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気ままなサングラス 第1章

奄美平次




「ねえ、どうするの?」
「まあ、後で買う」
 休みの朝、キッチンで朝飯を食べている松山彰正に妹の朋美がなにか話しかける。
「いつも、いつも後でって買わないくせに」
「それは・・・」
「すぐ黙り込む」
 強気で話すわけではない朋美になぜか彰正は買う気ではなかった。
 朋美がそう話すのも彰正が優柔不断のせいだ。なにを決めるにしても時間がかかり、そんな彰正に朋美は飽き飽きしている。
「ねえ、いつ買いに行くの?」
「わからない」
 別に買うための金がないわけではない、ただ彰正は損をするのが嫌なだけだ。
「俺は・・・このままが」
「そんな事言ったって、じゃあ私が一緒について行こうか?」
「いいよ、俺1人で行くから・・・」
 朋美の誘いを断るように急いで支度をする。
 彰正が買いに行くのは、コンタクトレンズに合わすための眼鏡を買うだけでいつもはコンタクトレンズで済ましている。
「あんな眼鏡だと誰か来たときに・・・困るから」
「誰か来るのか? まさか・・・彼氏とか・・・」
「いないわよ・・・」
「なら、別にいいじゃないか」
 1人で出かけようとする彰正に朋美も出かけるつもりだ。
「お兄ちゃん、ちょっと待って」
「なに?」
「私も一緒に行く」
 そう言うと朋美も玄関にいた。
 彰正と一緒に歩き、商店街まで来た彰正は不思議になり、朋美に話す。
「なあ、こんな所に眼鏡屋あるのか?」
「あるわよ、信じてよ」
 そこの商店街は、昔から建ち並ぶ商店街でどこからとなく古い雰囲気がありなかなか彰正たち若者が歩く姿を見かける事はない。
「こんな所にいい店があるのか?」
「いいから、いいから」
 そう言う朋美は彰正を置いていくようにさっさと歩いていく。
「おい、朋美!」
「早く、お兄ちゃん」
 朋美を追う彰正はひとつの交差点を越える。
 もう一つの商店街に入り、朋美の目的は次の商店街にあるようだ。それまでの商店街と少し違う感じを受ける彰正。
「お兄ちゃん、こっち」
「朋美」
 それまでの商店街に比べ新しい店が建ち並んでいるのがそのせいだろう。
「お兄ちゃん、いいのあるよ」
「おいおい」
 商品に誘われるように朋美は一軒のとある眼鏡屋に入っていく。
 最近開店したばかりなのかその店は周りの店に比べ、客足が多く朋美もそれを見て彰正に勧めたのだ。
「いらっしゃいませ」
 店に入り周りにあるいろんな眼鏡を彰正は見る。
「眼鏡をお探しに?」
「えぇ」
 眼鏡を探している彰正に入りたての若い店員、高瀬法香が近づく。
「どういう眼鏡を・・・」
「別に・・・好みは。とりあえず安くて似合いそうな・・・」
「そうですか・・・」
 さすがに彰正が買う気がないと気づいたのか、法香はどうしていいか戸惑う。
 彰正はそんな法香をよそに眼鏡を選ぶ。そこに彰正より先に入って眼鏡を選んでいた朋美が彰正を呼ぶ。
「お兄ちゃん、こっち!」
「え?」
「こっちに似合いそうな眼鏡があるわよ」
 彰正は朋美が呼ぶ方に行く。そこは店の中程より奥に入ったところだった。
「ねえ、これなんてどう?」
「これか?」
「今こういうの、流行ってるみたいよ。みんなこんな感じの眼鏡かけてるわよ」
「そうか? でも、俺には・・・」
 その眼鏡は彰正にはとても似合わなそうな眼鏡だった。そんな眼鏡を彰正がかける。
「似合うじゃない、お兄ちゃん」
「そうか?」
「えぇ、お似合いです」
 朋美と彰正の光景を見ていた法香が来ていた。
 彰正が法香と視力検査をしている間、朋美は別なものを探している。
「いつもは、なにを?」
「コンタクトを。コンタクトに合わす眼鏡を新しくしようかと思って」
「そうですか? 多分、視力落ちていないと思うので」
 法香はそう言うと測った視力でレンズを作り始める。
「それじゃ、1時間後にできあがっていると思うので」
「はい、3時ですね」
 眼鏡代を払い、彰正は朋美と店を出る。
 朋美は彰正と一緒に歩いている間もなにか考えているようだ。
「なに考えてるんだ? さっきから」
「いいの、私のことは」
 朋美がなにか隠してるのかただ教えないだけなのか彰正は気になる。
「何かあるのか? まだ・・・」
「ううん」
「じゃあ、さっきからなに気にしてるんだ?」
「あのさ、お兄ちゃんまだアレ続けてるでしょ」
 朋美が言う彰正の続けているアレとは彰正が趣味で続けているロードランナーのように自転車を走らせて出かけるのだった。
「お兄ちゃん、眩しくない? 日差し」
「もう慣れたから、関係ない」
「もぉ、そんな事言って。目に悪いんだから」
「そうか?」
 彰正の態度に呆気にとられる朋美だが、彰正はあの眼鏡以外買うつもりはない。
 1時間があっという間に過ぎてしまい、あの眼鏡屋に行く。
「松山ですが・・・できてますか?」
「お兄ちゃん、アレ・・・」
 彰正は受取書の控えを店員に渡す。
 店員は控えを確認しながら、彰正の眼鏡を探す。
「寺島さん、ここに」
「あ、ありがとう」
 近くにいた法香が手渡し、その間なぜか朋美は彰正の近くにはいなく何か探しているようだった。用事を済ませ、彰正は帰ろうとする。
「お兄ちゃん、こっち来て」
「おい、帰るぞ」
「いいから、早く来て」
 帰ろうと朋美を呼ぶ彰正だが、朋美も探し物を見つけたのか彰正を呼んでいる。
「お兄ちゃん、いいものあったよ」
「なにさ・・・俺、買い物済ませたぞ」
 彰正は朋美を置いて店を出るつもりだった。
「お兄ちゃんっ!」
 朋美はそう叫ぶが、彰正は店の外に出ようとしていた。仕方なく朋美は、その眼鏡を持って彰正の元へ行く。
「お客さんっ」
 朋美の手にはサングラスがあった。
「はい、これかけてみてよ。別に買うって言ってないでしょ」
「どうして?」
「だって」
 彰正は朋美の言っている意味がわからず、仕方なくそのサングラスをかける。
「いいじゃない、これかければ」
「でも、これどこにあったんだ?」
「店の奥・・・」
 そのサングラスが店の奥にあったことが彰正に最悪な事態を招く。
「お客さん、困ります。持ち出し禁止なんです、うちの店は」
「すみません。ほら、どうするんだ」
 持ってきた朋美はなぜか店員が来たことに異常に驚く。
「ねえ、お兄ちゃんはどうなの?」
「俺はさっき買ったばかりだから、買えないぞ」
「じゃあ・・・」
 買うつもりは一切なかった彰正だったが、朋美はどうしようか迷っていた。
「お客さん、お買い物されたのならいいですよ。値札の半額で」
「え・・・?」
「うちの店で眼鏡をお買いになったお客様には二品目は半額にするシステムになっているのです」
 それを聞いて朋美は安心する。
「じゃあ、私が払ってあげるね」
 朋美はそう言い、レジにサングラスに持っていく。
 レジでお金を払い、彰正に渡す朋美の姿を店員が見かける。
「そのサングラス、男性がかけられると・・・」
「どうなるんですか?」
「これは、人それぞれですが・・・男性がかけられると突然変化が」
 何があったのか店員はそれ以上朋美に何も言わなかった。
 何を言っているのか理解できない朋美はそのまま聞き流してしまう。

 サングラスを買った彰正だがすぐかけようとはしない。仕事は室内でしているため、別にサングラスを使うこともない彰正だった。
「お兄ちゃん、今日もかけていかないの?」
「あぁ」
「目、悪くなっても知らないわよ」
「わかってる」
 朋美にそう言われるがかけるどころが持っていこうとはしなかった。

 サングラスはほったらかしのまま、真夏の日射しは強くなる。
「暑いな、今日は」
「うん、ほんと。困っちゃうね」
「あぁ」
 朝飯の時間に朋美は彰正に話しかける。
「ねえ、今日も出かけるんでしょ」
「もちろん」
「これ、かけていってよ日射し強いんだから」
 彰正にサングラスを渡す朋美に、渋々嫌な顔をしながら彰正は受け取る。
(なんで、こんなサングラスを・・・)
 やはり真夏だけに眩しい日射しだったが、朋美は店員から言われたことを一切忘れていた。 そんなことを知らない彰正は初めはかけようとはしなかった。
「仕方ないか」
 しかし彰正は眩しい日射しに耐えかね、サングラスをかけて走り出す。
 彰正が異変に気づいたのはしばらく走ってからだった。
(アレ? なんだか重いな・・・気のせいか・・・)
 彰正は自転車をこぐ力がなくなり、だんだん遅くなっていて普通に走っている人に追いつかれていた。
 信号で止まっている彰正は後ろから誰かに見られている気がしてならなかった。
(誰か俺を見て・・・)
 信号が青に変わり、走り出す彰正だがペダルはさっきと変わらなく重い。
 彰正はしばらく走って、ガラス越しに自分の姿を映す。
(誰? 俺じゃない・・・誰?)
 自分ではない女の子が映るが、その女の子が乗っているのは彰正の自転車だ。
「あれ、俺の自転車じゃないか?」
 だが、彰正は今自分に起きていることを素直に受け止めることはできなく、また走り出した。
(誰なんだ・・・誰が俺の自転車乗ってるんだ?)
 あれから彰正は自分の姿を一切見ようとせず走り続ける。
 彰正がどれだけ走ったか空は雲に覆われていた。
「疲れたな」
 雲で隠れて少し暗くなっていて彰正はサングラスを外し、また走り出す。
「あれ? 軽いぞ!」
 しばらく経ちいつものように軽快に走れるようになる。
「あれ?やっぱり俺じゃない」
 自分の姿がガラスに映り、何より自分が運転していることに安心し、嬉しそうに感じる彰正だった。
 それから空は曇ったままで日が射すことはなかった。

 女の子の姿を見て彰正はやはり動揺を隠せない。しばらく週末に曇りや雨の日が続き、彰正はサングラスをかけずに出かけていた。
 しかしそんな週末も長くなく、真夏日が舞い戻ってカンカン照りの毎日に戻ってきた。
「暑いな・・・全く」
「ほんとね、何度化粧直しに行けばいいのか」
「そうなのか?」
 朝飯の時に朋美と話し、彰正は出かける準備をする。
「そうだ、あのサングラスかけてってよ」
「サングラス?」
「うん、日射し強いよ」
「あぁ」
 朋美からそう聞き、彰正の頭の中にあの女の子の姿がよぎる。
「どうしたの?」
「べつに」
 女の子の姿を思い出しただけで彰正は浮かない顔になっていた。
 彰正は女の子の姿が気になりサングラスを持っていくがかけようとはしなかった。
(なぜ?)
 なぜあの女の子が現れたのかわからないが、さすが彰正はかける気がしない
 だが、その日も日射しは強い。自転車で走っていて、サングラスをかけないわけにはいかなくなり彰正はサングラスをかけていく。
(やっぱり・・・)
 周りの彰正を見る目がこの前と同じだった。ガラス越しに映る姿もこの前の女の子だった。
(どうしてだろう・・・)
 彰正はそう頭の中で考えているうちに曇り始め、彰正は元の姿に戻りあの眼鏡屋の前にいた。
「そうだ!」
 自転車を店の前に止め、彰正は店に入る。
「いらっしゃいませ」
 彰正はすぐ、店員がいるとこまで行く。
「どうかしましたか?」
「いえ・・・」
 まっすぐ店員の所まで行ったがなぜか弱気になるのか、サングラスの話が出てこない。
「あの眼鏡の調子が悪くなりましたか?」
「え?」
 声をかけてきたのは法香だった。法香の声を聞き、安心したのか彰正は法香に話し始める。
「実は、このサングラスかけると・・・」
「やっぱり」
「え、やっぱりって?」
 突然法香の表情が変わり、何が影響しているのか気になる彰正も動揺する。
「実は、そのサングラスを男の人がかけると女の人が現れると返品されるんです」
「それをあいつが・・・」
「そういえば、お連れの方に話しましたが、このこと」
「妹にですか?」
「はい」
 その話を聞いて彰正も返品しようと考えていた。だが、返品した後であの強い日射しの中を何もしないで帰るわけにも行かず、彰正は周りを見渡す。
「なんか、俺に似合いそうなサングラスありませんか?」
「え?」
「これ、返品したら帰るときに困るから」
 法香も店から見える風景でわかり、彰正と一緒に探す。しかしいつもの彰正を見ている朋美が選ぶだけあって他に彰正が似合いそうなサングラスはなかった。
「どうします?」
「あの・・・」
 やはり彰正も原因がサングラスだとわかり、サングラスを返そうと考えていた。
「でも、どうして女の人が現れるんですか?」
「それは・・・」
「それは?」
「詳しいことは知らないのですが、このサングラスかけると・・・」
「それはわかってます」
 あの女の子がなぜ現れるのか知りたい彰正は法香の行動がよくわからない。
 店員が時計で時間を確認し、彰正と話す法香の元へ行く。
「高瀬さん、お昼です」
「あ、はい」
 法香は早々と話を終え、更衣室に行く。その前に法香は振り向き彰正に言う。
「夕方にまた来られますか?」
「え、夕方?」
「えぇ」
「はい」
 そう言い更衣室に姿を消していく。
 なぜ夕方なのかその後何があるのか彰正は街中を自転車に乗っていく。だがその後法香から予想もしないことを聞かされるのだった。
 彰正は街中を法香の言った夕方に店に来られるように自転車を走らせる。
「間に合うな」
 彰正は内心ドキドキしながらもウキウキしながら店に戻る。
「いらっしゃいませ」
 彰正は法香を探すが、いつもの法香はどこにもいなかった。
「よかった」
「え?」
「店の中だと話しづらい話なんです、あの話」
「そう?」
「だから、帰るとき話したかったんです」
 私服で現れた法香は店にいるときとイメージは違った。
 店を出て法香と一緒に歩く彰正はものすごくドキドキしていた。何を話してくるのか以前に、彰正は眼鏡屋に入ったときから法香に今と同じドキドキ感を感じていた。
「どうか、しました?」
「いや・・・」
 彰正は自転車をひきながら法香のことが気になっていた。
 2人が店から遠のき、商店街を抜けたとき法香が口を開く。
「いつも、この自転車乗ってるんですか?」
「いえ、いつもは車なんですが運動不足にならないために自転車を使って」
「そうなんですか?」
 そう言う法香に彰正は笑顔を見せながら歩く。
「それで、妹さんあのサングラスを」
「えぇ、俺はいらないって言ってたのに」
「お兄さん思いのいい妹さんじゃないですか」
「そうかな」
 彰正の話を聞いている法香に変化が起きる。
「あ、あのサングラスの話なんですが・・・」
「あ」
 彰正が一番聞きたかった話だが、法香の表情が曇る。
「あのサングラス、多分」
「え?」
「あのサングラス作った会社の人は変わった作り方をしてないと思うんです」
「でも、どうして」
「どこかの工程であのサングラスだけに・・・」
「あのサングラスだけ・・・他にはなんの変化も・・・」
「えぇ。うちの店に置いてある同じサングラスがあっても何も苦情こなかったんです」
 法香は不思議そうにその話を彰正にしていた。
 彰正はそんな法香の姿を見てますます法香に惹かれていった。

しかし日射しが強い日が続き、彰正の恋心とは裏腹にサングラスの対処法と言えば日射しの強い日に出かけないということだけだった。
「どうすれば、このままじゃ秋まで外に出られないぞ」
 そう考える彰正でただひとつ言えるのはあの眼鏡屋に行けば何かわかることだ。

つづく

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