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学園戦隊ジャージーズ

結集する学園戦士たち

Written by NHK


その1


「――ったく、何なんだよ、あの態度はっ!!」

 職員室から出てきた早瀬智世は、不機嫌であった。
 早瀬智世は、野々宮千晶によって「女の子」にされてしまった経緯を教頭に説明した。
 かなり荒唐無稽な話ではあったが、事実をありのままに話し、何とか信じてもらうことが出来た。しかし、その後がいけなかった。
 智世は教頭に、「男に戻してもらえるよう野々宮先生を説得するのに協力してください!」 と頼んだのだが、教頭は手で耳を塞いで、「わー、わー、わー、聞こえな〜い!」 と連呼するばかりで、まともに取り合ってくれなかったのだ。
 お前は子供かっ!? ――と、智世は心の中で教頭にツッコミを入れた。
 まぁ、学校としては、そのように非常識な事件には関わりたくないのが本音なのだろう。

 職員室を出た早瀬智世は、教室に向かって歩きながら思案に暮れていた。
 あの真昼の悪夢……野々宮千晶に対抗するには、どうしても協力者が必要だ。
 しかし教頭があの調子では、教師側からの協力は得られそうにない。……となると、学園の生徒に協力してもらうしかないのだが……
 ……と、その時、智世は修羅場に出くわした。廊下の端で、厳格なことで有名な数学教師・市ノ瀬と、智世のクラスメイトである峰倉和也が何か話している。
 峰倉和也は、これといって特徴のないところが特徴の男子だ。

「おい峰倉っ、この前のテストの点は何だっ!?」
「そっ、そんなに悪い点なんですか!?  どきどき!!」
「悪いなんてもんじゃないっ。このままじゃ卒業はおろか、進級も出来んぞっ!」
「がーん! せっ、先生のお力で何とかなりませんか?」
「馬鹿なことを言っている暇があったら勉強しろっ!」
「そっ、そんなぁ。しくしく……」
「全ては今度の期末試験に懸かっているからな。しっかり勉強しておくように」

 廊下にがっくりと膝をついた峰倉和也を残して、数学教師・市ノ瀬は去っていった。
 柱に隠れて一部始終を見ていた早瀬智世は、ううむ――と唸った。
 唸ったのには訳がある。何故なら峰倉和也は、【特撮ヒーロー研究部】に所属していたからだ。
 仮にも智世の敵は、【黒猫十字軍】を名乗る悪の秘密結社である。悪の秘密結社と闘うならば、その筋の専門家にアドバイスを求めるのが筋であろう。

 ちなみに、青葉山学院大学付属高校には、【特撮ヒーロー研究部】以外にも風変わりなクラブが多数存在する。
 例えば【漫画研究部】。――ここには、「私は前世、陰陽師だったのよぉ!」 と主張する女子が多数生息していて、部室の前を通る生徒を怯えさせている。
 しかし、【漫画研究部】よりさらに恐れられているのが、【電波研究部】である。
 【電波研究部】の活動内容は、光や電磁波の研究ではない。
 部員達は毎夕、校舎の屋上に上り、金星に向かって手をかざす。彼等の説明によると、手から電波を出して金星に住む少女レナと電脳でチャットを楽しんでいるのだそうだ。つまり【電波研究部】は、笹公人の歌集【念力家族】を地でいくクラブなのである。……電波違いか!?

 さて、早瀬智世は、膝をつき茫然自失する峰倉和也に話し掛けた。
「お〜い、和也!」
 智世の声に反応して和也は振り向いた。が、その目は虚ろである。
「――てんしだ。天使が見える」
「はぁ? 天使なんてどこにいるんだよ?」
「――あぁ、俺のライフポイントは尽きてしまったのか? 俺の目の前に天使がいる……」
「何言ってるんだ? しっかりしろよ和也」
 智世は和也の肩を揺さ振った。すると突然、

「うおぉぉぉおおっ! 俺の天使さまぁぁぁああ!!」

 いきなり智世にすがり付き、和也はおいおいと涙を流した。
「やっ、やめろぉぉぉっ! 鼻水を付けるなぁ!! ……きゃぁぁぁあああっ!!」

 ……智世の絶叫が廊下に木霊した。


その2


 それから五分後。ようやく正気を取り戻した峰倉和也は言った。

「――つまり、お前は早瀬智宏なんだな」
 和也の顔はボコボコに腫れ上がっていた。
「そうだ……あの千晶先生に改造されたんだ」
 智世は目尻に涙を浮かべながら、手をさすった。
「それにしても可愛くなったなぁ。……嗚呼、持ち帰りてぇ!」
「不吉なことを言うなよコラッ!」
 数歩後ろに後じさりする智世。
「大丈夫だって……じゅるる……そんなことしないって……」
 和也の口から涎が垂れてきている。
「――激しく不安なんだけどなぁ」

 早瀬智世の不安げな瞳に見つめられて我に帰った峰倉和也は、慌てて涎を拭いた。
 さらに数回深呼吸をして、体の内から込み上げてくる何かを理性で強引に押さえつける。

「……で、要するに早瀬たんは、【黒猫十字軍】とかいう悪の秘密結社を倒す方法を知りたいんだな?」
「敵は実質、千晶先生一人なんだけどな……って、『早瀬たん』は止めろ!」
「ふ〜む。……となると、アイツの意見も聞かねばなるまい」
「アイツって誰のこと?」
「淀川達哉だよ。たぶん、体育館裏にいるだろうから、今から行くか」


その3


 体育館裏。
 そこは、生徒もほとんど通らず、すべての窓から死角となる為、異性(同性でも可)に告白するには最適なスポットである。
 早瀬智世と峰倉和也がここにやって来た時、淀川達哉はまさに女子生徒に告白をしている真っ最中であった。
 ……だが、どうやら少し様子がおかしい。

「な〜んだ。私を呼び出したのって、アンタだったんだ。……来て損しちゃった」
「いいじゃん。俺と付き合ってよ。デート一回でもいいから」
「なんで私がアンタとデートしなくちゃいけないのよ?」
「え〜、つれないこと言うなよ。……ほらほら、映画のチケットも取ったんだぜ」
「――映画のタイトルは?」
「ジェイソンVS古館一郎」
「――最低よっ!!」
「どっ、どこが!? すっげー面白そうじゃん!! 最強の無口キャラと最強のおしゃべりキャラの対決なんだよ!?」
「それのどこが女の子をデートに誘う映画なのよ!? だいたいアンタねぇ、学校中の女子を片っ端から口説いてるそうじゃない! ……なに? 私のこと、ちょっと声をかければすぐに応じる安い女だと思ったわけぇ!?」
「とっ、とんでもない! ただ、下手な鉄砲でも数撃ちゃ当たるかなぁ? って思っただけで……」
「――いっぺん死ねっ!!」

 女子生徒は、ティミョ・トルリョ・チャギ(跳び回し蹴り)を放った。
 チャギ(蹴り)は美しく放物線を描きながら、淀川達哉の顔面に炸裂した。
 実に華麗な、目の覚めるようなチャギ(蹴り)であった。
 女子生徒は地面に横たわる淀川達哉を一瞥すると、足早に教室へと戻っていった。

 ちなみに、ティミョ・トルリョ・チャギ(跳び回し蹴り)は、かなり高度な技である。
 危険なので、良い子は絶対に真似してはいけない(悪い子が真似するのは可)。

 淀川達哉は、峰倉和也と同様、これといって特徴のないところが特徴の男子だった。
 そこで、高校入学を機に女の子と気軽にしゃべれるキャラになろうとしたのだが、結果が先程の状況なのだ。
 早い話、淀川達哉は高校デビューに失敗したのだ。
 ちなみに彼も早瀬智世のクラスメイトであり、【特撮ヒーロー研究部】に所属している。

 智世は達哉に駈け寄り、抱き起こした。達哉の顔面はすでにボコボコである。
「うわぁぁぁ達哉っ、大丈夫か? 生きてるか?」
「――ううっ、も、もう駄目だ。て、天使が見える」
 虚ろな目で智世を見る達哉。
「なっ、何か嫌な予感……」
 智世は思わず達哉から離れようとした。その瞬間――

「うおぉぉぉおおっ! マイ・スウィ〜トエィンジェルゥゥゥうううっ!!」

「このパターンはもう嫌ぁぁぁあああっ!!」


その4


 それから十分後。
 淀川達哉は、ようやく冷静さを取り戻した。彼の顔面は、先程の二倍にまでボコボコに腫れ上がっている。

「いやぁ、まさか早瀬がこんな可愛い女の子になるとはなぁ……。よし分かった。ダチのためだ、一肌脱ごうじゃないか」
「手伝ってくれるのか!?」
「ちょ、ちょっと待てよ達哉。相手はイカれた(逝かれた)マッドサイエンティストだぞ!? どうやって闘うんだよ!?」
「まぁ待て和也。俺たちは【特撮ヒーロー研究部】だぞ? 悪の秘密結社の手口は知り抜いている。それにな……」

 そこで達哉はいったん言葉を切ると、早瀬智世から少し離れた所へ峰倉和也を引っ張って行き、小声で耳打ちした。

「(早瀬たんは女の子になったばかりで不安なんだ。そこで俺たちが男らしいところを見せれば、早瀬たんが俺たちに惚れるかもしれないだろ?)」
「(そっ、そうか! それに、俺たちが正義のヒーローになって学園の平和を守れば、目立てて女の子にモテるかもしれない。そういうことだろ!?)」
「(その通りだ! 俺たちはモテモテになるんだ!!)」

 何とも欲望にまみれた正義のヒーローである。
 そして妄想が加速し、感極まった二人は……

「和也、久し振りにアレをやるか!?」
「おぅ、達哉。これがやらずにいられるか!!」
「なら…!」

「流派っ! 東方不敗はあっ!!」
「王者の風よぉぉぉっ!!」
「全新っ! 系列っ!」
「天破っ! 侠乱っ!」

「「見よ! 東方は赤く燃えているぅっ!!」」

 どうやらこの二人、特撮ヒーローオタクなだけではなく、ガンダムオタクでもあるようだ。
 ひしと肩を抱き合う二人の姿からは、『走れメロス』のメロスとセリヌンティウスのような熱い友情が伝わってくる。
 ……しかし、そんな二人の背中を見つめながら早瀬智世は思った。

 ――この二人、激しく不安だ。人選を間違えたかなぁ?

 漢と漢との友情を確かめ合った二人は、あきれ顔をした早瀬智世の方を振り返って言った。

「ところで早瀬たん?」
「……だからぁ、『早瀬たん』って言うのは止めろ!」
「今日、俺の家に遊びに来ないか?」

 今の精神状態の二人についていけば、何をされるか分かったものではない。
 早瀬智世は、きっぱりと、すっぱりと、僅かの迷いも無く、一分の惑いも無く、決然たる思いを込めて言った。

「絶っ対に行かないっ!!」

 こうして、地獄の軍団【黒猫十字軍】から世界の平和を守るべく、
 正義の学園戦士たちが、
 結集したのであった。


次回予告


 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。NHKです。

 今回は何とか10KB以内に収めることが出来ました。
 しかし、短く話をまとめようとすると、どうしてもエピソードやネタを削らなければならなくなる。
 これでも、できるだけネタを詰め込んだんだけどなぁ。
 う〜む、ジレンマですねぇ。

 この物語は、運営委員の皆さまのお力と、読者の皆さまの励ましで書き続けられています。
 この場を借りて、お礼申し上げます。
 ありがとうございます。

 それでは、第五話『怪人プロジェクト始動』でお会いしましょう。


―― この物語はフィクションです。実在の人物、団体等とは一切関係ありません。――

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