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狩人 - 決戦【後編】 -
作:DEKOI

 

<<10:狂魔導師ヴァンドル>>
 
 蘇芳とヴァンドルは向かい合っていた。暗い、暗い部屋だ。本来なら20m四方程度の大きさの部屋の筈なのに、辺りの暗さが部屋を1まわりも2まわりも大きく見せている。そして床の白く輝く逆五芒星の魔法陣がさらに不気味さに拍車をかけている。
 蘇芳は剣を抜いた。ただの剣ではない。かつて魔界最大の魔族の一体プライドが用いていた剣、神薙(かみなぎ)。どういうルートをまわったのか知らないが魔界から人間界に流れてきたその剣を彼は入手(火事場泥棒で)した。そして剣の放った試練を乗り越えて、彼は剣と魂の契約を結んだのだ。
「ヴァンドル、儀式を中断しろ。さもなくば貴様を「狩る」事になる。」
 蘇芳は剣をヴァンドルに突き付けながら言い放った。
 対してヴァンドルはいやらしく、おぞましい笑みを更に深めた。
「蘇芳君、駄目だなあ。こんな楽しい事をやめる馬鹿なんている訳ないだろう? 君にも感じるだろう、『魔界』から流れてくる瘴気を。あと1時間とちょっともすれば魔界の門が開かれるんだ。」
 ヴァンドルはまるで踊るかのようにスタスタと魔法陣の上を歩いた。その間もまるで演劇をしているかのように腕を大きく広げたり、交差したりしている。
「君の仲間の判断は正しかったようだね。もしも全ての親衛隊を各個に撃破していれば絶対に間に合わなかっただろうね。」
 ヴァンドルは感心したように蘇芳を見つめた。その台詞で蘇芳は残してきた仲間達の事が心配になった。だが今は彼等の事以上に現状を打破する方が重要だ。そのために彼等は捨て石になってくれたのだから。
「ヴァンドル、止めるつもりはないのだな。」
「しつこいね、蘇芳君。とっととかかってきたまえ。僕が倒せれば、儀式を止めれるよ。」
 蘇芳の最後通告をヴァンドルは耳の穴をほじりながら拒否した。
 剣を強く握りしめ、蘇芳はヴァンドルを睨みつけた。
「そうか、ならば仕方が無い。この世界を救う為、そして妹の楓の無念を晴らす為に。ヴァンドル、貴様を「狩る」!」
 
 蘇芳はヴァンドルに疾風の如き速度で躍りかかった。剣を縦一文字に振りぬく。
 剣はあっさりとヴァンドルを唐竹割りにした。大量の血が飛び散る。問答無用の致命傷、の筈であった。
「はははは、蘇芳君。いきなりお痛をしちゃあだめじゃないか。」
 頭頂部から股間部にかけて切り裂かれたにも関わらず、ヴァンドルは高笑いをあげた。
「な、なに?」
 蘇芳は急いで剣を引き抜くと後ろに跳んで間合いをとった。その顔には信じられない物をみたかのような驚愕の表情が浮んでいる。
 ヴァンドルは両手で離れそうになった身体をくっつけた。切断面があっという間に癒着してしまう。服が切れているのさえなければ先程と全く変わらない姿でヴァンドルは立っている。
「クロード君と同じ超回復力か? ならば・・・!」
 蘇芳は剣を腰だめに構えると足を大地に踏ん張った。独特なリズムで呼吸を刻み、気合をいれる。
 少したつと蘇芳の全身から白い煙が立ち昇ってきた。
「神薙! 電光石火!」
 ヴァンドルに向けて剣を腰だめに構えたまま蘇芳の跳んだ。その速度は音速の壁を突きぬけている。
 蘇芳は縦横無尽に剣をヴァンドルに振るった。
 ヴァンドルの身体は剣そのものの斬撃の他に生まれでたソニックブームによって血液はおろか細胞一片たりとも残さずに塵と化した。
 蘇芳は地面に降り立った。そしてヴァンドルの方を見る。
「再生不可能な所まで破壊してしまえば・・・・何!」
 蘇芳の見ている所で塵が集まっていく。それは人型になり、凝縮して元のヴァンドルの形に戻る。最終的には素っ裸のヴァンドルが立っていた。
 唖然とその光景を見ている蘇芳。その様子をヴァンドルは楽しそうに見つめた。
「言わなかったかな。実はもう半分魔界の門は開いているんだよ。それから流れてくる無尽蔵の魔力を用いれば肉体の再生なんてたやすいもんさ。」
 ヴァンドルは手をチチチッと振ると、白い光の渦がヴァンドルを包んだ。数瞬後には戦闘前と全く同じ衣装を着た状態になった。
「すなわち、この部屋にいる限り僕は不死だって事さ。わかったかい蘇芳君。君に儀式を止める手段なんて実は最初からなかったんだよ。残念だねぇ。」
 ヴァンドルは声高に笑った。その姿を蘇芳は絶望的な思いで見ていた。
 
 
<<11:「狩人」達は決戦に集う>>
 
「しゃあぁぁぁ!」
 ラウリーは裂帛の気合と共に鎌を振り上げた。地面から怨霊の悪意で作られた4つの黒い巨大な刃が現われて子供型のゴーレムを6体粉々に砕いた。
 返す刀で鎌を振り下ろし、近寄ってきていた女のゴーレムを両断する。
 すでにラウリーはたった1人で4000体近くのフレッシュ・ゴーレムをすでに打ち倒していた。辺りには死体を連想させる肉の塊がごろごろと転がっている。凄惨な地獄絵図が広がっていた。
 無論それだけの相手と戦ったのだ、彼女もただではすんでいなかった。着ている鎧がある所はへこまされ、ある所は切断されていた。身体もかなり傷ついている。疲労もかなりの状態になっていた。目も霞んでくるし、手に力が入らなくなってきていた。
 だがラウリーは落ち込みそうな気を奮い起こした。身体の力を振り絞る。
 ここで落ちる訳にはいかない。世界を守る為に、なによりも友の為にここを死守せねばならない。
 鎌を両手で持って、身体の上に持ち上げる。すると鎌の周りの空間がドス黒くなっていく。
「暗黒奥義、ギスティンガー!」
 叫びと同時にラウリーは振り下ろした。彼女の前に黒い六芒星が5つ五芒星の形で出現した。六芒星で作られた巨大な五芒星はゴーレムの大軍の中に突っ込んだ。鉄が力で強引にひしゃげられたような音をたてて五芒星はこなごなに弾けた。
 六芒星も少し間を置いて弾けた。それと同時に黒い線状の何かがいくつも現われて、ゴーレムに襲いかかった。線状の何かに触れたゴーレムはズタズタに切り裂かれた。
 その一撃でゴーレムが100体近く破壊された。ラウリーは肩で息を吐きながら残ったゴーレムを睨みつけた。残り、あと1900体。
 
 
 バルザとボクボの階段上での戦いはボクボの方が有利に進んでいた。
 ボクボの能力、高速移動によってバルザはまともに触れる事すらできなかったからだ。
 ボクボは勝利を確信していた。一撃必殺などは狙ってはならない。ちまちまと攻撃を続ければいずれこの魔族は倒れる。ヒット&アウェイを繰り替えしつつ、バイザを少しづつ痛め続けていた。
 バイザはよろよろと壁にもたれかかった。ボロボロになったかのように肩を上下に揺らしている。
 もう少しだ。そう判断するとボクボはさらなる攻撃を繰り出す為にバイザに襲いかかった。
「かかったね。」
 ポツリ、とバイザが呟いた。次の瞬間、ボクボは強烈な脱力感を味わった。動きを止めて思わず倒れ伏す。
 よくよく見ると少し見ではわからない程薄い紫色の膜がボクボの周囲に纏わりつくように張られていた。
「な、なんだこれは?」
「私が作った結界だよ。トラップ式のね。アンタのスピードには私がついてけない事くらいわかっていたからね。だからアンタの攻撃を食らいながらも周囲に接触する事で発動する捕縛用の罠をいくつか作っていたのさ。」
 よろよろとバイザは壁から身を起こした。その右手に紫色の光が集中していく。
「くっ、壁によりかかったのは罠に我を誘い込む為か。」
「そういう事。それに私が倒れそうな光景を見たらアンタが勝利を確信するだろうと思った。そうすれば周りの注意におろそかになるから、更に私の仕掛けた罠に引っ掛かりやすくなるしね。」
 ボクボは体をカチャカチャと震わした。表情はわからないが、悔しそうに見える。
「そこまで計算していたとは・・・!」
「『勝利を確信した時、その者は負けが確定している』、私がそれなりに長い戦闘経験で得た教訓さ。アンタの方が私より能力的には強かったけど、戦闘経験では私の方が勝ってたって事だね。」
 バイザの右手の光が大きく伸びた。その形状は幅広い紫色に輝くナイフのように見えなくもない。
「これで終わりだよ、マインド・カッター!」
 バイザはボクボに向けて右手を突き出した。ボクボは必死になって避けようとしたが周囲の膜に触れた途端、強烈な脱力感が再たび襲いかかり動きが止まってしまう。
 紫色のナイフがボクボの胸を貫通した。辺りに激しい紫光が放たれる。
 光が収まった後、ボクボの体は音をたてながら床に転がった。がらんどうの鎧が周囲に散らばる。
 バイザは力が抜けたように床に座り込んだ。肩で大きく息をつく。
「・・・休んでる暇はあんまないね。早く皆の支援にいかないと。」
 バイザはふらつきながらも身を起こすと、階段を降り始めた。
 
 
 その部屋の壁や床は穴だらけになっていた。アガルガン親衛隊の一騎、ウロウの攻撃による物だ。
 ミーナは何度かウロウの攻撃を食らっていたが、何とか致命傷は避けられていた。ウロウの攻撃が全て打撃系だった為に、すんでにスウェーして威力を削げれた為だ。
 とは言え、ウロウの強烈な攻撃を食らって、ただで済む訳がない。ミーナはあと少しで倒れそうになるまで疲労していた。
 ミーナもウロウに攻撃を何度か仕掛けていた。だが重厚な鎧はミーナの生半可な攻撃を軽く弾き返した。
 そこでミーナはある「賭け」にでる事にした。ある意味自暴自棄とも取れる「賭け」。その為の仕込みも一応しておいた。
 ミーナは壁に寄りかかった。ウロウの攻撃を誘う為に。今までの戦いでわかった事だが、あの鎧はここぞという時にしてくる攻撃は体当たりだ。それを誘えれば・・・・。
「お前、健闘した。でも、ここまで。止め、さす。」
 ウロウはたどたどしい口調でそう言うと、ミーナに右肩を向けた。そして凄まじいスピードで突っ込んでくる。
 狙ってきたのが来た。ミーナはそう思うと斧を握り締めた。事前にしていた仕込み、ウロウの右肩に何度か攻撃して作っておいた小さな傷に集中する。
 どんどんウロウの全身が迫ってくる。ミーナの胸の内に恐怖が生まれてきた。だがそれを精一杯に振り起こした勇気で何とか押え込むと彼女は「賭け」にでた。
「どうりゃああああ!」
 力一杯に斧をウロウの右肩の傷めがけて振るう。斧の刃先は違わずに傷に叩き込まれた。強烈な衝撃が斧を通じてミーナに襲いかかった。斧が手を離れ、彼女の細い身体が壁に叩き付けられる。その衝撃で少し吐血してしまう。
 しかし、ミーナの「賭け」は成功していた。ウロウを形成している鎧は右肩を中心に大きく吹き飛ばされて大穴を作っていた。生まれでた衝撃でミーナへの軌道がそれて、彼女から大きく外れた壁に激突してしまう。その激突によってさらにウロウの鎧は大きく歪む。
 ミーナの「賭け」、それは仕込んでおいた傷めがけて行うウロウの体当たりによるスピードと重さを利用したカウンター攻撃であった。仕込んだ傷に斧が当らなかったり、計算しているより傷が浅かったりしたら彼女の身体はウロウの体当たりを食らって血まみれの肉の塊になっていただろう。大変に危険な「賭け」だ。
 だがミーナは「賭け」に勝った。結構強烈なダメージを受けたがウロウに致命的な傷を与えれた。ミーナはふらつきながらも身体を動かすと斧を手に取った。
 その間にウロウも壁から体をひっぺがえしてミーナの方を向いていた。右肩から下が根こそぎに吹き飛び、更に全身が体当たりの誤爆による衝撃でいびつに歪んでいる。しかしそれにも関わらずウロウは残った左手を振り上げていた。
「お前、凄い。でも、俺も、負けない。」
 ウロウはボソリと呟くと、左手の鉄球をミーナめがけて振るった。だが右腕を失ってバランスが崩れた体で放たれたその攻撃はミーナとはあさっての方に飛んでいく。
 ミーナはウロウの右手の方に跳び込んだ。そして足を大きくスタンスを広げると斧の刃先を下に向けて力をこめる。
「終わりにさせてもらうよ、シュトゥルムヴァレック!!」
 斧が大きく振り上げられた。それと同時に強烈な竜巻が発生する。竜巻は3mもあるウロウの身体を空中に持ち上げた。グルグルと空中で回転し、ウロウの四肢が強引に引き千切ぎる。激しい轟音をたてながら重厚な鎧が床に叩き付けられた。
 ミーナは床に座り込んだ。頭を上に向けて大きく息をする。
「お前、強い。俺の、負け。」
「アンタも強かったよ。」
 ウロウの言葉にミーナは笑いかけながら答えた。ウロウは全身を大きく一回震わすと、それっきり動かなくなった。
 ミーナは深呼吸をして息を整えた。呼吸が落ち着くと斧を杖にして立ち上がり、蘇芳達が向かった通路に向けて歩き始めた。
 
 
 クロードはもうほとんど全裸といっていい状態になっていた。一部のマニアに嗜虐心を呼び起こすセーラー服の切れ端が中途半端に肌を覆っている姿は異様にエロい。
 クロードはアガルガン親衛隊の一騎、モハモと戦っていた。全身が真っ青な刃で形成されたその存在はサディストのような性格をしていた。
 モハモは何度かクロードの身体を大きく切り裂いていたが、クロードの持つ超回復力によって傷はあっさりと治っていた。だが切り裂かれた服は直しようがなく、結果彼女は豊かな乳房が半分以上まろびでていたり、ストッキングが中途半端にやぶれて太股がこぼれていたり、股間の(ピー)が見えそうで見え無かったりといったなんとも卑らしい格好になってしまっていた。
「ひゃはははははっ、エロイ格好じゃねぇか姉ちゃん!」
「うるさいわね! アナタがこんな格好にしたんでしょうが!」
 クロードは右手を振るって血を飛ばした。血は空中で瞬時に凝固すると弾丸になってモハモに襲いかかった。
 モハモはそれを避ける、が何発かが体に当り、刃を欠けさせる。
「にゃろう、よくも俺様の体を!」
 モハモは腕を大きく薙ぎ払った。クロードの腹が大きく切り裂かれて血が大量に飛び散った。血はモハモにあびせられた。
 クロードは腹を押さえて大きく後ろに跳んで間合いを取った。その間に腹の傷から白い煙があがって、瞬く間に完治してしまう。
「ぎゃははははは、何度も切れてお得な身体をしているぜ、テメエはよ!」
 全身の刃をカチャカチャ揺らしながら楽しげに笑うモハモ。その様子を見ていたクロードは侮蔑していたかのように見えたが、その顔に不敵な笑みが浮ぶ。
 モハモはクロードの表情を見て体の蠕動を止めていかぶしそうに頭にあたるナイフをめぐらした。
「ああん? 何を笑ってるんだテメエ?」
「モハモだったね。アナタ一体どれくらい私の血を浴びたかわかっているのかしら?」
「あんだと?」
 モハモはクロードの言葉を受けて思わず自分の全身を見渡した。モハモの体はクロードからの返り血で本来の体の色である青よりも血で染まった赤の方が多くなっている。
「私は自分の血を自在に操る事ができるの。例えばもう体外にでた血液を液体状態にしておいて、合図と共に瞬時に蒸発させたり、血液の中に含まれている塩分を異様に濃くしたりとか、ね。」
「な、なんだとぉ?」
 驚愕の声をあげるモハモ。それを尻目にクロードは右手のしなやかな指を大きく鳴らした。
 次の瞬間、モハモの体を濡らしていたクロードの血液が瞬時のうちに蒸発した。するとモハモの全身に血液がかかっていた所を中心に赤茶けた物が浮き出てきた。
「ひ、ひいぃぃぃぃ! お、俺の体に錆があぁぁぁ!!」
「アナタの体を構成している刃はやっかいでしたからね。刃の構成成分が鉄だという事は予測できたから、私の血液に流れる塩分を100倍くらいに濃縮させておいてから私の身体を切らせて、アナタに血をふりかけておいたってわけね。その結果はご覧の通り。」
「て、てめえ、わざと切られてたのかぁ?」
「そういう事。これでアナタの刃物は無用の長物よ。錆びた刃なんて、怖くないですからね。」
 モハモは悔しそうに全身をうち震わせた。その拍子で赤茶けた粉がポロポロ落ちてくる。
「よ、よくも俺様のビューティフルな体をぉぉ、畜生!」
 逆上のあまり、モハモはクロードに向けて躍りかかった。
 その様子を冷静に見つめていたクロードは、右手を胸の前まで持ってくると手刀の形にした。
 カギ爪を吹き飛ばして血が爪の箇所から激しく吹き出してくる。血液は1mくらいまでふきだすと凝固した。最終的にはクロードの右手には西洋の剣のような幅広な赤い刃が出現していた。
「ストリップにしてくれたお礼よ。くらいなっ、ブラッディ・ソード!」
 クロードとモハモが交差する。その時にクロードは血でできた剣をモハモに向けて振るった。剣はモハモの左肩から右脇腹に向けて大きく切り裂いた。お互いの足が地面についた時、モハモはガシャガシャと音をたてながら崩れ落ちた。
 クロードは大きく息をついた。そして先に行った人達を支援する為に向かおうと思った時にふと、自分の格好に気付いた。
『こんな格好、あの人に見せたくないなぁ。』
 そう思うと激しい羞恥心がクロードの内に生まれた。誰も見てないのはわかっているが思わず胸と(ピー)を手で隠してしまう。顔も真っ赤に染め上がる。
 キョロキョロと辺りを見まわすとエッジに殴り殺された男性の死体が目に付いた。
 クロードは申し訳なさそうに死体から衣服を剥ぎ取ると、それを自分に身に着けた。かなりブカブカだがセーラー服の切れ端を利用して何とか落ちそうになるズボンを止める。上はまぁしょうがないか、と思って諦める。
 身繕いを終えるとクロードは廊下を走り出した。
 
 
 激しい爆発音と弾丸の発射音、そしてドリルの回転する音が響いていた。
 佳枝とラパラが互いに放つ武器の発射音と着弾音だ。
 佳枝がバ○ター・ラ○チャーを撃つとラパラは両足からまるでホバーのように空気を噴出させて中に3cm程浮くと、素早く移動して砲撃を避けた。
 ラパラの右手のバルカン砲の乱射を佳枝は横っ飛びを連発して避けきった。
 ポケットから受け取ったドリル・ブー○トナックルうけとると、佳枝は躊躇せずにすぐさま発射した。バルカン砲の砲撃を食らってもびくともせずに力強く飛んでいく。ドリル・ブー○トナックルはラパラに着弾すると表層を削り取ってから爆発する。
 すこしだけふらつくラパラ。そこに向けて佳枝はポケットから射出された穂先がドリルになっている槍を持って突撃した。そして胸元めがけて突こうとした刹那にラパラの左手の巨大なドリルが回転しだして佳枝に襲いかかった。
 佳枝は必死になってドリルを避ける。かすめた拍子で髪の毛が何本か切れてしまう。
「おにょれよくも乙女の髪の毛を!」
 悪態をつきながらダッシュで後ろに下がる佳枝。そこに今度はガン○ムのビームライフルがすっ飛んできたので空中でキャッチする。そしてラパラの方を振り向いた、途端に顔が大きく強ばった。
 両肩が展開して光を放っている。どう考えてもさっき放ってきた極太ビームの構え。
「のぎょろひょおぉぉ!?」
 相変わらずよくわからない悲鳴をあげつつ佳枝は床にカエルの礫死体の如く這いつくばった。その上を強烈な熱波が通り過ぎていく。
 熱波が通り過ぎたのを確認するとすぐさま立ち上がり、ビームライフルを乱射した。目的は間合いを取る為の牽制だ。
 佳枝のピーム攻撃をラパラをホバーを使って器用に避けてみせた。その行動をとっている間に佳枝はスッタカターと後ろに下がる。
「だーなんなんだよ、アイツ。メッサ強いじゃん。」
 佳枝は大きく息を吐くと思った事を呟いた。
 確かにラパラは強かった。下手な攻撃は重厚な装甲の為に通用せず、威力のある単発攻撃はホバー移動であっさりと躱される。攻撃の手をゆるめるとバルカン砲を乱射してくるし遠距離で止まっているとレーザーが、近づくとドリルが襲ってくる。攻守共に優れた強敵だ。
「とりあえず、あいつの装甲を崩さないとな・・・てうわわわわわ。」
 物思いにふけっているとラパラはバルカン砲を撃ってきた。急いでその場から離れて弾丸の嵐から回避する。
「あーもーなんかとっておきの攻撃とかないのかよ〜、ポケットぉ!」
 思わず悪態をポケットにつく佳枝。対してポケットは、
「ありますです。」
 と答えた。
「ふうん、そうなんだ・・・・ってハイ? あんの?」
 ポケットの上半分がパッカンと開くと何かが飛び出してきた。
 思わず佳枝はそれを掴んでいた。それは1本のライフル銃であった。
「ライフルじゃん。こんな物であいつの重装甲を撃ち抜ける訳ないじゃんかよー。」
「ヨーミン様。これからポケットが言うのはとってもとっても危険です。ですが上手くいけばアイツの機能の50%を削れるでしょうです。」
 一言忠告を入れてからポケットは佳枝にある戦略を言い出した。その間もラパラのバルカン砲による散発的な攻撃が続いていてドタドタと走り回りながらだったが。
 聞き終わった後、佳枝の顔は半分青ざめていた。あまりの無謀な作戦の為にびっくりしてしまったからだ。
「そんな無茶な方法せんといかんの〜??」
「あの装甲を確実に完全に破壊するにはゴルディ○ンハンマーの一撃が必要です。ですがゴルディ○ンハンマーの使用には大きな隙ができてしまいます。その隙にビームを撃たれたら終わりでしょうね、うふふふふふ。」
 佳枝は場違いなポケットの笑い声にうんざりとしながらも渋い顔でラパラを見た。
「冒険しなけりゃアイツには勝てないって事か・・・。ええい、もう腹を括った!」
 踏ん切りがついたのか佳枝はライフルを持つとラパラに向かって走り出した。
 バルカン砲を撃っていたラパラは目の前にいる娘が走ってきているのを見て、不可思議に思った。
 あんな豆鉄砲で自分の装甲を撃ちぬけるとでも思っているのだろうか? だとすればあの娘は自分の事を過大評価しているとしか思えんな。侮蔑じみた思いをラパラ抱いた。
 いいだろう、ならばその思いを俺の一撃で完全に打ち砕いてやる。ラパラはバルカン砲を止めると、ビーム砲の用意に取り掛かった。
 佳枝はラパラの両肩のビーム砲が起動し始めたのを見て足を止めた。チャンスだ、彼女は床に座り込むとライフルを構えた。
 狙いは展開したビーム砲。ビーム発射直後のエネルギーが抜けきった所にカウンターでライフル弾を撃ち込む、それがポケットが佳枝に授けた戦略だった。一歩間違えればビームの直撃を食らう。そうなれば一環の終わりだ。
 ビームを避けながらライフルを目標めがけて撃つ、こんな離れ業を彼女はするのだ。左目を閉じると右目でスコープを覗いた。
 ビーム砲が充電されていく。佳枝の心に緊張が走った。
 発射されると思った時、一際大きくビーム砲が発光した。その光をスコープ越しで見て佳枝は思わず目を眩ましてしまった
『しまった!』
 そう思った時にはビームの発射音が確かにしたような気がした。体勢が崩れている、避けようがない。
『やだぁ! まだあの人にアタシの思いが伝えられてないのにぃ、まだ(ピー)を捧げていないのにぃ! こんな所で死ぬだなんて絶対に嫌ぁ!! あの人を振り向かせてからじゃないと悔やんでも悔やみきれないよぅ!!!』
 一瞬で佳枝はそんな事を思い至った。
 次の瞬間、佳枝の目の前に黒くて丸い物が現われた。
 ラパラのビームの直撃をそれはまともに食らった。だがそのおかげで佳枝はビームから回避できた。
「今です、ヨーミン様。ライフルをです。」
 それは佳枝にそう言った。それはポケットだった。ポケットは身を挺して佳枝の盾になったのだ。
 ポケットの声を聞いて、我に帰った佳枝はライフルを構え直す。狙いは右肩のビーム砲。狙いがつくとすぐさま発砲した。
 ライフルの弾丸はビーム発射直後のビーム砲に向かって一直線に飛んでいった。そして、着弾する。
 爆発音が鳴り響いた。ラパラの右腕が肩から落ちた。
「うおぉぉぉぉぉ!?」
 あまりの出来事に叫び声をあげるラパラ。その間に立ち上がった佳枝はポケットの方を見る。
 ポケットの前面は大きく焦げていた。凄まじい熱が立ち上っている。
「ポケット!」
「今です、ヨーミン様。ゴルディ○ンハンマーをです。」
 佳枝の声を塞いでポケットが申告する。それを聞いて佳枝は頷いた。
「わかった、ポケット! ゴルディ○ンハンマー発動承認!」
「了解です。ゴルディ○ンハンマーセイフティディバイス、リリーヴです。」
 ポケットの体が開いた。そこからまず大きな金色の手っ甲が飛び出してきた。
「ハ○マー・コ○クト!」
 手っ甲は佳枝の右手に装着された。続いて巨大な金色のピコピコ・ハンマーがポケットの中から飛び出す。ハンマーを佳枝は右手で掴む。
「ゴルディ○ンハンマー!!」
 ラパラはその光景を見て焦りを感じた。何かヤバイ。そんな思いにかられたラパラは残ったビーム砲を起動しようとした。
 だが右腕が吹き飛ばされたせいか、ビーム砲が起動しなかった。
 その間に佳枝は大きくジャンプしてラパラに躍りかかった。手っ甲から一本の光り輝く大きな釘が現われた。それを左手で引き抜く。
 佳枝は光の釘をラパラに突き刺した。そして右手のハンマーで釘を叩く。
「ハ○マー・ヘル!」
 そして彼女はハンマーを大きく振り上げる。
 
「光になれ〜〜〜〜〜!!」
 
 叫びと共に力一杯ハンマーをラパラめがけて叩き降ろした。
 凄まじい轟音が辺りに鳴り響いた。そしてラパラの体は粒子と化して消え去った。
 
「ポケット! しっかりしろ!」
 佳枝はポケットの元に駆け寄るとハンマーを出した後に倒れてしまったポケットを抱き起こした。まだかなりの熱を放っていたが、彼女は無視した。
 ポケットの体のそこらから漏電がしていた。
「うふふふふ、大丈夫です。ポケットには自己修復機能がついているです。この程度の故障なら勝手に治ってしまうのです。」
「本当か? そんな機能本当についているのか?」
「本当です。それよりもヨーミン様は先をお急ぎ下さい。先に行った方々を支援してあげて下さいです。」
 ポケットは立ち上がりながら佳枝に言った。佳枝はまだ少し心配そうにポケットを見つめている。
「今のポケットはちょっと動けそうもないです。一刻を争う筈です。早く行くべきです。後からポケットも行くのです。」
「・・・・わかった、ポケット。俺は先に行っているよ。ちゃんと修理が終わってからこいよ。」
 佳枝はハンマーを手に取ると、蘇芳達が向かった道へ走っていった。
 足音が聞こえなくなるとポケットは壁際まで歩くとよりかかった。体からの漏電が大きくなる。
「申し訳ございませんヨーミン様。ポケットには自己修復機能なんて、ないのです。」
 ずるずるとポケットは床に座り込んだ。
「ヨーミン様、頑張って下さい。ポケットは勝利を願っているです。」
 ポケットの体から白い煙が立ち昇った。
「うふふふふふ、ここ、は、笑う、とこ、ろではない、でしょう、かね・・・・?」
 そしてポケットは、ピクリとも動かなくなった。
 
 
 強烈な熱気が辺りを包んだ。
 爆風によってタルは大きく後ろに吹き飛んだ。だが足でなんとかふんばると倒れないですませた。
 コルコはその隙をついて襲いかかるべきであった。だができなかった。タルがカウンターで放ったファイヤー・ボールによってコルコの右足の箇所が大きく歪まされていたからだ。
 コルコは生まれながらの兵士として作り出されていた。創造主ヴァンドルの命のみを従う兵士として。
 この計画を聞かされた時もコルコは別段なにも思わなかった。主が行う事を遂行するのみ、それしか考えなかった。
 だがそんなコルコの内に奇妙な物が生まれてきた。この目の前の敵、タルとの戦いにて。
 強い。コルコは思った。これほどの強者が世にはいたのか。
 見た目はどう見ても幼稚園児だ。恐らく見た目通りの体力とうたれ強さしかないだろう。なのになぜ立ち上がれるのか。なぜこんなに強いのだろうか。
 知りたい。この戦士の強さの源を。それはこの戦いを通じて知り得るだろう。なぜか確信じみた物をコルコは感じていた。
 戦う。この戦士と。本当の「強さ」を知る為に。
 
 コルコは右足をひきづりながらもタルに向かっていった。
 タルもコルコをその場に立ち止まって迎え撃つ。彼自身、かなりのダメージを負っていた。あまり動く事ができないくらいに。
 コルコは右手に炎を宿らしたまま手刀を閃かした。タルは光の盾を作り出す防御魔法を用いて攻撃を防ぐ。
 炎が舞う。コルコは続けざまに手刀を繰り出した。それをタルは防御魔法と棍棒によって全て受けきってみせる。
 コルコの乱撃を抜けてタルが放った光の矢がコルコの胸を撃った。矢は胸を貫通して背中まで通じる穴を開けた。
 コルコは後ろの方向によろよろとよろめいた。コルコは今の攻撃はかなり致命的な事がわかった。コルコを形成する『核』は一部吹き飛ばされたのだ。
 もうあまり持たない。すでにコルコは自らの負けを確信した。だが、だが。コルコは思いを奮い立たせた。自分が消え去る前に、知りたい。本当の「強さ」とはなんなのかを。
 それは作られた人形であるコルコにはありえない感情だった。『欲望』という感情だ。
 コルコは身を空に持ち上げた。全身を空中で縦に回転させて発熱させる。
 鎧の加熱装置のリミッターは切った。一回転毎に100度近く体の温度が上がっていく。
 およそ1万度近くまで体の温度が達した所でコルコはタルに襲いかかった。すでに体を構成している鎧は溶け出している。コルコの最強にして捨て身の技だ。
 タルは光輝く六角形の盾を目の前に張ってコルコの攻撃を向かえうった。
 炎の塊と光の盾が激突する。凄まじい熱波が辺りに撒き散らされた。
 コルコは残った全ての力を注ぎこんで盾を破ろうとした。タルがじりじりと後ろに下がっていく。だがその目には諦めた物は浮んでいない。
 盾がついに破られた。コルコの体によって作られた炎の塊がタルに襲いかかった、はずだった。
 コルコが貫いたのは床だった。床の原料を溶かし、異臭を放つ。だがタルは捕らえていない。
 どこだ、と消えかける意識の中でタルの姿を探した。
 ふと、上の方から影が出現した。コルコが見上げるとそこにタルがいた。盾が壊れたと同時に盾が壊れた時に生じた衝撃に乗って上に跳び上がり、コルコの必殺の一撃を躱したのだ。
 タルは大きく棍棒を振り上げていた。棍棒には白い光が幾重にも折り重なっていた。
 コルコはその時みた。タルの目を。
 そうか。コルコは確信した。本当の「強さ」とは、最後まで諦めない意志、『勇気』なのだと。
 勝てる訳がなかったのだ。紛い物の魂である自分などにはそんな物は、心の「強さ」なぞはなかったのだから。
「テュウール・ストライク!」
 タルは叫びと共にコルコめがけて棍棒を叩き込んだ。
 インパクトと共に白い光が放たれた。凄まじい衝撃がコルコを襲った。
 満足だ。コルコは思った。自分は本当の「強さ」を知れたのだから。心から満足だ。
 『彼』はそう思いながら、『死』んだ。
 
 タルは身を起こすとパンパンと煤を払った。そしてコルコの残骸を見た。
「強かったよ。君は確かに、「強」かったよ。」
 そう呟くと、タルは兄達を追って階段を降りていった。
 
 
「な、なにが起こったのです?」
 アンアは愕然とした口調で呟いていた。
 アンアがエッジに向けて放った光の針の束。それが根こそぎに「消えた」のだ。
 盾でふせいだのではない。全て避けきったのでもない。唐突に光の針が「消え去った」のだ。
 エッジはアンアの目の前に突っ立っていた。だがその右手には奇妙な物があった。黒い、真の意味で漆黒の30cmほどの大きさの球体だ。
「誉めてやるよ、紫のアンア。俺に『零』を使わせたのだからな。」
「ぜ、『零』?」
「この世の属性は極論で言えば2進法、0と1に分けられる。俺達の存在とは「有」すなわち2進法でいう所の1にあたる。それに対する属性とは「無」、すなわち0だ。」
 エッジはアンアに無造作に近づいていった。さっきの態度(狩人20参照)とはうって変わって、アンアは脅えたように後退した。
「俺はプライドの決戦の為にある技を開発しようとした。最もプライドとの戦いには間に合わなかったがな。プライドとの決戦の後も俺は研究した。その結果、俺は1の存在を0に変換する技を開発して身につけたのさ。」
 エッジは握られている球体を掲げるかのように右手を持ち上げた。よくよく見ると球体は光を「消して」いるのがわかる。
「それがこれ、『零』だ。「有」を「無」に、すなわち「有る事」を「無い事」に強制的に変換する、究極の攻撃力を持った『盾』だ。」
 エッジはジッと『零』を無表情に見つめた。アンアも引き付けられたかのように『零』を凝視する。
「もっとも自分で開発しておいて何だがかなり性質が悪い『力』なんでね、よっぽどでない限り使わないよう自粛している。大したもんだよお前は、これを使わせたんだからな。」
 エッジは感心したかのようにアンアを見つめた。
 だがアンアにしてみれば、敗北宣告を叩きつけられたも同然であった。
 エッジはすなわちこう言ったのだ。あらゆる事象をない事にする事ができると。アンアの推測ではあるが、アンアの能力、空間湾曲も無力化できるのだろう。空間湾曲もまた「有る事」でしかすぎないのだから。
 いけない。この男にはいくらなんでもヴァンドル様でも勝てはしない。ヴァンドル様の元に行ってしらせなくてはいけない、この男の事を。アンアはそう考えた。だがそれは『兵士』であるアンアにはあるまじき感情「恐怖」から生まれでた、ただの逃げる為の言い訳にしか過ぎないという事にアンアは気がついていなかった。
 逃げの思考はアンアにとってほんのわずかな、それでいて致命的な隙をエッジに与えてしまっていた。生まれでた隙をエッジのような達人が見逃す筈はなく、一瞬の内にアンアの懐に跳びこんでいた。
 すぐ側にエッジが立ってる事に気づいて、アンアはあわてて周囲の空間を歪めた。アンアの体が大きくぶれる。しかしエッジはそのような状態になったアンアに『零』を持った右手を叩き込んだ。
 『零』は歪んでいる空間を「消し去り」ながらアンアに触れた。その刹那に『零』に触れたアンアの体の箇所が「消え去る」。消え去った鎧の箇所だけがぽっかりと穴が開いた。
「オオオオオオオォ!?」
 アンアは驚愕の声をあげた。あまりの驚愕的な行為に呆然となる。
 アンアの体に開いた穴にエッジは左手をじゃんけんで言うところの「パー」の形で触れさせた。一息、大きく息を吐く。
 
「掌握・・・・!」
 
 声と共にエッジは左手に「気」を送った。左手から不可視な衝撃波が放たれる。アンアの体は大きく吹き飛ぶと、壁に激突して粉々に砕け散った。
「ヴァ、ヴァンドル様。この男は、危険すぎま・・・・。」
 アンアは悲痛な叫びをあげたが、その思いは主には届かないまま完全に破壊された。
 
「さてと。」
 エッジは右手を握り締めると『零』を消した。
 自分が作った技ながら、相変わらずおぞましさすら感じる。アンアを掌撃で倒したのも、『零』で葬るのはあまりにも不憫に感じた為だ。
 そして『零』を用いるたびに、後悔が心の中からうきだしてくる。この技さえ完成していればニアラは生きていたかもしれない。そのような思いにかられてしまう。
 だが、エッジは目を閉じて頭を大きく横に振った。過去は過去なのだ、未来をなんとかする為に今をどうにかしなければならないのだ。エッジはその事を人間界に住む者やタルを見ていてつい最近になってやっと気づいた。
 ニアラを失った思いを二度としない為に、そしてあのような思いを他の誰かにさせない為に。エッジもまた、「他の誰かの為に」戦う戦士であった。
 エッジは駆け出した。新たな仲間、蘇芳の手助けをする為に。そして世界を救う為に。
 
 
<<11:決戦への序曲>>
 
 ヴァンドルの魔導士の格好には反した凄まじい体術によって蘇芳は追い込まれていた。
 蘇芳もまた応戦するがつけた傷は片っ端から治されてしまう。対してヴァンドルの攻撃は確実に蘇芳にダメージを与え、彼を追い込んでいた。
「はははは、無駄だよ、蘇芳君。君には僕を倒す術はないんだ。おとなしく倒されちゃいなさい。」
「うるさい! 誰が諦めるものか!」
 蘇芳は袈裟掛けにヴァンドルは斬る。だが致命傷と思わしきその傷を無視してヴァンドルは右フックを蘇芳の顎先に叩き込まれ、捕らえた。
 脳を揺さぶられて蘇芳は大きくよろめいた。そこにヴァンドルの廻し蹴りが蘇芳の顔面にヒットした。蘇芳は口から血を吐き出しながら吹っ飛ばされ、床に叩きつけられた。。
 さも面白そうに地面に這いつくばる蘇芳を見るヴァンドル。対して蘇芳は悔しげに立ち上がるだけであった。
 だが、蘇芳は諦めていなかった。何故ならば、さっきから妙な気がしていたからだ。
 何かがおかしい。ヴァンドルがとった行動にはなにか妙な点がある。蘇芳はその事が気になっていた。
 ヴァンドルの攻撃を避けながら蘇芳は物思いにふけっていた。
 ヴァンドルはさっきこう言った、『この場所は魔界の門が半分開いている。そこから漏れてくる魔力を利用すれば僕は不死になれる。』。確かこんな事を言っていたはずだ。

 何でそんな事を言ったんだ・・・・・・・・・・・・

 その事を言わないで疑心暗鬼にした方が敵の攻撃に躊躇をさそいやすいだろう。それくらいの事が計算できないヴァンドルではないはずだ。なのに言った、何故?
 もう一点ある。ヴァンドルの目的は魔界の門を完全に開いて七王を召喚する事だ。その為にこの部屋で行われている儀式を守る為に奴はここにいる。それは何となくわかる。だがよく考えてみれば何故ヴァンドルが守っているんだ? ここに親衛隊クラスの鎧を2体くらい配置して防衛させた方が儀式に専念できるだろうし、その分門が開くのも早くなる筈だ。だが実際にはヴァンドルが直接この部屋の防衛をしている。それは一体何故?
 蘇芳は必死になって頭を回転させた。色恋沙汰はアメーバより鈍いが、その事以外の事はこの男はかなり鋭い。推理力もかなり高い。
 ヴァンドルの発言。まるで自分に注意を引き付けるかのような発言をしている。

 それが目的だとしたら・・・・・・・・・・

 ヴァンドルはこの部屋に護衛となる者を置かず、彼自身がここの防衛にあたっている。

 彼自身がこの部屋の護衛役だとしたら・・・・・・・・・・・・・・・・・

 この部屋ににくるまでにいた親衛隊。それは強力なゴーレムやリビング・アーマーだった。
 ここに至るまでに行った調査でわかったヴァンドルの事、それはヴァンドルがユダヤ系の人物であるらしいとの事だけがわかっていた。
 ヴァンドルはユダヤ人。奴の得意な魔術は。そしてここに至るまでにいた護衛役は何だったか。
 ・・・・・・・・・・
「・・・・そうか!」
 蘇芳の頭の中で様々な事が結びつき、ある一つの答えを閃めかした。
 彼はヴァンドルの熾烈な攻撃を回避しつつ周囲に急いで気を放った。一生懸命になってこの部屋にあるであろう『ある物』をさぐる。
 ヴァンドルの拳撃や蹴撃が蘇芳の身体をかすめ、細かい傷を作っていく。だがその事は気にせずにさぐりを続けた。
 周囲に放った気が、ある一点で反応した。本来この部屋には2つしかない筈の『ある物』。それがもう1つあった。
 『ある物』は天井にある。それこそ・・・・。
 蘇芳は剣に意識を送った。剣は蘇芳の意思に反応して形を変えていく。数秒後には蘇芳の手の中には長さ3mちかい俗にククリと呼ばれている肉厚な刀剣に変貌した剣が出現していた。
「そこだあぁぁぁ!!」
 蘇芳は叫び声と共に剣を天井の『ある物』めがけて力一杯放り投げた。剣は回転しつつ、漆黒の天井に向かって飛んでいく。
 何かがあたったような物音が天井から聞こえてきた。そして
「ぎゃあああああぁ!」
 甲高い悲鳴が響き渡った。
 悲鳴が聞こえてきた後、先ほどまで蘇芳を執拗に攻めていたヴァンドルの動きがピタリと止まった。両膝から倒れこむと、床に俯きに倒れた。
 天井から何かが落ちてきた。数は2つ。1つは蘇芳がさっき天井めがけて投げた剣。そしてもう1つはベチャ、といった音をたてて落ちてきた。
「ま、まさか気がついただなんて・・・・。」
 落ちてきたもう1つの物は苦しげに声をあげた。
 それは真っ黒いローブを身にまとった1人の老人であった。身長は160くらいか。わずかに覗いている髪の色は銀髪で、その顔はヴァンドルの顔をしょぼくれさせた様に見えなくもない。
 老人は腹部を斬り裂けられて大量の血液を流している。
 蘇芳は剣を握ると、老人の方を向いた。手の中で剣は収縮していき、1mほどの長さの日本刀に変形する。
「大したもんだよ、アンタは。まさか自分の影武者をゴーレムとして操っていたとはな。」
 蘇芳は感服したかのように呟いた。蘇芳の言葉を聞いて老人は悔しそうに顔を歪める。
 今までヴァンドルと名乗っていた「物」は、彼自身が直接操るゴーレムだったのだ。すなわちこのしょぼくれた老人こそヴァンドル本人なのだ
 ヴァンドルはユダヤ人。ユダヤで有名な魔術は実はゴーレムの術なのだ。蘇芳とヴァンドルが始めて出会った場所でヴァンドルが蘇芳に仕掛けてきたトラップの殆どがゴーレムであった。そして親衛隊達もゴーレム。この地下施設への入り口のある町の住人もゴーレム。
 ヴァンドルは自分に注目を集めるような発言をした。それは周りに注意を向けさせない為ではないのだろうか。ヴァンドルはこの部屋の護衛役をわざわざやっていた。ヴァンドルはこの部屋の護衛役だとしたら何を護衛しているのだろうか? それは『自分』ではないのだろうか。
 そこまで推測した蘇芳は目の前にいる「物」がこの部屋の護衛としてのゴーレムなのではないかと疑ったのだ。そして「本物」のヴァンドルはこの部屋で儀式を続けているのでは、と。
 蘇芳は確認の為に周囲に注意を払い、『ある物』、すなわち『気配』をさぐってみたのだ。
 その結果、微弱ながらも本来ありえない『気配』が天井から発せられているのを確認でき、蘇芳は天井から放たれる『気配』めがけて剣を投げつけたのだ。
 結果は今の状況だ。「ゴーレム」のヴァンドルは起動を止め、「本物」のヴァンドルが剣で傷つけらて落ちてきたのだ。
 
「終わりだな、ヴァンドル。」
 蘇芳は剣を「本物」のヴァンドルに突きつけると冷酷に宣言した。
 ヴァンドルは身を震わせていた。しかし震えが唐突に止まると、今度は肩を大きく揺らしだした。笑っているのだ。
「くくくくく、確かに終わりのようだね。どうやら僕の夢もここまでのようだよ。」
 ヴァンドルはフラフラと立ち上がった。その顔にはゴーレムと同じような、目をアーチ状に曲げて口が三日月を形作るあの薄気味悪い笑みを浮かべている。
「僕の夢はね、人類が滅びるのをこの目でしっかりと焼き付けてから死ぬ事だったのさ。その夢はもう叶いそうにないね。」
「そうだ、お前のそのような欲望は、ここで終わる。儀式を中断させてもらおう。」
「ははははは、わかっていないなぁ蘇芳君!」
 ヴァンドルは指を鳴らした。その途端にゴーレム・ヴァンドルは立ち上がるとオリジナル・ヴァンドルの後ろに立った。
「護衛のつもりか? だが音速の斬撃を放てばゴーレム毎お前を倒すなんてたやすい事だぞ。」
「蘇芳君。もう魔界の門はすでに半分開いているのは本当なんだよ。ところで知っているかい? 300年前に『妖精界』で魔界の門は、術者が自分の魂を捧げて開いたんだよ。」
 ヴァンドルの言葉を聞いて蘇芳は青ざめた。ヴァンドルが何をしようとしているのか察しがついたからだ。
「まさか、貴様!」
 ヴァンドルはニタリと笑った。次の瞬間、ゴーレム・ヴァンドルの手がオリジナル・ヴァンドルの胸を貫いた。大量の血がヴァンドルの口から吐き出される。
「ふふふ、後の残り半分は、僕の魂を捧げる事で、達成される・・・。残念だよ、この目で人間が滅びるのが見れないだなんてね。」
「ヴァンドル!」
「ははははは! みんな、みんな滅んでしまえ!! ははは、はははははははははは!! ・・・ガハァッ。」
 大きく1回吐血すると、ヴァンドルはガクンとゴーレムと一緒に倒れ伏した。
 その姿を蘇芳は愕然と見つめていた。
 
 
 ラウリーが切り結んでいたゴーレム達が突如として一斉に動きを止めて倒れた。その様子を見てラウリーは大きく息をついた。
「どうやら首謀者を倒してくれたようね。結構、あぶなかったわ。」
 ラウリーは床に座り込もうとした。だが、その顔に緊張が走る。
「・・・暗闇が急速に増大してきている!? まさか魔界の門が開くっていうの? どうやら、首謀者は命を捨てる代わりに魔界の門の儀式を成功させたってようね。」
 ラウリーは鎌を取り直して立ち上がった。今まで守っていた地下施設に通じる階段がある方を見る。
「どうやら私も行ったほうが良さそうね・・・。蘇芳とエッジ以外、七王に太刀打ちできるレベルじゃないだろうし、私レベル程度でもいたほうがマシよね。」
 ラウリーは仕掛けを動かして地下への階段を出現させると、急いで駆け降り始めた。
 
 
 世界の終焉に向けての門が開こうとしていた。
 世界の存亡を賭けた本当の決戦が、今、始まる。



 <あとがき>という名の戯れ言
 
 こんにちわDEKOIです。狩人- 決戦【後編】 -をお届けします。
 
 やっと決戦への序章が書き終わりました。
 
 これからが本当の意味での『決戦』です。
 
 1人の男の狂気によって開かれた魔界の門。そこから現れる最強の存在。
 
 果たして「狩人」達はその存在を倒し、世界の平和を守れるのか?
 
 次回の「狩人」 決戦編の最終話、- 決戦【終局】 - にてお届けできると思います。
 
 少々時間が空くとは思いますが、必ず書き上げるのでお待ちくださいませ。
 
 それではまたこのように挨拶できる事を願いつつ、筆を置かせて頂きます。またお会いしましょう。
 
 by DEKOI


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