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少年少女文庫・リレー小説実行委員会主催...


小さなお守り







第五章 『鏡の中へ』





                 第五章担当:Bシュウ さん




「あー暇だなあ」
 昼の一番高い陽射しを浴びながら、誰に言うでもなく一人の少年が呟いた。一瞬、教室内の何人かが彼のほうを向いたが、すぐまた何事も無かったかのように元に戻った。
 昼下がりの教室は今日も穏やかであった。誰が書いたのか黒板には『雅子様、下から読んでも雅子様』なんて落書きがしてあり、日直が黒板消しで消そうとしている。
(雅子様って誰だっけ? 天皇と結婚したんだっけか? 確か)
 『今月の目標:廊下は走らない』と掲示板の横に大きな紙が張ってある。
(一体俺たちが何歳だと思っているんだ?)
 他愛のないお喋りの声と、グラウンドからの声がちょうどいいBGMのように耳に入っていった。
 人数の少ない教室は先ほどの昼食の余韻もあってかなんともアンニュイ雰囲気に包まれている。
 やることの無い彼はその雰囲気に流されてうとうとし始めていた。
 とその時、教室の外から一人の男子が入ってきた。ざっと辺りを見回して眼鏡の少年は彼の元にやってきて意外そうに言った。
「お、珍しいじゃないか達也。超健康優良児のお前が昼休みに教室にいるなんて」
「しょうがねえじゃん……縄張り争いで2組の奴らに先をこされちまったんだからな」
「そっちこそどうしたんだよ? この時間いつもは図書室だろ?」
「あそこの本はほとんど読んでしまったんだ。そろそろ家から自分の本でも持ってこようかと思っているよ」
「ふーん。俺は本好きじゃないから、本を読むやつの気がしれないな」
と二人で話していると、後ろから誰かが走ってくる音が聞こえてきた。その音は二人の少し手前で消えて、その直後、

ごすっ

「ふぐうぁぁぁぁ!」
 (声だけ)格好よく吹っ飛ばされる達也と椅子。さっきまで彼のいた場所に着地した少女に向って桂一はため息をつきながら呟いた。
「玲……」
 Tシャツにジーパンの少女――玲は未だ苦悶の表情で倒れている達也の元まで行き達也を掴み上げると、
「達也! あんた校庭とれなかったのならとれなかったってちゃんと言いなさいよ!」
「とりあえず……首を絞めるな」
「ったく」
 解放されて咳き込む達也の代わりに桂一は、
「どうかしたのか?」
「どうもこうも……あー! あんのキザ男! 全くほんっとにもー今思い出しただけでも腹が立つ!」
「キザ男って……栗山のことか?」
「他に誰がいるって言うのよ! あいつサッカーしにきたあたしに『君も女の子なら少しは女の子らしくしたらどうだい?女のくせにでしゃばったまねはしないほうがいいよハハハ』って言ったのよ!」
「ま、そんなに気にしない方がいいよ。確かに玲は……ちょっと活発な所もあるけど十分女の子らしいよ」
「こ……この暴力女……」
「あ……馬鹿!」
「ぬわんですってぇぇぇ!」

 キーンコーンカーンコーン

 そこで昼休みの終了を告げるチャイムがなった。
 水沢達也(みずさわ たつや)、富岡桂一(とみおか けいいち)、湖之原玲(このはら あきら)の三人は生まれた時からの付き合いだ。運動神経抜群の達也、頭の良い桂一、近所で評判の美少女の玲、この3人はいつも一緒に行動する三人組として有名だった。
 その日の帰り道。
「昨日の試合見た?」
「見た見た! ヴェルディとの試合でしょ! 吉岡選手のヘディングシュート格好良かったよね〜」
「あれはその前の日比野のセンタリングが良かったんだよ! ピンポイントで蹴りこむ技術なんて世界レベルだよ絶対」
「僕としてはキーパーの高選手のスーパーセーブが良かったね! カズのシュートをとめてからトライズに流れが傾いた」
三人ともサッカーが好きで特に最近始まったJリーグにはまっていた。水富湖市にも地元チーム「水富湖トライズ」があって三人ともそこのサポーターであった。帰り道に三人で サッカーの話で盛り上がるのはいつもの事だ。
 そして会話に区切りがついたところで玲が、
「ねえ、今度の土曜の夜、学校に行ってみない?」
「え?学校って『旧校舎』の方か?」
 昭和天皇が亡くなり元号が『平成』変わって数年、周辺町村との合併協議が中止になった水富湖市であったが、先々合併する可能性を考慮して地域レベルでは様々な改革が始まっていた。彼ら三人の通う小学校は後の学区再編で生徒数が増えた時、現在の老朽化した校舎では手狭になるため現代的な新しい校舎に建て替えることになった。そのため二年前から仮設校舎で授業をうけていた。もっとも今年で卒業の彼らには関係なかったが……。
「うん!」
「なんでまたあんなぼろぼろの所に行くんだ?それにあそこは野ざらしになってぼろぼろだから立ち入り禁止なんじゃ……」
「だからいいんじゃん! ちょっと壊れかけた校舎、肝試しには最高の舞台だと思わない?」
「なんだよ肝試しがしたいのかよ?」
「夏といったら肝試しでしょやっぱ! それに、あたし達も来年は中学生になるわけだし、そうすると遊んでばかりもいられないでしょ? 折角なんだから小学校最後の夏の思い出にしない?」
「へえ、面白そうじゃん! いこうぜ」
「全く達也は単純だな……。ま、でも結構面白そうだね。行ってみようか」
 すると何かに気付いたように達也が、
「でも桂一、お前土曜日は塾なんじゃなかったっけ?」
「あぁそれなら大丈夫だ、今度の範囲は全部理解しているから」
「それなら決まりね! じゃあ土曜日の8時に『旧校舎』の校門前に集合ってことでいいわね! それじゃ!」
「おう!」
「また明日」
 ここで丁度家に着いたので三人は別れた。ちなみに三人の家は三軒続きになっていて、窓からなら隣の家とも会話できてしまうのだ。(並びは達也・玲・桂一の順)
 7月で日が長くなっているとはいえそろそろ外も夜に向って動き出していた。
 達也は人気の無い自分の家を見上げた、隣の家からは玲を出迎える声が聞こえてくる。達也は一瞬表情を曇らせたが、カバンから鍵を出して誰もいない家に入っていった。リビングに入っていくとテーブルの上にラップで包まれた夕食とその横に、『今日は遅くなります。暖めて先に食事はすませておきなさい    母より』というメモがおいてあった。
(『今日は』じゃなくて『今日も』だろ……)
 達也はため息をひとつつくと夕食を電子レンジの方に持っていった。達也の両親は共働きでしかも二人とも帰りが遅かった。達也は誕生日すらまともに祝ってもらったことも無い。そんな彼が寂しさをあまり感じずにいられたのも玲と桂一の存在があったからだ。それに二人の家族も気を使ってくれて時々達也を食事に呼んでくれたりしていた。
 そして、土曜日――。
 達也は旧校舎を見回した。ぼろぼろの校舎は本格的な取り壊しはまだ先のようだが、業者はもう入っているらしく、所々に工具やロープ・はしごなどが置いてあるのが見えた、また手入れをしてないグラウンドは草がぼうぼうに生えひどい有様、遊具の半分ほどは解体されたのかもう無かった残りの半分も錆びて使い物にならないだろう。町外れということもあって人通りも無い。暗くなれば心霊スポットとしては全く問題なさそうだ。
(あのアスレチックは三人でよく遊んだな。なんかこのまま無くなってしまうってのも寂しいもんだな)
 自分の思い出がこういう形で消えていくのを達也は少しさびしく思った。
 ちなみに時刻はまだ6時だ。何故彼がこんな時間にきたかというと、事前に来ておいて二人を驚かす準備をするためだ。こんにゃくから火の玉用の懐中電灯、果ては叫び声のBGMを流すラジカセまで、かばん一杯に用意してきた。
(ふふふ……二人とも恐怖のずんどこに落としてくれるわ!)
 二人の慌てる様を想像し思わずにやりとして達也は旧校舎に向った。
 その時、
「おにーちゃん!」
「うわっ!」
 いきなり声をかけられて達也はびっくりして振り向いた。
 すると目の前におかっぱ頭の少女が現れた。一瞬幽霊かと思って思わず声が上ずってしまった。
「(なんだ驚かせるなよ)……で、君一体どうしたの?ここは君みたいな子が一人じゃ来ちゃいけないよ、危ないから。お母さんが心配しているから早く帰った方がいいよ」
小学校低学年程度にしか見えないこの子がこんな場所にいるのはおかしい。すると少女は、
「ねえ、一緒に遊ぼ〜」
「へ?」
「私、今までずっと一人で遊んでたんだけど……、もう飽きちゃったの」
「でももう暗くなってきたよ。また今度遊んであげるから今日は帰ったら?」
「お母さんが迎えにきてくれるから……。それまで待ってなきゃ」
(これっていわゆる捨て子ってやつ? ……こういう時は交番に連れてった方がいいのか?)
「それに……独りじゃ寂しいし、ねえ遊ぼう〜」
「ゔ……」
「駄目?」
 二人を驚かすための仕掛けを準備しに行きたかったが、こんな風に頼まれてしまうと達也としては断るわけにもいかない。
「解った。いいよ」
 すると少女は、ぱっと表情を輝かせて、
「ありがとうお兄ちゃん!」
(やれやれ……)
「じゃあ……何をする?」
「あっちに砂場があるの、あっちで遊ぼう!」
少女に手を引かれながら達也は砂場に向かった。この砂場は意外に言って大きかった。児童公園にある砂場の軽く二・三倍はありそうだ。そんな所で達也は少女と遊んだ。最初は彼女が泥団子を作ろうとするのをちょっと手伝ったりするくらいであまり乗り気でなかった。しかし自分も作り始めるとこれが意外と面白くて思わず少女と一緒に熱中してしまった。硬さ比べやきれいさくらべ……時間は瞬く間に過ぎていった。
 どれ位時間がたっただろうか。少女が小用で砂場から出て行った。
 一息ついて空を見上げると完全に夜になっていた。気付かないうちにずいぶん時間をかけていたようだ。
 とその時、

pipipi……

 アラーム音が鳴った、腕時計を見るとちょうど待ち合わせ時刻だった。とりあえず校門まで戻ると桂一と玲が二人一緒に立ち入り禁止のロープをくぐってくるところだった。達也は二人と合流した時、
「なあお前らここ来る時ちっちゃい女の子見なかったか?小二位の」
「いや、ここは一本道だけど……誰にも会わなかったよ、なあ?」
「うん」
 達也は首をひねった。あの子は確かにこっちへ走っていった、じゃああの子はどうしたんだろう。もしかしたら二人が来る前に母親が迎えに来て少女はそのまま帰ってしまったのかもしれない。
「なんだよ、しょうがないなーこれだからガキんちょは困るぜ。一言ぐらい言ってもいいのに……あれ?」
と足元を見るとそこにはお守りが落ちていた。神社とかで売っているのと同じ大きさで紫色をしている、そして端の方が少し焦げていた。
「あの子が落としたのかな? しょうがないなー」
とぼやくと達也はポケットの中にお守りを突っ込んだ。このままお守りを放置していくのも気が引けるし、どうせこの辺りの子供ならみんな同じ学校だから月曜日に学校で探して渡してあげればいいと思った。
「お、いきなり幽霊登場か?」
「えーまじ?本物だった?」
「んなわけ無いだろ?本番はこれからだよ、こ・れ・か・ら。行こうぜ」
 三人の揃って真っ暗な校舎に歩き始めた。すると玲が少し不安そうに、
「それにしても桂一、連れてきちゃっておきながら悪いけど本当に塾大丈夫なの?おばさん怒ってなかった?」
「怒られた……が、たいした事じゃないよ」
「そりゃ中学受験まで後半年も無い訳だしなあ」
達也の言葉にしゅんとした玲を見て桂一は、
「そんなにしょげることは無いよ。そうだな……二人には言っておこうと思っていたんだが僕は受験はしないよ」
「「え!」」
驚く二人に桂一は続けた。桂一の成績は全国模試でもトップクラスだ、誰もがこのまま一流私立に行くと思って疑わなかっただけにこの言葉は衝撃だった。
「母さんにも言ったんだ。勉強なんてどこに行ったってできるのさ。別にわざわざ高い金を払って遠くの私立に行く必要なんて無い、だったらその分もっと僕は別の色々なことに時間を割きたいんだ。母さんは公立に行ったらエリートコースから脱落すると思っている、だからこの話をしたら泣かれちゃって困ったよ」
と言って桂一は少し表情を曇らせた。
「桂一……」
「全く……ほら折角肝試しに来たんだからもっと盛り上がっていこうぜ!」
達也がわざと明るい調子で言うと、桂一は少し表情を崩して、
「そうだな……変な話をして悪かった」
「あーもう気にするなよ。俺たちの仲だろ。な? 玲」
「うん、じゃあ一緒の中学に行くことになるんだしこれからもよろしくね」
ようやく玲が笑顔になったところで、校舎の前に着いた。近づいてみると遠目に見るよりも不気味だ。
思わず達也と桂一は、ごくっと喉を鳴らした。しかし怖い物好きな玲は楽しそうに、
「うわぁ……なんか絶対出そうだよね、わくわくしちゃう」
 と大乗り気だ。そして玲は二人の方に振り向くとカーゴパンツのポケットから二つの塩化ビニル製の人形を取り出して、
「肝試しのルールはね……最初の人がこれを一階の廊下の一番奥にある大鏡の前に置いてくる、そしたら残りの人がそれを一個ずつ取ってくるの。解った?」
二人が頷くと、玲は満足そうに続けた。
「全員懐中電灯は持っているわね。途中で逃げ出すなんてことは無しよ! 逃げ出してくるようなチキン男には……おしおきよ! じゃ順番は……」
 その時達也は幽霊と、玲のお仕置きとどっちが危険か本気で迷った。
 じゃんけんの結果順番は桂一、玲、達也の順になった。先回りして罠を仕掛けることに失敗した今、最初に行って脅かし役に回ろうと思っていた達也の目論見は見事に外れてしまった。
(ちぇ……ついてないな)
 一方、先頭の桂一は固い表情で玲の方を向いて、
「なあ玲本当に肝試しのためだけか?」
「え……どういうことよ?」
「肝試しなら五丁目の寺の方が有名だしな、わざわざここにしたのはなんでだ?」
 桂一に問い詰められると、案外あっさりと玲は、
「二人はうちの学校の『七不思議』って知ってる?」
「そりゃ知っているさ。有名だしな」

『七つの不思議全てを知ったら死んでしまう』

 どこの学校にも必ず存在する怪談話である。いつからそう言われるようになったかは解らないがこの学校にも『七不思議』という形でそういう話は存在している。確かに玲なら喜んで飛びつきそうな話だ。しかし達也はあることを思い出して言った。
「あれ?でも確かうちは『七不思議』じゃなくて『六不思議』だろ?」
 そう普通は『七不思議』の場合が多いが何故かこの学校は『六不思議』なのだった。すると玲は待ってましたとばかりに不敵な笑みを浮かべると、
「実はね……この前雪ちゃん達に聞いたんだけど……実は七番目の不思議があるんだって!」
「「それで?」」
 玲はタイミングをはかるように一泊置いて、
「それでその内容はね……昔の東部沖地震の時学校で亡くなった子の霊が仲間を求めて彷徨っていて夜の校舎にいると神隠しにあって帰ってこられなくなるんだって!」
得意げに話す玲に対し二人は半眼で、
「「胡散臭〜」」
「そんなことないよ〜! なんかこ〜ワクワクしてこない?」
「うーん……別に」
「全くこれだから女ってヤツは……キャーキャー言うくせに怖い物とか見たがるんだからなぁ」
「あ、馬鹿」
 達也の一言に玲はいきなり怒り出して達也の胸倉を掴むと、
「何?女だからなんだって言うの? 女が怖い物好きじゃいけないの! 別に『あたし』が好きなのよ! 男女は関係ないでしょ! それとも女はみんなキャーキャー言って男にしがみついていれば良いって言うの!」
「解った俺が悪かった! 悪かったから、もう言わないから機嫌直してくれよ……」
「ふん!」
(全く気をつけろよ)
(まずったな……)
 玲は『女』扱いされることを極端に嫌う。特にそれを盾に彼女の実力を疑う者に対しては容赦しない、つかみ合いのケンカになることもしばしばだ。彼女がクラブでやっているサッカーの実力はかなりのもので男子を差し置いて達也とレギュラーで2トップを形成するほどだ。本当の彼女は優しい性格の持ち主なのだが必要以上に男子と張り合おうとしてトゲトゲしくなってしまうのが彼女の欠点であった。
 しばらくして彼女の機嫌が直るとようやく肝試しが再会された。
「よ、よ、よし行くぞ」
懐中電灯を手に桂一は玄関の前にいた。緊張した様子を見て二人がちゃちゃをいれる。
「なあに、もしかしてびびってるの〜?」
「そ、そんなこと無い」
「足が震えているわよ」
「うるさい、武者震いだこれは」
 そしておっかなびっくり校舎に入っていく桂一が見えなくなってから、達也は玲に尋ねた。
「でも本当なのか、さっきの話?」
 すると、玲は笑いながら手をひらひらさせて、
「あ〜私も雪ちゃんに話を聞いただけだから本当かどうかはわからないわ。でも大丈夫よ」
「なんで?」
「去年の7月に雪ちゃん達が行ってみたときは何も無かったらしいし」
「なーんだ。ま、元々俺は信じて無かったけどね」
その後しばらく雑談に興じていた。しかし、
「遅いわね……」
桂一が入ってから30分が経とうとしていた。いくらなんでも遅すぎる。
「まさか脅かし役に回って待ち伏せしているのかな?」
達也が言うと玲は不敵に笑って、
「あいつにしてはなかなか気の利いた事するじゃないの。はん、やれるもんならやってもらおうじゃない!」
「おいおい大丈夫かよ」
 勇んで入っていく玲に達也が心配そうに声をかけると、
「大丈夫よ! 桂一のやる程度のおどろかしで私がびびると思ってんの?人形と一緒にあいつをのして帰ってくるわよ。達也こそ一人になったからってびびって逃げるんじゃないわよ」
「だ、誰が逃げるかよ! そっちこそ怖くて悲鳴あげても助けてやんないからな」
「じゃーねー」
 玲が行ってしまって一人になった瞬間強い風が吹いた。校庭の周りの雑木林がざわざわと揺れる。その動きが夜の闇も手伝って何か得体の知れないもののように見えて余計に不安が掻き立てられる。達也は無意識に先ほどのお守りを握りしめていたことに気付いて慌てて手を離して独りごちた。
「べ、別に怖がってなんかいないぞ」
 と言う声も少々大きくなっていた。こうして気を張りながら時間は過ぎていった。そして……
「遅い……」
 腕時計を見ながら達也は呟いた。玲が中に入って40分以上経った、いくらなんでも遅すぎる。その時再び強い風が吹いた。思わずびくっとしてしまう。このまま外で待っていても仕方ない、達也は覚悟を決めた。
「まったく……こういう時最後っていうのは損だな」
 ぼやきながら達也は校舎に入っていった。いざ入ってみると校舎は想像以上に暗かった、床は所々腐っていて歩くたびに軋んだ音を発した。廊下の角から何か出てきやしないかと自然とゆっくりと進むことになってしまう。この学校は普通の所より廊下が狭い。それはこの校舎が元々どこかの研究所になるはずだった建物を寄贈された物だからだという話を思い出しながら達也は狭い廊下を懐中電灯の光を頼りに奥へと進んでいく。二人のいたずらに注意して気を張ってきたのだが特にこれといった妨害もなく、行き止まりまで着いてしまった。
「あれ?」
 いささか拍子抜けしながらも懐中電灯で辺りを照らすと床の部分に人形が置いてあるのを見つけた。人形は一個だけだった、ちなみに剣を持ったロボット戦士の物だ。この状況から考えて桂一も玲も一度はここに来たはずだ、なのに後続の自分を驚かすわけでもなく戻ってくる訳でもない……では二人は一体どこに行ったのだろう?訝しがりながら達也は何気なく視線を上げた。そこにはまだかなり大きい鏡が割れずに残っていた。達也は硬直した。
 その鏡にワンピース姿の女の子が映っていた。長い前髪のせいで表情は窺うことはできなかった。
「!」
 慌てて達也は振り向いた。しかしそこには誰もいなかった。そこでもう一度鏡を見たが今度は何も映っていなかった。心臓が早鐘のように鼓動を刻む、呼吸も荒く達也は、
「(気のせい?気のせいだよな……早く人形を持って戻ろう。もう何も見ない、何も気にしない)よし急いで戻ろ……ヒッ!!」
 鏡の下においてある人形を取ってもういちど鏡を見た達也は声にならない悲鳴を上げた。
 鏡には先ほどの少女が映っていた、しかも先ほどの無表情とは違って口の端を吊り上げて不気味に笑いながら、
(遊ぼ……)
 考えるよりも早く体が反応していた。全速力で逃げ出した、しかし何かに腕を掴まれて進めなかった。腕を見ると鏡から青白い腕が伸びて達也の腕を掴んで引っ張っていた。そしてその氷のように冷たい感触に体まで氷付けにされたように動かなくなってしまった。引きずられるままに鏡の中に沈んでいく。
「うわー!!!!!」
そこで達也の意識は途絶えた。後には懐中電灯だけが残された……



「…………ん」
 達也は窓から差し込む光で目を覚ました。どうやらベッドのようだ。しばらくぼぉっとしていると、ついたての向こうから女性が現れた。
「あら目が覚めた?気分はどう? はい、お水」
 女性が差し出した水を飲んで人心地ついた達也はまだ朦朧としながらもかすれた声で、
「え……と、ここは――」
「保健室よ」
 そこで女性が学校の養護教諭だということに気付いた。
「富岡さんと一緒に運ばれてきたのよ。さっきの授業中に外に長いこといたせいでちょっとした熱中症になったみたいね。今日は土曜日だけど……二人とも早退していいわ。家でゆっくり休みなさい」
「桂一も?」
 すると、養護教諭は一瞬怪訝な顔をしたが何も言ってこなかった。養護教諭は机の紙に書き込みをしながら、
「ずいぶんうなされていたみたいだけど……悪い夢でも見たの?」
 そう言われて先ほどの記憶が達也の脳裏に甦ってきた。壁にかかっている日めくりの日付を見るとあの日と同じ日付だった。
 ということはまだ旧校舎に行っていないことになる。
(あれが夢?)
 あの時の女の子の不気味な表情や腕を掴まれた感触が鮮明に思い出される。あれが全部夢だったというのだろうか。でも実際、時間は肝試しの前なのである。不思議に思いながら、とりあえずベッドから立った達也を見て、
「あら? 寝ている時に髪の毛が乱れちゃったみたいね。ちょっとこっちへいらっしゃい、直してあげるわ」
 と、養護教諭に手を引かれ無理矢理いすに座らされて髪にブラシを入れられた。達也は不思議に思った。自分はスポーツ刈りだ、ちょっと寝たくらいで髪にクセがつく訳無い。いやそれよりもそういうのは普通女の子に言っても男には言わないだろう。その時ちょうど彼の真正面にある姿見に目がいった。そこには養護教諭に髪を梳かれる一人の少女が映っていた。
(え?鏡に映っている女の子って……でもここには俺と先生しかいないし、でも髪を梳かされているのは女の子で、いすに座っているのは俺で、でも女の子も座っていて、でも髪の毛を梳かされているのは俺であれ?)
 混乱して頭に手をやると鏡の中の少女も同じ仕種をする。舌を出してみたり足をばたつかせてみたりしても少女はそっくりそのまま真似してきた。ここにきて達也はやっと事情を理解し立ち上がると同時に叫んだ。
「俺が女〜!!!!!!」
 そして体のあちこちをべたべたと触る。髪の毛のほかにも体の感覚が全然違う事に戸惑う、さらに下半身に手がいった時の喪失感は彼に決定的な衝撃を与えた。
「無い……」
 いきなりのことにびっくりした表情の養護教諭に達也は、
「先生……俺……女の子になっちゃったよ。一体何が起きたんだ……」
 それを聞いて養護教諭は先ほどと一転して苦笑すると、
「ふふふ、いきなり何言っているのあなた、あなたはどこから見ても女の子よ」
「え……だって俺……男……」
「もう、そんなかわいい男の子いないわよ! 先生をからかうのもいい加減にしなさい」
 ぴしゃりと言われて達也は何も言えなくなってしまった。その時、隣のベッドから人の動く音がした。
「あら、富沢さんも気がついたみたいね」
「桂一!」
達也は引きちぎらんばかりの勢いでベッドのカーテンをどかした。
「!」
 呆然と立ち尽くす達也は頭の中で、おそらく自分も目の前の相手と同じ表情をしているであろうとそこだけ冷静に思った。目を見開いて唖然とした表情でこちらを見ていたのは……眼鏡をかけた長い髪の女の子だった。



 学校の帰り道、まだ少し体調が優れなかったが二人にとってはそれどころでは無かった。あの後混乱して先ほどの自分と同じ行動をとる桂一を連れて急いで出てきたのだ。いつもより遠回りして帰る、その間に桂一も一時のパニック状態からは脱出したようだ。そこで達也は桂一に肝試しのことを話した。
「確かに僕たちはあの旧校舎に行ったはずだ。なのに今は『あの時』の12時間前……一体どういうことだ?」
「なあ……」
「ん?何……え〜と達也」
「本当に桂一だよな?」
「……まあな、それなら僕も同じこと聞きたいよ」
 達也は今目の前にいる少女が桂一だとは信じられなかった。淡い緑のワンピース、長い髪にカチューシャをつけている。顔も多少男の時の面影があったが、やはり『女の子』の顔だった。かろうじて眼鏡だけが男の時同じであったが、それ以外はどこからどう見てもかわいい女の子なのであった。しかしそれは向こうも同じであろう。達也の今の姿はTシャツにキュロットスカート、髪は活動的なショートカット、やはり正真正銘女の子であった。ちなみに下着類も女物に変わっているはず(まだ確かめていなかったが)であった、そしてそれが男のアンダーシャツとは違う物であることは感覚上解ってはいた……しかし二人とも口に出す気にはならなかった。もやもやしたものを振り切るように達也は空を見上げてぼやいた。
「ほんと……一体どうなっているんだ?」
「何が原因かは解らないけど少なくとも「ここ」では僕たちは女として存在しているみたいだね」
「そうなんだよな〜」
 といって先ほど見たカバンの中のノートに書いてあった名前を思い出す。そこには慣れ親しんだ自分の名前ではなく『水沢たつき』と書かれていた(桂一の方は『富沢螢(けい)』であった)。学校の養護教諭が不思議に思ったのも無理はない『富沢桂一』という『男子』はあの学校にいなかったのだから。達也は勢いをつけるように少し語気を強めて、
「とにかく今日もう一度旧校舎に行ってみよう! 何かわかるかもしれない」
「一応まだ行っていないはずなんだけどね」
「そういえば玲、何時集合にしたんだっけ? ……あっ!」
そこで二人は始めて玲がいないことに気付いた。保健室にはいなかったが、二人に起きたことが彼女にも起こった可能性は十分にある。
「俺たちが女になったってことは……玲は男に?」
「解らない……今から学校に戻るわけにもいかないし……とにかく一度家に帰ろう。それで玲が帰ってきてから誰かの部屋で対策を練ろう」
「よしじゃあ急ぐぞ!……あれ?」
 駆け出した達也はしばらくして立ち止まった。振り返るとはるか後方にゆっくりと歩く桂一の姿があった。
「おーい、早くしろよ」
「………………ぅ」
「え?」
「この服じゃ恥ずかしくて走れるわけがないだろう!」
 達也が桂一を急かすと彼は顔を赤くして言った。確かに自分はまだ男の時に近い服装だからいいものを、桂一は思いっきり女の子スタイルである、今まで慣れない感覚と恥ずかしさを我慢していたはずだ。結局ゆっくり歩いて帰ったので早退したにも関わらず家に着いたのはいつもと変わらない時刻だった。
「……やっぱり母さんたちも僕たちのこと女の子って扱うのかなあ」
「うーん……たぶん。でも帰らないわけにも行かないだろ、とりあえず家に入ったらさっさと部屋に篭っちゃえよ。じゃあ玲が帰ってきたらな」
「うん」
 と家の前で別れて桂一は少し不安そうに家に向かって行った。一方達也はそういう不安は感じなかった。普段から両親は家を空けているし、顔を合わせることも日にそんなに無い。ある意味今は気が楽だが、『自分が女』だったら両親はどう扱うのだろう……想像もつかない。そんなことを考えながらいつも通り扉に鍵を指しこもうとした時、扉が開いた。中から出てきたのは、
「か、母さん」
「おかえり、たつき。早退だって聞いたけど遅かったわね。体は大丈夫?」
 彼の母親は心配そうに達也を見た。達也は病院で看護婦長を務め、夜勤やなんやらでいつも家にいない母親の出迎えに驚いた。
「学校から電話をもらってからずいぶん遅いから心配したわよ。女の子なんだから体は大事にしなきゃ。着替えてベッドで寝なさい」
 そう言われて達也は仕方なくそのまま自分の部屋へ行った。部屋の位置は変わらなかったが入って達也は言葉を失った。そこはいつもの自室では無かった、ベッドシーツやカーテンが薄い赤色になっていた、そして本棚には少年まんがの代わりに少女まんが、ベッドの上や床にはぬいぐるみ……達也が前に見たことがある玲の部屋よりもずっと女の子らしくなっていた。達也はしばらく呆然としていたが気を取り直して洋服ダンスを開けた。当然と言えば当然なのだが洋服類も全て女物になっていた。とりあえず一番上の引き出しには寝間着は無かった。
「じゃこっちかな……うわっ」
 今度は真ん中の引き出しを開けた。だが下着類の入っているところを開けてしまい達也は真っ赤になってあわてて閉じた。三度目でようやく寝間着を発見した。
「……」
 達也は着替えるのをためらった。今の洋服を脱げば女の子の下着姿なのだ。
(気にするな、自分だから自分)
 目を瞑りながら気力を振り絞ってTシャツを脱いだ、キュロットスカートも下ろすと急いでズボンを穿く。上着はボタンが逆なのではめるのに苦労したがなんとか着ることができた。一息ついて目を開けたとき偶然洋服ダンスの横にあった姿見に目がいった。
「……」
 鏡の中に自分の知らない女の子がいる、でもそれは紛れもなく達也自身なのだ。達也は学校の保健の授業でならった事を思い出していた。第二次性徴・男女の性差etc.その後女子を見る目が少なからず変わった事など……そうしていると母親がお盆を持って部屋にきた。
「あら、まだ寝てないの?着替えたなら早く横になりなさい」
 達也がベッドに入ると持っていたお盆を乗せて、
「消化の良い物作ってきたわ、それを食べてゆっくり休みなさい」
(おいしい)
 母親と一緒に食事をしたのはどのくらいぶりだろう?食事を続けながら達也は不思議な暖かさを感じた。その一方でずっと気になっていたことをおずおずと母親に尋ねた。
「……ねえ母さん。仕事は……病院は大丈夫なの?」
「病院?……な〜に言ってるの。それは結婚前の話よ? 母さんは今は専業主婦よ!」
「!」
 母親が階下へ行った後達也は呆然としていた。じゃあ今までの自分の記憶は一体何だったんだろう。達也はえもいわれぬ不安に襲われた。起きたら全てが夢であればいい……そんな気持ちで達也は布団を頭から被った。

 コンコン

「ん……」
 窓を叩く音で達也は目を覚ました。いつの間にか眠っていたようだ。窓を開けると隣の家から玲が顔を覗かせていた。
「よ!大丈夫?」
「玲……だよね?」
「ま、一応ね」
 そう言って頭を掻いた玲は案の定というべきか男になっていた。端正な顔立ちは元のままだったが膨らみのあった胸は平たく、白かった肌は少し浅黒くなってその上、前より筋肉がついたようだ。
「とりあえずこっち来なよ、桂一も来ているし」
「うん」
 それと同時に桂一が顔を出した。達也はその少女を桂一と認識するのに少し時間がかかったが……気を取り直して、とりあえず窓伝いに玲の部屋に移る。寝間着のままだが、着替える時に自分の体をもう一度見る気に離れなかったのでそのまま行くことにした。玲の部屋に入って周りを見渡すと、やっぱりぬいぐるみ等の女の子っぽい物は無くなっていた。それでもあまり違和感がないのはサッカー選手のポスターとかそのまま物が結構多かったからだろう。三人が集まると玲が話しを切り出した。
「やっぱりと思っていたけどあんた達も変わっていたのね」
「玲も保健室に?」
「いや、私はグラウンドでうたた寝していたことになっていたわ」
 普通に授業を受けて帰ってきた玲の話によると変わっているのは三人だけでクラスメイトとかはそのままだったそうだ。ついでに二人の変化には出席簿などから既に気付いていた。
「あたしはわけもわからず授業が始まっちゃったから大慌てで教室行ったわ。おかげで驚くタイミングをはずしちゃったんだけどね」
「「ふーん」」
「……」
「何?」
 玲はしげしげと二人を見ると、おもむろに桂一の胸をぎゅっと掴んだ。
「ふひゃ」
「本物ね……」
「な……何するんだよ!」
「悔しいわ……あたしよりも胸大きいし……許せない!」
「やめてー」
 突然のことに真っ赤になる桂一に、それにぶつぶつ言って飛び掛る玲。自分が標的にならないように胸をガードしながら、達也は
(女になった俺たちより、玲の方がショックは少なかったようだな……元々男っぽいし)
 などと不謹慎なことを思っていた。
 それから三人で元に戻るための方法について話し合ったが具体的な方法は見つからなかった。達也達は問題の時間に旧校舎に行こうともしたが部屋に戻ったあとすぐ母親が達也の側で看病し始めたので行くことができなかった。しかし達也はその夜いつもよりも暖かい気持ちで眠りについた。
 翌日、三人で旧校舎に行ってみたが何も変わったところは無かった。暗くなるまで粘って鏡の前に立ってみてもただ三人の姿を映すだけであった。意気消沈して帰る途中達也は不安そうに漏らした。
「どうしよう……もう戻れないのかなぁ」
すると玲が、
「まだ諦めるのは早いよ、他の方法があるかもしれないじゃない」
そして考え込んでいた桂一が、
「よし三人で手分けして手がかりを探そう。とにもかくにも玲の言っていた七不思議が原因のはずだから同じような現象が無いか調べよう」
「そうねそうするしかないわね」
「よしやろう」
 そして月曜日。
 達也はいつも通り目覚めると、自分の体を見回した。しかし昨日と変わらず女の子のままだった。
(やっぱ夢じゃないか……)
 朝食をとった後、洗顔と歯磨きを済ませ服を着替えた。スカートを穿く気にはならなかったのでジーンズにTシャツといういでたちだ。母親に見送られて家を出ると、二人は既に外で待っていた。桂一も達也と同じようにTシャツにパンツ姿であった、長い髪は後ろでまとめて縛ってある。玲はランニングシャツに半ズボンと二人が女の格好をしたがらないのに対してこちらは完全に男の格好だった。
「でさー、調べるって言ってもどうする?」
「うーん基本は図書館だよね」
「俺はまた旧校舎にいってみる」
「じゃあ私は雪ちゃんにもっと詳しく聞いてみる」
 お互い別々に情報を集めて学校の行き帰りに情報を持ち寄るという方向で話がまとまった頃ちょうど学校に着いた。
「おはよー。たつき、大丈夫だった?いきなり倒れたりして心配したんだよ〜」
「え、あ、う……うん、もう大丈夫だから……ありがとう」
 教室に入るとクラスの女子達に話しかけられた。慣れない呼び名と普段あまり話すことの無い女子のクラスメイトの反応に自分のおかれている立場を再認識する。横を見ると桂一も似たような感じで二言三言会話をしていた。玲はというとこちらは男子に混ざって普通に振舞っていた。元から男女両方に人気があるからなぁと思いながら席に着いた。そして授業が始まった。体育を除く授業に関して言えば、担任はみんな苗字で呼ぶから違和感は無かった(授業中に近くの女子から名前で呼ばれて話しかけられた時以外は……)。
放課後、例の旧校舎へ一人で向かいながら達也は給食・昼休みの時間の事を思い出していた。
(なんで女っていうのはああおしゃべりが好きかなぁ)
 男のときは食べることに全精力を傾けていた達也は正直女子が集まった時のおしゃべりのパワーに辟易してしまった。タレントの話や○君が×さんを好きだのとはっきりいって達也と桂一にとってどうでもいいような話で延々盛り上がっていた、色恋の話が自分に振られた時などどうして答えたらいいかほとほと困り果ててしまった。おかげで昼休みは碌に調査ができなかった。余談だがそこで今の玲が女子の間ではかなり人気だと言うことが解った。
 そのうちに旧校舎に着いた。日曜日もそうだったがまだ日が高いので『あの時』と大分違う印象を受けた。グラウンド跡を横切ってそのまま校舎に入って行く、下駄箱を抜けたところで鏡の反射光を浴びて思わず目を細める。
「うわっ、……それにしてもこの鏡……まだ残っていたのか」
 何故か廊下に対して斜めに取り付けられている大鏡を見て不思議に思いながらも達也は『あの時』の順路をそのまま通ってみた。しかし何も起きなかった。三人が吸い込まれた鏡も調べてみたが特に何も無かった、もちろん例の女の子も映らない。
「うーん、おかしいなぁ〜あの時は確かに……」
 だからといってもう一度あの女の子に出てきて欲しくは無かったが。『あの時』の記憶を思い出しながら校舎の入り口まで戻ってきた。
「よしっ、他の階から見れば何かわかるかも」
 そう思って確かめようともう一度校舎に入ろうとした時、
「こらっ」
 振り返るとそこにはお巡りさんがいた。偶然見回り中に旧校舎に入る達也を見掛けて注意しにきたらしい。
「こんな所で女の子が一人でいちゃいかん!送ってあげるから早く帰りなさい!」
(女の子……か)
 そういわれてその日は帰らざるを得なかった。
 次の日、通学途中に三人で成果を話し合った。
「図書館で調べてみると例の旧校舎で行方不明になった人は13人。校舎が使われなくなってからが5人。日付は一致しない。最初は10年前で……」
「雪のヤツに聞いてみたけど、『七つ目』は少なくとも15年前は無かったらしい」
「なんで?」
「あいつのいとこが15年前の卒業生なんだと、でもそんなの聞いたことも無いって」
「ふーんじゃあ『七つ目』は最近できた話だってことか……達也はどうだった?」
「うん、旧校舎に行ってみたんだけど特に何も無かったん……その上お巡りさんに見つかって怒られちゃった」
「何だよ頼りないな〜」
「じゃあ二人とも新しくわかったことがあったら教えてくれ」
 それから毎日達也は旧校舎に行った。一階だけでなく別の階・校舎の周辺も調べてみたが、特に何かが起こるわけでもなく調査は遅々として進まなかった。学校では女子のグループにいる気にはなれない、さりとて男子はというと自分が女だと思うと気後れしてしまって近づけなかった。自分の居場所が無いような気がして達也は毎日学校が終わると逃げるように旧校舎に行った。
 そうして一週間がたった頃、達也は昼休みに数名の女子と談笑する桂一の姿を見かけた。聞こえてくる内容からすると化粧の話題のようだ。達也は特に興味が無いのでそのまま立ち去った。その次の日、桂一の爪には透明なマニキュアが塗られていたことに達也は気付かなかった。また放課後他の男子と泥まみれでサッカーをする玲の姿をよく目にするようになった。それと同時に玲の報告はほとんど進展しなくなった。
結局大した進展もないまま二週間が過ぎたある日。
「やばっ」
 珍しく達也は寝坊した。二人には母親に言って先に行ってもらっていた。全速力でチャイムと同時に教室に駆け込む。すると近くにいた桂一がくすくす笑いながら、
「ギリギリセーフね……大丈夫?」
「ははは……まあ……!」
「いや……スカート……はいているんだな」
「ああこれ?たまにはこういうのも良いかなと思って……どう?似合う?」
「ん、ああ……」
 達也は困惑した。自分は今もスカートなんか到底穿く気になんてなれないのに。しかも桂一はスカートを楽しんでいるようだ。その時達也には目の前の少女が全く知らない人物のように見えた。そんな落ち着かない気持ちで授業にもあまり身が入らなかった。そして放課後、いつものようにさっさと帰ろうとすると、
「たつき……ちょっといいかな」
「玲……」
 玲について校舎の裏に行くとそこには既に桂一がいた。三人が揃うと玲は話を切り出した。
「なあもう止めにしないか?」
「え?」
 言っていることの意味が解らなくて達也は聞き返した。
「だからもうあの時の事を調べるのは止めようって言ってるんだ」
「何いっているんだよ。このままでいいのか?元の世界に戻りたくないのかよ!桂一だってそう思うだろ!」
 達也は必死に玲を説得しようと桂一に同意を求めた。少し逡巡してから桂一は、
「私も……もう止めにしようと思う」
「!」
 驚いて声もでない達也にさらに桂一は続けた。
「ねえ、たつき……きっと私達三人共、夢を見ていたんだよ。とても大きくて、強い夢……だから起きた時記憶が混乱しちゃっただけなのよ。現実はこっちなの、だからもう……止めにしよう」
「そんな……じゃあ今までのこの記憶が全部嘘だって言いたいのかよ、それで納得できるのかよ!」
「だからそれは」
「じゃあたつき、なんでこの世界は違うと言うんだ?」
「二人ともあの時の事覚えているだろ?鏡から女の子がでてきて腕を……」
「でも俺たちはあの時間あそこに行っていないんだよ。あの夜おまえだって家で寝ていただろう?俺達が別の世界に来たっていう証拠はどこにも無いんだよ。あの女の子の事だって……肝試しの事を想像して怖い夢を見たってことの方がしっくりくる」
「……」
 確かにこっちで目覚めた時はまだ旧校舎に行く前だった。旧校舎に行った事を証明する物は何も無い。なおも達也が何か言おうとするのを制して、
「俺、今度ユースの試験を受けることにしたんだ。Jリーグにいけるような選手を育成するところだ。俺は絶対Jリーガーになりたいから。たつき……おまえがまだ調べたいなら好きにすればいい。ただ俺はもう止めるってことを言いたかったんだ。じゃあな」
「たつき、私も……もう止める。こっちだったら『むこう』みたいにお母さんに苦しい思いをさせなくて済むもの。たつきもお母さんがいつもいるのは嬉しいって言っていたじゃない。もし戻っても寂しい思いをするだけだよ。よく考えてみて……じゃあ」
 と言って桂一は去っていく玲の後を追っていった。
 その日は旧校舎にも行かず部屋で膝をかかえて塞ぎこんでいた。
「そういえば二人とも自分のこと『俺』と『私』に変わっていたな……俺のことも……」
 最近二人の様子が変わってきた理由が解った。二人はこの世界を受け入れたのだ。玲は男になったことで女だからという理由でいさかいを起こすことは無くなった。さらに憧れのJリーグを目指すこともできる。桂一も自分の決定が母親を苦しめていることを気に病んでいた。成績は下降気味だが今は前よりものびのびと過ごしているように見えた。そこまで考えた時先ほどの桂一の言葉が頭によぎった。
(母さん……)
 こちらでは母親はいつも家にいる。さっき帰ってきた時も沈んでいた自分を気遣ってくれた。この前の日曜日は一緒に買い物にも行った。夏休みには父さんと三人で旅行に行こうと意気込んでいる。仮に元に戻ってもまた一人ぼっちの生活に戻るだけ……。
「夢……か」
 確かにそうすれば説明がつく。怪奇現象を信じろというよりよっぽど信憑性がある。でも達也はあの時の光景を鮮明に思い出せた。夜の校舎、鏡に映る不気味な少女……。しかし実際の日付からは達也たちは旧校舎に行ってないのだ。
(もしかしたら桂一の言うとおり……)
 と考えて首を横に振る。じゃあ自分だけがこんなにも違和感を覚えるのはおかしいじゃないか、でも。そんな思考の堂々巡りを繰り返していると、頭の中に声が響いてきた。
(おかしくなんかないわ……)
(誰?)
(わたしよ)
(誰なんだいったい!)
(もう。鈍いわね、私はあなた)
(え?)
(あなたがいつまでたっても気付いてくれないから待ちくたびれちゃって)
(俺は男だ。こんなのおかしい!)
(おかしくなんかないわ、あなた……いえ私たちは女だもの)
(違う!)
(違わないわ。だってあなたが男だって証拠はどこにもないわ。旧校舎だって本当は行っていないのよ)
(あの時確かに俺は)
(そういって意地を張らなくて良いの。このごろあなたお風呂に入るときも平気になったでしょ?)
(いきなり何を)
(トイレもそう……スカートだって穿いてみたい……お化粧の話だって興味津々のくせに)
(それは……そ、そんなことない)
(ふふ、別におかしくないわ。それが普通なの、何も気に病むことは無い)
(これは夢だ!)
(……夢でもいいじゃない。だって今の生活の方が良いでしょう。終わらない夢……いいじゃない。あなたは私を受け入れるだけでいいの)
(……)
(あなたはこれから生理が来てもっとおっぱいも大きくなってどんどん女らしくなって……そして将来男の人と結婚して子供を産んで……)
(うるさい! うるさいうるさい!! 俺は……俺は……)
 はっ
 達也は目を覚ました。部屋が薄暗くなっている、どうやら寝ていたようだ。体中に嫌な汗をかいていた。達也は額に手を当てて呟いた。
「俺は……」
 虚な視線を前方の机に向けた時偶然目に入った。それは
「母さん! これどうしたの!?」
 いきなり部屋から出てきた娘に驚きながらも母親は、
「あ、それ。あなたの服から出てきたのよ。ごめんね、気付かないで洗濯しちゃったみたいで。もっと早く渡せばよかったんだけどすっかり忘れちゃって」
「それいつ?」
「えーと二週間位前かしら。あーそうそうあなたが貧血か何かで早退した日よ」
 部屋に戻ると達也は手の中の物を見つめた。やっと見つけた自分があの時、旧校舎にいた証を、あの時の泥で汚れた少女の笑顔を思い出す。達也は手の中の『お守り』を力強く握り締めた。
 その次の日から達也は独りで元に戻る方法を捜し始めた。桂一と玲はそんな達也が気になってはいるようだが話しかけて来ることは無かった。
「うーん」
 教室で達也は頭を掻きながらうめいた。勢いこんだのは良かったが早速煮詰まってしまった。ちなみに旧校舎はあれから行っていない、もうあらかた調べつくした。ここ数日はもっぱら市の図書館から借りてきた郷土資料とにらめっこするばかりであった。(どうも調べ物は苦手だな)
 郷土資料や学校のミステリー研究会の記事まで調べてみたが有力な情報は見つからなかった。とりあえず資料を閉じようとした時、急に強い衝撃が彼の机を襲った。
「うわっ!」
「あ、わりい」
「玲……」
 ぶつかった腰をさすりながら玲は達也の机の上の資料に目をやると、ため息をついて言った。
「まだそんなことしていたのか。それで?何か見付かったのか?」
「それがね。このお守りを……ってあれ?」
 達也はお守りのことを言おうとしたがポケットの中には無かった、すると玲は何かに気付いてしゃがむと落ちていたお守りを拾い上げた。ぶつかられた時に落としたようだ。それを渡しながら、
「あの女の子のお守りなら証拠にならないぞ。こんなのどこにでもある物だからな。夢と元々持っていた記憶がごっちゃになった可能性だってあるし」
「そ、そんなことないよ」
 その時、数人の男子が玲を呼んだ。玲はそっちに向かいながら、
「おまえもそろそろ諦めろよ」
とだけそっけなく言うと走っていった。
(もうすっかり男の子になっているな。元々男みたいに……やっぱり……)
 決意がしぼんでいきそうになる。何とか気をとりなおしてお守りをポケット戻そうとした時、
(え?)
 もういちど今の会話を思い出す。
「なんで……」
 その日、家に帰ると達也は二人の家に電話をした。そしてこの二週間あまりの生活を思い出す。夜になって家をでる時、
「母さん……楽しかったよ。ありがとう」
 母親はきょとんとしていたが、そのまま達也は走って出て行った。それ以上は言うことができなかった。旧校舎まで行くと既に二人はいた。
「たつき、こんな遅い時間に呼び出すなんてどういうことだよ」
「そうだよ。私、母さんがすごく心配してたのに無理言って出てきたの。だから早く帰りたいんだけど」
「帰る必要は無いよ」
「「え?」」
 二人は驚いて達也を見つめた。達也はポケットからお守りを取り出すと二人の前に掲げて見せた。
「これ、なんだかわかる?」
 すると玲はつまらないという表情で、
「だーかーらー、それは役に立たないって言っているだろう。大体、その女の子だってこの近くにはいなかったんだろ」
 達也は無視して桂一の方に向き直ると、
「桂一これが何だかわかるか?」
 桂一は少しお守りを観察してから、
「いや、見たこと無いけど。それがどうしたの?」
「!」
「そう。確かにこれはあの時俺が旧校舎で女の子と遊んだ後見つけたものだよ。でも俺はその後二人に会った時女の子にあって遊んだ所までは話したけど、お守りのことは一言も話していないんだ」
「じゃあ……ここにいるのは?」
 警戒して桂一が距離を置く。玲はその場を動かない。
「あの時おまえは俺を牽制するためにわざと詳しく言ったんだろうけど……それがまずかったな。おまえは『本当の玲』が知らないことを言ってしまったんだ。……おまえは一体誰だ!」
 すると玲はいきなり糸が切れた人形のように崩れ落ちた。そしてそこに現れたのは……あの鏡の少女だった。
「あ!君は!」
 その少女を見て達也は驚いた。あの時は顔を見る余裕が無かったので解らなかったのだが、その少女の顔は達也が遊んだあの少女と同じであった。髪が長い事と顔色が死人のように青ざめているという違いはあったが。少女はあの時のように不気味に微笑んで感心したように言った。
「こんな些細なことで見破られるとは思わなかったわ。意外と勘は良かったのね」
「俺たちを元の世界に帰してくれ」
「なんで?あなたもこの世界は好きでしょ?じゃあいいじゃない。私とこの夢のような世界とずっと、ずーっと一緒にいようよ」
 その言葉は確かに魅力的だった。元に戻ろうとしてきた達也であったがこの生活自体は決して悪い物ではなかったから。それでも達也は少女の方を向くと「にっ」と笑って、
「夢はいつか終わるから夢なんだ。あいにく俺はそこに逃げ込んだりしない」
 その言葉を聞くと少女は無表情になって、
「そう……じゃあ仕方ないわね」
「ぐ……」
 達也は突然の頭の痛みにうめき声を漏らした。頭が押しつぶされそうな感覚に気が遠くなる。
「本当は納得の上で残って欲しかったんだけど……もういいわ。あなたは何も感じる必要の無いようにしてあげる……そう他の二人のように……」
 意識が暗い闇の底に沈んでいく。薄れていく意識の中で達也は、
(帰りたい……寂しくてもいい。いくらみんなが都合よくたってこんなちぐはぐな世界なんて……絶対いやだ!)
 そう願った時、先ほどから握り締めていたお守りが強い光を発した。
「うっ……」
 目が眩むほどの強い光が周囲を覆った後おもむろに体の拘束が解けた。かすむ目をこすりながら前を見ると、目の前に人影があった。
「お兄ちゃん」
「え……君は……でも……え?」
 達也の目の前にいたのは、先ほどと同じ少女だった。いや、おかっぱ頭と今向けられている笑顔から向こうで驚いている少女ではなく彼女こそがあの時達也が遊んだ少女であった。同じ顔の二人の少女が対峙する状況に達也は困惑を隠せなかった。
するとおかっぱの方の少女は静かに、
「もうやめにしよう。こんなことしても無駄よ……。寂しさが増すだけ」
「ふん、今更来たって遅いわ。みんな私とずっと一緒にいるんだから! 私のこの世界でずっと……」
声を荒げる長い髪の少女を悲しそうに見つめながら、おかっぱの少女は近づいていく。
「こないで……こないで!」
 長い髪の少女は、先ほど達也を拘束したのと似た不可視の力でおかっぱの少女を止めようとしたが何事もないようにおかっぱの少女は長い髪の少女の所まで来ると、その手を握り、
「…………ごめんなさい。あなただけに押し付けるようなことをして……今度は一緒にいこう」
「い……いや……いやぁぁぁぁ!」

 ――ぴきっ

 髪の長い少女の叫び声と共に、夜の空に亀裂が走る。

 ――ぴきぴきっ

 亀裂はその空間全体に広がっていき、やがて崩壊した。
「う……」
 達也が目を覚ますと何も無い真っ白な空間にいた。そこには達也とあのおかっぱの少女の二人だけがいた。
「君は一体何者なんだい?それにあの子は……」
 すると少女は語りだした。
「あの子は……私の分身みたいな物なの。お兄ちゃん……私ね、小さい頃からずっと体が弱くて、ほとんど学校にも行けないでずっと病院に入院していたの。当然お友達もいなかった。病院の窓から見える小学校に行く子達がとても羨ましかった。そしてようやく体調が落ち着いてきて、お医者様に学校に行ってもいいってお許しがでたの。あの時は本当にうれしかった、どきどきしたわ。そして……もうすぐ夏休みのあの日――初めて学校に行った日に、地震に巻き込まれたの。」
 それを聞いて達也は胸が痛んだ。少女の独白は続いた。
「瓦礫の下で私は何とか抜け出ようとしたわ。でもそんな体力、私には無かった。段々薄れていく意識の中で私の手に何かが触れたの。見るとそれはお守りだったの。そうお兄ちゃんに渡したあのお守り。私はお守りを握り締めて、もっと学校に行きたかった……。普通に友達を作って、遊んでおしゃべりして……、みんなと過ごしたかったって祈ったの。そうしたらお守りが光りだして……。気がついた時はもうあの鏡の中にいたの。理由は解らなかったけど嬉しかった。だってみんなと学校にいられるんだもの、その雰囲気の中に一緒にいるってだけで幸せだった。
 でも……最初のうちはそれでよかった。でも段々物足りなくなってきたの、結局鏡の中でも私は一人ぼっち……誰も私の事に気付いてくれない。そんなの嫌っていう思いが募っていったある日、この世界に人を連れてくる能力を見つけたの。私は何人も何人も連れてきたわ、おしゃべりをして遊んで、また帰ってもらう。そんなことをくり返していたけどやがて子供たちはこの鏡に近寄らなくなった。またひとりぼっちの日々が始まった時、『もう一人の私』の声がきこえるようになったのは、『彼女』の声は次第に大きくなっていった。『だったら帰さなければ良い。ずっとずっとこの世界にいてもらおう』って。私は抵抗したんだけどとうとうある日『彼女』にとって代わられてしまった。同時に私はあそこから追い出された。鏡の中では普通の人は生気を吸われて死んでしまうの。それなのに彼女は……」
 少女はうつむいて肩を震わせた。泣いているのかもしれない。
「私はもうこんなこと止めさせようと思った、あの時のお守りにもう一度願えば……そう思って探し、そして一ヶ月前やっと見つけたの。急いで私は祈った。でも駄目だった、お守りは死んだ人の願いは聞いてくれないみたい。仕方なく私は向こうに連れて行かれる人にこれを託すことにした」
「それが俺たちって訳か……」
「そう……賭けだったの、あなたが帰りたいって本気で願ってくれなきゃいけなかったから……本当に諦めないでくれてありがとう」
 そこまで言うと少女は一息ついてから回れ右して歩き出した。
「さて、私もう行かなきゃ。お兄ちゃん?」
「ん?」
「あの時遊んでくれてありがとう」
 達也はそう言って遠ざかっていく少女に向かって、
「次はもっと上手に泥団子作れるようになれよ!」
 それを聞いて少女はきょとんとしていたがすぐ笑顔になって、
「うん!」
 そのまま少女が見えなくなるまで達也は見送った。


「ん……」
 目を覚ますとそこはあの鏡の前だった。腕時計を見るとあの時の時刻そのままだった。自分の体を触ってみると、
「戻っている」
 その後横で倒れていた二人を起こして帰途に着いた。二人に話を聞いてみるとどうやら夢を見ていたと思っているみたいだ。
(まあ夢みたいなもんだけど……)
 あのままで良かったかどうか尋ねると玲は頭を掻きながら、
「うーん……私は男になりたいわけじゃなくて、男に負けない女になりたいのよね。だから別にどうでもいい」
 桂一は少し考えてから、
「僕は少し良かったかも、母さんも悲しまないし……でも勉強自体は自分のためにやっている訳だから……うーんわからないや」
 それを聞いた達也が笑顔を浮かべると二人は眉をひそめて、
「何よ〜いきなり。気持ち悪いわね〜」
「そういう達也はどうだったのさ」
「いや〜別に〜」

――― 完 ―――















あとがき
 どうもBシュウです。今回初めて長編を書いてみました。
お守りの力でTSは起こさないという事で書いてきたのですが……難しいです。世界観を壊さないように努力したつもりですがいかがでしょうか?
 多分っていうかほとんど駄目な文章ですがここまで読んで下さった方々どうもありがとうございます。
いつかどこかで、またお目にかかれれば私も嬉しいです。

では。

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