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狩人 - 第1の石【中編】 -
作:DEKOI



3:捨て石にされた若者
 
 ニールは構成員20名ほどの少年ギャングのリーダーをしている。年齢は16才で恐面でがっしりとした体格の少年だ。
 彼等ギャング団はこの辺り一帯を取り仕切るネクロード・ファミリーという名のマフィアの手下のような扱いを受けていた。
 ニールはその事を歯がゆく感じていた。
「いつかネクロード・ファミリーを俺が叩き潰して、この街の利権を全て奪ってやる!」
 彼はできもしない野望をネクロード・ファミリーにばれない様に影でこそこそと豪語し続けていた。
 
 そんなニールの所にある日、電話が1本かかってきた。
「ネクロード・ファミリーに一泡ふかせてみたくないか?」
 電話の主は彼にそう囁いてきた。力こそ強いが愚鈍であった彼はあっさりとその誘いに乗った。
 電話の主が彼を『道具』としか見てない事に気付かずに。
 
「指定した場所はここだな」
 ニールは深夜遅くに電話の主が指定した廃ビルに来ていた。
「本当にここなのかよ?」
「なあ、怪しいと思わないのかい、兄貴?」
 ニールの他にジョンとキーノという名の弟分2人が連れ添っていた。
「大丈夫さ、何かあったらコイツで殺っちまえばいいんだ」
 ニールは持っていた大振りのナイフをちらつかせながら不敵に笑った。その顔には脅えの色など微塵にも感じられない。事実彼は既に10人ほど私情で殺している殺人鬼だ。
 対して残りの2人は不安の色を隠しきれなかったが尊敬する兄貴分の言う事だから、という安易な考えにすがってニールに着いてきたのだ。
 彼等3人は廃ビルの中に潜入した。電気などという便利な物は既に止まっており、墨を撒き散らしたかのような暗闇がビルの中に広がっている。
 ジョンが持っていたペンライトで辺りを照らしながら3人はビルの中を進んだ。ニールは堂々と、他の2人は脅えながら。
「よーしこの部屋だ」
 ニールはある1つのドアの前に立つと大声を張り上げた。残りの2人はドアに対してニールの背中に隠れるようにして立ち止まった。
「さてと、電話の野郎が言う通りならこの中にネクロード・ファミリーをぶっ潰せるだけの火器が用意されているって話だぜ。」
「でも何でそんな物を俺達に用意してくれるんですか、その電話の野郎は?」
「何でもネクロード・ファミリーの内部の野郎らしくてよ、ドンを殺して新たな体勢を作りたいから勇猛な俺達に手伝ってもらいたいそうだ」
 ニールは上機嫌だがジョンとキーノは不安そうに顔を見合わせた。どう考えても怪しすぎるからだ。
「兄貴、やっぱり止めたほうが・・・」
 キーノは一応抗議の声をだすがニールは聞いていない。全く警戒せずにドアを大きく開けた。
 その途端、暗闇でも分かるくらいはっきりとした白い煙が部屋から噴き出してきた。あまりの事態に慌てだす3人。
 そして煙と同時に彼等が立っている通路の奥から1つの人影が走ってくるのに、煙に気を取られていた3人は気付かなかった。
 謎の人影は3人に接近すると腹部や頭部を殴って次々に昏倒させていった。
「や、やっぱり罠だったんだ・・・・」
 ジョンは腹を殴られ、床に倒れながら後悔のうめき声をもらして気を失った。
 
「3人か。1人で来ると思ったのだがな」
 人影はボソリと呟いた。男、それもまだ若い男性の声だ。暗闇の為に男の顔を判別する事ができないが首元に何かを巻き付けているのが分かる。
「さてと、役だってもらうぞ。俺の『道具』としてな」
 男は声を潜めながら笑った。その声をもし聞く者がいたならば、心身の根から凍りつくのではないかと思えるくらい暗く、冷たかった。
 
 
4:招かれざる来訪者
 
 ニューヨークの裏路地にあるバー『Marshland Vulcher』の店内に3人の人影が見えた。
 1人はカウンターに立っている初老の黒人だ。岩のような巨躯はバーテンというよりも用心棒の方が似合っていそうだ。
 老人の名はグレイという。バー『Marshland Vulcher』のバーテンダーだ。もっともそれは表の顔であって、本性は元殺し屋にして現役の情報屋兼武器密売人という物騒な人物だ。
 残りの2人はカウンターの席に座っている。1人は13才くらいの少女だ。美しいブロンドの髪をツインテールに纏め、大き目の瞳は澄みきった青、サクランボを連想させる唇、染み一つない艶やかな白い肌。極上の美少女だ。
 だが少女の格好は何故かジャケットにジーパンにスニーカーという思いっきり男物であった。ツインテールの髪型とまるであっていない。
 彼女の名前はアインという。今でこそ美少女だがほんの2週間ほど前は男だったりする。『カオスクリスタル』という邪悪な力を秘める石を探索、破壊する為に、女性の方が石の場所を探し易いという なんとも安直極まりない作者の都合 理由から少女に身を変じさせたのだ。変身してから2週間たった今でも身体的には女性でも精神的には男のままだ。
 そして最後の1人は灰色がかった髪の毛に白くもなく黒くもない色の肌をした16、7才くらいの国籍不明の少年だ。相対的に大きな目は目つきが悪く、顔の表情も見た目の年のわりには表情が乏しい。
 しかしこの少年は同年代の若者と比べたら比較にならないほど特異な存在なのだ。何故ならば彼は「裏狩人」なのだから。
 「裏狩人」、それは己の異能の力を殺戮や非合法の破壊活動に用いる裏の世界でも最も汚い職業の者だ。その存在を知る者はわずかしかいない。殆どの依頼人が証拠を消す為に「裏狩人」を消そうとして逆に返り討ちにあうからだ。
 クロウの手元には数枚の紙の束とそれにクリップで留められた幾枚かの写真があった。写真にはそれぞれ1人の人間が隠し撮りで撮影されたかのように写っている。
 写真のうちの一枚をクロウは手に取った。写真には黒いサングラスをかけた50才くらいのいかめつい雰囲気を醸し出している角刈りの白人が写っていた。
「こいつがマフィアのドン、ライバード・ネクロード」
 クロウは写真を眺めながら呟くと次の写真に手を取った。その写真には16〜8才くらいと思しき鋭い目つきの白人の青年が写っていた。どことなくライバード・ネクロードと似ている。
「で、こいつが1人息子のオルグ・ネクロード」
 次に最後に留められていた写真を摘むとカウンターに置いた。そこに写っているのは30代後半と思われる目つきの悪いキツイ雰囲気を醸し出している女性であった。
「最後にこいつが妻のイアラ・ネグロードか」
「そうだ、コイツ等がネクロード・ファミリーの中核をなす者達だ」
 クロウの呟きにグレイは答えた。
「コイツ等の誰かが"石"を持っているのか?」
「おそらくな。しかしたかだか1つの"石"を奪う為にマフィアに喧嘩売るのか。割りが合わないな」
 身を乗り出して写真を見ているアインの言葉にクロウは心底面倒くさそうに応じた。
「そんな事言ってもお前は爺さんの依頼を受けたんだろ? だったらちゃんと依頼をこなすのが筋ってもんだろう?」
 指をちっちと振りながらグレイはクロウを茶化すように目つきと態度の悪い少年に話かけた。
 少年は「チッ」と小さくつぶやくとカウンターに置いてあった水入りのグラスに口をつけた。
「戦法は、どうするんだ。」
「・・・・「囮」を1体作った。そいつを玄関口にぶつけて雑魚を引き付けさせる。その隙に壁でも乗り越えて侵入するさ」
 グレイの言葉にさもつまらなそうに答えるクロウ。
「あのよぅ、俺は何をすればいいんだ?」
 2人のやり取りを横で見ていたアインは不思議そうな顔で聞いてきた。
「何もするな。昔のお前ならいざ知らず、現在の状態では役にたつ可能性は0に等しい」
 クロウはアインの方を見もせずにぶっきらぼうに言い捨てた。それを聞いてアインは憤慨したかのように頬を少しふくまらす。その表情は彼女の魅力を更に高めるのだがそんな事に気づく彼女ではなく、更にその魅力に篭絡されるような普通の感性を持った男もいなかった。
「でもよ・・・」
「お前にはマフィアを制圧した後に、混乱の為に行方がわからなくなった"石"を探してもらうかもしれん。だからお前の行動オプションは「待機」のみだ・・・わかったな」
 食い下がろうとするアインをあっさりと受け流すとクロウはカウンターの席から立ち上がった。そしてニヤリと笑みを浮かべる。
「さて、『殺し』を始めようか」
 
 
 ニューヨークに巣食うマフィアのひとつ、ネクロード・ファミリーの本拠地はスラムのど真ん中に広々と構えていた。
 連日のようにスリと空き巣と殺しのパーティーが繰り広げられている朽ちた住居が建ち並ぶ中、堂々と一軒の白亜の家が広い前庭を配置した状態で建っていた。
 2mをはるかに超える高さを持った鉄格子状の玄関門の前には常に2人のガードマンが立っていた。無論のこと、監視カメラも近くに配置されている。
 常に不動の状態で、前方を監視することを義務付けられている筈のガードマンが、何故か顔を見合わせていた。2人のうちの一方の顔には困惑が見て取れた。
「なあ、聞いたか?」
「何のことだよ。」
「またボスの部屋から女の悲鳴が出たって事だよ。」
「ああ、またかよ。この頃1週間に1回はでるっていう、あれの事か。」
「なあ。いくらなんでも異常じゃねえか?」
「といっても俺たちあぶれ者につける定職っていったらこんなものしかねえんだし、上の者が何してようが下っ端には関係ないだろ。」
「そりゃあ、そうだけど・・・ん?なんだありゃ?」
 ふと気づくと彼らの前には1人の人物がいた。外見上は男に見えた。その男はまるで酔っ払いかのように上体を左右に揺らしながらガードマン達が立っている扉をめざして歩いていた。
 ガードマン達は最初は酒に酔った男かと思った。しかしふらふらとした足取りで向かってくるその人影の顔を見た瞬間、そんな生易しい存在でないことに気がついた。
 男は笑っていた。それも目の瞳孔は左右とも別の方を見ており、口からはだらだらと涎を垂れ流して胸をびしょびしょにぬらしていた。
 そして両手には一丁ずつ無骨な機関銃が握られていた。もし銃に詳しい人物がその場にいたとしたならばアメリカが誇る多用途機関銃、M60機関銃であることがわかっただろう。映画『ランボー』で主人公が持っていた機関銃だ。男も映画の主人公よろしく身体中に弾奏を巻きつけていた。
 銃の種類はわからなかったが、ガードマン達は目の前の男が危険な銃器を持っている事くらいは容易に想像する事ができた。懐から短銃を取り出すと男めがけて構えた。
「どうする?」
「どう見ても薬づけの鉄砲玉だ。言うまでもねえだろ・・・・!」
 1人の言葉に対してもう一方が答えると同時に銃の引き金を引いた。軽い破裂音と共に発射された弾丸はいまだに上体をふらつかせている男の眉間にめり込んだ。男の身体が大きく後ろに傾いた。
 銃を撃ったほうのガードマンの顔に不適な笑みが浮かんだ。しかし、直後にはその顔の表情は驚愕の物に変わっていた。眉間に弾丸を撃ちこまれた男が倒れずに、まるで糸でも引っ張られたかのように元の体勢に戻ったからだ。
 2人のガードマンが愕然とした顔で男を見ている中、男は空虚な笑みを浮かべたまま両手に持った機関銃をガードマン達に向けるとおもむろに引き金を引いた。分速550発からなる弾丸の雨は2人のガードマンの身体を引き裂き、物言わぬ肉塊に変えた。そして弾丸達は高さ2m50はありそうな巨大な両開きな扉をも粉砕した。
「えへ、えへへへへへへ」
 男は1回大きく身体を震わせながら笑うと、眉間から血を垂れ流しながら館の方に向かって歩いていく。
 もし、この辺りをうろつくキッズ達が男を見たら驚いただろう。その顔は間違いなく、2週間ほど前に行方がわからなくなっていた少年ギャングのボス、ニールの物なのだから。
 
 
 その光景を遠くから双眼鏡で見つめていたアインは唖然としたかのように口を開けていた。
「な、なんなんだよアイツ、頭を撃ち抜かれても生きてるぞ!?」
「当然だろうよ、その程度では死なないように細工したんだからな」
 アインの思わずあげた声に隣にたっているグレイはさも当然のように、それでいながら苦々しげに答えた。
「細工したって?」
「クロウの奴、あのガキにPCPを投薬したんだよ。それも末期状態になるまでな」
「PCP?・・・・・って『エンジェルダスト』じゃねぇか!」
 グレイの言葉にアインは今度こそ本物の驚愕の声をあげていた。
 PCP、それはフェンサイクリジン(=phencycliden)の事である。脳の新皮質(本能や認識を制御する働きがある)の機能を阻害する物質であり、特に痛みを感知する神経の受容体を遮断する効用が高いとされている。
 本来は全身麻酔薬として用いる事を目的に1950年に作成され、手術用の麻酔薬として使用されていたが、様々な弊害が指摘された為に1965年には人体への使用を禁止、そして1978年には全面的な使用が禁止されている。
 その効能の高さから60年代の時点でブラックマーケットでも流出されており、特に粉末状の物は『エンジェルダスト』(=天使のかけら、天使の粉)と呼ばれている。ちなみに純粋な結晶粉末は純白である。
 PCPは催幻覚的薬物の中で効力が凄まじく強く、LSDですら足元にも及ばない、究極の幻覚剤である。その作用は強力な酩酊状態から思考の一時的な錯乱まで多岐に渡っている。
 第一段階では「離人現象」(=自分を身体の外側から眺めている感覚に呑み込まれる現象)が生じ、第二段階では「知覚分離」が起こり時間や空間の認識が非常に困難になる。
 そして最終段階においては全身の感覚が麻痺してしまう。更には人格障害を起こす事もあるという。また、痛覚減少から機能異常をひき起こし、怪力を発する場合もありうるのだ。
 いうならはPCPを末期状態にまで投薬してしまった人間は「生ける死体」と化すのだ。
 常用すると記憶力の低下や言語障害なども起こり、これらの作用期間は数ヶ月、それどころか1年にも続く事さえあるという。無論、薬を求めるというお約束のごとき症状もだ。PCPの乱用者は幻覚などに襲われ凶暴性を示し、更に過度の摂取を行った者は昏睡、心臓発作、窒息、脳溢血などが生じ、そのまま死にいたる事すらあるのだ。
「クロウはPCPの効用をよく知っている。・・・知っている上であのガキに投薬して、シャブ中にしたあげくに自分の道具に作り変えたんだよ。あの館に潜入する、ただそれだけの為だけに。」
「そんな・・・じゃあ、あのガキは」
「死ぬ、100%。クロウの使い捨ての道具としてな」
 アインは怯えきった顔をして再び双眼鏡を覗き込んだ。そこからは、館の中からでてきたマフィア達に銃で撃たれながらもゲラゲラと笑いながら機関銃の引き金を引いている1個の「人形」の姿がはっきりと見えた。
 双眼鏡を握る手が震えながらもアインはその光景をジッと見つめつづけていた。
 
 
「何だか銃声が表の方からするわね」
 ネクロード・ファミリーのドンが住む館に泊り込みでメイドをしている御年22歳の女性、イアリー・シビルは不安げな表情で廊下の窓から外を見た。貧困階級で育ったシビルは高い給料につられてこの職にとびついたが、まさかマフィアの使用人になるとは少しも思わなかったりしている。少々考えなしな女性なのだ。
「このところ、何か若い女の子が連れ込まれては、この家の中で行方知れずになってるし、この職から手を引いた方がいいのかしら」
 とは言ってもここの高給には後ろ髪が引かれるのは確かであった。得体のしれない状況にこのところなっているが、現段階では少なくとも自分には害が及んでないのも底事に後押しをしていた。
 複雑なそれでいて自分勝手な葛藤を心中でしつつ、は窓から外を眺めているシビルの耳に不意に横手から「コツン」という音が跳び込んできた。
 びっくりして音のしたほうに振り返る。しかし、見た方向には照明で明るく照らされた廊下が伸びているだけであった。
 気のせいかと思って再び外を見ようとした次の瞬間、シビルの口はいつの間にか背後に立っていた人物の手によって塞がれた。
 反射的にもがこうとするシビルの頬を冷たくて硬い何かが押し当てられた。目だけを動かして「何か」を確認してみると、それは無骨な銃口だと分かって今度は彼女の身は金縛りにあったかのように硬直した。
「動くな、そして喋るな。これから俺が聞く質問にyesはまばたき1回、noは2回で答えろ。いいな?」
 シビルのすぐ後ろから声が聞こえてきた。その声はまだ若い男性のものだったが、喧嘩の素人である彼女が聞いても分かるくらい殺気をはらんでいた。
 シビルはその声を聞いただけで逆らう気持ちも抵抗する気持ちも霧散し、怯えによって震える目を1回まばたきさせた。
「よし。ではこの館の主、ライバード・ネクロードが今どこにいるか知っているか。」
 2回、シビルは目をまばたかせた。
 捕らえている女の対応に男――クロウは軽い失望感を覚えた。だが、ただの使用人ではボスの場所は分からないのもありえるかと納得する。
「そうか。ではライバードの家族の誰かの居場所を知っているか。」
 その質問にシビルは目を1回まばたきすることで答えた。
「それは妻のイアラか?」
 目が開閉された2回。
「では1人息子のオルグだな?」
 ほんのわずかな間が置かれてから1回、目は閉じられた。
 そのわずかな間(ま)に、捕らえている女の中で迷いらしきものを感じたクロウであったが、あえてその事には聞かずに次の質問を投げかけた。
「オルグはどこにいる?自室か。」
 まばたきは1回された。その答えにクロウは女に聞くことは無くなったと判断した。
「よく聞け。いまから目を閉じてゆっくりと120数えろ。その間に目を開けたら殺す、声をあげても殺す、身じろきしても殺す、120数え終えたとしても今あった事を誰かに喋ったら殺す。いいな?」
 シビルは更に強まった殺気に内心では悲鳴をあげそうになったが、必死になって目を1回まばたきする事だけに成功した。その目は泪目だが。
 そしてシビルは目を強く閉じるとゆっくりと数を数え始めた。すると彼女の口を押さえていた手は外され、頬を押し付けていた堅い鉄の感触が消え去った。それでもシビルは声をあげず、身じろぎもせずに数を数え続けた。その間に味わった恐怖は人生中最悪の物だったと彼女は晩年に語る。
 シビルが120数え終えると同時に目が凄まじい勢いで開けられた。そして辺りに自分を脅していた男の姿がもういないと分かるとへたりこんで泣きじゃくるのであった。
 
 
5:変えられた者との出会い
 
 クロウは各所に設置された監視カメラの視線をかいくぐり、すれ違いそうになったマフィアに見つからないように息を潜めながら館を進んでいた。別に出会った人物を皆殺しにしながら進んでもよかったし、また彼の腕なら楽勝にできたが敢えてクロウはしなかった。
 他人の命を奪うことをためらった訳ではない。ただ単に『面倒くさい』からだ。潜入のためにお膳立てした『道具』が囮の役をこなしてるのだ、わざわざ自分から見つかるようにする事もないし、弾丸を減らすこともない。それがクロウの見解だった。
 頭の中にはグレイが用意してくれた館の見取り図が叩き込まれていた。地図を持ち歩くような無粋な真似はしない。クロウは速やかに目的地−−ドンの1人息子のオルグの私室の前に着いた。
 オルグの部屋に通じるドアの前にはガードマンと思わしき男が2人立っているのをクロウは物陰から見た。
 クロウはすぐさま行動に移った。懐に手をつっこむとサイレンサーが銃口に装着されているザウエルP220(*1)を引き抜くと2回、引き金を引いた。銃口からパシュッという軽い音がかすかに発せられた。
 次の瞬間にはドアの前に立っていたガードマンの額にそれぞれ1つづつ穴が開いた。そして糸が切れたあやつり人形のようにばったりと倒れふした。
 きっちり30秒たってからクロウは物陰からでてきた。無造作に、それでいながら足音を立てずにドアまで近づくと、片手に銃を構えながらドアのノブに手をかけた。
 ノブの感触から鍵がかかってないことを確認するとクロウは素早くドアを開けて部屋に跳び込んだ。全身が部屋にはいるとほぼ同時にドアも閉まる。
 跳びこんでからクロウは部屋の雰囲気に眉を潜めた。部屋の主の印象とあまりにかけ離れていたからだ。
 中庭に通じる大きな窓につけられたカーテンはピンク色でフリルつき。床の絨毯は足の指が隠れそうなほどふかふか、丸いハート型のシートがひかれてある。
 目を巡らしてみると壁の柱には青いリボンがあしらってある花輪が飾ってあり、机の上には花が飾られ、極めつけにクッションにはウサギや熊のぬいぐるみが置かれていた。
 クロウは、オルグはガンスミスとしての優れた技術を持った堅気体質の男だと聞いていた。だがこの部屋からはそんな性格はまるで感じることはできなかった。部屋の雰囲気はまるで少女趣味を体現しまくったような感じを受けた。
「あなた誰?」
 少々あっけに取られていたクロウに呼びかける声が耳に飛び込んできた。クロウは気を取り戻すと素早く声がした方に銃を向けた。
 その方向には1つのベットが置かれていた。ベットからは1人の15歳くらいの少女が半身を起こしてクロウをいかぶしげに見つめていた。
 少女の髪はエメラルド・グリーンに染まっており、背中の半ばまで達していた。顎が鋭く尖り、小さな口は日本製のサクランボを思わせ、鼻筋は美しい傾斜を作っていた。それだけを見ればまるで絵本を抜け出してきた美少女を思わせたが、柳のような眉と大き目の青い目は目端が釣り上がり気味で気の強さを感じとらせた。
 それでもやはり少女を表現する顔は"美少女"だろう。だが首から下にある胸はメロンでも仕込んでいるかの如く黒いネグリジュを大きく押し上げ、まるで挑発しているかのようだ。
 少女はベットから這い出すと立ち上がった。身長は160くらいにも関わらずネグリジュの合間から見える身体は腰が折れんばかりにくびれ、尻は豊かな曲線を湛えていた。
 その少女は美少女の清純な顔と熟れた女の肢体を持っていた。例え修行をつみ、神に身を捧げた者でも男である限り彼女をみたら誰もが欲情を隠し切ることができなかっただろう。
 だがクロウは全く動じることなく銃を突きつけ続けた。その表情に隙は一切みられない。
 その様子を見て少女は感心したかのようにクロウを見始めた。どうやら自分の身体の魅力を十二分に理解しているようだ。
「珍しいわね、あたいを見て欲情しないだなんてさ。」
 少女は顔に似合わないあっけらかんとした口調でクロウに話しかけた。対してクロウは銃の引き金を引いて答えた。
 弾丸は少女の豊かな髪を貫いて壁に突き刺さった。美しい緑色の髪の毛がパラパラと落ちる。それを見て少女の顔に憮然とした表情が浮かび上がる。
「ひっどいわね、女の髪を銃で撃つなんてなんて性格してるのさ、あんた。」
「貴様は誰だ。この部屋の主はどこにいる?」
 少女の抗議をまるで無視してクロウは問いかけた。引き金を再度ひきしぼり始める。
 その様子を見て少女はまるで我侭を言う子供を前にした母親のように大きくため息をついた。
「この部屋の主に何か聞きたいことでもあるの?」
「ライバード・ネクロードの居場所を聞く。もう一度聞く、オルグ・ネクロードはどこだ。」
 クロウの質問に自嘲めいた笑みを浮かべた。そして顔を横に振ると寂しげな表情でクロウを見つめた。
「やめておきなよ。今のパパは・・・・」
「化け物と化している、だろう?その位わかっている。」
 少女はクロウの言葉を聞いて目を見開いた。その目からは驚きを隠しきれていない。
「あんた・・・、わかっててパパに会うのかい?」
「そうだ。俺は化け物と化した奴を殺して"石"を奪いに来た。」
「"石"!?あんたあの"石"の事を知っているのかい?」
 少女の質問にクロウは無言のままであった。答える必要がないと判断したからだ。
 そんなクロウの態度を見て少女は苦笑を浮かべた。そして息を大きく吐き出すと強い意志をこめてクロウ見つめる。
「パパが化け物と化している事がわかっていて、しかも"石"のことまで知ってるのかい。そこまで覚悟があるなら言っていいかもね。この部屋の主は「あたい」だよ。」
 少女の言葉にクロウは片眉を吊り上げた。少女はさもおかしそうに笑みを浮かべると、驚くべきことを口にした。
「あたいがこの部屋の主にしてライバート・ネクロードの息子、オルグ・ネグロードさ。もっともあの"石"のせいで姿も性格も『女』に変えられちゃってるけどね。」
 そして少女・・・オルグ・ネグロードは自嘲気味の笑みを再度うかべるのであった。
 
 (*1)ザウエルP220
 スイスのシグ社とその傘下にあるドイツのザウエル社(後に独立して単独生産)が1976年に共同開発した軍/警察機構向けの自動拳銃。
 シグ/ザウエル社は既にP210と云う優れた銃を持っていたが、作りが精巧ゆえに量産が効かず、値段が非常に高いため売れ行きはいまひとつだった。
 その打開策としてP210をベースに改造を施し、プレス加工を用いて生産効率を高めた銃がP220である。 それでも決して安い銃と云えなかったP220だが、無理すれば手の届く値段になった事とP210同様に 優れた性能を持っていたために性能嗜好のユーザーに受け入れられ、シグ/ザウエルの名を世に知らしめた。

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 <あとがき>という名の戯れ言
 
 イィィィィィヤァァァァァァアアハァァァァァッァァァ!!!!交通事故と鬱病の二重苦から復帰したDEKOIです!でもまだ休職中だけどね!
 
 大変お待たせしたと思いたいですが、どうだか分からないのがちょっと不安な「狩人」の新作をお届けさせてもらいます。
 
 この章ではクロウの残酷さを表そうとしましたけどな〜んかいまひとつの気が。本当はメイドさんも殺す予定だったのをやめたせいかしらん?
 
 またもう1人のTS少女オルグもさわり程度ですがだせました。この子とアインを絡ませるかどうかは人気しだいって事で(微妙にやる気のない発言)。
 
 つーかまだ鬱けっこうひどいし!薬を飲んでないと感情なくなるし!しばらくこんな調子が続きそうですがよろしくお願いします。
 
 それではまたお会いできることを願いつつ筆を置かせてもらいます。またお会いしましょう。
 
 by DEKOI


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