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狩人 - 決戦【中編−下】 -
作:DEKOI

 

<<6:クロード=デスタン>>
 
 蘇芳達は秘密裏に作られたと思われる地下施設の廊下を走っていた。周囲にはドアがいくつもついており、そこから人間やら幽霊やらゴーレムやらリビング・アーマーやら改造人間やら合成動物やらがわらわらと現われてきては蘇芳達に襲いかかってきた。
 それらを片っ端からぶっとばして蘇芳達は突っ走っていた。
 進行方向は決まっていた。敵が襲いかかってくる方向だ。守りたい物は敵が来る方向だというのが定番だからだ。
 蘇芳の剣が閃く。エッジの鉄拳が敵にめり込む。タルの魔法がひらめき、クロードのカギ爪が襲い来る敵を引き裂く。佳枝はポケットから次々に提供される武器を駆使して敵を掃討していった。
 それはまるで全てを飲込み、破壊する竜巻のようだ。彼等が通り過ぎた後にはいくつもの死体や残骸が廊下に横たわった。
 だが敵もこれでもかとばかりに襲いかかってくる。廊下についているドアから無限の如く敵が現われてくる。
「あーうっとおしい!」
 タルは叫びつつ棍棒を閃かした。棍棒の先から青白い雷撃が放たれ、前方にいる敵を数体まとめて薙ぎ倒す。
 だが敵は倒した者達を踏んづけてでも蘇芳達に襲いかかってきた。その中にタルめがけて味方が巻き込まれるのも構わず銃を発砲する者がいた。放たれた弾丸がタルに音速に迫るスピードで接近する。
 しかし、その弾丸はタルにあたる事はなかった。エッジがそこらにいた男性を突き飛ばして盾にしたからだ。弾丸が当ったは男は苦痛でのたうつ。その男の頭にエッジは掌打を叩き込んだ。血が辺りに飛び散る。
 蘇芳は銃を発砲した者を問答無用で袈裟懸けに斬り捨てた。悲鳴をあげずにその者は倒れ伏した。どうやらフレッシュ・ゴーレムだったようだ。
 敵は前方からばっかり襲いかかってきた。蘇芳達が通り過ぎるのを待ってから後ろから襲ってくる頭のまわる奴もいたが、佳枝の持っていたバズーカーであっさりと蹴散らされていた。
 既に100体以上の死体や残骸が廊下に転がっていた。阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
 そんな風にしていると、かなり前方から悲鳴があがってきた。明らかに蘇芳達の攻撃によるものではない。
 血飛沫が前から蘇芳達めがけて突っ込んできた。そして敵の波が割れて、何かが飛び出してくる。
 その「何か」は蘇芳めがけて飛んできた。蘇芳は咄嗟に剣を巨大化して防御する。
 鋭く尖った鉄と鉄がぶつかりあったような音が鳴り響いた。蘇芳は衝撃によってわずかに後退する。そして「何か」は蘇芳達の背後に降り立った。
 それは真っ青な人間型の物であった。全身が平べったく、刃のように輝いている。剣や刀を組み合わせて、人間の形にくみ上げたようにも見えなくはない。
 それは蘇芳達の方を向いた。頭部は反り返ったナイフでできており、刃の側面にそれぞれ目がくっついている。
「アガルガン親衛隊か?」
 エッジは「それ」を睨み付けながら問いを投げかけた。その間も前方から来る敵をぶん殴っている。
 「それ」はまるで笑うかのように身体をカチャカチャと鳴らした。
「そうさ。俺様は青のモハモ。アガルガン親衛隊の一騎だ。」
 モハモは手を広げた。その指も鋭いナイフで形成されている。
 そのモハモの前にクロードが立ちふさがった。キッとモハモは睨み付けている。
「貴方、何故味方を切ったの? 仲間でしょう?」
「ケッ、弱っちい奴等なんてただのゴミだ。俺様のようなエリートの手にかかって死ねたんだ。感謝してもらいたいくらいだぜ。」
「貴方って存在は・・・・!」
 目に怒りの炎を燃やすクロード。モハモはその光景をまるで楽しんでいるかのように身体を揺らしながら見ている。
「皆さん、コレの相手は私がします。先に進んで下さい!」
 佳枝はびっくりしたかのようにクロードを見つめた。
「ちょっと、クロード。あんた大丈夫なの? コイツかなりやばそうな奴だよ?」
「見かけからしてこいつの能力は全身の刃で敵を切り裂く事。だったら超回復力を持った私が一番相手にしやすい筈です。・・・それにこういった嫌味な奴は私はゆるせないですしね。」
 蘇芳は敵と切り結びながらも少し考え込むような顔つきになった。だが顔を上げて頷くと、敵を斬り捨てながらクロードに声をかけた。
「わかった、クロード君。ここはまかせるよ。・・・・気をつけてね。」
「はい!」
 ちょっと頬を赤らめながらも元気よくクロードは答えた。そしてモハモと対峙する。
「ひゃはははははっ、俺様の相手は女か! 女の肉は柔かくて切り応えがあっていいぜ!」
「アンタなんかに切られまくる気なんて、端っからないわよ!」
 そう言うと、いきなりクロードはカギ爪で両手に穴を開けた。見ていて痛い光景だ。
 開けた穴から血が勢いよく吹き出した。その吹き出した血をクロードはモハモめがけて投げつけた。
 血は空中で凝結して赤黒い弾丸と化した。モハモは素早く弾をよける。弾は壁に当るとめりこんだ。
 モハモは素早くクロードに近づくと腕の刃で彼女のセーラー服を切り裂きながら右の二の腕を切った。血が大量に吹き出した、と思ったら白い煙が傷口から立ち昇り、あっという間に塞がってしまう。
「ヒョウ! こりゃあ切り応えがあるな!」
「こんなみみっちい傷しか作れない程度の奴にグダグダ言われる筋合いはなくってよ!」
 クロードの右手から凄まじい勢いで血液が吹き出した。それは長さが1mくらいまで達すると瞬時に固まり、1本の赤い棒と化した。
 クロードは棒を掴むとモハモに向かって走り出した。
 
 
<<7:井上 佳枝>>
 
 蘇芳達は迫り来る敵を倒しながら突き進んだ。
 すると、突然敵が出てこなくなった。
 廊下に取り付けられているドアの向こう側からは何者かの気配がする。敵が尽きた訳ではない筈だ。
 だがその事を無視して蘇芳達は走った。敵が出てこなくなったから向かう方向はもう勘だよりだ。
 何回目かの十字路を左に曲がると、少し開けた所が現れた。
 正確に言えば幅4mくらいの通路が10mになった、くらいの変化なのだが。充分な変化かも知れないが。
 そしてその場に、一体の鎧がもうお約束とばかりに待ち構えていた。
 立っているのは藍色の鎧だ。さっきほど出会ったウロウと名乗った緑色の鎧とほぼ同じような体躯の持ち主だ。
 両肩が何か巨大な物、そうロケットランチャーみたいな物が取り付けられている。そして右手は6連装のバルカン砲になっており、さらに左手は巨大なドリルになっている。
「来たか『狩人』共。俺の名は・・・・」
「ポケット! バズーカー!」
「はいです。」
 ポケットの上半身がぱっくりと開くと中から俗に言うザ○・バズーカーが飛び出してきた。
 佳枝は空中でそれをキャッチすると肩に担ぎ、トリガーを躊躇する事なく引いた。
 発射された弾丸が藍色の鎧にすっ飛んでいく。
「ちょ、ちょっと待て! 前口上中に攻げ・・・」
 着弾、爆発。凄まじい爆発音が辺りを包む。もうもうと灰色の煙が立ち込める。
 しかし、ガション、ガションという音を立てながら鎧は煙の中から出てきた。
「おのれ、人の前口上中に攻撃するとは。貴様には美学というのがないのか、これだから若い娘ってものは・・・・」
 ぶつぶつと何か呟く鎧。その隙にもう一発バズーカーをぶち込む佳枝。
 だがその弾丸は鎧に当る事はなかった。右手のバルカン砲が起動すると、発射されたバズーカーの弾を空中で迎撃したのだ。
「テメエ、卑怯とか卑劣とかそーゆう言葉を知らんのか。全く若い娘がザ○・バズーカーなんてマニアックな物を使うだなんて一体どういう教育を・・・・」
「ポケット、ガトリング砲。」
「はいです。」
「こら待て、人の話を・・・・」
「アンタは人間じゃないから聞く気はない。」
 佳枝はポケットから受け取った6連装のガトリング砲を腰だめに構えると問答無用でぶっ放した。
 空薬莢が飛びまくり、激しい音をたてながら藍色の鎧に弾丸が着弾し、火花を飛び散らす。
 だが鎧は嵐の中の水滴の如く襲いかかってくる弾丸を平然と受けながら立っている。
「たかだか20mm程度の弾丸。何千発と食らおうが俺を揺るがす事もできぬわ。」
 通常なら50mmの厚さの鉄板だって引き裂くと思える弾丸の嵐の中を余裕な声で喋る鎧。
 鎧の両肩が妙な音をたてながら動いていく。まるでパラボラアンテナのような形に変形する。
 アンテナの先端が光っていく。そして光は内側まで広がっていく。
 佳枝はそれを見てやな予感が胸に走った。ガトリング砲から手を放すと横っ飛びする。
 アンテナから極太のビームが放たれた。1本は佳枝が持っていたガトリング砲に当り、爆発させながら瞬時に気化させる。
 もう一本はポケットに向かって飛んでいった。ところが、
「ばりあー。」
 ポケットの前に高さ1mくらいの青白い薄い壁が現われた。その壁にビームが当ると「パリーン」という乾いた音をたてながら壁が割れ、それと同時にビームが相殺される。
「「ちょっと待てえぇぇぇ!?」」
 同時にツッコミを入れる佳枝と鎧。
「ポケット。お前よくわからん機能があれこれ付いてるからって、なんなんだよ、今の『ばりあー』ってのは!」
「そうだぞ、第一なんだ今の『パリーン』って音は。テメエ光○力バリアーでも張っとんのかぃ。」
 次々にツッコミまくる佳枝と鎧。どうでもいいが、お前等敵同士だろうが。
「まぁ世の中説明できない事なんて腐る程あるもんですです。」
「「それで納得がいくかあぁぁぁ!!!」」
 戦闘を忘れてポケットに対するツッコミに熱中している佳枝と鎧。案外、似た者同士なのかもしれない。
 白けた空気が辺りに漂う。
 鎧がポリポリと頭にあたる所をドリルで掻いた。
「あーコホン。えーここを通りたくば俺を倒していけって言おうとしてたんだがどうやらお前達以外はさっさと先行っちゃったみたいだなぁ。」
「あーまあねー。ではアンタの相手は俺って事でいいかなぁ。」
 鎧の間抜けな言葉に佳枝は呆けた調子で答えた。
「まあお前を倒さないと先に行っちゃった奴等追えんだろうしなー。じゃあこれからの戦いよろしくお願いします。」
 鎧が丁寧にお辞儀した。
「はぁ、よろしくお願いします。」
 佳枝もやっぱり丁寧にお辞儀した。何をやってるんだ、コイツ等は。
「えーっとですねぇ、俺はアガルガン親衛隊の一騎で名前は・・・・」
「あー藍のラパラとかそういった名前なんだろう、どうせ。」
「・・・・・当てんなよ。」
 なんだか拗ねた調子になる鎧ことラパラ。
 どんどん空気が白けてくる。すでに戦いの緊張感は全くかけらも見当たらない。
「えーそれでは戦いを再開してよろしいでございますでしょうか?」
「ああ、いいよ。あー、ポケット、ビーム・ライフルだして。」
「はいです。」
 ポケットの体がパックンと開くと、今度はWガ○ダムに出てきたバ○ター・ラ○チャーが飛び出してきた。
「また、そーゆーマニアックな物を出してくるし・・・まあいい、行くぞ!」
 佳枝がバ○ター・ラ○チャーを手に持ったのを確認すると、ラパラは左手のドリルを回転させ始めた。
 佳枝もバ○ター・ラ○チャーを抱えた状態で戦闘態勢に入った。
 
 
<<8:タル=バーラング>>
 
 そこは下につながる階段の前だった。
光矢(ライトボルト)!
 タルの右手に持った棍棒の先から短い光の矢が飛び出した。
 矢はまっすぐに棍棒が指し示していた真っ赤な人型の物めがけて飛んでいく。本来ならその物を貫く筈であった。
 だが、
「甘いわ!」
 赤い人型は右腕を振ると、炎が辺りに飛び散った。その炎と矢がぶつかり合い、互いを消滅させる。
 赤い物は跳び上がると空中で方向転換、そしてタルめがけて跳び蹴りをかました。
「くっ! 物理防御壁(プロテクト・ウォール)!
 棍棒を目の前で縦に構えて、タルは呪文を唱えた。白く輝く六角形の光の盾がタルの前に現われる。
 赤い物の蹴りとタルが張った光の盾が激突した。大きな音をたてつつ炎が巻き上がる。
 赤い物とタル、両者共大きく後ろに吹き飛ぶ。だがどちらとも倒れようとしない。寸前で倒れるのをこらえる。
 タルは左手を高速で動かして印を組んだ。そして両手で棍棒を持つと大声で呪文を叫ぶ。
水流槍(ウォルタァ・ランス)!
 棍棒の先端から強烈な勢いで水が放出された。水は一本の長大な槍を形作り、凄まじいスピードですっ飛んでいく。
 赤い物は素早く避けようとした、だが左肩にかすめてしまい、少し抉り取られた。
「ぐおおおお!?」
 苦痛の声をあげる赤い物。だがそれでも怯まずに、魔法を唱えて隙ができたタルに突進する。
 赤い物の全身がさらに赤く、それこそマグマのような色に変色していく。そしてタルの懐まで跳び込むと、突きを叩き込んだ。
 後ろに吹っ飛ばされつつ、タルの全身が炎に包まれる。そして地面に叩き付けられる。
「くそ!」
 地面を転がって身体についた火を消す。ほぼ消えかけたところに赤い物が地面に倒れているタルめがけて襲いかかった。
 上から襲いかかってくる突きや蹴りを必死になって地面を転がりながら避ける。その間も呪文をぶつぶつ唱える。
 そして、
火炎球(ファイアー・ボール)!
 タルは自分と赤い物の間にファイアー・ボールを炸裂させた。2人の間で凶悪な爆発が巻き起こる。
 その衝撃で赤い物は天井まで吹っ飛んで叩きつけられた。そして地面に落ちる。
 タルも爆発をまともに食らってかなりのダメージを負っていた。ただでさえ、彼のファイアー・ボールは鉄すら吹き飛ばす威力を持っているのだ。身体的には普通の人間よりちょっと優れている程度でしかないタルにとってこの行為はある意味自殺行為に近かった筈だ。
 タルはよろよろと棍棒を杖にして立ち上がる。その間も身体治癒の魔法を唱えておく。
・・・・治癒(ヒール)。」
 その呪文によってタルの身体を青い光が包んだ。身体中に負っていた火傷や爆発による裂傷等が少しだけ、治る。
 タルと赤い物は互いに向き合った。お互いに身体が少々ふらついている。だが、闘気は揺らいでいない。
「やりおるな・・・さすがは、妖精界最強の戦士の実弟。まさかあんな手を使ってくるとは・・・!」
「お前もなかなかやるね、赤のコルコ。こんな奥の防衛を任されているだけの事はあるよ。」
 コルコが守っていた箇所、それはこの地下施設の最奥に通じる階段であった。この奥に、首領ヴァンドルがいるのだ。
 タルはエッジと蘇芳を先に行かせる為に、コルコの相手役を買ってでたのだ。
 コルコは強敵だった。自らの身体を高熱化させて、炎を自在に発生させ、操る。タルが今まで戦ってきた中でも恐らくトップランクの強さだろう。
 だが、負けるつもりもない。こいつにさっさと勝って兄達の援護にいかなくてはならない。
「1つ尋ねたい。」
 コルコは突然、タルに質問をしてきた。
「お前は何故、命懸けで戦っている? この世界の者ではないのにも関わらず。」
「・・・・オイラがこの世界に来たのは50年前だ。その時はまだ見た事もない兄ちゃんに会いたいだけだったけどね。でも、兄ちゃんと一緒にこの世界で暮らしていたら、この世界の人達が好きになったんだ。汚くて、卑怯で、自分の為なら平気で他人を犠牲にしたりする奴もいるけど、それでも平和を愛したり、他人の為に自分を投げ出せる人もいる。そんな不完全な『人間』って奴がね。」
 コルコはジッとタルを見つめているようだ。
「オイラはもっと見てみたいんだ。この不完全な『人間』がどうなるかを。もしかしたら自滅するかもしれない。でもそうじゃなくて他の生き物と共存できる道を探し出せるかもしれない。それを見極めるまではオイラは『人間』を守っていくつもりだよ。命懸けでね。」
「なるほどな・・・。ヴァンドル様は『人間』に絶望しているが、お前達は『人間』に希望を持っているという事か。やはり我等は相対せねばならぬ運命にあるようだな。」
「残念だけどね、そうなのかもね・・・。」
 タルは棍棒を腰だめに構えて呪文を唱え始めた。コルコも両手を手刀の形にして構える。
風牙炸裂弾(ウインディア・ストラッシュ)!
「しゅあああ!」
 タルの棍棒から不可視の圧縮された風の弾丸が発射された。コルコの両手の間から炎の玉が発生し、タルに向かって飛んでいく。
 風の弾丸と炎の玉が激突し、辺りに炎を撒き散らした。
 炎が収まった時にはタルとコルコは触れ合わんばかりに接近していた。
 棍棒と手刀がぶつかり合う。炎が再び、舞った。
 
 
<<9:エッジ=バーラング>>
 
 蘇芳とエッジは階段を降りきると、真っ直ぐに続いている廊下を駆け抜けていた。
 辺りの壁や床は真っ白な素材で作られているようだ。埃一つでも見分けれるのではないかと思えるくらい、真っ白だ。更には白い魔法の明かりがそこかしこに照らされており、白さに拍車をかけている。
 白い廊下を走っていると、前方に紫色の点がポツンと現われた。それは走るにつれてみるみるうちに大きくなっていく。
 そして、その紫色の物体まであと2mといった所で2人は足を止めた。
 それは紫色の鉄板鎧だった。身長は2m近くか。他の鎧達と違って、微細で流曲線状の模様が全身に刻み込まれている。
 そして何よりも大きく違う点が一箇所だけあった。それは目だ。他の鎧も目や鼻が刻み込まれていたが、この鎧の目は動いていた。その目で蘇芳とエッジ、2人を確かに見つめていた。
 鎧はうやうやしくお辞儀した。それにも関わらずコトリとも音がたたない。その身体が鉄製の鎧にも関わらず。
「お初にお目にかかります。我が名はアンア。アガルガン親衛隊の隊長騎でございます。」
 隊長騎。すなわち親衛隊のトップだと目の前の鎧は名乗ったのだ。恐らく親衛隊でも最強の力を持つと推測できる。
「この先に我等が主、ヴァンドル様がおられます。そこには蘇芳様だけが参られるようおおせつかっております。」
 エッジは静かな視線でじっとアンアを見詰めた。
「俺は部外者だとでも言いたいのか?」
「はい、我が主は蘇芳様とだけお会いしたいと承っております。そして、蘇芳様以外の方は通さぬようにとも仰せつかっております。」
「・・・・なるほどな。」
 エッジは両足のスタンスを広げると、手を腰より少し上の箇所で握った。アンアを鋭く睨み付ける。
「蘇芳、さっさと行け。俺はこいつをぶっ倒してからいく。」
「エッジさん?」
「仮にも親衛隊の隊長騎を名乗るだけあって、俺とお前2人がかりでもそれなりの時間は足止めできる実力は持っているだろう。今は時間が惜しい、早く行くんだ。」
 蘇芳はエッジを心配そうに見下ろした。だが一回大きく頷くと、アンアの横を抜けて廊下を駆け抜ける。
 蘇芳の発する足音が段々と聞こえなくなってきた。その間もエッジとアンアは睨み合いを続けていた。
「そろそろいいだろう? いかしてもらうぞ。」
 エッジは一言ボソリッと呟いた。それとほぼ同時にアンアに襲いかかった。
 エッジの鉄拳がアンアを捕らえようとした。まさにその瞬間、アンアの身体がぶれた。エッジの身体が彼の意志に反して大きく流れて床に拳をたたきつけてしまう。
 驚きの表情を浮かべるエッジ。咄嗟にアンアとの距離をとる。
「貴様の能力・・・・空間を意図的に歪める事ができるのか。」
「さすがは妖精界最強と誉れ高い御方だ。私の能力を一回見ただけで解明するとは。」
 なんとなく慇懃無礼な言い方をするアンア。しかし自分の能力があっさりとばれたのにも関わらずまるでその態度に焦燥といった風な類いの揺らぎは見えない。自分の能力に絶対の自信を持っているのだ。
 エッジは内心にて舌打ちをしていた。この鎧が持つ能力の性質の悪さに。エッジは拳や蹴りといった物理的な攻撃方法を得意としている。だがこの鎧は空間を捩じ曲げる事によってその行為を防いでしまう。即ちエッジの攻撃の殆どを無効化する事ができるのだ。
「ふふふ、貴方様の攻撃の殆どを私は防ぐ自信がある。そして私の能力を応用すればこんな事もできるのですよ!」
 アンアの周りの空間が歪む。すると彼等の周囲を取り囲む魔法の白い光がアンアに向けて収縮していく。光はアンアの胸元の一点に集まると、軽い破裂音をたてながらエッジに向かって一直線に放たれた。
 エッジは横っ飛びでその白い光線を避けた。光線は壁に当ると何かを溶かすような音をたて、白い煙をあげた。エッジが後ろを振り向いてみると白い壁が高温で熱せられたかのようにジュウジュウと音をたてて溶けていた。
「ははは、どうです。私は周囲の明かりを集中させてレーザーの如く放出する事ができるのです。いかに貴方といえどもこれを食らえばただではすまないでしょう。」
 誇らしげに何をしたのかをわざわざエッジに説明をするアンア。エッジは無表情のままアンアの方を向き直った。
 アンアの右腕が上がり、その手に光が集中していく。そして再度、光が放たれた。
 エッジはその光線をアンアに突撃しながら躱してみせた。そして再びアンアの懐に跳び込むと拳を叩き込む。攻撃の直後ならば空間を歪める事ができないだろうと判断しての攻撃だ。
 だがエッジの考えは失敗に終わった。拳はアンアとはあらぬ方向に流されてしまった。体勢が崩れた所にアンアの光線攻撃が放たれた。エッジはなんとか身をひねって躱してみせる。
「ふははははは。カウンター攻撃が私に通じるとでも思っていましたか。無駄ですよ、私の能力は完璧なのですから。」
 高笑いをあげつつアンアは光線を次々に放った。エッジはそのことごとくを避けてみせる。
 アンアの目がギョロリと音をたてんばかりに動いた。なんとなくいらついているようにも見える。
「こざかしいですね。言っておきますが、光を収縮する事ができるという事は拡散する事だってできるのですよ!」
 その言葉と共にアンアは光線を放った。それも一本の太い光線ではなく、大量の光の小さな針をいっぺんに飛ばしたのだ。
 エッジは光の針の殆どを優れた体術をもって躱してみせた。だが何本かは当り、エッジに鋭い痛みを与える。
「くくくくく、何度かこの攻撃をくらい続けていればいずれは身体の動きもにぶくなるでしょう。そうなった時に収縮光線を当てられれば貴方はどうなるでしょうねぇ?」
 アンアは両の手に光を収縮させながら笑い声をあげた。その光景をエッジはジッと見つめている。
 アンアの身体が光った。光の針がエッジに襲いかかった。
 
 
 蘇芳は廊下を走りつづけていた。道は一直線、間違いようが無い。
 心の中で蘇芳は様々な事を考えていた。
 妹の事。今まで戦ってきた敵の事。そして今、この場に自分を立たせてくれている為に戦っているであろう仲間達の事を。
 目の前に真っ黒な両開きと思わしき扉が見えてきた。
 蘇芳は扉の前で立ち止まった。一息つくと、躊躇する事なく扉を開けた。
 扉の向こうは漆黒の空間が広がっていた。明かりが天井からは一切放たれておらず、ただ床の白い逆五芒星が不気味に辺りを照らしている。
 そして逆五芒星のほぼ中心にその男は立っていた。
 切れ長の目、鋭く尖った鼻。顔は皺だらけだが髪の毛は黒く、180ほどある身体はピンと背筋を伸ばしている。漆黒のローブを身に纏い、男は蘇芳の方を向いていた。
 男の顔に笑みが浮んだ。目をアーチ状に歪め、口が半月を形作る。醜悪、という言葉が連想されてしまう笑みだ。
 蘇芳の目の前で妹を辱め、生きながら食い、殺した男。全人類を破滅にもたらすゲームを蘇芳に仕掛けてきた男。
 蘇芳の胸に憎悪の業火が灯る。だが蘇芳はそれを必死になって押さえた。憎悪の炎に身を焦がしていては、この男には勝てない。冷静に心を静める。
「ヴァンドル!」
 蘇芳は吼える。
「来たね、蘇芳君。」
 ヴァンドルは笑いながら歓迎した。
 
 
 決戦が、始まろうとしていた。



 <あとがき>という名の戯れ言
 
 こんにちわ。DEKOIです。
 
 やっと「決戦」の折り返しにつきました。
 
 果たして「狩人」達は強敵達を倒して世界を救う事ができるのでしょうか。
 
 それとも・・・・?
 
 どうなるかはこれからのお楽しみって事にしてください。
 
 ではまたお挨拶できる事を願いつつ、筆を置かさせて頂きます。またお会いしましょう。さよーならー。
 
 by DEKOI


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