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悪魔少女ニコ
作:NHK

悲劇の誕生3



「あ、あの、母さん、これには色々と事情が……」
 ボクは両腕を交差させ、膨らんだ胸を隠した。けれど、お尻や、くびれたウエストのラインまでは到底隠せない。
「……ニコ、あなた、まさか、そんな、あぁ!何てことなの!」
 その場に泣き崩れる母さん。
「さめざめ……」
 さめざめ、と言葉に出して、さめざめと泣く母さん。
 あぁ、母さんを泣かせてしまった……。
 どうしていいか分からずに、おろおろするボク。そこへ、ばしぃぃぃん!姉さんの鋭いツッコミがボクの後頭部にはいった。くはぁぁぁぁ!
「痛いなぁ!なにするんだよ!姉さん!」
 ボクは後頭部を押さえて振り返り、姉さんに抗議する。ボクの姉さんは、女の割に力持ちで、とってもバイオレンスな性格をしている。
「何が痛いだ!こらっ!謝りなさい!ニコ!」
 ばしぃぃぃん!
 くはぁぁぁぁ!再び姉さんの鋭いツッコミがボクの後頭部を直撃する。女の子になった為か、姉さんのツッコミがやたら堪えて、目の前がチカチカする。
「そうよ!ニコ!父さんに謝りなさい!」
 母さんはボクの耳を掴むと、すごい力で仏壇の前へと引っ張っていった。
 痛いって!そんなに引っ張ったら、耳がちぎれるぅぅぅぅ!!
 母さんも姉さん並にバイオレンスな性格で、ボクが小さかった頃は、超強烈な往復ビンタで御仕置きされて、よく泣かされた。

 ……チ〜ン

 母さんはりん(*鐘のこと)を鳴らすと、父さんの写真に向かって手を合わせた。
「あなた、ごめんなさい。私達の息子が娘になってしまいました。どうしてでしょう?娘になるよう育てたつもりはないのに……」
 ボクだって、娘になるよう育てられた覚えなんかない。だいたい、どこの世界に息子を娘として育てる親がいるんだよ?もしそんな親がいたら《助さん、角さん、懲らしめてあげなさい!》だよね。
「ほら、ニコ!お父さんに謝りなさい!」
 ボクはしぶしぶ仏壇に手を合わせる。
「……えっと、何だかよく分からないけど、女の子になっちゃいました。ごめんなさい」
 突然、横にいた母さんがボクの胸を鷲掴みした。
「 ひゃうん!……な!ななな、何するんだよ、母さん!」
 ちょっと触られただけなのに、痛いくらいにすごく感じる。なんて敏感なんだ!ボクは畳から跳び上がると、両腕で胸をかばった。
「どうやら女装じゃなくて本物のようね……ニコ、あなたがそんなに女の子になりたがっていたなんて、母さん、ちっとも気付かなかった」
 ボクだって知らなかったよ!
「ニコ、あなたの決心が固いことはよく分かったわ。だから母さんも決心した!母さん、あなたをこの家から立派に娘としてお嫁に出してあげるから!」
 いやぁぁぁぁ!!お嫁に出さないでぇぇぇぇ!!

 部屋に戻ったボクは頭を抱えて悩んだ。
 うぅ、今の状況ってめちゃくちゃやばいんじゃない?!ボクの人生はじまって以来、最大のピンチだよ!何とかして男に戻らないと、このままじゃ、将来、娘としてお嫁に出されちゃうよぉぉぉぉ!!
 とその時、きゅす、きゅす、きゅす、妙な音が聞こえた。
 何の音だ?ボクは音のする方に目を向けた。窓の外にまっ黒な猫がいっぴき、窓を引っ掻いていた。あの妙な音は、猫の肉球とガラスの摩擦音だったのか。
 ボクは、カラリ、と窓を開けてやった。まっ黒な猫は慣れた様子で部屋の中に入ってきた。ん?よく見ると口に手紙のようなものを咥えている。まっ黒な猫はボクの目の前に、封筒のようなものをポトリと置くと、
「ニャァ」
 ビー球みたいに丸くて、透き通った緑色の目がボクを見ている。随分人馴れした猫だなぁ。ボクはちょっと猫にさわってみたくなって、手を伸ばした。すると、

 シャオ!

 いってぇぇぇぇ!指先から血がにじんでいる。猫に引っかかれてしまった。
 まっ黒な猫は何事もなかったかのように、窓から外へと出て行ってしまった。何だか猫にバカにされたみたいで、何かムカツキ!……いやいや、人間さまが、猫を相手に怒っちゃだめだよね。
 ボクは大きく深呼吸すると、気を取り直して猫の持ってきた封筒を手にとった。
 中には黒い便箋に、血のように赤いインクで一言、


『本日午後6時、N居公園』

 何だか果たし状みたいな手紙だ。
 昨日まで、どこから切っても金太郎飴みたいに、ごく普通で平凡な高校生の男子だったボクには、決闘を申し込まれるような理由はない。とはいえ、どんな小さなことでもいいから男に戻るための手がかりがほしい。
 ボクは手紙を見つめ、つぶやいた。
「……行くしかないよね」







 あっ、えっと、『悲劇の誕生3』読んでいただきありがとうございます。
 あとがきとかを書くと、
 今後の展開とか、ネタばらししてしまいそうになるので、
 余計なことは書かないでおきますね。
 それでは、次回でお会いしませう。



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