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ミイラの呪い 第3章
作:奄美平次




 美幸が中国語を習い始め、恒利が変身したごとに女の子に話しかけていた。
「ねえ、何探してるの?」
「・・・」
美幸が中国語を話していることに気づいた女の子は、心を開く。
 
 しばらく恒利が変身するのに間があったある日のこと。
「ねえ、あなたの名前は?」
「凛々」
「何探してるの?」
「え?」
「あなたっていつの人?」
「え・・・?」
美幸の言葉に凛々は一瞬言葉を失う。
「私の国は・・・唐」
「遣唐使の?」
「うん」
しかし、凛々はそれ以外はなそうとしないまま、恒利に戻る。
「唐の時代の人だって」
「遣唐使の?」
「そうみたい・・・」
美幸は恒利に凛々と話していたことを伝える。
「お前、何か変わったな」
恒利の唐突な言葉だった。
「今までだったら、俺が気づくとがっかりしてるけどこの頃、嬉しそうな顔してるから」
「そう?」
恒利の言葉に言葉が出ない。
(私だって、まだつらいんだから・・・)
美幸はショックを受けていた。
 
 それからしばらく美幸の頭から恒利の言葉が離れない。
「どうしたんだ? この頃・・・」
「え?」
「さえない顔ばかりしてるから」
「そう?」
「何かあったんだったら相談にのるよ」
隆一の言葉に美幸も話しだす。
「あのさ、彼が・・・」
隆一に恒利のことを話す美幸。
「それは運命かもよ」
「え・・・」
「その女の子がなぜ彼に入り込んだかを知れば・・・」
「そうだけど・・・」
「まあ、根気強く女の子に話しかけるんだな」
隆一の言葉に少し美幸は勇気づけられる。
 
 隆一の言葉が励みになったのか、美幸は恒利が変身しても凛々に根気強く話していた。
そんな時だった。
「なんで、私の彼の体を・・・」
「彼・・・?」
美幸の言葉を聞いて少し考え込む凛々。
「私たち、内陸の奥の方に住んでた・・・」
「え?」
「でも・・・急に襲われた、私たちの村」
突然神妙な顔をして話しだす凛々を見て、美幸は困惑する。
「その村から慌てて逃げてた・・・慌てて逃げてたからどっちの方向に行ってたかわからないけど、ある日馬に乗った男の人が私を助けてくれて・・・」
「その人が彼・・・」
美幸が発した言葉に凛々は顔を赤らめる。
「彼っていうのかそれからずっと一緒にいて、一緒に逃げてくれて遠くに逃げた・・・」
「それで?」
「・・・」
美幸が思わず言ってしまった言葉に凛々の表情が曇る。
「ごめん」
「いいの」
その後、凛々は重い口を開く。
「しばらく一緒に逃げてた、けど夜中に襲われて彼は私をかばって・・・」
「えっ・・・?」
「私の前で彼は死んじゃったの」
凛々はすぐ恒利に変わるが美幸は動揺を隠せない。
 
 今度は凛々の表情が頭から離れない美幸。
「また悩んでるのか?」
「うん・・・」
「いい物もらったから、お前にやるよ」
隆一はそういうと自分の部屋から何かを持ってくる。
「この前、パリに行った奴がおみやげにってくれたんだ。奇跡のメダイっていうらしいぞ」
「そう・・・」
隆一が持ってきたのは、パリの小さな教会に売っているメダルだった。そのメダルを持ち歩く美幸に奇跡が起きる。
 メダルを持ち歩く美幸に恒利が女の子に変身する。
「・・・・・・・」
さすがに女の子から話しかけてくることはない。
「そういえばさ・・・」
「ん?」
「なんで、恒利さんだったの?」
「それは・・・」
美幸が今まで気になっていたことを凛々にぶつける。
「あなたを見てた人は3人はいたはずだけど、なんで・・・私の彼なの?」
「・・・・・・・」
「現地の人があなたを見たらしいんだけど、全員亡くなったの。でも私の彼だけあなたを見たら何にも起きなくて、今あなたが彼の体を使ってるの」
「他の人は違ってた、でもあなたの彼は何か感じるものがあったの・・・」
「感じるものって」
「目の前に死んだ彼みたいな感じ・・・」
「え・・・?」
美幸は凛々の言葉に驚きを隠せない。
「もしかして、彼が生きているのかと思って・・・」
「そんなはずは・・・じゃあ、彼があなたの体になったのはそのため?」
「最初は彼に呼びかけているだけでよかったんだけど、だんだん我慢ができなくなって・・・」
「こうやってるんだ・・・」
「でも・・・変わりすぎてて何がなんだかわからない、未だに・・・」
「私の彼は?」
「少しだけ、彼に似てる・・・ほんの少しだけ・・・」
凛々はそう言うと意識を恒利に返す。
「どうかした、美幸?」
「え?」
凛々と話していたことが信じられなくて、美幸は言葉にできない。
(私はどうしたらいいの?)
凛々と恒利の間で美幸の気持ちが揺れ動く。
 
 美幸の変化に気づいた恒利は、ランチの時にそれを話題に口を開く。
「なあ、この前女の子になんか言われたのか?」
「え?」
「あれからずっとおかしいぞ」
「うん」
美幸はこの前、凛々と話した内容を恒利と話す。
「俺が女の子が一緒にいた彼氏と似ている・・・?」
「うん、そう言ってた」
「それって、俺がその彼氏にただ似てるだけなのか?」
「さぁ・・・」
「おいおい」
「今度聞いてみる」
「他人の空似なのか、何か遺伝子的に似ている場所があるのか」
「うん」
「何かあるから、女の子が居座るんだし・・・」
「わかった」
話の内容を聞いて、自分に起きていることを把握しておきたい恒利は、美幸と凛々の会話に期待している。
 
 恒利は次第に凛々に変身することに何の恐怖心も抱かなくなってきていた。
「ねえ・・・」
「ん?」
突然凛々の方から話しかけてきた。
「あなたの彼氏」
「なに?」
「私に気を許したのかな?」
「なんで・・・?」
「今日も気軽に出させてくれたし・・・つい最近まで私を出すことを拒絶してたのに」
「それはちょっと・・・」
凛々が言っていたことは一応わかる気がする美幸だが、恒利があっさりと女の子が言うとおりの気持ちになるとは思えない。
「ねえ、どこが似てるの? 私の彼と・・・」
「そうねぇ・・・」
携帯電話の恒利の写真を凛々に見せ、美幸は問い出す。
「そうねぇ・・・」
じっくり恒利の写真を見る凛々。
「外見じゃない・・・雰囲気かな?」
「どういうこと・・・空似ってこと?」
「どうなの? それはまだ・・・」
美幸は凛々からはっきりした言葉を聞かれるかと思っていたが、凛々がどうしたいかさっぱり予想がつかない。
「あなたは何がしたいの?」
「そうねぇ」
「私の彼の体使っても・・・」
凛々も美幸が言いたい気持ちもわかっているが、凛々自身も何でこんな時代に来てしまったのか戸惑っていたのだ。
 
 それからしばらく凛々に変身しても、寂しげな表情をしながら美幸に接する。
「どうかした?」
「そうだよね・・・ここにいても・・・」
話す声も凛々は落ち込んだ声を出す。
「そう言っても・・・」
美幸も凛々にすらどうやったらよくいくのかわからない。
「ねえ、どうしたら帰れるかわかるまで彼の体を貸して・・・」
「え・・・?」
そう言う凛々の言葉に思惑が隠されているとは美幸は知らなかった。
(あの人は絶対私のものにするんだから・・・)
 
 凛々が恒利に気がいっていることに美幸もすぐに気がつく。
「ねえ、どうしよう・・・」
「なにが?」
「あの子、絶対恒利さんに」
「気があるって言うのか?」
「そう」
「そんな訳・・・」
凛々が恒利に気が行く、恒利に乗り移った理由を恒利は知らない訳がない
「あるじゃない・・・あの子の彼の子孫かもしれないんだよ」
「あっ・・・」
美幸の言葉でその事を思い出した恒利だが、まだ納得していない。
「でも、どうやって俺のこと・・・」
「それはあるんじゃない・・・彼の思いがあるんだし・・・」
「そうだけど・・・俺に似てるのは雰囲気だけだろ」
「それだけに好きになるんじゃない・・・」
いくら美幸と話しても腑に落ちない恒利だった。
 
 恒利は美幸の話を聞き、またしばらく変身することを拒絶するようになる。しかし、変身しなくなる訳ではなく、恒利は変身している時間を短くなるようにしたいだけだ。
「またあなたの彼、拒絶し始めたわね」
「それはそうよ」
「そんなことしたって無理なんだから」
「わからないわよ」
「そう?」
凛々は美幸の気持ちをそこそこに恒利が心変わりをするのを待っていた。
「でも、あなたの彼の子孫とわかった訳じゃないのに・・・」
美幸がそう言うと女の子から意外な言葉が発せられる。
「だって私の好みの男性だから」
「え?」
凛々は自分好みの男性に乗り移っていたが、男性が自分に気が寄らないとその男性の精気を奪っていたのだ。恒利の時も同じように乗り移り自分に気を向かせようと夢に夢の中に出てきて、凛々の思惑通りに恒利が気にしていて、女の子も普段の恒利を昔の彼の雰囲気にかぶせている。
「その前に、あなたは私の彼に本当は会ってないんだけど」
「会ってるわよ、イタリアで」
「そうだけど・・・」
「それに彼の中にいるときにいろいろ見てきたし・・・」
「だけど・・・昔の彼みたいには」
「それでもいい・・・」
「え・・・?」
想定外の答えに美幸は驚く。
「かえって表を見ても、なんの気持ちも沸かない気がする。好きなのは彼の中身だし・・・」
「中身?」
凛々の言葉に呆気にとられ、何も言葉にできない美幸。
 
 美幸は凛々の言葉ばかり気になって、何も手につかなくなる。
「どうかしたか?」
「お兄ちゃん」
「うん」
またいつもと違う美幸に隆一が声をかける。
「ちょっとね」
「言ってみろ」
美幸は心の中にあることを全部、隆一に伝える。
「そうか・・・そう言うことにか・・・」
「どうしたら・・・」
「そうだな・・・」
隆一は美幸の表情を見て一言。
「お前、臆病になりすぎてないか?恋に」
「そう?」
「また、あの時の表情に似てきたぞ」
「え?」
「また彼氏が目の前からいなくなるのが恐いって」
隆一が言うとおり、美幸は昔付き合っていた彼氏が不慮の事故でこの世からいなくなっていたのだ、あの女の子と同じように。
「もっと積極的にせめたら」
「どうやって」
「それは、お前が考えろ。まあ、今の彼氏の中にはお前とその女の子のことがごっちゃごちゃになってると思うぞ」
「うん」
「一緒に気持ちを整理するなり、精算するなりお前がしたい方にすればいい」
結局美幸が考えることのないくらい、隆一がほとんど助言してしまう。
 
 美幸は恒利のことを考えているうちに、あのサイトの存在を思い出す。
「そういえば・・・」
携帯であのサイトへアクセスをすると、まだ美幸のページは残っていた。
「まさか・・・」
自分宛のメールが届いているか美幸は自分で確認する。
「恒利さんとイタリアに行ってから、ずっと・・・」
サーバーやセキュリティーの関係でその頃のメールは残っていないが、美幸へのメールはまだ届いていた。
「どうせ、私には恒利さんがいるんだし・・・」
その気持ちが美幸の暴走を抑えていた。
 サイトのことを思い出した美幸は、翌日からそのサイトから届くメールを確認する。
「そういえば・・・」
ふと美幸は恒利が同じことをしていると思い、電話をする。
「ねえ、退会した?」
「何か入ってた?」
「忘れてる」
「だから・・・なに」
「あのサイト・・・」
「あっ!!」
美幸の声を聞いて思い出す恒利。しかし、そのサイトの主催者から苦情の電話すらないことに恒利はほっといてもいい気持ちだった。
「そのままにしてても、問題ないんじゃないか?」
「だけど・・・」
その態度に美幸は押しきられてしまう。
 
 美幸はサイトの話を恒利といる間にする訳でもなく、恒利もサイトの話を美幸に積極的に話しかける訳でもない状態が続く。
「もう、どうすれば・・・」
この状態がいつまで続くのか次第に苛立ちを隠せない美幸はサイトから届くメールの中から相談相手を見つけようとする。
「この人は・・・」
1人の男性からのメールに目がいく。
『みゆさん、一緒に出かけませんか?』
別に一緒に出かける気ではなかったが、なぜかこの文面が気になってしまう美幸だった。
『すぐに出かける気じゃないけど・・・』
そう相手に返事を返してしまう。その後、しばらく美幸はその相手とメールのやりとりをし始める。
 しばらくし相手も会う訳でもないただメールだけを送ってくる美幸に本心を聞きたくなる。
『みゆさんって誘っちゃいけなかった?』
『どうして?』
『少し悩んでたりする?』
相手からのメールを見た美幸は、正直になろうとする。
『このサイトで出会った人と付き合っているんだけど・・・』
『すごいじゃない、みゆさん』
『今は何か倦怠期なのかな?』
『なにかあったの?』
『詳しいこと言えないけど・・・』
相談に乗ってもらいたい恒利の話をする。
『まだしないよね・・・?』
『したい方だけど・・・彼が・・・』
心配の胸のうちを美幸は、相手に話す。しかし、変身することとそれに関することは一切メールに書こうとしない。
「女の子の件は、私が・・・」
その気持ちはなくせない、なぜなら恒利と最初に出かけた先で起きた出来事だから。これだけは美幸は誰にも譲れなかった。
 
 美幸がそうしているうちにも凛々は恒利の気持ちを自分の方に寄せようとする。
『どうしたらいいかな?』
思わず美幸は相談相手へのメールに書いて送ってしまう。
『なにかあった?』
『ちょっとね・・・』
美幸は言葉を少なめに書いて送る。相談相手も察したのか返してくるのが早い。
『もしかして、、彼氏のことだったら』
相手からのメールの中身は、以前隆一に言われたことと同じことが書かれていた。
『やっぱり』
美幸はまだ恒利が嫌いになった訳ではない、凛々がほとんど悪いという訳ではない。どうすることもできない自分に腹が立っている。
(どうすれば、凛々を・・・)
 
 凛々を恒利から引き離す事を考えていた美幸だが、引き離す術が見つからない。
「なに、そんな恐い顔してるんだ」
「あっ!」
「隠し事あるのか?」
美幸は慌てて表情を戻すが、恒利にはっきり言えない。
「なぁ、少し距離取るか?」
「どういうこと?」
ランチを食べているときに恒利は唐突に話す。
「どうして?」
「俺といるのも、つらいだろ」
「そんなことない・・・」
美幸が迷っていると、恒利が話しかけてくる。
「あのサイト、どうした?」
「え?」
「退会するとかしないとか言ってただろ」
「あ、まだしてない・・・」
「そうか・・・」
恒利の話す声も下がり気味だ。
「女の子に変身したら、どうするの?」
「どうにかするよ」
別れると言う訳ではないが、恒利がもし凛々に変身したら周りはどうなるのか、凛々がどう反応するか心配だった。
 しかし美幸は後々、凛々から真実を知ることになる。

                                    つづく




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