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 AM・8:00、日曜日。斎木家、斎木竜矢の自室。
 竜矢は力なく床に突っ伏していた。
 それを冷ややかに見つめる目が二つ。
 斎木家次男・斎木達矢である。
「……なにやってんだよ、兄貴」
「達矢か……」
 体勢だけでなく声や表情も相当やるせない勢いで言葉を返す竜矢。
「昨日…アホ親父に『精神集中』のシゴキ受けてな…事あるごとに『心が乱れとる!』とか言って櫂で引っ叩きやがって……クソッタレ」
 達矢は、それは昨日の「煙草と一緒に顔まで吹き飛ばしました」事件の恨みも多分に含まれているだろうと推測した。
 特に口には出さなかったが。
「で、でもさ。いいよな兄貴」
 多少いたたまれない気分になり、話題の転換を試みる。
「何が?」
「何が、って……。瑠華姉ちゃんと相部屋だってこと! 羨ましーよな〜」
「そいつがベッド占領して、俺は雑魚寝ですよ。あ〜あ」
 再び床に塞ぎこむ竜矢。
「……そ、そういえば姉ちゃんは? ベッドの上にはいないけど」
 この重苦しい雰囲気を打破しようと、第三者に助けを求めようとしたが、生憎目的の人物は見当たらなかった。
「あいつなら風呂に行った。寝汗が気持ち悪ィんだと」
「フロ!?」
 あぁ、と竜矢は生返事を返した。
「俺はシャワー浴びるだけなんだけ……って」
 達矢の姿は跡形もなく消えていた。
「………知らねぇぞ」
 とだけ呟いて、読みかけのファンタジー小説に再び目を通す。
 活字だけを追いかけているので、内容が彼の頭の中に入っているかどうかは怪しいものだったが。
 それよりも、彼の脳裏には昨日の出来事がありありと映っていた。
 つい一昨日までは普通の男子高校生だったハズの彼が、朝起きたら隣に見知らぬ女の子が、しかもその女の子は自身の名前を『竜矢』と主張、更にその少女は自分が創造してしまった存在と、次々に衝撃が彼を駆け抜け、茫然自失のまま一日が過ぎてしまった。
 その「もう一人の自分」も、「なんか体がベタベタしてる」と、さっさと浴室に向かってしまった。
「はぁ」
 と嘆息し、身に入ってない小説を床に放った。
「極端なんだよ……」
 竜矢は一人ごちた。
 確かに「自分を理解してくれる女性が欲しい」とは思った。
 それは極端な言い方をすれば、という話で、「自分に理解のある女性」でも良かった。
 が、蓋を開けてみれば、天から授かった(実際は彼の御業なのだが)ものは、自分自身の性格と記憶を受け継いだ少女だった。
 確かにこれほど自分に理解のある女性は他にはいないだろう。自分に振り向いてくれるかどうかは別問題だが。
 ちらり、と腕時計を見た。
「随分経ったよな……」
 瑠華のことだ。
 流石にこれだけ時間が経てばもう上がっているだろうと思う竜矢。
「俺もシャワー浴びっかな」
 と、ちょうどそのとき一階から声がした。
「兄貴ー? 兄貴もフロ入っちまえばー?」
「…………」
 彼はその言葉に甘えることにした。



MAGICAL TWINS

作:MUCK

〜第2回〜
「俺とオレは一心異体」


 同時刻。斎木家、浴室。
 キュッ、とシャワーの栓を締めると、
「ふうっ」
 と一息つく少女の姿があった。
 斎木家長女、斎木瑠華その人である。
「なんでこんなことになっちまったんだ」
 濡れた髪をタオルで拭く仕草は正に美少女のそれであるが、彼女の心は女性の物ではなかった。
 つい一昨日まではただの男子高校生だったハズの彼女が、朝起きたら体は女性に、しかも隣に寝ていた男は自分そっくり、更に自分はその少年によって創造された存在と、次々に衝撃が彼女を駆け抜け、茫然自失のまま一日が過ぎてしまった。
 もう一人の自分も、「女の子ほっといて自分だけベッドで寝るわけにはいかない」とベッドを明け渡し(ちなみに瑠華はこの時竜矢を相手取り『自分は男だ』との訴えを起こしたが、十数分に渡る口論の末敗訴した)、さっさと就寝してしまった。
「はぁ」
 と嘆息し、湯船に身を沈める瑠華。
「これからどうなっちまうんだろ……」
 昨日はトントン拍子に話が進んで、自分の意見を挟む余地は与えられなかったのだが、今となっては少し後悔している。
 彼女の中の竜矢としての記憶が、「母さんは放っておくとどんどんヒートアップするぞ!」と警鐘を鳴らしていたが、その忠告に耳を貸せる様な心理状態ではなかった。
 あまりに常軌を逸していたからだ。
 竜矢の創造(妄想?)物であるらしい自分をあっさり『娘』と認め、あまつさえ竜矢と同室にしてしまうなど、並の精神力の持ち主では成せるはずもない所業だ。
「絶ッ対、母さんの趣味も入ってるよなー…」
 と、彼女は信じて疑わない。
 ザッ、と湯船から上がり、軽く体を拭きながら、バスタオルを体に巻きつける。裸身を晒すことに何故か抵抗を感じたからだ。
 ドアノブに手をかける。
「極端なんだよ……」
 と、脱衣所への扉を開けながら呟いた。
 確かに「自分を理解してくれる女性が欲しい」とは思った。
 それは極端な言い方をすれば、という話で、「自分に理解のある女性」でも良かった。
 が、蓋を開けてみれば、天から授かった(悪魔のイタズラかもしれない)ものは、身体の女性化という結果だった。
 確かにこれほど自分に理解のある女性は他にはいないだろう。なにせ自分自身なのだから。
「やっぱり、オレにはどうすることも出来ないのかな…」
 との結論に至り、着替えに手を伸ばそうとした。
 が。
「コレを……穿くのか……?」
 男性用のトランクスと較べて、随分可愛らしい下着ではある。
 男の意識が残っているからか、この下着を着用するのに抵抗感がかなりある。
 しかし、この試練を乗り越えなければ脱衣所から外に出ることは許されない。
「…………!」
 意を決し、ショーツに足を伸ばそうとした瞬間。
 ガチャ、と不意に脱衣所のドアが開けられた。
「えっ………!?」
 そこに立っていたのは彼女の創造主、竜矢だった。
 たっぷり15秒間ほど硬直してから、瑠華は胸の奥にある感情が湧き上がるのを覚えていた。
 公衆の面前でいきなり転倒してしまい、自分の醜態を衆目に晒すハメになったときにも似た感情。
 つまり、羞恥心。
「ッ……!! 何見てんだ! さっさと、出てけーっ!!」
「うわあっ!? す、すまん!」
 バタン! と勢いよく脱衣所のドアが閉められ、瑠華一人だけが残された。
 壁に背を預けてぺたんと床に座り、
「なんなんだよ、もう……」
 と、真っ赤な顔で呟いたのだった。







 AM・8:06。斎木家、リビング。
「母さんっ! 瑠華っ……もう風呂から出たって言ったじゃないか!」
 竜矢は母親の恭香につかみかかっていた。
「ええ、言ったわよ?」
 浴室からはね、と小さく付け足した。
「母さんの所為で、俺、エライ目に遭ったんだぞ!」
「オイシイ、の間違いだろ? まさか兄貴にあんな度胸があったなんてなぁ……」
 ぷくく、と達矢は口元を押さえた。
「まぁまぁ。いいじゃない? 『ドキッ☆お風呂で遭遇ハプニング』は基本中の基本なのよ?」
「何の基本だよ!!」
 竜矢は達矢と恭香が共犯だと悟った。
「あ、出てきたみたい」
「すこし時間かかったわね……、受け入れるのにはやっぱり時間かかるかしら」
 と、訳のわからないことを呟いた。
「瑠華……」
 竜矢の視線に気がついた瑠華はフイ、と視線を逸らした。
「…………」
「さて、面子も揃ったことだし、出かけましょうか」
「「どこへ?」」
 一人は単純に、もう一人は分かってはいるが確認の意味を込めてといったニュアンスで言葉を返した。
「……怒るわよ? るぅちゃんの日用品を買いにいくって言ったじゃない」
「…………」
「…………」
 沈黙。
…お前のことだよ
「あ」
 竜矢に指摘されて瑠香は「るぅちゃん」というのが自分のことだと思い立った。
「で、るぅちゃんとりゅーちゃんは強制として、たっちゃん、あなたも行く?」
「俺?」
 達矢は自分を指差した。
「残念だけど、俺友達ンとこに泊まりに行くから、行かね」
「あら。じゃぁ、早速行きましょう…と言いたい所だけれど、今の時間まだデパート開いてないのよね」
 竜矢と瑠華は同意を示した。
「その間やる事ないから暇なのよね。そうだ、る〜ぅちゃ〜ん?」
「な…なに?」
「貴女に、メイク術といふものをレクチュアしてあげるわ〜?」
 ぞくっ。
 何故か瑠華の背筋に寒いものが走った。
 竜矢に視線で助けを求める瑠華。
「りゅーちゃんは小説とっとと読んじゃいなさいよ?」
 ヲホホホホホーっと怪しい笑みを浮かべながら瑠華を引きずり洗面所へと消えていった。
「……部屋に戻るか」
 と、竜矢は二階への階段を上がっていった。




 三時間後。
 四冊目の読書を終えた竜矢は、壁時計を見て一言。
「まだ何かやってんのか、母さん」
 小説を床に置き、部屋の扉を開け、リビングに向かう竜矢。
 トントントントン、と階段を下りてリビングのドアを開けると、竜矢は絶句した。
「……それ、誰?」
 竜矢は彼の記憶にない少女に指を差した。
「な〜に言ってるのよ。正真正銘、るぅちゃんよ?」
 再び竜矢はあんぐりと口をあけた。
 竜矢の目の前に現れた瑠華は、さっきまでの男っぽいイメージが取り払われ、正しく女の子していた。
 竜矢の時よりも伸びた髪はヘアピンで纏められている。
 女性となって白くなった肌はメイクで整えられ、口元には薄めのピンクのルージュが光っていた。
「どーお〜? お母さんのウデもなかなかのものでしょ〜?」
 ふふんっ、と胸を反らす恭香。
「やっぱり素材がいいとね、映えるものなのよ」
 竜矢からの返答はない。
 彼の視線は一ヶ所に固定されている。
 それを見た恭香は、意地悪い笑みを浮かべた。
『面白い物見つけた!』って時の子供の顔だ。
「あら? そんなに綺麗になった? ずいぶんと見つめちゃって」
 はっ、っと我に返る竜矢。
 照れ隠しにあさっての方向をむく。
「ま、(竜矢をからかうのは)これくらいにして。行きましょうか! さ、乗った乗ったぁ!」
 と、二人を車に押し込んだのだった。






 AM・11:25。新座市、国道沿いの道。
 斎木宅は、JR新座駅より離れた、郊外にあるので車を走らせても都市部には少しかかる。
 竜矢は少し心の中に引っていたことを打ち明けた。
「母さん…『魔法』って、術者の心しだいで何でも出来るって言ったよな」
「ええ」
「死者蘇生、って出来るのか?」
 瑠華は竜矢の横顔を見つめた。
 一瞬の躊躇の後、口を開く恭香。
「できるわよ」
「……マジ?」
「マジ。精神体に残る情報を解析して、肉体を再構築。精神を肉体に繋ぎとめて固着させるの。記憶も再生することになるから、かかる魔力は莫大通り越して絶大ね。そんなことをやったら、並の術者は勿論、上級者がやっても力の放出に耐えられないでしょ。仮に成功したとしてもまず術者の絶命は免れないわ」
「自分の命を引き換えに、ってことか」
「そうね。だから『反魂の秘法』なんて呼ばれてるの。でも、あなたがやったのは……」
「え?」
 は、と恭香は息を吐いた。
「なんでもないわ? しっかし、何から揃えようかしら。いろいろ必要よね……私服とか…」
「私服?」
「制服も買うのよ。転入手続きも済ませてあるから……教科書も揃えてあるし」
 竜矢と瑠華は母親の言葉が理解出来ず、しばし意味を噛み砕いた。
 で。
「えええええええええええええっ!??」
 狭い車内に絶叫が響いた。
「お、俺の通う新座市立新座第三高等学校っスか!?」
 思わずフルネームだ。
「そんなに驚くことないでしょ? 戸籍謄本にもちゃ〜んと記載されてるわよ? あなたの名前」
「え、だって、昨日の今日で……!? いくらなんでも早すぎるよ!?」
「『まほー』ってのは便利なのよ」
 そういわれると、何も言い返せなくなった。
「あ、ほらほら。見えてきたわよ」
 恭香は目の前の建物を指差した。




 PM・6:32。新座市内、デパート『ALTANA』。
「やーっぱりスタイルいいわねー♪ お母さん羨ましいわー☆」
「か、母さんっ!」
 頬を染める瑠華。
 竜矢はそっぽを向いて聞こえない振りをしている。
 両手にはどっさりと荷物がぶら下がっていた。
 あれから瑠華は恭香に散々あちこち連れまわされ、着せ替え人形と化していた。
 恭香の表情ときたらそれはもう新しい玩具を与えられた子供のような表情で、派手な柄のトップやらシックな色合いのスカートやら、とにかく色々と試していた。
 恭香に逆らっても無駄なことは最初の一回で散々思い知らされたので、瑠華は抵抗しないことを決め込んだ。
「さて、ここでいいわ。あとは二人で楽しんでらっしゃい」
 恭香は竜矢から荷物を譲り受けた。
「二人…って?」
「そ。これ」
 恭香は竜矢に何かを握らせた。
「これ…って、一万円? こんなの、何に使えってんだよ」
「食事でも行ってきなさい。あ、ちなみに母さん、今夜龍人さんと映画の約束があるから。このままうちに帰っても玄関開いてないわよ? たっちゃんも泊まりだしー?」
 絶句する二人。
「じゃ、しっかり親交深めてきなさい? じゃあねー♪」
「えっ……速っ!?」
 恭香の姿はもう見えなくなった。
 呆然と取り残された二人。
 お互い顔を見つめ合う。
「どうするんだ……?」
「ここにいてもやることねぇしな……」
 とりあえず、二人は繁華街に出ることにした。






 PM・6:48 新座市内、駅前繁華街。
「なぁ」
 唐突に瑠華が口を開いた。
「………?」
「アンタ、オレの事。どう思ってんだ?」
 いきなりといえばいきなりな質問に、竜矢は戸惑った。
「えっ、いや、どう思ってるって言われても……どうって…」
 しどろもどろだ。
「アンタにとってオレは、家族が一人増えた、ってだけなのかも知れないけど……オレは、オレは一昨日まで確かに『斎木竜矢』だったんだ。だけど、こんな事になって…」
 上目遣いに竜矢を見上げる瑠華。 「…俺は……」
(それでも、俺は……)
 くい、と竜矢のシャツの裾が引っ張られた。
「?」
「あそこ。入ろうぜ」
 瑠華の視線の先にはファミレスの明かりが灯っている。
「……ああ」
 二人は連れ立ってファミレスに入った。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
 ウェイターの男性が竜矢に声をかける。
「二人」
 ぶっきらぼうに話す。
 少しムッとしたのか、ウェイターは竜矢に近づきこんな事を囁いた。
「(可愛い娘じゃない。アンタの彼女ぉ?)」
「え、あ、いや……」
 先程までの凛々しいテノールの声で女性らしい口調を話され、竜矢は大変困惑した。
 その反応にウェイターは「かわいいトコあるじゃなぁい」といった様子で、
「さ、お席へどーぞ」
 と、二人を引率した。




(彼女、彼女か……)
 竜矢は先程ウェイターに言われた事を気にしていた。
(俺は……本当はコイツのことを、どう思っているんだろう?)
「……い」
(でも、コイツが俺の分身…だったとしても)
「……おい」
(それでも俺は、コイツの事を、瑠華の事を女の子としてしか見れないのかもな) 「おい!」
「!?」
「…ったく、何頼むんだよ? ほら」
 と、メニューを差し出す瑠華。
「……俺はいいよ。水で…」
「じゃぁオレもそれでいいよ」
 注文を取りにきたウェイトレスの顔が引きつった。
「……」
「……」
「それじゃここに来た意味がねーだろうが…」
「………」
 結局二人は、サーロインステーキを頼んだのだった。






 PM・7:24。新座市、駅前公園。
「うぷ」
「無理して食うからだよ」
 瑠華の背中をさする竜矢。
「いつも食ってたステーキ、あんなに多いとは思わなかったんだよ……」
 彼女は男性のときと較べて体格的に減少している。
 180近くある身長もいまや10cm以上も縮んでしまった。
 そのお陰で彼女は最初視点の変化に大変困惑したのだが……。
「胃袋も小さくなってるって訳か」
 ザッ……。
「……!」
 竜矢は複数の足音を聞き取った。
「へぇ〜。いいんじゃない? いいんじゃない?」
「だろ? カワイイっつったべ?」
 どうやら後を尾けられていたらしい。
(1…2…3…4…。8人か。1対8、少しキツイか?)
「つーことでさ、オジャマ君にはとっとと退場してもらってびゅ!?
 竜矢の靴底と熱いベーゼを交わすニット帽の男。
「テメェ!!」
「瑠華ッ! 逃げるぞ!!」
「えっ? うわっ!!」
 瑠華の手首を捕まえ、一斉に走り出す竜矢。
「待てゴラァッ!!」




「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
 夜の静寂を慌しい靴音が壊していく。
「イワすぞ、コラ!?」
 追手はもはや何をしゃべっているのか理解に苦しむが、竜矢は冷静に状況を整理していた。
(追手の人数が増えてる……仲間呼びやがったな?)
 自分の手の先の瑠華の様子を確認する。
「はあっ、はあっ、はぁ……」
(瑠華の体力もそう持たない……しかも、追い込まれてるな、こりゃ)
 と、曲がり角を曲がり、すこし直進したところで、竜矢は急に立ち止まった。
「袋小路……!」
「行きっ、はあっ、止まっ、りぃ……?」
「瑠華、大丈夫か?」
 どう見ても大丈夫には見えないが、一応聞く。
「はあっ、はあっ、はぁ……」
 竜矢はその酸素を求め喘いでいる姿を答えとして受け取った。
「よ〜やっく追い詰めたぜぇ? イキのいーことしてくれちゃってぇ」
「ヤローの方はボコで決まりだな。でよ…?」
「そりゃ、決まってんべ?」
 男たちの下卑た笑いが響く。
「ちっ……!」
「オラ、死ねぇ!!」
 二人が竜矢に襲い掛かる。
 しかし。
「ぷげっ!?」
 左の男が放った右ストレートをカウンターで顔面に合わせ、
「おわっ!?」
 バランスを崩した男を、もう一方の鼻ピアスの男に向けて突き飛ばし、
「おぶっ!!」「ぎゃっ!!」
 鳩尾を蹴り飛ばして二人まとめてコンクリート壁に叩きつけた!
「………」
 二人がかりでなすすべもなく沈んでいった二人を見やり、先頭のボスらしき男が苦虫を噛み潰したような表情になった。
(このままじゃ埒があかねぇ……こいつらまとめてブッ飛ばせるような物は……)
 周りを見回す。
 武器になりそうな物は無かった。
「竜矢!!」
(えっ!?)
 反射的に後ろを振り向く。その声は確かに後ろから聞こえてきた。
「前見ろっ、前!!」
 瑠華の忠告通り正面を向く。
 先頭の男は刃渡りが掌から肘ほどまであるナイフを手に持っていた。
「どぉーも、少しはケンカ出来るみたいだねぇ? でも、さすがに丸腰じゃ、分が悪いんじゃないかなぁ? この人数だし?」
「ブッ殺せぇ!!!」  周りの取り巻きは既にギャラリーと化している。
 しかし、竜矢はあるひとつの結論を導き出していた。
(そうだ……!)
 ナイフの男は、ゆっくりと竜矢に向けて歩を進めている。
(武器がないなら…創ればいい!!)
 男は、ナイフを振りかぶった。
「瑠華ぁっ! 伏せてろ!!」
 と、竜矢はいきなり両手を天に振りかざした!
 瑠華は勿論、男もその行動が理解できず、一瞬立ち止まった。
(こいつらを一瞬で黙らせるようなもの……! 出来て当然ッ! 出て来いッ!!)
 一秒。
 二秒。
 竜矢は両手を振りかざしたまま固まった。
 三秒。
 四秒。
 五秒経っても何も起きなかった。
「な、なんだ? ハッタリぃ? それじゃぁ、遠慮なく……!」
 と、男は腕に力を込めた。
 次の瞬間!
 ゴガガガガガガガガガガガガァァン!!!
 アルミの板に、思い切り頭突きをしたような音が複数鳴り響いた。
「……!?」
 土煙が晴れると、男たちが無数の生活用品の下敷きとなって昏倒していた。
 金ダライの下で。
「…………」
 竜矢は両手を広げたまま、間抜けな格好をして立ち尽くしていた。
 確かに敵勢力は全滅した。
 だが、瑠華は小さい頃に見たコントのオチの風景を思い出していた。
「…………ぷっ」
 こうして、竜矢の記念すべき実戦での始めての魔力行使は、『高空から無数の金ダライを降らせる』というものになったのだった。






 PM・9:17。斎木家、玄関。
 あのゴタゴタに巻き込まれ、家に帰るのは予定よりも遅くなってしまった。
「ただいまー……」
「あらお帰り、遅かったわね」
「ちょーっとね、面倒ごとに……」
 瑠華の頬がつりあがった。
 ニヤリ、の顔だ。
「それでさー、母ーさーん……むぐっ!?」
「あ、あはははは。それじゃ、俺達自分の部屋に行くから。ははは」
 竜矢は瑠華の口を押さえたまま、二階へと引きずっていった。
「あの子達、いつの間にあんなに仲良くなったのかしら? ねぇ、龍人さん?」
「……あぁ」
 恭香に意見を促されるが、今日見させられたベタ甘の恋愛映画に、多少辟易気味なご様子の龍人だった。




 ドサッ、とベッドに腰を下ろす瑠華。
「しっかし、『魔法』ってのは便利なものだったんだなー?」
「…言うな」
 すっかり元気をなくした様子の竜矢に、少しバスの中でからかいすぎたか、と反省した。
「でも……、まぁアンタのお陰で助かったよ。ありがとう…」
「瑠華……」
 お互い見つめ合う二人。
 瑠華は照れくさいのか、視線を下に落とした。
……ぷっくくくく…………
 かに見えた。
「笑うな!」
「わ、笑ってねぇよっ、あはははははははっ!」
「笑ってんじゃねーかっ!!」
 竜矢は瑠華に踊りかかった!
「わっ!や、やめっ!」
 がちゃ。
「二人ともー? お風呂出来たから、どっちか先…に……」
 恭香は見てしまった。竜矢が、瑠華をベッドに押し倒している光景を!
 しーん。
 静寂が訪れた。嵐の前の。
「りゅーちゃん? 不純異性交遊は、親の目の届かないところでしなさいね?」
 ぱたん。
 ドアが閉められた。
 二人にとって、まるでそれは審判の門が閉じられたかのように見えた。
「ちっ、違うんだ、母さんッ!!」
「そうだよ! ってか、話を聞いてよ!」
「「誤解だぁぁあぁあっ!!」」
 こうして、夜の静寂を息の揃った悲鳴が切り裂いていくのだった。

 つづけ。



【あとがき&偽予告】

 やっと完成しました。第二話。

 これで導入部(一応)は終了し、次回から二人は一緒に学校に通ってもらうことになります。

 そう! 無茶が出来るのは次回からなのですよ〜♪

 一応の新キャラクターも用意してありますし、トラブル必至のツインズなのです!(何だそれは)




「君たちに、最新情報を公開しよう!」

 ついに決戦の舞台、学校に赴くことになった斎木瑠華!

 果たして、瑠華はクラスメイトに受け入れられることが出来るのか!? その時、竜矢は!?

 答えは、「お約束」だけが知っている!(笑)

 次回、M・T第三回、 「気がつけば『お約束』?」 に請うご期待っ!


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