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再会ピック 第2章

作:奄美平次




 しばらく貞子はいつもの部屋に入り千郷がいることに戸惑うが
「ねえ、どうしてここにいるの? 千郷さん」
「どうしてだろう? 貞子ちゃん。私にもわからない・・・」
千郷に慣れてきて千郷も貞子に気づいているのかそれに答えるように貞子に話すが、ただやっかいなのが貞子がいろいろと話そうとしているうちに千郷はいなく
「誰と話してるんだ?」
「え? 千郷さんと・・・それよりまたお兄ちゃんどこから?」
「俺はずっとここに・・・」
秀忠の体と入れ替わっているとはまだ気づかない貞子だった。

 入れ替わるようになって秀忠は自分がどこまで練習をしているのか何をしてたのかわからなくなり始めてきた。
「ねえ、どこまで弾けるようになった?」
「え・・・?」
時間は決めてはいないが誰かが入ってくるときに限って千郷が邪魔をする秀忠は戸惑いを隠せないのだ。
「まさか・・・まだ?」
千郷に会ってからあの部屋に行くことが少なくなった恭子はすぐ気づく。
「あぁ、気づくと前に貞子がいるんだ。いつも・・・」
「そうなんだ」
「どうしたんだろう?」
真剣に悩む秀忠を見て
「今度、始めからいようか?」
「なんで、いいよ」
「だって、何か原因してるから・・・それ見つけないと」
「そうか?」
恭子は休みの日に久しぶりに秀忠の部屋に行く。
「私が行くまでやらないでよ、練習」
「あぁ、わかった」
恭子は秀忠にそう念を押し秀忠と別れた。

 お互いの休みが同じ日は必ず休むことにしている恭子は
「もうやっていたり・・・・・・秀忠さん」
そう頭の中で考えて秀忠の家に着く。
「あっ、お兄ちゃんだったらまだ寝てる・・・」
「じゃあ、また後で来るわ」
昨夜疲れて帰ってきたのか秀忠は起きてこないのを見て恭子はそう言い玄関の方を向いた。
「来てたのか? 入れよ、すぐ着替えるから」
奥から秀忠が顔を出し恭子を居間へと連れていく。
「ちょっと待ってて、すぐ来ると思うから」
「うん」
恭子が居間で待ってると貞子に言われたとおり秀忠はすぐ居間の方へやってくる。
「早いな、今日」
「そんなことないよ、秀忠さんが遅いだけ」
「そうか?」
「それよりあれから変わったことない?」
秀忠が少し遅い朝食をとっている。
「ねえ、聞いてる?」
「あぁ」
朝飯のトーストを口にほおばる秀忠を恭子はみつめる。
「さぁ、行くか?」
「うん」
朝飯を食べ終えた秀忠は自分の部屋へ恭子を連れていく。
「ねえ、何飲んでるの?」
「薬・・・」
「千郷・・・さんにならないため?」
「違う、病気持ちだから関係ない」
「そう」
秀忠の意外な姿を見て驚く恭子は薬を飲み終えるまで信じられなかった。
「そうだ、練習の成果見せて?」
「成果?」
自信がないのか驚いた素振りを見せる秀忠。
 音響の部屋に一番に入った恭子が気にしたのはいつもギターを置いてある場所の変化だった、しかしギターはいつもの所に置いてある。
「あれ?」
「どうかした?」
「変わったところがない」
何かあると思って入ってきた恭子は何も変わっていないことに異常に驚き周りを見渡す。
「使っているもので何か変えた?」
「使っているもの・・・?」
その言葉に考える秀忠だが、変えたと言ってもどこか行ってしまったかわりに使っている歪なピックだけだ。
「これかな・・・?」
「これってどうしたの? 最初の」
「どこかにいって、これ使ってたら夢の中に千郷が出てきたんだ、急に。滅多なことでないと出てこないのに」
急に恭子は考え込む。
「ねえ、ギター弾くのやめて」
「え? なぜ、急に」
原因はそのピックにあると見た恭子は考えを急変させる。
「だって、そのピック使っておかしくなったんでしょ」
「そうだけど・・・」
「じゃあ、買いに行こう。また」
恭子は秀忠の腕を取り出かけようと部屋を出る。
「別にいいじゃない」
「よくない、お兄ちゃん。買いに行ってきてよ」
「貞子?」
「だって・・・千郷さんがいるなんてなんか・・・」
悲しそうな顔で話す貞子を見て渋々秀忠は出かけていった。
「どうして、まだいいじゃないか」
「それより、あの貞子さんの顔見た?」
「え?」
「あれ、尋常じゃないよ」
さっきの貞子の顔を見た恭子が一言、それを聞いた秀忠は言葉を失うように黙り込んだ。
「あの人に会うの、貞子さんだって嫌なんじゃ・・・・・・私は見ているだけだけど・・・」
「恭子・・・」
「だから・・・新しいピック買おうよ、貞子さんのためにも」
恭子に促されるようにいつもの気持ちに戻る秀忠だった。
 気持ちがまた変わる前にどこに寄るわけでもなく真っ先に楽器店に急いでいく。
「元に戻れ・・・あなたの体」
小声で秀忠だけに聞こえるように言う恭子。
 新しいピックを買う秀忠は練習をするが千郷に入れ替わることはなかった。

 嬉しそうに練習する秀忠、安心して部屋に入れるようになった貞子と恭子。
「お兄ちゃん! 孝治が一緒に練習したいって」
孝治とは貞子の彼氏で同じ趣味を持つ秀忠とは兄弟みたいに仲がいいのだ。その彼氏が練習をしに来て貞子とあの部屋に入ってきた。
「いらっしゃい」
「また練習してるんだ」
「または余分。俺だってやろうと思えば・・・」
「つい最近まで俺が使わせてもらっていて悪い気はしてたけど、どんな吹き回し?」
そう近頃はなかなかこの部屋にはいることなかった秀忠は
「彼女にギター弾くこと知られたから」
「千郷姉ちゃんをやっと・・・」
千郷と幼なじみの孝治は少し心配なのかそう秀忠に話す。
「あぁ。元々あいつがいなくなって寂しかったのもあったし」
「そう」
孝治と話す秀忠は少し悲しめな表情を浮かべる。
「ほんとはさ、もう弾く気はなかったんだ。またあいつとの思い出を思い出すんじゃないかと思って・・・」
「べつにいいじゃない」
しばらくし恭子も中に入り、ギターの音色に浸っていた。
 孝治が帰り秀忠と二人っきりになった恭子は、秀忠のままでいたのが相当嬉しいのか秀忠の顔を見つめる。
「何かついてる? 恭子」
「ううん。なんか不思議だもん、秀忠さんが弾いてるのを最後まで聞いてるの」
「そういえば、このごろ」
少し秀忠も嬉しくなる。

 普通のピックを使って入れ替わることはなかったがいつものようにピックを弦に挟んでギターをしまう秀忠。その翌日、仕事が忙しく部屋に入る前に疲れて寝てしまった秀忠はしばらくあの部屋に入ることはなかった。
「ねえ、秀君? 忘れてる? 私とした約束」
「そんなことない・・・」
夢に千郷が現れ、秀忠はその約束を思い出す。しかしその約束とは千郷のギターをいつまでも弾いているという他愛のない約束だった。
 その夢を見た秀忠をあざ笑うかのようにまたなくなる。
「あ、あれ?」
「どうしたの? お兄ちゃん」
「ピック挟んだつもりなんだけど・・・・・・ないんだ」
「予備は?」
そう聞く貞子に恐る恐る秀忠は
「千郷が出てきたピックがある・・・」
「え?」
千郷と聞いたとたん貞子は嫌な顔を見せ
「ねえ、怖くないの?」
「なにを?」
「千郷さんが、千郷さんがいること?」
「さあ、俺は会ったことないし、あいつがどうして現れることまで考えたくない」
秀忠に気遣うかのように言う。しかし秀忠はそれを聞いてもピックを使う。死んだはずの千郷になることが誰よりも怖いはずなのに・・・。あの夢でなにか忘れていたことでもあったのかその日はピックを使わずただギターを抱えるだけの秀忠だった。

 しばらくしまた千郷と入れ替わり始める秀忠は、なにがしたいのかいつもの部屋で練習をする。何くわぬ顔をして・・・。
「ねえ、ピック代えた?」
「え? わかる」
練習しに来た孝治は秀忠のピックに気づく。
「だって形、変だよ」
「ちょっとな」
ピックの話をしたとたん秀忠の表情は暗くなり
「千郷に会わない、これから」
「え?」
秀忠がなにを言っているのかいくら仲のいい孝治にでもわからない。
「いいからいいから」
軽くそう言い秀忠はあのピックを使いギターを弾き始める。孝治はなにが起きるかドキドキで秀忠が弾き始め
「あれ、千郷姉ちゃん」
「あら、孝ちゃん」
「あれ、秀・・・君は?」
秀忠と入れ替わった千郷に驚く孝治に
「貞子ちゃんと同じこと言ってる?」
「え?」
「そういえば、貞子ちゃんと付き合ってるんだ。孝ちゃん」
「うん、どうして?」
「貞子ちゃんと話したの」
千郷の弾いている曲は秀忠が練習している曲で
「この曲って?」
「私が駅前で弾こうとしていた曲」
曲を聞いているうちに少しよそ見をし千郷の気配を感じなくなった孝治は
「あれ、千郷姉ちゃんは?」
「なにか話できた」
「話って?」
秀忠が故意にあのピックを使ったことを知らないが
「驚いた、目の前に千郷姉ちゃんがいるんだもん」
「そうか、やっぱり・・・」
孝治からその事を聞いた秀忠は落ち着かなくなる。
「どうかした?」
「このピックを使うと千郷が現れるらしいんだ」
「それで、俺に?」
「いや・・・偶然なのか知りたかったんだ、貞子や恭子たちに見えて俺には会えないんだから・・・」
その言葉を発した秀忠の声は悲しい声だった。やっぱり寂しいのだろうか・・・。

 それからいつもの普通のピックを使う秀忠はやはりやり残したことがあるのか同じ場所でとちる。いつもの会社からの帰り道
「ねえ、なに弾こうとしてるの?」
「え?」
いつも弾いている秀忠の練習している曲が気になる恭子は
「メジャーな歌そうじゃないもん、あの歌」
「あぁ、あれ、千郷が作った曲なんだ」
「へぇ」
「だけど結局弾くことがなかったんだ」
「どうして?」
そう話す秀忠はなぜか悲しそうで
「路上ライブをしに許可を取りに行った後、交通事故にあって・・・」
「それで・・・?」
「原付バイクで行った帰りでワンボックスにはねられて・・・一命は取り留めたんだけど自分の姿にショックを受けて飛び降り自殺したんだ・・・」
それを聞いた恭子も想像しただけでも胸が苦しくなる思いだった。
「秀忠さんはどうやってそれを?」
「俺は、千郷のお父さんからの電話で」
千郷が死んだ経緯を話す秀忠はついでにギターの話もした。
「その千郷が自殺する一週間前だったな、あのギターの話をしたのは」
「なんて言ってたの? 千郷さん」
「『あのギター、大切にして』ってその時は気づかなかった、あんな事になるとは・・・」
「あのギターって秀忠さんが持っているギターのこと?」
「あぁ」
しばらく考えるように2人は黙り込み、そのままいつもの交差点にさしかかり
「あ、じゃあ私・・・」
「うん、じゃっ」
と別れるかと思っていた秀忠だったが、恭子はその交差点にさしかかったのに帰る素振りを見せない。
「ねえ、今日一緒にいちゃダメ?」
「どうした? 急に」
「明日だと忘れちゃいそうだから・・・」
恭子の目には涙がたまっていた。
「別にいいけど・・・」
その目を見てしまった秀忠はどうしようもない思いにかられるのだった。
 家に帰すつもりだった秀忠は恭子と家に帰る。
「あ、お帰り」
「あぁ」
「あれ? いらっしゃい」
貞子は一緒に帰ってきた恭子に一度は驚く。
「恭子って1人暮らし?」
「うん」
「それよりどうしたの? さっき」
「ちょっとさっきの話聞いてたら・・・」
「ごめん」
また恭子の目に涙があふれ出す。そこへ貞子が
「お兄ちゃん・・・ちょっと」
「なんだ、貞子?」
「いいわよ、待ってるから」
貞子が来たことに気づいた恭子は
「あぁ、悪いな」
「ううん」
秀忠が部屋を出て貞子の方へ行くのを見つめ、恭子は不安に駆られる。
「秀忠さん、何かあったのかな?」
そんな恭子の気持ちをよそに秀忠は
「どうした?」
「恭子さん、何かあったの?」
「いや、あの話したら一緒にいたいって」
「あの話って千郷さんの最後の・・・」
「あぁ」
そう聞いた貞子は安堵の色を浮かべる。
「やっと出会えたね、お兄ちゃん」
「なにが?」
「今までの彼女さんは千郷さんの話したらすぐ別れたんでしょ?」
「そういえば・・・そうだった」
「お兄ちゃんの過去も今からも全部知っておきたいんじゃ・・・恭子さん」
「そうかな」
「絶対そうだって」
話を終えた秀忠は急いで恭子のいる部屋に戻った。
「どうした? そういえば。恭子?」
「ううん、なんだか今まで私、秀忠さんのこと誤解してたみたい・・・」
「なにが?」
恭子の言葉で今までの女の子の表情が浮かぶ秀忠の表情は暗くなる。
「お前も・・・やっぱり」
「どうしたの? 秀忠さん」
正直その後を聞きたくなくなった秀忠に
「違うの。私さ、ただ彼女の形見だと言って未練があるのかなって思ってたの」
「え?」
「さっきの話だけ聞いてたらそれは未練はあるかもしれないけど、今まで秀忠さんが弾いているのを見てたら、そんな気持ちだけで話す事じゃないと気づいたら涙が・・・」
「それで・・・」
「うん」
恭子は話を聞いて誤解していたことを話し、
「ねえ、千郷さんに聞いてみたら?」
「どうやって?」
「あのピックが誰か使えば・・・・・・」
「そうかな・・・?俺が使ったから千郷が出てきたんだから、あれ使って千郷が来るとは限らないと思うよ」
「そうかな・・・?」
秀忠の言っていることはもっともだ、同じ思いをしたことのある他の人間が使って他の人間が現れる可能性がある。
「ねえ、貞子さんの彼氏とか・・・・?」
「孝治?」
「うん、あの人ってよく千郷さんの話をしてるけど・・・」
「あぁ、千郷の幼なじみだから。後から知ったことなんだけど」
「そうなんだ、お休み」
来客用の布団を音響設備の部屋へ運ぶ恭子。
「こっちで寝ればいいじゃないか」
「今日はこっちの方が落ち着く気がする」
そう言い、その夜は部屋に入った恭子は出てくることはなかった。

 翌朝、秀忠は目が覚める直前見ていた夢で千郷がいつものように現れ、
「ねえ、私が弾けなかった曲弾けるようになった、秀君?」
「ううん、まだ・・・」
「そう・・・」
まだ弾けないと聞くと千郷の表情は暗くなる。
「どうした、千郷?」
「もしかして弾けない場所って・・・・・・」
秀忠が弾けない場所とはその当時、千郷が秀忠への思いを綴った曲でサビの部分で、どうにも秀忠はその部分にはいると千郷への思いが募るのかただそこだけが弾けないのだ、他の部分が何度弾いても間違わないのに・・・。
「秀忠さん、朝だよ!!」
「え?」
恭子の声で目が覚める。今まで夢の中で千郷と会っていて恭子の存在を忘れていた秀忠は
「いたんだっけ?」
「なに言ってるの、秀忠さん? 泊まったじゃない」
「そうだったな」
「それより、朝ご飯冷たくなっちゃうって貞子さん怒ってるわよ」
「やべっ!」
急いで秀忠はキッチンの方に行く。
「遅〜い〜。もうできたて食べえてもらおうかと思ってたのに・・・」
「ごめん」
「もぉ、いつもそうなんだから」
貞子がムスッとした表情で待っていた。そこへ恭子が来たのはテーブルに料理が並んでからだった。
「おいしい」
「よかった、口にあって」
「貞子さんって料理うまいのね」
「そう?」
貞子のムスッとしていた顔も料理を褒められたおかげかいつもの笑顔に戻る。
「そうだ、秀忠さん!」
「なに、恭子」
「あの話・・・」
3人で朝食をとっているときに恭子は思い出したかのように話し出す。
「あれってなに? お兄ちゃん」
「あぁ、孝治っていつ来る?」
「孝治? 呼べばすぐ来るよ、忙しくなければ」
「そうか」
秀忠はそう聞いて安心して部屋へと戻っていく。
 休みだった秀忠はゆっくりと部屋で過ごす。いつもと違うのはすぐそばに恭子がいること、いつもは恭子とはどこかに出かけていることが多いが今日だけは一緒にいる。
「どうしたの? 秀忠さん」
「いや、恭子が朝からそこにって珍しいなって」
「だって・・・でも、そういえば珍しいかな?」
「そうだろ」
秀忠が恭子と話していると、ふすまの向こうから貞子の声が聞こえ
「お兄ちゃん、孝治昼過ぎに来るって」
「え、昼過ぎ?」
「うん」
それを聞くと秀忠は用意するのか音響の部屋に出たり入ったりを繰り返す。
「ねえ、秀忠さん?」
「なに? 恭子」
秀忠の姿を見て恭子の表情が一転する。恭子は悲しそうな表情を浮かべ
「昨日、あの部屋で考えてたんだけどさ・・・千郷さん、あの曲を弾きたいんじゃ・・・」
「そう言ったって千郷、死んじゃってるんだぞ」
「だって、それしかないんじゃ・・・千郷さんがこっちに来る理由・・・知ってるの、秀忠さんたちしかあの曲、駅前で弾くの・・・」
しっかりとした悲しそうな声でいつしかまた泣き出すかわからないくらいの気持ちを秀忠にぶつける。
「そうかもな・・・」
恭子の気持ちがわかったのか恭子を慰める。
 昼過ぎになり、玄関が閉まる音がする。
「なんか用があるのかな?」
「そうみたいよ、孝治」
孝治はそう貞子と話し、秀忠の部屋に来る。
「なにか用?」
「あ、ごめん。ちょっと会わせて欲しい人がいる・・・」
「だれ?」
秀忠は孝治の聞く言葉を無視し、孝治を音響の部屋に連れていく。
「ちょっと千郷に会いたいから・・・」
「お姉ちゃん、もうここには・・・いないんだけど?」
もっともなことを言う孝治に、秀忠はあのピックを孝治に渡す。
「このピック使ってさ・・・」
「お姉ちゃんを・・・?」
「あぁ、弾いてるだけでいいから」
「どうして?」
疑問だけが残る孝治は仕方なくピックを持ってギターを弾き始める。
「あれ・・・秀君?」
「久しぶり・・・だな、千郷」
ギターを弾いていた孝治は千郷と入れ替わる。
「俺さ・・・やっぱりあの曲、弾けないわ」
「あの曲って?」
「お前が駅前で弾こうとしてた曲」
「もしかして、この曲?」
千郷も見当が付いたのか持っていたギターで弾き始め、千郷は歌い始める。しばらくし秀忠は歌っている千郷を止める。
「ここ、ここ!」
「え・・・なに?」
急に止められ驚きを隠せない千郷に秀忠は表情を暗くし
「この部分になるとなぜか弾けなくなるんだ、あとは弾けるんだけどさ」
「ねえ、彼女いるの?」
「え?」
千郷も自分はもう死んでいると知っている話し方をする。
「だって、秀君、大人っぽいもん。昔の面影は少しあるけど」
「それは・・・」
「それだけ私と離れてたって事だし・・・」
千郷も寂しそうだった。
「ねえ、彼女のことを考えてればいいのよ。別に私のこと気にしなくて」
「そうか? でも・・・」
「そうよ」
自分でもわかっているつもりだった秀忠だがそう素直に変われるはずがない、それは目の前にいる千郷の思いがつまった曲なのだから・・・。
 しばらく千郷と話す秀忠に千郷は
「もういいでしょ、秀君」
「え?」
「孝ちゃんかわいそうだよ、代わってくれてるのに」
「知ってたのか?」
「だってこのギター、孝ちゃんのだもん」
千郷が急いでいる様子を見て秀忠は
「なあ、まだいいだろ」
「ずっと私がいるのも悪いから帰るわ」
「そんな・・・」
帰ろうとする千郷を見て秀忠は譜と恭子が言っていたことを思い出す。
「なあ、まだあの曲に未練あるのか?」
「え?」
「なあ、一緒に弾こうぜ。あの駅前で」
とっさのことでどうしていいかわからない千郷はとりあえず帰る気だ。
「また、呼ぶと思うから来てくれよ」
「うん」
「その時に話そう、後々のことは」
「そうね」
そう言うと孝治の姿に戻り
「どうだった?」
「あぁ、変わってない」
「それじゃわからないって」
秀忠は孝治に千郷と話していたことを話す。
「あいつ、未練があるみたいだったな」
「駅前で弾けなかったこと?」
「あぁ、なんとかしたいな」
「俺だったら別にいいよ、姉ちゃんと代わってあげても」
孝治はそう言い、千郷と入れ替わることを許すのだった。
 しかし、秀忠の前には問題が山積みだった。その問題をどうこなしていくのだろうか?

つづく

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