた。
「なにを、しているのだ」
「え、あ、あのお、こ、こんばんは」
 意味不明だった。
 ぱっと両手を放して地面につける。そして両手両足を地面についたまま、蜘蛛のようにかさかさと動いてその子と一歩距離を置く。
 取りあえずごまかすしかない。
 右手をぱたぱたとその子に向かって振る。
「ね、ねえ、こんなところで、寝たら良くないよ」
 その子は目をぱちくりとした。
「そうなのか。知らなかったぞ。ありがとう。ここは太陽の光子エネルギーを吸収するのに都合が良かったのだ。太陽の光子エネルギーを吸収するときは呼吸数が著しく低下するが、心配はいらない」
 そう言ってその子は上半身をゆっくりと持ち上げた。真っ直ぐにのびていたその子の足がWの形にたたまれる。その子の手が軽く握られて胸の前に引き寄せられる。
「にゃ?」
 そう言ってその子はかくりと首を傾げた。
「へ?」
「どうした? これは起きたときの挨拶ではないのか?」
 変な蜘蛛の体勢の身体を起こして地面にしゃがみ込む。気を取り直してその子に言う。
「いや、それは違うよ」
 その子は、かあっと顔を真っ赤にして、両手を軽く握って口に当てた。
「そうなのか。じゃあこんな場合はなんと言うのだ?」
「いや、おはよう、とか」
 ちょっと、しどろもどろになったり。
 は。
 大切なことを忘れていた。たぶんこれが一番適切な行動だと思う。
「とりあえず警察に行こうか」
 その子はふるふると首を振った。
「警察はいやだぞ」
「どうして?」
「私は、地球から一四四光年離れたテスマート恒星系第五惑星レヴァの第三王子、名はメイという。恒星間戦争が起きているのだ。地球に亡命をしに来た。しかし、ことが公になってはいけないのだ。というわけで、おまえの家を亡命先に決めた。よろしく頼む」
 一〇〇パーセント疑いの眼差しを、メイと名乗った少女に向ける。
 あれ? 少女なのに王子なの?
「あのお、レヴァとかいう星では女の子が王子なの?」
 我ながら意味のわからない質問だったりする。
「世の中の物質は全て波動因子に対する作用要素でできている。レヴァの王族には物質の根元たる波動因子を組み替える能力が備わっているのだ。それを利用して地球人の少女の格好に表面を偽装している。万一追っ手が地球に来たときにごまかすためだ」
 頭が痛くなってきた。
「ちなみに、ご両親の許可も取ってある。地球のお金で当初の滞在費として三億円程度渡したら快諾してくれたぞ。地球人は優しいな」
 いや、優しさなんかじゃなくて、単純に金に目がくらんだだけだと思う。
 というか、まて。
「じゃあ、もうぼくの家に行ったってこと?」
 メイはにこっと笑った。
「そうだぞ。ちなみに、私の部屋は二階の南側の日当たりのいい部屋だそうだ」
「それって、ぼくの部屋なんだけど」
 メイは両手を組んで、上目使いにこちらを見上げてくる。
「私と一緒じゃ嫌か?」
 それはぼくの台詞だと思うんだけれど。
「なに、男同士一つ屋根の下、気にすることはない」
 気にするのはぼくなんだけれど。それに、意識は男同士といっても相手は女の子の格好をしているし。
「というわけで、明日から同じ中学校に登校するから、よろしく頼む。ちなみに、入学手続き等も完全にすんでいる」
 そう言って両手をあわせて、ぺこっとお辞儀をするメイはかっこいいと形容する必要がまったくないくらい可愛かったりする。
 とくり、と心臓が鼓動する。というか、なんでときめいているんだ、ぼく。
 既に運命の歯車は回りすぎるくらい回っているのだった。


「ねえ、これは何なのさ」
 いままで部屋の角が見えるということを自慢にしていた二階南側のぼくの部屋に、どーんと巨大な構造物が出現していた。
「これは、二段ベッドという物だ。知らなかったか。二次元的な構造物を、層状に重ねることで三次元空間の容量を有効的に活用できる物だ。ちなみに私は二階席を要求するが、いいか?」
「あの、ここにあった、机とタンスはどこに行ったの?」
 机は西側の壁に接するように置いてあって、タンスは東側の壁に接するように置いてあった。もともとベッドなんていう高級家具はなくて、押入から布団を出して敷物の上に敷いていた。四畳半の部屋はそんなに広くない。
 ところが今は、その四畳半の二畳分を、東側の壁に接するように置かれている二段ベッドが占領している。だから残りの空間は二畳半しかないことになる。
 メイはこともなげに言う。
「あの机とタンスか。あれは、波動因子を変更して二段ベッドに分子構造を組み替えた。私は高いところに寝るのが好きなのだ。二段ベッドの二段目に寝たいのだ。だめか?」
 メイは両手を握り拳の形にして、口元によせて、悲しそうな顔をして見つめてくる。
 さようなら、机とタンス。
「いいよ」
 がくっと崩れ落ちて床に両手をつく。
「そうか、嬉しいぞ。地球人は優しいな」
 メイの方を見上げると、メイはにこっと笑った。
 そんな顔をされてしまったら、だめだ、なんて言うことはできない。それに、あとで机とタンスの代わりにミカン箱を仕入れればそれですむ話だ。
「ベッドで寝てみたいと思っていたしね」
 これは事実。
 メイはいそいそと二段目に上がった。そして東側の天窓を開けた。二段ベッドの二段目からは東側の天窓に手が届くのだ。天窓から夕方の空気が入ってくる。
 嬉しそうにベッドの上に丸まりこむメイを見届けてから、ぼくは二段ベッドの一段目に身体を投げ出した。ベッドは堅すぎもせず、柔らかすぎもせず、ちょうどいい感じだった。二段ベッドの上を見上げる。二段目のマットの底は薄い桃色をしていた。
 視線を下にずらす。
 ベッドの上にはタンスの中に入っていた服がきれいに並べて置いてあった。それを見て、まだ制服を着たままでいたことに気がついた。並んでいる服の中から適当に服を選んで着替える。
 ベッドは東側の窓に接していた。下の段と上の段をまたぐようにして東側の窓がある。身体を起こしてカーテンの隙間から外をのぞいてみる。どうやら外は夕焼け色に染まっているようだった。そろそろ夕ご飯の時間だった。
「ぼくは、下に行って、夕ご飯のしたくを手伝うから」
 上にいるメイに向かってそう言う。
「んー、ちょっと、まて、わ、そんな急に」
 上でなにやら、ごそごそと動く気配がする。
 ベッドの下から顔をひょこりと出して、はしごの方をうかがった。
 黒いタイツに、エプロンドレス、肩に流れる金色をしたセミロングの髪、透き通ったエメラルドグリーンの瞳、頭につけたフリル付きのカチューシャ。順番にそれが下りてきた。
 メイはぼくの前に立って、くるっと身体を回して見せた。
「どうだ、なにか違和感はないか?」
 ふるふると首を振る。
「地球人の女の子に偽装しなくてはいけないからな。結構これでも、下調べは丹念にやったのだぞ」
 違和感はないけれど、調べる先を間違えたと思うのは気のせいだろうか。
「えっと、その格好は、何のつもりなのかな」
「いわゆるお手伝いさんスタイルではないのか。ディナーの準備をするのだろう」
 あわてて否定する。
「あの、うちの夕ご飯はディナーとかじゃなくて、サパーくらいの夕ご飯なんだ。だから、ひらひらのエプロンドレスにカチューシャ付きでお手伝いしなくていいんだよ」
 べつにしてもいいのだけれど、今回は見送ることにする。
「おお、そうか」
 メイは大げさに頷くと、再びはしごを二段目に上がっていった。
 そんなこんなで、夕ご飯を食べる前にだいぶ時間を食ってしまった。まさかエプロンドレスの後、三度もお色直しをやられるとは思ってもみなかった。
 というわけで、ぼくとメイがダイニングテーブルの席に着いた頃には、夕食の準備が完全に整っていたわけで、つまりぼくは夕ご飯のお手伝いをしない悪い子になってしまったというわけだった。
 メイが小さな声で言った。
「申し訳ないな。居候のくせに食事の手伝いをしないで」
 ちなみに今度のメイは、茶色系のスカートにパステル調のブラウスとカーディガンといった感じの派手さを押さえた服装だった。さっきまでの服が派手すぎたのだけれど。
 メイが申し訳なさそうな顔をしているのを見て、母さんは大きく首を振った。
「のー、もんだい。ゆーあーお客さんそーゆーいらないお手伝い」
 思いっきり日本語だった。
 メイは不思議そうな表情をしてぼくを見る。
「この地方の方言か?」
「あの、母さん、メイは宇宙からきたんだから無理に英語を使おうとしなくてもいいんだよ」
 母さんは、おほほ、と口に手を当てた。
「おや、そうだったわね。まあいいじゃん」
 父さんは出張中なので、三人でダイニングテーブルの三辺を占領することになる。もちろんメイが上座だった。本当はそこは父さんの席なのだけれど。
 いただきます、のかけ声のもとで夕食が始まる。今日の夕食には珍しくチキンカツが出ていたから、母さんが奮発していることがよくわかった。
「今日は、三億円ももらっちゃったから。チキンカツを買っちゃった。スーパーでタイムセールをやっていたしね」
「タイムセールとは何だ? 時間量子を切り売りしているのか?」
「違うのよ、ある時間に買い物をすると割引してくれるのよ」
「やっぱり、時間を切り売りしているではないか」
 三億円もらってタイムセールのチキンカツを買ってくる母さんも母さんだけれど、メイの言葉も変にずれている感じがする。
 食卓にはタイムセールのチキンカツの他に、庭でとれた菜の花のおひたし、きんぴらゴボウ、焼きじゃが、ご飯、みそ汁、自家製白菜漬けといった極めて小市民的な食事が並んでいる。
「メイってこのご飯で大丈夫?」
 と言ったものの、メイは既に小市民的な食事に箸をのばしていた。いつの間に箸の使い方を学習したのだろう。
「心配はいらない。表面を地球人の少女に偽装していると言っただろう。必要ならば食品の分子構造を入れ替えることもできるが、十分に必要な化合物は吸収できる。それにおいしいぞ」
 どうやら小市民的な主食とおかずはメイのお気に召したらしかった。


 食事の後で部屋に戻るとメイが身体洗浄室に案内してくれと言い出した。
「身体洗浄室って、身体を洗う部屋のこと?」
「当然だ。今の私の身体はいくら偽装した身体といっても、再生可能な有機化合物の集合体なのだ。そして、使い古された有機化合物は硬化して、体の表面に層状に堆積する。したがって、それを除去する必要があるのだ。というわけで、身体洗浄室に案内してくれ」
 なんだかよくわからないけれど、お風呂に入りたいということだと理解する。そういうわけで、バスタオルを持ってメイを風呂場に案内した。ちなみにうちの風呂場は二畳半ながらも、浴槽は大きめでシャワーも付いているという豪華なお風呂だった。まだ誰も入っていないのでメイが一番湯になる。
「使い方、わかる?」
「大丈夫だ。あのお湯が張ってある容器に洗浄剤を入れ、その中に浸かるのだな。取り扱い説明書があれば大丈夫だ」
 メイは自信たっぷりにそう答えた。
「絶対に洗剤を浴槽に入れちゃいけないよ。それに取扱説明書なんてないよ。洗濯機じゃないんだよ。ひょっとして、身体の洗い方とか、知らない?」
 だんだん心配になってくる。
「いつも、なめ……いや地球人の洗い方は知らないぞ」
 なめ、って何だろうと思ったけれど、身振り手振りで身体の洗い方を説明をする。
 メイは神妙そうに頷いた。
「じゃあ、二階で待ってるよ」
 メイが不安そうにこちらを見上げてきた。
「途中でわからないことがあるかもしれないから、ここで待っていてくれ」
「え、でも」
「デモではない。これは正当な要求だ」
 というわけでメイがお風呂に入っている間、脱衣所で控えていることになった。ぼくの見ている前でメイが服をぽんぽんと脱ぎ出しそうになるのを押さえるという一悶着があった後に、ぼくが脱衣所から出ている隙にメイは浴室に入っていった。
 脱衣所に戻って待機する。ぱしゃぱしゃという水音が聞こえる。まさか、身体を洗わないで浴槽に入っているのではないかと心配になる。案の定、浴槽に入ってしまっていたみたいで、ざばあと浴槽から洗い場に出る音が聞こえる。それからメイはきゅっと水道を捻ったようだった。そういえば温水の出し方を教えていなかった。あれは古いタイプで色々コツがあるのだ。
「ふにゃぁっ」
 すごい水音がした。一瞬、入ろうかどうしようか迷う。
 しーんと静まりかえってしまったので、心配になってすこしだけ風呂場のドアを開けてみる。
「だ、大丈夫?」
「み、見るな。今隠す」
「えっと、ご、ごめんなさい」
 ぱっとドアを閉めたけれど、白い肌とふっくらとした下半身とそこから生えていた黒いしっぽ、しとしととした金髪とそこから生えていた黒い猫耳は忘れることができなかった。
 メイの悲痛な声が風呂場から聞こえる。
「今見たことは、誰にも話すなよ。あれは、重要な秘密なのだ」
「う、うん」
 メイには見えていないはずだけれど、こくこくと頷いた。
 ちらっと見えたメイの身体は、いくら偽装のために作られた身体といっても、人間と同じ物でできているみたいで、とても柔らかそうに見えた。ということは、同じ年の少女の身体を初めて見てしまったことになる。
 かあ。
 ぼくは悪い子かもしれない。
 風呂場のドアを、とんとんと叩いて謝る。
「ごめんね」
 すこしして返事が返ってきた。
「気にするな。私の失敗だ。おまえの責任ではない」
「ほんとに、ごめんね、メイ殿下。あの、それから、ぼくは『おまえ』じゃなくてユイって名前があるんだ。よかったら、その」
 それ以上は、恥ずかしすぎて言えなかった。
 なかで、くすくすと笑う声が聞こえる。
「言いたいことがあるなら、気にすることなど無い。もとから男同士だろう。遠慮などいらない。ユイ、いい名前だな。それから私の名前に『殿下』はつけるな。追っ手が来たときに怪しまれる。メイでいい。それに、私はいままで、名前で語り合う友などいなかったから、逆に名前で呼んでくれた方が嬉しい……」
「あ、ありがとう」
 でもメイと呼ぶのは自然な感じだった。なぜなら出会ったときからずっと頭の中ではメイだったから。
「でも、やっぱり、二階に行くよ」
 くるっと、風呂場のドアを背中にして脱衣所を後にした。後ろでメイが何かを言ったようだったけれど、すたすたと二階に上がって、四畳半を占領している二段ベッドの一段目に身体を投げ出す。ベッドは柔らかかった。
 しばらくじっとそのままで、顔をうつぶせにしてベッドに押しつけてみる。ベッドの布団は、いつもの布団と違って太陽の匂いがして気持ち良かった。
 そういえば、ベッドの二段目はどうなっているんだろう。
 ぱっと顔を起こして左右をうかがう。まだメイはお風呂から帰ってきていない。一段目のベッドから出てはしごに手と足をかけて、上半身だけ二段目のベッドに乗り出してみる。
 ふわふわとした布団の上に、さっきメイが着ていたひらひらな服があった。両手を伸ばしてすこしだけそれを観察してみる。何層かにわかれている内張の布地はどれも、滑らかで柔らかかった。そして一番外のエプロンは、しっかりとした感じの作りになっている。
 一瞬それを顔に抱きしめたいという感覚がわき起こる。
「どうしよう」
「どうした?」
 ぱっと後ろを振り返ると、そこにはバスタオルを頭と身体に巻き付けているメイがいた。
 はう。
「なんでもないよ」
 しどろもどろになりながらも、はしごから下り、一段目のベッドから着替えを持っていくことは忘れないで、ぱっとドアから風呂場に行こうとする。
「待て、バスタオルを忘れているぞ」
 ひらり、とメイはバスタオルを身体から外す。
「ぶっ」
 立ち止まれ、理性。
「いいよ、自分のがあるから」
 ばたんと後ろ手でドアを閉めたときには、体中から滝の汗が出ていたのだった。
 お風呂に入って、パジャマに着替えて二階に上がると、もうメイはベッドで寝ていた。部屋の明かりは既に豆電球になっている。ぼくが部屋に入るとメイが上半身を起こして声を掛けてきた。
 メイが着ているネグリジェが似合いすぎている。
「すまないな。先にベッドに入らせてもらった。私は急速な休息を必要としているのだ。それから、ユイの机とタンスを波動因子レベルまでばらしてしまって済まなかった。お詫びがある。ちょっと近くに寄れ」
 はしごに足をかけて二段目に顔を出す。
 メイにぎゅっと抱きしめられる。
「こうすると地球人の少年は喜ぶらしいな」
 メイの胸に顔が押しつけられる。それはさっきの布団より柔らかくて、さっきよりもっと明るい太陽の匂いがした。
「よし」
 そう言ってメイはぱっと手を放した。
「これで借りはなしだぞ」
 メイは、にこっと笑った。
「う、うん」
 ぽうっとなったままで、ふらふらとはしごを下りて、一段目のベッドに潜り込んで、冷たい布団を頭からかぶる。なんだか、お風呂でのぼせたみたいで、顔が熱くてたまらなかった。
 そっと布団から顔を出して、二段目にいるメイに向かって声を出す。
「ねえ、メイはどうして、わざわざ女の子の格好をして、地球の学校に行こうと思ったの?」
 ふう、というため息が上から聞こえる。
「本当はずっと遠くの星系に亡命する計画だったのだ。しかしその星系までは最新型の亜空間ワープエンジンを用いても、一年半かかる。ユイは一年以上もの間、意識のないコールドスリープ状態でいられるか?」
 一年以上眠るなんて考えたことがなかった。
「ちょっと、地球に寄ってみたくなったのだ」
 想像してみる。
 長い宇宙の旅で、これからずっと眠らなくてはいけないと思ったとき、ふと近くに文明のある惑星を持つ星系があったらどう思うだろう。ちょっと立ち止まってみたくなると思う。宇宙から見たら太陽系はちっぽけな点だと思う。その点を目指して下りてくるときの感覚はいったいどういう感じなのだろう。
 ベッドの上の方から寝息が聞こえてくる。メイは眠ってしまったようだった。
 疲れた。
 こんな日は一生に一度くらいしかないと思う。
 今日は運が悪かったのかな?
 たぶんそうだろうと思うけれど、今日はそれ以上に運が良かったような気がする。ごろんと寝返りを打って横を向く。明日からメイは学校に登校すると言っていた。とりあえず新しい友達に明日の幸運を祈る。
「おやすみなさい」

#"Good night" is "Good luck"......

あとがき

 Plantain です。
 使い古された設定に、ありきたりの展開で、清く正しい台詞回し。そんな話を目指します。恥ずかしさなんかそっちのけ、見てる周りが恥ずかしい。そんな描写を目指します。明るい笑いは世界を救う。ひたすら明るい文体を目指します。
 なんだか選挙演説みたいになってきましたので、この辺で失礼します。
 読者の皆様、司書の皆様、その他、大勢の皆様に感謝します。

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