戻る


乱暴者プリンセス
作:eiri



 気がついた時には、周りを囲まれていた。
 人通りの少ない路地裏に入った途端、急に現れた人影をねめつける。
待ち伏せされていたのは間違いなかった。
 人数は6人。相手をするには少し厳しい人数かも知れない。
 普段なら他愛も無い人数だが、頭痛と吐き気の酷い、今の最悪な体調では片付けられるかわからない。
 それでも売られた喧嘩に尻尾を巻いて逃げることはしたくなかった。
 彼のプライドがそれを許さないのだ。
 東雲拓実はじりじりと間隔を狭めてくる相手を一瞥し、ゆっくりと顔を下へ向けた。
 そうして、拓実は長めの前髪をうるさそうな仕草でかき上げると、正面に立つ男に向かって薄く笑い、挑発的な口調で言った。
「……何だよ。何か用か? つーかてめえ誰だよ?」
 男の強張った顔へ瞬時に朱が走る。しれっとした態度で対する拓実を、男は歯軋りしながら睨みつけた。
「てめえっ!! ふざけるな!! ……ずいぶんと俺の仲間を痛めつけてくれたみてえじゃねえかよ。ああ?!」
 吼えるような物言いも平然と聞き流し、拓実は口の端を吊り上げて笑う。
「…はあ? んなこと覚えてねぇよ。申し訳無いですが、何時の事だか詳細に教えてクレマセンカ?」
 完全に自分を馬鹿にした言い草に男は怒りを爆発させた。
「うるせえ! タケ! ほんとにコイツなんだろうな?! てめえはこんな女みたいな生っちろい奴に負けたのかよ?!」
 男は視線を拓実から外し、左方へ向けた。その男は頭と右腕に包帯を巻き、顔にも青あざがいくつも浮かんでいた。
 その顔には見覚えがあった。鼻白んだ後、拓実はことさら嘲笑うかのような表情を浮かべる。
 タケと呼ばれた男が答えた。
「す、すみません! でも橘さん、コイツはみかけによらず卑怯な手を使いやがって…」
 拓実は冷ややかにタケを見遣り、さも可笑しそうに笑った。
「ああ。てめえかよ。悪かったな、覚えてるぜ。一昨日だったか、俺の弟に因縁つけてきたんだったよな。肩がちょっとぶつかったくらいで治療費10万なんて言ってやがるから、丁寧に身のほど教えてやったんだぜ。どうした、あんまり嬉しくて礼でも言いに来たのかよ。わざわざ仲間引き連れてご苦労様だな」
 橘は一瞬射るような視線をタケに向けたあと、馬鹿がと吐き捨てた。
 タケはくしゃりと顔を歪ませ、橘に向かって言った。
「た、橘さん! 違うんです! コイツは……」
「うるせえ! 黙ってろ!!」
 タケを一喝すると、橘は拓実をギラギラとした眼で睨み据えた。
「もう理由なんてどうでもいい。俺はてめえが死ぬほど気にいらねえ。それだけでぶちのめす理由は充分だ」
 拓実はふんと鼻を鳴らした。
「意外と気が合うかもな。俺もてめえらみたいなチンピラは気にいらねえ」
「やっちまえ!!」
 男の怒号が響いた。同時に場が激しく動き始める。
「野郎!」
 男たちが一斉に拓実へと襲いかかった。
  拓実は振りかぶる男の腕を払い、身をかわして足を払う。隙をついて、急所にキックをぶち込んだ。
 男たちの一人が奇声を発して倒れこむ。
 右から拳が飛んで、拓実の頬を掠った。捕まえようとする腕をなぎ払って身を翻す。
「てめえら何遊んでんだ!! 早くぶちのめしちまえ!!」
 橘の怒声が男たちに飛んだ。
 拓実はぎりぎりの所で身をかわすが、やはり多人数相手には息も上がる。
 喧嘩は慣れた拓実だったが、さすがに相手が多すぎたのだ。
 体調も更に最悪だ。頭痛がどんどん酷くなる。せりあがる吐き気も抑えようがない。
 拓実は少しずつ切れのなくなる体を感じ始めた。
 足がふらつき体勢を崩す。腹に一撃を食らった。思わず体を折り曲げる。
 腕にわき腹に足に蹴りと拳が打ちこまれた。
 痛みで目の前が滲む。近づく男の顎を下から思いきり打ち上げた。
 舌を噛んだ男が拓実から離れていく。それでも後3人。橘も含めると4人。
 拓実は痛みを堪えて舌打ちをした。
 逃げる訳にはいかない。ここで叩きのめしておかねば気が収まらない。
 打ち据える拳を払いのけながら、拓実は強い眼で橘を睨みつけた。
 そこへ意外な声が響いた。
「――――拓実! そこにいるのか!」
「雄介!? 何でここに……」
 拓実はあまりにも都合良く現れた友――叶雄介に驚愕の表情を浮かべた。
「何だ、てめえは?!」
 橘が叶に向かって凄む。
 しかし、次の瞬間橘は地面に這いつくばっていたのだ。
 男たちが慌てて橘の方へと走りよる。だが、近づいた奴から叶は叩きのめしていった。
 助かった――――。
 拓実はその場にずるずると座りこむ。
 頭が割れそうなほど痛い。内臓をぐにゃりと掴まれたような圧迫感と嘔吐感。自分を抱き抱える叶が何か言っているのはわかったが、言葉の意味を把握出来ない。
 意識が――――消える。
 拓実が最後の気力で出来たのは叶の名を呼ぶことだけだった。





戻る

□ 感想はこちらに □