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狩人 ― できそこないの人形達
作:DEKOI

 ニューヨークのある裏通りにあるバー『Marshland Vulcher』がある。そこには元殺し屋にして現在は情報屋として裏で生活しているグレイ=コリンが経営している表向きは健全なバーだ。そのカウンターに今はグレイ以外に2人の人影が見る事ができた。
「はぁ、つまんないですー。」
 そう言いながら1人の人影は大きくカウンターの上で足を伸ばした。
 ここだけ見るとだらしないように見えたかもしれないがその人物は通常とは大きく異なった姿をしていた。というのも背丈が20cmほどしかないのだ。緑色のロングヘアーをした人形に白いトンボのような4枚の翼が生えており、大きめな緑目くりくり動いており見た目の年齢は10歳位の活発な少女の印象を与えた。
 白いワンピースのような物を着たその姿はまさしく絵本から抜け出してきた妖精そのものだ。その妖精はつまらなそうに頬を膨らませて足をカウンターの上でパタパタと動かしていた。
「そう言ってもしょうがないでしょ、ピーちゃん。あの二人は今頃はロシアで調査しているはずなんだし。私達が言っても邪魔になるだけじゃないの。」
 そう妖精をたしなめたのは鮮やかなエメラルド・グリーン色の髪をした少女だった。15歳くらいの少女で顔は異様に整いまくっている。さながら絵本ででてくるヒロインのような清楚な雰囲気を湛えている。だがその顔から下の身体は反対に男を挑発するかのように女性としてのラインを生み出していた。清楚な顔と淫らな身体、反比例した要素を少女は持ち合わせていた。
 妖精の名前はピーという。本当の名前は違うのだが本人も忘れてしまった為、ピーの友達の少女が命名した名前で今は通している。
 かつてははるか昔のインドのある小国の大臣をしていたのだが死後この姿に変わってある森でずっと存在していた。だがある少年と少女と出会い、森から出てきて今は人里で暮らしている。
 そしてピーをたしなめた少女の名前はオルグ=ネグロードという。元々はあるマフィアの跡取り息子として生を受けていた存在だったが、ある出来事により少女の身体に転身してしまったのだ。その際に人格も少女のように変貌してしまっている。オルグもまたある少年と出会い、自分がいたマフィアを離れてバー『Marshland Vulcher』があるビルで暮らすようになったのだ。
「そうは言ってもつまらないですぅ。」
 オルグの声に対してピーは依然不満があるかのようにピーは手足をバタバタと動かした。その様子は大変ほほえましいものだが実際年齢が100歳を超えているという事を考えるといささか疑問視したくなるかもしれない。
 ついでに言うと実はピーは当初は年齢に相応しい物言いや態度をしていたのだが、ピーの友達である少女とオルグの「可愛くない」という指摘の元、入念な教育によって行動だけでなく心も今のような姿にふさわしい可愛らしいものに変化してしまったのだ。ちなみに少しわがままになってしまっているのは目をつぶれなくもない行為か。更にあげるならどのような教育を施されたのかという疑問が生じるだろうがその点に関しては想像に任せたいと思う。
 
 そんなピーの様子を微笑ましそうに見つめるオルグであったが未だにギャンギャンわめく妖精の姿が見てちょっと肩をすくめると立ち上がった。
「じゃあさ、ちょっとこの辺りをあたいと一緒に散歩しようよ。こんな薄暗い所にいるよりはちょっとは気が紛れるだろうし」
「悪かったな、薄暗くて。」
 オルグの言葉を聞いて今まで黙ってグラスを磨いていたグレイが苦笑まじりで言葉を発した。
「気を悪くしないでよ、事実なんだし。で、ピーちゃん行く?」
「ハイ、行きますぅ!」
 元気にピーは答えると翼をはためかして飛び上がり、オルグの肩にちょこんと乗っかった。
 それを確認するとオルグは手元にあったポーチをピーが乗っていない方の肩に引っさげるとバーの出入口に向かって歩き出した。
「それじゃあ出かけてくるわね。」
「ああ、だがこの頃はガラが悪い奴が増えてきたから気をつけろよ。」
「分かってるわよ。じゃあちょっと行ってくるわ。」
 老黒人の忠告を軽く流すとオルグは颯爽と外にむかった。
 
 
 
「う〜ん、いいお天気。」
「ですね〜。」
 薄暗いバーから一転して晴れわたる空の下にでた二人は思わずおもいっきり伸びをしていた。
 裏通りとはいえそこかしこに日は刺し、室内にいるよりは確かに気分を発散させるのに適している。二人はその事を確認するとあてもなくブラブラと歩き始めた。
 歩く事10数分、時折に好奇の視線を浴びつつ彼女らは歩き続けていた。肩にいるピーが奇妙なのではない、オルグの成熟した身体が男達を知らずうちにひきつけるのだ。
 この場所は大きな都市の裏通り。無論のこと、性質の悪い奴というのは存在する。そんな中を餌でもつけたかのような少女が1人歩いているのだ。それに反応しないではいられない奴もいた。
「よーよー姉ちゃん、こんな所で何してるのー。」
 そう背後からかけられた声にあからさまにオルグは顔をしかめた。彼女が出歩くと必ず1回はこういった「ナンパ」系の言葉がかけられるのだからそれはまあ無理もないかもしれない。
 オルグは振り返りも歩みを止めたりもせずに前に進んでいった。それをつけるように2つの足音が彼女を追いかけていく。足音を立てているのはいかにも柄が悪そうないかにも「チンピラ」という言葉があいそうな、18歳くらいの白人の少年ふたりであった。何が楽しいのか分からないがにやにやと顔を歪めながらオルグ達の後をついていく。
「いい身体してるねぇ姉ちゃん。どう? 俺達いい所知ってるけどこない?」
「ここは危ない所だしさー。俺達が安全な所に連れっててやるよ。」
 口々にオルグの興味を引こうと言葉を出すチンピラ少年達。それをことごとく無視しながらオルグは歩き続けた。その様子を肩の上のピーが不安げに見つめている。
 最初のうちはなれなれしげに話しかけていた少年達であったが、完全にしかとされている状態なのに対して段々と顔つきが怪しいものになっていった。
「おい、姉ちゃん。何こっちが下手にでてると思ってシカトこいてるんだよ。」
 少年の1人がいつ下手にでたのか分からないが、理不尽な怒りに駆られるとオルグの肩を掴もうと手を伸ばした。
 するとその手を1つの手が横手から捕らえた。はっとなって少年が振り返るとそこに1人の青年が立っていた。
 20歳前後と見られる見かけのその青年は東洋系の肌と顔立ちをしていた。逆立ち茶色がかった髪にやや吊り気味の目をした顔はまあ美形の方に辛うじて入ろうか。黒い革ジャンに藍色のジーパンを履いたその姿はふてぶてしく、そして青年にマッチしている。そして青年の顔には呆れたような表情が浮かんでいた。
「何すんだよこのイエロー・モンキー!」
 少年は叫ぶと青年の手を振りほどこうとした。だが少年がいくら力を込めても青年の手はびくとも動かなかった。
「・・・・どう考えても嫌がっている少女の後をしつこく付回した挙句に、勝手に怒って手をあげようとする・・・・。女性の扱い方を年長の奴から習わなかったのかい、ホワイト・チンパンジー君。」
 相変わらず呆れた表情を浮かべている青年の口から流暢な英語が流れた。その言葉を聞いて少年達の顔に火が点いたかのように真っ赤に染め上がる。
 侮蔑の言葉をあげつつ手を掴まれている少年は開いた手で青年を殴りつけた。その拳は鈍い音を立てながら青年の顔に当たる。その様子を見て少年の顔に下卑た笑みが浮かぶが次の瞬間には青年の顔に浮かぶ笑みを見とめて驚愕の表情に変わった。
「これで正当防衛成立、だなっ!!」
 青年はそう日本語で呟くと同時に凄まじいスピードの拳が少年の顔面めがけて繰り出された。少年は声も立てずに後ろに吹っ飛ぶとビルの壁にへばりついた。
 その様子を見てもう片方の少年は慌てた様子で懐をまさぐると一本のジャックナイフを取り出した。そして青年目がけて及び腰で突き出す。
 だが青年は慌てず騒がずに2本指をつきだすとナイフの刃を挟み込んだ。次の瞬間、
「あちいっ!」
 少年はまるで熱い鍋を素手でつかんだかの様子で慌ててナイフから手を離した。青年が指を外すと乾いた音を立ててナイフが地面に転がった。そして何故かナイフから湯気が立ち上る。まるで急激な温度で熱せられたかのように。
「おい、動くなっ!」
 突然あがった声の方に青年が振り向くと先ほどパンチで吹っ飛ばされた少年の方がオルグの背後に廻ってナイフを首筋に突きつけていた。それを見て青年の顔の険が強くなる。だが少しして青年の顔に不思議そうな、それでいて面白そうな表情が浮かび上がった。オルグの態度に余裕を見つけたからだ。
 そんな事に気づかずにオルグを人質に取った気になっている少年は震える手でナイフを突きつけたまま凄もうとする。そんな少年の手をオルグは冷めた目で見つめていた。少しも慌てていない。
「よくもやってくれたな、いいか動くなよ。動いたらこのアマが切り裂かれちまうぞ。」
 ありきたりな脅し文句に青年は呆れたように失笑をした。その様子を見て少年の頭に更に血が昇る。
 これが脅しなのではないという意味を含めてオルグの髪を切ろうとしたその瞬間、
「ちょっと、人の髪を切ろうとしないでよ。」
 オルグはそう言うと同時に背後の少年に裏拳をぶちかました。不意の攻撃に鼻から血をだし少年はくぐ曇った声を上げながらよろよろと後ずさる。
 その少年の腕をオルグは掴むと、掛け声と共に背負い投げの要領で思いっきり投げ飛ばした。体重70キロ近い少年の身体は宙を舞い、勢いよく地面に落下した。そして鼻っ柱すれすれに少年の持っていたナイフが落ちて地面に突き刺さった。一瞬気を失っていた少年であったが目の前のナイフを見とめて恐怖の悲鳴をあげる。
「まだやるのかしら?」
 オルグはにっこりと少年に笑いかけた。その笑顔はとても優しげなだけに少年にとっては恐怖もひとしおである。
 少年達は悲鳴をあげると一目散にその場から立ち去っていく。その様子をオルグと青年は呆れた感じで見ていた。
「どうやら俺が助ける必要なかったみたいだなぁ。わざわざ人通りの無い方を進んで行くからちょっと怪しく思ってたんだけどさ。」
「あら、だったら何でわざわざあたいを助けようとしたわけ?」
「まあ、美人が絡まれていたら助けるってのが男のつとめでしょ?」
 そこまで言うと二人は同時に吹き出した。ひとしきり笑った後にお互いに笑顔で向かい合う。
「まあ助けようとしてくれたのには感謝するわ。あたいの名前はオルグ、アンタは?」
「俺かい? 俺の名前は朱雀目炎樹(すざくめえんじゅ)。ちょっと仕事でこっちにきた日本人さ。」
 そして炎樹はにかっと白い歯を見せて笑った。
 
 
 
 お互いを自己紹介しあったオルグと炎樹は並んで歩いていた。炎樹曰く、「アンタのような綺麗な人が1人で歩いていたらまた悪い虫がよりつくだろう?」という事からだ。
 一瞬その言葉を聞いてオルグはこいつもナンパなんじゃないかと思ったが、どうやら下心が無い事が分かったので一緒に連れ立つ事になったのだ。
「しかしあたいに対してなんでこう変な男がよりつくのかしら。」
 オルグはわざとらしくため息をついてみせた。もちろん自分でも理由は分かっている。ただよりつく奴があまりにも似たりよったりなので辟易しているだけだ。
「それはオルグが綺麗だからですよ〜。もうオルグってそこらにはそうそういないくらいの美人さんですもんね〜。」
「そうだな、確かにそうそう見ないくらい綺麗だぜ、あんたは。」
 ピーの言葉に賛同するように炎樹が引き継いだ。オルグは二人の言葉を聞いて今度こそ本当のため息をついた。正直そんな風に褒められてもうれしくないからだ。
「そう言えばピーが話してるのを聞いても驚かないわね、普通はこういったの見たら驚くでしょうに。」
 オルグが気づいた事を何気ない口調で炎樹に聞いてみた。確かに人形のように見えるピーが喋って動いているのを見たら普通は驚き慌てるはずだ。だが炎樹は別段どうって事がないかのようにピーの存在を受け入れているのだ。
 それに対して炎樹は顎を指で掻きながらばつの悪そうな表情を浮かべた。
「あ、いいのよ。答えたくなかったら答えなくても。」
「いや、そういう訳じゃないんだ。ただ俺は狩人やってるから彼女みたいなのには慣れてるんだ。ただ『狩人』って言っても何のことか君達には分からないと思ってさ。」
「へぇ、炎樹さんも狩むぐっ」
 ピーは炎樹の言った事に対して反応したがオルグが口を塞いで黙らせた。気のせいか少し険しそうな顔をしている。
「何をするんですかぁ。」
「ピー、駄目よ言っちゃ。炎樹さんは恐らく表、彼は裏よ。そんな事知られたら何を追及されるか分かったもんじゃないわ。」
 ふくれっ面で抗議するピーをオルグは小声で忠告した。
 
 この世には人知の知れないものが『ある』
 霊といわれるものが。化け物といわれるものが。魑魅魍魎といわれるものが。悪魔といわれるものが。神と呼ばれるものが。
 また魔法といわれるものが。魔法としか思えないほど進んだ科学が。

 それは確かに『ある』のだ。
 「それら」は人間の前に殆ど現れない。だが人間に「彼ら」が牙むいた時、人間に太刀打ちできる術は無い。
 だが「それら」を「狩る」事を目的とした「者」も確かに『いる』のだ。

 そのことを知る者は、彼等を尊敬と畏怖をこめて「狩人」と呼ぶ。
 
 そして狩人には表と裏がある。己の力を他者のために使う正義の心を持つ『表』と己の力を他者を傷つける事に使う悪の心を持つ『裏』とが。
 表も裏もどちらも裏家業。だが内容は大きく異なる。そして二つは相反する存在、言わば水と油。
 ピーとオルグが知り合う少年もまた狩人であった。だが彼は裏であった。すなわち人を殺すのに何の躊躇いもない非情の存在。対して炎樹は胸の内に静かなる正義の炎を宿らせる表の狩人。彼らが出会えば恐らく衝突は免れないだろう。だからオルグはその事を炎樹に知られないようにしたのだ。
「ん、どうかしたのか?」
 不意に険しい顔をしだした二人に炎樹はのんきに質問した。どうやらオルグの小声は耳に入ってないようだ。
「ううん、なんでもないの。狩人って聞いたことあるなぁって話し合ってただけ。」
 誤魔化すようにオルグは一転して明るい顔で炎樹に向かって話しかけた。内心はばれないでよかったとほっと胸を撫で下ろしている。
「ふうん、知っていたのか。まあこういったのと一緒にいるんだから知っていてもおかしくないかもな。」
 炎樹はさしたる気もかけずに答えると人差し指でピーの頭をなでてあげた。それをくすぐったそうにピーは身を震わせて喜ぶ。
「ところで仕事でここに来たって言ったけど、何かここで問題でもあったの?」
「ああ、実はさ。この辺りにいたマフィアが壊滅したのって知ってるかい?」
「・・・・・ええ、知ってるわ・・・・。」
 前を見ながら喋りだした炎樹にオルグは顔を曇らせながら答えた。知っているも何も元々彼女はここら一帯を取り仕切っていたマフィアの跡取りだったのだ。だがドンが死んだ際に彼女は跡を引き継ぐのを拒んだ。その結果内部分裂が起こり、結果としてマフィアは壊滅してしまったのだ。
 その事を少しも悪い事をしたと思っていない。何しろ組織がやってた事がドラックの販売や武器の密売といった悪い事そのものなのだから。だが結果として多くの者を路頭に迷わせた事が少し気にかかる事であった。
「その結果さ、この辺りに爆発的にストリート・チルドレンが増えたんだ。今さっきオルグちゃんをナンパした奴みたいな輩がさ。」
 オルグが顔を曇られた原因の1つは実はこれだった。悪事を取り仕切るマフィアがいなくなった事で小ずるい悪事を働く子供達が増えてしまったのだ。結果、治安はマフィアがいなくなるよりも逆にある意味では悪くなったくらいだ。
「ところがさ、何だかそういった子供達の集まりが増えていく中、行方不明になる子供が続出しているんだ。」
「へぇ・・・そうなんだ。それは知らなかったわ。」
「うん、抗争で死んだ子供とかじゃなくてまさしく行方不明。で、あまりにも怪しげな状況なんで俺たち狩人に依頼が廻ってきたって事さ。」
「でもさ、何で狩人何かがそんな事件に乗り出してきたの? 悪事を働いている子供がいなくなるだけならそれでもいいじゃない。」
 オルグは不思議そうに炎樹に尋ねた。だがそれに対して炎樹は顔を険しく歪めた。
「そんな事はないさ。彼らは親を無くしたとか親が子供の世話を放棄した結果なってしまった言わば孤児が殆どなんだ。彼らはやっていい事と悪い事がまだ区別ができてない、本当に『子供』なんだよ。彼らにはまだやり直す時間は充分にある。その機会を摘み取るような事は俺は許す事ができないだけさ。」
「ふーーーん、ちょっと甘い考えだね、それは。」
 オルグはすました顔で炎樹を見上げた。だがすぐにニッと微笑んだ。
「でも嫌いじゃないな、そう言った考えは。」
「へへ、そう言われると悪い気がしないな。」
 鼻の頭を掻きながら炎樹は照れた。美少女に褒められて悪い気がしないようだ。
「それで子供達に聞き込みをしているんだけど依頼してきたグループ以外はみんな協力的じゃなくてね、分かっている事と言ったら殆どのチルドレングループに被害が及んでいるという事くらいだよ。」
 なるほどね、と思いながらオルグはうなずいた。彼女はこの所近所の噂には全く気に留めていなかったが、気になる情報ではあった。額を小突きながら情報をまとめて整理および推理を働かしてみる。
「この事件からすると・・・何かしらの組織が関わってると考えた方がいいかしら?」
「どうだろう? その気になれば異能な力を持った人間1人いれば事たりるものさ。一般以上に常識外れの力を持った人間ってのは結構いるもんだぜ。」
「例えば貴方の発熱能力のように?」
「へぇ・・・・気がついていたのかい。思った以上に眼が鋭いんだね。」
 炎樹は感心したようにオルグを見つめた。それをしてやったりとした表情でオルグは見つめ返す。
 炎樹の狩人としての特殊能力は彼自身が「ザ・ヒート」と呼ぶ(この頃は大人になったのかあまり言わなくなったが)両の掌から高熱を放つ力だ。その気になれば鉄板を蒸発させるほどの高温を瞬時のうちに発生させる事ができるほど強力な能力だ。ただそれをやると周りどころか自分にまで被害が降りかかってくるので滅多な事ではやらないが。事実彼はその能力を暴走させた為に取り返しのつかない過ちを犯してしまっている。
「・・・まあ話は戻すけど、さらわれたのは50人近く。考えたくないけど死体にして随時処理していたとしてもそれを処理する施設がいるしね。だから最初は建物から調査を始めてみたんだけど・・・」
 そこで一旦言葉を区切ると渋い顔をして周りを見渡し始めた。彼らが歩く通りの両手には数階建てながらもビルと呼ばれるものが軒並みに連なっている。
「だけどこの辺りには沢山のビルとかといった建物があるから、どれが子供達を押し込めているなりしている建物か一個一個探してたら世紀が暮れる。」
「確かにそうねぇ・・・・。」
「ですねぇ・・・・。」
 炎樹のぼやきにオルグとピーが同意した。確かに炎樹の言うとおり子供を押し込めるくらいの大きさの建物は周り見渡しただけでも50は超えるだろう。更に被害は広範囲に広がっているので、その全ての範囲を調べたら千に達するのではないだろうか。
「だから建物から調べるのは2日目で止めて、今度は聞き込みして捜査を続けたんだけどチルドレンも住人達もどっちも非協力的って訳さ。」
 炎樹はお手上げとばかりに両手を上にかざすと盛大にため息をついた。もっともチルドレンからすれば対抗組織の人数が減って助かっているだけだろうし、住人からすれば粗暴な子供がいなくなった所で痛くも痒くもないのが現実だろう。
 3人(?)は話している間もとぼとぼと歩き続けた。空は澄みきり暖かな日差しが照っているがそれとは対照的に炎樹の顔は曇っていた。
「何かパパーっと探しものが見つかる能力とかないんですか?」
 ピーの軽い口調に更に炎樹の顔が渋くなっていく。
「いや、あるんだけど・・・・。」
「だったらそれで見つけちゃえばいいじゃないですか。」
「その能力持ってる人、今日本にいるんだよ。それに俺がここに来るまでの間には前の仕事のせいで風邪ひいちゃったしね。」
 と言いつつ炎樹はため息を1回つくと1人の男性の顔を頭で思い浮かべた。彼がこの世で最も尊敬し、かつパートナーと思っているその人は相性の悪い水場での戦いでのせいで風邪をひいて倒れていたりする。
「まああの人曰く『たまには1人でやってみろよ』って言われたから来てみたけど・・・やっぱ俺1人じゃむずいぜ。」
「うーん、確かに貴方1人じゃむずかしいでしょうね。」
「なんだよそれ?」
 オルグの何気ない一言に炎樹は頬を膨らませて怒り出す。
「怒らないで、貴方情報屋ってのを知らないでしょ?」
「情報屋? ああ情報を専門で売ってくれる人たちのことだろ? それがどうしたのさ。」
「あのね、情報ってのは1人で探しててもそうそう集まらないものなのよ。そりゃ貴方の知ってるって人の能力にかかればあっという間でしょうがそれは例外中の例外。こういった情報は蛇の道は蛇って感じで1人でちまちま探すよりその筋の専門の人に頼むのが得策なのよ。」
 オルグは諭すように炎樹に語りかけた。年下の少女が青年に諭す姿は傍から見たら滑稽かもしれないが実際の彼女の年齢を知ればそうでもないかもしれない。
 炎樹も最初こそ怒っていたが少女の言うことを黙って聞いている。
「だから今貴方がやるべき事は自分の足で情報を集めるんじゃなくて情報屋を探し出す事だと思うの。下手に自分で探すよりもずっと手間暇がかからないし、最終的には事件に早くたどり着けると思うわ。」
「なるほどなぁ、それは考えてなかったぜ。そうか情報屋とコンタクトを取るのか・・・」
 しきりに炎樹はうなずいているのをちょっと呆れた目でオルグは見つめていた。本当にこいつは狩人なのかと怪しみだしたからだ。
「そうか、じゃあ早速コンタクトを取ってみるぜ。」
 軽い調子で高らかに宣言する炎樹。ちなみにどう接触すればいいのか彼の脳裏には今の所は具体的には形作られてない。基本的にノリが軽い方なのだ、彼は。
 
 そうこう話していると彼らは少し開けた通りにでた。すると軒並みに佇んでいる1人の少年が彼らに気づくと手を振りながら近づいてきた。
「炎樹さーん。」
「ああ、ケイン。」
 3人に近づいてきた少年は15、6歳くらいに見えた。意思の強そうな濃い眉毛をした白人の少年は笑いながら歩み寄ってくる。
「こんにちは炎樹さん。あれ、この方達は?」
「ああ、さっき通りで知り合った人たちさ。紹介しておくよ、この子が今回の事件の依頼人のケイン、この辺りのストリート・チルドレンの頭をやってるんだ。」
「こんにちは、ケインさん。あたいはオルグっていうの、よろしくね。」
 オルグはにっこりと微笑みながらケインに手を差し出した。その笑みに見惚れてケインの顔が真っ赤に染まる。結構ウブなようだ。
「ああ、こんにちは。オルグ・・・って前ここら辺りにいたマフィアの跡取りと同じ名前なんですね。」
 ぎごち無く手を握り返してくるケインが言った言葉に対して内心ギクリとするオルグ。的を射ているだけに冷や汗ものだ。
「あはは、あっちは男じゃないの。あたいは女、それに年齢も全然違うでしょ。」
「ははっ、それもそうですね。」
 空笑いをして思わず誤魔化すのを特に深くは考えずにケインは同意した。どうやら深く突っ込まれずにすんだと思って胸をこっそり撫で下ろす。
「ところで大変みたいねあなた達も、仲間がさらわれるなんてお気の毒に。」
 オルグの言葉にケインは驚いたような表情を浮かべた。そして少し非難じみた視線を炎樹に向ける。
「ちょっと炎樹さん! 赤の他人に仕事の内容ばらさないで下さいよ!」
「うん? まあいいじゃん。ばれて困る事でもないし、あはははは。」
「全く・・・相変わらずノリが軽いんだから。」
 とくに悪い事した気でもなく笑う炎樹をため息をついてケインは呆れた。
「まあいいじゃないか。それじゃオルグちゃんとはここで別れて大丈夫かな。」
「ええ、この辺りまでくれば家も近いし大丈夫よ。」
「そうか、じゃあ行こうかケイン。実は話し合いたい事があるんだ。」
 お互いに手を振り合うと炎樹とケイン、オルグとピーの二組に分かれて別々に歩き出した。炎樹とケインは何かを話し合っているようだがもうオルグの耳には届かなくなってきていた。
「ふう、どたばたがあったけどそれなりに楽しめたわね。それじゃピーちゃん家に帰ろうか?」
「はいです。それにしてもぉ・・・」
「どうしたのピーちゃん?」
「あのケインって子、すっごい魂の力が強かったですよ。あの子きっと将来には出世すると思いますぅ。」
 元々ピーは魔の森と言われた悪霊が沢山住まう所ですごしていたせいか人の魂を鑑定する能力がある。魂の強さとは言わば意思の強さとも言え、通じてリーダーシップを取るのに適合しているのを指している。
「ふうん、だからあの子あんなに若くて子供達のトップについているんだ。」
「ですね〜。」
 その事に関して特に取り立てて気にする事もなく、2人は家路につくのであった。
 
 
 
「はぁ〜、進展今の所なしかぁ。」
 炎樹はかけていた携帯から耳を外すとベットの上で大の字になった。
 ここは炎樹が宿泊しているホテルの一室だ。値段のわりにはセキュリティがしっかりしているのでここに泊まっているのだ。
 炎樹はオルグと別れた後、ケインと相談して情報屋を探したのだ。そして接触できた情報屋と契約すると数日の間、電話で逐次連絡取り合っているのだ。
 無論自分の足でも情報を探している。だが一向に情報は集まらなかった。解った事といえば行方不明になる子供は1人きりになった途端いなくなるという事、そして事件は未だに間違いなく続いているという事だけだ。
「この事から判る事といったら行方不明になった子供たちはどうやらさらわれているという事が推理できるくらいか。」
 1人部屋で呟くとベットから立ち上がり、黒い大き目のバックから地図と一枚のファイルを取り出した。
 地図には子供たちが最後に確認された場所が、そしてファイルにはさらわれた子供たちの顔写真と年齢やどこのグループ所属といった大雑把な経歴が掲載されていた。これらは情報屋が全て見つけだして提示してくれたものだ。
「うーん、見事に年齢性別体格顔形すべてバラバラだなぁ。さらわれた場所も順序決まっていないし、むむむむ・・・。」
 確かに見たところ子供たちには年齢が6歳以上19歳以下、ストリート・チルドレンに所属以外には同じ特徴と言えるものはなかった。
 更に地図には最後に確認された場所が記載されているがそれも場所はまちまち。同じ箇所で同じ日にさらわれる事もあれば3日おいて全然違う場所でさらわれるケースもあった。この事から犯人は計画性は特に無く、とりあえず拉致する子供が1人になったらさらうといった感じのようだ。
(どうする? 先輩に千里眼使ってもらおうか? でも今頃風邪ひいて倒れてるだろうから無下に頼むのもなぁ)
 炎樹が先輩と呼ぶ男には千里眼というこの世の全てを見通す力を持っている。だが彼はその力を使うのをあまり好んでいない。更に言うなら今この時点では彼は風邪を肺炎まで悪化させていて七転八倒している最中だったりする。
 炎樹には彼の状況は解らないがとりあえず先輩曰く、「1人でたまにはやってみろ」と言われたのでここに来たのだ。一応1人でやってみようと心がけて動いてみる事にした。
(それにこいつらは出来れば俺の手で救ってやりてぇ。親に見捨てられて生きているこいつらを、な・・・)
 炎樹の心に1つの影を落とす過去が彼にはある。かつて炎樹はその手で両親を殺してしまったのだ。まだ幼い彼には自らの能力を抑える力がなく、そして悲劇は起こってしまった。
 だからこそ炎樹は家族というのを人一倍大事にする。彼にとって家族とはもう手に届かない大切なものなのだから。
 そして今親とはなれ離れになり寄り添って生きている子供が何者かの手でさらわれている。それを助けてあげたいと炎樹は心から思った。
(とは言えこのうちの何人かは既に殺されるかどっかに売られているか・・・)
「あ、そうか!」
 そこまで思考を続けて炎樹ははたと気づいた。これだけの人数がさらわれているのだから場所だけではない、金もかかる。となるとこの子供たちをさらって売るなりしている可能性があるのだ。人一人を拉致し続けるのも処理するのもどちらにも手間隙がかかるからだ。
 そこで一番手っ取り早い金策は何かというとさらった人物をどこかに売るということだ。それならさらった人物も一緒に処理できて一石二鳥である。
(それが本来の目的かどうかは判らないが恐らく子供の処理に人身販売を使ってるに違いねぇ・・・。最悪臓器販売の方も考えないとな・・・。)
 炎樹はそこまで考えると嫌そうに顔をしかめた。そして情報屋にその筋の方から調査してもらうように電話をかけた。
 
 ・・・・・3時間後、情報屋から炎樹の携帯に電話がかかってきた。内容を聞いて炎樹の顔がどんどん険しくなっていく。
「そうか、俺の想像通りだったかよ。取引場所は・・・ああ解った。ありがとうよ。」
 電話を切っていらただし気にベットに携帯を放り投げた。内容を思いだして更に顔が険しくゆがんでいく。
 電話の内容は最悪の内容だった。増えていたのは人身販売の方ではなく、臓器のほうであった。この所子供の臓器販売が急激に増えているのを情報屋は嫌そうに炎樹に告げた。
 それもある一部の地域から大量に流れているのを情報屋はキャッチしていた。取引が行われている場所を告げるともう少し調査するといって情報屋は切っていった。
「最悪だぜ・・・だがこれ以上被害はださせねぇ・・・。」
 炎樹はひとりごちると鞄の中から1個のナップザックを取り出した。それを肩に引っさげた。何か重い物でも入っているのか下の方に深くずり下がっている。その事を確認すると炎樹は部屋の外にでようとした。
 その時電話音が突然鳴り響いた。それはテーブルの上の電話機から鳴っていた。炎樹は何事かと思い手に取ると受話器を耳に当てる。
「もしもし・・・。・・・・・・あ、あんたは確かオルグさん? どうして俺がこのホテルに泊まっているのを知って・・・え、何だって!?」
 炎樹の顔に衝撃が走った。受話器を握る手に力がこもる。
「ケインがさらわれたのを見た!? ・・・・わかった、すぐそっちにいく!!」
 
 
 
 少し時間をさかのぼる。炎樹が情報屋に気づいた事を告げていたのと同じ頃、ピーはニューヨークの空を1人ピロピロと飛んでいた。
 その日は快晴で風も弱く、絶好の飛行日和であった。ピーは存分に羽を伸ばして空を飛んでいた。
「あー気持ちいいですねー。いっつもこうだといいんですがー。」
 そんな気象現象に無茶をいいつつピーは思う存分空の散歩を満喫していた。もしもの場合を考えていつもよりも高度を高めにしている。
 ピーは下の風景を見ながら空を飛び続けた。ピーの下の方には多くの人々が歩いている。彼らは30cmくらいの大きさになってピーには見えていた。
「こーいう状況を「ふふふふ、人が虫けらのようだ」っていうのでしょうか?」
 等と危ない発言をしたりしながら散歩を楽しみ続ける。一通り表通りの上を飛ぶと続いて裏通りの方へ飛んでいった。
 表通りに比べて裏通りは人の数はかなりまばらになっていた。まあ逆に怪しげな人ならば増えているかもしれないが。
 そんな感じでふよふよと飛んでいると、
「およ? あそこにいるのは確かケインさんではないですか?」
 ピーはつい先日に見かけた少年の顔を見つけた。少年は彼よりも年長と思しき子供たちに指示をだしているようだ。少年達の顔が殺気だっている所からするとどこかのグループと抗争にでも出かけようとしているのか。
 そして一通り指示を終えたのかケインは建物の中に入っていった。それを何故か興味を持ったのかピーがこっそりついて行った。
 ケインはすたすたと建物の中に入るとドアを開けて1つの部屋に入っていった。どうやらそこはトイレらしい。
 男子小用便器の前に立つとチャックを下ろしてひとりごちた。そしてふうとため息をつく。
 次の瞬間、ケインの身体がビクンと跳ね上がった。まるで電気ショックをいきなり食らったかのように。そしてそのままケインは床に倒れ伏した。
 次の瞬間倒れたケインの身体に不思議な現象が起こった。徐々にその姿が薄れていき遂には影も形も残さず消え去ったのだ。
 その後何かを抱え込むような音がトイレの中で聞こえると音もなく窓が開き、ドタバタとした音が段々と遠ざかっていった。
「あやや、大変です〜。」
 その一部始終をピーはこっそりと見ていた。どうしたらいいか分からずオタオタしていたが、とりあえずオルグに相談しようと建物から飛び出していった。
 
 
「・・・その後オルグちゃんは俺と連絡を取ろうと考えて、知り合いの情報屋から俺の泊まっているホテルを割り出してもらって連絡をつけたって訳か。」
「そういう事。」
 炎樹とオルグとピーはケインがさらわれた建物のすぐ側で合流していた。建物の前にはケインのグループと思わしき子供達がリーダーを探して右往左往している。
 そんな子供達を尻目に3人は情報を分かち合った。そしてこれからどうしようか頭を合わせて考える。
「とりあえずケインを急いで救出したい。」
「そうね、急いだ方がいいと思うわ。何が目的で拉致しているのか未だに不明だけど、ろくでもない事が行われているのは確かね。」
「やはり子供の臓器が取引されている場所って所を中心にしらみつぶしに調べるしかないのではないでしょうか〜。今ここで手をこまねいていても事態は悪い方にしか進まないと思います〜。」
「だね。じゃあ俺が辺りの建物を強襲しまく・・・・。」
「待った、あたいも行くよ。」
 炎樹の言葉を制してオルグは懐から銃を取り出した。その銃はグロック17という1980年代初頭にオーストリアのグロッグ社が開発した小型自動拳銃だ。玩具的なデザインとは裏腹に優れた安全設計とプラスチックを多様した軽量さが売りの民間はおろか公的機関でも使用されている優れた銃だ。デザインが解らないという人はアニメ「ジャ○ア○ト○ボ」の銀○が持ってる銃だと言えばマニアな人なら解ろうか。
 そんな訳で(?)オルグはデザインと使い勝手のよさからグロック17を愛用している。それを手に彼女は不敵に笑みを浮かべた。
「え、でもこの件に関して君が関わる必要はないだろう?」
「まあここまで首を突っ込んだんだし、最後まで付き合いたいと思っただけよ。それに・・・」
「それに?」
 するとオルグは銃を見てねちりと笑った。その笑みを見て炎樹とピーの背筋に怖気が走る。
「それに、この所こういったドンパチしてないから欲求不満なのよねぇ。こう久しぶりに鉛の玉で肉をえぐる感じ?ってのを味わいたくてさぁ・・・。」
 そう言うとオルグはクククク・・・と低く笑い出した。その様子を見て炎樹とピーは小声でこそこそと話しだす。
「ねぇ、彼女ってもしかしてやばい系?」
「えーっと元はマフィアに所属していたそうですからこういった危険な空気ってのが結構すきなのかもしれません〜。」
「どうしたのよ、さあ行きましょう!」
 何か縦線でも入っているかのように滅入った雰囲気をかもしだす2人を促すオルグ。どこかうきうきしているような気がするのは気のせいか。
「えーっと、とりあえず・・・」
「行った方が身のためだと思います〜。」
 こうして3人は現場に向けて走り出した。
 
 
 
「う・・・」
 少しのうめき声をあげながらケインは意識を取り戻した。
「う・・・どうしたんだ、俺は。」
 最初こそはっきりしなかったが、次第に意識が覚醒してくるとじょじょに視界が開けてきた。
 まず視界に飛び込んできたのは白く光輝く蛍光灯であった。それはどこか冷たい感じを漂わせて辺りを照らしている。
 ケインは自分が横たえられているのに気づいた。ほとんど条件反射のように立ち上がろうと身をよじらせた。
 だが身体は立ち上がろうとしなかった。腕と足の部分が強く引きとめられるのを感じ、慌てて視線を身体に走らせた。
 身につけているものは気を失う前と同じ物だったが、手足には黒い鉄製と思わしき輪がはめ込まれており、そして輪はケインが横たわるベットと接合されていた。
 何度か輪を外そうともがくがよほど強く接合していのだろう、ケインの細腕ではピクリとも動こうとしない。
 ケインはもがいている間も状況を判断する為に辺りを見渡した。手狭な部屋らしく、ケインの左手側には白い壁が見て取れた。そして右手を見た瞬間ケインはあまりの光景に呆気を取られる事になる。
「なんだ・・・こいつらは?」
 ケインの視界に大きなガラスと思えるものが飛び込んできた。その先にはケインがいるよりも大き目らしい部屋には何体もの人形と思わしきものが陳列されていた。人形と言ってもそれらはおままごとにつかう可愛らしいものではなく、背丈は人間と変わらない大きさで全身が青く鈍く輝く金属で作られており、顔の真ん中には赤い目が1つだけついているだけのまるで一昔前のSFで使われている機械性のエイリアンを連想させるものであった。
 ほとんどの人形達は似たりよったりのものであったが、1つだけ違う雰囲気を醸しだす人形が一番端の方に立っていた。
 「それ」の身長は160に満たず、他のものと比べて小柄であった。「それ」にはまるで普通の人形のように顔がついていた。あまり大きめではないが切れ長の目と凛とした佇まいを思わす口は閉じられ、栗色の長い髪は肩まで伸びていた。そう、それの顔は女性の顔をしていた。年齢を当てはめるならば17、8歳くらいか。美しい女性になる前の少女を思わせる。
 少女の全身は赤く染まった甲冑を身にまとっていた。その胸の部分はつつましげながらも膨らみを形作っている。少しみただけでは少女は寝ているように見えただろう。だが少女は息をしておらず、また身動きを少しもしようとしていなかった。
 身じろぎ1つしない異様な集団をケインは呆然と見ていたが、足の先のほうから何か物音がしたのを感じ取ると頭を起こして目を走らせた。
 視線の先には一枚のドアがついており、音はドアが開いた事によって生じたものであった。ドアをくぐり抜けて現れたのは2名の男性で2人とも白衣を着ており、1人は赤髪でガタイのいい強面の20歳くらいの白人で、もう1人は黒髪を肩で切りそろえた針金のようにやせ細った50歳くらいの黄色人種であった。ケインはその顔立ちや雰囲気からその中年が日本人であることが分かった。白人の方が粗暴な印象を醸しだしているのに対して日本人の方は理知的だがどこか冷たい印象をケインは受けた。
 男達は黙ったままケインを見下ろした。ケインは怒鳴り散らそうかと思ったが中年の目を見たとたんにその気が失せていた。中年の目には若者とは異なる、だが青年を上回る凶暴性を感じたからだ。青年のは飢えた虎のものだとしたら中年のは獲物を捕らえた鷹と言うべきか。
 青年の手には様々な店で取り扱われているバーコードを読み取るバーコードリーダーの様な物が握られていた。青年はゆっくりとそれをケインに近づけると額に押し当てた。数秒後、ピッという機械音をたてながらバーコードリーダーの様な機械の上部に取り付けられたディスプレイに数字が表示された。その数値を見て青年の目が驚いたように開かれる。
「Mr.冴島、どうやら今回は当たりの様だ。こいつの魂の数値は10万を超えてる。」
「そうか、これでやっとメルシプスが起動できるな。」
 青年の言葉に満足したかのように冴島と呼ばれた中年はうなずいた。そしてまるで赤子を愛でるかのような視線でケインを見下ろした。その視線の気持ち悪さにケインの背筋に悪寒が走る。だがそれにも関わらずケインは未だに声を1つあげる事ができなかった。冴島の瞳に潜むものに蛇に睨まれた蛙のように身動き1つ取れなくなってしまっているからだ。
「ところで最初に話した件なんだが・・・」
「ああ覚えているとも。いままで起動したソルジャー達は残していくし、ソルジャーの起動に必要な装置も残していくよ。私としてはメルシプスさえ起動すればいいのだからな。」
「そうか、これで俺の目的は達成できる。」
 ケインは2人の会話を聞いていて何が何だか分からなかったが、どうやら自分が拉致られた事と自分がメルシプスというモノの起動に使われるという事だけは分かった。そしてそれをされるとろくでも無い事が振りかかるという事も。
「おい、お前ら!」
 このままではいけない、そう思って勇気を振り絞って声をあげる。だが
「黙りなさい。」
 冴島のたった一言によって次の言葉がでなくなってしまった。まるで全身に錠をかけられたかの様に全く身動きが取れなくなってしまう。
「ケリー君、メルシプスを起動してしまいましょう。」
「は、はいよ。」
 冴島の語気に気おらされたかのようにケリーはうなずくとケインの傍らにしゃがみこむ。次にケリーが立ち上がった時には先ほどのバーコードリーダーとは別の、まるでヘルメットのような機械を持っていた。ヘルメットには見ているだけで不安にさせるようなコードが配線がされており、またアンテナとかが立っていて更に不安を譲著させる。
 ケリーは有無を言わさずにケインにヘルメットを被せた。そして側面についているスイッチを押す。
 その瞬間ケインの全身を凄まじい衝撃が走った。身体から自分の意思ともいうべき「何か」を強引にひっぺがされるようなそんな衝撃。生きたまま膾切りにあうかのような苦痛とこの世で味わう全ての苦悶をいっぺんに味あわされたかのような感覚を一気に味わいケインの意識は急速に失われていった。
(くあぁぁぁぁぁぁ!! 助けて、炎樹さん・・・・)
 ケインは心の中で炎樹に助けの声を叫びながら意識を失った。


 <あとがき>という名の戯れ言
 
 えーやっと書けました。狩人をお届けします。まってる人いるのかね?
 
 とりあえずとしましては作品として皆様の前に出した以上は完結まで時間がかかっても持って行こうと思います。このような駄文作家の作品ですが、よろしくお願いします。
 
 つーかこの頃はFF11ばっかやってまして! いやあゲームの内容は面白くないけどチャットが面白いというか! とりあえず楽しんでいます、一応。
 
 あと出来れば別の作品も書いていきたいな。まあ色々とやっていこうと思います。
 
 それではまた皆様とお会いできることを願いつつ筆を置かせていただきます。またお会いしましょう。
 
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