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気ままなサングラス 第2章

作:奄美平次




 女の子になることに恐れているのか、彰正はサングラスをかけることがない車で出かけるようになっていた。
「お兄ちゃん、サングラスは?」
「いいんだ」
車の鍵を手に彰正は出かけていく。
 車に乗り、彰正はいつもの道を走るが気持ちは違っていた。
「でも、どうしてあれだけ・・・?」
やはりあのサングラスで変身する理由が知りたいらしい。
 車を駐車場に止め、彰正はデパートの中にはいる。彰正が自転車で街中に来るのはこうやってデパート巡りをするのが彰正の趣味みたいなもので、自転車で彰正が来るのは車でデパート巡りをするより手際よく行き来できるのがいいと思っているからだ。
 デパートの中に入り、彰正はいろいろと商品を見るが何か探し物を探すわけでもなく、ただ目の前を通り過ぎるだけで、別に買わないつもりはないが新しい商品を見てその値段に圧倒されるのが好きだという彰正の変な感覚でそれを続けている。
 そうやってデパートの中で歩いている彰正を誰かが見つける。
「お兄ちゃん!」
「え」
彰正を見つけたのは朋美だった。
「もう、いつも同じ行動して。絶対怪しまれるよ、店の人に」
「だけどさぁ」
「この前の眼鏡屋でもそうやってたもん」
「なんで、ここに」
家にいるはずの朋美がそこにいることに彰正は驚く。
「お兄ちゃんの跡を付けてきたの」
「え?」
「嘘よ、もう。私も待ち合わせで時間があって中に入ったらお兄ちゃん見かけたから」
「それだけか?」
「だってあんな歩き方するの、お兄ちゃんしかいなくて」
「そんな歩き方してるか?」
朋美と話していると朋美のかばんから携帯電話の着信音が鳴る。
「呼んでるぞ」
「わかってる」
彰正から離れ、朋美は電話に出る。
「うん、わかった。そばにいるからそこで待ってて」
そういうと朋美は彰正と少し話し、デパートを出て行った。
 しばらくしそのデパートから出て、車で移動をしている間あのサングラスのことばかり気になっている彰正だった。
 車で移動中の彰正は人が多く賑わっている場所に目がいく。
「何かいいことでもやってるのか・・・」
立てかけてある幟を見て、彰正は近くでイベントをやっていることに気づき、駐車場に止めてイベント会場に行く。
「何やってるんだろう?」
その会場はいろんなブースと言われるテントごとに分かれている。
 通路はお世辞にもテントがある分広いとは言えず、せいぜい小さい子を連れている親子が通れるぐらいだ。その通路を彰正は通って奥へと行く。彰正はその時、カップルで来なくてよかったとつくづく思うのだった、それくらい人通りも多かった。
 通路は一本道で抜けると、そこにはテントが張ってあり会議室にありそうな机が並んでいた。どうやら食事のできるところらしい。
「腹減ったな」
彰正はそう思い、周りのブースを見渡すと近くのブースでラーメンを買ってその場所で食べていた。
 ラーメンを食べている彰正の後ろでハイヒールの音が近づく。
「松山さん?」
彰正は声のする方に振り向くと、声の主は友人と来ていた法香だった。
「やっぱり、そうだった」
なんで呼ばれたのかわからない彰正は箸を止める。
「あ、ラーメン食べてるんですか? おいしそう」
「ラーメンだったらそこで売ってるよ」
「どうも」
法香たちもそのブースでラーメンを買い、彰正の方に戻ってくる。
「ここ空いてますね」
「えぇ」
法香たちは彰正の向かいの椅子に座って食べる。
「この人、知ってるの?」
「うん、うちのお客さんだったの」
「そう」
しばらく法香たちはおいしそうに彰正の前で食べていた。
 ラーメンを食べると同じ頃、法香の友人の携帯電話が鳴る。
「ちょっとごめん」
「うん」
電話を取り、話し始める友人は慌て始める。その間、法香は1人で来ている彰正が気になっていた。
「今日もお一人なんですか?」
「えぇ」
そう話す彰正に法香は彰正の周りを見渡す。
「もうしてないんですか?」
「何を」
「サングラス」
どうも法香はいつもサングラスを持ち歩いていると思っていたらしい。
「ところでアレ、どうなりました?」
「アレって?」
「女の子にまだ変わってしまいますか?」
突然法香に人前で言われた事に彰正は驚く。
 電話で話していた法香の友人は話し終えると落ち着く間もなく帰り支度をし始める。
「ちょっと悪いんだけど、法香」
「なに?」
「今から会いたいって、彼が」
「うん、わかった」
友人はそそくさと帰っていった。
 二人っきりになってさっきの法香の言葉が気になる彰正は黙り込んだままだ。
「もう付ける気にならないんですか?」
「それはもう、あんなことになるんだったら」
「そうですよね」
彰正の気持ちを察し、法香は少し落ち込む。
 ラーメンを食べ終えた彰正は器を返し、また法香の元に戻ってくる。
「ひとりでしょ」
「え?」
「じゃあ、行こうか」
「えぇ」
彰正は法香を連れて駐車場の方に行く。だが、まだあの通路には人がたくさんいる。先を歩く彰正はときより法香の方を確認しながら前へ進む。
「大丈夫?」
「えぇ」
通路の出口で先に出た彰正は後から来る法香の手に自分の手を添え、スッと引き寄せる。
「大丈夫だった?」
「もう、むちゃくちゃ」
そう話す二人の距離はぐっと近づく。
「どこに行くんですか?」
「駐車場。一緒に行くんでしょ?」
「えぇ」
彰正は駐車場に行き、当然法香を車に乗せる。
「これに乗っているんですか」
「えぇ」
法香は助手席に乗り、法香の髪は寄り添うようにシートに乗る。
 しばらく彰正は行くあてもないまま、車を走らせる。
「どこ行くの?」
「さあ?」
一瞬驚く法香は降りるわけにいかず、彰正についていく。
 車が止まったのはそれからすぐだった。
 彰正が止めたのはあるデパートの駐車場だった。彰正はさっきの続きを続けるつもりなのだろう。
「え、どこ行くの?」
「ちょっと俺の趣味みたいな事」
「なにするの?」
「来ればわかる」
彰正はそう言い、デパートの方へ歩いていき法香も仕方なくついていく。
 法香を気にすることなく彰正はいつもの行動をしている。
「何しているの?」
「見てるだけ」
「え?」
彰正の行動にただ驚く法香で、その行動をしている自分の店でしていたのを思い出す。
「あの・・・なんでこんな事を」
「え?」
「不自然ですよ、買わないのにうろうろしてるなんて」
「そうかな」
「何かあるんですか?」
「え?」
彰正はそっと法香の腕をつかみ、エスカレーター横の椅子に座る。
「変な目で見ないでよ」
「なに」
「俺さ、この近くに知っている子がいるんだ・・・」
「それってどういうこと?」
彰正が言っている意味がさっぱり法香にはわからない。
「昔、俺がここら辺に住んでた事があるんだ」
「それで・・・」
「よく聞いてて」
彰正は歩き始め、法香に小さい頃の引っ越ししてばかりしていた話をする。
「よくいろんな所に引っ越してたから、その時の友達に会おうかなってこういう繁華街に来るんだ、別に会えないんだけど」
「友達って男の人?」
「いや、女の子も多いかな」
「好きだった人探してたり」
「え・・・?」
「そんなに驚かなくても」
彰正は正直、法香にそう言われるとはちっとも思っていなく、驚きを隠せなかった。
「まあ、小さい頃の子もいるかもしれないけどそうかな」
「でしょ」
「それが癖になっていると思う」
彰正の話を聞いている法香はふとサングラスとの因果関係を探す。
「そう言えば、サングラスかけたときって小さい時の女の子に似てたんですか?」
「え、そんなことわからないよ。面影ないかも」
「そう」
彰正は変身したときの姿を思い出す。だがどこにもそんな似かよったところはない。
「それより、他の人はどうだった?」
「他の人って」
「あのサングラスを買った人さ」
法香は少し考え、彰正に話す。
「うん、人それぞれかな? いろんな話を聞いたことあるの」
「いろんな話?」
「えぇ、松山さんみたいに若い女の人がいたって言う人がいたら、お婆さんがいたって言う人もいるの」
「そうなんだ」
彰正は法香の言った話に納得した。
 デパートを一緒に歩き、サングラスの疑問もひとつ晴れた彰正は少し安心する。
「どこか行きたいところある?」
「え?」
「ついてきてくれるばかりじゃ悪いから」
そう言った彰正の表情を見て、法香も嬉しそうな顔を彰正に見せる。
「いいですよ、別に。私、松山さんと一緒にいるだけで嬉しいです」 
「え?」
「一緒にあの原因探しませんか?」
彰正は法香が言っている意味がさっぱりわからなかった。
「うちのサングラスだし、私も気になっているから」
「そう」
それから法香はそれ以上話そうとはしなかった。
 仕方なく法香の話にのる彰正だが、その話にまだ納得はしていなかった。

 訳もわからなく話を聞いていた彰正は休みに法香と出かける。
「あれ? 持っていくの、サングラス」
「あぁ」
朋美は、珍しくサングラスを手にする彰正を呆れた顔をして見る。
 彰正は車に乗って、法香と待ち合わせしたパン屋に行く。
「じゃあ、行きますか?」
法香は彰正の車に乗り、車を走らせる。
「アレ持ってきました?」
「これでしょ」
彰正はダッシュボードからサングラスを出し、法香に見せる。
「天気がよくて良かったですね」
「そうかな?」
まだ彰正は快く思っていなかった。それもそのはずだ、彰正が昔住んでた近くへ行き、サングラスで変身した相手を探す新手の作戦だ。まだその時の女の子とは決まったわけではないのだから。
 法香を車に乗せて、しばらく経ち彰正はこう話す。
「ここら辺に住んでたな」
そこは彰正が初めて女の子に変身した場所でもあった。
「じゃあ」
「わかった」
彰正はサングラスを受け取り、サングラスをかけ運転する。別にガラスの色に慣れてしまえば運転には支障はない。運転する彰正にすぐ変化が起きる。
「松山さん!」
「え?」
法香にそう言われ、彰正の車は交差点で止まった。そのとたん、法香はかばんから携帯電話を出し、カメラを彰正の方へ向ける。
「撮るよ!」
法香はシャッターを押し、車内は一瞬だけ明るくなった。
 カメラにその子の顔を納めた法香は嬉しそうだったが、サングラスをかけている彰正は女の子のままで不機嫌だった。
 しばらく走っているうちに雲で覆われ、辺りが暗くなって彰正も元の姿に戻る。
「どうだった?」
「この人だった、いつも」
彰正は車を止め、歩いている法香は携帯カメラで撮った女の子の写真を見せる。
「知っている女の子ですか?」
「そうかな」
彰正はじーっと写真を見つめ、考えこんでいた。
「わからないんですか?」
「ちょっとね」
彰正が知っているのは小さい頃の女の子で、彰正が今見ているのは大人の姿をしている。
「面影とか・・・」
「あるかな・・・ちょっと貸してて」
「えぇ」
法香と話しながらも、彰正は時々その写真を見て思い出そうとしている。
 大通りに面した店にも目もくれず、彰正は写真の女の子ばかり気にしている。
「あれ、どうですか?」
「え?」
「お昼ですよ」
法香に言われ時計を見ると、もう12時を過ぎていた。
「お腹空いてませんか?」
「そうだね」
通りにあるファーストフードの店に彰正たちは入る。食べている間の話はもっぱらあの写真の話だ。
 食べ終えファーストフードの店を後にした彰正たちは大通りに沿って歩く。
「彰君?」
後ろから懐かしい呼び名で呼ばれた彰正は振り返る。
「え、誰?」
彰正に声をかけたのは女の子で、彰正はどこかで見覚えがあった。
「忘れちゃった? 和美よ」
「和美・・・?」
頭の中でいろんな女の子を思い起こす彰正はふと気づく。
「和ちゃん」
「やっと気づいてくれた」
和美は嬉しそうな顔を見せ、彰正たちと歩く。
「変わったね、化粧してるからかな?」
「そうかな?」
法香は何が起きたのかわからず、驚いたまま彰正たちについていく。
 彰正と女の子を捜すついでに距離を縮めようとしていた法香だが、和美が現れ和美に彰正を持っていかれ気持ちは複雑だった。
「そういえば、何してたの? 彰君」
「ちょっとね」
彰正は携帯の写真が和美だと気づくがやはり素直にサングラスの話をする気にならない彰正で浮かない表情になる。
「どうしたの?」
「いや・・・」
彰正は言おうか隠そうか迷っている。和美は彰正のそんな素振りを見てすぐわかった表情を浮かべる。
「彰君、その癖直ってないよ」
「え?」
「彰君、迷ってるとき絶対足早めるんだから」
サングラスの話をしたとたん、和美が言ったとおり彰正は少し早めて歩いていた。
「それって癖かな?」
「そうよ」
「直してね」
そう言うと和美は交差点で彰正の前に立つ。
「元気でね」
「え?」
「用事あるから、ここで」
「あぁ、和ちゃんも」
和美は交差点を渡り、反対側へ行った。
 和美の姿を最後まで見送る彰正に少し離れて歩いていた法香はうらやましそうな表情をしながら彰正に話しかける。
「良かったですね」
「まぁ」
彰正も驚いていなかった訳じゃない、それより和美に会いあの女の子が和美だとわかり安心もしていた。
「驚きじゃないですか?」
「なにが?」
「あの女の子が知り合いの人だったなんて」
「そうだね」
法香はやはり、あの話が気になっていた。
「話さなかったんですね、彼女に」
「それはね」
彰正は少し悲しそうな顔を法香に見せる。
「和ちゃんには嫌な思いさせてばっかりだったから」
「昔のことなんでしょ?」
「それは。でも思い出すんだ、時々」
「もうそろそろ、忘れてもいいんじゃない」
「忘れたいけど・・・」
彰正はそう言うと足早に歩く。
「あ、なにか隠してませんか?」
「どうして?」
「彼女言ってたじゃないですか、なにか迷っているときは早く歩くって」
「言ってた?」
「いいです、もう」
法香は道端に立ちつくしていた。
「だって俺たちを親たちが勝手に許嫁に決めてたんだ」
「え?」
「それなのに・・・思春期になる前に引っ越したんだ、わけもわからず」
「えっ」
彰正にとっさに言われ、どうしていいかわからない法香はただあ然としていた。
 しばらく彰正と一緒に歩く法香は複雑な気持ちのままだった。

 彰正は和美に会って初めてサングラスをかけて出かけていく。
「あれって偶然だったのかな?」
法香に言われるがままにかけて変身した相手が、大人の女性になった和美だったことに彰正はまだ動揺している。
「あの場所だからか・・・」
それを確認するように彰正は裸眼のままであの場所まで自転車を走らせる。
 いつものように走らせ、いつもとほぼ同じ時間でついた。
「確かめてみるか・・・」
そっと彰正はサングラスをかけ、また走り出す。
 だが一向に彰正が和美に変身することはなかった。
「あれ?」
窓ガラスに映る姿は彰正そのままだった。
「これって・・・」
彰正は変身しないのを見て嬉しくなり笑顔になる。
 笑顔を見せる彰正がデパートから出て、駐輪場から出てきてしばらく走っていると後ろの方から彰正に声をかける。
「彰君!」
「え?」
驚いた彰正が振り向くと和美がそこにいた。
「和ちゃん」
「あれ? 彼女いたんじゃ」
「彼女? 今はいないよ」
「じゃあ」
彰正は一緒にいた法香は関係ないと和美に言う。
「でも、彰君?」
「なに」
「この前さ、なんか変だったよ」
「それはさ・・・変なサングラス買って」
彰正は和美の耳元に口を近づける。
「和ちゃんになったからかな」
「え・・・私になったの?」
「うん」
彰正からそう聞いた和美は少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「でも最初は、和ちゃんとはわからなかった」
「どうして?」
「あの時まで和ちゃんになっていたんだけど、原因がわからなくて一緒にいた人もそれを知りたいって言うからサングラスかけたら・・・その女の子が和ちゃんだったんだ」
「そのサングラスって彰君のポケットにある・・・」
「あっうん、これなんだ」
サングラスを和美に渡し、和美はサングラスを太陽に透かして見ていた。
「でも、和ちゃんに会ってから和ちゃんにならなくなったんだ」
「そうなの?」
「今までここら辺りになると、和ちゃんになってたんだけど、さっきかけてもどうしてか和ちゃんにならなかったんだ」
「それってこうなんじゃないのかな?」
和美は自分の頭の中で思いついた言葉で彰正に話す。
「もしかして、このサングラスって会いたいと思っている人になっちゃうんじゃ?」
「どういうこと?」
「ここら辺りで遊んだ思い出があるじゃない、私たち」
「そうだけど」
彰正はまだ納得できない。ただ和美が言っていることは当たっている。
「それにしても和ちゃん、どうした? こんな所で」
「ひどい」
「俺のことばかり話してて、すっかり聞くのを忘れてた」
「もう」
彰正の顔をジッと見つめる和美。
「今日暇だったから、遊びに来たんだ。そしたら彰君がいた」
「友達とかは?」
「みんな用事だって、ひとりって寂しいね」
「そうだね」
彰正は自転車をひきながら、ゆっくり和美の歩くペースに合わして歩く。
「でも、どうしてそんなサングラス買ったの?」
「コンタクトに合わす眼鏡買ったときに朋美が俺に必要だって買ったんだ」
「朋ちゃんが」
「あぁ」
しばらく懐かしい話も交えて嬉しそうに話す2人だった。

 あれからあの場所でサングラスをかけても彰正が和美に変身することはなかった。
 しかし、小さい頃から引っ越しをし続けていた彰正が会いたくなるのは和美だけではなかった。

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