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狩人 - 決戦【前編】 -
作:DEKOI

 

<<3:ミランダ>>
 
 地中海のほぼ中央に位置する島、シシリー島。この島には数々の王宮や教会があり、観光客を賑わしている。
 そのうちの教会の1つに蘇芳達は来ていた。人数は7名。蘇芳、佳枝、クロード、タル、エッジ、ミーナそして伊藤こと、バイザだ。
 彼等は観光の為にここに来ている訳ではなかった。下見が目的だ。彼等以外にもまばらながらも観光客がいる。
 天井は高い。美しいモザイク画が天井の壁面一面に描かれている。柱も貝殻が埋め込まれていて見た目にも美しい。
「こんな奇麗な所なのに、とても邪悪な事が地下では行われているのですね。」
 クロードはおぞましげに呟いた。何故か蘇芳と腕を組んでいる。
「そうだね、こんな所に来るんだったら、やっぱり観光できたかったですよね、蘇芳さん。」
 佳枝もクロードの言葉を引き継ぐ。佳枝もやっぱり蘇芳と腕を組んでいる。
 クロードと佳枝が互いに火花を散らす。両手に華という表現がこれほど似合う状況はないはずなのに、当の本人である蘇芳は困ったかのように顔を歪めていた。何でこんな事をこの子達がしてくるのかわからないからだ。いい加減に気付けよ、このニブチン。
 エッジとタルとミーナとバイザは他人の振りをしていた。こんなギスギスラブラブ空間を発生している3人と一緒になんてされたくないからだ。
 エッジは不意にバイザの方を向いた。バイザの今の姿は細面に長髪、そして黒ぶち眼鏡をかけた男の姿だ。彼女は人間に化ける時は常にこの姿になる。この姿はかつて彼女を命懸けで助けてくれた男性の姿、らしい。真相は彼女しか知らないが。
「しかし、かつて殺し合いをしたお前と共闘とはな、バイザ。」
 エッジの言葉を受けてバイザは苦笑した。
 バイザは七王の1人プライドに仕えていた事があった。そしてプライドは300年ほど前にエッジやミーナの故郷である『妖精界』に対して侵略行為を行った。無論、バイザもプライドと一緒に『妖精界』を攻めた。『妖精界』の住人である妖精や獣人、精霊達は一致団結してプライドの蛮行に立ち向かった。その中にはエッジもいたのだ。
 ある時、エッジとバイザは戦場で出会い、戦った。結果はエッジの完勝、バイザは重傷を負ってしまった。近くに人間界に繋がる通路、『ゲート』がなければエッジの手によってバイザは殺されていただろう。バイザは『ゲート』を用いて何とか人間界、すなわちこの世界に逃げたのだ。
「そうですね。運命ってのは妙な流れを持っているものですね。」
「ところで、蘇芳はプライドのあの剣を持っているそうだな?」
「ええ、そうです。蘇芳クンはプライド様の剣と魂の契約を結んでいます。今の彼は貴方とほぼ同レベル実力を持っている筈ですよ。」
「そうか、・・・あの剣が、あいつを殺した剣が味方になるとはな、皮肉だな。」
 エッジは少し悲しげな目で2人の女に抱き付かれている蘇芳を見つめた。
 かつて、エッジは七王の1人プライドと仲間と一緒に戦った。その中には彼の恋人であったニアラもいた。そしてニアラはエッジを救う為に盾になり、プライドの剣によって殺されたのだ。結果、エッジはプライドを倒し『妖精界』に平和が訪れたが、エッジの心の中には300年近くたった今でも後悔としてその事が残り続けている。
 そして今、エッジの恋人を殺した剣が彼の新たな仲間の手に握られている。確かに、皮肉な事だろう。エッジの心中は複雑な思いが渦巻いていた。
 気がつくと、タルが心配そうにエッジを見ていた。エッジは「大丈夫だ」と目で合図を送ると下見を再会した。
 エッジの第六感ともいえる微細な感覚がほんのわずかにだが、この教会の地下からある物が流れているのを確かに捕らえていた。『魔界』特有の空気を。
 そしてこの町のある『異常な事』にも。蘇芳とバイザは気がついているようだが、他の者はさて気がついているのか。
「・・・・今晩攻めるぞ。この教会の地下にいると思われる、「ヴァンドル」を「狩る」。」
 エッジは低く、そして強い意志をこめて言った。その言葉を受けて、タルとミーナとバイザは頷いた。
 
 そんなシリアスな雰囲気が流れている一方、
「蘇芳さん、見て下さい。天井の絵、壮観ですね。」
「わぁ、蘇芳さん見てぇ、あのステンドガラスすっごく奇麗ですよぉ。」
「君達ねぇ、ここに私達が来た理由、忘れてないよね?」
「もちろん。」
「わかってますって。」
「「私とのデートでしょ。」」
「ォィ。」
 2人の美少女に蘇芳は完璧に振り回されていた。
 
 
 深夜10時。7人は昼間に下見に行った教会の前に来ていた。全員、戦闘状態になっている。
 蘇芳は上下に真っ黒な服を着て、腰に一本の刀をさしている。彼が命を賭けて受けた試練の末に魂の契約をしたかつてプライドが持っていた剣、神薙(かみなぎ)だ。
 エッジは黒い革製の鎧の上にぼろいマントを纏い、額に黒い鉢がねをつけていた。280年前にプライドを倒した時と同じ衣装だ。彼なりの戦闘衣装なのだ。
 タルは紺色のチェニックを上に羽織り、下には黒と茶色が縦に斑模様を作っているズボンをはいている。三角のところが濃い黄色でつばのところがこげ茶色をしている三角帽子をかぶり、右手に30cmほどの長さの木製の棍棒を持っている。
 ミーナは肩だけを露出させたところどころを黒いラインでアクセントをいれた白い服を着て、背中には彼女の背の丈よりも大きなポール・アックスを担いでいる。
 バイザは魔族本来の姿を表していた。血のように赤い全身を夜の闇の中に浮き上がらせている。
 クロードは何故か白と紺色で構成されたセーラー服を着ていた。彼女曰く、これが戦闘服らしい。目が真紅に染まり、手の爪がいびつなカギ爪に変貌している。吸血鬼としての本性を表しているのだ。
 佳枝は緑と白と黄色で構成されたレオタードをごつくしたような服を着ている。その横には直径1mほどの黒い鉄球に短い手足をくっつけて、丸2つと逆三角形を目と口のようにはりつけた物体が置いてある。佳枝専用の戦闘サポートロボット、ポケットだ。
 異様な集団だ。誰かが見たら速攻で警察に連絡をいれるだろう。その為、彼等はコソコソと隠れながらここまでやってきたのだ。
「さーてと、まず始めに警備員を眠らせないと。」
 タルは棍棒を片手に眠りの魔法の準備にかかった。
「いや、どうやら必要ないようですよ、人の気配がしません。」
 吸血鬼としての本性を表したクロードがタルの行為を押さえた。
 全員が顔を見合わせる。
 蘇芳は慎重に教会の中に足を踏み入れていった。他の者達もそれに続く。
 教会に入ってみると、果たして警備員達はさるくづわをかまされ、全身をロープでぐるぐる巻きにされて柱の側に倒されていた。
 礼拝堂の方から足音がしてきた。蘇芳達は警戒して、構えをとる。
「遅かったわね。もう警備員なら、私が片づけといたわよ。」
 足音をたてていると思われる人物は蘇芳達に近づきながらそう言った。
「その声はミランダ? ・・・・ってなんだよ、その格好は??」
 佳枝は声の主の正体に気付いた。だが、現われたミランダの格好はいつもの彼女のキテレツな格好ではなかった。
 ミランダは全身を漆黒の鉄製と思わしき鎧を身に纏っていた。兜と肩当てにそれぞれ角のような鋭く尖った物がついており、禍々しい雰囲気を醸し出している。更には背中には巨大な両手持ちと思われる鎌が背負われている。まるで死神を連想させる格好だ。
 エッジは鋭くその姿を見ていた。そしてポツリ、と呟いた。
「ミランダ。お前、暗黒騎士だったのか。」
 ミランダは少し自嘲気味に笑うと、頷いた。
 暗黒騎士。または怨霊戦士とも呼ばれている。他人の怨念や苦痛といった物を取り込み、闇の力に変えて力を振るう凶気の戦士。そのあまりにも禍々しい力のために『妖精界』では禁忌とされている。
 そしてその力は弟子が師を殺す事によって受け継がれる。ミランダにとって、師は実の母親であった。彼女は、母親を殺す事によって暗黒騎士としての力を受け継いだのだ。
 彼女は母殺しという行為を、そして受け継いだ力を呪った。そして独力で魔導を学び、暗黒騎士としての力を封印し続けたのだ。
 あの奇天烈な格好もふざけきった行為も自らの心の闇から目を逸らす為の欺瞞だ。彼女の心の底では常に後悔と呪怨の声が鳴り響いていたのだ。
 だが、世界の危機の為にあえて彼女はその呪われた力を振るう事にしたのだ。世界を救う為、そして友の力になる為に。
「地下への入り口を探しておいたわ、こっちよ。」
 ミランダは皆を促した。全員黙ってミランダについていく。
 礼拝堂の牧師がたつ所に8名はやってきた。
 ミランダはその場所に置いてある机をおもいっきり押した。すると机はスライドしていく。歯車が噛み合い、動く音が辺りに響き渡る。そして礼拝堂に飾ってあった大きな十字架が上方向に動いていく。音が収まった頃には、十字架のあった所には地下へと続く幅4mぐらいの長い階段が顔を見せていた。覗いてみても、まるで永劫に続くかのように階段が下へ伸びている。先は見えない。
「これまた大掛かりな仕掛けね。」
 ミーナは呆れたように呟いた。タルも同意したかのように頷いた。
「よし、行こう。」
 エッジが全員に号令をかけた。他の者達が頷く。ただ1人を除いては。
「私は、ここまでよ。」
 ミランダは玄関の方を向いて言った。
 佳枝はびっくりしたかのように目を丸くしてミランダを見ると声を張り上げた。
「何を言ってるんだよミランダ、お前、ここで降りるつもりなのか?」
「私にはやる事があるの。だからここまで。」
 佳枝の言葉にミランダは顔も向けもせず、冷たく答えた。
 佳枝は憤慨して掴みかかろうとする。それを蘇芳はやんわりと押さえた。
「ミランダ君。まさか君は町の事に気付いているのかい?」
「・・・・早く行きなさい。地下から流れてくる暗黒の力が着実に増してきているわ。恐らくヴァンドルって奴は儀式を始めている筈よ。自分の仕事はちゃんと自分でする事ね。」
 つっけんどんに答えるミランダ。その目は教会の玄関を向いたままだ。
 エッジはジッとミランダを見つめていた。そして不意に頭を下げた。その行為に蘇芳とバイザ以外の者は目を丸くする。
「すまんな・・・頼んだぞ。」
 ミランダは軽く苦笑した。
 エッジは頭をあげるとさっさと階段を降り始めた。
「行くぞ。」
 佳枝は納得できないような顔をしたが、蘇芳に促されると階段を降り始めた。他の者も続く。
 最後に蘇芳が残った。蘇芳はミランダに背中を向けると階段を降りようとした。その時に、ミランダに一言かけた。
「死ぬなよ。」
「アンタ達こそね。」
 短いやり取りの後にミランダを除いた全員が階段を降り始めた。
 ミランダはそれを確認すると、机を元の位置に戻した。十字架が下に降りてきて、最後には地下への階段の入り口を完全に塞いだ。
 
 
 蘇芳達は階段を降りつづけた。長い階段だ。すでに5分近く降り続けているのにまだ先が見えない。
 佳枝の顔はふくれっつらになっていた。
「全く。ミランダの奴、臆病風に吹かれたのかよ。」
 佳枝は思った事を口に出した。ミーナもクロードも同様な気持ちのようだ。
 その様子を見ていたバイザが不意に口を開いた。
「この町の住人は、全てフレッシュ・ゴーレムだよ。」
「・・・え?」
 目を丸くしながらタルと佳枝とクロードとミーナはバイザの方を見た。
「元々住んでいた住人を改造したのか、それともわざわざ用意したのか知らないけどね。この町にいる住人は観光客を除けば全員ゴーレムで構成されているのさ。この町にいるおよそ6000人近い住人全部がね。」
「この階段の幅と長さからして恐らく侵入者を挟撃するのが目的なんだろうな。前からは精鋭の兵士、後ろからは6000体のフレッシュ・ゴーレムって訳か。」
 バイザの言葉をエッジが引き継ぐ。その間も階段を降り続けている。
 エッジの言葉は続く。
「前後からの挟撃は戦略の基本だからな。もし後ろから攻めてきたなら俺が最後尾について塞き止める役を引き受けるつもりだったんだが・・・。」
 そこまで聞いて佳枝の足が止まる。愕然とした表情で今まで降りてきた階段を見上げる。
「じゃあミランダは・・・・。」
「そうだ。彼女は後ろからの敵のせき止め役を買ってでたのさ。私達がこれからの戦いに専念できるようにする為に。」
 蘇芳が佳枝を見つめながら、説明した。
 その時、大きな地響きが彼等の上の方から聞こえてきた。
「どうやら来たようだな。・・・彼女の相手は6000体のゴーレムだ。恐らく、最も危険な役目だ。」
「ミランダ・・・!」
 佳枝は階段を昇ろうとした。それを蘇芳が腕をつかんで止める。
「蘇芳さん。」
「彼女の意志を汲み取ってやってくれ。私達の為に、彼女は自ら進んであんな危険な役目を請け負ったんだ。」
「俺達がする事、それは一刻も早くヴァンドルを倒し、召喚の儀式を止める事だ。・・・あの子の事は無事を願うしかないな。」
 蘇芳に続いて、エッジが低く呟いた。その間も下を見続けている。
 佳枝は悔しそうに唇を噛んだ。だが、下を向くと階段を降り始める。
「ミランダの馬鹿野郎・・・! 絶対、絶対に生き残れよ・・・!」
 涙を浮かべながら、佳枝は階段を降り続けた。
 
 
「どうやら来たようね。」
 教会の玄関からわらわらと人影が現われた。その目には生気が一切見られない。
 ミランダは背負っていた大鎌を両手で持って構えた。
 息を吸って、吐く。鎌の刃の箇所に黒い煙のような何かが纏わり始める。
「かかってきなよ、暗黒騎士ラウリー=ベリュンゲンが相手してやるよ!」
 その言葉とほぼ同時に人影が彼女に襲いかかる。
 ミランダ、いやさラウリーは襲い来るゴーレムに向かって鎌を振り下ろした。



 <あとがき>という名の戯れ言
 
 (世界設定)
 ● 暗黒騎士
 怨霊や悪霊が放つ怨念や憎悪、憤怒といった負の感情を力の糧にして操る戦士の事をさす。属性は闇。
 戦士としての卓越した技量だけでなく、怨霊や悪霊の放つ負の感情に流されぬ強い意志が必要となる。
 この力には素質というのはなく、師匠殺しをする事によって、弟子に受け継がれていく。
 また何故かはわからないが、闇の力がのせ易いという理由から大鎌を用いる者がこの職には多い。
 『妖精界』ではその力の源となる物の邪悪性、そして力の引き継ぎに行われる行為の凄惨性から『禁忌』の力とされていて、千年以上前にこの力を操る者はいなくなったとされている。
 
 
 こんにちわ、DEKOIです。
 
 ミランダファンの皆さんごめんちゃい。彼女の本性は実はこんなんでした。
 
 実はミランダは「狩人」内でも1、2を争うディープな過去の持ち主です。なんせ、肉親殺しですから。
 
 本当の実力でいえば彼女は凄く強いんです。恐らくは「狩人」内でもエッジ、蘇芳に次ぐ実力の持ち主です。
 
 さて決戦の火蓋が切られました。これからどうなるんでしょうか。私にもわかりませんです、はい。
 
 それではまたお挨拶できるよう願いつつ、筆を置かせてもらいます。またお会いしましょう。
 
 by DEKOI


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