戻る
01

 六時間目終了のチャイムが鳴った。、オレ(相沢祐樹)は教科書を閉じて、大きく伸びをした。
 退屈な授業は終わり、またいつもの放課後が始まる。
 ……さて、これからどうしよう?
 図書室へ行く→02  部室に行く→03  理科室へ行く→04


―― マルチエンディングストーリー ――

ボクと彼女のおねがい転校生

1/2な小生意気計画!!


                      CREATED BY MONDO


ぱたぱたアニメ(笑)



02

 がらんとした図書室には、幼なじみの恵理奈がいた。図書委員の彼女は両手にいっぱい本を抱えている。
「あ、ちょうどよかった。……ねえ、これ片付けるの手伝ってよ、祐樹」
 どうやら貸し出した図書の整理中らしい。
 恵理奈を手伝う→06  手伝わない→07

03

 陸上部の部室には誰もいなかった。……そうだ。今日は部活、休みだったっけ。
 帰ろうとする→08  何かの気配を感じて部屋の奥へ→09

04

 しまった。今日は理科準備室の掃除があったんだっけ。
 オレはあわてて理科室へと向かった。
「遅いよ、祐樹っ」
 小学校時代からのオレの親友、乾 雅文が先に掃除を始めていた。
「わりいわりい……さっさとやっちまおうぜ」
「……それにしても狭くて汚ないね、この準備室」
「こんなもんだろ? ほとんど使ってないみたいだし……」
 実験器具には薄く埃が積もっているし、購入年月日をみたら「昭和」のものまである。
 薬品にいたっては、いくつか出しっぱなし。……いいのか?
 そんなこんなで掃除を続けていると……突然ガクンっ、と床が揺れた。「……じ、地震っ!?」
 その拍子に棚の一番上に置いてあった小さなビンが落ちてきて、オレはその中身の液体を頭から浴びてしまった。
「うわわっ!?」
 一瞬、身体が柔らかく、ぷにぷにになったような感じがした。
 →59

05
「いいこと、女の子はいつでも清潔にしておかないといけないのよ……」
 母さんはオレにシャワーを浴びせながら、スポンジにボディソープを泡立てた。
「胸はこうやって、下から持ち上げるようにして洗うのよ」
「ひ……っ、ひゃんっ!!」
 背後から胸の膨らみを触られて、オレは甲高い悲鳴を上げた。
「何変な声だしてるのよ、もう」「は、初めてなんだからしょうがないだろ……っ」
 オレは顔を赤らめて、小声でそうつぶやいた。
「じゃあ、今度は大切なところの洗い方ね」
「い、いいっ! 自分でやるっ!!」
「だめ。いい加減に洗っていたら、汚れが残ってとり返しのつかないことになるかもしれないから……」
「……ううっ」
「ほらっ、さっさと脚を開くっ」
 母さんはオレのお尻を叩いてうながす。仕方なく、そろそろと脚を開くオレ。
「いいわね。……まずはこうやって――」
 う……うああ…………
 →61

06

「しっかり押さえといてよ……それからスカートの中見たら承知しないからねっ」
 恵理奈が梯子の上からそう言ってくる。でも大丈夫か? そんなに本抱えて。
「あ……っ!」「危ないっ!!」
 言ってる尻からバランスを崩して落ちてくる。オレはあわてて恵理奈を抱きとめようとしたが……
 ごちんっ!!
 おでことおでこをぶつけ合い、オレは目から火花をとばしながら意識を失った。
 →12

07

「それは図書委員の仕事だろ? 何でオレが手伝わなきゃならんのだ?」
「……ケチっ! いいわよ、ひとりでやるからっ」
 恵理奈と別れたオレは、だだっ広い書庫をあてもなくうろついていた。
「……ん? なんだこれ?」
 書架の隅にあった、赤黒い革表紙の本を手に取ってみる。高校の図書室には似つかわしくない代物だ。
 ページを開いてみると――
 →13

08

 帰ろうとすると、戸口で陸上部の女子マネージャーである恵理奈とばったり鉢合わせした。
「あ、ちょうどよかった。……今から部室の掃除するんだけど、手伝ってくれる?」
 幼なじみの彼女には逆らえず、オレは掃除を手伝うことになった。
 ロッカーの上を掃除する→14  ロッカーの下を掃除する→15

09

 妙な気配がしたので、オレはおそるおそる部室の奥へと入っていった。
 それにしても相変わらず汚ない部室だな。一度大掃除が必要かもしれない。
 陸上部の部室なのに、いろいろ変な物も置いてある。以前は漫研や化学部なんかが使っていたらしい……いつの雑誌だ、これ?
 ふと横を見ると、山のように積まれた洗濯物がもそもそと動いている。
 おっかなびっくりそれを払いのけてみると――
 →13

10

 更衣室のシャワーで、オレは身体中についた薬品(?)を洗い流した。
 やれやれ、ひどい目にあった。とりあえず、一応これで大丈夫だと思うけど――
 念のため保健室へ行く→16  そのまま家に帰る→17

11

「今日は大変な目にあったな……」
 家に帰ったオレは、ベッドに寝っころがって放課後の出来事を思い返していた。
 あの時の感覚が脳裏をよぎり、オレは思わず顔を赤らめてしまった。
 すると、突然――
 27もしくは46を通った→18  それ以外→19

12

「う……う〜ん……」
 おでこを押さえながら、オレは起き上がった。
「だ、大丈夫か恵理…………あ、あれ? なんだ? ……髪の毛?」
 目にかかる長い髪を払いのけようとして、オレは異変に気付いた。
「……痛っ!」
 思わず甲高い悲鳴を上げる。
「……あ、な……なんだこの声? ……えっ? な、なんでスカートなんか履いてるんだ?」
 オレはいつの間にか、女子の制服を着ていた。おまけにその胸元は、ふっくらと盛り上がり…………なぬっ?
「な、なんだこりゃっ!?」
 反射的に両手で胸を押さえつける。ぷにっとした感触が手のひらから、そして胸にある二つの膨らみを触られている感覚が。
 こ……これって…………ま、まさか!!??
 俺はあわててスカートの中に手を入れた。…………!?
「な……なななな、……ないっ!!」
「うう〜ん……」
 横に倒れていた人物がうめき声を上げながら身を起こす…………えっ!? お――オレ!!??
「だ……大丈夫、祐…………あ、え? だ、誰っ!? ……あ、あたしぃ!!??」
 オレそっくりのそいつも、仰天したような目つきでオレの方を指さす。
「な、なんであたしが――って、な、なななな何よこの声っ!?」
 目の前にいる “オレ” が、自分の身体をばたばたと触りまくる。
「……う、うそ……あ、あた、あた、あたしの身体にいいいっ!!」
 股間を押さえた手をばたばた振り回し、パニックに陥る “オレ” の身体。
「お……お前、も……もしかして、恵理奈、か――?」「ま、まさか、あ……あなた…………祐樹、なの?」
 →20

13

「ふ〜っやっと解放されたあっ! ありがとね……え〜っと――」
 中から出てきたのは身長30cmの、トンボのような羽根をもつ少女……妖精だった。
「あたしは妖精のリーナ。ねえ、あなた、名前なんていうの?」
 幻覚にしてはよくできている。オレは惚けたように返事をした。
「あ、ああ……相沢祐樹」
「ふうん、祐樹くんかあ……ほんとに助かったわ。そうだっ! お礼にいいモノあげるよ」
 妖精少女リーナがそう言うと、いくつもの光の球が現れて、オレの周囲をぐるぐる回り始めた。
「な……なんだあ?」「しっ! 動かないでっ」
 そして、光球はオレの胸元に集まるとひとつになり、閃光を放ってハート型のブローチに変わるとオレの胸にくっついた。
 次の瞬間――
 →19

14

 陸上部の部室なのに、いろいろ変な物が置いてある。
 以前は漫研や化学部なんかが使っていたらしい。……いつの雑誌だ、これ?
「ほらっ、そんなの見てないで、ロッカーの上でも掃除してよ」
「へいへい」
 ロッカーの上を雑巾で拭いていたオレは、隅の方に小さなビンが置いてあるのに気付いた。
「なんだ? これ」
 思わず手に取ってみる。と――
「あっ! ごめんっ!」「うわわ……っ!!」
 床をホウキで掃いていた恵理奈がオレの乗っている脚立につまずき、オレはハデな音とともにひっくり返った。
「だ……大丈夫っ!? 祐樹っ」
 おまけに手にしていたビンの中身を、オレは頭からかぶってしまった。
「……うわっぷ!!」
 一瞬、身体が柔らかく、ぷにぷにになったような感じがした。
 →59

15

「しっかり押さえといてよ……それからスカートの中見たら承知しないからねっ」
 恵理奈が脚立の上からそう言ってくる。見やしねえよ、お前のぱんつなんて……
 そんなこんなで、オレと恵理奈は部室の掃除を始めた。
 陸上部の部室なのに、いろいろ変な物が置いてある。
 以前は漫研や化学部なんかが使っていたらしい。……いつの雑誌だ、これ?
 と、その時――
「あ……っ!」「危ないっ!!」
 足元を滑らせて、脚立から落ちる恵理奈。オレはあわてて彼女を抱きとめようとしたが……
 ごちんっ!!
 おでことおでこをぶつけ合い、オレは目から火花をとばしながら意識を失った。
 →12

16

「あら〜っ、ちょうどいいところに来てくれたわ〜っ」
「…………」
 オレは笑顔を引きつらせながら、保健室の中へ入った。
 うちの学校の養護教諭、笑子先生にはちょいとマッドな一面がある。
 保健委員のオレは、何故かいつも先生の発明品の実験台をさせられているのだ。
「ジュースでも飲む? あ、コーヒーがいいかな?」
 ちょうど喉が渇いていたので、遠慮なくいただく。
「実はね……祐樹くんに新しく作った薬のモニターをやってもらいたいな〜、なんて」
 ぶ……っ!
 モニターじゃなく、モルモットだろ――そう言いかけたが黙っておく。
「今度のはすごいのよ〜っ。名付けて『ずっこん抜魂(ばっこん)』っ!! これを飲むとね……なんと幽体離脱しちゃうのよ〜っ」
 なんだその名前はっ。……何!? 幽体離脱だぁ?
「しかも精神力強化の働きがあるから、他の人間に憑依して、その人の感覚や運動機能を自由にすることができるのよ〜」
「そんなアホな薬、誰が飲みますかっ!」「あら残念。……でも、もうそのジュースに混ぜちゃったのよね〜」
 ニコニコと笑みを浮かべながら、笑子先生は薬の入った小ビンを手でもてあそぶ。
「……あ、うまく幽体離脱できたら確認できるように、誰か他の人の身体でここに戻ってきてね〜っ」
 次の瞬間、オレは強烈な眠気に襲われ、テーブルに突っ伏した。
 →21

17

 帰り道。
 オレは交差点のそばを通りかかった。
 小学生くらいの女の子が反対側の歩道から友だちに声をかけられ、あわてて横断歩道を渡りかける。
「……あ、危ないっ!!」
 猛スピードで交差点に突っ込んできた車に、オレは反射的に動いていた。
 少女を突き飛ばす。次の瞬間、オレの身体はその車にはねられて宙に舞った――
 43を通った→22  それ以外→23

18

 ぐにゃり……と視界がゆがみ、次の瞬間オレは全く別の部屋の中にいた。
「あ……あれ? ここって確か、恵理奈の…………えっ? こ……この声は……」
 あわてて自分の格好を見る。薄いポロシャツに、チェックのボックスプリーツ――
「な……なんでまた恵理奈になってるんだ〜っ!?」
 鏡に映った自分(?)の姿を見て、オレは思わず甲高い声を上げた。
 →24

19

 突然、胸に圧迫感をおぼえた。
「……なっ!?」
 胸元をはだけると、ぷくっ盛り上がった小さなふたつの膨らみがそこにあった。
「なっ、なんだこれ……? お、おっぱい?」
 次の瞬間、それはむくむくっ、と膨らみだした。
「う、うわああああっ!!」
 同時に手が、指が、腕や脚が細く小さく、しなやかに変化していく。
「……ああ、か、身体が――」
 お尻や腰、肩のあたりが丸みを帯び、肌が白く、きめこまやかになっていく。
 股間の “ナニ” がみるみる縮んでいき、身体の中へともぐり込んでいく。
「な……なんだこれ…………あ、あ……ああん……っ、……あっあ〜んっ…………」
 得体の知れない感覚に、オレは思わず嬉声を上げた。その声もまた、甘く、甲高く変わっていく。
 そして頭がムズムズしたかと思うと、バサッという音とともに、髪の毛が肩を越えて背中側に伸びた。「あ――お、オレ…………」
 13を通った→25  それ以外→26

20

「……ね、ねえ、これからどうするの?」
 オレになった恵理奈が、オレの顔と声でそう問いかける。
 股間の「もっこり」が気になるのか、さっきから何度も……こらっ! 何度もいじるなっ!!
「オレに聞くなよ……」
 恵理奈の声で、そう答えるオレ。
 どうやらおでことおでこをぶつけ合った拍子に、オレと恵理奈の身体が入れ替わってしまったみたいだ。
 マンガなんかでよくある話だが、まさか現実に起こるとは思っても見なかった。
 ひとしきりパニクったあと、オレと恵理奈は「これからどうするか」を相談し始めた。幸いなことに、ここにはオレたちしかいない。
「そうだっ! もう一度ぶつかったら元に戻るかしら?」「んな安直な……」
 ダメもとで試してみる→27  しばらくこのままお互いのふりをする→28

21

 うわ〜っ、マジで幽体離脱してるよ〜っ……
 保健室の天井近くをふわふわと漂いながら、オレは声に出さずにつぶやいた。
 足元には、テーブルに突っ伏してすーすー眠っているオレの身体と、そのほっぺたをつつく笑子先生が。
 そうだ、誰かに憑依してこい……って言ってたよな――
 目の前の笑子先生に憑依→29  幼なじみの恵理奈に憑依→30  気持ち悪いから自分の身体に戻る→43

22

 ああ……オレ、死んじまったのか…………
 幽体離脱の薬がまだ効いていたらしく、オレは……いや、オレの意識は宙にふわふわと浮かんでいた。
 しかし、戻るべき肉体はもはやない。
 眼下には、車に轢かれた “オレ” が、無残な死体と化して横たわっていた。
 でも、まるで現実感がない。
 オレが突き飛ばした女の子は……よかった、無事なようだ。
 救急車や、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
 それにしても……ここにいるオレの幽体は、これからどうなるのだろう?
 ぼんやりとそう思った次の瞬間、あたりが真っ白な光に包まれ、オレの意識はゆっくりと遠のいていった。
 これが、「死」なのか……
 いやだ…………もっと生きていたい……
 →32

23

 意識を取り戻したのは、病院のベッドの上だった。
「気がついたか……」「……父さん」
 ベッドの横にいたのは、オレの父親だった。
 とてもそうには見えないのだが、優秀な外科医にしてバイオ工学の権威なのだそうだ。
 身を起こそうとしたオレを、父さんはベッドに押しとどめた。
「祐樹、今から父さんの話を落ち着いて聞くんだ」
「…………」
「お前は小学生の女の子をかばって、交通事故にあったんだ」
「う……うん」
「この病院に運ばれた時、お前は全身複雑骨折で内臓破裂、手足は千切れとんでいて、とても助かるような状態ではなかった」
「う……うん」
「そこで父さんは違法と知りつつ、お前のクローン体に無傷だった脳を移植しようと考えたんだ。幸いにも実験用にお前の全身クローンを一体作ってあったので、それを使ってみた」
「う……うん」
「手術は完璧に成功した。お前は今すぐにでも退院することができる」
「う……うん」
「ただ……実験用に作ってあったのは、お前の異性体クローンだったんだ」
「う……うん…………って、はい?」
「だから、お前は今、女の子になってるんだ」
「……なんだとおおおおおっ!?」
 オレはがばっと起き上がった。……げげっ! ぴ、ピンクのネグリジェ着せられてるっ。
 胸元はふっくらと膨らみ、肩やお尻や腰つきは丸く、手足は細くしなやかで、髪の毛は肩を越えて伸びている。
 反射的に押さえつけた股間には…………なかった。「お、お……親父いいいいいいっ!!」
「こらこら、そんな可愛らしい声で『親父い』はないだろう。せめて『パパ』とか、『お父さま』とか――」
「そういう問題じゃないいいいっ!!」
 ベッドからとび降り、オレは父さんにつかみかかろうとした。と、その時……
「祐樹ちゃんの意識が戻ったんだって? …………か、可愛い〜っ!!」
 病室のドアを開けて入ってきた母さんは、オレの姿を見るなりいきなり抱きついてきた。
 →33

24

 突然、カバンの中にあった(恵理奈の)携帯電話が鳴り出した。
 あわててばたばたと両腕を振り回すと、オレはおそるおそるそれを取り上げ、通話ボタンを押した。
「は……はい、相沢……じゃなかった、み、宮里です……」
『……あ、祐樹〜っ? どう? そっちは大丈夫?』
 電話の向こうから聞こえてきたのは、“オレ” の声…… 「お前……恵理奈か?」
 18を通った→34  それ以外→35

25

 変化は身体だけではなかった。
 だぶだふになった制服のワイシャツとズボンが、衣擦れの音をさせながら形を変えていく。
 ぎゅううっ……と胸元を固定される感覚。
 フラットになった股間に、下着がぴちっと張りつく感覚。
 ズボンの左右はひとつになってふわっと広がると、すすす……と短くなって学校指定のプリーツスカートに変わった。
 ワイシャツの襟は丸くなり、ボタンの留め方が逆になって女子のブラウスになる。
 ベストはボレロに、白い靴下は黒のソックスに。
 そしてどこからともなくリボンが襟元に巻きつき、形を整える。
 ハートのブローチはその結び目にくっついて、一瞬キラッと瞬いた。
「……できたっ。それ元々魔法少女用のものだったんだけど、男の子にも効果があるのね〜」
 妖精少女リーナの嬉しそうな声が、呆然としたオレの頭上を通り過ぎる。
 壁にかかった鏡には、女子の制服を着た美少女……に変身したオレが映っていた。
「……って、なんじゃこりゃあああああっ!?」
 オレは甲高い声を上げた。
「何って……魔法少女の変身アイテムよ。二時間たてば元に戻れるから、そんな大げさに驚かないの」
 そう言って、オレの鼻先をちょん……とつつくリーナ。
「でもほんとに可愛くなっちゃったね。……よしっ、今日からあなたは魔法の女子高生相沢祐香ちゃんよっ!」
「ちょっと勝手に決めないでっ! だいたい男がこんな格好になって嬉しいと思ってるのっ!?」
 ……あれ? なんか変よ……変だ…………いったいどうしちゃった、の……?
「やだっ、あたし女言葉になってるううっ!?」
 オレ……あたしは口元に手を当ててうろたえた。そのしぐさもすっかり女の子している。
「今は中身も女の子だから問題ないわよ。……じゃあ、これからよろしくねっ♪」
 リーナはお気楽な口調でそう言うと、あたしの肩に飛び乗った。
「あ……ち、ちょっと…………もうっ、どうしろっていうのよ……っ」
 面白そうだから校内を歩いてみる→47  変身が解けるまで部室に隠れる→31

26

「う……嘘だろ?」
 鏡に映った自分の顔を見て、オレはそうつぶやくのが精一杯だった。
 そこに映っていたのは、だぶだぶの男物を着た、髪の長い女の子だった。
 ……つまり、これが…………オレ?
 サラサラした前髪、細い眉、ぱっちりした瞳、長い睫毛、ふっくらした頬。くちびるに触れる指は細くしなやかで。
「…………」
 華奢になった肩、二つの胸の膨らみ、くびれた腰と大きなお尻。
 そして十数年間慣れ親しんだ股間のぶらさがりものは、きれいさっぱりなくなっていた……
「うわああああっ!!」
 オレは手に持っていた鏡を取り落とし、パニックに陥った。
「お……お……女になってるうううううっ!!」
 頭からかぶったあの薬(?)のせいなのか? それとも……
「ちょっと祐樹、何変な声出してるのよ?」
 母さんがノックもせずに部屋のドアを開け…………その場に固まった。
 →33

27

「いい? いくわよ」「お……おう」
 オレと恵理奈は、同時に目をつむった。「「せーのーでっ!」」
 ごちっ!!
「ううっ……痛てててててっ。……あ、あれ?」「あいたたた……っ。……あっ」
 頭を押さえてうめき声を上げるオレと恵理奈。涙でかすむ視線のその先には……
「も……元に戻ってる…………」
「……ほんと」
 おでこをぶつけ合った次の瞬間、オレたちはなんと元の自分の姿に戻っていた。
「な……なんだったのかしら? いったい」
 いまだに不安なのか、スカートの裾をつまみ上げたり胸を触ったりしながら、恵理奈がつぶやく。
「こっちがききたい……」
 人間の精神って、こんなことしただけで入れ替わるような、そんないーかげんなものだったのか?
 オレたちはさかんに首をひねるが、納得できる答えは見いだせなかった。
 ……まあ、とりあえず元に戻れたんだ。めでたしめでたし。
「でもちょっと惜しかったな。……元に戻れるって分かってたら、もうちょっと男の子のままでいてもよかったかも」
 あの〜、恵理奈さん?
 →11

28

 とにかくこのまま座り込んでいてても、どうなるものではない。
 幸い、オレと恵理奈の家は隣同士、家族ぐるみの付き合いもある。
 元に戻る方法が分かるまで(……分かるのか?)、オレたちは互いになりすますことにした。
「こんなこと話したって、頭がおかしくなったって思われるだけだわ」
「なあ……恵理奈」
「何よ? 祐樹」
「あのさあ…………オレの顔と声で女言葉しゃべったら……なんか違和感ありまくりって言うか、気色悪くてさ……」
「うっ、う〜んそうね……確かに祐樹がオカマになっちゃったら嫌よね」
 オレになった恵理奈はそう言うと、大きく息をして肩を上下させた。
「あ〜っ、あ〜っ、お……オレ、……オレは相沢祐樹。オレは男…………こ、こんな感じで、ど、どう……だ?」
「ま……まあいいんじゃないかな。二人っきりの時はともかく、家族や大勢の前では注意してくれよ」
「じゃあ、今度は祐樹……いや、恵理奈の番よ……番だよ」
「うっ、わ……分かった……わ。…………あ、あた、あたしは恵理奈、宮里恵理奈……あたしはお、女の子――よ」
「やれやれ。自己紹介だけでそんなに顔赤くしてたら、先が思いやられるわ」
 肩をすくめる恵理奈の “オレ”。
「でももし変に男言葉使ったり、あたしの身体に変なことしたりしたら、こっちもみんなの前でオネエ言葉でしゃべっちゃうからね」
「は……はい」
 それだけは……勘弁してくれ。
 →36

29

 そもそも生徒にこんな得体の知れない薬を飲ませて、いいのかおいっ?
 だんだん腹が立ってきた……よ〜し、それだったら――
 オレは空中を泳ぐように飛び、笑子先生の背後に回った。
 さすがの先生も、幽体離脱したオレは見えないようだ。
 そして、オレは自分の幽体を先生の身体に重ねるようにして、その中へもぐり込んだ。
「ひ――ひゃうっ!?」
 いきなりすっとんきょうな声を上げる、笑子先生。
 オレの幽体が、先生の身体にじわじわとしみ込んでいく……
「あ、ああ……あっ、あ、ああ…………ん……っ、ああ……はあああ……っ、はっ、ああ……っ」
 先生の喘ぎ声が聞こえてくる。
「はあっ……あっ、ああっ、……あんっ、あ、ああん…………っ、あっ、ああ〜んっ」
 いつしかその声は、オレ自身のものになっていた。
 身体の重さを感じる。目の前には、だらしない格好でテーブルに突っ伏して眠る “オレ” の身体。
「…………」
 自分のものになった、笑子先生の手を見つめる。白くほっそりとした指。
 右手をそっと腰に当て、尻から胸に掛けてのラインを軽くなでる。
「あん……っ♪」
 股間にぴちっと張りつく下着と、足首を締めるストッキングの感触に、オレは思わず声を上げた。
 保健室の姿見に映るのは、ブラウスの胸が豊かに膨らんだ、ナイスバディの美人先生。
 ああ……オレは今、笑子先生に……女になっているんだ…………
 ボトムは黒いタイトスカート。上から羽織った白衣が、なんか色っぽい。
 伊達眼鏡をはずしてみる。仕事柄化粧っ気はないけど、うん、眼鏡がない方が断然いい。
「あ〜っ、あ〜っ、ああ………………んっふ〜んっ♪ ……ふふっ、今日からア・タ・シが笑子先生よっ」
 オレはしなを作り、鏡に向かってウインクしてみた。
 →48

30

 う〜ん、誰に憑依してみようか。
 だんだん面白くなってきた……よ〜し、それだったら――
 オレは空中を泳ぐように飛び、壁をすり抜けて運動場にとび出した。
 確か今なら、まだ部室に入るはずだ。
 グラウンドを横切り、陸上部の部室のドアをすり抜ける。……いたいた、恵理奈の奴。
 幼なじみの恵理奈のことならよく知っている。オレが成り代わってもボロが出にくいだろう。
 オレは自分の幽体を彼女の身体に重ねるようにして、その中へもぐり込んだ。
「ひ――ひゃうっ!?」
 いきなりすっとんきょうな声を上げる恵理奈。
 オレの幽体が、彼女の身体にじわじわとしみ込んでいく……
「あ、ああ……あっ、あ、ああ…………ん……っ、ああ……はあああ……っ、はっ、ああ……っ」
 恵理奈の喘ぎ声が聞こえてくる。
「はあっ……あっ、ああっ、……あんっ、あ、ああん…………っ、あっ、ああ〜んっ」
 いつしかその声は、オレ自身のものになっていた。
 身体の重さを感じる。目の前の鏡には、いたずらっぽい笑みを浮かべた恵理奈の顔が。
「……んふっ♪」
 自分のものになった、恵理奈の手を見つめる。白くほっそりとした指。
 両手をそっと胸に当てる。
「うわっ、恵理奈の奴、いつの間にこんなに大きくなったんだ? ……あ、あぁんっ♪」
 両手で胸をつかんで、オレは思わず甲高い声を上げた。
 ああ……オレは今、恵理奈に……女になっているんだ…………
 スカートからはすらりとした脚が伸びている。オレはごくり……と唾をのみこんだ。
 保健室へ戻る→37  もうしばらくここにいる→38

31

「……あれ? あんたまだここにいたの? 祐香」
「きゃっ!!」
 部室に隠れて変身が解けるのを待っていたら、あたしは突然後ろからそう声をかけられた。
 あわてて振り返ると――
「……え、恵理奈?」「どうしたのよ祐香? そんな変な声上げて」
 あたし……オレの幼なじみであるはずの恵理奈は、さも当たり前のようにあたしのことを「祐香」と呼び、親しげに話しかけてきた。
「あ……あの、恵理奈、……あたしのこと、知ってるの?」
「何わけのわかんないこと言ってんのよ? あんたは相沢祐香。あたしとは幼稚園以来のつきあいでしょが」
「え……?」
 ちょっと待って? 「幼稚園以来のつきあい」は男の祐樹とであって、女のあたしとは初体面のはずよ?
「…………ねえ、これどういうことなのよ……?」
 あたしは横でふよふよ浮いている、妖精少女のリーナに小声で尋ねた。
 ちなみに彼女は今、姿隠しの魔法を使っており、恵理奈にその姿は見えていない。
「う〜ん、“祐香” になったことで強制力が過剰に働いてるみたいね〜」
「なにその『強制力』って?」
「一言で言い表すのは難しいけど、要するに、祐香が “祐香” であるために働いている力……ってとこかな? この力が強過ぎて、まわりの環境や近しい人の記憶が “祐樹” から “祐香” に置き換わっているようね」
「……祐香、さっきから何一人でぶつぶつ言ってるの?」
 恵理奈が怪訝な表情を浮かべて、あたしの顔を覗き込む。
「……ほんと、今日の祐香、なんか変だよ?」
「あたしも自分でそう思う……」
 →56

32

 はっと我に返ると、白い天井が見えた。口元にマスクを当てられている。
「……おおっ、意識が戻った」
「よかった……」「やりましたね、先生」
 白衣を着た人たちが、次々にオレの顔を覗き込む。
 じゃあ、ここは病院? ……オレ、助かったのか? さっきのは……夢?
「うう……」
 マスクが邪魔で、うまく声を出せない。喉に酸素吸入のための管を差し込まれているようだ。
 オレは身体を動かそうとしたが……動けなかった。ベッドに身体を固定されているらしい。
 目だけを左右に動かす。どうやらここはER(救急処置室)のようだ。
「よかったあ…………ママ、心配したのよ……」
 誰……この人? ……ママ?
 知らない女の人が、涙をぽろぽろ流しながら、それでも精一杯笑みを浮かべてオレの顔を覗き込んできた。
「よかった……本当によかった…………先生、みなさん、なんとお礼を言っていいか……」
 これまた知らない男の人が、横で安堵の表情を浮かべていた。「娘の祐香を助けていただいて、本当にありがとうございました」
 祐香? 娘?
「うう……う〜っ、うう……っ、う?」
 オレはわけが分からなくなり、自分の身体を無理矢理左右に揺さぶった。
 あれ? な……なんか変だ? 身体を小さく感じる……それにこの高い声。これはオレの声じゃない!!
「どうしたの!? 祐香ちゃん!」「祐香、どうしたんだっ!!」
 女の人と男の人が、オレに向かって口々にそう呼びかけてきた。
「どうやら極度の興奮状態にあるようです。少し眠らせた方がいいでしょう……」
 ちくっ……とした痛みを左腕におぼえ、オレは再び意識を失った。
 →39

33

「……さあ、これを着るのよっ♪」
 母さんが差し出したものは、ブラジャーとショーツ――女物の衣類一式だった。
「あ、あのなあ……息子が突然女になって、どうしてそうあっけらかんとしてられるんだよっ!!」
「だってそんなことくらいで驚いてちゃ、この界隈じゃやっていけないわよ」
「どこの界隈だ? どこの?」
 意味不明な発言に、オレは速攻でツッ込みを入れた。
「とにかくこれ着なさい。サイズは合ってるから」
「こんなの着れるかっ! オレ、男…………ひっ! ……ひゃうんっ!!」
「この胸と……それからそんな声で、『オレは男』だなんて言っても説得力ないわよ〜♪」
 母さんの指が、オレの胸の膨らみをつつく。オレは羞恥心で顔を真っ赤にした。
 23を通った→40  それ以外→54

34

『ふふっ、驚いた? また急に入れ替わっちゃったからね〜っ』
 妙に嬉しそうな、“オレ” ……いや、恵理奈の声。
「どういうことなんだよ? いったい」
『う〜ん、もう一回祐樹と入れ替わってみたいな……って思ったら、祐樹の身体の感覚が感じられるようになって……』
「…………」
『……でね、強く念じてみたら本当に入れ替わっちゃった♪』
 お〜い。
 そのあと何度か試してみたが、オレと恵理奈は自分たちの意志で、お互いの身体を入れ替えることができるようになった。
 どうやら放課後のあの出来事で、オレたちは妙な能力に開花したみたいだ。
 →41

35

『あ〜っ、何か変なことしてたんでしょ?』
「ち、違うっ。……そんなことしてないぞっ!」
 オレはだらだらと汗を流しながら、声を荒らげた。
 それにしてもまたドンピシャなタイミングで電話かけてくるかなこの女は……あ、今は男か。
 後ろからバラエティ番組のバカ笑いが聞こえてくる。どうやらリビングから電話をかけてきているようだ。
『……はいはい、そういうことにしといてあ・げ・る・ね♪』
 思いっきり信じていない恵理奈の口調…………お、おい?
「……おい、家族がいる前でオネエ言葉使うなって言ったろ?」
 思わず声をひそめるオレ。だが恵理奈は電話口の向こうから、あっけらかんとこう返してきた。
『あ、そのことならもういいのよ。……だって祐樹のパパとママに、あたしが恵理奈だってバレちゃったし』
 ……えっ? ……ちょっと待てっ!!
『やっぱり家族の目は誤魔化せないわ…………てへっ♪』
「だからオレの声で『てへっ♪』なんて言うなあああああっ!!」
 いや……そういう問題じゃないっ!!
 →50

36

「あら恵理奈、お帰り」「た……ただいま」
 宮里のおばさん――恵理奈のお母さんに声をかけられ、オレは身を縮めて小さくそう返事した。
「……どうしたの? 学校で何かあったの?」
「い、いや……う、ううん、な、なんでもない…………わ、よ、ま……ママっ」
 恵理奈の口調を思い出し、言葉を選ぶ。いぶかしげな目を向けてくるおばさんを尻目に、オレはばたばたと家の二階へ上がった。
 かつて知ったるなんとやら。恵理奈の部屋に駆け込んで、ドアを後ろ手で閉めてほっと一息。
「はああ……緊張した……」
 少し落ち着きを取り戻して、部屋の中を見回す。
 暖かい色合いの壁紙、白いカーテン。マガジンラックの中にはティーンズファッションの雑誌、ベッドの枕元にはポプリとぬいぐるみ。
 典型的な、「女の子の部屋」である。
 クローゼットを開けてみる。当たり前だが、女の子の服がいっぱいぶら下がっている。
「こ……これ着るのか……」
 着替え……オレはごくりと生唾を飲んだ。着替えるためには、服を脱がなきゃいけない。
 つまり、オレは恵理奈の下着姿を見ることに……
 52を通った→64  それ以外→42

37

「あら宮里さん、どうかしたの?」
 恵理奈の姿で保健室に戻ってきたオレに、笑子先生はそう声をかけてきた。
 どうやら中身がオレだとは気付いてないらしい。……よ〜し、しばらく恵理奈のふりをしてとぼけてみよう。
「え〜っと、その……そうだ、祐樹くんいますか?」
「ああ、彼ならベッドで寝てるわよ」
 そう言って、先生はあごで部屋の奥を指した。
 オレはスカートを翻し、女の子走りでぱたぱたとベッドに駆け寄った。一番奥のベッドに、“オレ” の身体が寝息を立てている。
「あの……祐樹くん、どうかしたんですか?」
「う〜んえ〜っと……ちょっと疲れてたみたいね、彼」
「ほんとですかぁ? ……またなんかへんな実験につき合わせたんじゃないんですか? 先生」
「そ、そんなことないわよ……」
「ほんとに?」
 オレは恵理奈の顔で、上目遣いに笑子先生を見た。
「…………」
 乾いた笑顔を浮かべる先生。こめかみに、汗がたらりとひとしずく。
「……さてはコーヒーかジュースに変な薬入れて、一服盛ったんですね♪」
「!! ど、どうしてそれを? ……あっ! もしかしたらあなた宮里さんじゃなくて、祐樹くんなの?」
 オレは恵理奈の顔で、ニヤッと笑みを浮かべた。「やっと気がついたんですか……? 先生」
 →52

38

 オレは顔を赤らめたまま、もう一度鏡を見た。
「あ〜っ、あ〜っ、あ〜っ、……あ、あたしは恵理奈……宮里恵理奈よっ」
 オレは恵理奈になりきって、声を出してみた。
 女の子の甘い声が自分の口から出ることに、オレはだんだん興奮してきた。
 鏡の中の恵理奈は、そんなオレを挑発するような目つきで見つめてくる……
「んふっ♪ ……ねえ祐樹クン……祐樹クンに恵理奈のヒ・ミ・ツ、見せてア・ゲ・ル♪」
 後ろに下がり、スカートの裾をゆっくりとたくし上げる。
 興が乗ってきたオレは、制服のリボンをゆるめて、胸元のボタンを一つ、一つはずしていく……
「……ふうん、やっぱりそういうエッチなことやってるんだぁ」「!!」
 後ろからいきなり声をかけられ、あわてて振り返ったオレの見たものは――
「……お、オレ?」
 なんとそこには、意地悪そうな笑みを浮かべた “オレ” が立っていた。
 えっ? ちょっと待て。オレの意識は今、この身体に憑依していて、オレ自身の身体は抜け殻のはず……
 じ……じゃあ――
「お……お前は、だ、誰なんだ?」
「ふっふ〜ん、まだわからないの?」
 思わずあとずさるオレに向かってそう言うと、“オレ” は軽く首をかしげた。…………あっ! そのしぐさ……
「あ〜っ! お、お前……恵理奈だなっ!」「ぴんぽ〜ん♪」
 →46

39

『下校中の小学生をかばって、男子高校生死亡』
 そんな見出しの書かれた新聞を前に、オレはベッドの上で呆然としていた。
 オレ――「相沢祐樹」は、あの事故で死んでしまっていた。
 ならば、ここにいるオレは……?
 病室の壁に掛けられた鏡を見つめると、頭に包帯を巻いた小学五年生の女の子が一人、こちらを見返してくる。
 そう……これが今のオレ。
 名前は相沢祐香。……偶然の一致だろうか? オレの名前とは一字違いだった。
 彼女はオレが事故にあったのと同じ頃に、マンションの上の階から転落して病院に運ばれたのだそうだ。
 奇跡的に一命を取り留めたものの、頭を強打したショックで意識がなかなか戻らず、一時は心停止状態だったとか。
 おそらくその時に「本物の」祐香ちゃんは死んでしまい、代わりにオレの幽体がこの身体に引き込まれたのだろうか。
「祐香ちゃん、気分はどう?」
 病室のドアがノックされ、祐香ちゃんのお母さんが入ってきた。
「う……な、なんともないです……ないよ、ま……ママ――」
 つっかえながらそう言ったオレは、優しく抱きしめられた。「あせらないで祐香ちゃん……ゆっくり思い出せばいいから、ね」
 祐香ちゃんの両親は中身がオレになってしまった自分の娘を、転落のショックで記憶喪失になったと思っているのだ。
 だましているみたいで、良心の呵責をおぼえる。
 だけど、本当の事を話したら、二人をもっと傷つけてしまうのではないのだろうか……。
 そしてその時、オレはいったいどうなってしまうのだろう? それを考えるたびに、恐怖感にも似たものがオレの心に広がっていく。
「大丈夫? 祐香ちゃん」
 いつの間にか震えていたようだ。“ママ” が心配そうにオレの――祐香ちゃんの顔を見つめる。
 でも、今はこの暖かい眼差しが嬉しい。……たとえ、それがオレ自身に向けられたものでなくても。
 どのみち今のオレは、「相沢祐香」という女の子として生きていくしかないのだ。
 だけど、ついこの間まで男子高校生だったオレが、小学生とはいえ、はたして女の子としてやっていけるのだろうか?
 鏡の中の少女は母親に抱きしめられたまま、不安そうな眼差しを返してきた。
 →61

40

 オレは手渡されたブラジャーを、指でつまみ上げた。
「ほ……ほんとにこれ、つけなきゃダメ?」
「何言ってるの。ちゃんとしたブラつけないと、おっぱいが垂れてきちゃうわよ」
「ううう……」
 オレは目の幅涙を流しながら、ブラを胸に当てた。……嗚呼、さらば少年の日々よ。
 母さんに手伝ってもらいながらつけてみると、それは意外と快適だった。
 ぷるんぷるんした膨らみが固定され、胸回りが動きやすくなったみたいだ。
「じゃあ次は、これね」
 ショーツを履き、スリップを頭から被り、ベージュのワンピースを着せられる。
 スカートの裾が広がり、下半身がすーすーして落ち着かない。
「すぐに慣れるわ。気にしない気にしない」
 そうは言っても……
「髪の毛とかは母さんがしてあげるから、ちょっとここに座りなさい」
 言われるままに椅子に腰を下ろすと、脚を揃えるように指摘される。
 長くなった髪にブラシを入れられ、リボンでポニーテールにされてしまう。
「……母さん女の子が欲しかったのよね〜」
 やっぱりそうか…………なんてお約束な母親だ。
 眉の形を整えられ、まつげをビューラーで持ち上げられ、くちびるにリップを塗られる。
「はい、完成。……鏡、見てごらんなさい」
 鏡の中には、可愛らしい服を着た、髪の長い清楚な感じの美少女が頬を赤く染めていた。
 →45

41

『みんなには内緒にしといた方がいいわね、このことは』
「……ああ、ところでさあ……恵理奈」
『何よ? 祐樹』
「あのさあ…………オレの声で女言葉しゃべったら……なんか違和感ありまくりって言うか、気色悪くてさ……」
『うっ、う〜んそうね……確かに祐樹がオカマになっちゃったら嫌よね』
 オレになっている恵理奈は電話の向こうでそう言うと、大きく息をついだ。
『あ〜っ、あ〜っ、お……オレ、……オレは相沢祐樹。オレは男…………こ、こんな感じで、ど、どう……だ?』
「ま……まあいいんじゃないかな。二人っきりの時はともかく、家族や大勢の前では注意してくれよ」
『じゃあ、今度は祐樹……いや、恵理奈の番よ……番だよ』
「うっ、わ……わかった……わ。…………あ、あた、あたしは恵理奈、宮里恵理奈……あたしはお、女の子――よ」
『やれやれ。自己紹介だけでそんなにつっかえてたら、先が思いやられるわ……だけど変に男言葉使ったり、あたしの身体に変なことしたりしたら、こっちもみんなの前でオネエ言葉でしゃべっちゃうからね』
「……」
 どうも恵理奈に主導権を握られっぱなしだ。
『でも男の子の身体ってすごいね〜。胸がないから窮屈なブラいらないし……ここらへんなんか――』
「こ、こらっ! お前こそ変なとこ触ってるんじゃないだろなっ!?」
『……ちょっとくらいいいじゃない。ちっちゃい頃は一緒にお風呂入ったり、お医者さんごっこした仲じゃない』
「それとこれとは話が違うっ。それよかさっさと元に戻ろうぜ」
『え〜っ、せっかく面白くなってきたのに……そうだっ、明日お休みでしょ? 入れ替わったままで何処かに遊びに行かない?』
「なんだって?」
『あたしは男の祐樹として、祐樹は女の “あたし” としてデートするの。……面白そうでしょ? 決まりねっ』
「おい……勝手に決めるなっ」
『じゃあ元に戻してやんない』
「う……っ」
『とにかく明日の10時に、公園の時計で待ち合わせねっ♪ ……可愛い服着てくるんだぞ、恵・理・奈ちゃんっ。じゃあね〜っ』
 プツッ……ツー……ツー…………
 恵理奈の奴、結構適応力あるな……
 展開についていけずに呆然としていたオレは、このあと恵理奈の姿で風呂に入って着替えて寝ることを完全に失念していた。
 →49

42

 今日から「恵理奈」として――女の子としてここで暮らすのだ。
「き……着替えないわけには、い……いかない、よ、な…………今日からは、お、オレが恵理奈なんだし……」
 オレは恵理奈の顔と声でそう自分に言い聞かせると、ブラウスのボタンをひとつずつはずしていく。
 ぽろり……とまろびでる、ブラに包まれた二つの膨らみ。恵理奈の奴、結構色っぽい下着つけてるんだな……
「そ、そう……よ、今はあ……アタシが恵理奈なんだから、アタシの胸を見ても触っても、問題ない、わ…………うん、そうだ、そう決めたっ」
 オレはわざとらしくつぶやきながら、そろそろと両手で胸をつかもうとした――
 →24

43

 冗談じゃない! 要するにオレは “幽霊” になってる……ってわけだろ?
 それって「死んだ」ことになるんじゃ――
 一気に怖くなったオレは、テーブルに突っ伏したオレ自身の身体めがけてダイブした。
 そして……
「う……うう〜んっ」 ほっ……よかった。身体に戻ってる。
「あらら〜っ、失敗だったのかしらん?」
 笑子先生が首をかしげているが、そういうことにしておこう。
 →17

44

「ねえ恵理奈、何ぼーっとしてんのよ?」
 マネージャー仲間の麻美にいきなり声をかけられ、オレはビクッと肩を震わせた。
「べ……別にぼーっとしてたわけじゃないわよ」
 あああ、すっかり女言葉が板についてる〜っ。
 あれから一カ月。オレと恵理奈は家族のフォローの元、入れ替わったまま暮している。
 年頃の娘の身体に同じ年頃の男子の心が入っているという事態に、さぞや気が気でないかと思いきや……宮里のおばさんは、恵理奈が着たがらないふりふりのドレスなんかを、今のオレに無理矢理着せてはしゃいでいたりする。
「まるっきり知らない人と入れ替わっちゃったら嫌だけど、お隣の祐ちゃんならよく知ってるし、まあいいかな……てね」
 そして、当の恵理奈はというと……
「ずいぶん走り込んでるな、相沢。……今度の記録会が楽しみだなっ」
「はいっ!」
 オレの身体で早く走れることが楽しいらしく、今や男の子路線を一直線だ。
「はっは〜んわかった。相沢くんのことが気になるんだぁ」
 麻美がにやにやしながら、また声をかけてきた。
「だからそんなんじゃないってば……」
「……でも、ほら、相沢くんの方はそうじゃないみたいよ」
「…………」
 トラックコースでは、オレの姿の恵理奈がニコニコしながらこっちに手を振っている。
 ああ、早く元の身体に戻りたい……
 下腹部から伝わってくる鈍い痛みに耐えながら、オレは盛大にため息をついた。
 ENDING NO.1

45

 親父は、いつかオレの男性体クローンを作って元に戻してやる――などとほざていたが、怪しいものだ。
 速攻でリフォームされた自分の部屋を見て、オレはその思いを一層強固なものにした。
 暖かい色合いの壁紙。
 レースのカーテン。
 本棚にはポプリとファッション誌、机の上にはアクセサリーボックス。
「……そしてベッドの枕元にはぬいぐるみっ!! 女の子の部屋はかくあるべきだな、うん」
 それはともかく、その加藤み○りのナレーションが聞こえてきそうなBGMはなんだ?
 憮然としたオレを無視してひとり悦に入る親父。その頭を張り倒してやろうと思った時、階段の下から母さんの声がした。
「祐樹ちゃん、ちょっと降りてらっしゃい」
 言われるままに階段を降りる。ううっ……スカートがすーすーするっ。
 しかしクローゼットの中にはズボン系の服はひとつもなかった。くそっ、確信犯どもめっ。
「お風呂がわいたから、母さんと一緒に入りましょ♪」
 はひ?
 次の瞬間、オレの思考はオーバーフローした。
「シャンプーの仕方とか、身体の洗い方とかわからないでしょ? 教えてあげる」
「い……いいよそんなの……」
「だめよ。女の子の身体はデリケートなの」「はっはっはっ、母さんと入るのが恥ずかしいなら、父さんと――」
 がすっ!!
 母さんの右拳が急所にきまる。
 親父は「いいパンチだ、美佐江……」とつぶやきながらマット……もとい、リビングの床に沈んでいった。
 母親と一緒に風呂に入る→05  ひとりで風呂に入る→55

46

「ど……どうして……?」
「祐樹に憑依されてあべこべに幽体離脱しちゃったから、抜け殻だった祐樹の身体借りちゃった」
 オレの姿の恵理奈はそう言うと、いきなりオレを押し倒してきた。「あたし前から男の子になって、自分を襲ってみたかったのよね〜っ♪」
「ち……ちょっと待てええっ!!」
「や〜よ、待・た・な・い♪」
 オレはじたばた暴れたが、如何せん女の身体……あっさりと組み伏せられてしまう。
 恵理奈はオレの顔で、オレの……恵理奈の首筋に息を吹き掛けてきた。
「あ……だ、だめ……あっ、ああ……ああ〜ん……っ」
「へへっ、自分の弱いとこは自分が一番知ってるもんね……祐樹だってまんざらでもないんでしょ? あんなことしてたんだもんね〜」
 そう耳元でささやきながら、すりすりと胸の膨らみを愛撫(……)してくる。
「ああ……や、やめ…………やめて……」
 羞恥心と興奮と恐怖がない交ぜになり、オレは弱々しく声を途切れさせた。
「ふふっ、あたしってば可愛い♪」「あ……い、いや…………」
 ふいに身体の自由が戻った。きつく閉じていた目をおそるおそる開けると、オレの姿の恵理奈が立ち上がってこっちを見下ろしている。
「……な〜んてね♪ 自分の身体にそんなことするわけないじゃない」
 だ、だまされた……
「祐樹ったらおかし〜っ。本気で怖がってるんだもん――」
 いや……目がマジだったぞ、恵理奈。
 ショックと安堵ですっかり腰が抜けてしまったオレを、“オレ” の姿の恵理奈が抱え上げた。
「うわ〜っ、“あたし” ってこんなに軽いんだ…………あ、そうか、男の子の身体だから力があるんだ」
 そう言いながらオレを立たせると、恵理奈はポケットから例の薬を取り出した。
「さ〜て、勝手に人の身体を乗っ取ってオモチャにしたおしおきも済んだし、そろそろ元に戻りましょ。……笑子先生からこれ預かってきたんだ」
 →11

47

「……ねえ、ちょっとそこの彼女っ」
 スカートの感覚を楽しみながら廊下を歩いていたあたしは、呼び止めてきたその声に振り返った。
「あ……まさふ――」
 おっとっと、まずいまずい。
 あたしに声をかけてきたのは、男の時の親友、乾 雅文だった。
「あれ? 僕のこと知ってるの?」
「あ……え〜っと、その、あ……あたし、相沢祐香っていいます。相沢祐樹くんの親戚で、今日は祐樹くんの学校見に来たんです」
 リーナとあらかじめ決めておいた設定が、役に立ったわ。
「そっか、祐樹の……それで僕の名前知ってたんだ」
 なんの疑いもなくそう信じる雅文。ほっ、単純な奴でよかった。
「ところで……え〜っと、あ、相沢、さん――」「祐香でいいわよ、雅文さん。……で、あたしになんの用かな?」
 にこっと笑みを浮かべると、あたしは首をかしげてそう問いかけた。
「あ、あの……、も……もしよかったら、その……写真のモデルになってくれないかな? じ、時間があれば……で、いいんだけど……」
 消えかかりそうな声でそう答えると、雅文は耳の先まで真っ赤になった。……ふふ、可愛い♪
 そう言えば雅文、写真部だったっけ。
 モデルか……面白そうね。
 →62

48

 しばらく鏡の前で百面相をしたり、セクシーポーズをとってみたりしたが、だんだんと飽きてきた。
 服を脱いで下着姿を見てみたいが、さすがに学校の……保健室の中でそんなことやってて、万が一誰か他の人に見られたら……
 でも――
 無意味に左右をうかがうと、オレは笑子先生の顔をゆがめて、ブラウスの胸のボタンをひとつ、ひとつはずしていった。
 先生の豊かなバストが、今、オレの目の前に……と思ったその時、
 トントン――とドアがノックされる。……ちっ。
「は……はぁい、どうぞ〜っ」
 あわてて衣服をあらためると、オレは笑子先生になりきって、そう答えた。
「すみません先生、……祐樹の奴来てますか?」
 そう言いながら入ってきたのはオレの親友、雅文だった。
 適当に言っておく→65  誘惑してみる→68

49

 次の日。オレは恵理奈に言われた通り、可愛らしいミニのワンピースを着て、待ち合わせ場所に来た。
 若草色で、襟が肩のあたりまでひろがったやつだ。
 道行く人――特に男どもがオレの方を、ちらちらとうかがいながら通り過ぎていく。
 どこか、おかしいところでもあるのだろうか?
 スカートがすーすーして、不安な気持ちに拍車をかける。
「……待った?」
 “自分の” 顔を探していなかったため、オレは “オレ” の姿をした恵理奈に気がつかなかった。
「…………」「……もうっ、そういうときは『ううん、全然』とか言うものなのよ、女の子は」
 恵理奈はそう言っているが、オレは恵理奈の……いや、恵理奈の入った “オレ” の姿にちょっと驚いていた。
 ちょっと大きめの黄色いカジュアルシャツにプレーンタイをしてジーンズを合わせ、サスペンダーでアクセントを付けている。
 へえ……オレもおしゃれしたら、結構イケてるんだ。
「ふふん、何見とれてるのよ? ……それにしてもその服チョイスしてくるなんて、祐樹も意外と乙女チックね」
「お前が可愛いカッコして来いって言ったんだろがっ」
 手にしたハンドバッグを振り回してすごんでみたが、オレの姿の恵理奈はどこ吹く風だ。
「……さあ、どこ行こうか? 恵理奈」
 そう言って、オレのお尻をひょいとなぜる。「きゃっ!!」
 オレは思わず黄色い声を上げてしまった。“オレ” の――恵理奈の顔に「してやったり」といった笑み浮かぶ。
 恵理奈の奴、本気でオレになりきるつもりだな……
 こっちも女の子になりきってみる→74  恥ずかしいから素のまま→79

50

 恵理奈のお父さんの話では、宮里家に伝わる古文書の中にも、こんな入れ替わりの事例がいくつかあるらしい。
 宮里の家系は古代の斎姫(シャーマン)の血を引き、年頃の女子の中には一種のテレパシーで他人と人格が入れ替わる者がまれに現れるそうだ。
「……で、どうやったら元に戻れるんですか?」
「特に何もしなくても、ある日ふと元に戻るらしい。……もっとも、どのくらいの期間なのかはまちまちみたいなんだがね」
 つまり明日元に戻るかもしれないし、10年先になるかもしれないわけだ。
「…………」
 →44

51

 親父のコネが駆使されて、あれよあれよという間にオレの新しい戸籍が用意された。
 名前は相沢祐香。遠縁の親戚の娘で、両親に先立たれたため我が家に引き取られた……という設定だ。
 そして今日、オレは元いた学校へ女子生徒として転入する。
 女言葉はまだ使えないが、一人称を「私」にして、「です・ます」口調で話すことにする。
「……それじゃ相沢さん、自己紹介して」「はい」
 先生にうながされ、オレは黒板の前に立った。
 クラス中の視線が集中する。ううっ、恥ずかしい……
「今日からこのクラスに入る、相沢ゆ……祐香です。よろしくお願いします」
 ……まさか女子の制服を身につける日がくるなんて、思ってもみなかった。
 おまけに狙っていたかのように、同じクラスに編入されるなんて。
 当然、男のオレ――相沢祐樹のことを尋ねられるかと思っていたが……
「相沢あああっ、よくぞ海外留学してくれたああああっ!!」
「お前がいなくなってくれたおかげで、祐香ちゃんがうちのクラスに来てくれたんだあああああっ!!」
 こっ、こっ、こっ……こいつら〜っ!!
 →69

52

「薬作った私が言うのもなんだけど、ほんと信じられないわ……でも、あなたが祐樹くんなのは、間違いないようね」
 スカート姿で脚を組んでスツールに座るオレを見て、笑子先生はそうつぶやいた。
「ところで先生、恵理奈の意識はどうなってるんですか?」
「今は祐樹くんの方が優勢だから、眠った状態になってるわ。外界からの刺激は夢として認識してるはずよ」
「じゃあ、いなくなったわけじゃないんですね」
 憑依しといていまさらだが、オレは恵理奈の顔で安堵の表情を浮かべた。
「ふふっ……その気になったら、彼女の記憶や人格を浮かび上がらせて、女の子になりきることだってできるのよ」
「……へえ〜」
 あとで試してみよう。
「じゃあ、今日は宮里さんとして彼女の家に帰ってね。もう一度幽体離脱するには、丸一日のインターバルが必要だから」
「えっ? でも……」
「祐樹くんの身体は私が預かっておくわ。姉さんにはうまく言っておいてあげるから」
 言い忘れていたが、笑子先生はオレの母さんの妹――つまりオレにとっては「叔母」に当たるのだ。
 素のままで帰る→36  恵理奈になりきって帰る→66

53

 退院したオレは祐香ちゃんの両親に連れられ、「祐香ちゃん」として彼女の家に帰った。
 マンションの4階。そして今日から、ここがオレの家になるのだ。
「……どう? 何か思い出した?」
 祐香ちゃんの――自分の部屋に入ったオレに、祐香ちゃんのお母さんがそう問いかけてきた。
「…………」
 オレは黙って首を振った。演技しようかとも思ったが、ボロが出たらかえってお母さんを苦しめることになる。
 壁のハンガーには、白にエンジのラインが入ったセーラー服が掛けられていた。帽子のリボンと、スカートは紺色だ。
「これ着て……学校に行くんだ……」
 ぽつりとつぶやいたオレの言葉に、お母さんは笑顔を見せた。「そうよ祐香ちゃん。それ、あなたの制服よ……」
 →57

54

 オレは親父の病院で、検査を受けていた。
「信じられん……女性器がちゃんと機能している。乳腺も発達しているし、染色体まで変化しているとは――」
 言い忘れたが、オレの親父は優秀な外科医にしてバイオ工学の権威なのだそうだ。……とてもそうには見えないが。
「ここまでの変化を促すものといえば…………ま、まさかっ!!」
「ん……? 何か心当たりでもあるのか? 親父」
「祐樹、お前学校で小ビンに入った薬を頭からかぶったって言ってたな」
「あ、ああ……」
「そのビンに、『TS−01』とラベリングしていなかったか?」
「……そういえば、確か――」
「やはりそうか……」
 親父はその「TS−01」についての説明を始めた。……だがあまりに難解な用語が連続したので、それはオレの頭の中をあっさり通り過ぎていった。
「でも……ずいぶんくわしいな、親父」「当たり前だ。TS−01はこの天才のわたしが学生の頃作ったものだからな」
 は?
「当初は女性の胸を大きくするためのものだったのだが、長いこと放置していたので構造変化を起こしたのだろう。……サンプルが一滴も残っていないのが残念だ――」
「……お・の・れ・のせいかああああっ!!」
 オレは親父の首根っこを引っつかむと、その頭をがくがくと揺さぶった。
 →45

55

 長くなった髪の毛をなんとかまとめて、オレは目を閉じて湯船につかった。
 だが、余計に変化した身体のラインを意識してしまう。
 意を決して洗い場に座る。石鹸をタオルで泡立てて、いつものように身体を洗おうとしたが……
「……痛っ!」
 ほんの少しこすっただけで、すっかり丸みを帯びたオレの肩は赤くなってしまった。
 う〜ん、母さんの言う通りだ。女の子の肌はデリケートなんだ……
 今度はゆっくりゆっくり、優しくこすってみる。
 肩から腕、脇の下からおへそのあたり……
「はあ……はあ…………」
 胸を揉むように洗う。お風呂のせいかな……身体がほてって……変な感じ…………
 いつしかオレはタオルを落とし、両手で胸の膨らみを柔らかく揉みしだいていた。
「んっ……んんっ…………あ……ん、や……あ、はあ…………」
 石鹸の泡が、ぬるっとして気持ちいい……
 理性が警告を発している。だけど、オレの両手は止まらない。
 びくっ……
 び……敏感なんだ、女の子のオレ……
「……あ……っ、あうん……っ……あ、あ……っ…………うん……っ……」
 身体が……身体がもっともっと、求めている。
 オレ左手は胸を揉み続け、右手は無意識の内におへその下へと―― (以下、規定により自主規制……笑)
「……はあ……はあ…………はあ…………あ……い、…………いい……」
 オレは洗い場に身を横たえ、えも言えぬ快感の余韻に浸っていた。
 →58

56

 それからのオレは、一日2時間の女の子ライフを楽しむようになった。
 朝、起き掛けに変身。……女子高生になりきって登校する。
 お昼に変身。……女の子同士でランチタイム。
 授業の前に変身。……可愛らしい声で本を読み、可愛らしい文字でノートをとる。
 休み時間は暴れている男子を、腰に手を当てて本気で注意したりもした。祐香の時のオレは、クラスのムードメーカーといった存在のようだ。
 家でも変身してみた。「親父」と「母さん」が、「パパ」「ママ」という呼び方になっていたのは、男に戻ってから恥ずいものがあったが。
「ねえ祐樹、あんた最近めっちゃ楽しそうだけど、何かいいことでもあったの?」
「いやなに……学校生活に張りが出てきたと言うか、なんと言うか――」
 オレはそうごまかすと、いきなりダッシュで走り出した。怒鳴る恵理奈を置いてきぼりにして、一足先に部室に駆け込む。
 変身〜っ☆
「……もう、急に走り出すなんてどうしたのよ? 祐香ぁ」「ごめんごめん♪ ……さ、みんなあたしたちのこと待ってるよっ」
 あたしは恵理奈にそう言うと、制服を脱いでジャージに着替えた。
 男の時は陸上部の選手だけど、女のあたしは恵理奈と同じマネージャーになる。
「じゃあ祐香は先輩たちのタイム測って。あたしは新入生の方を見るわ」
「おっけ〜」
 マネージャーというのも結構大変である。でも、やってみるとそれはそれで楽しくなってきたりする。
 あたしって、意外と世話好きなのかしら?
「……なんだかすっかり女の子路線一直線ね、最近」
 姿隠しの魔法を使ってついてきたリーナが、そうツッコんできた。
「いいじゃん、今は正真正銘の女の子なんだし……それにちょっとずつ女の子でいられる時間も長くなってきてるしね」
 レベルアップしてるのかな? なんてったってあたしは魔法の女子高生だもんね♪
「今度はあたしが先に行くよ! 祐香」「あ〜ん、待ってよ恵理奈ぁ〜」
 あたしはストップウォッチとクリップボードを手に、部室をとび出した。
「やれやれ。……強制力が強くなり過ぎて、今度は男の子でいられる時間が少なくなるかもしれないのに――」
 ENDING NO.2

57

 次の日オレは学校へ行くため、制服に袖を通した。
 昨夜はアルバムをひっぱり出してきて、祐香ちゃんのクラスメイトの顔をおぼえようとしてみた。
 幾人かの名前はお母さんに尋ねて、そのたびに「知ってるような気がする」「よく分からないけど……」と、相槌を打っておいた。
 さすがに全員はわからなかったが、親しい友だちの名前と顔は一致させることができたと思う。
 制服姿の自分を姿見に映してみる。長い黒髪が白いセーラー襟とマッチして、くりっとした目と合わせてとても愛らしい。
 ついこの前までは、まさか女子の制服を身につける日がくるなんて(そして小学校に行き直すなんて)思ってもみなかったが……
「祐香ちゃん……」
 鏡の中の自分に呼びかけてみた。スカートがすーすーして、なんだか落ち着かない。
 帽子とカバンを手に取る。学校指定のカバンはランドセルではなく、学生カバンにショルダーベルトが付いているものだった。
 背負っていたのだろうか? それとも身体の前で持っていた?
 小学生だから、やっぱり背負うだろうな……と思ったオレは、ベルトに腕を通した。
 お母さんは特に何も言わなかった。これで正解だったのだろう。
「……やっぱりママも一緒に行こうか?」「大丈夫、だよ。心配……しない、で」
 学校までの道順は、すでに頭の中に入っている。
「そう……じゃあ、行ってらっしゃい祐香ちゃん。気をつけてね」
「行ってきます……ママ」
 オレはそう言うと、玄関のドアを開けた。
 エレベーターを使う→60  階段を使う→77

58

 オレの中で、何かが変わった。
 親父のコネが駆使されて、あれよあれよという間にオレの新しい戸籍が用意された。
 名前は相沢祐香。遠縁の親戚の娘で、両親に先立たれたため我が家に引き取られた……という設定だ。
 そして今日、オレは女子校へ転入する。
 ここの制服――白と緑を基調にしたセーラー襟のブレザーは、近隣の女子高生たちの憧れの的だ。
「……それじゃ相沢さん、自己紹介して」「はい」
 先生にうながされ、オレは黒板の前に立った。
 うわ〜、女の子ばっかし…………って当たり前か。ここは女子校なんだから。
 転入生としての緊張と、「女生徒」として大勢の前で話す興奮がない交ぜになり、下半身がキュン……となった。
「今日からこのクラスに入る、相沢祐香です。よろしくお願いします」
 ぺこりとお辞儀をする。長い髪が一房、前に垂れ落ちる。チェックのプリーツスカートの裾が、膝の上あたりをくすぐった。
 ついこの前までは、まさか女子の制服を身につける日がくるなんて思ってもみなかったが、どのみち男の “相沢祐樹” は、もう何処にもいない。
 今のオレは、誰がどう見ても女の子だ。
「……よろしくね、相沢さん」「『祐香』でいいよ。あたしのほうこそよろしく」
 隣の席の子にそう言うと、オレは小首をかしげてにっこり微笑んでみた。
 両親の前では恥ずかしいからまだ男口調だが、オレは一人称を「あたし」にして、女の子らしい言葉づかいを心がけた。
 そして二週間後に生理が始まり、オレは家でも自分のことを「あたし」と言うようになった。
 ENDING NO.3


59

 オレはあわててビンを拾ったが、中身は全て流れ出てしまっていた。
 ラベルが貼ってあった。「TS−01」? ……酸や毒物じゃないようだけど。
 それにしても、さっきの感覚はなんだったんだろう? ふわふわっとして、ちょっと気持ちよかった気がする。
 オレは備え付けの水道で、顔を洗った。
「大丈夫? シャワーで全部洗い流した方がいいんじゃない?」
 すぐにシャワーを浴びにいく→10  たいしたことないので、そのまま家に帰る→11

60
 ちょうどエレベーターが上から降りてきた。停止ボタンを押して、中に入る。
 だが、エレベーターのドアが閉まり、ガクッと揺れて下へと動き始めると、オレは言いようのない気持ち悪さをおぼえてその場にしゃがみこんだ。
 胸をぎゅっとわしづかみされたような気がして、息が詰まり……全身に嫌な冷や汗が流れる。
「くっ……な……なんだ…………っ?」
 次の瞬間、視界がはじけた。
 マンションの入り口。キャップを目深にかぶった、高校生くらいの人影。
 人気のない廊下。口を押さえられて組み伏せられ、全身をまさぐられる感覚。
 涙を流しながら暴れるオレ。頬を平手打ちされる。
 そして…………
 チン、という音がしてドアが開くと、オレは転がるようにエレベーターを飛び出し、廊下の壁に手を当てて息を荒らげた。
 はあ……はあ……はあ……はあ…………
 “思い” 出した。オレは……祐香ちゃんは事故だったんじゃない。誰かに襲われ、突き落とされたんだ――
 →88

61

 ああ……これからどうなるんだろう……オレ…………
 ベッドの上でぼんやりと、そんなことを考える。
 生まれてから十数年間ずっと「男」として生きてきたのに、いきなり「女の子」になってしまった。
 元からそんな願望のある奴ならともかく…………全く、代わってやれるもんなら代わってやりたいよ。
 こんな格好じゃ、友だちにも会えない。
 そう思うと、何故か涙があふれてきた。……くそっ、涙腺ゆるいぞこの身体っ。
 オレは寝間着に着替え(ああそうだよネグリジェだよっ)、ベッドにもぐり込んだ。
 “目が覚めたら、全部夢でした” という展開を、秘かに期待しつつ。
 39を通った→53  それ以外→51

62

 本来予定していたモデルの子がドタキャンになって、代わりを探していたんだとか。
 1時間だけなら……ということで、あたしはモデル役を了承した。
 演劇部の子に写真に映えるようメイクを施してもらって、撮影に望む。
 撮影は本格的だった。雅文もいつもとは違う真剣な表情で、シャッターを押し続ける。
 ふうん、「プロになりたい」って言ってたの、本気だったのね……。
 あたしも雅文のために、できるだけ自然な感じでポーズを作り、微笑んでみた。
「ありがとう祐香さん。すごくいい写真が撮れたよ」
 雅文が汗だくになりながら、それでも笑みを浮かべて駆け寄ってきた。
「ううん、雅文くんが真剣にがんばってたから、あたしもついその気になっちゃった」
 スポーツドリンクを受け取りながら、あたしは彼をねぎらった。いつの間にか呼び方が、「さん」から「くん」に変わっていた。
 今日撮った写真は、来年の学校案内に使うそうだ。
 う〜ん、男に戻った時、どんな顔してその写真を見ればいいのかしら?
 しばらくその場に立っていた雅文は、やがて意を決したようにうなずくと、あたしの目をじっと見据えてきた。
「それで……もし、……もし祐香さんがよかったら、またモデルになってくれないかな? ……僕のために――」
 僕のため? ……それって遠回しに、交際してくれっていうことなの?
 申し出を受ける→67  断る→72

63

 誰もいなくなった保健室。隅のベッドに寝かされていた祐樹の身体が、むくりと起き上がった。
「ふう……やれやれ、アスタルテ先生にも困ったものね……」
 そうつぶやきながら、鏡の前に立つ。
「でもまあ、あれで当分こっちの世界にはこないでしょ。祐樹くんには悪いけど、あたしの代わりにお姫様やっといてね♪」
 さあ……かっこいい男の子の身体が手に入ったんだから、楽しまなくっちゃ。
 祐樹の身体に宿った笑子先生――エミーナ姫は、そう口の中でつぶやくと、にんまり笑みを浮かべた。
 ENDING NO.4

64

「仕方ない……恵理奈になりきってみるか」
 オレはそうつぶやくと目をつむり、恵理奈の記憶と人格を “呼び” 出そうとした。
 意識が恵理奈のそれと、じわじわ混じり合っていく。
 ……オレは恵理奈、宮里恵理奈。ここはオレの……あたしの部屋――
「あ、いけない。さっさと着替えなきゃ……」
 あたしはそう言うと、制服のブラウスを脱いで下着姿になった。
 そしてその格好のまま、姿見に自分を映してみる。
「んふっ……♪」
 あたしってば、結構イケてるう。
 男の欲望と女の感覚が交じり合い、興奮するけど恥ずかしくはない。
「……でも、もうちょっと胸があった方が……いいかな?」
 オレ……あたしはそう言って首をかしげると、ブラジャーの上から胸にそっと手を当ててみた。
 →70

65

 オレの身体は、一番端のベッドに寝かせてある。
「祐樹くんなら確かに来たけど……図書室の方に行くって言ってたわ」
「そうですか……すいませんでした。失礼します」
 雅文はそう言うと、さっさと保健室から出ていった。……なんだ、面白くない。
「笑子、いる〜?」
 いれ違いに入ってきたのは、国語の関本麻美先生だった。笑子先生とは、年が近いので仲がいい。
「……あれ? 笑子、眼鏡はずしてるの?」
「えっ? あ……う、うん、ちょっとね」
「はっは〜ん。今日のために眼鏡のないのに慣れておこうと……」
「今日って?」
「忘れたの? 今夜若手のお医者さんグループと、合コンやるって前から言ってたじゃない」
 ご……合コン?
 →83

66

 恵理奈の家の前で、オレは大きく深呼吸した。……よし、それじゃあ「記憶と人格の呼び出し」というのをやってみよう。
 オレは目をつむって、恵理奈の記憶と人格を “思い” 出そうとした。
 意識が恵理奈のそれと混じり合っていく。……オレは恵理奈、宮里恵理奈。ここはオレの……あたしの家――
 うん、いける。
 さっきまで感じていた胸や股間の違和感が、きれいさっぱりなくなっている。
 スカートも恥ずかしくないし、なんだか優しい気持ちになってきた。
「うふっ♪ あたしは恵理奈、宮里恵理奈よ」
 なんの澱みもなく、そう言える。玄関を開けて、家の中へ――
「あら……お帰り、恵理奈」「ただいまっ、ママ」
 オレ……あたしはママにそう答えた。
 目の前に入るのは、あたしのママ。ちょっと気が強いけど、とっても優しいあたしのママ。
「……どうしたのにこにこして? 学校で何かいいことでもあったの?」
「ふふっ、ひ・み・つ・よっ♪」
 きょとんとしているママを尻目に、あたしはぱたぱたと家の二階へ上がった。
 自分の部屋に駆け込んで、ドアを後ろ手で閉める。
「えへっ……ちょっと緊張しちゃった……」
 ぺろっと舌を出すと、あたしは部屋の中を見回した。
 暖かい色合いの壁紙、白いカーテン。マガジンラックの中にはティーンズファッションの雑誌、ベッドの枕元にはお気に入りのポプリとぬいぐるみ。
 ここにいると、すごく落ち着いた気分になる。……そう、ここはあたしの部屋。
 クローゼットを開けてみる。女の子の服がいっぱいぶら下がっている。
「さてと……どれ着ようかな……」
 すっかり恵理奈になりきって、あたしは服を選び始めた。そして、慣れた手つきで制服を脱ぎ、下着姿になった。
 →71

67

 雅文の真剣な表情を見て、あたしの胸はキュンとなった。
 ダメ、あたしは2時間だけの女の子……なのに、口からは心と裏腹な言葉が出た。
「うん……あたしでよければ――」「本当? あ……ありがとう」
 それでいいの? ……本当にいいの? 心の中で何度もそれがリフレインする。
 だけどその時の雅文の嬉しそうな笑顔に、あたしは女の子としての気持ちをときめかせていた。
 →91

68

 オレの身体は、一番端のベッドに寝かせてある。
「祐樹くん? ここには来てないけど……」
 オレは笑子先生の顔と声で、そう答えた。
「そうですか……それじゃ失礼――」「ちょっと待って。コーヒー飲んでいかない? ……おいしいコーヒー豆が手に入ったのよ」
 コーヒー通を自認する雅文は、「んじゃ、飲んでいこうかな」と言って、スツールに腰掛けた。
 オレはコーヒーを二人分入れると、ゆっくりと雅文に近づき……わざとつまずいた。
「きゃあっ」
「せ、先生っ。……うあちちちっ!!」「あら大変っ! すぐ服を脱いでっ」
 茶色いしみのついたワイシャツとズボンを、無理矢理脱がせる。
 雅文の奴は、恥ずかしさで縮こまってしまう。
「……ふふっ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいわよ、雅文クン」
 ガーゼと消毒液を手に、オレは笑子先生の口調で雅文の耳元でささやいた。
 顔が真っ赤になる雅文。「せ……先生っ」
 オレはますます興に乗り、甘い声とともにその耳へ息を吹きかけた。
「んふっ♪ 雅文クンって、とってもキレイな身体してるのね…………素敵っ」
 ヤケド(……っていうほどたいしたことはないが)を治療するふりをして、オレは笑子先生の細い指で雅文の身体の線をすすっ……と優しくなでてやった。
「……ほらっ、先生のここもドキドキしてるの。……わかるかしら?」
 そう言いながら、雅文の手をオレの――笑子先生の胸元へと導く。「……ね、触ってもいいのよ。でもあんまり乱暴にしないでね」
「せ……先生…………ぼ、僕――」
 雅文の声に、異様な粘り気が混ざってきた。ちょっと線が細いが、こいつも一応男子高校生。
 ちょっとやり過ぎたかも……と、オレがそう思った、次の瞬間――
 →94

69

 休み時間は、お約束の質問責め。
 当初は適当に答えていたオレだったが、男子どものあまりのしつこさに、さすがに耐えられなくなってきた。
 なんとかしてお近づきに、そしてあわよくばステディな関係になりたい……という意図が見え見えである。
 中には既に鼻息を荒らげ、「よ……夜は部屋で何してるの?」なんて尋ねてくる奴までいる。
 ううっ、ついこの間までは、オレもそっちの仲間だったのか……
 困ったような表情を浮かべる→73  トイレに行く→76

70

 突然、カバンの中にあった(恵理奈の)携帯電話が鳴り出した。集中(?)が途切れて、オレの精神は素の状態に戻った。
 とりあえず、出てみる。「はいもしもし相……じゃなかった、宮里です」
『あ、恵理奈ぁ〜? あたしあたしっ』
 ……誰だっけ? あわてて受信画面を見る。「関野麻美」……なんだ、マネージャーの関野か。
『どしたの恵理奈? 聞こえてる〜?』
「……あ、はいはい聞こえてる……わよ」
『あんたほんとに恵理奈……?』
「も……もちろん、あ――あたし恵理奈よ」
 記憶と人格の “呼び出し” は思ったより大変なようだ。……オレは恵理奈の口調を思い出し、ボロが出ないように話し続けた。
 そして――
『ところでさあ……明日のお昼なんだけど、ショッピングに付き合ってくれない?』
「えっ? ショッピング?」
 ふむ……せっかく女の子になってるんだ。「女の子同士でお買い物」というのも面白いかもしれない。
 →98

71

 突然、カバンの中にあった(恵理奈の)携帯電話が鳴り出した。
「はいもしもし、宮里です」
 オレ……あたしは電話を耳に当て、恵理奈になりきって答えた。
『あ、恵理奈ぁ〜? あたしあたしっ』
「あん、麻美かぁ。……どしたの?」
 電話の主は、マネージャー仲間の麻美だった。あたしは下着姿のまま、ベッドの端に腰掛ける。
『うん…………実はね、ちょっと恵理奈に相談したいことがあって……』
 急に神妙な口調になる麻美。
「どうしたの? あたしでよければ力になるよ」
『ほんと? ……実はさ、陸上部の相沢くんのことなんだけどさ――』
 へっ? あたし……オレ?
『恵理奈ってさ、相沢くんと幼稚園の頃からの知り合いでしょ? できたら彼とあたしの仲、取り持って欲しいんだけど……』
「え、え〜っと……」
 次の瞬間、オレ……あたしに拒否の感情が芽生えた。
 嫌だ……オレ……あたし……
 祐樹を……オレを、好きなのは…………あたし……オレ……恵理奈も……オレは……あたしは…………
 恵理奈とオレの感情がごちゃごちゃになって、一瞬自分が誰だかわからなくなってしまう。
 オレは……恵理奈で、……あたしは……オレで…………
『恵理奈?』
 麻美の声が、オレ……あたしを現実に引き戻す。
『ねえ……ダメなの?』
「……ダメ」
 あたしは静かにそう言った。「これだけは絶対ダメ。……ほ、他のことはともかく、祐樹は……あたしの…………」
 恥ずかしさと、もう麻美とは友だちでいられない――という思いが、あたしの声をかすれさせる。すると……
 →85

72

 ダメ、あたしは2時間だけの女の子……本当の女の子じゃないんだ…………
「ごめんなさい。明日田舎に帰らないといけないの……」
 そう言うと、雅文は残念そうな表情を浮かべて、軽く微笑んだ。
「こっちこそごめん。急にこんなこと言っても……やっぱり無理だよね」「ううん、そんなこと――」
 できた写真を “祐樹” にことづけることを約束すると、あたしは雅文と別れ、スタジオをあとにした。
 胸のブローチにはめ込まれた宝珠が、残り時間を知らせるように点滅し始めた。
 もう、学校で変身するのはやめた方がいいかも……
 あたしは目尻に浮かんだ涙を、指でぬぐった。
 →75

73

「ねえ相沢さん、学校の中案内したげようか?」
 救いの手を差し伸べてくれたのは、オレの幼なじみの恵理奈だった。
「あ、うん……ええ」
 オレは男子どもの輪を強引に抜けると、ツンとした表情を浮かべて恵理奈たちのグループの中に入った。
 なんだか女の子の仲間入りをしたみたいだ。……でも、背に腹は変えられない。
 オレは彼女たちに連れられて、校内のあちこちを見て回った。もちろん知っているんだけど、「へえ〜」とか「ふうん」と相槌を打つ。
「ところで相沢さん――」
「あ……え〜っと、ゆ、『祐香』でいいよ、え……宮里さん」
「ほんと? じゃあ、あたしも『恵理奈』でいいよ。……実は今度みんなでプールに行くんだけどさ、祐香も一緒に来ない?」
 ぷ……プールぅ?
 →89

74
 恵理奈ばかり楽しむのもしゃくに触る。だったら……
 オレはすっ……と目をつむり、「気持ち」を切り換えて恵理奈を――いや、“祐樹” を仰ぎ見た。
「ねえ祐樹くん、あ――あたし、お洋服見にいきたいな。……付き合ってくれる?」
 小首をかしげて、にっこり微笑む。
 一瞬きょとんとした “オレ” の姿の恵理奈だったが、すぐに笑みを浮かべると、
「いいよ。じゃあ、湾岸通りのファッションモールに行こうか」「うん♪」
 オレは女の子になりきって返事をすると、恵理奈の…… “オレ” の腕に、自分の腕を絡めた。
 →82

75

 ところが、事態はオレの想像を越えて急変した。
 今、オレ……いや、あたしは “祐香” の姿で、新人歌手のオーディションを受けている。
 雅文が撮ったあたしの写真がどういうわけか大手の芸能プロダクションの手に渡り、ある日突然「このお嬢さんにお会いしたい」と、社長みずからが我が家に訪ねてきたのだ。
 両親が不在だったのは幸いだったが、断ろうとしたあたし(変身した)を妖精少女のリーナが魔法で金縛りにし、オーディションを受けることを約束させたのである。
 自分がサポートしている魔法少女を芸能界デビューさせると、妖精としての「箔」がつくらしい。
 でも、そうそううまくいくものかしら……?
「32番の相沢祐香さん、どうぞ」
 マイクを渡され、あたしは曲に合わせて歌い始めた。透明感のあるソプラノが、会場中に響く。
 なんだろう……歌っているととっても気持ちいい。この声のせいかしら。
 あとで分かったことだが、男の時の腹筋の強さが残っており、あたしはより力強くソプラノを響かせることができるらしい。
 歌いながらちらっと見ると、審査員の人たちがあわただしく動き始めていた。
 そして……
「すいません、あとの方はお引き取りください」
 突然オーディションが中止になり、出場者たちは三々五々引き上げていく。……だけどあたしはその場に引き止められた。
「おめでとう。……キミに決まったよ」「……へっ!?」
 う……うそっ? あ、あたしが!?
 →80

76

「ごめんなさい。オ……私、ちょっとトイレ――」
 オレはそう言うと、男子どもを強引に押し退け、教室をとび出した。
 後ろから「場所分かるの?」と声をかけられるが、無視して廊下を走り、階段横のトイレに駆け込む。中には誰もいなかった。
 全く……セクハラじゃねえか。か弱い乙女を大勢で取り囲みやがって…………ん!?
 か弱い? 乙女? 誰が……っ!?
 オレは寒気をおぼえて両肩をかき抱いた。まさか考え方まで、女になってきてるんじゃないだろうな……
 そのままオレは用を足そうとして便器に近づいた。……って、しまった! ここ男子トイレだっ!!
 あわてて外に出る→81  授業が始まるまで個室に隠れる→86

77

「祐香ちゃん、もう大丈夫なの?」「う……うん。……心配かけて、ごめんね……」
 「年下の」クラスメイトたちに取り囲まれ、オレは祐香ちゃんの顔で笑みを浮かべた。
 ふと見ると、ひとりの女の子が暗い顔をして、ぽつんと席に座っている。
 写真では気がつかなかったけど、何処かで見たことがあるような……
「あ……あの子、ど……どうかしたの?」
「ああ、麻美ちゃんのこと? あの子車に轢かれそうになって、助けてくれた高校生の人が死んじゃって落ち込んでるみたいなの」
 思い出した。……あの時オレが助けようとした小学生の子じゃないか!
 →97

78

「行ってきま〜すっ」
 次の日の朝、オレは制服のスカートをなびかせて玄関を出ると、隣の家のドアホンを押した。
 ばたばたばたっと音がして、食パンをくわえた恵理奈がとび出してきた。
「もうっ……遅いぞっ、恵理奈」「ごめ〜ん、寝坊しちゃった」
 オレと恵理奈はそのまま肩を並べて、学校へと向かう。
「いい? 学校に着いたら “祐樹” じゃなくて、“祐香” だからね」
 人差し指を立てて、恵理奈に念を押すオレ。
「……じゃあ、学校に着いたら “オレ” じゃなくて、“あたし” って言わなきゃ♪」
「わかってるって」
 オレはカバンを身体の前に持ち直した。
 昨日、オレの中で何かが目覚めた。
 そして恵理奈の中でも、何かが目覚めた。
 その結果、オレと恵理奈は、以前よりも親密な関係になった。
「ふふっ、なんだか小学校の頃に戻ったみたいね。……なんでも素直に話せてた頃に」「……そうだね」
 問題大ありだが、今はそれが嬉しい。
「あ……おはよう、関本さん」
 同級生の女の子にも、気軽に声がかけられる。
「おはよう、相沢さん……あれっ? 恵理奈、もう相沢さんと仲良くなったの?」
「ううん……あたしと祐香は、ずっと前から親友なの♪」
「は?」
 クラスメイトにいたずらっぽく答えると、恵理奈はオレの腕にがばっとしがみついてきた。
 端から見ると女の子同士なので、ちょっと怪しい。
 恵理奈は目元をほんのり赤くさせ、オレの耳元に顔を寄せてささやいた。
「ねえ祐樹――祐香ぁ、今日もあたしの家に……こない?」
「うん♪」
 オレも顔を赤らめ、小首をかしげてそう返事した。
 ENDING NO.5

79

「よ〜し、じゃあこれ見よう」
 “オレ” の姿の恵理奈に連れられて来たのは、駅前のシアタービルだった。
 ちょうどそこでは、最新のホラー映画をやっていた。
「こ……これ見るのか? 恵理奈」「今は祐樹。……恵理奈はお前だろっ」
 そう言って、恵理奈は嫌がるオレを無理矢理引っ張っていく。
 自慢じゃないが、オレはこの手の映画が大の苦手なのだ。
 恵理奈の奴はそのことを知っていて、女の子らしくしないオレをいじめようというのだ。
「ひ……ひいいいいっ!!」
 女の子の身体だからか、いつもより恐怖感が倍増されているような気がする。
 ぼろぼろと涙が出る。ううっ……涙腺ゆるいぞこの身体っ!!
 どどおおおお〜んっ!! 「……きゃああああっ!!」
 無意識に女の子っぽい悲鳴を上げて、いつしかオレは恵理奈の――“オレ” の腕にぎゅっとしがみついていた。
 →84

80

「魔女っ子アイドルのマネージャーになれるなんて感激っ! おまけにその正体が男の子だなんて……これは萌えよねっ!!」
 マネージャーの笑子さんが、両手を握りしめてはしゃいでいる。
 彼女にオレ……あたしの正体をバラしたのは、もちろんリーナである。
 2時間というタイムリミットを抱えるあたしには、事情を知る関係者がいたほうがいいという理由でだ。
 「YOU☆KA」という名前で、デビューしたあたし。
 あたしの思いとは裏腹に、ファーストシングルはいきなりオリコンのトップチャートに躍り出て、あれよあれよいう間にメジャーになってしまった。
 あまりマスコミに露出しない「現役高校生の歌姫(学業優先ということになっている)」というイメージと、「癒しの歌声」というコピーが先行しているのだが……
「あの……笑子さん――」
「なあに? 祐香ちゃん」
「……ほんとにこれでいいんでしょうか? なんかファンの人、みんなだましてるみたいで……」
「ん〜祐香ちゃんってば優しいんだから〜っ」
 がばっと抱きしめられ、ほっぺたをすりすりされる。「わっ……ひゃああああっ!」
「……でも嘘は言ってないわよ。祐香ちゃんの歌声は、ほんとにエンジェルボイスなんだから」
「そうそう。せっかくのチャンスなんだから、このまま一気に頂点を目指しましょ!」
 羽根の生えたウサギのぬいぐるみ(……)に化けたリーナが、はっぱをかけてくる。
 確かに、いまさらやめるわけにはいかないわよね……
 あたしはステージ用のドレスの裾をひるがえし、控室を出た。
 舞台の袖に立つと、客席から歓声が聞こえてくる。
 大きく息を吸い込むと、あたしはステージの中央目がけて走り出した。
「みんな〜っ! 今日はYOU☆KAのファーストライブに来てくれて、ありがとぉう〜っ!!」
 ENDING NO.6

81

 どんっ!! 「……きゃっ!!」
 男子トイレからあわててとび出したオレは、戸口でひとりの男子生徒に抱きとめられる格好になった。
「あ……ご、ごめん、大丈夫?」「こ、こっちこそ…………え? 雅文?」
 それは、オレの男の時の親友、乾 雅文だった。
「あ、相沢さん、……今、男子トイレから出てこなかった?」
「え……え〜っと、その……」
 とっさにうまい言い訳が思いつかず、オレは顔を赤らめた。「……え〜っと、そう、ま――前の学校、こっち側が女子トイレだったから、ま……間違えちゃった。てへっ♪」
「なんだ……意外にそそっかしいんだね、相沢さんて」
 雅文にそう言われて、オレはまた顔を赤らめた。その時になってオレは、雅文にまだ両の肩を支えられていることに気づく。
「あ……ああっ、ご、ごめんっ」
 雅文もそれに気づき、あわてて手を離すとその場でまわれ右をした。
「……ほ、ほんとに……ごめんっ」「い……いえ、こちらこそ――」
 なんて言っていいかわからず、オレはかちこちになった雅文を残して、そそくさとその場から立ち去った。
 なんでだろう……顔が赤くなって、胸がどきどきする…………
 教室に戻る途中、幼なじみの恵理奈がこっちを見つけて駆け寄ってきた。
「あ、いたいた相沢さん。……実は今度みんなでプールに行くんだけどさ、よかったらあなたも一緒に来ない?」
 ぷ……プールぅ?
 →89

82

 電車を乗り継いで、湾岸通りに到着。
 オレと恵理奈は、ファッションモールのレディスカジュアルフロアに向かった。
「あ……これいいんじゃないかな? 恵理奈、ちょっと試着してみなよ」
 口調は男のままだが、ニコニコして洋服を選ぶ “オレ”。……まあ、カップルで来てるんだから、おかしくはないだろうが。
「う……うん。あ――あたしに、似合う……かしら?」
 オレは手渡された服を身体に当てて、恵理奈の顔ではにかんでみた。
 試着室に入る。今朝もそうだったが、女の子の身体で着替えるのはやっぱり恥ずかしい。
「あ……あたしは恵理奈。あたしは女の子……」
 鏡に向かって自己暗示(?)をかけてみるが…………やっぱりダメだああ〜っ!!
 ……とまあ、こんな感じでとっかえひっかえ服を試着させられる。「服を見にいきたい」なんて言わなきゃよかった。
 で、結局一番最初の、ボレロとボックスプリーツのアンサンブルを選ばされる。
 恵理奈の奴、オレを……自分の身体を着せ替え人形にして遊んでやがったな。
「それ、今日はオレがプレゼントするよ……恵理奈に」「あ、あ……ありがとう…………」
 ……って、ちょっと待てっ! それオレの財布ぅ〜っ!!
 →92

83

「ちょっと過労で倒れただけです。休ませた方がいいので薬を飲んでもらいましたけど、明日には目を覚ますでしょう」
 笑子先生(オレ)の説明を鵜呑みにして、電話で呼び出された両親はオレの身体とともに帰っていった。
 単純な親たちで助かった……さて、合コン、合コン♪
 オレは笑子先生の記憶を呼び出し、彼女のマンションに帰った。
 部屋にあった鏡台の前に座り、先生になりきってメイクを始める。鏡の中で見る見るうちにきれいになっていく先生の……自分の顔に、オレは軽い興奮をおぼえた。
 服を着替えて、いざ合コンへ。
 体の線がはっきり出るような赤いキャミソールに、黒のマイクロミニスカート。
 一応その上から白いカーディガンを羽織っているけど、すれ違う男たちの視線がオレの……先生の身体に突き刺さる。
 んふっ♪ 今のオレってば、魅力的なんだ……。
 ハイヒールを履いているので、バランスを取るため重心を高くし、脚を揃えて歩く。
 長い髪がなびき、豊かな胸が揺れる。
 すらりとした手足、柔らかい肌、うっすらと匂う香水のかおり。
 男の視線に晒されているうちに、オレの歩き方やしぐさはどんどん女っぽくなっていく。
 待ち合わせの場所には、既に関本先生たちが集まっていた。
「お待たせ〜っ。……待った?」「うそ……っ。あなた、笑子なの?」
 関本先生の目が驚きで丸くなる。オレは笑子先生になりきり、ぺろっと舌を出した。「うふふ、ちょっと気合い入れてきちゃった♪」
 →90

84

 それからもオレと恵理奈は、時々身体を交換している。
 今日はオレが “恵理奈” の番。オレはブラウスを着てスカートを履き、恵理奈のふりをしている。
 学校の窓からぼーっと空を眺めていると、後ろから声をかけられた。
「何たそがれてるんだよ? 恵理奈」
 そこにいたのは、“オレ” の姿になった恵理奈だった。
「……ううん、なんでもない」
 近頃は恵理奈の身体になると、条件反射的に女の子っぽくなるようになった。
 元に戻った時、無意識にこの口調でしゃべらないよう切に願う。
「……でも不思議ね。こうなってから、恵理奈のことが前以上に身近に感じられるようになった――」
「それはオレも同じ。祐樹の……男の子のことがよく分かるようになったよ」
 そう言って見つめ合う。まわりには誰もいない。
 お互いの顔がゆっくりと近づき、オレはそっと目を閉じた。
 あべこべキス。でも、男に……同性にキスされている不快感はなかった。
 身体が女の子になっているから? それとも相手が恵理奈だからかな?
 …………でも生理中の身体をオレに押しつけるのだけは、頼むからやめてくれっ!!
 ENDING NO.7

85

『ほら〜っ、やっぱりあたしの言った通りじゃない〜?』
 いきなり麻美の口調が変わった。電話の向こうに、何人もの人の気配が。
『やっぱり恵理奈って、相沢くんのこと好きだったんだ〜っ』
『……ほんと、そうじゃないかと思ってたんだ♪』
『全く、素直じゃないんだから……』
「…………」
 くすくす笑い合う声が聞こえてくる。あたしは一瞬、頭の中が真っ白になった。……つまり、麻美たちにからかわれてたってこと?
 か〜っと、顔が赤くなった。
『さっさとコクらないと、誰かに相沢くん取られちゃうぞ〜っ』
「余計なお世話よっ!」
 麻美の嬉しそうな声に、あたしは本気で腹を立てていた。
 →93

86

 廊下で話し声が聞こえる。オレはあわてて個室にとび込んだ。
 しばらく息をひそめているとチャイムが鳴り、声が遠ざかっていく。やれやれ……もう大丈夫だ。オレはそ〜っとトイレから出た。
「ちょっと相沢さんっ! どうして男子トイレから出てくるのよっ!?」
 げっ!!
 後ろを振り向くと、クラスメイトの恵理奈が腰に手を当ててにらんでいる。どうやらいつまでも戻ってこないオレを探しに来たらしい。
「あ……あの……これは、その……え〜っと…………」
 しどろもどろになるオレに、恵理奈はさらにたたみかける。「……だいたいあなた誰なの? 祐樹にあなたみたいな親戚がいるなんて、今まで聞いたこともないわよっ」
 →96

87

「おっはよ〜祐香っ。……あれ? 今日乾くんは?」
「……あ、おはよう恵理奈。彼、生徒会の仕事があるからって先行っちゃった」
「ふうん……」
 あたしは幼なじみの恵理奈と一緒に肩を並べ、通学路を歩く。
 あれから変身時間がどんどん長くなり、いつの間にかあたしのまわりの環境や近しい人の記憶が、“祐樹” から “祐香” へと置き換わってしまっていた。
 あたしは今や、完全に「相沢祐香」として生きている。……でも、別に後悔なんてしていない。
「朝から彼氏に置いてかれちゃって、ブルー入ってるでしょ?」「そ……そんなことないわよっ、もうっ」
 隣を歩く恵理奈とは、女同士になったことで、また小学生の頃みたいになんでも話せる仲に戻ったような気がする。
 大好きな人がいて、かけがえのない親友がいる……女の子になってよかった。今は心の底からそう言える。
 もう魔法のブローチは必要ない。あたしはそれをポケットにしまった。
 ……ありがとう、リーナ。
 →95

88

 誰かが、オレのあとをついてきている……
 「相沢祐香」として小学校に復学して三日目。下校中のオレは、突然そんな感覚に襲われた。
 まさか……本当の祐香ちゃんを転落させた犯人が、またオレ――祐香ちゃんを狙っているのでは?
 オレは何事もなかったかのように歩を進め、いきなり振り返った。
 電柱の影に、すっ……と隠れる人影が。
「…………」
 オレは気付かなかったふりをしてゆっくりと曲がり角を曲がると……いきなり走り出した。
 だが、退院したての身体はすぐに息が上がり、脚をもつれさせる。
 小学生の低い視界では、マンションまでの距離がすごく長いものに感じられた。
 あ……あと少し…………
 息も絶え絶えにエントランスへと駆け込むと、オレは住民用のパスワードでオートロックを解除する。
 早く……早く開け…………
 自動ドアが開くと、オレは泳ぐように中へととび込んだ。「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……はぁ…………」
 エレベーター横の壁にもたれて、オレは何度も息をついだ。高校生だったころの走り方は、この身体では無理があったようだ。
 だけど、ここまでくればひと安心……そう思ったオレの口元を、後ろから大きな手が押さえつけた。
「ううっ!? ……う……うう…………うう〜っ!!」
 しまった! 犯人は同じマンションの住人だったんだ!
 →111

89

 そして待ちに待った(?)、プールの日。
 集まったのは、オレ――祐香を含めた女子四人だけ……のはずだったのだが。
「いや〜奇遇だね〜っ。俺たちもプールに来たんだ」
 嘘つけ……。オレはそう口の中でつぶやきながら、へらへら笑う男子どもをにらんだ。
「ま……まあいいじゃない。大勢の方が盛り上がるよ」
 恵理奈と同じ陸上部のマネージャー仲間、関本麻美がオレたちの間を取り持とうとした。
 どうやらこいつが集団デート化の元凶らしい。転入生の子(つまりオレ)が来るから……と情報をリークしたのだろう。
「あたしは別にかまわないわよ〜」
 大人びた容姿のわりに天然ボケな、立川笑子があとに続く。恵理奈も「まあいいか」と肩をすくめ、オレたちは揃って中へ入った。
 男子どものメンツは、軽薄そうでいて意外と女子に人気のある太田、まじめそうだが実はエロキングな松岡、よく中坊と間違われる童顔の加西、そして男の時のオレの親友だった乾 雅文の四人である。
 水着に着替えるために、左右に分かれる。オレはもちろん……女子の方だ。
『女子更衣室』
 入るまでは「女の子の着替えが生で見れる〜♪」とか思ってたりもしていたが、いざ中に入ってみると、今度は自分の(女の)身体をまわりに見られる……という羞恥心の方が先に立つ。周囲を “鑑賞” する余裕なんてなかった。
「ほらっ、祐香も早く着替えなきゃ」
「…………」
 新品の水着(もちろん女物)を取り出す。これを買う際にもいろいろとあったのだが、長くなるので割愛する。
 ぴちっ――と素肌に張りつく水着の感触。オレは恵理奈たちに連れられて更衣室を出ても、顔を真っ赤にしていた。
 恵理奈はライムグリーンの、スポーティなセパレート。麻美はトロピカル模様のビキニ。
 長身の笑子は白と黒のストラップレスハイレグ。そしてオレは――
「きたああああぁぁぁぁぁ――――――――っ!!」「うおおおぉぉぉぉぉ――――――――っ!!」
「相沢さんぶらぼおおおぉぉぉ――――――――っ!!」
 オレが着ている水着は、右肩だけにストラップのあるレモンイエローのワンピースとパレオ。
 露出度はそんなに高くないばずなのだが……何ヒートアップしてるんだお前らっ。
 ますます顔を赤くして二、三歩あとずさったオレは、ただひとりぼーっとこっちを見ている雅文に気づいた。
「あ……」
 雅文もこちらに気づいたのか、顔を赤らめあわてて横を向いた。「に……似合ってるよ、それ」「あ――う、うん……」
 81を通った→ 104  それ以外→105

90

 う〜む、「医者」というから眼鏡をかけたインテリタイプを想像していたのだが、結構男前ぞろいではないか。
 オレは笑子先生の目で、男連中を値踏みしていた。
 女性陣は、オレ……笑子先生と関本先生、そして関本先生の友人でOLやってる典子さん――というメンツ。
 対する男性陣は、ちょっとくだけた感じの太田さん、生真面目そうな松岡さん、童顔の加西さんの三人。
 イケメンのお医者さん。これで「産婦人科です」なんて言ったら、笑っちゃうなきっと。
 とりあえず、まずは自己紹介。「あたし、立川笑子です。笑う子って書きます。高校で保健の先生やってま〜す♪」
 そう言って、「うふっ」と笑みを浮かべる。男たち三人は、揃って顔を赤らめた。
 そして――
「じゃあ、あたしたちのこの出会いに……カンパ〜イっ!」
 関本先生の音頭で、ビールジョッキが重ね合わされた。
 んぐんぐ…… 「……ぷはぁ〜っ、うまいっ!」
 そう言ってから、全員の視線がオレの方に向いているのに気づく。「あ……あ、あらやだっ、あたしったら――」
 一気にジョッキを空けてしまったオレは、あわてて頭に手をやり照れたような笑い声を上げた。
 カクテルを注文する→101  ソフトドリンクを注文する→108

91

 それからのオレは、休みのたびに “祐香” に変身し、雅文の写真のモデルになってやった。
 ハートの変身ブローチを使えば、思い通りの服に着替えることができる。
 あるときはガーリッシュなスタイルで、またあるときは大人びたフェミニンなよそおいで。
 オレ自身、そんな変身をだんだん楽しむようになってきた。
 姿見に映っているのは、飾り気のない白いブラウスと、青いスリムジーンズとベストを合わせた “祐香” の姿。
 今日はちょっとボーイッシュな感じでまとめてみた。ふふっ……たまにはお転婆しなくっちゃ♪
 そして、“祐香” の写真がどんどんたまっていくにつれて、女の子に変身していられる時間が少しずつ伸びてきた。
 オレ……いや、あたしの雅文に対する思いも、どんどん膨らんでいく――
 →87

92

 それからもオレと恵理奈は、時々身体を交換している。
 今日は久しぶりに(……)、男に戻った。オレは学校の窓から、流れていく雲をぼーっと見ていた。
「なあ恵理奈、男になってる時って、どんな感じなんだ?」
 オレは横にいた恵理奈に尋ねてみた。
「う〜んそうねえ……窮屈なブラからは解放されるし、髪の毛短くてさっぱりしてるし、声が低くなっちゃうけどそれも面白いし。……あ、やっぱり身体を動かした時が全然違うわ」
 あの「もっこり」だけはいまだに慣れないけどね……とつけ加えて、恵理奈は顔を赤らめた。
「……でもね、相手が祐樹だから身体を交換できるんだよ。あんなのと入れ替わることができても嫌だわ」
 恵理奈の指さすグラウンドでは、モスグリーンのランニングと迷彩柄のアーミーパンツを着たマッチョな巨漢が、配下の「軍団」に檄を飛ばしていた。……って、ここ白塁学園高校だったのか?
「祐樹は “あたし” になるの、嫌なの?」
「そんなことないよ……ただちょっと照れくさいだけ、かな」
「そう……よかった」
 恵理奈はそう言うと、目をつむって顔を上げた。
 まわりに誰もいない。オレも目を閉じて、顔をゆっくりと恵理奈に近づけた。
 あ…………あれ? なんだ? まさか……
「――というわけで、今からあたし……もとい、オレが祐樹だよ〜っ♪」「い……いきなり入れ替えるなあああっ!!」
 ENDING NO.8

93

 そうかぁ……あたしはオレのことが好きだったんだ――
 オレ……あたしは下着姿のまま、自分の両肩をかき抱いた。
「…………」
 枕元にあった手鏡を見つめる。オレの……恵理奈の……あたしの顔があった。
「祐樹……あたし、祐樹のことが好きよ…………うん、オレも恵理奈のことが好きだよ……」
 恵理奈の声を低く抑えて、あたし……オレは鏡のあたしに向かってそう “返事” した。
 ああ……嬉しい……。
 あたしはオレに告白されて、身体の芯がツーンとなるようなときめきをおぼえた。ブラジャーをはずし、胸の膨らみを両手ですくい上げるように包み込む。
 オレの視線を受けて、あたしは身をキュッとすくめた。
 ……ああ、……あたし……オレ…………あたしは祐樹……オレは恵理奈…………
 →100

94

「見つけましたぞっ、姫様っ!!」
 突然そんな大声が響いたかと思うと、壁に掛けてあった鏡が七色に光りだし、その中から白い髭を豊かに蓄え、白いローブを着て節くれだった杖を持った大柄な老人がひとり、滲み出てくるように現れた。
「……だ、ダン○ルドア校長?」「何をわけのわからないことをっ。おまけになんと破廉恥(はれんち)なっ!!」
 非常識な出来事に思わずボケをかますオレに、その老人は杖の先をびしっと突きつけて怒鳴りつけてきた。
「仮にも魔道公国の姫君ともあろう方が、若い男子(おのこ)をたぶらかすとは言語道断っ! 教育係として情けないですぞっ!!」
 魔道公国? 姫君? 「あ……あの、話が全然見えないんですけど――」
「とぼけても無駄ですぞエミーナ姫っ! 『異世界へ見聞を広めに行く』などと言っておきながら、なんという有様っ。……ささ、今すぐ帰りますぞっ。万人に愛される姫様になるべく、もう一度いちからその性根を叩き直しましょうぞ」
 そう言うと、老人は再びオレに向かって杖を振った。
「あ……っ!!」
 オレが――笑子先生が着ていた白衣がするするっと伸びて広がっていく。髪の毛が勝手にほどかれ、腰まで伸びて金髪になる。
 鏡の中のオレ――笑子先生は、真っ白なドレスを着た金髪碧眼の美女に変身した。
 こ、これが笑子先生の正体?
「あ……あの、お……オレ笑子先生じゃなく――」
「まだそのようなことを……往生際が悪過ぎますぞ、エミーナ姫っ!!」
「だから……姫じゃなくて……」
 しかし、その老人は問答無用とばかりにオレの身体をぐいっと引き寄せた。そして……
「……少年、今見たことは忘れてもらうぞ」
 目が点になっていた雅文に杖を向ける。とたんにその顔から表情が抜け、雅文は脱いだ服を抱えてふらふらと夢遊病者のように保健室から出ていった。
「では、魔道公国へ帰還しますぞ、姫っ」「だからオレは姫じゃないってえええええっ!!」
 →63

95

「……でも中身が祐樹だと思うと、ちょっと引いちゃう時があるんだよね」
「大丈夫。今の祐香ちゃんは正真正銘、身も心も女の子よ。……それにTSっ娘は出自に負い目があるから、好きになった人には尽くしてくれるし、絶対裏切ったりしないし……まさに理想の恋人じゃない」
「確かに『理想の恋人を探して欲しい』って頼んだのは僕だけど…………まあいいか」
「そうそう。本人も、過程はともかく結果的には納得してるんだし――」
「ふっふっふっ……そちも悪(わる)よのう、リーナ屋」
「いえいえ、雅文お代官様にはかないませんて」
「ふっふっふっ……」
「ほっほっほっ……」
 写真部の暗室に、雅文とリーナの時代劇な笑い声がこだました……
 ENDING NO.9

96

「きゃはははははっ! し、信じられないっ! ほ……ほんとにあんた祐樹なの〜っ!?」
 恵理奈のバカ笑いが、部屋中にこだまする。
 その日の放課後。しつこく詰め寄る恵理奈に根負けし、オレはとうとう自分の正体をバラしてしまった。
「そんなに笑うなよ……」「あ……ああ、ごめん。……そうよね、なりたくてそんな姿になったわけじゃないんだよね」
 恵理奈は目尻の涙をぬぐうと、神妙な口調でそうつぶやいた。
 ここは恵理奈の家。家族は外出中で、オレは恵理奈と二人っきり……ああ、なんでオレは今、女なんだ?
「でもほんとに可愛らしくなっちゃったね。……この胸、本物?」「あんっ」
 恵理奈に胸をつつかれ、オレは甲高い声を上げてしまった。
「やだっ、可愛い声出しちゃって。じゃあ、こんなのも感じちゃうんだぁ」
「な……何を…………あ、ああんっ」
 背後に回った恵理奈が、オレの胸を撫でまわす。
「ねえ祐樹、……アソコも見せてよ」
「ええっ!?」
「ほんとに女の子になってるか、確認してみたいし……それに、あたし以外の女の子のアソコ、見てみたいもん」
「ち……ちょっと、恵理奈……っ、うわわっ!!」
 いきなり制服のスカートをめくり上げられ、オレはその拍子にひっくり返ってしまった。
 ショーツを無理矢理ずりおろされ、股間があらわになる。
「うわ〜っ、本当に女の子になってる…………できたてだからかな? とてもきれい……」
「や、やめ…………恥ずかしい……」
 恵理奈の息がかかる。脚をつかまれ、大きく広げさせられる。そして――
 →78

97

 放課後、オレは教室に一人で残っていた麻美ちゃんに声をかけた。
 自分の身代わりで誰かが死んでしまう。そんな事実を受け止められる人間は、おそらく誰一人としていないだろう。
 しかしヒトはみな、自分一人だけの力で生きているのではない。誰かによって生かされているのだと思う。
 日常では気がつかないだけで、もしかしたら誰かが何処かで自分の犠牲になっているのかもしれない。
 何かの本の受け売りだ。……だけど、そんなことでも話さずにはいられなかった。
「おちこんでたってその人が戻ってくるわけじゃないよ。……その人の死を無駄にしないためにも、まず生きている自分がしっかりしなきゃ!」
 まるで自分自身に言いきかせるように、オレは言葉を紡いだ。
「……わかってるっ。わかってるけど、でも――」
 麻美ちゃんはそうつぶやいて、顔を下に向ける。
 無理もない。目の前で “オレ” が死んだのだ。彼女にとって、どれほどのショックだったろう。
 何もできないのか、オレは? せっかく生き返ったというのに……
 秘密を打ちあける→102  打ちあけない→109

98

 次の日。恵理奈の姿のオレと麻美は電車を乗り継いで、湾岸通りにあるファッションモールにやってきた。
 昨日はお風呂とベッドの上で……くぷぷぷぷっ――
「恵理奈、あんた何顔赤らめて思い出し笑いしてるのよ?」
「え……っ? あ、い……いや、別に……」
 危ない危ない、顔に出ていたのか。オレはあわてて恵理奈の人格を呼び出した。「え〜っと、それで何を買うの? 麻美」
「新しい水着。今日はワゴンセールがあるのよ」
「ふうん……」
 などと言っている間に、エスカレーターで最上階の催し場に到着。
「恵理奈もそろそろ新しいの買ったら?」「そ、そうだな……そうね」
 麻美は早速水着を物色し始めた。何点か選んで、試着室の中へ。
 オレはタイミングを見計らって、カーテンの中へと首を突っ込んだ。
「どう? どれにするか決めた?」
「きゃあああああっ! ……もうっ! まだ着替え中よっ、恵理奈っ!」
 はずしたブラで胸元を押さえ、悲鳴を上げる麻美。……ふふっ♪ 役得役得。
 彼女のセミヌードを堪能したオレは、自分の……恵理奈の水着を探しに売り場へと戻った。
 ライムグリーンの、スポーティなセパレートを手に取る。……うん、これなら似合いそうだ。
「麻美〜っ、まだぁ?」
 オレは恵理奈の口調で、試着室の中に呼びかけた。
「もう、ちょっと…………じゃ〜ん。……へへっ、どう?」
 麻美の選んだのは、トロピカルなビキニ&パレオ。……う〜ん、あんなのもいいかもしれない。
 →107

99
 そしていよいよ、オレの新しい身体ができあがった。培養槽から引き上げられ、手術台に載せられている。
「元の――男のお前と同じにしてある。……後悔はないな」
「もちろん」
 くどいぐらいに念を押す親父。オレは間髪入れずに答えた。
 本当は、この女の身体にも少し未練が…………いや、ダメだダメだっ!! オレは男に戻るんだっ!!
 手術着を着て、隣の台に横たわる。今からあの身体に、オレの脳を移植するのだ。
 ああ、これでお別れか。長い髪にも、可愛い顔にも、きれいな声にも、胸の膨らみにも……
 股間にそっと手を当てた。さよなら……女の子のオレ。
 →120

100

「う……うん…………ああ……ん、……んんっ」
 元の身体に戻ったオレは速攻で恵理奈に交際を申し込み、彼女はそれを受けてくれた。
 ちょっとずるい気もしたが、以来、オレは恵理奈とうまくやっている。
 そして今、彼女は裸でオレの「下」にいる。
「……あ、あん……ゆ、祐樹ったらぁ…………あ、あたしの、よ――弱いとこ、みんな……知ってる、みたい、に……」
 あの体験――恵理奈に憑依した時の体験が、こんなところで役に立つとは。
 だが、何かがもの足りない。男の自分には満足しているつもりだし、恵理奈のことも大好きだ。
 だけど……
 オレはベッドから出ると、脱いだズボンのポケットから小ビンを取り出し、背中越しに問いかけた。
「なあ、恵理奈……笑子先生から幽体離脱の薬もらったんだけど、二人で試してみないか?」
 …………そしてオレは、恵理奈の――いや、“オレ” の「下」になった。
 ENDING NO.10

101
 甘いカクテルが、こんなにおいしいものだったとは……
 味覚まで笑子先生のものになっているオレは、男たちに薦められるまま何杯もグラスを重ねた。
 合コンの場所は居酒屋から高級パブに移っている。落ち着いた雰囲気の、まさに「紳士淑女の店」だった。
 高いんだろうなあ……さすがお医者様。
「こんなところに来るんだったら、もっとフォーマルな服にすればよかったかしら?」
「そんなことないですよ、笑子さん」
 今はチークタイム。関本先生は太田さんと、典子さんは松岡さんと……そしてオレは加西さんと踊っている。
 スローテンポな曲のリズムが、ムードを盛り上げていく。
「……笑子さんって、不思議な人ですね」「えっ?」
 オレはほろ酔い加減で上気した顔を、加西さんに向けた。
「最初会った時は男っぽい人だな、って思ったんですが、とてもセクシーだし……そうかと思うと子どもっぽいところもあるし――」
 そう言って加西さんは、にっこりとオレに微笑んだ。
 オレは目元を赤らめ、鼻にかかった甘い声でささやいた。「じゃあ……今のあたしは?」
「もちろん素敵で……可愛いですよ、笑子さん」
 そう言って、加西さんはオレを自分の方へと引き寄せた。
 オレもしなだれかかるようにして、笑子先生の柔らかい身体をそっと寄り添わせた。
 →106

102

「……だけどオレが麻美ちゃんを助けようとした時、本当にそのことしか頭になかったんだ。だからあの時、自分が死んでしまうことよりも、麻美ちゃんが助かってよかったって思えたんだ」
「祐香……ちゃん?」
 麻美ちゃんは驚いて目を丸くする。そりゃそうだろう……いきなり目の前の女の子が、男の口調でしゃべりだしたんだから。
「で、気がついたら転落事故で死んだ祐香ちゃんに生まれ変わっていた。……きっと神様か誰かが、落ち込んでる麻美ちゃんを励ますことができるように、オレを生き返らせてくれたのかもしれない」
「ほ……ほんとに、あの時のお兄ちゃん? 祐香ちゃんじゃなくて?」
 オレはゆっくりうなずくと、オレでしかわからないことをいろいろ話した。
 あの時の事故や交差点の様子、車の車種や色、事故を起こしたドライバー、警官や救急隊員のこと……
「だからいつまでも落ち込まないで……オレはここにいるから……」
 いつの間にか涙が流れていた。見ると、麻美ちゃんも泣いていた。
「麻美ちゃん……」「…………お兄ちゃん……」
 オレと彼女は手を握り合い、互いに寄り添いあって静かに涙を流し続けた……
 →112

103

「全く……よもやあたしに憑依するなんてね」
 翌日、オレは笑子先生に昨夜のことで絞られていた。
「おかげであんな恥ずかしい格好させられるし、麻美たちには変な顔されるし……大変だったんだからっ」
「だからさっきから謝ってるじゃないですかぁ。……それにあの薬、一応成功だったってわかったことですし――」
 オレはとにかく下手に出た。あまり機嫌を損ねると、何されるかわかったもんじゃない。
 笑子先生はオレの顔をしばらくにらんでいたが、やがてにこっと微笑むと、
「まあいいわ。祐樹くんにはバツとして、新しい薬のモニターをやってもらいましょっ」
 そう言って、白衣の内側から小さなビンを取り出す。「……ピカピカ〜ンッ! 強力性転換薬『ヒロインちゃん』〜っ!!」
「また変な名前を…………って、まさかこのコーヒーに!?」
「ぬふっ♪」
 ……次の瞬間オレの胸が、むくっと膨らんだ。
 ENDING NO.11

104
「……あれ? みんな何処行ったんだ?」
 ひとしきり泳いでプールサイドに戻ると、恵理奈たちの姿がなかった。
 きょろきょろとあたりを見回すと、何故か太田たち男子どもの姿も見当たらない。
「…………」
 急に心細くなってきた。大勢の中でたった一人、それも女の……水着姿で…………
 オレは無意識に両肩をかき抱いた。まわりの視線が全て、自分に集まっているような気がする。
 ……恥ずかしい…………いや、……怖い? …………オレ、他人の視線を怖がっている……?
「どうしたの相沢さん? ……あれっ、みんなは?」
 その声に振り向くと、かき氷の入ったコップを両手に持った雅文が立っていた。
「ま……雅文ぃ〜っ!」
 オレはあわてて奴に駆け寄った。もしかしたら涙目になっていたかもしれない。「……もうっ、どこ行ってたんだよぉ〜っ!?」
「……い、いやその、関本さんと立川さんにかき氷買ってきてくれって頼まれて、それで――」
 顔を赤らめ、ばつが悪そうに口ごもる雅文。
「……と、ところでみんなはどうしたの?」「それが…………急にいなくなっちゃって……」
 おどおどと答えるオレ。さっきの恐怖心(?)が、まだ残っているようだ。
「う〜ん。とにかく二人で探しに行こう……はいこれっ」
 差し出されたかき氷を、オレはぽかんとした表情で受け取った。「あ……ありがとう」
 →113

105

「……まさか祐香が、カナヅチだったとはね〜っ」
 オレは恵理奈に手を取られ、バタ足の練習をしていた。……だってしょうがないだろうっ! 体型が全く変わってしまったんだから。
 しかし胸やお尻が大きくなったくらいで、まさか泳げなくなるとは思わなかった。
「運動神経よさそうに見えるけどなぁ……」
「がんばってね〜、祐香ぁ」
 プールサイドからは、麻美と笑子の無責任な声が聞こえてくる。男どもの姿が見えないが、どうせまた何か悪だくみの相談でもしているのだろう。
 と、その時……
『甘水市よりお越しの相沢祐香様、甘水市よりお越しの相沢祐香様、至急事務所までお越しください。繰り返します。甘水市よりお越しの――』
 オレと恵理奈は、思わず顔を見合わせた。……落とし物でもしたっけか?
 →117

106

 笑子先生のマンションに帰ってきたオレは、まだ胸がどきどきしていた。
 裸になり、火照った身体にシャワーを浴びる。
 新しいショーツを履いてバスローブを羽織ると、オレは居間のソファにどかっと腰を下ろした。「ふうっ……」
 ああ……楽しかった。男では味わえない、女としてエスコートされる快感。
 ……さて、明日の休みはこの身体で何をしよう?
 ふと見ると、留守番電話のランプが光っている。
 メッセージを再生させる。……三件目を聞いた時、オレの顔から血の気が引いた。
 →110

107

 伸びやかなフォームで、華麗に泳ぐ恵理奈。プールの縁に手をついて、その身体を上へと引き上げる。
「ふう……」
 濡れた髪をかきあげて、こっちに戻ってくる。プールサイドにいたオレは、思わず手をたたいた。
「すごいね恵理奈。それにその水着、よく似合ってるよ」
「そう? でもこれ買った時のこと、あんまりよくおぼえてないのよね……」
「まあ、気にしない気にしない」
 オレはそう言うと、腰に巻いていた布をはずして立ち上がった。「……今度は一緒に泳ごうよ、恵理奈」
「いいわよ、麻美っ」
 そう……オレは今、幽体離脱の薬を使って麻美に憑依し、恵理奈とプールに来ている。
 麻美のプロポーションも、恵理奈に負けず劣らずだ。特に胸の大きさは恵理奈以上のものがある。
「ほんと、麻美の胸、おっきいわよね……」
 むにっ。「……ひゃうっ!! な、何をっ!?」
 背中越しに胸をつかまれて、オレは思わず変な悲鳴を上げてしまう。
「だって今日の麻美、いつもと違って隙だらけなんだもん♪」
 恵理奈はそう言って、ぺろっと舌を出す。む〜っ、そっちがその気なら……
「え〜い、お返しだぁ」「きゃああああっ! ……やったなあっ!」
 胸を揉み返され、恵理奈が水をかけてくる。
 まわりの視線に気付いて真っ赤になるまで、オレ(麻美)と恵理奈は嬌声を上げてはしゃぎ続けた……
 ENDING NO.12

108
 メイク直し……という名の、女の作戦会議。
「典子は松川さん狙いよね。……ねえ笑子、あなた誰がいいと思う?」
「別に……」
 オレは口紅を直しながら、横にいた関本先生にそう答えた。
 合コンってのも、たいしたことないな……
 出だしで醜態(?)をさらしてしまったオレは、酔っぱらってボロが出ないようにオレンジジュースやウーロン茶などを飲んでいる。
 おかげですっかりカヤの外。まあ、男に興味もないし……(あってたまるか)。
 かくして合コンは早い時間にお開きになり、オレも笑子先生の身体から抜け出て、自分の身体に戻った。
 →103

109

「もうほっといて! どうして、何の関係もないのに……」
 ダメだ。今この状態で麻美ちゃんに本当のことを打ちあけても、冗談か悪ふざけにしか取ってもらえないだろう。
 無力感にさいなまれた次の瞬間、オレは下腹部に鋭い痛みをおぼえてその場にうずくまった。
「……祐香ちゃん?」
 麻美ちゃんが声をかけてくる。「ちょっと、急にどうしたの? ……せ、先生〜っ!! 祐香ちゃんが――!!」
 →114

110

 あの日、家に帰る途中の車が事故を起こし、両親とオレ(の身体)は即死してしまった。
 不思議と涙は出なかった。……元の “オレ” に戻れなくなってしまったというショックの方が大きかったからだ。
 以来、オレは養護教諭、立川笑子として生きてきた。
 長期間他人の身体に憑依し続けると、基本的な意志はそのままに、宿った身体の元の持ち主の人格や記憶と融合してしまう。
 今のオレは、気持ちの上では「オレ」のままだが、もはや笑子先生として存在し、考え、自然に振る舞っている。
 ……でもあの日、オレは心の奥底で、もしかしたらこうなることを願っていたのかもしれない。
 そして――
「加西さん〜、診察室にどうぞ〜」
「はぁい」
 あれから一年、オレは合コンで知り合った加西医師と結婚し、「加西笑子」になった。
「……順調ですね。母子ともに問題なし……予定日通りに出産できますよ」
「そうですか。…………よかったね。もうすぐだって――」
 オレの身体の中には今、新しい命が宿っている。
 母親らしい柔和な表情を浮かべて、オレは大きくなったおなかをそっとなで、まだ見ぬ我が子に語りかけた。
 ENDING NO.13

111

「警察だ! 動くなっ!!」
 刑事たちがそいつにとびかかった時、オレは口に詰め物をされ、スカートの中に手を入れられてショーツを下ろされかけていた。
 エレベーター横の階段の踊り場――部屋から完全に死角になっている場所だ。
「は……離せっ。離せよおいっ! ……ボクはまだ未成年だぞぉっ!!」
 わめき散らすそいつをぼんやりと見つめ、オレは毛布にくるまり、婦人警官に付き添われてその場から連れ出された。
 あとで聞いた話だが、オレを襲ったそいつは下の階に住む高校生。祐香ちゃんにいたずらをしようとして騒がれ、思い余ってマンションの非常階段から突き落としたのもそいつの仕業だった。
 ……通学路で見た人影は、オレ(祐香ちゃん)の身を守っていた警官だった。
 オレがあの時、あわてて走り出したりしなかったら、こんなことにはならなかったのだ。
 まだ、歯の根が合わない……身体の震えも止まらない。無力な少女として、襲われ、組み伏せられ、犯されかけたのだから……
「…………」
 ブラウスのボタンは引きちぎられ、スカートはしわくちゃ埃まみれ……顔にいたっては、涙と汗でひどい有様。
「祐香っ!! 祐香ちゃんっ!!」
 真っ青になったお母さんが走ってきて、涙を流しながらオレの身体をぎゅっと抱きしめた。
「……大丈夫? ケガしてない? ……ねえ、ママのこと分かるっ?」
「う……」
 オレの目から、ぽろぽろと涙がこぼれる。お母さんの目からも涙がこぼれる……
「よかった……」
 お母さんはやっと笑顔を浮かべ、くちゃくちゃになったオレの顔を拭いてくれた。
 でも、拭いても拭いてもオレの目から涙は止まらなかった。そして――
「う……う……う…………うわああああああああんっ!! …………こ、怖かったよママぁ……っ!!」
 オレはお母さん……ママにしがみつき、その胸に顔をうずめていつまでもわあわあと声を上げて泣き続けた。
 まるで、小さな女の子みたいに……
 ENDING NO.14

112

 以来、麻美ちゃんは元の明るさを取り戻し、オレ……祐香ちゃんの一番の友だちになった。
 なったのだが――
「あ〜っ! また『オレ』って言った〜っ」
「い……いいじゃんか、二人っきりなんだし……」
「よくないっ! お兄ちゃんはもう祐香ちゃんなんだから、祐香ちゃんらしくしなきゃダメっ!!」
「…………」
 元気になってくれたのはいいが、今度はオレ(祐香ちゃん)を女の子らしくすることに情熱を燃やすようになってしまった。
 ……というわけであれから毎日、オレは麻美ちゃんの家で、女の子としての立ち振るまいや言葉づかいを特訓させられている。
「本当の祐香ちゃんのためにも、可愛い女の子にならないといけないわっ。……さ、もう一回やってみて」
 オレはのろのろと立ち上がり、特訓用に着せられたピンクのエプロンドレスの裾をつまんで微笑んだ。
「えへっ♪ あたし、相沢祐香で〜す。小学五年生の女の子で〜す」
 そしてその場で、くるっと一回転。「……どう? このドレス、似合ってるかしら?」
「ダメッ! 言い方がわざとらし過ぎるっ。動きもまだまだ固いし、もっと自然に心の底から女の子にならなきゃ!」
「うえ〜っ……」
「そうじゃなくて……そういう時は、『ふにゃ〜ん♪』よっ」
「ふ……ふにゃ〜ん」
「まだまだっ。脇を閉めて、両手は口元に持ってくるっ。……いいわね祐香ちゃん、必ずあなたを可愛い女の子にしてあげるからっ♪」
 麻美ちゃんはオーラを立ちのぼらせ、目の奥に炎を揺らめかせながら宣言する。
 違う……なんか違うっ…………
 ENDING NO.15

113
 オレと雅文は肩を並べて、他の連中を探し始めた。
「……ほんとに何処行ったんだろう? 宮里さんたちもひどいよな……相沢さん一人ほっぽって――」
「あ……うん」
 まわりからは今のオレたちはどう見えるのだろう? やっぱり恋人同士…………うわああっ! 何考えてるんだオレはああっ!!
 自分の考えに赤面したオレは顔を下に向け、横目で雅文の顔をうかがった。
 こうして見ると、雅文もなかなか……じゃなくてっ!!
 オレはあわてて視線を下げた。
「…………」
 雅文の奴、結構着やせするんだな……
 意外と引き締まったその身体に、ちらちらと目をやっていると……
 どんっ! 「……きゃっ!!」
 前から着た人にぶつかり、濡れたプールサイドに足を取られてしまう。
「……危ないっ!」
「あ……」
 とっさに前に回った雅文に、オレは抱きとめられる格好になった。
 顔に、肩に、胸に……雅文の息づかいを感じる。
 どうしたんだろう? どきどきしているのに……息が苦しいのに、ずっとこのままでいたい……
「……大丈夫?」
 その言葉に我に返ったオレは、あわてて雅文から身を離した。「ご……ごめんっ。大丈夫だから……」
 震える声でそう言いながら、オレは両手を頬に当てた。
 熱い……顔が火照っている。
 オレは改めて自分の身体を見下ろした。二つの胸の膨らみ、丸みを帯びた肩、くびれた腰つき、細い手足……
 オレは…………女の子なんだ。
「ちょっと休んでいこう。むこうが見つけてくれるかもしれないし――」「あ……ええ」
 差し出された雅文の手に、オレは自分の細い手をそっと重ねた。
 →115

114
 それは「初経」だった。
 知識としては知っていたが、まさか自分がそうなるとは夢にも思っていなかったオレは、ショックで気絶してしまった。
「祐香ちゃん、大丈夫……?」
 気がつくと保健室のベッドに寝かされていた。麻美ちゃんがずっと手をつないで、横についてくれていたようだ。
「ごめんね、心配かけたみたいで……」
「ううん、あたしの方こそ――」
 麻美ちゃんはそう言うと、また下を向いてしまった。「あたしの方こそごめん……あんなこと言って」
「いいよ。オレ……あたしが麻美ちゃんの気持ちも考えずに、出しゃばったことしたから……」
「……違うよ。祐香ちゃんは悪くない」
 一瞬言葉を詰まらせて、麻美ちゃんは目尻をぬぐった。
「先生もみんなも、『そっとしておこう』ってあたしに気を使い過ぎて……祐香ちゃんだけだよ、面と向かって励まそうとしてくれたのは。……なのに、あたし――」
「もういいよ麻美ちゃん。それだけで十分」
 オレの胸に暖かいものがあふれ、下腹の痛みを少し忘れさせてくれた。
 麻美ちゃんはオレの……祐香ちゃんの手をぎゅっと握りしめ、
「ねえ……また友だちになってくれる? 前みたいに」
「もちろん!」
 オレはそう言うと、麻美ちゃんに向かってにっこり微笑んだ。
 →118

115

 レースのカーテンを通して、朝の光が差し込んでくる。オレは寝ぼけまなこをこすって身を起こすと、ベッドの上で大きく伸びをした。
 女の子になってから朝がずいぶん弱くなったけど、今日は特別。
 パジャマのまま下へ降りて、洗面所で顔を洗う。
 鏡に映っているのは、見慣れた自分の――祐香の顔。
 ぱっちりした瞳、ふっくらした頬、細い眉、すっきりしたあごの線。
 朝食を取って、部屋に戻る。クローゼットからお気に入りの下着を出すと、オレはパジャマを脱いだ。
 そっと胸に手を当ててみる。すっかりなじんだ二つの膨らみ。
 ショーツを履いて、ブラを胸に着ける。……う〜ん、ちょっと太ったかな?
 そうそう、あとから分かったことだが、あの時みんながいなくなったのは、オレと雅文を二人っきりにする作戦だったのだそうだ。
 全く……余計なことを。
 そう思いながら、オレは新しく買った白いワンピースに袖を通した。
 髪はお気に入りのポニーテール。まつげをビューラーで持ち上げて、くちびるにはピンクのリップ。
「……あら、どこか出かけるの?」
「うん、ちょっとね」
 リビングにいた母さんにそう答えると、オレはパンプスに足を通し、ドアを開けて外へ出た。
 待ち合わせの場所には、先に来ておく。……でも、一分一秒が待ち遠しい。
「……ごめん、待った?」「ううん、全然♪」
 約束の時間ぴったりに来た雅文に笑顔を向けると、オレ……いや、あたしは彼の腕に自分の腕を絡めた。
 ENDING NO.16

116

 レースのカーテンを通して、朝の光が差し込んでくる。オレは寝ぼけまなこをこすって身を起こすと、ベッドの上で大きく伸びをした。
 女の子になってから朝がずいぶん弱くなった。二度寝したい誘惑を断ち切って、ベッドから出る。
 パジャマのまま下へ降りて、洗面所で顔を洗う。
 鏡に映っているのは、見慣れた自分の――祐香の顔。
 ぱっちりした瞳、ふっくらした頬、細い眉、すっきりしたあごの線。
 朝食を取って、部屋に戻る。クローゼットからお気に入りの下着を出すと、オレはパジャマを脱いだ。
 そっと胸に手を当ててみる。すっかりなじんだ二つの膨らみ。
 ショーツを履いて、ブラを胸に着ける。……あ、あれ? 背中がうまくとまらない。
 ……これだけは、なかなかうまくならないよな。
 そう思いながら、オレはお気に入りの白いワンピースに袖を通した。
 髪は背中に流してカチューシャを留める。まつげをビューラーで持ち上げて、くちびるにはピンクのリップ。
「……あら、どこか出かけるの?」
「うん、ちょっとね」
 リビングにいた母さんにそう答えると、オレはパンプスに足を通し、ドアを開けて外へ出た。
 待ち合わせの場所には、恵理奈たちが先に来ていた。「遅いよ、祐香っ!」
「ごめんごめん。……それじゃ行こうか」
 今日は女の子だけでショッピング。……ふふっ、何買おうかな? 洋服、アクセ、化粧品……欲しいものが一杯ある。
 いつか男に戻れるまで……それまでは女の子を楽しむのも悪くない。
 ENDING NO.17

117

「……え? 水着美少女コンテスト?」
「はい。相沢祐香さん……あなたの名前で出場登録がされていますよ」
 係の人にそう言われ、オレはその場に固まってしまった。
「あんたたちでしょ、そんなことしたのは……」「いつもよりおとなしいと思ったら〜」
 麻美と笑子が男どもをにらみつける。
「……だってなあ、祐香ちゃんのプロポーションなら絶対優勝狙えるって思うし」
「ほおお……で、あたしらはエントリーしてくれなかったってわけだ」
 太田たちにげしげしケリを入れる麻美を無視して、恵理奈と雅文がオレのそばに来た。
「出てみたら? せっかくの機会なんだし」
「僕は止めたんだけどね。……でも、相沢さんなら大丈夫だよ」
「はああ……いまさらやめるわけにはいかないか――」
 →119

118

「おはよう、麻美ちゃん」
「あ、おはよう祐香ちゃん。……あれっ? 髪形変えたの?」
「……えへっ♪ ちょっとね」
 “祐香ちゃん” の長い髪を二つに分けてツインテールにしてみた。根元にはリボンを結んでいる。「どう? ……似合ってるかな?」
「うん。可愛いよ」
 麻美ちゃんはそう言って、明るく笑ってくれた。……よかった、元気になって。
 そのまま肩を並べて、通学路を学校へと歩く。
「身体の方は大丈夫?」「うん。病気じゃないんだし――」
 そう言うと、麻美ちゃんはうんうんとうなずいた。
「……大変だよね、あたしたち女の子は」
「でも楽しいことだっていっぱいあるよ。……そうだ、今度の日曜日に、ママと一緒にデパートへ洋服見に行くんだ」
「いいなあ祐香ちゃん。うちはお店あるから、そういうのなかなか行けないし……」
「じゃあ一緒に行こうよ。ママに頼んであげる」
「ほんと? やったあ♪」
 喜んではしゃぐ麻美ちゃん。そうだよ、女の子は笑顔が一番。
 オレ……あたしもおしゃれしなくっちゃ。…………だって、あたしもう女の子なんだもん♪
 ENDING NO.18

119

 恵理奈たちに簡単なメイクをしてもらい、オレはステージに上がった。
『会場にお集まりの皆さん、お待たせしました!! ただいまから水着美少女コンテストを開催しますっ!!』
 司会者の言葉に、客席から拍手と歓声が起こる。『……それではさっそく出場者をご紹介いたしましょう!!』
 カーテンが開き、オレを含めた20名の出場者たちが観客の前に姿を見せた。
 ひとりずつステージの中央へと進んで、水着姿を披露する。
『……エントリーナンバー12番、相沢祐香さん、どうぞっ!!』
 オレの番が回ってきた。ゆっくりと真ん中まで歩き、そこでくるっと一回転。
 笑子に借りた踵の高いミュールがぐらぐらしたけど、なんとか無難に履きこなして元の位置に戻る。
『続きましては、一分以内で自分の魅力をアピールしていただきます! まずはエントリーナンバー1番――』
 う〜む、自己紹介みたいなものか? ……悩んでいるうちに、オレの番が来た。
「え……と、12番、あ――相沢祐香です。し、趣味はゲームとカラオケ。身体を動かすことが好きですけど、お……泳ぎはちょっと苦手です。……よろしくお願いしますっ」
 こんなもんかな? 客席に向かって一礼して、オレは次の人にマイクを渡した。
「うおおおお相沢さんっ好きぢゃあああ――――――――っ!!!!」
「その恥じらってるところが萌え――――――――っ!!」「ぶらぼーっ!! 祐香ちゃんマンセ――――――――っ!!」
 太田、松岡、加西……お前らたのむから黙っててくれ。
 そのあと歌やゲームなんかに挑戦して、……そしていよいよ結果発表。
 ステージにドラムロールが流れ、観客席の視線が集中する。
『優勝は…………エントリーナンバー12番の、相沢祐香さんだあああああっ!!』
「ええっ!?」
 うそ……優勝しちゃった!? にわか女のこのオレが……!?
 ガウンを着せられトロフィーを手渡され、ステージに登ってきた恵理奈たちに揉みくちゃにされても、オレはずっと惚けたままだった。
 やっぱり女の子っていいな→116  それでも男に戻りたい→99

120

 水の底から浮かび上がるように、意識が目覚めていく。
 もう終わったのか? そう思いながらオレはゆっくりと身を起こし、自分の身体を見た……
「も……元に戻ってるっ!!」「……女のままじゃないか!!」
 同時に上がった二つの叫び声に、オレは一瞬硬直し……反射的に振り向いた。
「オ、オレがもう一人いるっ!?」「お、女のオレが動いてるっ!?」
「……気がついたか? 祐樹、祐香」
「「親父っ! これはどういうことだっ!?」」
 オレと “オレ” (ややこしいな……)は、そばにいた親父にくってかかった。
「うむ。脳移植手術は非常にリスクが大きいので……サイバーリンクによる記憶転写にとどめておいたのだよ」
 つ……つまりオレは二人になってしまったってことか? 互いの顔を見つめ合う。
「何はともあれ祐樹が復活し……祐香もいなくならなくて済んだのだから、全て丸くおさまったってことだな。はっはっはっ」
 よかったよかった……と、まとめに入る親父。
 その首根っこをつかみ上げ、オレは抑えた声ですごんだ。「よくないっ。今すぐオレを男に戻せっ!!」
「あらダメよ。祐樹ちゃんはここにいるんだし、祐香ちゃんまで男になったら、今度は祐樹ちゃんが二人になっちゃうわ〜」
 母さんが間延びした声で、話に割って入った。
「オレはこれで別にかまわないよ。ちゃんと男に戻れたし、妹ができたって思えばいいんだし――」
 ああそうだろうよっ。……男の “オレ” ならそう言うと思った。
「あたしもこれでよかったと思う。だって祐樹も祐香も……二人とも大好きだもん」
「お義父さん、お義母さん、……祐香さんは僕が幸せにしますっ」
 横にいた恵理奈と雅文が、口々にそう言う。……ところでお前らいつからここに?
「とにかくあなたは祐香ちゃんなの。女の子らしくなるように、今日からまたびしびしいきますからね」
「あたしも手伝います、おばさま♪」
「じゃあオレのことは、『祐樹お兄ちゃん』って呼んでもらおうかな?」
「祐香さん、どんなことがあっても僕がきみを守るから……」
「うむ……めでたしめでたし。はっはっはっ」
 ほんわかした空気が流れる中、オレは一人肩を震わせていた。「こ、こ、……こんなオチ、オレは断じて認めないぞおおおおっ!!」



 ……まあいいか、と思えるようになったのは、それから半年も経ってからだった。
 TRUE ENDING?




 MONDOです。今回は、なつかしのゲームブック風ノベルを作ってみました。
 あなたは、どの結末がお好みですか?
 今回、一人称の語りは書いてて結構恥ずかしいものがありました。「憑依」パートもどんどんエッチな方向へいっちゃいますし(笑)。
 こんな容量ばかり大きな作品にお付き合いいただいて、本当にありがとうございました。
 それでは、また次回。

2003.8.17 MONDO

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