戻る


Welcome to「Wonderful Magical」
1:開店でーす
作:DEKOI



◇開店準備中で〜す◇
 
「うにゅにゅ。こんなもんかな〜。」
 店のレイアウトを終えて彼は1人呟いた。
 身長が60cmくらいだろうか。目がクリクリして、更にホッぺがプニプニしているみたいで反則的に可愛らしい男の子だ。
 子供はピンクのエプロンをして三角巾をつけ、手にはたきを持っていた。どうやら掃除中のようだ。
 入り口側を除く店の壁には棚が設置されており、中にはラベル付きの瓶がぎっしりと詰まっている。瓶の中に入っている液体の色は無色透明も多いが、ピンク色や緑カビ色や青カビ色や赤カビ色や錆の色といった見ているだけで不安になってくる物もけっこうある。
 店内の中央にはでっかい机が置いてあり、色々と置いてあった。ただほのかに青白く光る円錐の置物はともかくとして蝿の形をして「ワンワン」鳴いている置物や、数本の針金がぐちゃぐちゃに溶け合っている置物といった利用用途が不明な物ばかりだ。
「さ〜て、今日から開店だな〜。お客さん来るかな〜。」
 男の子は店のドアの鍵を開けながら明るく呟いた。
 
 
◇お客様で〜す◇
 
 あたしは下校中、友達と別れてから1人悩んでいた。
 おっと、忘れてた、自己紹介をしなくちゃね。伊藤 美佳子。花も恥じらう(と思う)吉澤高等学校の2年生、ようするに女子高校生だ。
 この悩みだけは友達はもちろん親にも打ち明けていない。いや打ち明けたとしてもどうしようもないのだ。それでいて絶対にこの悩みをあたしは解決したかった。
 ・・・・・・あ〜ん? 何を悩んでるだってぇ?
 五月蝿いな、これはあたしの問題であって・・・え、一応言ってみろ?
 わかったわよ、言うわよ。
 
 あたしゃ胸が大きくなりたいんじゃ〜〜〜〜〜〜!!!!(魂の叫び)
 
 あたしの身長は190cmを超えている。自分で言ってなんだが背は高い。女子バスケ部に所属していて一応レギュラーだ。身長を利用してのダンク・シュートだってできる。殆どの男を見下ろす事になっているがまぁそれほど気にしてはいない。身長の事は。
 ところが胸があたしには全っっっっっっっっっっく無いのだ。友達曰く『カルデラ盆地よりも抉れている』『アフリカの大平原よりもなだらか』と言わしめる程のまったいら。この身長でバスト70cmジャストとはどーいう事だ。つうかブラがいらない、マジで。つけてもずれてくるし。
 1日5リットル牛乳飲んでも、吸盤くっつけて胸を引っ張っても、プロテイン飲んでも全然全く少しも1mmたりとも大きくならなかった。つうかプロテインは失敗だった。逆に筋力つきまくってしまい握力が80kg近くまでアップする始末。
 あたしはバスケをする為に髪をショートにしている。そんでもって生来のつり目の持ち主だ。負けん気が強くて男にだって平気で拳をだす。時折蹴りもしたが。その結果つけられた渾名が「吉澤の裏番長」と「吉澤組のアンドレ・○・ジャイアント」。
 ふざけんな、あたしゃはか弱い乙女・・・・・だと思います、ハイ。1年生の頃は『絶対に彼氏を作って学園生活を満喫するぞ!』、と誓っていたのに今現在あたしの周りにいるのは舎弟を自負する野郎共と御姉様と言ってつきまとって来る百合っ子ばかり。
 この前あたしのあこがれの人である池垣先輩に『君なら自分1人でどんな状況化でも生きていけそうだねぇ』と脅えた視線で見上げられた時は学校の屋上から飛び降りようかと真剣に思ったくらいだ。
 身長はどうしようもないし顔もしょうがない。これらは諦めるしかないだろう。だがせめて胸は・・・胸だけは! なんとか大きくしたいのよ〜〜〜〜〜!!!
 あたしは自分で言ってなんだがどんよりとした雰囲気の中1人肩を落としながら歩いていた。
 
 しばらくしてあたしは知らない道を歩いているのにやっと気がついた。どうやら物思いにふけすぎて道を誤ったようだ。
 あたしは周りを見渡したが辺りはよく似た家ばかりで目印となる所がまるでない。あたしは途方にくれてしまった。
 しょうがないのであてもなく歩いてみる事にした。下手に動くのは危険かもしれないが動かないでいるのも馬鹿馬鹿しい。
 何度目かの曲がり角を曲がっていると、行き止まりについてしまった。そしてそこにその建物はあった。
 その建物を見た瞬間あたしの目は点になった。それほど奇抜、というより怪しげな建物だったからだ。
 外観はハッキシ言おう。キノコだった。しかも現実にあるキノコではない、漫画とかに描かれているような妙なキノコ。ピンクの下地に赤の斑がファンシーすぎて逆に毒々しい。
 ドアの上には可愛らしいポップした文字で「Wonderful Magical」と書いてある。どうやらこの建物はお店のようで、この名前が店の名前のようだ。
 あたしもそれなりの人生送ってきたけどここまで怪しい建物は始めてみる。絵本の中から飛び出してきたような可愛らしい建物、と言うべきかもしれないが実際目にすると異様なプレッシャーを放ちまくっている。
 しかしその思いとは裏腹に何故かあたしはこの建物に入ってみたくなった。怖い物見たさ、といったところか。
 ドアを開けてみた。ドアの上部に備え付けられている鈴がチリンチリンという音をたてた。あたしは意を決してドアをくぐった。
 
 建物の中は外見とは違って思いのほか広かった。壁一面には棚が立てかけられていてたくさんの液体入りの瓶が置いてある。妙に毒々しい色をしている物が多い気がするのは気のせいデスカ?
 床には大きなテーブルが1個ある。テーブルの上には変な物がたくさん置いてあった。
 具体例をあげれば手に取ろうとすると『でろりあ〜ん』と音をたてる銀色の肌のフランス人形。
 微妙に歪んだ白い正方形の置物。中を覗いてみるとストーンサークルと思わしき風景が映っている。
 多数の目で形成されたオブジェ。あたしの動きに合わせて瞳孔が動く。
 シャープペンの半分程度の大きさしかないカタカタと震えている日本刀。ちなみに抜けなかった。
 他、etc、etc。
 はっきしいって不気味な物だらけ。なんなのよこのお店は?
 あたしは薬品棚の方に目を向けた。瓶にラベルが貼ってあり、薬品の名前が書いてある。
 ・・・・あるんだけど怪しい名前だらけねぇ。
 『性格変換剤(お淑やかな少女)』。あ、なんか欲しい気がする。
 『Body Changer(Cat Lady)』。・・・・猫娘? ちょっとだれが欲しがるのよこんなの。
 『性別ホルモン転換薬』。なんか見ているだけで怪しげな効果がありそうな名称ね。
 『頭が良くなる薬(副作用大いにあり)』。どうな副作用よ、言ってみろコラ。
 怪しいだけでなく本当に効果があるのか疑いたくなる薬だらけ。一体なんなんなのよ、これらって。
 とは言え見ているだけでも結構飽きないのも事実だった。あたしは薬を順々に見ていった。
 『ペルソナ発現薬』
 『若返りの薬(副作用あり)』
 『全身脱皮薬』
 『豊胸剤』
 ・・・・・・んん?
 あたしは思わず目をこすった。そして半ば血走った目でもう一度見つめ直す。
 
 『豊胸剤』
 
 間違いない。そう書いてある。
 
「なにいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!???」
 
 あたしは口から知らずうちに絶叫を迸り上げていた。
 まさかまさかまさかまさか。いやそんなご都合主義的な薬なんてある訳ない。あたしの理性がそう告げた。
 しかしあたしの目はその薬に釘付けになっていた。
 『豊胸剤』。なんて甘美な響き。もし本当ならまさしく人類の夢と希望が詰まった薬といって間違いがないだろう、多分。
 その名称がつけられた瓶の中身は牛乳のように真っ白な液体だった。ちと怪しげだが何となく信憑性も沸いてくる色でもある。
 あたしは思わず夢の薬に手を伸ばし始めた。
 
「いらっしゃ〜〜〜い。」
 
「おひょおおおおおぉぉぉぉ!!??」
 
 不意打ちよろしく後ろからあがった声にあたしは奇妙な悲鳴をあげつつ跳び上がった。
 振り返ると誰もいなかった。あれ?
 
「なにが欲しいのかな〜〜〜〜?」
 
 間延びした舌足らずの声があたしの下から聞こえてきた。
 下を向いてみると1人の子供があたしを見上げていた。
 5才くらいの男の子かな? 大きくてつぶらな目がクリクリと動いている。ほっぺたもブックリとしていてさわったら気持ちがよさそう。メチャメチャ可愛い顔した男の子は白いエプロンをかけていた。
 うわ、めっさぷりてい。
 
「おねえさん〜〜? なにをしているの〜〜〜〜??」
 
 ハッ。
 気がつくとあたしはいつの間にやらしゃがみこんで男の子の頭を撫でていた。
 だってこの子滅茶苦茶可愛いんだもん。こんな行動を本能的にしたって誰も文句は言えないわよね。
 コホン。一回わざと咳をして気持ちを切り替える。そうしてからあたしはしゃがみこんだまま男の子に笑いかけた。
 
「坊や、ここのアルバイトさん? できれば店員さんを呼んで欲しいんだけど。」
 
「ボクがこのお店の店長です〜〜〜。御用があるならボクに言って欲しいの〜〜〜〜。」
 
 え、この子がお店の店主? 嘘ぉ、だってあたしの身長の3分の1くらいしかないじゃないのこの子。
 そんな子がお店を経営できる訳がない・・・と思うけどこの店の怪しさから考えるとあり得そうな気がしない訳でもないから不思議。
 
「おねえさんは〜〜なにを悩んでいるのですか〜〜〜〜?」
 
 ぎくっ。なんでこの子あたしが悩んでいるのがわかったのよ。
 
「このお店は〜〜〜、取り扱っているお品物の〜〜〜便宜上〜〜〜真剣に〜悩んでる人しか〜〜〜入れないようになっているんですぅ〜〜。」
 
「はあ〜〜〜そうなんだ〜〜〜〜。」
 
 あぅ。この子の口調が移っちゃった。どうでもいいけど、この子ってやたらと間延びした声をだすわね。
 男の子はあたしの身体をジロジロと見だした。そして何かに納得したのかニッコリと笑う。
 ううううう、凶悪なスマイルぅぅぅぅぅ。超かわゆいすぎるーーー。
 あたしは欲望にまかせて男の子を抱きしめようとするのを辛うじてこらえた。
 
「おねえさんは〜〜胸がないのを〜〜気にしているのですね〜〜〜〜〜?」
 
 ザクッ!
 
 あたしを心臓に包丁でも突き刺されたような感覚が襲った。
 ちょ、ちょおおおっと傷ついちゃったかなあぁぁぁぁぁ?
 可愛い笑顔でエグイ事を言ってくれるわね、坊や。
 
「あはははは、何でそんな事を思ったのかな?」
 
「だってぇ〜〜〜、制服の上から見てもぉ〜〜〜、胸がないのが〜〜〜わかっちゃいますよ〜〜〜。思わず〜〜〜女装を〜〜〜しているのかと〜〜〜思いました〜〜〜〜。」
 
 ズドッ!
 
 あたしの心臓を銛が貫通したような感覚が妙にリアルに襲いかかった。
 あははははは、ちょぉぉぉぉぉぉぉとばかし殺意が込み上げてくるのは気のせいかなあぁぁぁぁぁ?
 
「それに〜〜さっきから〜〜『豊胸剤』を〜〜じっと見てましたから〜〜、そうじゃないかな〜〜〜と思ったんですぅ〜〜〜。」
 
 うう、そんなに凝視してたのかしら? まあ興味を持ったのかは確かだけど。
 まあいいや、ばれているんなら開き直って聞いてみよう!
 
「坊や、あの薬って本当に効果あるの?」
 
「わかりません〜〜〜〜。」
 
 はい? やっぱり効果がないって訳?
 
「あのお薬は〜〜〜女性専用なんです〜〜〜〜。ボクは直接使った事ないから〜〜〜わからないんです〜〜〜。」
 
 ああそういう事ね。納得。
 男の子の手にはいつの間にか1つの瓶が握られていた。ラベルには『豊胸剤』と書いてある。
 あたしはびっくりして後ろの棚を見た。さっき置いてあった『豊胸剤』が無くなっている。ええ? いつの間に?
 
「このお薬が〜〜欲しいのですね〜〜〜〜?」
 
「そ、そうね。できれば欲しいけど・・・・。」
 
「う〜〜〜〜ん。実はこのお薬とっても高いんです〜〜〜〜。」
 
 顎にひとさし指をあてながら首をかしげる男の子。うううううう超絶きゃわいいいぃぃぃ。押し倒したいぃぃぃぃぃ。
 ハッ。いやいやいけない、正気を保たないと。
 
「その薬って高いの?」
 
「はい〜〜〜〜。材料費が〜〜〜かかるんです〜〜〜。具体的に〜〜言いますと〜〜〜100ml作るのに〜〜金塊が1キロと〜〜真珠の粉が800グラムに〜〜深層海水が50リットル〜〜〜、それから〜〜〜」
 
 あーもういいです。聞いてるだけで頭が痛くなってくる。
 うう、悔しいなぁ。バイトもしていないあたしじゃあ手がだせないんだろうなぁ。
 あたしはちょっと落ち込んでしまった。とほほほ、藁をも掴む気分だったのになー。
 
「あの〜〜〜ですね〜〜〜〜。」
 
 男の子が落ち込んで肩を落としているあたしに声をかけてきた。
 
「うん? なあに?」
 
「おねえさんは〜〜このお店の〜〜開店してからの〜〜お客さま一号なんです〜〜〜。だから〜〜特別に〜〜このお薬を〜〜サンプルとして〜〜プレゼントします〜〜〜。」
 
 男の子の言葉にあたしの視界がパアアアッと開けたような気がした。意識せずに顔に笑みが浮んでくるのがわかる。
 
「ええええええ!? 本当にいいの?」
 
「はい〜〜〜。ですけど今回だけですよ〜〜〜。次回からはお金を貰いますからね〜〜〜。」
 
 男の子はあたしに薬を手渡してくれた。
 うおぉぉおぉぉぉぉぉらっきいぃぃぃぃぃ!
 これで豊満な胸があたしの物に! 効果が本当にあるかわかんないけど!
 
「これは注意事項です〜〜〜〜、しっかりと守って下さいね〜〜〜〜〜。」
 
 男の子はポケットから紙を1枚取り出してあたしに渡した。
 何やらごちゃごちゃと書いてあるけど・・・まあ飲む前に確認しておこう。
 
「ありがとうね! 早速試してみるわ!」
 
「は〜〜〜い。追加注文する時は〜〜また来て下さいね〜〜〜〜。」
 
 男の子は手を振りながらあたしを送り出してくれた。
 あたしは店を出て家路に着こうとした。
 5分ほど歩いてからあたしはどうしてあの店による破目にあったのかやっと思い出した。
 
「ええっと、どうやって帰ればいいのかな?」
 
 結局あたしが家についたのはそれから2時間後の事だった。
 
 
◇使用上の注意はしっかりと守って下さ〜〜い◇
 
 あたしはお風呂を出ると私室にある机に『豊胸剤』を置き、セットになっている椅子に腰掛けた。
 目の前にある『豊胸剤』と書かれたラベル付きの瓶を凝視する。およそ3リットル入りの瓶に白濁した液体が一杯に詰まっている。見ているだけで顔がにやついてくる。
 早速飲もうかと思ったけど念の為に注意事項を確認しておいた方がいいだろう。
 あたしは男の子が渡してくれた紙を取り出した。
 えーっとなになに?
 
 1:この薬は女性専用です。男性が飲むとどんな副作用が生じるか予想もつきません。男性は絶対に飲まないで下さい。
 
 のっけっから怪しい文章ね。どんな副作用がでるか興味あるけど飲ませない方が良さそうね。
 
 2:この薬は100ml辺り0.5cm胸を大きくする効果があります。ただし1日に摂取する量は200mlまでにして下さい。過剰に飲むと逆効果になります。
 
 ・・・・・飲み過ぎると胸が抉れるって事? 死んでも守らないといけないわね。
 大体この薬の量は目測だけど3リットルくらいあるかしら? 3000÷200=15。ようするに15cmくらいは胸が大きくなれるって事ね。
 今のあたしのバストが70cmジャストだから全て飲めば85cmまでアップするって事ね! おお、そんだけあればブラジャーがずり落ちるなんて屈辱を味あわなくて済むわ!
 
 3:この薬は素晴らしくマズイです。飲む時は気合を入れて下さい。
 
 『素晴らしい』という単語の使い方が間違ってる気がするわよ、この注意事項。
 うーむ躊躇したくなる項目だわ。でもそれぐらいであたしの気持ちを止めれやしないのも事実よ。
 
 4:この薬は暗所に保管して下さい。
 
 ま、押し入れにでも入れときますか。
 さてと、早速飲んでみましょうか。あたしは瓶を片手に台所に向かった。
 
「美佳子ちゃんまた牛乳を飲むの? お腹を壊さないようにしなさいね。」
 
 台所で後片付けしている母さんが心配そうに声をかけてきた。
 ふふふふふ、今から飲むのはいつものとは一味違うやつよ。
 あたしは計量カップを使って200ml丁度を計るとコップに移した。
 こうやって見ると牛乳にしか見えない。本当に胸を大きくする効果なんてあるのかしら?
 まあ気にしてもしょうがない。
 あ、それゴックン。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 暗い、暗いわ。ここはどこなのかしら。
 あはははは、落ちていく。堕ちていくわ。真っ暗な世界に。
 寒さも暑さも感じない。ただただ虚無があたしを包んでいく。
 虚無があたしの身体を、意志を覆っていく。少しずつあたしの魂が虚無に・・・・
 
「美佳子ちゃん! 美佳子ちゃんどうしたの!」
 
 ハッ。
 気がつくと母さんが凄い形相であたしをゆすっていた。
 うおおおおあっぶねぇぇぇぇ。あまりの不味さに死にかけた。母さんがいなかったら死んでたぞ、マジで。
 うーん、注意事項に『マズイです』って書いてあったけどここまで凄まじいとは。
 
「大丈夫よ、母さん。ちょっと気を失ってただけ。」
 
 愛想笑いをしながらあたしを心配そうに見ている母さんを尻目にさっさと私室に戻った。
 部屋のドアを閉めてベットに腰掛ける。
 胸を見てみたが別段変化は見られない。まあすぐに効果が表れるとは限らないか。
 とりあえず寝ちゃおう。あたしはそう判断するとベットに潜り込んだ。
 おやすみなさーい。
 
 
 目覚し時計を叩き壊しながらあたしは目覚めた。もう朝だ。面倒だが朝練に行かないと。
 ベットから身を起こす。その拍子にあたしの胸がわずかに着ているパジャマに擦れたのを感じた。
 ・・・・・うん? 生まれてこの方そんなの味わった事ないぞあたしゃ。
 すぐさま意識が覚醒した。飛び跳ねるような勢いでベットを出るとパジャマを脱いで上半身を裸にする。
 何百回となく使用してその度にあたしを絶望の淵に叩き込んだ憎い奴、メジャーを取り出した。
 慎重な手つきでメジャーでバストを計る。一昨日測った時点では70cmジャストだった。今は・・・・
 
 70.6
 
 増えているうぅぅぅぅぅ!!!
 もう一回測り直してみた。やっぱり『70.6』。ここ1年間1ミクロンも増えていなかったのに、確かに増えているうぅぅぅぅ!!
 世の中が全てピンク色に見えた。世界の全てがあたしを祝福しているかのよう。
 『豊胸剤』ありがとう。あの店の男の子、ありがとう。
 ああ、これからあたしはまともな『女の子』になれるのね。ジャイアント馬○の転生した姿とかアンドレ・○・ジャイアントの『弟』とか言われなくて済むのね。
 
「なにしてるんだ美佳子、どたどたとして。」
 
 唐突にドアが開いて父さんが顔を覗かしてきた。
 ちなみにあたしの今の格好は上半身裸だ。しかも片手にメジャーを持って更に踊っていた。
 父さんの目が丸くなるのはしょうがないかもしれない。しれないが。
 乙女の部屋を無断で覗いていいと思ってんのかよ、親父。
 
「でてけーーー!!!」
 
 直後、あたしの十六門キックをくらって父さんは廊下の壁にめりこんだのだった。
 
 
 最初の体験から5日がたった。
 あたしはその間せっせとあの薬を毎日200mlづつ飲んでいた。
 飲むたんびに臨死体験をする事になったがあたしの執念の前にはそんな事は大した事ではなかった。
 あたしの胸は着実に大きくなり、あたしのバストは75cmになっていた。大平原の如く平らだった胸にも僅かながらも膨らみもでてきた。
 まあ未だにAカップなんだがそれでも格段の進歩だ。ブラもずれにくくなってきているし。
 そして今日も風呂あがりに薬を飲む事にした。
 味覚障害を起こしかねないほど不味いがそれでも効果は確かにある。夢の80代まで後少しだ。
 計量カップに薬を注いで量を測り、コップに移す。
 気合をいれてさあ飲むぞ、とした時、
 
「美佳子ちゃーん。お友達からお電話よー。」
 
 むぅ、いらぬ邪魔が入ったわね。そういえば明日買い物に付き合ってもらうんだっけ。
 飲み終わってから電話にでようかな、と思ったがこれを飲むたびに死にかけている。そう考えてみると先に電話を片付けた方が賢明かな。
 あたしは台所の片隅に薬入りのコップを置くと受話器を受け取った。
 
 思いのほか長電話になってきた。まぁお喋りは嫌いじゃないから別にいいんだけど。
 父さんが風呂から出たらしく愛用の甚平を着てあたしの横を歩いていった。台所に向かっているけど風呂上がりのビールでも飲むのかな?
 横目で父さんを見ながらそんな事を考えつつお喋りを続けた。我ながら結構器用な事をするもんだ。
 父さんが台所に消えてから数分後。
 
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 
 でっかい悲鳴が台所から聞こえてきた。しかもその声は清涼とした川が流れているような奇麗な女の人の声だった。
 何事かと思って急いで電話を打ち切り、台所に駆け来んだ。
 台所には何故か1人の女の子が呆然と立っていた。
 年の頃はあたしとほぼ同年齢だと思う。まあ高く見積もっても18才、かな。
 身長は160cmくらいかしら? あたしよりも1まわり以上小さい。
 髪は鴉の濡れば色で背中の中頃まで艶やかに伸びている。
 眉毛は細く釣り鐘状にきれいに整っていた。目は切れ長でしっとりとした潤いを湛えている。その目は脅えているかのように涙を浮かべていた。
 唇はリップクリームでも塗ってあるのかしら、やたらとみずみずしい。顔全体も小ぶりで顎は奇麗な流線を作っている。一言で言っちゃえば、まぁ美人という言葉がしっくりする顔立ちをしている。
 手もちっちゃくてかよわそう。足もスラリとしてスンゴク奇麗。肌もうるおいパックでも全身に使っているのかみずみずしくて染みが1つも見えない。羨ましいなぁ。
 そんでもって女のあたしですら陥落しそうな程の美人なんだけど何故か男物の甚平を着ている。なんかどっかでみた事ある甚平ね。それもつい最近に。
 女の子は目に一杯涙を湛えながら両手を胸の前で組んで震えていた。う〜ん嗜虐心をそそるわ。っとそんな場合じゃないわね。
 
「あんた誰? どっから家に入ってきたの?」
 
 あたしは妥当な質問を彼女にした。まあ当然の質問よね、この子どう見ても不法侵入者だし。
 ところが謎の女の子が放った答はあたしの予想しない物だった。
 
「なにを言ってんだよ美佳子! 俺だよ、泰造だよ!」
 
 泰造っていうのはあたしの父さんの名前。なんだけど。
 
「そんな筈ないでしょ! あたしの父さんは50に突入寸前の禿げでデブで短足でいつも酸っぱい匂いを放っている親父ギャグとセクハラを連発している典型的な駄目親父なんだから! あんたみたいな女の子じゃないわよ!」
 
「み、美佳子・・・。お前は実の父親をそんな目で見てたのかよ・・・・。」
 
 あ、いじけた。いいじゃないの本当の事だしアンタには関係ない事でしょ?
 そこまで来てあたしはやっと気付いた。女の子が着ている甚平は父さんがさっき着てたのと同じだ。
 という事はなに? この子は本当に父さんなの? んなアホな。
 
「もしも仮に兆が一に父さんだとしてもよ、なんでそんな姿になっちゃったのよ?」
 
「そ、そこにあった牛乳を飲んだらいきなり身体が変わってきて・・・。」
 
 女の子は指で台所の片隅を指した。その先にはさっきあたしが置いておいた薬入りのコップが空になっていた。
 
「げ。父さん、あの薬を飲んじゃったの?」
 
「ええっ? 牛乳だろう? 凄まじく不味かったけどさ。」
 
 確かにあの薬の見た目は牛乳そのものだった。風呂上がりに一杯牛乳を飲むというのは銭湯での通過儀式とも言われているくらいだから、置いてあった牛乳を思わず飲んじゃった気持ちもわからない訳ではない。
 そういえば注意事項に『副作用がでます、男性は絶対に飲まないで下さい。』って書いてあったなー。
 そうかー、男性に『豊胸剤』を飲ませるとこんな副作用がでちゃうのね。こりゃまたとんでもない副作用だわ。
 
「ど、どうしよう美佳子。俺に一体何が・・・・。」
 
 女の子改め父さんはプルプルと全身を脅えているかのように震わせている。女のあたしでも可愛いと思う。
 しかし今のあたしにはどうでもいい事だった。
 ズカズカと大股で近づくとあたしは父さんをジト目で見下ろした。
 
「み、美佳子?」
 
「あなたが父さんだって事を信じてあげるわ・・・・・でも、」
 
 言うな否やあたしは父さんの胸をおもいっきり掴んだ。
 
「ひゃうっ!!」
 
「な〜〜〜〜〜〜んでこぉんなに胸が大きいのよ! 女の子初心者の分際で生意気よ!」
 
 あたしは父さんの胸をムニムニ握った。
 
「ひゃ、ひゃ、やめてよ! 美佳子!」
 
 父さんは抗議の声をあげるがあたしは無視した。
 女になった父さんにはそれは見事な胸ができていた。少なく見ても90cmは軽くぶっちぎっている。D、いやEカップはいってそうだ。
 あ〜ん? 実の娘であるあたしが盆地なのに、なんで父さんのはチョモランマなのよ! 不公平よ不公平!
 あたしは父さんの胸を弄くりまくった。無論、むかついているからだ。
 
「美佳子! やめてってば! こら!うひゃ、やめて〜〜〜!!」
 
 父さんの抗議は未だにあがっているがシカト。断固たる義憤をもって(私怨ともいうが)あたしは彼女をいじめた。
 
「ふ〜〜〜ん。あなたお父さんなんだ。」
 
 後ろから声が聞こえてきた。その声には不穏な雰囲気がこめられている。
 
「み、美佐江・・・・。」
 
 父さんが顔を青くしながらうめき声をあげた。あたしも後ろを見てみる。
 母さんが腕を組んでジト目で父さんを睨んでいる。気持ちはわからんでもないが。
 付け足ししておくけど美佐江ってのはあたしの母さんの名前だ。
 
「み、み、美佐江・・・・これは、そのう・・・・。」
 
 父さん、頬を真っ赤にしながらモジモジしている。うみゅ、可愛い奴なり。
 足音もたてずにお母さんはあたし達の横に立った。無言の迫力はマジでコワヒ。
 
「お父さん〜〜〜?」
 
「は、はいぃぃぃ。」
 
「女になった挙句に若返りぃ? ふ〜ん羨ましいわねぇ。」
 
「え? え? え? え?」
 
 父さんは泡食ったかのように呆然としている。全身から汗をかいているが、多分冷や汗だろうな、こりゃ。
 母さんの手が父さんの肌を撫で回し始めた。父さん、めっさくすぐりがる。
 
「まぁ玉のようなお肌ねぇお父さんったら。うらやましいを超えて憎たらしいわねぇぇぇぇ。」
 
「ほーんと。悔しいったらありゃしないわねぇ。こんの娘ったら。」
 
 あたしと母さんは姑モードに突入していた。2人して父さんの身体をいじくりまくる。
 
「ちょっと2人共やめてくれ! うわっ、そんな恥かしい所さわらないで! いや、やめてよ! お願いそこは・・・いや、いやあぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
 
 その晩、我が家からか弱い女の子の嬌声が止まる事はなかった。
 
 
 次の日の朝。
 
「しくしく。もうあたし、お嫁にいけないよ〜〜〜〜。」
 
 父さんは寝室の片隅で泣きじゃくっていた。
 そしてあたしと母さんは満ち足りた顔でベットの上で紫煙を吹かしているのであった。
 
 めでたしめでたし。
 ・・・・・・・・んなわきゃないわな。



 <あとがき>という名の戯れ言
 
 こんにちは、DEKOIです。『Welcome to「Wonderful Magical」 1:開店でーす』をお届けします。
 
 あ〜あ、新作を始めちまったよ。しかもどっかで見た事ある作り出し。まぁTSでお店物は定番って事で。
 
 「狩人」第1部を書いてる最中からこのネタは思いついていました。一回書いてみたかったんです、お店屋さん物。
 
 「Wonderful Magical」の店員さんだけはちょっと意表を突くタイプだったかも知れませんがあとはオートゾックスな作りになっております。筈です。
 
 この『Welcome to「Wonderful Magical」』は「狩人」の息抜き程度に書いていこうと思います。「狩人」より人気あったらこっちが主流になる罠もあり。
 
 しかしこういったのって毎回TSネタを考えないといけないんですよねぇ。うーむあと少ししかストックないぞ、ネタ。
 
 もしよろしければネタ下さい。いや、マジで。
 
 それではまたご挨拶が出来る事を願いつつ、筆を置かせて頂きます。今後ともよろしくお願いします。
 
 by DEKOI


戻る

□ 感想はこちらに □