戻る


ミイラの呪い 第4章
作:奄美平次




 しばらく距離を置くことにした恒利は、あのサイトにアクセスする。
「まだあるんだ・・・」
美幸と同じように恒利のページも残っていた。
「今のところは・・・」
美幸とは距離を置いているだけでまだ別れるつもりはない恒利は、サイトをそれ以上いじくるつもりはない。
 そんな恒利にサイトを必要とする時期がすぐ来る。

 美幸と距離を置くことにしてしばらくし美幸は付き合うようになって一年が経った。美幸と連絡を取らず1人で街中に遊びに行ったときだ。
(やっぱりカップルが多いな・・・)
いつもは美幸と歩いていた恒利は、いざ1人で歩いてみるとまた違う見方で見える。
「でもこんな体じゃ・・・」
少しネガティブになり始めた恒利が人通りの少ない通りへ曲がったときだった。
「え?」
凛々になってすぐ、凛々が発した驚いた言葉だ。
「あれ、美幸は?」
凛々が驚いたのはいつもならいるはずの美幸がいないこと、凛々は話したいことがあったのかショックで言葉が出てこない。そのせいか、すぐ恒利に戻る。

 その事に気づいた恒利は自信を持つ。
(とりあえず、美幸といないと早く終わるのか!)
だが、その自信もすぐ凛々に壊される。
 たまに通勤電車で会い、ランチを食べる以外時々出かけるが、そう言うときに限って凛々に変身しない。凛々がただ出てこようとしないだけなのか・・・・・・。
 
 しばらくし何か気づいたのか恵里が恒利と話していた。
「そういえばさ、美幸さんってお兄ちゃんが変身する女の子に似ていない?」
「え、どこが?」
「場所って言うか、雰囲気が・・・」
恵里の一言で、恒利は今までの美幸の話を振り返る。
「運命って信じるか?」
「なに、急に・・・」
「俺がさ、その女の子の元彼に雰囲気に似てるらしいんだ」
「それで?」
「その女の子は、イタリアで好みの男性に乗り移ってたみたいで、最後に乗り移った俺の雰囲気がその元彼に似てるって言ってて、俺に興味を持ち始めたんだ」
「ふう〜ん」
恵里の反応を見た恒利はそれ以上話すのをやめた。
(まさか・・・)
美幸の祖先があの凛々だとあまり信じたくない恒利だった。

 恒利は恵里から言われたことが気になっていた。
「どうしたの?」
「あのさ、恵里が・・・」
恒利は恵里が話したことをそのまま美幸に伝える。
「やっぱり・・・」
「え?」
「この前、私も兄にあの女の子の写真を見せたら、私の思春期の頃に似てるって・・・」
「そう」
「運命って信じる? 恒利さんは」
「あんまり・・・」
運命より凛々の子孫が美幸だということをまだ疑いたくなる恒利だった。
 恒利がその気持ちを忘れることができないうちに、また凛々に変身する。
「この頃、なんでいないの?」
「ちょっとね」
突然の凛々の言葉に正直に答えると付け込まれると思い、美幸はなにも話せない。
「・・・・・・」
「何見つめているの?」
美幸はふと、恒利たちの話を思い出し、思わず凛々を見つめてしまう。
「うん・・・」
「どうかしたの?」
「ねえ、あの彼のあと・・・結婚とかしたの?」
「え?」
「なんか、あなたと私が似てるって言うの、みんな」
「そうなの?」
最初は驚いていた凛々だったが、美幸の顔を見ていて話さずにいられなくなる。
「ちょっといいかな?」
「え?」
凛々の顔がみるみるうちに20代前半の顔から40代後半の顔になる。
「あなたを見てたら、嘘ついちゃった。最初に彼がかばって私の前で死んだって言うのは物語の最初と最後を入れ替えた話なの。実際は最初に襲われるときに元の彼と一緒にいてその彼が私を逃がす為にかばって、目の前で死んだって言うのが本当の話」
凛々の言葉にどう反応していいかわからなくなる美幸。
「それって」
「彼氏が目の前にいるのに、まだ気持ちが定まっていない感じだった」
「え?」
「前の彼氏となんか悪い別れ方したでしょ?」
「うん・・・それと」
「その彼氏みたいになっちゃうのか心配なのか、そんな感じだった・・・」
凛々に言われてみれば、美幸は元彼と同じ思いをしない為に恒利と少しでも一緒にいたい気持ちでいたことを思い出す。
「じゃあ・・・」
「あなたとあなたの彼氏の先祖は私たちかもしれない・・・多分私たち」
「え・・・?」
「そう考えるのが普通じゃない? 子供作る前に死んだ人の雰囲気に似る人がいると思う?」
「そうだけど・・・」
凛々のはなす言葉に納得がいかない美幸。
「あなた達をイタリアで私が見たとき、なぜか昔の私と彼がかぶってあなたの彼からあなたを見たくなった・・・」
「それって・・・」
「ずっと彼ばかり見てたから、今度は自分の方を見てみたいなって」
「それで・・・」
「そっくりだった、私と」
「そう」
凛々にそう言われるとなぜか、嬉しそうだった。
「あなたの彼を奪う気持ちは最初からなかった・・・、どっちにしても彼に似てて当たり前だから。ただあなたがどう変わるのかを見たかったの、ごめんなさい」
「そうなんだ」
それを聞いた美幸は動揺を隠せない。
「どうかしたの?」
「私、真に受けて彼に相談してたら、彼が距離を置いた方がいいって少し会わないでいた・・・」
「それで・・・」
「どうしたら、本当のことを・・・」
「このままにしておけば・・・」
「じゃあ、あなたは?」
「悪戯に時間かけるだけ・・・ずっと借りているとか」
「それって・・・」
「もちろん、時間を延ばしていくけど。もちろん彼に返すから安心して」
「そう?」
疑問は残る美幸だが、そう凛々に言われたとおりにする。

 それから距離を置いたまま、過ごす美幸と恒利。
「ねえ、ここの神社で買ったお守りって聞くらしいよ」
「縁結びのお守りでしょ」
美幸は通勤途中、電車の中で女子大生が話していることに耳が行く。
「ここからじゃ遠いんじゃ・・・」
「でも、いい彼見つけたいんでしょ・・・」
「淡路島か・・・」
その神社が遠くにあることに残念がる女子大生たち。
「淡路島に縁結びのお守り・・・・・・」
その情報を得た美幸は改めて自分で調べる。
 その頃、凛々が言ったとおり恒利を使い、長く散歩をするかのように時間を延ばして恒利を悩ませる。
(俺の考えは甘かったのか・・・?)
悩んでいる恒利の頭にあのサイトがよぎる。
「まさか・・・」
いると思ったのか、サイトへアクセスしサイトの掲示板に書き込む。
「中国語を話せる方いませんか?」
恒利は書き込んで安心したのか、その夜はぐっすり寝てしまった。

 恒利は掲示板に書き込んでから自分宛のメールを確認するようになる。しかしサイトから送られてくるメールはなぜかパッとしない。
 美幸も頭の中に、例の女子大生が言っていた神社のお守りが気になっていた。
(あの人に・・・)
その人とはもちろん、恒利ではなく悩み事を聞いてくれて隆一と同じ答えを出したサイトの相談相手だ。
『淡路島に有名なお守りが売っている神社があるって・・・』
『それって縁結びのお守りのこと・・・?』
『それ!』
『その神社って自凝島神社だよ』
『どこにあるの?』
『それは、はっきりとは知らない』
相手からそう送られてきた美幸は少し残念がる。
(まあいいか、神社の名前もわかったんだし・・・)
美幸はふと、他の男性の会員が書き込んだ掲示板をクリックする。
「あれ?」
画面が変わり、我に返った美幸は男性会員の名前の多さに驚き、次々と先へ進める。誰かの名前を探すかのように・・・。
「中国語を話せる方・・・?」
ふと美幸の目がいったのは、恒利が書き込んだ文章だ。
「ツッキーさん? まさか・・・」
疑う感じでその中身を見た美幸は、相手の写真を見てしまう。
「え?」
まさかサイトに書き込むとは思ってみなかった美幸は、携帯電話を取ろうとする。
(すぐ電話するより・・・)
いい案が浮かんだのか、美幸はそのまま相談相手と同じように恒利宛にサイトの方にメールを送る。

 美幸の送ったメールを恒利に届く。
(やっぱりそういないか。中国語を話せる人・・・)
自分宛の届くメールを確認する恒利に美幸のメールが目に入る。
『中国語、少しなら話せますよ』
「誰だ?」
恒利は相手の名前を確認する。
(みゆさん・・・?)
恒利の書き込みを見たときの美幸の驚き方と同じだ。恒利は美幸と同じように顔写真を見て美幸とわかる。
「本当かよ!?」
恒利が驚くのはそれだけじゃない、美幸は最後にこう書き残していた。
『また、この関係になってみない?』
これは会うと凛々のことでギクシャクする美幸が今できる、恒利へのコミュニケーションだ。
(出会った頃にもどれって事か?)
恒利はさっぱり意味がわからなかった。しかしこの関係になって、恒利たちは功を奏すことになる。

 それからというもの、2人が会話をするのはランチを食べているときと例のサイトで送るメールだ。ランチを食べているときを除けば、付き合う前の関係のようだ。
 それを繰り返すようになって1ヶ月になったある休みの日、久しぶりに会うことにした美幸。
(わかってくれるかな?)
美幸は何を考えているのだろう・・・。
「なに、考えているんだ?」
「ちょっとね」
恒利も美幸の行動を気にし始める。いろんなところへ行く美幸だが、その場所が自分で行きたいところではないのか、美幸は淡々と出たり入ったりを繰り返す。
(何がしたいんだ・・・?)
たまにそこの商品を買う美幸の表情を本心で買っているように見えない恒利。
(まだかな・・・まだかな?)
美幸は時々、時間を気にしているのか時計を見る。
「誰か待っているのか?」
「うん・・・凛々」
「え?」
美幸は恒利がいつでも凛々に変身しても違和感のないような女性ものが置いてある店を選んでいた。今度凛々が現れるときは前の若い頃ではなく、すべてを話した40代の頃の姿だろうと美幸は考えている。
 恒利もそれを聞いて、美幸が凛々と決着をつけるのだと思いこみ恒利も、覚悟を決める。しかし、美幸と凛々の間ではもう決着はついていた。美幸はその向こうへ行くきっかけを作りたいだけだ。
 夕方近くになり、変化が起きる。
「・・・・・・」
「どうしたの?」
「だって今まで見たいに悩んだ感じがないから・・・」
普通に2人で歩いているときに凛々は現れる、美幸が思っていたとおり40代の頃の姿で。
「ねえ、私決めた」
「なに?」
早速、美幸から話を切り出す。
「あなた達みたいになるまで、一緒にいたい」
「そう・・・」
美幸の言葉を聞いて、凛々は驚くわけでもなくただ美幸の表情を見ている。
「でも、私をどうする・・・」
「一緒にいても、別に」
「私が・・・一緒に」
美幸の言葉にさすがに驚いた凛々。
「それで、今度・・・」
美幸はプリントアウトした紙を凛々に見せる。
「ここの縁結びのお守りを、彼と一緒に買おうと思うの?」
「いいじゃない、仲直りができれば・・・」
「この神社、ここから遠いから絶対あなたになって欲しくないの」
「わかった、協力する」
凛々は、その話を快諾する。あとは縁結びのお守りを買う為に恒利が一緒に行ってくれるかだ。
「何を話してた?」
「うん・・・」
美幸は話すことを少しためらうが、恒利に話さないと始まらない。それにいくら先祖とわかっても、呪いが終わったわけでもない。
「ねえ、今度淡路島に行かない?」
「どこ行くのか、あの島の?」
「一緒に行きたいところ、神社」
「神社?」
「いいから」
美幸がそう言うが、何をしたいのか理解できない恒利にまだ理解しがたい事がまだある。
「運転中に変身したら・・・」
「それだけはしないように話して・・・」
「頼むぞ・・・」
美幸は運転免許を持っていない、そのため運転をするのは往復とも恒利の運転だ。美幸は淡路島に行くことと日にちを決めるだけでその目的を一切、恒利に話さないままその日を迎える。

 その間もどこに行くか何度も恒利に問いただされるが、美幸は隠し通している。
「何しに行くんだ、神社に」
「いいの」
「いいじゃないか、教えろよ」
隠そうとする美幸にしびれを切らしていた。
「お守りを買いに行くの?」
「お守り・・・縁結びとか・・・?」
「うん・・・」
思いも寄らない恒利の言葉に美幸は頬を赤らめる。
「考えそうなこと」
「え・・・?」
「凛々と縁を切らしたいから、俺と一緒にそのお守りをって」
恒利の車は、鈴鹿峠を越え名神高速自動車道の栗東インターに入ろうとしていた。
「本当に大丈夫なのか?」
「うん、昨日も念を押しておいたから、出てこないでって」
「そうか」
大阪方面に走らせる恒利はやはり気になっていた。
 京都を越え、トンネルの向こうに大阪が待ちかまえているが変身はしない。
「もうすぐ、大阪だ」
「うん」
吹田ジャンクションから中国自動車道に入った恒利は休憩の為、西宮名塩サービスエリアで車を止める。
「おにぎりとか作ってきたんだけど・・・食べる?」
「あぁ」
おにぎりを美幸からもらった恒利は、一口頬ばるとふと一言こぼす。
「このまま、美幸の料理を食べられるかな・・・ずっと」
「なに・・・恒利さん?」
「まあ、なんでもない」
美幸も恒利の言葉に気持ちが揺れる。
(やっぱり恒利さんも迷ってるんだ・・・)
しばらく腹ごしらえをし、サービスエリアを出る。
 また中国自動車道を走り、神戸ジャンクションで山陽自動車道に入る。
「走ってる車、少ないな・・・」
「そうね」
時間の関係なのか、恒利の車より先に前方を走っている車がいない。
 それからすぐ淡路島へ続く三木ジャンクションに入り、神戸の街を縦断し明石海峡大橋を渡る。
「そろそろだな」
「うん」
橋を渡り終えた恒利の車はまだ淡路島を少し縦断し、西淡三原インターで降りる。
「すぐそばだよ」
美幸のナビで車を走らせると、そこは小学校の近所にあった。
「おのころ島神社?」
「うん、ここ」
美幸は恒利の車から降りるとすぐ、恒利の腕をつかみ歩く。恒利も嫌がることもしなく神社にお参りして、美幸の買いたかったお守りを買う。
 美幸は2人分を買い、恒利に手渡すがその効力を発揮するのは、あとは恒利の気持ち次第だ。
神社をあとにした2人は、淡路島にゆっくりすることなくすぐ神戸淡路鳴門自動車道に入り、来た方向を戻る。
「なあ、神戸に寄ってもいいか?」
「いいよ」
恒利は明石海峡大橋を渡ると垂水ジャンクションから阪神高速へ車を走らせる。
「神戸になにかあるの?」
「いや、せっかく来たから寄ろうかと思って」
「そう・・・」
神戸の中心部にさしかかり、高速を降りた恒利の車は国道2号を走る。
「メリケンパークか・・・」
「なに?」
「休憩するか?」
気がつけば夕暮れ時だった。駐車場で車を止めた恒利はメリケンパークの中に入る。
「ねえ、なにかあるの?」
「久しぶりだな、美幸に腕組まれるの・・・」
「うん」
しばらく歩き、恒利は真面目な表情で美幸に話しかける。
「これ、買ってなにか変化あったか?」
「え・・・」
「俺には必要なかった」
恒利の突然の言葉に美幸は驚く。
「俺には、やっぱりお前しかいない・・・」
「どういうこと?」
「別に、凛々が俺のことを好きになろうが関係なかった・・・距離置いてわかった、お前が好きだ」
恒利はそう話すと美幸を抱きしめる。少し恥ずかしがる美幸に一言。
「お前の料理をずっと食べていていいよな」
恒利の気持ちが自分に向いていると気づいた美幸も一言。
「うん」
美幸が話しだす。
「それと・・・ねえ」
「なんだ?」
「もう、凛々を考えなくていいよ」
恒利はさっぱりわからない顔をする。
「私、前の彼の時の気持ちを忘れられなくて・・・」
「なにかあったのか?」
美幸は一切前の彼のことを恒利に言わなく、恒利も気にしていなく聞く気ではなかった。
「私が少し彼と会っていないうちに、彼が事故で私の前から」
「それって」
凛々のことを思い出した恒利ははっとする。
「そう、凛々と一緒。偶然にも」
「だけど・・・」
「最後まで聞いて」
「わかった」
淡々と美幸は自分の過去と凛々が言っていたことを話す。
「要するに、俺が元彼に似てるのも、美幸が凛々に似てるのも」
「2人が私たちの先祖だったって事」
「あとは、俺の体からどうやって・・・」
「いてもらってもいいんじゃない?」
「え?」
美幸に優しくそう言われた恒利は少し戸惑う。
「悪い人じゃないんだし、ご先祖様だから」
「いつまた・・・」
「私たちの気持ちを伝えて、説得する」
一緒になりたいという気持ちは、美幸も恒利も変わらないくらい強い。
「頼む・・・」
そう話し、しばらく沈む夕日を眺める2人だった。
 辺りも暗くなり、高速道路を走る。
「出会ってよかった、美幸に」
遠出の疲れと達成感で美幸はスヤスヤと助手席で寝息を立てる。
「縁結びのお守りか・・・」
ポケットに入っていたお守りを取り出し、サービスエリアに止まる。
「美幸も、想像以上の人生を送ってきたんだよな・・・」
薄着で寒かろうと後部座席からタオルケットを取り、美幸に掛ける恒利はふと美幸の首もとに目がいった。
「これ、俺が最初に・・・」
最初に渡したネックレスをしているのを見つけ、ネックレスに触れる。
「え?」
「起きちゃったか?」
「なに?」
「俺がやったネックレスしてるから」
「これ・・・これ付けてると忘れられるかなって」
「昔のことか・・・?」
「うん」
美幸はそう明るく話す。
 しばらくし恒利の車は、夜遅く美幸の家に着いた。
「大丈夫か? こんなに夜遅くに」
「兄しかいないから、大丈夫」
恒利にそう言い、美幸はなにか吹っ切れたような雰囲気で家に帰る。
  
 美幸とお守りを買いに出かけ、関係も元に戻りしばらく間が空き凛々に変身する。
「どうだった?」
話しかけてきたのは凛々の方だった。
「あなた達のようになりそう」
「良かったじゃない」
「それでなんだけど・・・」
美幸は本題に入る。
「私たちの守護霊になってくれない?」
「守護霊に?」
「うん。彼の体から離れるんだったら、旦那さんと見守って欲しい」
美幸の願いに凛々は頭を抱え込む。
「そうしてもいいんだけど・・・」
「なに?」
「またイタリアに行ってほしい・・・」
「え?」
「旦那(あの人)に聞いてみないと、私1人だけでは決められない・・・」
「そうね」
美幸もすぐ理解し、恒利に伝える。
「そうか」
「1人で決められないからイタリアに連れてってほしいって」
「今まで、単身赴任みたいな感じで一度戻してあげないとな」
「そうね」
すぐ旅行会社でイタリアのパンフレットを持ってくる。
「あとは日にちか」
「そうね」
それからすぐ、イタリアに行く日を決める恒利だった。

 恒利たちがイタリアへ行く日がすぐ来る
「どうかした?」
「いや・・・」
自分の体から凛々がいなくなるかもしれない恒利は複雑だ。
「心配しすぎ」
「そうか?」
恒利は搭乗手続きをして、イタリアに行く。
 着いたのはあの時と同じ夜中だった。
「もう、夜中だね」
「あぁ」
長旅で疲れている恒利たちはすぐホテルにチェックインをする。
「2泊3日もいらないんじゃないか?」
「多めの方が・・・困らないんじゃ、また飛行機の中とかに悪い報告受けるよりすっきりして帰りたいじゃない」
「そうだな・・・」
美幸の気持ちを理解する恒利は、疲れたのか寝てしまう。

 朝になって、目を覚ます恒利は横にいると思う美幸を探すが、そこにはいない。
「起きた?」
「あぁ」
ベランダの方から美幸の声が聞こえる。
「なんだか、気になることがあってちょっと早めに起きちゃった」
「大丈夫か?」
「うん」
そう明るく話す美幸だが、本当は全然寝てはいない。寝ようと思っても本当に二人っきりの生活ができるのか心配で、寝るにも寝付けず朝日が昇り、朝日をベランダから見ていただけだった。
 時差ぼけもあり、体調も優れず現地のテレビを眺めている。
「あれ? あの時の・・・」
「あ!」
声をかけてきたのはミイラのニュースを見ていたときに話してくれたホテルの従業員だ。
「あなたの彼・・・生きてる・・・」
「そうよ」
自慢げに従業員に話す美幸。
 時差ぼけもあり1日目は2人とも動くことをあまりしなかった。

 2日目の朝、行動を起こしたのは恒利だった。
「出かけられるか?」
「うん」
体調も良くなり美幸の体もすぐ動く。
「大丈夫か?」
「恒利さんは?」
「俺はもう」
恒利たちがホテルの外へ出て歩いていくと行ったら、もう決まっている。
「行くんだね」
「あぁ」
凛々のミイラを見た美術館がある公園だ。
「まだあるかな・・・?」
「あるだろう・・・」
ミイラがあることを期待し、公園を歩く。
「あった・・・」
しばらく歩いた美幸は美術館を見つける。
「まだ置いているかな・・・?」
「さぁ、奥へ行ってみないと」
奥へ歩く恒利たちの目の前が明るくなることはなかった・・・。
「どうしよう・・・」
ミイラはもうすでに恒利たちが見た直後にまた、土に戻されたと美術館の学芸員から聞く2人。
「どうしよう・・・」
「いないんだし、ここへ来てくれって言われたのか?」
「そうじゃないけど・・・」
「じゃあ」
凛々の『イタリアに行ってほしい』の意味がさっぱりわからない2人は、街中を歩いてすぐホテルに戻る。
「何がしたかったんだろう」
「あぁ」
凛々がしたかったことを話しているうちに夜も更けていく。
「なに、そんなに悩んだ顔してるの?」
「え?」
「私の伝え方が悪かったかな?」
「・・・」
美幸の夢の中に凛々が現れる。
「あの人も理解してくれたから、もう安心して」
「安心してって?」
「あなたの言うとおり、あなたたちの守護霊になるから」
「え?」
信じられない美幸は驚いて、目を覚ましてしまう。

 翌朝、美幸は早速、目を覚ました恒利に昨夜見た夢の話をする。
「ねえ、昨日凛々が夢に出てきたの」
「それで何か言ってたのか?」
夢の内容が気になる恒利はその話に耳を傾ける。
「私たちの守護霊になるって」
「守護霊に? 本当にか?」
「うん」
旅行の最終日でもあり、帰りの身支度をしホテルをチェックアウトし、空港に向かう。
「結局、なにをしにこっちに来たのかわからないな」
「そうだけど・・・」
帰りの飛行機に乗って、しばらくし2人とも寝てしまう。
「心配しなくていいよ」
恒利の夢に40代の凛々が出てきて話しかけてくるが、恒利には中国語がわからず凛々は構わず話し続ける。
(なんだったんだ?)
夢の中の一瞬だけ凛々が現れ、恒利は夢の中で動揺をする。今度は一緒に寝ている美幸の夢の中に凛々が現れる。
「長いこと、あなたの彼の体にいたけど、今度で本当にさよならするね」
「え?」
「最後にあなたと話してから、守護霊になりたいから」
「最後に話したいこと・・・」
「うん」
凛々はそう話し、恒利の時と同じようにいなくなる。
(最後に話したいこと・・・?)
美幸はその事が気になっていた。飛行機はしばらくし日本に帰国する。
「どうかしたの?」
「うん、夢にちょっと老けた凛々が出てきたんだ」
「へぇ〜」
手続きをして、空港内をうろうろしている。
「夢に出てきた女性、凛々本人よ」
「そうか?」
恒利は夢の中の女性が、凛々とは気づいていなかったらしい。
「じゃあ、お前の方に出るんじゃ・・・」
「もう、出てきたわ」
「なんて言ってたんだ」
「私に話したいことがあるみたいから、1回だけ来るって」
「話したいことがあるって、なにかわかるのか?」
「ううん」
美幸の話でまた変身することを知った恒利は不安になる。
 恒利の表情を見て、美幸もすぐに恒利の気持ちを察する。
「私に話したいことがあるだけだから、前のようにならないと思うよ」
「そうか・・・」
イタリアから帰ってきた美幸が凛々と話すのはそう時間はかからなかった。

 イタリアから帰ってきて最初の休みの日だった。
「俺が死ぬかもしれないって言われたとき、お前があんな経験してるなんて知ってたらあんな事言わなかったのに」
「ねえ、私ずっとこれからも恒利さんと一緒にいたい」
「俺もさ」
2人の気持ちは変わらない。凛々が話したい事って一体なんだろう・・・、それが気になっている美幸だ。
「待ってた? 美幸」
「え?」
「気になっていたでしょ、私が話したいこと」
「それは・・・」
恒利と何もしなくても一緒にいるだけで嬉しい気になる美幸。それは凛々が恒利から離れてくれたことが関係しているのだろう。
「もう振り返ったらダメよ」
「・・・」
「私たちみたいになりたいのなら、尚更」
「ただ、それを言いたくて?」
美幸の気持ちは淡路島に恒利と行ってから、もうすでに決まっていた。
「そういえば、その首にあるの・・・いつもしていない?」
「うん、今の彼に会ったときに彼からもらったもの、これをしてたら昔のこと忘れられるの、不思議に」
「そうなんだ、それ持ってたから・・・彼のこと忘れられなかったんじゃない」
距離を置いたりしたときも、美幸はすぐに直るものだと捨てずに持っていた。
「もう彼と離れちゃダメだよ。もし離れたら・・・」
「また、変身するの?」
「彼の体を完全に奪っちゃうから」
凛々の言葉に驚く美幸だが、そうならないと信じている。
「あなたの意志が固いなら、私はそれを信じてあなたの守護霊になる」
「じゃあ」
「あなたに何かない限り、あなたの彼の体を使わない。約束する」
凛々はそう言い、恒利に戻る。

 それからしばらく美幸は心配だったが、恒利が凛々に変身をすることはなかった。

                                    つづく




戻る

□ 感想はこちらに □