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死ぬか生きるか!?

Written by NHK


「クソッ!どこに行ったんだっ!?」

 オレは左手の中にある名刺を握りつぶし、人ごみに目を凝らした。
 額の汗をぬぐい、荒い呼吸を整える。息を吐く度に、胸についた二つの大きなふくらみが、ふるん、と震える。

 通りには人が溢れ、ひしめき合っていた。この中から、オレは一人の少女を見つけなければならないのだ。
 せっかっく大都会へ出てきたのに、まさかこんなことになるとは思わなかった。オレの脳裏に、ほんの10分ほど前に起こった、悪夢のような出来事が蘇ってきた。

 実は、オレはほんの10分前までは男だったのだ。



 オレは実家の家業が大嫌いだった。家業を継ぐのが嫌で嫌で仕方なかった。だから、オレは長距離バスに飛び乗り、田舎を捨てて、この大都会にやってきたのだ。

 都会には自由な空気が満ちていた。バスから一歩降り立ったオレは、感動のあまり、その自由な空気を思い切り吸い込んだ。と、その時、オレの腕を誰かが、とんとん、と叩いた。

「……ん?」
 オレは叩かれた方を振り向いた。すると、そこには一人の少女が立っていた。
 その少女は小学校低学年くらいで、フリルが付いた白いワンピースに、ピンク色のリボンが付いた鍔広の白い帽子を被っていた。

「お兄ちゃん、何か悩んでいることはありませんか?」
 少女は、人懐っこそうな笑顔を向けて、オレに一枚の名刺を差し出した。
 オレは差し出された名刺を、迷いもなく受け取った。今思えば、オレはこの時、都会へやって来た嬉しさから、少し浮かれていたのかもしれない。

「ねぇ、ねぇ、悩みあるでしょ? 私、セールスレディなの! お兄ちゃんの悩みを解決してあげるっ!」
 こんな子供がセールスレディである訳はない。おそらく、【○○ごっこ遊び】なのだろう。
 普段なら、こんな子供は相手にしないのだが、何しろオレは、都会へやって来た嬉しさのため、機嫌が良かった。それで、つい、この少女の相手をしてしまったのだ。

「う〜ん、特に悩みってないけど……強いて挙げると、オレの名前は、女みたいな名前なんだけど、それが原因で、時々女に間違われるのが悩みかなぁ?」
 オレはちょっと首を傾げて考え、当り障りのない無難な悩みを言った。
「それがお兄ちゃんの悩みなのね。ところで、お兄ちゃんは何て名前なの?」
 オレは少女の耳元に口を寄せると、小声で名前を告げた。
「ふ〜ん、ゲームの女性キャラみたいな名前ね」
 本当に女みたいな名前だ。高校生になった今ではあまり気にならなくなった。しかし、オレが小さい頃は、この女みたいな名前を同級生に揶揄されるので、嫌で仕方がなかった。

「分かったわっ! 大丈夫っ! あっという間に解決してあげるからっ!」
 少女は、小さな手で握りこぶしを作り、得意げに胸を、ドンッ、と叩いて見せた。そして少女は、バレリーナのようにクルクルと回転。すると、どうだろう!? 少女の手がキラキラと輝きだし……

「そうれっ!」

 少女は、手をオレに向けて一振り! すると、少女の手から光の粒子が放たれ、さらに、突然巻き起こったつむじ風がオレを襲う!

「うわぁぁぁ!」
 オレは堪らず目を閉じ、腕で顔を覆った! そして……

「なっ! 何だこりゃぁぁぁ!」
 風が収まったのを確認し、目を開いたオレは絶叫した! 何故なら、オレの体が男から女に変わっていたからだ!

「これでもう名前で性別を間違えられることはないよ! お姉ちゃん、それじゃあ私、もう行くね!」
 そう言うと、少女は人ごみの中に消えてしまった。オレは、しばし呆然とその場に立ち尽くした。

 これが、ほんの10分前に起こった、悪夢のような出来事だ。



 冷静さを取り戻したオレは、すぐに少女の後を追った。
 科学的に考えても、男がいきなり女になるなんて、到底ありえない。が、しかし、現にオレは女になってしまったのだ。だったら、オレが女になってしまった原因は、あの謎の少女にあるとしか考えらない。だから、もう一度、あの少女に会えば、男に戻れるかもしれない。オレはそう考えたのだ。

 オレは人ごみを掻き分け、少女の姿を探す。まだ、それほど遠くには行っていない筈だ。

 すれ違う人たちが、みんなオレの方を見る。しかし、それも仕方ないことなのかもしれない。
 何故なら、今のオレの姿は、若くて美人で、しかも胸の大きい女なのだ。
 しかも、今のオレの服装は、胸元が大胆に開いた着物(?)だ。さらに、この着物、裾が短くて腰の上あたりまでスリットが入っているので、走る度に裾がめくれて、白いパンツが見えそうになるのだ。これでは、嫌が上にも注目を集めてしまう。

 オレは羞恥心を抑えながら、少女の姿を探した。と、その時、すれ違いざまに、どんっ! と人と肩がぶつかった。衝撃でオレは転びそうになったが、なんとか踏みとどまる。

「すっ、すいません!」
 オレは反射的に、ぶつかった相手に謝った。ぶつかった相手は、外国人の女性だった。髪はブロンド、背は高め。175センチくらいはあるだろうか? ブーツにホットパンツ、ノースリーブのジャケットを着ている。なんだか、プロレスのリングコスチュームみたいな服装だ。

「ちょっと! どこ見て歩いてるのっ! 私、これから試合だっていうのに、怪我でもしたらどう責任とってくれるのよっ!」
 すさまじい剣幕だ。恐ろしい形相でオレを睨みつけてくる。

「すっ、すいません。オレ、すごく急いでいたんです」
 オレは頭を深々と下げて謝った。こんなことで揉めたくはないし、今は早く、あの少女を追いかけなければならないからだ。しかし、目の前の彼女の怒りは、こんなことでは収まらない。

「何よっ! 自分が悪いくせに、言い訳するつもり!? なんて腐った根性かしら、その根性、私が叩きなおしてあげるわっ!!」
 言うやいなや、彼女はオレに殴りかかってきた。完全に脳みそが沸騰してしまったようだ。

 彼女は、オレめがけて、右ストレートを放った。体格もいいし、筋力もある。当たればかなりのダメージを受けそうだ。しかし、スピードが遅い。はっきり言って、オレにとっては、この程度のスピードのパンチを避けるのは造作もない。
 彼女のパンチは、ブンッ! と音を立てて、見事なくらいに虚しく空を切った。パンチを避けられ、彼女の怒りはさらにヒートアップする。今度は、猛牛みたいに、物凄い勢いで、オレにタックルを仕掛けてきた。しかし、オレは冷静だ。すばやく地面を蹴って跳躍する。蝶のように空中を、ふわり、と舞い、彼女の頭上を飛び越えると背後を取った。
 背後を取られた彼女が、振り向きざまにオレの腕を掴もうと手を伸ばす。オレは、そのタイミングを狙って逆に彼女の腕を掴むと、彼女の勢いにオレの勢いを上乗せして、彼女を投げ飛ばした。

「きゅう」
 投げ飛ばされ、ぶわっ、と宙に浮いた彼女は、背中から地面に落下した。地面に叩きつけられた彼女は、ちょっぴり可愛い声を出して気絶してしまった。

「オレ、マジで急いでるんです。ごめんなさい」
 気絶して地面に大の字で横たわる彼女に軽く頭を下げると、オレは急いでその場を後にした。



 余計なトラブルで、時間を喰ってしまった。何とかしてあの少女を見つけなければならない。
 再びオレは、人ごみを掻き分け、少女の姿を探す。ここであの少女を見つけられなかったら、オレは、ひょっとしたら、男に戻れないまま、女として過ごさなけらばならなくなるかもしれない。そう思うと、背筋に寒いものが走る。と、その時、人ごみの中に、白いワンピースを着た、あの謎の少女を発見。やったぜっ! オレは心の中で喝采を挙げた! ところが……

「よう、お嬢ちゃん! さっきの闘い、見てたぜっ! なかなかヤルじゃん!」

 突然、オレの前に、カンフー着を纏った若い男が立ち塞がった。年齢は二十歳くらいだろうか? この男、髪の毛が少年漫画の主人公みたいに逆立っている。

「さっきのお嬢ちゃんの闘いは、俺の格闘家魂に火をつけた。そこでだ、お嬢ちゃん、俺と勝負してくれないか?」
 カンフー着を着た男は、オレに勝負を挑んできたが、そんなものは、まっぴら御免だ。

「あの、今、急いでますので……」
 こんな男の相手をしている暇はない。オレは男を無視して、あの少女の後を追おうとした。その瞬間、

「ほあたぁ!」
 突然、男は甲高い怪鳥音を発すると、オレの胸倉を掴み、凄まじい力で投げ飛ばした! 不意を突かれたオレは宙に投げ出された。しかし、オレは体をひねって体勢を立て直し、すたん、と地面に着地する。

「何すんだよっ!」
「うるせぇ! 格闘家が勝負を挑まれれば、受けて立つのが礼儀ってもんだろうが!!」
 突然、男は逆ギレ。無茶苦茶な理屈を吼えると、カンフーらしき構えをとって臨戦態勢になった。

 確かにオレには格闘技を習った経験がある。しかしそれは、オレが習いたくて習ったのではなく、家業を継ぐために、嫌々習わされたものだ。だから、オレ自身は格闘家でも何でもない。だから、闘わなければならない理由はないのだ。しかしこの男、どうやら何が何でもオレと勝負するつもりらしい。

 野次馬が集まってきて、カンフー男とオレを中心に人垣が出来る。

 こうなったら、さっさとこの男を倒して、あの少女を追ったほうが早い。
 オレは覚悟を決めると、短く息を吐き、男との間合いを一気に詰めた。オレの拳が、ヒュッ、と風を切って、カンフー男に迫る。ところが、ガツン、と男は己の拳でオレの突き打ち落とした。しかし、それでもオレは気にせず、さらにパンチの速度を上げ、第二発、第三発を繰り出す。ヒュッ、ヒュッ、ガツン、ガツン。
 男はオレと同等か、それ以上の反射神経を持っているようだ。ならば……オレは第四発めの突きを繰り出すと見せかけて、上段にすばやく蹴りを放った。鞭のように素早くしなやかなオレの蹴りが、ヒョウ、と音を立てて空気を切り裂く。ところが、男は上体を後ろに反らし、紙一重でオレの蹴りを回避した。オレの渾身の蹴りは、男の頬をわずかに掠めただけに終わった。まったく信じ難い!

「いい蹴りじゃねぇか。気に入ったぜ」
 男は切れた頬から滴る血を親指で拭い、ぺろり、と舐めると、不敵な笑みを浮かべた。やばい、この男かなり強いぞ。
 すさまじい攻防を見せられたギャラリーが、大きな歓声を上げる。

「今度はこっちから行くぜっ!」
 男はすり足で、素早くオレとの間合いを詰める。

「ほあたぁ! あたぁ! あちょう!」
 男はまたしても怪鳥音を発し、オレに拳を繰り出す。ブオンッ、と唸りをあげて拳がオレに迫る。オレは拳を受け流そうと手を伸ばした。ガンッ!だが、 男のパンチが早く、あまりにも重いので、完全に受け流すことが出来ない。ガンッ! さらにもう一撃。男の拳はオレの防御を突き破り、胸にヒットした。しかし、豊かなバストがクッションとなり、ラッキーにもダメージは小さい。
 ところが次の瞬間、男は、くるり、とオレに背を向けた。上段への攻撃だと咄嗟に判断したオレは、頭の位置で腕を交差させてガード。直後に男の裏拳がヒット。腕の骨がビリビリと痺れ、後ろに倒れそうになるが、ここで倒れるわけにはいかない。
 オレは足に力を込め、何とかギリギリのところで踏みとどまった。くそう、反撃せよ!そう思った瞬間、ガラ空きになったオレの鳩尾に、男の凄まじい蹴りが炸裂した!

 男はオレを、マトリックスのエージェントみたいに蹴った。チョウ・ユンファみたいな蹴り。ジェット・リーみたいな蹴り。外部からの急激な圧力で、オレの内臓が、ぐにゃり、とひしゃげ押し潰される。オレの体は打撃点を中心に、くの字、に曲がり、地面に対して平行にすっ飛んだ。そして、オレの体はそのまま後方のギャラリーに激突。さらに地面をごろごろと転がり、ようやく停止した。

 胃液が逆流し、喉元まで酢いものが込み上げてくる。
 転がった拍子に、着物(?)の裾がめくれ上がった。丸見えになったオレの白いパンツを狙い、ギャラリーからカメラのフラッシュが光る。

「こっ、こら! カメラを向けるなっ! 撮るんじゃない!」
 着物(?)の裾で、慌ててパンツを隠すと、オレは、よろよろ、と立ち上がった。ちくしょう、恥ずかしくて涙が出そうだ。しかし、今問題なのは、目の前の男だ。オレは懸命に涙をこらえる。

 今、オレの目の前で雄叫びを上げ、ポーズをとっているこの男は強い。オレより確実に二段か三段は強い。しかし、ここでオレが負けて気絶してしまえば、確実にあの謎の少女を見失ってしまう。
 オレは決心した。こうなったら、あまり気は進まないが、忍法【相手の痛いところを突いて、動揺を誘う】の術を使おう。

「アンタ、めちゃくちゃ強いな。まるでブルース・リーと闘っているみたいだ」
 オレは、腹を手で押さえ、今にも吐きそうになるのを堪えて言った。すると、急に男は笑顔になった。

「おう、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。ブルース・リーは、俺の心の師匠なんだ」
「なるほど、道理で強いわけだ。それに、アンタ、【北斗の拳】も好きだろう?」
「よく分かるな。【北斗の拳】は俺の愛読書だ。ビデオもコミックスも全巻持っているぞ」
「そりゃ、凄い!」
 ふふん、やはりそうか。オレは心の中でほくそ笑む。が、しかし、オレはそれは顔に出さず、大げさに感心して見せた。

「しかし、いくらブルース・リーに憧れているからって、黄色いライディングスーツをパジャマ代わりに着て寝るのはどうかと思うぞ」
 オレの言葉を聞いた瞬間、男の顔が、さっと青ざめた。どうやら図星のようだ。

「それに、【北斗の拳】を読んで、経絡秘孔を突かれたらどうしよう? と本気で悩んだことがあるだろう?」
「ぐはっ! なっ、何故それを知っている!?」
 男は激しく動揺している。オレの狙い通りだ。(マジで信じる奴いたんだ)(嫌だぁ、カッコ悪〜い)ギャラリーから、ひそひそ、と囁く声が聞こえてくる。オレはさらに揺さ振りをかける。

「それだけじゃない。アンタ、高校生になるまで、北斗百烈拳を習得しようと、必死で特訓していただろう?」
「ぎゃぁぁぁ! 言うなっ! 頼むから言わないでくれっ!」
 男は絶叫すると、両手で耳を塞いだ。(高校生になるまで!? 信じらんねぇ!?)(ウッソ〜!? ホントに馬鹿じゃん!)ギャラリーから容赦のない視線が男に注がれる。

 ほんのちょっと、男の精神に動揺を与えるつもりだったが、どうやら予想以上に効いたらしく、男は精神に激しくダメージを受けたようだ。
 男はギャラリーの視線に耐えられず、遂に目も閉じた。今や男は完全に無防備な状態だ。

「隙ありっ!」
 オレは男に駆け寄ると、上空へ思いっきり跳躍! そして片足を伸ばし、落下の勢いを上乗せして、高々度からの踵落しを、男の頭上に落とした!

「ひでぶっ!」
 男は謎の悲鳴を上げると、がくり、と膝から地面に崩れ落ちた。



 またしても、余計なトラブルで時間を浪費してしまった。どうして急いでいる時に限って次々とトラブルがやって来るんだろう? ホント嫌になる。

 オレは気を取り直して人ごみの中から、謎の少女の姿を探す。まだ、それほど遠くまで行っていないはずだ。そう思って遠くに目を凝らすと、居た! 前方約100メートル先に、白いワンピース姿の少女を発見! どうやらオレは、まだ運に見放されていないようだ! そう思った矢先……

「あの、すいません。お尋ねしたいんですが……」
 後ろから女の声が、オレを呼び止めた。

「今度は何だよっ!?」
 半分キレかけながら振り返ったオレは戦慄した! そこにはオレの異父妹の綾音が立っていたからだ! 頭から血の気が引いていく。

「あの、大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ?」
「……えっ? あぁ、だっ、大丈夫です。それより何か御用ですか?」
「はい。私、ある男を捜しているんです。その男、実は【抜け忍】なのですが、見かけたことはありませんか?」
 そう言うと、綾音は一枚の写真を取り出し、オレに見せた。その写真の人物は、紛れもなく男の姿をしたオレだった。

 そう、オレの実家は、戦国時代から続く忍者の一族なのだ。しかし、今の時代、忍者なんてやっていても、活躍できる場所なんて、【太秦映画村】か【日光江戸村】くらいしかない。だから、オレは忍者なんて大嫌いなのだ。

 オレには、疾風という六歳年の離れた兄貴がいた。本来なら、オレの兄貴が実家の忍者家業を継ぐはずだった。ところが去年、その兄貴が突然失踪してしまったのだ。たぶん、家業を継ぐのが嫌で逃げ出したのだろう。
 そうなると今度は、次男であるオレにお鉢が回ってきた。もちろん、オレだって、忍者家業を継ぐのは嫌だ。だから、オレは故郷を捨て、【抜け忍】となったのだ。

 さて、問題は、今、オレの目の前にいる厄介な妹から、どうやって切り抜けるかだ。綾音は妹ながら、恐ろしい女だ。何が恐ろしいといって、忍者が大好きで、忍術修行ばかりしていることが、特に恐ろしい。

 綾音は見た目は可愛いが、性格はかなりきつく、執念深い。しかも、オレより一つ年下の十六歳の生意気盛りで、兄であるオレにも楯突いてくる。厄介なことこの上ない綾音だが、兄貴である疾風にはベタ惚れで、兄貴に熱烈なアタックをかけていた。
 兄貴はそんな綾音と二人きりになることを恐れ、家ではいつもオレと行動を共にしていた。万が一、綾音とステディな関係にでもなれば、忍者家業一直線だ。だから、兄貴の心情には、オレは同情を禁じえない。

 そのような複雑な事情を理解していない綾音は、オレのことを兄との関係を邪魔する存在として憎んでいる。チャンスがあれば、オレを亡き者にしようとさえ考えているくらいだ。しかし、幸い、女の姿をしたオレと綾音が会うのは、これが初めてだ。名乗りさえしなければ、やり過ごすことが出来るだろう。

「残念ですけど、知りません。じゃ、今は忙しいので……」
 オレは写真を、ちらっ、と見ただけで綾音に返し、その場を立ち去ろうとした。その時!

「ちょっと待って! あなたが腰に挿している小刀、どこで手に入れたんですか!?」
 綾音の声が、低く、突き刺すような声に変わった。しまった! オレは新しい生活をはじめるための軍資金にしようと、実家から愛用の小刀を持ち出したことを後悔した。

「あなたが腰に挿しているその小刀は、この写真の男が使っていたものです。それを、どうしてあなたが……はっ! まさか、あなた、霞なの!?」
「ちっ! 違う! オレは霞なんて名前じゃないっ!」
 オレは慌てて否定したが、もう遅い。綾音は恐るべき動物並の直観で、オレの正体を見破ってしまった。

「……そう、そういうことだったのね。突然【抜け忍】になったのは、女になって、私の疾風お兄様を横取りするためだったのね」
 物凄い勢いで誤解していく綾音。綾音の二つの瞳の中で、チラチラと炎が踊っている。あれが世に言う、【嫉妬の炎】ってやつだろうか?
 オレはすぐにでも逃げ出したいのだが、恐怖のあまり体が言うことを利かず、膝がガクガクと震える。

「許さないっ!」
 瞬間、綾音の姿は残像を残し、オレの目の前から消えた!


 気がつくと、オレの目の前には青空が広がっていた。
 あまりにも一瞬のことだったので、自分が何をされたのかが分からなかった。どうやらオレは、綾音に投げ飛ばされたらしい。嗚呼、オレが霞なんて女みたいな名前じゃなければ、そもそもこんなトラブルに巻き込まれなかったのに……。


 空高く投げ飛ばされたオレの体は空中をクルクルと六回転。ごぱっ! 何とか受身を取ったものの、かなりの高さから地面に叩きつけられた。くはぁぁぁ! いっ、痛い! 痛すぎて声も出ないくらいだ。痛みが波のように全身に広がっていく。あぁ、体が痺れて動けそうもない。

「……オレ、こんな所で何やってんだろ?」
 痛みで朦朧とする意識の中、オレはつぶやいた。と、その時、ひときわ大きな歓声が聞こえてきた。

 ふと、首を傾け、歓声のする方に視線を向けてみた。すると、いつの間にか、オレのすぐ近くに別の人垣が出来ていた。人垣の中央では、セーラ服姿の女子高生と、空中浮遊しながら口から火を吐くヨガ行者が闘っている。女子高生が何か叫んだ。

「もう! だからボクは【さくら】なんて女みたいな名前、嫌だったんだよっ!」


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。NHKです。

ある情報筋によると、
この物語は、作者が単にアクションを書きたかったから作られたそうです。
しかもこの作者、DOAはおろか、格闘ゲームをいっさいやったことがないとか…。
だから、技に関しては、かなりいい加減だと想像されます。恐ろしいことです。

今回はちょっと長文で、読みにくくなってしまったかもしれませんね。
しかも設定が分かりづらいし……。

次回は、もっと読みやすい物語にしたいと思います。では、では。

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