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ミイラの呪い 序章
作:奄美平次




 梅雨も明け、夏の暑さも本格的になり始めた渡辺恒利のパソコンに変なメールが届く。『現在、お客様は仮登録状態にあります。至急、本登録をお済ませ下さいます様お願いします。仮登録の状態のままですと、当サイトのサーバーに影響がでてしまい、損害賠償請求する場合もございます。また、退会希望でしたら、無料にて退会手続きができますので
登録をお済ませ下さいますようお願いします。下記へ空メールにて送信下さい。登録メールを送ります。』
「なんだ?このメール」
身に覚えのないメールだった恒利はそのまま返事をせずにいた。
 
 しかし、翌日仕事をしている恒利はあのメールの『当サイトのサーバーに影響がでてしまい、損害賠償請求する場合もございます。』という場所が気になっていた。
 仕事を終えた恒利はまだあのメールを気にしていた。『退会希望でしたら、無料にて退会手続きができますので登録をお済ませ下さいますようお願いします。』という言葉もあり変な請求書が届くのが嫌な恒利はそのメールに従い、空メールを送ってしまう。
 届いたメールの手順を踏みながら、恒利は本登録をする。
「これであとは退会手続きをするだけだ・・・」
サイトにアクセスをし退会手続きをしようとしたがそれらしい項目が見当たらない。
「聞いてみるか?」
『退会手続きをしたいのですがどうすればいいのでしょうか?』
そうサイトの方に送り、サイトからの返事を待っていた。

 サイトからの返事が来たのは恒利が仕事に行っている間のことだった。
『ご利用有難うございます、退会希望を承りました。では利用規約が適用となりますので、退会手数料3000円をお支払いください。ご入金が確認できましたら完全退会となります。お早めにお願い致します。尚、お振込みの際振込み人名の欄にはお客様のID番号を記入してください。宜しくお願い致します。』
メールにこのメールが届いていたことに驚いた恒利は、すぐ消費者生活センターのホームページを探す。
「ここだ」
早速、相談室の相談ページに打ち込む恒利。
『ある日、身に覚えのない変なメールが届き、当サイトのサーバーに影響がでてしまい、損害賠償請求する場合もございます。と書かれていて無料で退会手続きができるとなっていたので登録してしまい、退会手続きをしたら手数料を請求されたのですがどうすればいいのでしょうか?』
サイトから届いたメールも添付して、恒利は相談メールを送信した。
 翌日、消費者生活センターから返事が来て、それは無視しててもいいというものだった。
「無視すればいいのか・・・」
それを信じ、恒利はサイトに返事をすることもなくそのままにしていた。
 
 無視してもいいとは言われたもの、心配になった恒利はメールを開く。そこにはサイトからは恒利宛のメッセージがメールとして送られてきていた。
「今のところ、相手探すつもりもないからいいか・・・」
メールは送られてくるものそれも無視をしていた。
 そうやって無視していた恒利の気持ちを変えてしまうメッセージが届く。
『半信半疑だったけど、あなたを信じてみた』
その相手からのメッセージに目がいった恒利はその相手と連絡を取り始める。その相手の名はみゆ、ニックネームで本名ではない。
 恒利が登録したサイトはポイント制で相手から送られてきた本文を読むにも相手にも返事するにもそのポイントが減る、いわゆる有料サイトだったのだ。だが、そんなことを関係なく恒利は相手と連絡を取り続ける。

 相手に返事をし始めて2週間がたったある日、みゆからの返事を楽しみにするようになった恒利は返事を見る。
『今度の日曜に会えませんか?』
デートの誘いだった、もうみゆと会う気持ちになっていた恒利はその日は用事を入れてない。
『もちろん、いいよ』
みゆにそう返事をして恒利は相手と会う約束をする。
(そういえば・・・)
恒利が手に取ったのは、春先に開幕した愛知万博のパビリオンで買ったネックレスだった。
(やっと俺の手から・・・)
恒利には以前から付き合っていた彼女がいた。しかし愛知万博が開催する前に彼女との関係がギクシャクし恒利が万博に行った後に別れてしまい、ネックレスを渡せず恒利のところにあった。
「またそれを見てる」
「なんだよ」
「捨てればいいのに、渡す人がいないのなら」
「なんで、そんなことをお前に」
妹の恵里にくどく捨てるように言われるが、いつか渡せる相手が見つかると信じて恒利は捨てる気にならない。

 みゆと会う約束をしてから、念には念に確認のメールを送ってくる。
(なんで何度も同じこと送らなければいけないのか?)
ふと恒利の頭にある番組の一場面が浮かんでくる。それは恒利と同じように登録させた相手から高額の金額を振り込ませるという手口を紹介している場面だ。その場面を思い出した恒利はそういうサイトなのか不安になる。
 不安が解消されないままみゆと会う約束した日が来た。
(騙されてるのか・・・)
恒利は待ち合わせの時計の前に来ていた。会う為にみゆの顔写真を見ながら、周りの女性と照らし合わす。
「やっぱり」
待ち合わせの時間になっても、1時間近く待ってもみゆは現れない。
 みゆに会う為に用事を入れてなかった恒利は、ただ暇で仕方ない。
「やっぱり騙されてたのか・・・」
その事が気になって街を1人で歩く恒利の周りは、恒利と同世代のカップルばかりだ。
(なんで、俺は1人なんだ・・・)
周りのカップルも気になって気持ちも沈み始めた恒利はポケットに手を入れて歩く。
「そういえば・・・」
ポケットにある物に指が当たる、それは恒利が渡したくて仕方がないネックレスだった。
「まだいるかな?」
みゆが来ている少しの望みを託し、恒利は待ち合わせの場所に戻る。
 歩いてきた道を走って慌てて戻る恒利が待ち合わせでの場所に戻る頃には恒利の息は上がっていた。
(帰っちゃったかな?)
息を整えながら、待ち合わせの場所にいる女性の中を見わたす。
(あれかな?)
恒利と同じように周りの男性を見わたす女性がいた。その女性はみゆだった。
「みゆさん?」
「え?」
みゆは驚いたように恒利の顔を見る。
「ツッキーさん?」
「はい」
そう聞いたみゆは落ち着いて恒利に話しかける。
「会えてよかった」
「俺も」
「どこか行きます?」
「そうだね」
2人は待ち合わせの場所を離れ、街中へ歩いていく。
「来ないのかなって思った」
「え?」
「時間になっても来ないから」
「ごめんなさい、いろいろしてたら時間かかって」
「そう、よかった」
恒利はふとポケットに手を入れ、あの箱を手に持つ。
 大勢で歩きにくい道を歩き、2人でゆったり歩けるぐらいの広さの道になった。
「ちょっと寄っていく?」
恒利はカラオケ店を指さす。
「いいですね」
みゆもサイトでカラオケに行きたいと恒利に送り、その恒利とカラオケ店に入る。
 喫茶店で席に座り、すぐ恒利は注文を終える。
「そうだ、みゆさんってネックレスとかする?」
「ネックレス? しますよ、それが?」
「これどうかなって持ってきたんだけど」
恒利はポケットのあの箱を持つ。
「後ろ向いて」
「こう?」
恒利はネックレスをそっと付け、箱をみゆに渡す
「どうかな?」
「・・・」
みゆがどんな風な顔をするか恒利は心配だった。
「どうしたんですか?」
「これさ、本当は」
とりあえずネックレスのことを聞くみゆにネックレスの経緯を話す恒利をみゆは真剣な目で聞く。
「それで、会えるんだったらこのネックレスも一緒にと」
「そうですか」
カラオケを歌っていたみゆが話しかける。
「そうだ」
「なに?」
「また会いたいから、メールアドレス教えて」
恒利が言おうとしていたことをみゆが先に言う。
「そうだね、ちょっと貸して」
「え?」
みゆの手から携帯電話を取り、みゆのメールをいじくる。
「変なとこ見ないで」
「わかってる」
しばらくし恒利は携帯電話をみゆに返す。それからすぐに恒利の携帯電話にメールが入る。
そのメールが別れた後にみゆの気持ちを引き寄せる。
 カラオケを楽しみ、カラオケ店を出たみゆは恒利と腕を組む。
「こうしててもいいですか?」
「あぁ」
「このお礼です」
「そう」
カップルで行き交う道で、少し離れているだけではぐれてしまうのも嫌な恒利は笑みを浮かべる。恒利は久しぶりに女性の感触を感じる。
 カラオケに行った後もいろんなところにみゆと立ち寄った恒利の腕はずっと組まれたままだった。
「いい子だったな」
ただそう思う恒利だった。

 みゆに会い、彼女と別れてしばらく経つ恒利はみゆに気がいく。
(みゆさん、どうしてるんだろう)
みゆのことを考えていた恒利に、メールが入る。
『ツッキーさん、これ』
みゆからのメールだった。どうやらこの前のデートで恒利が自分に送ったメールに気づいたらしい。
『また会いたいって書いて送ったらしいんだけど』
『それ、この前俺が送ったメール』
『え?』
『時間がカラオケやってた時間でしょ』
『そういえば』
『また会いたくなった?』
恒利がそのメールを送信した後、返事が少し間が空く。返事が来ないことに恒利は不安になる。
(悪いことしちゃったかな?)
この前のメールのことを反省し、みゆからの返事を待っている。
『今度のデートなんだけど』
(よかった・・・)
『ただ条件があるの・・・』
『何?』
『長くサイトに居座りたくないから、答えを言ってほしい』
『答えって』
『いい物くれて言える事じゃないけど』
みゆの最後のメールで何かを察した恒利はこう返事を返す。
『俺が決めていいの?』
『うん』
恒利はデートの日時も書いたメールを送り、その日を待つ。

 仕事をしながらもみゆとのデートの日が待ちきれない恒利の気持ちは慌てていた。
(付き合ってほしい・・・それだけでいいのか?)
心の中で葛藤が起きる。
 その葛藤したまま、みゆとのデートの日が来る。
(俺が決めていいのか?)
この前と同じ待ち合わせの場所で待つ恒利。
「ツッキーさん」
恒利を呼ぶみゆの首にあるあのネックレスがある。
「あ」
「行きましょう」
「あぁ」
歩き出す恒利とためらうことなくみゆは腕を組む。
「それ付けてきたんだ」
「うん、今日は大事な日だし」
この後どうなるかわからないのに、明るく振る舞うみゆ。
 食事を食べ終えてその店を出た恒利は覚悟を決めていた。
「そうだ、みゆさんの本名は?」
「え?」
「付き合うんだったら、本名ぐらい」
「美幸。ツッキーさんは?」
「恒利」
「恒利さんじゃ、まだ・・・」
「いいよ、でも・・・」
「でも?」
「まだ、答えを出さなくていい?」
その恒利の言葉で、みゆにもその真剣さが通じる。
「答えだして」
「付き合ってほしい」
「あなたをずっと好きでいいですか?」
「もちろん」
恒利が答えを出した瞬間、より強くみゆは恒利と腕を組む。
「恒利さん」
「美幸」
最初に相手の本名を言ったのはみゆの方だった。

 みゆの本名を美幸と知り、付き合い始めた恒利は意外なところで美幸に出会う。
「恒利さん」
「え、美幸?」
美幸と出会ったのは恒利のオフィスが入ったビルの通りで、同じビルに入っていく。
「同じビルだなんて・・・」
「世間は狭いね」
時間もあり、そそくさと自分たちの会社へ行った。
 仕事もいつもの定時に終わり、会社を出る。
「どうした? 美幸」
ビルの出口で美幸が待っていた。
「どうせなら、一緒にって」
「いいのに」
「まさか、同じビルにいるなんて」
「階は違うけど」
「そうね」
恒利は美幸と会社の最寄り駅まで歩く。
「じゃあ、明日」
「うん」
美幸は恒利とは反対側のホームで恒利に手を振って電車に乗り込む。

 ある朝、美幸からメールが届く。
『今日の昼会えないかな?』
『え、昼?』
『今度、行きたいところ探したいから』
お互いの仕事の関係もあり、毎日とはいかないが恒利が最寄りの駅を降りた頃に美幸に会う。
「おはよう」
「おっおはよう」
「あのさ、メールのこと」
「あぁ、いいよ」
「お昼、ここで」
「あぁ」
美幸は待ち合わせの場所を決め、足早に会社に行く。
(どこだろう・・・?)
恒利も会社に行く。
 昼になり、恒利の周りの同僚はすぐデスクから離れる。
「渡辺は食べに行かないのか?昼飯」
「そうだ」
同僚に言われ、美幸と食べる約束を思い出し恒利はデスクを離れる。
 恒利はエレベーターで出口の1階に下りる。出口から真正面にあるエレベーターから見た恒利だが、美幸は出口にはいない。
「あれ?」
エレベータから一歩前に出た恒利の腕にスッと何かが当たる。
「行こう、恒利さん」
「美幸」
恒利の腕に当たったのは美幸の腕で、美幸は恒利の腕を引っ張りビルの外へ行く。
 恒利は美幸と喫茶店に入り、ランチを頼む。
「行きたいところって?」
「そうそう」
美幸は自分のかばんの中から情報雑誌を取り出し、付箋を貼ったページを恒利に見せる。
「ここ行きたいんだけど」
「名古屋港イタリア村?」
「うん、できたのは春頃だったんだけどなかなか行く機会がなくて」
「いいよ、今週末行こうか?」
「用事ない?」
「あぁ」
休み時間のギリギリまでイタリア村の話をして会社に戻る2人。
 
 仕事も終わると、いつしか出口で美幸が恒利を待って2人で一緒に帰るようになって、金曜日を来る。
「明日だね」
「あぁ」
「どこで待ってたら・・・」
「名古屋港駅の1番出口は?」
恒利が最寄りの駅を言うが、美幸は少し考え込む。
「それより・・・」
「なに?」
「金山駅のホームは?」
「それでもいいよ」
「じゃあ、金山駅で」
「わかった」
家に着いた恒利は食事をした後、ぐっすりと床についた。

 翌朝、恒利が起きたのは美幸との待ち合わせの2時間前だった。
「やばっ!」
飛び起きて急いで身支度をする恒利の部屋に恵里が来る。
「よく寝てたね、お兄ちゃん」
「あ、恵里。バスタオル持ってきてくれ」
「お風呂でも入るの?」
「あぁ、昨日入らずに寝てたらしい」
恒利の口調で気づいた恵里も慌ててバスタオルを恒利に渡す。
 朝シャンを終え、時間を気にする恒利。
「何かあるの、お兄ちゃん?」
「あぁ」
「早く行かないと、新しい彼女いなくなるよ」
「え?」
「だって、あの木箱なくなってたし」
恒利が美幸に渡したネックレスの箱のことだ。
「大事にしてあげてよ、また・・・」
「お前とそんな話をしている暇ないんだ」
そう言い、恒利は慌てて着替え、出かけていった。
 金山駅のホームで美幸に会うまで電車に乗っていても安心できない恒利はその金山駅のホームへ来ていた。
『恒利さん』
名古屋港行きのホームに降りた恒利に美幸からメールが届く。そのメールを見ながらホームを歩く恒利はメールを返す。
『今、ホームに着いた』
メールを送った恒利は設置してあるベンチに白いワンピースを着た女性の横に座る。
「あ、恒利さん」
その女性はきれいに着飾った美幸だった。
「なんだ、美幸か」
「メール送ろうと思ったら、もう横にいるんだから」
話しているうちにホームへ来た電車に2人は乗る。
 駅を2つ、3つと通過した頃、美幸はうとうとし始める。
「寝てないのか?」
「なんだか眠たいだけ」
「着くまで寝てていいよ」
恒利は美幸の頭を自分の肩に寄せる。
「ちゃんと起こすから」
「ありがとう」
美幸はその状態でしばらく寝息を立てる。
 通過駅が少なかったせいか、すぐに名古屋港駅に着く。
「暑いな」
「もう真夏並みだよ」
美幸は出口を出るとすぐ日傘を差す。
「日焼けするのは嫌だから」
「そうだな・・・」
美幸が差した黒い日傘に恒利は気が行く。
「どうかしたの?」
「その傘・・・日傘だよな」
「そうだよ」
「日傘って言えば白じゃ・・・」
「白もあるけど、白だと紫外線通しちゃうから」
「そうか」
駅の出口からそう時間もかからず、イタリア村に入る。
 イタリア村に入ると、ベネチアをテーマにしているだけあって、恒利たちは現地に行ったような感じを受ける。
「すごいね」
「あぁ」
恒利たちは同じ年代のカップルを所々で見かける。
「やっぱり、デートするというと・・・」
「こういうところかな」
「恒利さんも」
「あぁ」
いつものように腕を組んで歩く美幸。
「そういえば、今日のその服」
「なに?」
「イタリアだけに、俺たちローマの休日みたいだな」
「なに、それ?」
「今日の美幸は、オードリー・ヘップバーンみたいに綺麗」
「もう」
「眠くないか?」
「大丈夫」
店の前を歩いていた恒利たちは大勢が並んだ行列を見つける。
「なんだろう・・・」
「並んでみるか?」
「そうね」
行列の最後尾に並んだつもりの恒利だが、すぐその後ろにも並び始める。
「何の行列だろう?」
「さぁ?」
2人はしばらくその場で待っている。すると、恒利たちの後ろの方から船らしき物が通り過ぎる。
「あれだよ」
「そうだな」
並んでいた行列も前の方に進み、乗り場にさしかかる。
「ゴンドラだって」
「あぁ」
すぐに恒利たちが乗る番が来る。
 ゴンドラに乗り、上がってきたのは恒利たちが歩いていた場所の近くだった。
「何だったんだ?」
「ねえ、冷たいもの食べよう」
「そうだな」
上がってきた目の前に、ジェラートの店があった。
 そのお店でジェラートを買い、食べていた。
「あの建物なんだろう?」
「食べたら行ってみるか?」
「そうね」
ジェラートを食べ終えた美幸は恒利の腕を引っ張り、その建物の中に行く。
 建物の中は店の集まりでその中で美幸は買い物をする。
「よく買ったな」
「だって、いい物ばかりあるんだもの」
両手に抱えきれないぐらいの紙袋を下げて、恒利も残りの紙袋を持っていた。
 夕方が過ぎ、イタリア村を出た恒利たちは最寄りの駅に向かう。
「今日は楽しかったね」
「あぁ」
「今度、イタリアに行かない?」
「いつ?」
「それはまだ・・・」
美幸は答えるのに戸惑うが恒利はイタリアに行く気だ。しかし、そのイタリアに行った後恒利に悲劇が起きる。

                                   つづく



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