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 第2部開幕です。
 まったりと書く予定ですのでよろしくお願いします。


狩人 - 勇者と聖女 -
作:DEKOI

 

<<0:ある男の苦悩>>
 
「冗談じゃねぇ! 何で俺がそんな事をしなくちゃならないんだ!」
 その部屋から男の怒号が響き渡った。
 男は18くらいの若者であった。短く刈り上げた髪は黒く、肌も黄色がかっている。どうやらアジア系の人種のようだ。身長は180いくかいかないかか。中肉中背で肩幅があり、がっしりとした雰囲気を周りに与えている。
 気が強そうな目をつり上げながら男は目の前の人物に向かって怒鳴っていた。
「仕方あるまい。お前しか適正者がおらんのじゃから。」
 男の前に座っている80は軽く超えたと思われる顔が皺だらけの老人は諭すように言葉を発した。なんとなくだが好々爺とした雰囲気を湛えている。
 男は未だに老人をにらみ付けている。何かに納得がいっていない顔だ。
「確かにあんたにはガキの頃に両親を事故で失って孤児になった俺を拾ってくれて、今まで人並みの生活を与えてくれた事には感謝している。それに報いたいとは思う。」
 男はそこまで言うと目の前にあるテーブルをドンと叩いた。置いてある灰皿が大きく揺れる。
 老人は男が放つ怒りの気迫に動じることなく黙って見つめている。
「だけど恩人であるあんた達の願いとはいえ今回のだけは受け入れられねえ。そんな事したら俺が『俺』じゃなくなっちまうじゃねぇか!」
「確かにその通りじゃ。だか、お前以外適正者がおらんのじゃよ。お前にやってもらわんと、世界が破滅してしまうんじゃ。」
 老人はやんわりと男に諭した。だが男は納得できていない。
「確かに爺さんの言う通り、誰かがそれをやらなければ世界は大変な目にあうのはわかるよ。でもよお・・・・・」
 苦悩する男に老人はやんわりと笑いかけた。両手を目の前で組み、肘をテーブルにつける。
「ではこうしよう。これからワシと一緒に「遺跡」に行こう。そして3日以内にお前を守護する『勇者』が現れなかったらこの話はなかった事にしよう。どうじゃ?」
 老人からの提案に男は口をどもらせた。しばらく考え込む。
『考えてみれば『勇者』なんて都合よく来るわけないんだよな。だったらこの賭けを受けてさっさと爺さんの戯言から開放された方がましだぜ。』
 男は結論づけると老人に向かって頭を縦に振った。
「いいぜ、『勇者』様がこなければ俺は何もしないでいいんだな。じゃあ爺さん、早く「遺跡」とやらに行こうぜ。」
 男は言いたいことが終わったのか準備の為に部屋を出て行った。
 部屋に残った老人はズボンのポケットから携帯電話を取り出すと、ある所に電話をかけた。
「ああ、ワシじゃ。あ奴を「遺跡」に連れて行くことになった。そこで『勇者』はあそこの護衛をしておるな?・・・・・・うむ、わかった・・・・そうじゃ、遂に始まる、長年待ち続けていた『創世』がな。」
 老人は声をあげながら笑った。
 
 
<<1:潜入>>
 
 その島には森の中に乱立する樹の如くビルが建っていた。島の名前はマンハッタン島、そしてその上にある街の名前はニューヨークだ。
 世界の経済市場を操作していると言って過言ではない街だ。多くの人々が栄光や金といった欲望を求めて集う街。だがその殆どの人がこの島の地下に眠る物を知らない・・・・。
 
 煌びやかなビルが建つ地表の下は暗く汚い下水路が縦横無尽に走っている。そこはネズミと地虫どものハーレムだ。こんな所を好き好んで歩く人間などいるわけがない。
 そして今、酔狂な男が1人でゴミためのような下水路を歩いている。手にはペンライトを持っており、暗闇に一条の人口の黄色の光を差し込ませていた。
 男は年齢は16歳くらいだろうか。少年と青年との境目の年頃に見える。灰色がかった髪の毛は短く刈られており、上に毛羽立っている。
 目は男性にしては大きめだが何かに不満でもあるのか目つきは悪い。柳眉も鼻筋も整っており口もひん曲がっていなく、大きすぎていない。そこそこの美少年と表現してもいいかもしれない。しかしその顔は無愛想極まりない表情が浮んでいた。最もこんな臭くて汚い場所にも関わらずにこやかに笑っていたらただのおかしい人かもしれないが。
 身長160半ばの身体にカーキーを主体としたジャケットを白いTシャツの上に羽織り、色の抜けた藍色のジーパンを掃いている。更に何故か赤いスカーフを首にまいている。全体的にラフな印象を持った少年だ。
 少年の左脇が奇妙に膨らんでいる。もしも銃関係にそれなりに関わっている者が見たらガン・ホルダーを吊るしている為にできた膨らみであるのがわかるだろう。この国は犯罪大国であり、銃の所持が認められている為にそれほど珍しい光景ではないかもしれないが。
 下水路の中を少年は目的地を目指して歩いていた。地図を持ち歩くといった無粋な真似はしない、全て頭の中に叩き込んである。
 少年はこの下水路の寝ぐらにしているホームレスの1人から奇妙な噂を聞きだしていた。コンクリートとドブにまみれた下水路の中に今の時代に比べてかなり古い様式の建物を見たというのだ。あれは古代文明の遺跡に違いないと主張した。
 殆どの者達がホームレスの戯言だと一笑した。しかし少年は気がついていた。この頃ホームレスが数名たて続けに噂として流れている場所の付近を中心に行方不明になっている事を。
 何かあるんじゃないのかと判断した少年は下水路に向かった。目的は金だ。遺跡が本当にあればそこにある物を奪って金にする。例えホームレスの戯言だったとしてもその付近で起きている失踪事件の大元でも掴めればホームレス共からそれをネタに幾ばくかの金をせしめれる。
 どっちにしてもその場所には金になる物がある可能性がある。だったら行ってみる価値はある筈だ。少年は判断すると下水路の中を探索しだしたのだ。
 
 少年は目的地のすぐそばにまでたどり着いた。頭の中に叩き込んだ地図と噂の中身を反芻する。地図を持ち歩くような無粋な真似はしない。
 大体の予測をつけてライトを照らす。しばし探索を続けているとコンクリートの塊や鉄鋼が積まれている箇所を見つけた。素人目で見てもわかるくらい下手くそな隠し方だ。
 少年は瓦礫に近づくと無造作にどかし始めた。重い物が落ちる音をたてながら瓦礫達は下水に落ちて行った。瓦礫があった箇所には人が何とかくぐりこめるかどうかといった程の大きさの穴が開いていた。
 少年は穴の中に踏み込もうとした。だが、その動きは入る寸前で止まった。慎重な手つきで穴の淵を探る。ほどなくして少年は一個の物体を取り出していた。
 少年の手に握られた物体は黒い5〜6cm程の大きさの物であった。まるでパイナップルのように格子状になっている。少年の知識として物体の名称が頭の中に浮かんできた。マークII手榴弾、と言われている種類と同系統の物だ。爆発と共に中に仕込まれた破片を辺りに飛散させ、対象を破壊する。少年は安全ピンをワイヤーで括られていたそれを見つけ出したのだ。無警戒に穴に入っていたら爆発に巻き込まれていただろう。
 このようなトラップが仕掛けられているという事はこの先に入ってもらいたくないと考えている者がいるという事を意味している。少年はその事に気づいていたのだろう、軽く口の片端をつり上げた。
 少年は2,3回お手玉をするかのように空中に手榴弾を放り上げると、ジャケットの内ポケットに手榴弾を忍ばせた。そうしたから今度こそ穴の中に入っていった。
 
 少年は手に持ったライトで前方を照らしながら進んでいた。穴の中はなだらかな傾斜を形作った下り道になっていた。適度に濡れた道は少年の足音を水が跳ねる音で消している。周囲の壁はレンガでできている。色やコケの生え具合からしてそうとうの年月が達っているようだ。
 歩いて3、4分もしただろうか。少年の右手がゆっくりと懐に入っていった。その間も道を歩く歩みを止めない。
 不意に少年は振返るとガン・ホルダーから銃を取り出した。黒くまがまがしい物体が引き抜かれる。
 少年の右手に握られた物体。それはコルト・パイソンと言われている世界屈指の名銃と噂されている物だった。1950年代にリボルバー銃の最大手、コルト社が自社の威信をかけて作ったマグナム弾を使用できるのを目的としたリボルバー銃だ。芸術とまで言われている形状にも関わらず357マグナム弾の発射にも耐えうる剛性を持っており、半世紀たった今も人気商品として売られている。特撮では仮面ラ○ダー・ク○ガの一条刑事が、漫画ではシ○ィーハ○ターの主人公が使用しているのを描かれている。
 少年のコルトの銃身になにか硬い物が当った。それはクルガナイフと呼ばれている黒い歪な形状のナイフの刀身だった。いつの間にか少年の後ろに人が立っており、ナイフを突き立てようと少年の背後から襲いかかってきていたのだ。
 襲ってきた人物は奇妙な姿をしていた。身長は180くらいだろうか、細身の恐らく男だ。全身を漆黒の服を着込み、頭は黒い布で包まれていた。そして目には奇怪な形状の眼鏡がかけられていた。もしこの場に武器もしくは軍隊オタクがいたら黒ずくめのかけている眼鏡がスターライトスコープである事がわかっただろう。ベトナム戦争で使用された兵器の1つで電池で外光を4万倍にして、星あかりでも物を見ることができる様にしている暗視眼鏡だ。黒ずくめの姿は夜間の隠密行動を元にした物であった。
 黒ずくめが繰り出してくるナイフを少年は銃を用いて捌いた。だがどう見ても少年の方が不利だ。銃という武器は遠くからの攻撃には圧倒的に有利だが、接近されると途端に不利になる。小回りが利くナイフ相手では接近戦において拳銃はかなりのハンデを背負う事になる。
 ナイフが少年を浅くだが捕らえた。頬に薄い傷ができ、血を空に飛ばす。少年の顔が苦渋で歪む。
 尚も執拗に繰り出されるナイフに少年は壁に押し付けられた。黒ずくめが少年に掴みかかるとナイフで喉を切り裂こうとする。少年は黒ずくめの手を掴んでナイフの行動を止める。
 力の均衡によって2人の行動が止まった。しかし2人の体勢は黒ずくめの方は少年の上から体重をかける体勢になっていた。少年の喉が切り裂かれるのも時間の問題だ。黒ずくめの覆面の下の口が微かにだが歪んだ。
 不意に軽い悲鳴をあげて黒ずくめの体勢が崩れた。この拮抗状態にあったにも関わらず少年は黒ずくめの足の小指を思いっきりふんずけたのだ。緊迫した状態であった為に黒ずくめのショックはでかく、体勢をわずかにだが崩してしまうという愚行をしてしまった。
 隙を見逃すほど少年は抜けてはいなかった。左手で先程拾った手榴弾を取り出すと黒ずくめのスターライトスコープの右目めがけて叩きつける。レンズが砕け、スターライトスコープを構成している精密機械がショートした。それは黒ずくめの目を傷つけるのに充分すぎた。今度は高い悲鳴をあげながら黒ずくめは後ずさる。
 少年は右手の銃を構え直すと横っ跳びをしながら発砲した。螺旋の回転をしながら飛んでいく銃弾は黒ずくめにめり込んだ手榴弾に着弾する。
 軽いが耳を痛めつけるような爆発音が鳴り響いた。手榴弾の内部から破裂した破片が黒ずくめの頭を地面に落ちたザクロのように赤い血と肉を飛び散らせながら粉々に砕いた。頭を失った黒ずくめの身体はしばしヨロヨロとしていたが、首から血を噴き出しながら地面にうつ伏せに倒れた。
 少年は立ち上がると、戦闘中に落としていたライトを拾い直した。そして何事もなかったかのように道を下っていった。
 後には頭のない死体が地面に転がっていた。どこから嗅ぎ付けたのかネズミがもうたかり、肉をついばみ始めていた。
 
 
<<3:勇者誕生>>
 
 少年が道を下りきるとそこは広い空間が存在していた。
 直径800m近くはあるだろうか。くすんだ茶色に変色しているレンガで造られたドームだ。頭上から白い光が照らしている。
 不信に思って頭上を見上げてみるとドームの天井には白く輝く巨大な球体が浮いていた。『裏』の生活が長い少年にはそれが魔導による光だという事がわかった。
 少年は頭を下に戻した。少年の目に明らかに変な物が飛び込んできた。それは四方を30段ほどの階段で囲んだ台座であった。古代南アメリカのアステカ文明にて用いられている生け贄の祭壇を連想させる建物だ。台座の中央には黒い石で作られたと思われる寝台があり、その中心に1本の棒が突き立っていた。黒と白で斑に色付けされているようだ。
 棒を見た瞬間、少年の頭に何かがよぎった。慨視観というべきか、何故かあの棒が懐かしい・・・・。一回も見た事がないはずなのに、だ。
 少年は浮んできた思いを振り払うべく頭を横に振った。気を取り直すと祭壇に慎重に近づいていった。
 取りたてて問題は生じずに少年は祭壇まであと100mの所まで接近する事に成功していた。その間も少年は緊張を解いていない。辺りを警戒しつつゆっくりと前進していく。
 唐突に少年の身体が後ろに跳ねた。そのわずか一瞬後に今さっきまで立っていた地面から巨大な何かがタケノコよろしく生えた。
 地中から何かが地煙をおこしながら這い出てきた。それは赤い蟹に長い首と映画のガ○ラに出てくるギャ○スの頭を張り付けたようなモノだった。全長が10m近くある蟹モドキは鋸の刃のように尖った牙をむき出しにしながら涎を垂らしている。
 蟹モドキは両脇についている6本の足をワシャワシャと動かすと少年めがけて突撃した。蟹のような体のくせに前に動けるとは、と思うかも知れないが世界中探せば前方歩行する蟹など腐る程いる。取りたてて驚く事ではない。それ以上に驚かされるのは蟹モドキのスピードだ。軽く時速100km近くでているのではなかろうか。少年に凄まじい勢いで肉薄する。
 少年めがけて蟹モドキは鋏を振り下ろした。少年は素早く横に跳んで躱す。鋏は地面にめり込み盛大な音と煙をあげながら瓦礫を飛ばした。
 少年の右手が閃いた。手の中にコルト・パイソンが現われる。蟹モドキの頭に照準を定めると3発発砲した。
 硬い音を立てながら蟹モドキの頭に火花が散った。3発ものマグナム弾を食らったにも関わらず蟹モドキはまるで効いていないかのように少年の方を睨み付ける。再び少年めがけて鋏が振り下ろすが少年は軽快にステップを踏んで躱す。
 今度は口の中めがけて発砲した。吸い込まれるように弾丸は蟹モドキの口に入っていった。しかしやっぱり通じないらしく蟹モドキの動きは止まらない。少年を襲い続ける。
 少年は内心で舌打ちをしていた。胴体が蟹なだけに方向転換が苦手なようで簡単に死角である後ろを取る事ができた。だが前進の甲羅がやたらと硬いらしく、全くといっていいほど銃が通じない。着弾点を一点に集中して甲羅を壊そうかと考えたが弾丸が足りるとは思えない。
 少年は幾度目かの蟹モドキからの攻撃を躱すと、さっきまで目指していた祭壇が目に飛び込んできた。そして突き刺さっている1本の棒も。少年の頭に再たび慨視観が襲った。
 少年は何故かあの棒の正体がわかった。あれは武器だ・・・・・・
 祭壇に向かって弾けるように走り出す。蟹モドキがノタノタと少年の方を向こうとしている隙に祭壇にたどり着くと3段とばしで階段を駆け登った。
 少年は黒い石製の寝台とそこに突き刺さる棒を凝視した。棒は1mほどの長さであった。太さは15cmくらいあるだろうか。白と黒で斑状に塗られている。その棒には妙な点が一点、いや二点あった。上下逆さまに銃のグリップとトリガーと思わしき物が張り付いているからだ。
 少年は棒に近づいた。わかった。何故かは少年にもわからないがこの『武器』の使い方が理解できた。そしてこの『武器』の特性も。
 棒を手に掴むと一気に引っこ抜いた。寝台に深くめり込んでいたように見えた棒はまるでゆるく打ち込まれた釘のようにあっさりと抜ける。
 少年の後ろから地響きが聞こえてきた。蟹モドキが階段のすぐ側まで来ているのだ。少年は棒を脇に抱え込むと蟹モドキめがけて走る。
 蟹モドキは少年を見つけると鋏を振り上げた。鋏で少年を引き裂こうとしているのだ。
 少年が手に取った棒の両端には何故か穴が開いていた。一方はバルカン砲のように小さな穴が6つ円形状に開いていた。もう一方はバズーカーのように大きな穴が1つ開いている。少年は小さい方の穴を蟹モドキに向けた。そして上下に張り付いている銃のトリガーに指をかけ、引き金を引いた。
 軽い破裂音と共に何かが穴から発射される。それは蟹モドキの体に当るといくつもの火花を散らした。
 蟹モドキはうなり声をあげると鋏をふりまわした。そのうちの一撃が少年を捕らえた、ように見えた。少年の姿は鋏に捕らえられたと同時に霞みのように消え去った。
 次の瞬間、蟹モドキの周囲で驚くべき現象が現われた。少年が何人も蟹モドキの周りに現われて取り囲んだのだ。少年達は棒を構えると次々に発砲した。
 蟹モドキを四方八方から銃弾の嵐が襲いかかった。何千、何万発もの弾丸が乱れ飛ぶ。蟹モドキは咆哮をあげながら暴れまわった。
 少年はこの『武器』の特性を何故か知っていた。これには「弾切れがない」。少年は残像を空中に残すほどの速度で蟹モドキの周囲を駆け抜けながら発砲し続ける。
 縦横無尽、無限の弾丸の嵐の前に強健な硬度を保っていた蟹モドキの甲羅が遂に限界に達した。頭の中央からヒビが入り始める。
 少年は蟹モドキの変化を見ると素早く接近した。蟹モドキの体を蹴りながら昇っていき、頭に到達する。両足で蟹モドキの頭の上に立つ。
 クルリと棒を180度回転させた。棒にくっついている大きな穴の方を発生したヒビの中心に突きつけ、今まで使用していたグリップとは逆の方を握った。トリガーに指がかかる。
「・・・・・Jack Pot!」
 トリガーが引き絞られた。穴から赤い閃光が発射される。閃光はヒビにめり込み、蟹モドキの頭を縦に貫通した。
 蟹モドキの全身が大きく1回震えた。その後ゆっくりと傾いていくと地響きを立てながら地面に倒れこんだ。
 
 
<<3:聖女誕生>>
 
 少年の背後から拍手が聞こえてきた。少年は飛び跳ねる様な勢いで後ろに振り向くと棒の小さな穴の方を拍手のした方に向ける。
 そこには20歳前後のアジア系の特徴を持った青年と90はいっているのではと思える腰が垂直に曲がった老人が立っていた。拍手の主は老人の方だった。その顔には皺だらけの顔でもわかるくらいに満面に笑みが浮んでいる。対照的に青年の方は苦虫を潰したような表情を顔に浮かべていた。
 老人は拍手を終えるとにこやかに少年に笑いかけた。穏やかな口調でまるで諭すかのように少年に話し掛ける。
「まあまあ、その銃をおろして下さらんか、勇者様。」
 ずっと無表情だった少年の顔に始めて変化が訪れた。何かにいかぶしむような表情だ。
「勇者・・・・だと?」
 少年の口から声変わり直後のまだ幼さを残した声が流れてきた。その声にはありありと怪訝に思っている感情が如実に表れている。
 老人は少年の言葉に笑みを浮かべつつ頷いた。
「そうですじゃ。その神器「メギド・スラスト」を自在に操り、更にはこの遺跡の護衛獣を倒すほどの腕前。貴方様こそ予言にある『勇者』に相違ありません。」
 そこまで言うと老人は未だに不機嫌そうな顔をしている青年の方を向いた。ニンマリと意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「どうやら賭けはワシの勝ちのようじゃな。」
「クソウ、あと12時間だったのによぅ。」
 青年は悔しそうに呟いた。妬ましげに少年を睨む。
 そんな青年の態度に老人は楽しそうにホクホク顔で見つめている。
「では当初の通りに儀式を受けてもらおうかのぉ。」
「いや・・・でもよぉ・・・・キール爺さん・・・・。」
 心底嫌そうに青年はうめいた。老人ことキールは瞬時に顔を引き締めると怒ったかのような表情に一変した。
「『男に二言はない』という言葉を知らぬのか、アイン!賭けを受けて、負けた以上はちゃんと代償は払ってもらうぞい。」
「ええぃ、わかったよ! やりゃあいいんだろうやりゃあ!」
 アインは観念したかのように叫んだ。ただ単にヤケッパチになっただけかもしれないが。
「そうじゃそうじゃ。それに全てが終われば元に戻れるんじゃから、それほど気にする事はないわい。」
「わかった、わかった! 早く儀式をやっちまおうぜ!」
 アインはズカズカと祭壇に向けて歩き出した。キールもノンビリと青年に着いていく。
 少年は呆然と彼等のやり取り見ていた。一体何が起きているのかさっぱり理解できていない。
 アインは階段を登ると漆黒の石製の寝台の前まで来た。
 顔にはありありと躊躇しているのがわかる。しばしの間、立ちすくんでいたがキールが階段を登り終えたのを背中に感じると観念したかのように寝台の上に寝そべった。
「では儀式を始めるぞ。」
 キールはうやうやしく宣言する。アインは納得できていないようだが頷いた。
「おい手前等、一体何をやっているんだ?」
 突然上がった声に驚いてキールは後ろを振り向いた。そこには不機嫌そうな表情を浮かべた少年が立っていた。棒を片手に持って床をせわしなく突ついている。
「おお、勇者様。少々そこでお待ち下さいませ。儀式が終わり次第、貴方様にお頼みしたい事がありますので。」
「俺は勇者とやらじゃ・・・・」
 少年は抗議の声をあげたがキールは無視した。寝台に寝そべるアインの方を向くと大きく両腕をひろげた。
「さあ、ここに『混沌』を取り込みし資格を持つ者を捧げます。この者を『混沌』の受け皿に相応しき姿に変えたまえ!」
 祭壇の丁度真上に光の玉が存在していた。キールの言葉に応じのたか、光の玉から蛇口から零れる水滴のように光が一筋、真下の祭壇めがけて落ちていった。
 光の雫はアインが寝そべっている寝台に降り注いだ。強烈な光が爆発したかのように祭壇を照らした。少年は思わず手で目を隠した。
「ああああああああああああああ!!!」
 アインの叫び声が木霊した。その声に反応して少年は目をうっすらと開けてみた。その目は驚愕で見開かれる。
 光の中でアインの姿が変わっていっていた。
 180cm近くあった身長が縮んでいく。
 刈り上げていた髪の毛がうねりながら伸びていく。色も黒から艶やかな金色に変わっていく。
 肩幅が狭まっていき、筋肉がそれなりについていた腕がしぼんでいった。筋肉は削げ落ち逆に柔かそうな脂肪がついていく。
 足も縮み、細くなっていく。ズボンの中で勝手に内股を形成していった。
 黄色がかった肌の色が白くなり、きめ細かな物に変質した。
 精悍そうな顔がこじんまりとした物に変わっていった。睫毛が伸び、黒くて気が強そうな目が青くつぶらで気弱そうな物に変化した。口も小さくなり、唇が潤み、ルージュを施したかのようにほんのりとピンク色に染まる。
 胸が上に引っ張られるような感覚が、そして腰が縮まりお尻がポッチャリとしてくるような感覚がアインに襲いかかる。
 そして最後にアインは股間部に異様な衝撃を受けた。自分の自慢の物が縮んで中に入っていくのが実感できた。
「やめろぉ、やめてくれぇ!!」
 男の象徴の喪失にアインは恐怖の叫びをあげた。その声はさっきまでの野太い物から甲高い、それでいて聞いた人の心を和ませるような旋律を内に秘めた物に変わっていた。
 しかし叫び空しく男の象徴が中に完全に引っ込んだのをアインは実感した。そして今度は体内に何かが強引に作られていくような感覚が襲いかかり、思わず嘔吐しかける。
 
 次第に祭壇を照らす光が収まってきた。光は最終的にはキールが叫ぶ直前の状態にまでになった。
 少年は目を隠していた手をどかした。目の前に光景は光が輝いた時と何も変わらないように見えた。ただ1つを除いては。
 ふらつきながらアインは寝台から身を起こした。そして自分の手を見ながら呆然と呟いた。
「まじかよ・・・・。本当に変わっているよ。」
 アインは完全に姿が変わっていた。180cm近くあった身長は150くらいにまで縮んでいた。黄色ぽかった全身の肌の色は透けるように白くなっていた。広かった肩幅は2まわり近く狭くなっていた。タブついたシャツから覗かしている腕は簡単に折れそうなほど細いが、針金のような筋張った細さでなくてさわったら柔かそうな印象を与えている。
 変貌が著しいのは顔だ。黒かった髪の毛は透けるような金色に変色し、肩にまで届くまで伸びていた。精悍で角張っていた顔は儚げで落ち着いた物になっていた。大きな気弱げな瞳は黒から青になっていた。口も小さくてつつましげだ。
 アインは股間に手を伸ばした。そこにほんのついさっきまであったバ○ナの感触がなくなっている。
「ねえ・・・まじで・・・。」
 寝台の上に座っているのはアジア系の精悍そうな20歳くらいの青年ではなかった。そこにいるのは13、4歳くらいの美しく気弱そうな白人の少女がいるだけであった。
 
 少年は何が起こっているのか理解しようとしたが、無理だった。いきなり自分の事を『勇者』と呼び、いきなり儀式とやらを行い、いきなり年上のアジア系の青年が年下の白人の少女に変わったのだ。確かに理解するのは無理だろう。
 少年が呆けていると老人はにこやかな笑みを浮かべながら少年の方を向いた。
「それでは勇者様、お待たせしました。実は貴方様に折り入ってお頼みしたい事がございます。」
「あ? いや俺は勇者とやらじゃ・・・・。」
「ほれ、アイン。お前を守ってもらう予定の勇者じゃ。挨拶せえ。」
「わかったよ、爺さん。」
 可愛らしい顔に仏頂面を浮かべながらもアインという名の少女は寝台から立ち上がった。
 だが彼女は全然気がついていなかった。今の自分の腰まわりがつい先程の3まわりは細くなっている事に。
 と、ゆう訳で。彼女が立ち上がると同時に履いていたズボンがストンと落ちたのはしょうがない事であった。
 そしてズボンにひっかかったせいで一緒にトランクスも落ちてしまったのは不幸な事故以外何者でもなかったのだ。
 少年とキールの目が真ん丸に見開かれた。ある一点に視線が落ちる。
 2人の視線に気付いて何事かとアインも視線の先を追って下を向いた。
 静寂が辺りを包んだ。
 
「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
 
 凄まじい悲鳴が地下に作られたドームに響き渡った。
 
「えー、実は貴方様にお願いがございますのですじゃ。」
 引っ掻き傷だらけのキールは頬が真っ赤に腫れ上がっている少年に向かって話しかけた。
 ちなみに彼等に身体的に傷を負わせたアインは寝台の影で座り込んで泣いていた。
「えーん、もうお嫁にいけないよーー。」
 心に受けた傷は思いのほか大きいようだ。しばらく立ち直れそうもない。
 そんな風に落ち込んでいるアインを放っておいてキールと少年は話を続けていた。
 少年は憮然とした表情のままキールを睨み付けていた。
 しかしそんな少年の態度など気にする事なくキールは朗らかに笑いながら話し始めた。
「この世には『カオスクリスタル』と呼ばれる宝石が7つ、存在しておりましてな。この宝石は所有者に巨大な力を授ける代りに心の奥底に眠る悪意を呼び起こすというやっかいな特性を持っておるのです。」
「『カオスクリスタル』・・・・聞いた事ないな。」
「当然でしょう。このような呼び方をする者など普通おりませんからな。ですがマリーアントワネットを堕落させたホープダイヤは『カオスクリスタル』の1つだと言われております。」
 キールはそこで言葉を打ち切った。
「ワシ等一族の伝わる予言、と言うイマイチ信憑性のないものなのですが、まあそれによりますと今年に『カオスクリスタル』は暴走して世界を終焉に導くと書かれているのです。そしてそれを止める為に戦う神器を操る勇者と『カオスクリスタル』の力を封印する為の聖女が現われるとも書いてあるのです。」
 少年は溜息を吐くと眉毛を指でなぞった。「眉唾」と言いたいらしい。こいつはどう見ても日本人ではないようなのだが。
「ですが、予言にある通り『カオスクリスタル』の力を封印する力を持つ者が現われて、更にはこの地に封印されていた神器を操る御方、すなわち貴方様が現われました。」
 少年はキールの演説を黙って聞いていた。そう、彼は演説をしているのだ。目を恍惚と輝かして酒でも飲んでいるかのように浮かれている。この爺は自分に酔っていやがると少年は冷たい視線で老人を見ていた。
「そこで、貴方様にお願いがあります。あそこにいるアインと共に世界中に広がった『カオスクリスタル』を回収してきて欲しいのです。そしてこの遺跡にアインを連れてきて下さい。この場所は『カオスクリスタル』を破壊する為に古代の人々が作り出した聖域です。ここならば『カオスクリスタル』を破壊する事ができるのです。」
「報酬は?」
 キールの言葉に対して少年は鋭く突っ込みをいれた。
 少年の無遠慮な要望にキールはにこやかに笑い返した。
「もちろん用意しております。そうですな、50万ドルでどうでしょうか?」
 少年は考え込んだ。50万ドル、確かに安い値段ではない。しかし世界中に散らばっているという7つの石を探し出せ、と言うのはかなり酷な仕事だ。割りが合わないかもしれない。
 だが少年の内にある思いが宿っていた。『カオスクリスタル』とやらは所持者に巨大な力を与えると言うではないか。だったら石集めを協力して、集め終わったら全て奪い取り自分の物にしてしまえばいい。その力を使えば50万ドル程度の金を稼ぐ事など楽勝なのではないか。
 そこまで考えて少年はニタリと笑った。そう考えれば悪くない提案だ。こんな茶番に乗ってみてもいいだろう。
「いいだろう、この依頼を引き受けよう。」
 少年はキールにそう告げた。無論腹の内など見せる気はない。
 キールは少年の答に目を輝かせた。
「おお、ありがとうございます。」
 ペコペコと頭を下げまくる。少年は冷たい目で老人を見つめ、心のうちで冷笑を浮かべていた。
「これ、アイン。この方はこれからお前さんを守ってくれる御方じゃ。いつまでもメソメソと泣いていないで挨拶せえ。」
 キールの言葉を聞いてアインはノロノロと立ち上がった。未だに目を赤く腫らしている。
「ヒック、なあ爺さん。本当にこの件が終わったら俺は元に戻れるんだろうな。」
 挨拶もせずにアインはいきなりキールに質問した。その間も頬についてる涙の跡を拭っている。
 キールは呆れたようにアインを見た。一息溜息を吐くと諭すような目で見詰め直す。
「当然じゃ。『カオスクリスタル』破壊と同時にお前の身体も元に戻る。安心せい。」
 少年はアインを見ていてふとある事に気がついた。一応、質問してみる。
「なあ、何でアイツは女になったんだ?」
 思いついて当然の質問であろう。 例え文庫の主義にあっているとはいえ 人の性別を変えるのには何かしら理由があって然るべきなのだから。
 キールは笑いながら少年の方に振返った。
「何、単純な理由です。女子の方が『カオスクリスタル』の力を敏感に察知する事ができるからですじゃ。この子がおれば、ある程度『カオスクリスタル』に近づけばある場所を特定できる筈ですじゃ。」
「『筈』、ねぇ・・・・。」
 少年は不信気にアインとキールを交互に見た。
 アインは少年の前に立った。今度は落ちないようにズボンをしっかりと掴んでいる。
「よう、俺の名前はアイン=ジャスクだ。これからよろしくな。」
 ペコリとお辞儀するアイン。それをつまらなそうに少年は見ている。
「ところで、お前の名前は?」
「俺か? 俺の名前は・・・・・」
 少年は一回言葉を区切ると虚空を見つめた。その目に悲しげな光が宿ったのは気のせいか。
「俺の名前は・・・・クロウだ。」
 
 クロウとアインが並んで外に出て行くのをキールはじっと見守っていた。
 完全に2人の姿が見えなくなると肩をゆすり始める。
「ククククク、ワシの思惑通り進んでおるわい。せいぜい頑張ってくれよ、2人共。全ての『カオスクリスタル』が集まった時こそ、長年待ち続けていたワシの夢が叶うのじゃからな・・・・・!」
 キールは笑い続けた。見た者は誰もが寒気を感じるであろうと思われるくらいその笑みは醜悪であった。



 <あとがき>という名の戯れ言
 
 こんにちは。DEKOIです。
 
 第2部を始めました〜。とうとう始めちゃいました〜。・・・・・完結するのかなぁ。
 
 今回の話では第2部の主人公とヒロインがでてきます。
 
 主人公君は今回の話では今いち分からなかったと思いますが実はかなりキテいる奴です。次回の話ではとんでもない人物だと判明するでしょう。
 
 ヒロインは基本に忠実なTS少女の予定です。ちなみにDEKOIの書くTS少女は基本的に『不幸』である事が前提になっている事が多いです。無論彼女もクケケケケケケケケケケケ。
 
 あとキース爺さんも実はキーキャラの1人。こいつの動向もよく見ておいてください。
 
 新キャラ新敵がわさわさ出てくる予定です。無論第1部のキャラも出てくる予定です。そしてあのキャラも。
 
 今回はまったりとのんびりと執筆する予定です。気長にお待ちくださいませ。
 
 それではこのような挨拶が出来る事を願いつつ、ここらで筆を置かせて頂きます。またお会いしましょう。
 
 by DEKOI


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