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狩人 - 始めてのお買い物 -
作:DEKOI



 ポケットは縁側でボケーっと立っていた。昼間の陽気がポカポカとしていて気持ちがいい。頭の上には三毛猫が寝そべっている。構成金属が鉄であるポケットの体は日差しで温められていて絶好の昼寝ポイントになっているのだ。
 ポケットは見た目は黒い鉄球に短い手足をくっつけて顔のように丸と逆三角の鉄片を張り付けたようなヘンテコチンな物体だが、実は体内にマシンガンやバズーカーや爆弾やドリルやゴルディ○ンハンマーといった凶悪な武器を常に多数搭載している超物騒な歩く武器庫だ。高度な自立行動をとる事ができ、更には奇怪な機能が多数搭載されている。世界を見渡してもここまで優秀なロボットはそうはいないだろう。
 もちろんそんな事ただの猫には知りようがないので、猫は絶好の昼寝ポイントでゴロゴロと寝転んでいた。
 ボーとつっ立ったままでいるポケット。真ん丸の目と逆三角形の口が表情かわらずにいる。
 ボー
 ボー
 ボーボーボーのボーー
 全く動こうとしない。壊れてるのではないかと疑ってしまう。
 そんな風に無意味に時間が流れていると廊下から足音が聞こえてきた。その足音はポケットの方に近づいてきた。
 ポケットがボケベラビィとばかりに突っ立っている縁側に1人の少女が現われた。髪の毛は肩口で整えられている。目がパッチリとしていて非常に愛らしい、日本人形のようなつつましげな雰囲気を持った少女だ。少女はピンク色のワンピースを着ていた。その洋服も彼女の愛らしさを更に一層拍車をかけている。
 少女はポケットがぼけーーと立っているのを見て、少し躊躇したが意を決して声をかけた。
「あのぅポケット君、ちょっといいかな?」
 人に声をかけるには少々小さすぎるような気がしなくもない声だ。声をかけるという行為だけなのに頬を赤らめてもじもじとしている。引込み思案で恥かしがり屋なのだ。その行為を見た人は少女に対する愛護心で心が一杯になってしまうだろう。
 ポケットは声に反応するとゆっくりと少女の方を向いた。頭の上の猫に対する配慮の為だ。ポケットはロボットの癖に妙に気がまわる性質の持ち主なのだ。
「これは未来様。なんの御用でございますでしょうかです。」
 ポケットは少女にお辞儀するかのように前屈しながら返事をした。その拍子に頭の上の猫が滑り落ちそうになる。あわてて体勢を立て直すと猫はサッサと庭を抜けて家から出ていってしまった。
「ああ、可哀相な事をしてしまったです。」
 ポケットは猫が立ち去った方を見ると名残おしそうにも聞こえなくも無い声で呟いた。その様子を見て未来はクスクスと笑う。
 ポケットはもう一度未来の方を向き直った。今度は素早い動きだ。
「未来様、何の御用でございますかです?」
 未来はしばし恥かしそうにモジモジとしていたが、意を決して喋り出した。
「あのね、今晩はカレーにしようかと思っているの。それで、材料が足らないの。」
「かしこまりましたです。では必要な材料を教えて下さいです。ポケットが速やかに買ってくるのです。」
 ポケットの言葉に未来はブンブンと頭を横に振った。髪の毛が舞い上がり、白いうなじがチラリと見える。
「違うの、私が買い物にいくから、付き合って欲しいの。」
「ですが、未来様はその御姿になられてからは、一度も家の外に出た事がないのではなかったです?」
 ポケットは目をチカチカと白く瞬かせながら未来に問いかけた。
「うん、そうなんだけど・・・・。」
 未来は口元に手を添えて、不安そうに表情を曇らせた。
 
 実は彼女、井上 未来は生来からこの姿であった訳ではない。それどころか女性ですらなかったのだ。
 本来の彼女の名前は井上 喜一という。性格に大いに難があったが物理学に関しては天才的な知能を持っており、将来を有望視された前途ある男性だったのだ。
 ある論会に出席する為に出かけた喜一は、その最中に彼をライバル視する男と壮絶かつ人外魔境な戦いを行った。
 そのあまりに暑苦しくおぞましい戦いに巻き込まれた実の妹である佳枝(元々は男)が発狂寸前にまで落ちいってしまい、巨悪の根元である2人を抹殺するという 世界平和 蛮行を行ってしまったのだ。
 殺害直後に喜一の記憶データをポケットが回収した。その記憶データを父親の俊三が新たに作った少女の肉体の中にダウンロードしたのだ。
 その際に人格データは存在していなかった。そこで俊三と佳枝はみっちりぎとぎとに変質的なほど入念に彼女に調教を行い、御淑やかで恥かしがり屋、つつましげで思いやりにあふれ、内気で更に引込み思案という『妹萌え』爆発な人格を植え付けたのだ。
 その結果、「井上 未来」という名前の1人の少女がこの世に誕生したのだ。ちなみに佳枝は彼女を溺愛しており、なにかある度に未来に抱き着いてくる。時たま彼女に対して愛撫をしてくるのが玉に傷か。
 
「御姉様は『未来ちゃんのような可愛い子が外にでたら悪い狼達が貴方に襲いかかってくるから、外にでちゃ駄目だよ。』って言いますけど、私は本来は二十歳を超えているんだし大丈夫だと思うの。」
 未来は脅えているかのような様子でポケットに思いを言った。言葉の内容は強がっているがなんだかんだ言っても怖いようだ。
「でもやっぱりヨーミン様の言った事が怖いからポケットについてきて欲しいという訳ですです?」
 ポケットは未来の心情を察して目を瞬かせながら未来に声をかけた。ちなみにヨーミンとは佳枝の渾名みたいな物だ。
 未来はコックリと頷いた。目が小動物が脅えているかのように震えている。
「では行きましょうです。暗くなる前に片付けた方がいいと思うです。」
「うん!」
 未来は顔を輝かせて頷いた。
 
 
「ポケット君、何だか怖いよう・・・・。」
 未来はビクビクとしながら街中を歩いていた。道行く人々が未来達の方を見ている。確かにヘンテコな歩く物体を連れて歩く彼女の姿は傍目から見れば変だ。しかし人々の視線は全て未来に注がれていた。
 未来は後悔していた。やっぱり御姉様の言っていた事は正しかったんだ。外を歩くだなんて、しなきゃよかった。そのような思いで一杯だった。
「うふふふふふふふふふふふふ。」
 突然ポケットが体を震わせて笑い始めた。唐突な出来事に未来はビックリする。そしてちょっと拗ねた表情をポケットに向けた。
「ポケット君、私怖いのよ、いきなり笑い出すだなんてヒドイじゃないの。」
「うふふふふふふ。未来様、皆さんが貴方様に注目しているのは貴方がとっても愛らしすぎるからです。貴方様が無意識でだす魅力に皆さん虜になってしまってるからです。」
 未来はビックリしたかのように目を丸くした。
「ええ、そんな事ないよ。私、そんな・・・・。」
 顔を真っ赤にして身体を縮こませた。その様子は見る者を更なる被虐心を巻き起こすのに、彼女は全然気がついていない。
 事実、未来を見た老若男女全てが彼女に対して沸き起こる愛護心を押さえる事が出来ないでいた。もしも何か事故が彼女に襲いかかったら命懸けで彼女を救うだろう。
「うふふふふふ、間違いありません。この前ヨーミン様とクロード様と一緒に買い物につき合わされた時にもクロード様を見る目も現在貴方様を見る目と同じでした。」
 クロードとは佳枝の友達であり、恋のライバルだ。容姿は「美少女」という言葉を体現化したかのような人外の美貌とプロポーションの持ち主である。実際、彼女は人間ではないのだが。
 ちなみにクロードがそんな目で見られているにも関わらず、ちっとも自分が見られていないのを佳枝は感じて思いっきり腐っていたがそれは余談である。
「未来様、一回皆様に向けて笑ってみればいいのです。そうすればポケットが言っている事が理解できるでしょうです。」
「そ、そう? それじゃあ。」
 未来は顔をあげた。そして穏やかに微笑んでみせた。
 
 バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ
 キキーガシャーン
 チュドコーン
 ドガガガガガガガガガガガガ
 
 道行く人は一斉に倒れ伏した。自転車に乗っている者も気絶して標識に激突したが、それでも目を覚まさなかった。
 バイクは横転して電柱に激突して爆発を起こし、車の運転手はハンドルは切り損ねて次々にガードレールに突撃、中には人を跳ね飛ばしながら店や家に突っ込む物もあった。
 店の中にいた者も気絶してしまい、それを見た客が火事場泥棒を、と思った次の瞬間には気絶した。
 それどころか空を飛ぶ鳥まで落ち、建物にいる動物や虫も一斉に意識を失い、動きを止めた。中にはそのまま昇天するものまででた。
 未来は目の前で巻き起こる阿鼻叫喚の地獄絵図を見て笑顔を引きつらせた。
「ああ、あのぉ・・・・・。」
「うふふふふふ、どうです? ポケットの言った通りでしたでしょう?」
 ギギギギと首を巡らせてポケットを見た未来に対してポケットは笑いながら答えた。
 
 
「はははははは、遂に見つけたよ! 井上君!」
 突然高笑いが辺りに木霊した。
 未来がキョロキョロと見渡すと1人の人物が胸をふんぞり返らせながら立っていた。
 その人物は6歳くらいのオカッパ頭の少女だった。目がドングリ眼でくりくりとしている。ニンジン色のキャロットパンツが可愛らしさを引きたてている。丸みをおびた卵を連想させる可愛らしい顔には何故か不敵な笑みが浮んでいた。
 未来は目をパチクリとさせながら少女の方を見た。少女は未来のその様子を見てニヤリと笑う。
「ふ、見つけたよ井上君。この終生の君のライバルである伊集院が今度こそ君との決着を、って何であっさりと立ち去るのかね君たちはあぁぁぁ!?」
 少女こと伊集院は大きく廻り込むと未来達の前に立ちはだかった。プリプリと頬をふくまらせて怒っている。
 未来とポケットはお互いに目を見合わせる。その間に伊集院は体勢を整えると不敵な笑みを浮べ直した。
「あのぅ・・・・。」
「ふふん、あの時は卑劣な罠にかかって倒されたけど今度はそうはいかないよ。この眉目秀麗かつ知能明晰である伊集院の名にかけて今度こそ君を・・・・。」
 尊大な言いまわしを続ける伊集院に対して未来はオズオズと声をあげた。
「あのぅ・・・貴方は一体誰なのですか?」
「・・・・完全無比に倒して僕こそ真の優秀な人ぶ・・・・ってエエエッ!?」
 ビックリ仰天して伊集院は目を見開く。未来の肩を力一杯掴んでグワングワンと振る。
「い、痛いですぅ、やめて下さい。」
「ちょっと僕だよ、伊集院だよ、伊集院 直正(なおまさ)! 君と大学でトップ争いを続けて博士号も同時に受賞して様々な理論を競い合った、君の終生のライバル伊集院 直正だってば!」
 伊集院の慟哭に対して未来は心底申し訳なさそうな表情を浮かべて頭を下げた。
「ゴメンナサイ。もう私は男の時だった記憶は殆ど無いの。貴方の事も全く思い出せないわ。」
「えっ、そんな・・・。じゃあ相対性理論について3日3晩語り合った事も?」
「ごめんなさい。」
「大学の合宿でテントの中で熱い組み合いをした事もネパールでの戦いも?」
「全然。」
 伊集院は呆けたように未来から手を放した。まるで劇画を見るかのようにゆっくりと膝を地面につけた。
 目から涙がにじんでくる。次の瞬間仰向けになって倒れるこんだ。
「ヤダヤダヤダ〜〜〜!!! アタシは井上と決着をつけるのを〜〜〜〜!!! 思い出してくんなきゃいやあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 叫びながら手足をバタバタと振り回し、全身をグルグル回転しだした。これぞまさしくダダッ子おねだり糞ガキ状態。あまりの情けなさに未来は呆然と伊集院を見つめていた。
「あ、あの落ち着いて下さい。」
「ヤダヤダヤダヤダ、イヤァァァァ!!!!」
「記憶はないですけど、私と決着をつけたいとか言うのでしたらお付き合いしますから、落ち着いて下さい。」
 未来の言葉を聞いて、ピタリと伊集院は動きを止めた。ガバリと一挙動で立ち上がると未来の手を取って目にお星様を浮べながら見つめる。
「本当? 付き合ってくれるの?」
「ええ、貴方が御望みなのでしたら・・・・。」
「わぁ、ありがとう! 井上ちゃんって優しい〜〜!!」
 伊集院は未来に思いっきり抱き着いてきた。ギュウギュウと締め付けてくるので未来は思わず顔をしかめた。
「あ、あのぅ・・・・。」
「あ、そうね。こんな風にジャレあっちゃいけないわよね。」
 伊集院は未来から離れるとキッと睨んできた。
「さあ井上ちゃん、勝負よ! 来なさい、GJP−004!!」
 伊集院は大きく指を鳴らした。どうでもいいがいつの間にか未来の事を「井上君」から「井上ちゃん」と呼ぶようになっていて、さらには女言葉になっている。
 上空から轟音が響き渡った。見上げてみると空から何かが降りてきている。
 地響きを立てながらそれは降り立った。それは身長2m50はいっている黒い人型の鉄の塊であった。腕が巨大に肥大しており、反して足が短く太い。頭にあたる部分は弾丸のように尖った形をしている。
「ふふふふ、どう! 私の全知をかけて作った音声認識コントロールを装備した戦闘用人型機械兵器、GJP−004よ! 両腕に強力な爆弾が仕込まれていて凶悪な破壊力を生み、60mmの装甲はミサイルランチャーすら弾き返すわ!」
 伊集院はふんぞり返って未来に見下すような視線を送った。
 未来は脅えたようにポケットに抱き着いた。ポケットの目はチカチカと七色に灯っている。
「さあやってしまいなさい、GJP−004! 井上ちゃんを倒すのよ!!」
「マ゛。」
 GJP−004は主の声に反応して未来に攻撃を仕掛けようとしたまさにその瞬間、
 GJP−004は上空10mぐらいまで放り投げられていた。
「はあ゛??」
 伊集院がアングリと口を開けた。空中に飛ばされたGJP−004に何か小さな物が凄まじいスピードで突っ込むと瞬時の内にGJP−004を粉々に打ち砕いた。
 爆発の炎の華が空中に咲き誇った。GJP−004を構成していた鉄のパーツがカランカランと地面に落ちる。
「はい? あれ? あ? あれ?」
 伊集院、何が起こったのかわかっていない。あまりの出来事に頭の中がパニック状態になってしまったのだ。
「おい糞ガキ。」
 伊集院の横から声がした。伊集院は振り向いてみたが誰もいない。
「下だ下。」
 再び声が聞こえてきた。下を向いてみると伊集院をキツメの視線で睨んでいる少年が1人立っていた。幼稚園児と思わしき体躯の癖に髪の毛を染めていてるのかこげ茶色をしており、目つきがやたらと悪い。そして少年は白い割烹着を着て茶色のモンペを掃いている。そして止めとばかりに右腕に買い物篭を抱え込んでいた。服装はどう見ても「古きよき時代のオバサン」そのものだ。
「なに街中であんな危険な物、動かしてんだよ。」
 殺気すら滲ませながら少年は伊集院を非難した。少年から放たれる凄みに思わずたじろぐ伊集院だったが、直に気を取り直すとムニムニと少年の頬っぺたをつまみ出す。
「ちょっとぉ、坊やなの? 私の傑作であるGJP−004を壊したのは。あれ作るのにお金が沢山かかったのよ、弁償してくれるんでしょうねぇ?」
 少年を睨みながら頬っぺたをムニムニし続ける伊集院。実は少年のホッペの感触が抜群の為に触り続けたいだけなのが本音だ。
 未来はオズオズと伊集院と少年の方に歩いてきた。そして少年の顔を見ると驚いたように手で口をふさいだ。
「あ、あのう、もしかして貴方様はエッジ様ではないのですか?」
 次の瞬間、伊集院の全身が硬直した。少年ことエッジの頬っぺたを摘んだままの姿で石と化した。全身から脂汗と冷や汗が混じった汁が噴き出してくる。
「あの・・・・エッジって、「ティンクル・ピクシー」の片割れの、ゲロ強い妖精さんの事?」
 未来はコックリを頷いた。
「あの500体の幽霊を10分で滅ぼしたという噂のあるエッジさんが、この子なの?」
 未来は再度コックリと頷いた。その顔にはこれから起こるであろう惨劇を想像して哀れみに満ちた物になっている。
 ギギギギギッと首を巡らせながら伊集院はエッジの方を見た。エッジの額には見事な青筋が一本浮かび上がっていた。
 伊集院とエッジの目が合った。次の瞬間、エッジはニンマリと笑う。伊集院の全身に凄まじい悪寒が走りぬけた。
 そして、
 
「あひあひゃおひえええぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
 
 ☆伊集院ちゃんの今日の教訓☆
 見た目が可愛くても噂が怖い人は本当に怖いんだね♪ いいことを知ったね♪ 
 ちゃんと覚えておかないと大変な目にあっちゃうぞ☆ 今の私のようにな。
 路地裏のポリバケツのゴミ箱に血まみれ全身複雑骨折状態で頭から突っ込まれた伊集院は薄れゆく意識の中でそんな事を思っていた。
 
 
 未来とポケットはエッジと共に総合デパートの食品売り場に来ていた。
 エッジの勧めで未来は備え付けられた肉屋の前に来ていた。
 エッジの手ほどきをうけて未来は鮮度のいい牛バラ肉を購入する事になった。
 レジの前に肉を置いた。さて財布からお金を取り出そう、とした時に未来の背中がクイクイッと引かれた。何事だろうと振り返ってみるとエッジが意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「未来、レジ係の人にニッコリと笑ってみろ。」
「えええ? で、でもぉ・・・。」
「いいからやってみろ。面白い事になるかもしれないぞ。」
 エッジに促されて未来は息を一回整えると、レジのオッサンに向けてニッコリと笑ってみた。
 レジのオッサンの鼻の穴から凄まじい勢いで血が噴き出した。うかつに未来の笑顔を見てしまった人達も頭の血管を破裂させながら次々にぶっ倒れていった。見ていない人も溢れ出てくる超絶的な魅力パワーに次々と陥落していった。
 数瞬後には喧騒に包まれていた総合デパートの食品売り場は死屍累々とばかりに人々が倒れふした静寂な場と化した。
 立っているのは愕然と佇む未来とボケーと立っているポケットとあまりの事に口を呆けたように開いているエッジ、そして鼻から未だに血を噴き出しているレジのオッサンだけであった。
「あ、あのう、お会計を・・・。」
 未来は恐る恐るオッサンに声をかけた。
「いいんだよ・・・・。」
 オッサンは鼻から血を噴き出しながら恍惚とした表情で未来に返答した。
「え? あのぅ・・・。」
「いいんだよ、今日の僕は人生史上最高に気分がいいんだ。これも君の笑顔のおかげさ。そんな素敵な君からお金なんて巻き上げられる筈なんてないじゃないか。代金なんて僕が払っておくよ、さあ行きなさい。」
 レジ係のオッサン、鼻から血を噴き出しながら芝居がかったかのような口調でとうとうと喋る。
 未来は少し躊躇したが、せっかくくれたオッサンの好意を受ける事にした。
「オジサマありがとう。」
 未来は言葉と共にオッサンめがけて心から感謝の意味を含めた笑顔を浮かべた。
「おい! それはヤバイんじゃないのか!?」
 エッジは慌てて未来の笑顔を隠そうとした。だが時は既に遅かった。
 オッサンは恍惚とした、というかイッチャッタ表情を顔に浮かべると耳から目から髪の毛の穴から全身の体毛の穴から、すなわち全身の穴という穴から血を噴出させると仰向けにパッタリと倒れた。倒れている人達も先ほどを上回る魅力パワーを浴びせられて恍惚とした表情を浮かべてコト切れた。
 立っている残りの3人中2人はたった2回の笑顔で起こった惨劇を目のあたりにして真っ青になった。いそいで食料を抱え込むと墓場と化した食品売り場から速攻で逃げ出した。
 
 
『・・・・***デパートの食品売り場にて大量の失神者が発生しました。うち「○△□ ×」さん(36)は全身から大量の血液を出しており、意識不明の重体に・・・・』
「なんだか、近所のデパートでとんでもない事が起きちゃったようでちゅね。」
「そうだなぁ、誰かが化学兵器でも撒き散らしたのかな? とりあえず酷い事する奴がいるな。」
 俊三と佳枝は夕食を食べつつTVで流れているニュースを見てそのような感想をもらした。
 その間、未来は黙りこくって沈み込んだまま黙々とカレーを食べていた。
『え〜ん、言えないよぅ。私が笑ったのがこの事件の大元だなんて。ああ私って酷い存在だったのね。もう二度と、人前では笑わないようにしないと・・・・。』
「どうしたの、未来? さっきから黙りこくっちゃって。」
 栄治は新しくできた妹がさっきからダンマリこんでいるのを見て心配そうに声をかけた。
「う、ううん、作ったカレーの味を確かめているだけだよ。」
 未来は顔をあげて勢いよく頭を横に振ると、兄を安心させる為にニッコリと笑った。
 その殺人級(文字通り)の笑顔を見て佳枝が我を忘れてしまう。未来に抱きつくと未来のホッペに自分の頬っぺたをくっつけてスリスリと頬擦りをしだす。
「あ〜ん、未来ちゃんやっぱ可愛い☆ お姉ちゃんがスリスリチュッチュしてあげるね〜〜♪」
 そして今度は頬っぺたにキスを連発しだす。その目はすでにイッチャッテいる。
「御姉様、今はお食事中なのですよ。そのような事をするのははしたな・・・・キャハハハハ、くすぐらないで下さい〜〜。」
 佳枝の魔手は未来のわきの下をくすぐり出したのだ。未来はあまりのくすぐったさに思わず声をだして笑ってしまう。
 その間も佳枝のホッペスリスリ攻撃とキス攻撃は止まらない。未来はあまりの事態にずっと笑い続けた。
 唐突に佳枝が未来を抱きしめた。未来はびっくりして佳枝の顔を見る。佳枝は聖母の如く優しい笑顔を浮かべながら未来を見つめていた。
「大丈夫だからね未来。何があったのかは知らないけど、俺は絶対お前の味方だから。」
「御姉様・・・・。」
 未来もギュッと佳枝に抱きついた。
 
 
「ふふふふふ、美しい一家団欒を築いているようじゃないの、井上ちゃん。だけどそんな油断している状況を私が見逃すと思って!?」
 ミイラの如く全身包帯まみれで松葉杖をつきながら伊集院(生きてた)は不適な笑みを浮かべつつ井上家を見つめていた。
「さあやれ、GJP−006! あの家を強襲するのだ!」
 まるで悪の司令官の如く伊集院は後ろに控えている筈のお手製人型兵器に対して指示をだした。
 沈黙。季節外れの寒い風が吹く。
「あ、あれ? GJP−006? どうしたの?」
 伊集院は慣れない松葉杖を使って後ろに振り返った。そこには、
 GJP−006を形成していたと思わしき鉄の塊が転がっており、その上には白い割烹着を着てモンペを履いた子供が1人、無表情なまま立っていた。
 凄惨な光景を見て伊集院は硬直した。
「あは、あははははははは。」
 我知らず、口から笑い声がこぼれてくる。
 子供はニンマリと笑った。それを見て伊集院は今日2回目の全身を貫くような悪寒を味わうことになった。
 
「おきゃ〜〜!」
 
 ☆伊集院ちゃんの今日の教訓、パート2☆
 卑怯な真似ってしないほうがいいわね♪ 下手に怖い人にばれたら凄いしっぺ返しを食らっちゃうんだぞ♪
 やるんだったら正々堂々とやった方がマシよね☆ そうすればここまではいくらなんでもされないだろうし。
 ポリエステル製のごみ袋の山の中で野良犬につつかれながら三途の川の川原をスキップしつつ伊集院は思った。



 <あとがき>という名の戯れ言
 
 こんにちわ、DEKOIです。狩人 - 始めてのお買い物 - をお届けします。
 
 今回のお話の主人公は元筋肉妖怪こと井上未来ちゃんです。ノリと勢いと酒の酔いに任せて書かせていただきました。
 
 未来ちゃんが広範囲無差別殺戮兵器である事を書いた・・・・つもりはなかったんですが、なってしまいました。おかしいなあ、未来ちゃんの笑顔がとっても可愛いというのを書くだけのつもりだったのに。
 
 あと未来ちゃんのライバル、伊集院の女の子バージョンもやっぱりノリで出しました。彼女の不幸っぷりもこの作品の目玉です。どーぞ注目してください。
 
 さて「狩人」第2部の大体のシナリオが構想し終わりました。しばらく時間を置いてから執筆に取り・・・・かかっていいのかなぁ。この時点ではまだアンケートの内容を知らんへんねん。新作の方も2,3程考えてあります。どっちを書くかはアンケート次第。どーか「4」だらけじゃありませんように(死にます、本当に)。
 
 それではこのような挨拶を出来ることを願いつつ、筆を置かせて頂きます。またお会いしましょう。
 
 by DEKOI


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