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気ままなサングラス 第3章

作:奄美平次




 和美に会って、しばらくあの場所に何度もサングラスをかけて出かける彰正だが、和美に変身しなかった。
 それを機にどこに行くにもあのサングラスをかけて、出かけていこうとしていた彰正だが、それがそもそもの間違いだった。なんにもわからないままいい方だけ考えるのは無理がある。
 変身しなくなり嬉しくなった彰正はすぐ、法香の店の近くに来ていた彰正は店の前を通る。
「いるかな?」
彰正は前を通り過ぎるだけでなかなか入ろうとはしなかった。
「あのう・・・」
いつもの優柔不断で迷っている彰正を見かねた店の店員が声をかける。
「どうかしたんですか?」
「え? いや・・・」
彰正の顔を見て、その店員はサングラスの客だと気づく。
「そういえば、前ラーメン食べていませんか?」
「はい」
「あの時は合い席ありがとうございます」
彰正もその言葉で法香と一緒にいた女の子だと気づいた。
「あの時の?」
「はい。サングラスの件ですか?」
「えぇ」
安心した彰正はあの話を切り出す。
「あの、高瀬さんは?」
「あ、法香だったら今日はいないわよ」
「え?」
「あの子、日曜だけはちゃんと休みを取るの」
「そうなんですか」
休みと聞いて彰正は肩を落とす。そんな彰正の姿を見た店員が気を利かせ、何かのメモを持ってくる。
「ここにかけてみて、法香が出ると思うから」
「ありがとう」
そこには法香の携帯電話の番号が書いてあった。
 それを受け取り、店から離れた彰正はすぐに携帯電話を取り出そうとはしなかった。
 家に帰る途中、公園で休憩している彰正はずっとメモを見ている。
「かけようかな・・・」
なぜか迷っている彰正。電話をかけるのがなにをそんなに戸惑うのか、なかなかかけようとしなかった。彰正が気を落ち着かせ、電話を取り出すまで5分ちかくかかっていた。
「もしもし」
「あ、高瀬さん?」
「松山さん、どうしましたか?」
法香の声を聞き、彰正はサングラスの話をする。
「俺、和ちゃんにならなくなった」
「和ちゃん?」
「俺が変身していた幼なじみの女の子」
彰正に突然言われ、わからなかった法香も次第に理解する。
「どういう事?」
「さあ・・・?」
話すことだけ考えていた彰正も、途中で自分がどう言っていいかさっぱりわからなくなる。
「とにかく、あの女の子にはならなくなったのね」
法香は納得した声で電話を切る。

 しかし、そんなことは彰正には関係なかったようにサングラスをかける。
「さて、今日はどこへ行こうかな?」
自転車でいつもと違う方へと出かけていった。
「たまにはこっちの方に行くのもいいもんだな」
彰正は髪を気持ちよくなびかせて走っている。
 自転車を走らせ、周りの風景が田園風景に変わる。
「なんか懐かしいな、この風景」
彰正が住んでいる町には田園風景はない、隣町まで来てしまったらしい。
 彰正はサングラスをかけたまま、走っているのを忘れるくらい思い出に浸っていた。
「よくこの辺に遊びに来たな・・・」
そう思っている彰正は和美のときと同じ変化を感じる。
「まさか、また和ちゃんに」
不安に駆られ、彰正はガラス越しに自分の姿を映す。
「あれ、誰だ?」
ガラスに映ったのは和美ではなかった。確かに和美と来た思い出はなく、彰正は思い当たる女の子を思い出す。
 しかし、彰正は和美の時と同じく相手がわからない。
「誰だ?」
頭を抱えたまま彰正は走り、走り疲れて彰正は家に帰る。

 彰正は誰か知りたくてサングラスを持ってあの女の子に変身した隣町へ走る。
「誰なんだ・・・一体?」
走っている間もそう考えている。
「彰君」
「待った?」
「ううん」
途中で和美と待ち合わせて、和美にその話をする。
「和ちゃんとこっちの方に遊びに来た覚えある?」
「そうね?」
しばらく和美は考える。
「来たことないね」
「そうだよね」
来たこともない場所に連れてこられて和美は変に感じた。
「なにかあった?」
「また女の子になったんだ」
理由を知っている和美は、彰正にサングラスをかけるように言う。
「驚かないでよ」
「ちょっと変、彰君」
和美にそう言われながらも、仕方なくサングラスをかけてあの女の子に変身する彰正だった。
「彰君!」
「え?」
和美は自分の時と同じように女の子に変身した彰正を写真に残す。時間が経ち彰正も元の姿に戻る。
「この子だった? 彰君」
「うん、和ちゃん見覚えある?」
「ううん、会ったことない」
小さい頃はともかく、大人になってから来たことのある和美だが、この女の子には会ったことはなかった。
 彰正は自分の体に戻ってしばらく和美と一緒にいるのには訳があった。
「どうしたの? 彰君」
「うん、ちょっとね」
どうやら彰正は和美の時のように誰かといればその女の子に出会えると考えていたらしいがその思惑ははずれる。
 それから和美と一緒にいたが一向にあの女の子は現れなかった。

 あのことが気になって彰正は法香に電話をする。
「何かあったの? 松山さん」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「なに?」
「他の場所にサングラスをかけて出かけていったら、別の女の子に変身したんだ」
「どういう事?」
「さあ? 詳しいこと知らない?」
「うん」
考え事をしているのか静かになる。
「ねえ、今度の日曜、会えない?」
「来週?」
「それまでにわかったこと松山さんに教えるから」
「わかった」
彰正は法香と約束をする。

 この前と同じ店の前で待ち合わせをする彰正はそこで待っていた。
「何かあるのかな、あと」
法香が誘う意味がわからず、彰正は不安になる。
 彰正を待たすことなく、法香はすぐ来ていた。
「なにかあるの?」
「なにが?」
彰正は率直に今の気持ちを法香に伝える。
「サングラスのことは高瀬さんの方がよく知ってることだし・・・」
「そうだけど・・・」
「他の人はどうだったの?」
「ちょっと待って」
慌てる法香は、かばんの中からメモ帳を取り出す。
「松山さんが言ってた話は聞いてるわ」
「それってもう・・・」
法香が言った言葉に一瞬安心した表情を見せる彰正だが、それはその後すぐの法香の言葉で一転する。
「それはわからないわよ、他の人がまた別の場所に行ったらまた別の人に変身したって話も聞いてるから」
「え?」
「それにこの前の話聞いたら、他の人に変身しそうな感じだし・・・」
そう彰正は小さい頃にいろんな場所に引っ越しているから、その分思いを寄せる子がいてもおかしくないだろうと法香は考えているのだろう。
 2人は車に乗りどこかに行くようだ。この前の大通りから離れていき、どうやら彰正たちは変身した場所に行くようだ。
「ねえ、他にこの前の人みたいな子いないの?」
「そうだな」
法香にそう言われ、考える彰正は思いつかない。
「まだ許嫁いないの? 小さい頃ずっと引っ越してたらいるんじゃないの」
「そうだけど・・・」
必死に思い出そうとする彰正は、あの女の子には関係のない昔の思い出が頭をよぎる。
「どうしたの?」
「いや、許嫁なんじゃないけど」
「うん」
法香は彰正の表情の変化に気づく。
「昔、和ちゃんとは違うタイプの女の子と遊んでた気がする」
「違うタイプって?」
「和ちゃん、昔から華奢だけどなんか違う少し太めの女の子と遊んでいたと思う」
「太め?」
成長期はみんな成長するために太るはずだが、法香には彰正が言っている意味がわからない。
 しばらくして彰正たちは彰正が変身した隣町に来た。
「ここ?」
「うん」
彰正がそう言うと法香は懐かそうな顔を浮かべ、周りを見わたす。
「どうかした?」
「ううん」
なにか隠すかのように法香はパッタリとまわりを見なくなる
「なにか見覚えがある?」
「うん、よく似たところに昔住んでたことあるの」
「そうなんだ」
法香のその言葉が後々彰正の思い出のひとかけらに変わる。
 その日、サングラスをかけて女の子を探さずに隣町を法香と歩いただけだった。

 彰正は法香の言ったことが気になったのか昔のアルバムを開く。
「どうしたの?」
「いや・・・ちょっとな」
以前には考えられなかった彰正の姿を見て、朋美は驚く。
「そういえば、覚えてるか?」
「え、誰?」
彰正は和美と写っている写真を見つけ、朋美にそう話す。
「え、どうして?」
「この子に会ったんだ、和ちゃんに。とても可愛くなってた」
訳がわからない朋美はただ呆然とするだけだった。
 サングラスの話を朋美に聞かすと、彰正がアルバムを見ていたときより明らかに違う驚き方をする。
「え、じゃああのサングラス買わなければ・・・」
「そうだけど・・・いいこともあったかもな」
「どうして」
「ちょっとな」
笑顔で話す彰正はアルバムを見ているうちに、法香と話していたときに思い浮かんだ女の子に似た子が写る写真を見つける。
「あ、この子」
「あ、法ちゃん」
「法ちゃん?」
アルバムをのぞき込んで見ていた朋美の表情が変わる。
「お兄ちゃん、忘れちゃったの?」
「え、誰?」
「お父さんたちが勝手に許嫁にしてた子」
「許嫁? それって和ちゃんじゃ・・・」
「和美ちゃんはその前にいたところでただ仲が良かっただけじゃないの?」
「そうかな?」
どうも朋美の話に納得できない彰正だった。

 休みの日になり彰正はあの場所に行く。
「あの子は一体・・・」
写真と自分の思い出を頼りに彰正はあの場所の周りを歩く。
「松山さん」
「あれ? 高瀬さん」
法香も偶然なのか近くを歩いていた。
 しばらくし彰正は気になっていたことを法香に話す。
「ねえ、どうして一緒に?」
「私、男の人見ると一目惚れしやすいんです」
法香のその言葉に彰正は不思議な気持ちになる。法香が言いそうもない言葉だったのか驚いたままでなにも言葉も出なかった。

 あの後、全然話せなかったわけではなく、彰正は法香と出かける約束はしていた。
「あれって違うかもしれないよ」
「あれって」
車の中で彰正は気にしてたことを話す。
「どういうこと?」
「俺もここら辺に住んでたこともあるんだ・・・何かの縁があるんじゃ」
小さい頃に住んでいた地区に法香を連れていく彰正。
「彰君?」
彰正の後ろ姿を見ていた法香は彰正を呼ぶ。彰正はどこかで聞いた覚えがある声に聞こえる。
「え?」
彰正は振り返った瞬間、目の前にいた法香があの写真の女の子に面影が似ていた。
「法香ちゃん?」
「やっぱり・・・彰君なの」
「うん」
法香の表情で朋美が言っていたことが当たっていることに気づく彰正だがまだ信じられないことがある。
「ねえ、覚えてないんだけど・・・」
「なに?」
「法香ちゃんと俺って許嫁だった?」
「うん」
彰正がそう確認すると法香は笑顔になる。
「なんか不思議だね、こんなに近くに知り合いがいたなんて」
「うん、いつだった一緒に学校に行ってたの?」
「中学の2年、彰君の髪短かったよね」
「法香ちゃんは短くしたんだ」
「そう」
法香は真剣な顔をして彰正を見つめる。
「彰君が好き、私」
突然法香に告白され、彰正は少し焦る。
「俺でもいいの?」
「うん」
「あのサングラス持っていても?」
「うちの商品だし、私もどういう原因でそうなるか知りたかったから、別に気にしてない」
法香の言葉を聞き、安心する彰正だった。
「法香って呼んで」
「わかった、法香」
彰正は少し照れながらも法香との距離は許嫁だった頃に近づくのだった。だが、彰正はあの女の子の話は一切しなかった。

 彰正は昔のように法香と付き合い始め、今まで以上にサングラスのことに立ち向かう気になる。
「この子なんだけど、誰かに似てない?」
「この子?」
和美からメールで写真を送ってもらい、その写真を法香と2人で見て考えていた。
「お兄ちゃん、帰ってきてるの?」
朋美はそう言い、彰正の部屋のドアを開ける。
「いるじゃない、いるんだったら声出してよ」
「急に開けるなよ」
彰正と話す朋美は法香の存在に気づく。
「あ、どうも」
「あ」
いてはいけないと思った朋美は、足早に部屋を出ようとする。
「朋美」
「なに?」
「ジュース持ってきてくれないか?」
「わかった」
口数を少なめに朋美は部屋をあとにする。
「気づかなかったのかな、あいつ」
「わかんないよ、私のこと店の店員として見てるんじゃ」
「そうかな」
彰正に言われ、ジュースを持って朋美が部屋に戻ってくる。
「はい、ジュース」
「あぁ」
「ありがとう、朋ちゃん」
法香が意を決して出した声に朋美は反応する。
「え・・・」
「朋ちゃん、元気だった?」
法香の言葉で朋美はなにか感じたのか、その場に立ち止まる。
「法ちゃん?」
朋美は驚いた顔をして法香を見つめる。
「そうよ、元気だった?」
「元気だったよ」
「大きくなったね」
「法ちゃんだってきれいだよ、わからなかった」
「もう、朋ちゃん」
朋美の言葉で法香は笑顔になる。
「なにか変な事言った?」
「ううん、やっぱり兄妹だなって思えただけ」
「やだぁ」
朋美は照れ隠しで嫌がる。
「誰だった、彰君が最初に変身した子」
「あ、和ちゃん」
「そうそう、その子に偶然会ったときに彰君も同じこと言ってたから」
「法ちゃん、和美ちゃんに会ったの?」 
「うん。私が会ったのはその時だけ」
法香が和美の話をしているのを見て、彰正は和美といたときのことを思い出す。
「そういえば、和ちゃんとあそこで変身したときあの女の子現れなかったな・・・」
「そう・・・」
「でも、なんで法香といたときに変身してた和ちゃんに会えたのかな?」
思い出してもまだ不思議に感じる彰正だった。
「それって法ちゃんと比べさせようとしてるんじゃない」
「どういうこと?」
「許嫁と仲が良かった女の子と会わせてどっちにお兄ちゃんの気が向くか」
「え?」
「でも、その時はまだ法香だとわからなかったし・・・」
「それはお兄ちゃんたちだけでそのサングラスは見抜いてたんじゃ・・・。それで、和美ちゃんの時には現れなかったんじゃないの?」
「それって最初から法香が許嫁だとわかってたってことか」
「そうじゃない」
話はまとまることなく時間だけが過ぎていく。
「帰るわ」
「あぁ、そこまで送る」
「ありがとう」
彰正は法香を連れて家を出る。
 家から離れてしばらく嬉しそうな顔をしていた法香だったが、家から遠ざかるにつれその表情が変わっていった。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
法香はそう言うが、なにか隠しているように彰正にはそう見られた。それには触れずに近くの駅まで送った。
「じゃあ、今度」
「あぁ」
見送る彰正だったが、気持ちの中では改札を飛び越え、法香を抱きしめたくなっていた。

 しかし法香は彰正になにを隠しているのだろうか? あの女の子と関係があるのか、彰正はそればかり気にしていた。

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